●フルメタルバリアント・十余系一及八式 リボルバー弾倉開放。薬莢排出。スピードローダーで弾を流し込み、再びセット。工場建屋内に鎮座した鉄骨の山に背を着けて、禍原 福松(BNE003517)はコンマ一秒で息を整えた。 遮蔽物から飛び出し、狙いを適当につけたまま射撃。六発全弾発射。撃鉄が六回起き、六回倒れる。 ライフリング構造にそって空間を螺旋状にえぐりながら飛んだ六発の弾頭はしかし、正確に迎え撃った六発の弾頭と衝突。ピンバッジ状に歪んで滞空した。 その中を一発だけ余計に放たれた弾がピンバッジの群れの中をかいくぐり直進。福松の肩に突き刺さった。受け身を『とらずに』歯を食いしばり、弾丸を強引に貫通させる。 赤く滲んだ目には、デッサン人形のような人形が映っている。かろうじて人間のシルエットを保ち、顔はなくホログラムで浮かんだ赤いモノアイが福松をじっと見据えていた。 そんな機械以上人間未満な物体はサイコガン型の腕を福松に向け、さらなる射撃を仕掛けてきた。 今度は手榴弾のような弾である。しかしそれが福松に届くことは無かった。 間に割り込んだ楠神 風斗(BNE001434)が剣を無理矢理に振り込み、グレネード弾を真っ二つに切り裂いたのだ。 爆発と煙が翼のように広がる。風斗は翼を受けたイカロスの如く跳躍すると、空中で剣を振り上げた。全身のエネルギーラインに赤い光が走り、右目が緑色の軌跡を引いた。 相手へと叩き込まれる剣。しかしそれは横から挟み込まれたエネルギーブレードに遮られた。 長さにして三メートルはある刀型のブレードは外見からは想像も付かないほどに頑丈である。 だがしかし形状は線。真下を潜る羽柴 壱也(BNE002639)を止めるには至らなかった。 壱也はベンチの下を潜るかのような柔軟なスライド移動でもって刀の下を潜った後、魔力を込めた掌底を顔の前でクロス。エレベーターの扉を無理矢理開くような動作をもって、刀持ちとサイコガン持ちをそれぞれいっぺんに突き飛ばした。 追撃。壱也からアイコンタクトを受けたティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)がフィギュアスケートのような優雅さで地を駆け、陸上選手のような強引さでモーニングスターハンマーを繰り出した。 と同時に工場建屋の壁を突き破って常人の三倍はあろうかという人形が飛び込んできた。人形は自らの上半身を分離させ黄金のハンマーへと変形。ティアリアのハンマーをまるごと打ち返してしまった。 戦場に開くエアポケット。 雲野 杏(BNE000582)は内側を魔導書まみれにしたエレキギターを豪快にひっかき、海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)は両手で掴んだ杖で地面を強かに叩いた。 音が反響し、魔術となり、工場建屋一帯を包み込む。 対して二体の人形が同時に自らの身体を展開。 一体は両腕をスクロールペーパーのように開き、液晶表示された『改変された聖書』から神秘空間を展開。更にもう一体は顔面を本のようにぱらぱらと開き、『誤った解体新書』をより魔術空間を展開。 四つの空間が混じり合い、工場建屋をめちゃくちゃに引っかき回した。 あらゆる窓ガラスがかち割れ、壁と屋根が穴だらけになっていく。 全身から血とエネルギースパークを出しながら転がる風斗。そこへ両手を十本のダガーナイフに変形させて飛びかかる人形がいた。 両サイドからスライドインして割り込みをかける靖邦・Z・翔護(BNE003820)、そして草臥 木蓮(BNE002229)。 翔護は銃をスマッシュモードにして発射。顔面に弾を食らった人形は打ち返された野球ボールのように吹き飛んだ。が、その後ろに別の人形が重なっていたことには築かなかったようだ。 残った人形は上半身を展開。内側からミニガンを露出させると翔護たちめがけて乱射した。 ライフルをフルオートにして撃ちまくる木蓮。 大量の弾を浴びたが、対する人形の方は全身から火花を散らして仰向けに倒れたのだった。 「……ふう。これで最後だな。やっと片付いた」 首元へと流れた汗を手首でぬぐう木蓮。 「お疲れ様です皆さん! あの、私もしかして必要なかったですか? ですかね!?」 両腕にエネルギークローを形成していた七栄が、物陰からちらりと顔を出した。 元フルメタルフレーム七号・七栄。さる大事件でアークと知り合ったが、今はしがないリベリスタの一人である。 「あ、いーのいーの。今日の七栄ちゃんは依頼主だから。守られる側の存在だから。ね、フッくん」 銃を指でくるくる回してから腰にしまう翔護。 一方で福松はぎこちない動作で尻のポケットに銃をしまった。 「あー、まー、そうだな……そうだ。なっ、楠神!」 「えっ」 完全に聞いてなかったよっていう顔で振り返る風斗。 「あ、すまん剣のシード入れ替えてた。何の話だっけ?」 「七栄ちゃんが楠神ハーレムに加わる話」 「嘘つくんじゃねえよ」 「聞いてたんじゃん」 杏は鉄骨に腰掛けて休憩モードに入っていた。 音がまともに出ないにもかかわらずとりあえずという様子でギターのチューニングをかけているところである。 その横にちょこんと腰掛け、胸の前でハートサインを作る海依音。 「そうですよ。禍原のふっきゅんがオネショタのシスター趣味に目覚める話です」 「話がすすまねーから黙っててくんねーかなお前ら」 銃のマガジンを整理しはじめた木蓮に向けて、海依音と木蓮はひそひそやりはじめた。 「あらやだ彼氏持ちは余裕ですわ」 「アタシはまこにゃんというハニーがいるからそれで」 「裏切り者!」 「黙ってろっつってんだろ!」 「それで?」 よその会話などどうでもよろしいという顔で優雅に椅子にこしかけるティアリア。 「今回のお仕事はこれで終わりなのよね?」 「ですね……えっと、そうですよねハカセ」 『うむ』 七栄はお腹からメガドライブを取り出すと、画面に老人っぽいポリゴンキャラを表示させた。なんかの通信機になっているらしい。 『フルメタルフレーム量産型、十余シリーズ。開発計画の段階で止まっていた筈だったが、やはりこの土地に残ってエリューション化しておったようじゃな。どうもアザーバイドが影響しとるようじゃが……まあ、破壊し尽くしたことじゃし、回収して次の研究材料にでもするかのう。やっとくれ七栄』 「はいハカセ!」 七栄は武器をしまうと、スキップしながら壊れた人形をかき集めていった。 と、そんな中で。 壊れたはずの人形がカタカタと微妙に振動していることに気がついた。 「あのー、すみません皆さん。この子まだ――」 人形を指さし、振り向く七栄。 もう帰る準備をしていた福松たちは何気ない顔で返事をし。 そして目撃した。 こちらに振り向く七栄。 その向こう側で、スクラップの山がまるで意志をもつかのようにふくれあがり、七栄をばくんと飲み込む光景をだ。 「ん、な……!?」 「七栄!」 駆け寄ろうとする福松と風斗。 が、彼らの足は目の前に突き出された四五口径四一糎連装砲によって止まった。否、止まらざるを得なかった。 なぜならそれは、彼ら二人に向けておもむろに円錐状の赤色弾頭をぶっ放したからである。 「う――おおおおおおおおおお!?」 工場建屋が消し飛んだ。 隣に設置された送電施設跡もまた吹き飛び、その隣にあったコンテナハウス群も吹き飛び、地面を大量にえぐり、がれきを吹き上げ、砂と石と金属片を雨のように降らせた。 福松たちは木っ端みじんになってしまったのか? 否である。 「何あれ……馬鹿なの? 死ぬの?」 二人を両脇に抱え、杏が空中でホバリングしていた。 当然彼女だけで逃げられるような攻撃ではない。海依音とティアリアが翼の加護で飛翔し、彼らを無理矢理引っ張り上げたことでようやく間に合った次第である。 アサルトライフルを構えて歯をがちがちと鳴らす木蓮。 「七栄が取り込まれた? 嘘だろ……?」 「いや、嘘じゃなさそうですよぉ」 目を細める海依音。 巨大な砲台はそのなりを縮め、ぐずぐずのがれきの山はやがて人の形を成していった。 七栄特有のぴんと跳ねた鋭いアホ毛が現われたかと思うと、それは巨大な人型兵器群へと変貌したのだった。 「おー、実にトランスフォーメーション。ティンダロスアタックとかできんのかなアレ」 同じく飛行状態にあった翔護は、方に壱也を担いでいた。 「とりあえず羽柴ミサイルいっとく?」 「ことあるごとにわたしを投げるのはやめたほうがいいよ」 今度はしぬよ。と、死んだ目で呟く壱也。 「とにかく、だ」 「少女が化け物にとらわれた。ならやることは一つだ」 福松たちは顔をあげ、そして武器を抜いた。 「「救い出す!」」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月30日(日)22:44 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●鋼の乙女心、電子の『 』心 蘇我周辺のある遊び地『とされている』場所は今、人類と世界を超えた死闘が繰り広げられていた。 具体的にはどうなっているのか分からないだろうか? ならば詳しく述べようでは無いか。 通称M西第三区永久未使用フィールドには、約八百七十八機に及ぶ小型無人攻撃機が飛んでいた。 三重に動く複雑構造の新機軸プロペラによって正確な無限機動を行なう正十二面体の特殊カーボン製物体はその一箇所に九ミリパラペラム弾を使用した軽機関銃を一丁と対人用M67破片手榴弾が内包し非常に凶悪かつ殺人的な攻撃力を有していた。 戦争でも起きているのか? ある意味では否であり。 ある意味では是である。 人類と世界を超えた死闘が繰り広げられているのだ。 そう、先程述べたとおりにだ。 「はい皆さんお待ちかね、キャッシュからのパ――がはっ!」 『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)は側面からの機関銃射撃を浴び、こめかみと肩、更には腰と足に弾丸をめり込ませた。貫通では無い。残存である。 空中で態勢を崩した彼はきりもみしながら墜落したかにみえたが、回転の途中で正確に拳銃を発砲。弾は大量の無人機の隙間を縫い通常の拳銃から放たれる弾ではまずありえない加速と回転そして推進力をもって、鋼鉄の板に着弾した。 「はい遅れてパニッシュ!」 弾は装甲を貫通。内部組織を破断しながら重要な基幹部分へと達し……止まった。 だがそれで終わりでは無い。 「とくと見な」 誰かが翻したストールをなぞるように魔剣が出現。それはフレシェット弾の如く飛び、翔護のこじ開けた穴へと火花を散らしながらその身をねじ込み、内部で激しく炸裂した。 誰のものか? この世界においてこの技を使える人間は二人だけとされている。剣林のトモエ。もう一人は。 「星屑の煌めきを」 『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)。十二歳の少年である。 巨大な人の形をした兵器。その右膝関節にあたる部分で炸裂したエネルギーは連鎖的に爆発を起こし、アニメや映画で見るCGムービーのごとく連続的な小爆発を起こした。 「っし、やったか」 「あーそれフラグ。でもって回収しちゃったわゴメン」 パチンと手を合わせる翔護。彼らの攻撃はエネミースキャンと千里眼によって敵巨大兵器の機関部をピンポイントで狙ったものである。当然狙いは外れていない。翔護に各国のあらゆる兵器における重要部分を内部構造を視認しただけで判断できたかという疑問は残るが結果としてジャストヒットした。それは事実である。 がしかし。 「内部構造、ぐにゃぐにゃ変わってる。今もなんか……え、なにそれ、ずるくない?」 爆発を起こしていたはずの膝関節は内部構造を超次元的に変化させ、爆発の煙が晴れた頃には人型兵器の足は六本に増えていた。 腹部から突き出たリング状の物体から大規模な電流がほとばしり、福松たちは緊急回避。工場建屋の壁へと逃げ込んだ。 「くそ……!」 歯噛みする福松。巨人殺しのセオリーとも言える『片足狙い』はアテを外したことになる。相当序盤で分かったことが幸運だととるべきだろうか。 額に手を当てる翔護。 「あれはね、デッキに入ってるモンスターカードがアトランダムで変化し続けるようなもんで、何枚目になにがあるか分かってもフィールドにサモンした時点で別のカードになってるから意味が無くてつまり手札破壊系のカードが無意味になるっていう」 「カードゲーで例えんな! つまり?」 「弱点なしとみていいわコレ」 「……」 「まー硬くなるなって。リラックスしないといいカード引けないぜフッ君」 「だからカードゲーに例えんな」 「カードゲーだよ勝負は。セットしたデッキで勝負するしかないんさ」 「デッキ云々は知らねーけどおおむね同感だ。人生、欲しいときに限って必要なものが手元に無いもんだよな」 同じく壁の裏に滑り込んできた『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)は、小銃をフルオートに切り替えて言った。 途端、背後の壁が激しいノイズフラッシュと共に吹き飛ぶ。 咄嗟に飛ぶ木蓮。 「ザコは俺様が片付けてやる。とにかく一点突破でブレイクスルーを狙え。ナイブコーゾーがどうだろうが、重力くらいには従うだろ!」 魔法の羽が消えていることに気づいた。ブレイク効果のある爆発物を投げ込まれたのだろう。強い耳鳴りとめまい。視界は七色にまたたいている。 だがそんなものは関係ない。 「こちとら『おねえちゃん』だ。弟分にぬるい顔してられないんだよ!」 天空に向けて小銃を思い切り乱射。 いや乱射ではない。彼女の超次元的な視認能力で全無人機の座標を特定。フルオートの弾が発射されるタイミングに併せてコンマ一秒間隔で照準を変えているのだ。 つまり、全段命中した。 墜落をはじめる無人機。まだかろうじて無事なものが内部で手榴弾のピンを開放。ファンを回して一斉に木蓮へ自爆特攻を仕掛けようとする……が、無数の稲妻がそれを阻んだ。 天空をジグザグに飛行し、大量の無人機の間を自由自在に駆け抜ける女が居た。『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)である。 彼女は風と共に置き去りにした音楽を雷に変え、自爆寸前の無人機を空中で次々に爆破。余った一体は手にしたギターでぶん殴って粉砕した。 「ワラワラ出しちゃって。ちょっと楽しくなって来ちゃうじゃない。ほら、風穴開けてやったわよ」「助かる!」 爆風と飛び散る破片。鉄と火薬の雨のなか、『折れぬ剣』楠神 風斗(BNE001434)は剣を手に走った。 しかし不思議と機械部品は身体に当たらない。空中でかすみの如く消失しているからだ。 「実ならざる兵器。架空兵器か……変形合体の後美少女ロボを取り込む所には感動したが、シチュエーションが最悪すぎる。イドの頼みだ、壊れて貰うぞ『FM-V』!」 地面を踏みしめるたびに足跡が赤く輝き、白いロングコートには生きているかのように赤いエネルギープロミネンスが吹き上がっていた。 剣を構え、突撃の体勢をとる。 「羽柴、いけるか!」 「任して!」 地面を踏みしめ、ミサイルのように飛ぶ風斗。 彼の剣は『FM-V』の足を一本まるごと切断。即座に再構成を始めるが、三角点における斜向かい側が一瞬遅れて切断された。 誰によるものであろうか……などとじらす必要もあるまい。 「目の前で女の子浚っていくとか、いい度胸してるよ、こいつ!」 小柄な身体に巨大な剣。 『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)。 彼女が一部の業界で『巨人斬り』と呼ばれていることを知っている方がおられようか? 彼女の体格差をひっくり返すような豪快すぎるパワープレイが故についた異名だっが、今がまさに名が体を表わした瞬間であった。 「もう一本!」 壱也は巨大な鉄柱ともとれるような巨人の足を切断した後、遠心力に振り回されるかのように地面を転がり、しかしブレーキはかけず更に跳ね、進行上に存在したもう一本の足もまた切断せしめた。 そこでやっとブレーキ。両足で地面に綾波を描きつつ最後に一回転。振り切った剣による余剰エネルギーで更にもう一本の足を切断した。 最初に斬った足に気を取られていたのか。『FM-V』は見事に転倒。足を失った椅子がそうであるように、無様に横転したのだ。 グッと親指を立てる風斗。 対してピースサインを出す壱也。 「意外といい感じじゃないの、わたしたち!」 「かもな、羽し――」 「ハーレム王! ついにロボ子だけでなく婦女子まで取り込むようになられましたか!」 「黙ってろ雲野。それより追撃を」 風斗が剣を構え……ようとしたその時、大空が真っ白になった。 いや、オレンジだっただろうか。 瞬間的に聞こえた『ブゥン』という音は、杏が日常的に利用している電化製品に似ていた。 冷凍食品を暖めコーヒーを温め冷えたご飯もお総菜も暖めてくれる便利で頼れる電化製品。 その名も電子レンジ。 別名、マイクロウェーブ加熱機。 「あ、死んだかも」 杏のくわえていた煙草が一瞬にして焦げ、破裂した。 風斗の顔面に含まれる全ての水分が瞬間的に膨張し、破裂した。 壱也の胸が内側から解放され、あばら骨が逆向きに開いた。 木蓮のだて眼鏡が一瞬でひび割れ、熱したゼリーのように溶けてふくれた。 福松のキャンディが口内で飛び散り、粘膜という粘膜を焼き付けた。 翔護のシルバーアクセサリーが跡形も無く崩れ落ち、ついでに皮膚や筋肉組織までも溶け落ちた。 指向性エネルギー兵器。SFアニメのように述べるならそう……ビームキャノンである。 流石に彼らが死を覚悟した。 そのさなかにて。 「福きゅんの可愛いショタ顔を崩すだなんてとんでもない」 「あら、でも必死になって戦う男の子だなんて素敵じゃない? 女の子のために傷つく姿なんて尚のこと」 『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)が指を鳴らし、『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が杖を撫でた。 世界に二つの穴が開き、歯車を組み合わせたような右手と左手を同時に召喚した。 それらはまるで子をあやす慈母の如く優しく空間を……いや世界を撫でると、杏たちにおこったあらゆる損害を消し飛ばして見せた。悪夢から目覚めた子供を母があやすようにだ。 一度骨髄が炭化するまで行っていた杏が、消し炭となった煙草を見て呟いた。 「……できれば煙草も直してほしかったんだけど」 「神様にも不可能はあるんですよ。あ、それと福きゅん約束のア・レ☆」 手でハート型を作る海依音。 福松は帽子を押さえて呟いた。 「はいおねえちゃんありがとう」 「愛を込めて」 「おねえちゃんありがとう!」 「童貞を捨てたばかりの自分をイメージして」 「調子に乗るな!」 「あらまあ可愛らしいこと」 口の手を当て、くすくすと笑うティアリア。 そして、視界の端で『FM-V』を見やった。 「心臓を潰しても足を折っても、相手はまだまだ元気なようね」 意志をもった泥。そう表現すべきだろうか。 『FM-V』は一度人間の上半身を構成すると、まるで沼から這い上がる巨人のごとく下半身を形成。後回しにした顔面を様々な兵器を組み合わせながら構築すると、ぱちんと瞬きをした。 右半分が破壊された、おぞましい化け物の顔である。 そして喪失した右眼球部分には、ぐったりとした七栄の上半身が残っていた。 「う、うう……」 腕や足は消化されたのだろうか。首と肩をもぞもぞと動かし、七栄は薄目を開けた。 「私は……あ……れ……?」 福松や翔護たちを眺め、そして首を傾げた。 ぴょんぴょんと跳ねる壱也。 「目が覚めたんだね七栄ちゃん! まだ出ちゃダメだよ。今に、絶対に助けてあげるからね!」 呼びかけに対し、七栄は。 「敵機発見。撃滅します」 「……七栄?」 首を傾げる木蓮。そんな彼女に対し、七栄は『腕を振り上げた』。 むろん肩から先は無い。しかし彼女は自らの意志をもって、『FM-V』の右腕部を振り上げたのだ。 拳が突き出される。 肘部分に配備されたロケットブースターが点火。更に肘から手首にかけて存在した多段式ロケットが順番に点火。 尋常では無い速度で発射された機械の拳は、その表面から高熱の液体金属を噴射し、光の反射具合から金色に輝いて見えた。 木蓮が両目を見開いた時には、既に拳は通り過ぎた後だった。 上半身が吹き飛んだか? それとも下半身か? いや両方だ。 全部吹き飛び、全部溶解され、髪の毛一本残さず塵と消えた。 「――海依音!」 「ああもう神様(Oh My Fuckin 'Got)!」 海依音はおもむろに杖をその場に転がっていたスクラップに叩き付け奇跡存在を顕現。運命の消費によってギリギリ生き残った木蓮を即座に修復した。といっても修復できたのは受けたダメージの半分程度である。 衣服の切れ端しか残らなかった木蓮は歯噛みして震えた。 「こンの……お気に入りだったんだぞこの野郎!」 小銃を(通常の構造としてありえないが)スナイプモードに切り替え『FM-V』の胸部めがけて乱射。今度は本当に乱射である。エネルギーの全てを使って超長距離射撃を加えたのだ。 銃撃を受けた『FM-V』は自身の周囲に薄い布のようなものを展開。銃弾のうち半数を自律硬化繊維によるネットが受け止めてしまった。 続いて『FM-V』の背中から八十七本の翼が出現。物理法則を無視し、ぶわりと空中へ浮かび上がった。 「操られている……いや、取り込まれてるのか」 歯を食いしばって唸る風斗。 木蓮は狙いをつけながら目を細めた。 「早く起きろ七栄。あとで美味しいお茶、いれてやるからさ」 空中にある『FM-V』は途切れた腕を空中で分解。それらは全て黄色いドラム缶に変化した。 「そんなものが通じるか!」 降ってきたドラム缶を切り捨て、エネルギー噴射によって飛び上がる風斗。 彼の剣が赤く燃え上がり、『FM-V』の右足に突き刺さった。 そして……風斗は激しく喀血した。 「楠神くん!?」 ひゅるひゅると墜落する風斗を横目にしつつ、落下してくるドラム缶をよけつつ上昇する壱也。 が、すぐに事態に気づいた。 「みんな、息しちゃだめ!」 壱也が灰に吸い込み、気づいたもの。 それを具体的に述べるとジクロロフェノキシ酢酸およびトリクロロフェノキシ酢酸。主に稲作の開墾などに用いられたとされるその薬物を最も端的かつ印象的に表わした名前はそう。 「枯葉剤」 目を瞑るティアリア。 「なんとまあ、無粋な兵器」 などと言いつつ、ティアリアは即座にデウスエクスマキナを展開。素早く組まれた術式により空気中の薬物は中和されるが、全てとはいかない。 海依音と共同でおこなったならまだしも、ティアリア一人では多くて八割が限界である。 「手伝ってくださる?」 「ン、アタシ?」 追撃をしかけようとしていた杏が空中で停止。 魔曲・四重奏のコードをおさえていた左指を切り替え、アドリブで天使の歌に変更した。 「アタシが回復する状況って、やばいんじゃないの?」 「その『やばい』のが今なのよ」 うっすらと笑うティアリア。 「早く戻っていらっしゃいな七栄。あなたのためにみな傷ついている。下手したら死んでしまうかも」 一方壱也。 灰が幾度となく破裂する感覚と、それが勝手に自己修復していく感覚。そんな異常な状態を知覚しながら、彼女は『FM-V』の背中を駆け上っていた。 「どんなすごい機械だって、それをつくったのは人なんだよ。おとなしく、やられなさい!」 ぶん、と剣をふりあげる。追ってきた衝撃が背中をばっくりと破壊し、大量の兵器を飛び散らせた。 重力にひかれ仰向けに墜落する『FM-V』。 破砕するコンクリート床。飛び散る土。舞い上がる砂。 その全てをかき分け、福松が『FM-V』の胸へ飛び乗った。 『FM-V』の顔面。それも七栄のいない左半分に向けて拳を叩き付ける。 「お前に今度こそやるはずだった千葉半立が一粒残らず炭になっちまった! お前はいつもそうだ、俺が用意したごちそうを無駄にしやがって! 七栄!」 拳を振り上げ、その腕がショットガンによって吹き飛ばされた。 頭を振り上げ、頭蓋骨でもって殴る。 「だが幸い販売店がすぐそばだ。今度こそ一緒に喰うぞ! 一緒に帰って、一緒に喰うぞ!」 殴る。 殴る。 殴る。 殴る。 殴る。 「おいおいフッ君、男子のクラスメイトを焼き肉に誘うのとは違うんだからさ、もっとさ」 背後から通過した弾丸が福松の目の前で着弾。装甲にめり込み、瞬間的に破裂。表皮装甲をひっぺがした。 「やあナナちゃん。今からフッ君、ロマンチックなこというから聞いといてね」 「き……」 福松はぎろりと翔護を睨み。 次に七栄を睨み。 次に『FM-V』を睨み。 「急に言えるかあ!」 彼の額を、額でもってぶち抜いた。 ●Full-metal 『 』 and Electronics Love 上半身のみの姿で、七栄は目を覚ました。 「おや……一定時間内の記憶がありませんよ」 気づけば、福松に身体を抱かれていた。 と言うより、仰向けに倒れた彼にのしかかった状態である。 それを温かい目で見つめる壱也。 無表情で下りてきた杏が、ゆっくり手を叩き始めた。 「はい、キースッ。キースッ」 「黙っててくれ」 物陰からぬるっと現われる海依音。 「もしくはワタシにキースッ」 「黙れ」 「じゃあ楠神、満を持して行ってきなさい」 「何の満を持したんだ」 風斗が杏をぐいっとおしのけた。 へたりこんだまま予備のジャージに着替える木蓮。 「福松……貞操は大事にするんだぞ」 一方で既に(誰も気づかない程の手際で)着替えを終えていたティエリアが、どこからか持ってきた椅子に腰掛けていた。 「さて、お仕事が済んだわけだけれど……どうかしら、お食事でも」 「陸軍はその提案に賛成する」 スッと手を上げるSHOGO。 「あと最終兵器羽柴に『射撃可』属性をつけることを提案する」 「しないで!?」 戦いは、誰の命も失うこと無く終わった。 それ以外に述べることなど、なにがあろうか。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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