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You ain’t heard nothin’ yet


「おーい、俺達向けの仕事を見つけてきたぜ」
 次第に春の足音が聞えてくる3月のある日、うらぶれた納屋に姿を現したのは『合縁奇縁』結城・”Dragon”・竜一(BNE000210)だった。
 ここは新進気鋭の音楽バンド「BoZ」のたまり場だ。つい最近までは廃棄同然だったが、諸々補修は済んでおり、設備はちゃんと使用可能。神棚までしっかりあるのは、メンバーの色もあってだろうか。壁に貼られているポスターには、華やかに演奏するメンバーの姿があった。
「なるほどな。こいつは面白そうじゃねぇか」
 受け取った資料に目を通して『てるてる坊主』焦燥院・”Buddha”・フツ(BNE001054)は口元の笑みを浮かべた。
 三高平は神秘的に不安定な土地だ。エリューションはそれなりに出るし、その処理はリベリスタに任される。竜一が持ってきた依頼はそんな小さな事件の1つ。
 なんでも市内の廃棄されたライブハウスにエリューションが検知されたとのことだ。それなりに数もいるようで、革醒して間もないリベリスタであればかなり危険度はあるだろう。しかし、彼らの実力があれば十分対抗できるはずだ。
 そして何より、ここに現れるエリューションは音楽に弱い。音楽を聞くと動きが止まり、満足してしまえば消滅するのだという。
 たしかに、これの相手をするというのなら「BoZ」を置いて適任はおるまい。
「フム、些か不安要素が無いではないが……」
「なに、多少のアクシデントも一興、だろう」
 慎重な態度を見せる『生還者』酒呑・”L”・雷慈慟(BNE002371)に対して、『無銘』熾竜・”Seraph”・伊吹(BNE004197)は余裕の表情を見せる。実際、多少のアクシデントが起きても自分達なら対処できるという自信もある。
「あァ。俺達の音楽、エリューション達に思い切り聞かせてやろうぜ!」
 そして、フツの言葉が鶴の一言となりリベリスタ達は、いや「BoZ」の面々は依頼を受けることを決めたのだった。


 「BoZ」のメンバーが出かけて少し経った頃、『みにくいあひるのこ』翡翠・あひる(BNE002166)は彼らが向かった事件の追加情報をアーク本部で聞かされ愕然としていた。
 エリューション達の音楽の好みについてだ。
 これを知らないで歌だけで解決しようとしたのなら苦戦は免れまい。
「こ、これはいけないよ……ミーノちゃん。助けに行かないと……!」
「だいじょーぶなのっ! わんだふるさぽーたー、みーのにおまかせなのっ!」
 あひるに対して、ぶれいくひゃーのポーズを決めて応える『わんだふるさぽーたー!』テテロ・ミーノ(BNE000011)。
 こうして、2人の少女が足早に戦いの場へと駆けて行く。
 その時、慌てたためか受け取った資料を落としてしまう。
 普通ならば誰も気にせず、ゴミとして捨てられるはずだったそれを、2人の男が手に取った。
 ミーノとあひるにも見落としはあった。それは戦いを窮地に導くかも知れない、大きな穴だ。しかし、世界は、運命は彼らを見捨ててはいなかった。
「これは……急いだ方が良さそうだね」
「彼らは大事なことを忘れている」
 最後に現れた救いの主。
 『ガントレット』設楽・悠里(BNE001610)と『it』坂本・ミカサ(BNE000314)は、事件を解決する最後のピースとなるべく、戦いの場所へと急ぐのだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:KSK  
■難易度:EASY ■ リクエストシナリオ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年03月30日(日)22:26
皆さん、こんばんは。
お楽しみはこれからだ、KSK(けー・えす・けー)です。
この度はリクエスト、ありがとうございます。

●目的
 ・エリューションフォースの撃破

●戦場
 三高平市内にあるうらぶれたライブハウスです。
 足場や明かりに不自由はありません。
 4人がライブハウスに入ったところから始まります。
 2ターン目の頭にミーノとあひるが、4ターン目の頭にミカサと悠里が登場します。
 1ターン毎の経過する時間に関しては、細かい突っ込みをしない方が楽しいと思います。
 
●Eフォース
 ・『シンガー』
  ミュージシャンの強いソウルが生み出した人型のEフォース。フェイズは1。1体います。フェイズ1としては強めですが、所詮はフェイズ1です。
  3ターン目の頭に戦場に現れます。
  能力は下記。
  1.ギタースマッシュ 物近単 ブレイク
  2.ソウルシャウト 神遠単 ショック

 ・『ファン』
  ミュージシャンのおっかけの妄念が生み出した人型のEフォース。フェイズは1。沢山います。
  好きな音楽を聴くと動きが止まり、聴き続けていると勝手に満足して自壊します。
  ロックやアイドルソングが好みのようです。
  能力は下記。
  1.殴る蹴る 物単近 出血
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
アウトサイドダークナイト
テテロ ミーノ(BNE000011)
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ナイトバロンソードミラージュ
坂本 ミカサ(BNE000314)
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
ナイトバロン覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
アークエンジェホーリーメイガス
翡翠 あひる(BNE002166)
サイバーアダムプロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
ナイトバロンクリミナルスタア
熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)


「思えばこのような形での演奏は初めてになる。ココがBoZの分水嶺か……悪くはないな!」
「俺は俺のロックをするだけだ。……HR/HMこそが俺の……いや、言うまい。俺は、BoZのDragonなのだから!」
「何、いつも通りにやればよかろう」
「……そう。いつも通りの我々で良い。参るとしよう!」
 暗いライブハウスに4人の男達が姿を現す。そのうち1人、『てるてる坊主』焦燥院・”Buddha”・フツ(BNE001054)は闇を照らし上げるかのように頭を光らせる。
 その場にいたエリューション達は闖入者の存在に気付き、牙を剥く。それに対して「BoZ」は軽く音を合わせると、演奏を開始する。
 最初はリズムを図りながら。
 そして次第に大胆に。
 彼らが「救世」と称するライブはこうして始められた。

 彼らが行おうとしていたのは、少し変わっているものの「よくある」エリューション退治のはずだった。
 しかし、その日彼らは大きな試練に直面することになる……。

 最初に違和感を感じたのは、ドラムを叩く『生還者』酒呑・”L”・雷慈慟(BNE002371)だった。
 何かがおかしい。
 彼らがやって来たのは、音楽を奏でることによって解決可能なエリューション事件があると聞いたからだ。なのにまず、エリューションの減り方が遅い。
 情報に誤りがあったか、あるいは元々そういうものなのか。第三の可能性を考えないようにしつつ、雷慈慟はセンターにいるフツと『合縁奇縁』結城・”Dragon”・竜一(BNE000210)に目をやる。
「この新曲が、お前たちの聞く最後の歌だ」
「いくぜ、グルーピーども! フツの歌を聞けーーーーー!」

 語りすぎてたみたい 無視してたわけじゃない
 尊ぶ声「Danke」を 聞きたかった 青い坊主

 霊だから さよならに時間かかるけど
 霊験あらたか聞いてもらう 逝けよ 彼方

 熱唱が響き渡る。
 にも関わらず、エリューションの減少は相変わらずゆっくりとしたものだった。
 そう、「BoZ」のメンバーが目を背けていた「第三の可能性」。それはエリューション達が彼らの曲に満足していないというものだ。実際の所は単にエリューション達の好みの問題だった。しかし、エリューションが消えないという事実は否応も無く彼らを焦燥に駆り立てる。
 その焦りから、次第に彼らの曲に「ぶれ」が生じてしまう。
「俺の、俺たちの音楽が、響かない、だと……? 俺の、速度が足りないってのか……! ならば……」
「落ち着け、Dragon!」
 無理矢理スウィープ奏法に切り替える竜一を『無銘』熾竜・”Seraph”・伊吹(BNE004197)が窘めようとする。しかし、焦る彼の耳には入らない。

 ちゃんと聞いてボクの最初の念仏 南無も隠さないから
 遺体なら死体と合図して それから唱える

 ファンへのサービスは いくらでも惜しむつもりはないヨ
 お互いのライブの声 壇家が道引いてくれる

 NATIVE DANKE

「逝け、逝けってんだよ! オレ達の歌が聞こえねえのか!」
 雷慈慟と伊吹は視線を合わせて確信に至る。
 フツも竜一もいつも通りの状態ではない。焦りという感情は彼ら程のミュージシャンであっても容易にニュービーへと変えてしまう。
 伊吹の胸に後悔の念が生まれる。フツと竜一という二大カリスマ、バックを固める酒呑の存在感、自分はそれに頼りすぎていたのかも知れない、と。
「ぐ……ッ、このままでは!」
「クッ、これまでか……」
 なだれ込んだエリューションを振り払おうとしたせいで、雷慈慟のスティックが吹き飛び、伊吹も弦を切ってしまう。
「オレ達が歌ってるんだぞ! 聞きやがれ!」
 フツの悲痛な叫びもエリューションの声にかき消されてしまう。
 全ては絶望かと思われた、正にその時だった。
「ちょっとまった! あひる達の歌をきけえー!」
「あひる&ミーノとうじょうっ!!」
 会場が華麗にライトアップされる。
 そこに姿を現したのは、『みにくいあひるのこ』翡翠・あひる(BNE002166)と『わんだふるさぽーたー!』テテロ・ミーノ(BNE000011)だった。
 どこからともなく流れてくるイントロと共に2人のリベリスタは、いや、2人のアイドルは笑顔いっぱいで挨拶をしてみせた。
「そう、いつでもピンチになると現れる謎(?)の美少女アイドルユニット♪ 歌の力を誰よりも信じ、歌で世界が救えると本気で思っている2人!」
「キュートでポップなミーノとあひる♪ 流星の如く現れた、ニューフェイスアイドル参上! キメッ!」
 輝かんばかりの笑顔と共にエリューション達に手を振るミーノ。
 あひるの方にはやや照れが残っている。
 しかし2人とも、助けたい、救いたいという想いは本物だ。
 仲間を、というだけではない。敵であるエリューション達も、だ。この場にいるみんなを笑顔にしてあげたい。だから2人はここに来た。
「ミーノたちにもミーノたちのうたが、こえが、つたえたいおもいがあるよっ」
「ぎこちなくても、気持ちが大事! 2人の楽しい気持ちがあれば、ダンスも歌も、輝きだすよっ」
 そして、ミーノとあひるの歌が始まる。その歌に導かれるようにして、今まで暴れていたエリューションも動きを止めて行く。
「天使か……?」
 呆然とした表情の雷慈慟の口から毀れたのは、普段の彼らしからぬ言葉だった。
 そう、誰しもが心を奪われていたのだ。
 その中で1体のエリューションだけは動きを止めることが無かった。中でも成長の早かった『シンガー』と呼ばれる個体は、歌に縛られる事無く行動することが出来たのだ。
 気付いたフツの表情が変わる。
 姿を現した『シンガー』は場の流れを変えたアイドルたちに狙いを定める。止めることが出来る者は誰もいないと思われた時だった。
「……彼らの音楽活動にこういう形で関わる事になるとはね」
 ギターを振り上げて突進する『シンガー』を止めたのは、『it』坂本・ミカサ(BNE000314)だった。洒脱な仕草でリングを操ると、紫色に輝く爪が飛び出し、鋭い一撃を受け流してしまう。
 そして、さらなる乱入に戸惑う『シンガー』に対して、『ガントレット』設楽・悠里(BNE001610)が拳を叩き込む。
「噂には聞いてたけど……なんか意外なメンバーのライブ活動だなぁ」
 悠里はどこかのんきな口調で呟いた。諸々の凶悪なエリューションやフィクサード達との戦いに比べれば、この場は果てしなく穏やかなものだ。すでに彼は世界に名だたる達人なのである。
 同様に「BoZ」のメンバーやミーノとあひるも実力者だ。普段ならばこの程度の相手に後れは取るまい。しかし歌っていては身を十分に防ぐことも出来まい。ましてや、心の平静を欠いているのならなおさらだ。
「面識のある間柄だ。実力……音楽及び戦闘の面でも心配はしていない。けれど、そうだね。窮地に陥る前に手助けといこうか」
「ついでにライブも見ていけたらいいな、なんて下心もあるけど、ね」


 アイドルオーラを振りまきながらミーノは軽やかに踊る。
 いつの間にかあひるも自然と体が動くようになっていた。
 彼女らの踊りに合わせるようにして、エリューション達は自然と消えていく。
 それを見ていた竜一は自分の不甲斐無さに涙を流しそうになる。先ほどまでの自分は何だ! 「単調な音の繰り返しをひたすら早く弾いて満足するのがギタリストじゃねえ」等と偉そうに語りながら、ただ小手先の技だけに頼っていた。
「これは……二人の想いが歌から伝わってくる。なるほど、これが、『アイドル』ってやつか……」
 先の自分に何が足りなかったのか。竜一は自然と悟っていた。「BoZ」は救世を謳っている。しかし、そのためには「誰かのために」という想いこそ必要なのだ。救いを押し付けるだけでは、本当の救世は訪れない。
 それを悟った時、竜一に迷いは無かった。
「今は奏でよう。二人のために。
 俺のロックを。俺のギターを」
 いてもたってもいられなくなったのは雷慈慟も同じだった。今こそ好機到来。ここで持ち直すことが出来なければ、いつ持ち直すというのだ。
 雷慈慟が「BoZ」に参入したのは、「崩界を食い止める事に繋がる」と言われたからだ。その救世活動に疑問も、疑惑も、疑念も無い。あるいは、逆に救われているのかも知れない。
 だからこそ、ここで立ち止まる訳にはいかない。
 ドラムのスティックは先ほどのどさくさですぐには見当たらない。だが、それがどうした。
「素手直叩きドラミング……ヤるしかなかろう!」
 覚悟を決めた雷慈慟は猛然とドラムを素手で叩き始める。こうした演奏はあまり見られるものではないが、一部のミュージシャンがたまに見せるパフォーマンスだ。雷慈慟自身、自分が行うに値する技術を持っているとは思っていない。だが、やらずにはいられなかった。
「空気が塗り替えられていく……ならば、俺も!」
 今の伊吹の胸にあるのは、エリューションを倒すという考えではない。ただ、彼女らを支えたいという想いだった。
 伊吹がSeraphとなる前の音楽歴は白紙だった。「BoZ」に参入したのもほんの気まぐれ。「音楽で世界を救う」という若者らしく青臭い台詞を嗤っていたというのが正直なところだ。それでも、どこかで何か信じたかったのかも知れない。
 その証拠に、今はベースを弾くために必死になっている。
 弦など1本もあれば十分。歯で食い縛ってでも弾いてやる。
「そなたの歌も聞かせてくれ。魂の音色、しかと覚えておこう。
 いつか救世のために」
 気付けば伊吹自身、コーラスで歌いだしていた。そんな自分に驚きながら。
 その間、フツは自分が手に握っているマイク代わりの深緋をじっと見つめていた。自分は何をしようとしていた? エリューション達の攻撃が始まった時、自分は戦おうとしていた。ミカサと悠里が間に合わなかったら、間違いなく戦っていた。
 救世を謳いながら、なんと滑稽な話だ。
 そしてそれ以上に、あひるとミーノの歌は自分の音楽は決定的な『何か』が違っていた。
 暖かで、大切な、何かが。
 思わず深緋を落としそうになる。その時、あひるとミーノの言葉が耳に入ってくる。
「戦いでは、怪我を癒す為に歌っていたけれど……今は楽しく、笑顔にするための歌を歌うよっ。アイドルは、誰かを笑顔にしたり、夢を与えてくれる存在だもんね!」
「だいじょぶっ! ミーノたちのおもいはぜったいにつうじるはずっ!」
 その言葉を耳にしたフツは最後の所で立ち止まる。今はまだ、やるべきことが残っている。
 琵琶を取り出すと、フツはステージに戻り、あひると背中合わせになるように歌い始めた。

 語りすぎてたみたい 無視してたわけじゃない
 喜ぶ声「Danke」を 聞きたかった 尼い自分

 霊だから さよならに時間かかるけど
 霊験あらたか聞いてもらう 行くよ あなた

 ちゃんと聞いてボクの最初のLyrics 耳も(羽も)隠さないから
 来たいなら期待と合図して そしたら歌える

 ファンへのサービスは いくらでも惜しむつもりはないわ
 お互いのライブの声「Danke」が道引いてくれる

 NATIVE DANKE

 音楽が鳴り響く中、なおも邪魔者を排除しようとする『シンガー』をミカサは鋭く切り刻む。怪訝な顔をしていた悠里も拳を握り締めると、ふらつく相手に向かって素早く凍気を帯びた拳を『シンガー』に叩き込んでいく。
 その間にもいまやミーノとあひるを中心とするステージは熱を帯びて行く。
(あひるなんかにできるだろうか……そんな心配、必要なかったね。ミーノが楽しそうに歌ってるのを見てると、あひるも楽しくなる。BoZのみんなの力強さが、背中を押してくれる……!)
 挫けそうになっても、ふつふつと勇気が湧いてくる。あひるは自然とこれが救うことができる音楽なんだと理解した。彼女も分かって来た。厳しい状況でも、諦めてしまいそうな時でも音楽が止むことがない。
これが本当のロックなのだと。
 だからためらいは無い。自分達を傷付けようとしたエリューションへと優しく歌う。それは雷慈慟へも自然と波及していた。
「シンガー、お前の楽器は聞き手を殴る武器なのか。
 シンガー、お前の叫びは聞き手を呪う音なのか。
 そうじゃない、違うだろう! 我々と接続し、共に謳え、叫べ!
 思うがまま、全てを!」
 『シンガー』の最期の叫びが響く。消えゆくエリューションはその時、あひるの優しい言葉を確かに聞いていた。
「歌は、音楽は……世界を救うことだって、絶対できるんだよ! シンガー、貴方もその気持ち、きっと持っているのよね……? だって貴方も、歌を、幸せを届ける、シンガーだもん!」


 いつの間にか演奏は終わっていた。
 アンコールを要求する客(エリューション)達も消えていた。残っているのは静寂とリベリスタ達だけだった。

 パチパチパチ

 まばらな拍手が聞えてくる。最後に残った「観客」である、悠里とミカサだ。何故か2人とも服をいわゆるプロデューサー巻きにして、ろくろでも回すようなポーズを取っている。
「僕は昔ピアノをかじった程度だけど、それでも並みの存在じゃない事は伝わってきたよ」
「爽やかな焦燥院くんと結城くん、ワイルドかつ渋味のある酒呑くんと熾竜さん。技術もそれなり、曲もキャッチーだ。楽しむだけならば、これで十分だろう」
 それは素直な評価だ。
 「BoZ」の腕前はまだまだ一流とは言えない。しかし、遠からずその域に達することは間違いあるまい。しかし、2人の言葉は奥歯に物が挟まったような言い方だ。
「プロデューサーさん、素直に言ってください……」
 空気に流されたのか、失敗を犯したアイドルのように縮こまってフツは2人を促す。「BoZ」のメンバーもその答えを黙って待ち、ミーノとあひるも固唾を呑んで見守っている。
「聞こえていた不協和音、『救世』を掲げていてこのザマとはね」
 幾ばくかの時を置いてから、ナイフのような言葉がミカサの口から放たれた。
 反論が出来なかった。
 「BoZ」の有様を思えば。
 実際のところ、「満足すれば消滅するエリューション」を満足させることが出来たのには、素人同然のミーノとあひるの貢献が大きい。
 彼女らはエリューションすら救おうとしていた。しかし、「BoZ」は技術に囚われ、「救世」を見失っていた。フツに至っては、力による解決を行う誘惑に抗えなかったのだ。
「倒した僕らが言うのも何だけどさ、シンガーは、本当に救われたのかな? BoZの救う世界に、彼は含まれてなかったのかな」
 悠里の目には「BoZ」が救おうとする世界は、人間のためだけという偏狭なものにしか映らなかった。「BoZ」が掲げる理想を理解もするし、応援もする。
 しかし、
「これは救う、これは救わないっていう区分けがあるんだとしたら……それはちょっと嫌、かな」
 悠里の言い方はオブラートに包まれていた。それでも、今まで「BoZ」のメンバーが受けた、如何なる刃よりも鋭く心に突き刺さる。
 何か言い返せないかと言葉を探す。しかし、それよりも速く、ミカサは言い切った。もちろん、彼だって素人だ。だが、素人だからこそ言えることもある。
「持つ者(gift)であるが故に、届かないと解れば圧倒的な力でねじ伏せる……それが君達の望む救世なんだね」
(突き刺さるな……だが、ソレでも、我々は……)
 ミカサは言うだけ言うと、踵を返してライブハウスを出て行く。「エリューション退治」は完了したのだ。これ以上、この場に留まる理由も無い。
 そんな彼に対して雷慈慟は何も言い返せなかった。
 悠里も何かを言いたそうにしていたが、彼も言葉が見つからなかったのだろう。ミカサの後を追うように席を立った。ただ、その瞳はまだ諦めた者のそれでは無かった。「BoZ」の救済を否定しながら、それでも「BoZ」を信じようとする光があった。
 しかし、フツはそれに気付くことが出来なかった。答えるべき言葉を持たなかったからだ。
 沈黙が場を支配する。
 いつまでその沈黙が続くかと思われた時突然、ミーノが笑顔で仲間達を呼んだ。
「みんなっかえろっ!」
 ミーノは信じている。みんなが救おうとしていたのだと。
 ただ、ほんのわずかなかけ違いがあっただけなのだと。
 最善だったと信じる、彼女にできる事はそれだけだ。でも、そうやって自分がしてきた事を後悔しないからこそ、いつでも彼女は笑顔で前を向く。
 その言葉が沈黙を解き、リベリスタ達はライブハウスを後にする。
 コンサートは、終わったのだ。


 ガンッ

 全てが終わった後で、「BoZ」のたまり場で竜一はポスターの張られた壁を力強く殴る。いや、一番殴りたいのは自分自身なのかも知れない。
「俺は、音を楽しめてるのか。俺のロックは、俺のやりたい音楽は……! くそっ!」
 皆と別れた後で、悔しさがこみ上げてきたのだ。
 誰もいないと思われた納屋。
 しかし、伊吹もまた残っていた。しかし、先客がいたことに気付くと納屋を後にした。
「これもまたROCKか。我らはまだ道半ばなのだな」
 誰に言うでも無く、ただ自分に言い聞かせるように呟く。
 その道の先にあるのが挫折か、他の何かなのか、それは誰にも分からない。

 To be continued……。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
『You ain’t heard nothin’ yet』のリクエスト及び参加、ありがとうございました。
皆様の発注とプレイングの結果、このような物語と相成りました。
お気に召していただけたのなら幸いです。

タイトルを訳すと「お楽しみはこれからだ」です。
勝手ながら「BoZ」がより大きくなって、立ち上がってくる日を楽しみにさせていただきます。

それでは、今後もご縁がありましたら、よろしくお願いします。
お疲れ様でした!