●ケダモノ 女性の悩みというのは、尽きないもので。 「……三十路近くて? お肌の曲がり角で? 行き遅れで……?」 「せ、せ、せんぱ、先輩、あの、おち、おちおち、落ち着いて……」 「いつもオトコに餓えてて? ガッツいてて? エモノを狙うような目が怖いからもう一刻も早く寿引退してくれ?」 「僕、そこまで言いましたっけ!?」 夜更けのオフィス。定時はとっくに過ぎ去り、残業に勤しむ男女の間に巻き起こった修羅場。経緯は分からずとも、あるいはこんなシーンも、日常にはありふれた光景であったかもしれない。 ただ。 男女にとって不幸だったこと……それは、日常へ忍び寄る非日常。その、望まれざる介入が一つ、あったとするならば。 「あ、あ、あの先輩、その、それ、その……け、剣? ですか? それ、下ろしましょうよ、あぶ、あぶ、危ないですから……」 「寿引退だあ? そんなもん、できるならとっくにしてるわよおおおお!!」 オフィスにはどうにも似つかわしくない、どこか生物めいた意匠を備える、その……巨大な、剣。 女は手にしたそれを、ぶおん、軽々とひとつ振るい、気に入らない上司のデスクを真っ二つに両断してから。部屋の隅に縮こまって怯えている部下、いかにも草食系といった趣の若い男子に、大股開きでずんずん歩み寄っていく。 そして。 「あ、あの、あの、実は、僕、僕、本当は、先輩のことが……!!」 「いまさら遅いわよーーーっ!!」 「ぎゃあああああ!?」 ●バッドイーター作戦 「今回のミッションは、デンジャラスなアーティファクトの回収、もしくは破壊だ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は、いつものように軽い口調で切り出しながら、モニタに映像を映し出す。 現れたのは、タイトスカートの青いスーツに身を包んだ、恐らくはOLと思われる妙齢の女性だ。 「高砂駒子、二十九歳。革醒はしていない、どこにでもいる一般ピープルだ。で、彼女が偶然、アンラッキーにもゲットしちまったアーティファクトが、これ」 きりりとした眉の、気の強そうなオフィスレディの手に握られているのは、まさしく異形、非日常のなせる業。 巨大な包丁……のような形の、幅広な刀身を持つ、身の丈を越す大剣。びっしりと産毛のようなものが生えている峰の真ん中には、亀裂のように走る大きな口があり、周囲にはぞろりと細かい牙が生えている。柄の先端からは動く尾のようなものが伸びていて、身をくねらせる蛇のように、ひっきりなしにうねうねと蠢いている。 生物と器物の合いの子のような、奇怪なアーティファクトだった。 「生き物のようにも見えるが、どうやらこいつは、自力じゃ移動できないらしい。宿主に選んだ人間の精神に干渉して、獲物のところまで運ばせてから捕食する習性があるようだ」 映像の中で、剣はがばっと刀身を割って顎を開くと、スーツを着てメガネをかけたどこか初々しい青年の上半身にかぶりつき、あっというまに齧り切ってしまった。 「今食われちまったのは、北尾愁、二十四歳。入社二年目、高砂駒子の部下だな。お前たちのミッションが失敗に終わると、この哀れなボーイが映像の通りに、もれなくアーティファクトのディナーになっちまうってわけだ」 伸暁は映像を巻き戻し、二人の男女が……というより女のほうが一方的に、ビクつく男へまくしたてている場面を再び映し出す。 「今から向かえば、恐らくこのあたりのシーンにイントルージョンすることになる可能性が高いだろう。何とかしてアーティファクトを奪い取って、お二人さんの命も助けてやれればソー・グッドだ。よろしく頼むぜ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:墨谷幽 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月21日(金)00:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●痛い一撃 「いやぁ。精神的にも、物理的にも修羅場って感じだな、こりゃ」 「な……何よ、あんたたち!?」 背後からかけられた『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)の声に、高砂駒子は物凄い勢いでリベリスタたちを振り返ると、じろりとすわった目でこちらを睨む。 「何だか知らないけど……邪魔しないでくれる? あたし、今からこの子を、美味しく頂いちゃうところなんだから。そう、色んな意味でね!」 「ひっひいー!?」 駒子の開いた足はタイトスカートをぐいと押し上げ、一見すればちょっと扇情的な光景、に見えなくもなかったが。何せ今は、件の生物めいた奇怪なアーティファクトが、獲物にかぶりつき咀嚼する隙を伺っているわけで。壁際で縮こまる北尾愁には、残念ながら、その光景を楽しむ余裕は無いようだ。 「年齢なんて気にするな、とは言わないけど、ね。まぁ、そう焦らなくてもいいんじゃないかしら?」 セレスティア・ナウシズ(BNE004651)は、鬼気迫る、といった駒子の様子に柔らかく声をかけ、 「残り時間が厳しいって感じるのなら、追い詰められてるとは思わず、むしろタイムアタックだと思えば……」 「でも、リベリスタに年齢って、あまり関係ない気もしますよね。見た目は二十代でも実年齢はウン十歳、なんて方もザラですし」 「……今は、そういうことは言わないでおいて」 若く、年頃の女子である『魔術師』風見 七花(BNE003013)が思わずこぼした言葉に、80歳の美女セレスティアはがくりと肩を落とす。 ともかく、今は、北尾愁から高砂駒子の注意を引き離すこと。 「気になるお年頃、なんですねえ。でも、嘆いたところで、時間は止まってはくれないのですよ?」 ずい、と一歩踏み込んだ『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)は、本当はこんなこと言いたくないんですけど……とぽつりと言い置きながらも。 実に決定的な一打を、駒子へと投げかける。 「こんばんは、そこの、行き遅れの年増さん? 私と遊びませんかー? ああごめんなさい、もう若くないですし、激しい運動は大変でしょうか?」 くすくすくす、とあおるような含み笑いも忘れない珍粘の口撃は、 「な……なああんですってええ!?」 「いっいきおくれ? ななな何のことだかさっぱり? わ、わたしには、ぜっぜんぜん、かかかかんけいないし!?」 「三十路近い、どころかもう突っ込んじゃいましたよ、ええ! 行き遅れ? そんなこと言っちゃう若い男の子はもう、行き遅れる前に逝かせてあげますよ! あの世に!!」 「ぼっ僕ですかあああ!?」 何だか色んなところに余波を広げたようである。 ともかく。気を取り直し、『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は、胸を抉るような痛打に耐えつつ、傍らの『BBA』葉月・綾乃(BNE003850)へ、 「とっとりあえず! 二人とも、ちゃんと救い出しましょう! 余計なことを考えてる暇なんてない、ええ、これっぽっちもないわ!!」 「そうですね、ちょっと取り乱しましたけど、大丈夫です。葉月綾乃、26歳。……26歳! 仕事はきちんとこなす、できる女です!!」 顔を真っ赤にして憤る高砂駒子を前に、リベリスタたちは行動を開始する。 ●大体こいつのせい 「あ、あの、あの、ていうかですね、僕、その……僕、あの、年上好きっていうか、年増とか、熟女とか、そういうの大好きっていうか、大好物……」 恐らく事の発端も、そんなセリフに如実に現れているようなことだったのだろう、と容易に想像がつく。火に油を注ぎかけた愁と駒子の間を遮るような位置へ、ソラと喜平が一足飛びに割り込むと、ソラはじろりと冷たい目を投げかけながらも、彼を庇うように立ち。喜平は巨銃を構えつつ、吹き上げる戦気を身に纏っていく。 「結婚なんて、幸せになるための手段の一つであって、それが目的とは限らないんじゃないかしら。相手を探すこと、そのものを楽しめばいいじゃない? ……って、別に、あなたを心配してるってわけじゃないのよ? ただの一般論、一般論なんだからね!」 ツンデレ気質のセレスティア、ぷりぷりと照れながらも味方を加護で包み込み、リベリスタたちの背には光る小さな翼がふわりと浮かび上がり。珍粘は、その身にぼうっと浮かび上がる紫色の紋様を宿し、無限にも近しい再生能力を帯びる。 駒子は、苛立ちを隠せない様子でリベリスタたちを見回し、 「あたしには、時間がないのよ! 早くイイオトコをゲットしないと……それとも、あんたが相手してくれるのかしら、お坊さん?」 「おっと、悪いが、俺は売約済みってやつでな。遠慮しておくぜ!」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)は、加護によって得た翼で散らかった机の上を飛翔し前進しながら、結界を展開していく。これで、うっかり迷い込んだ一般人が巻き込まれる心配を排除しつつ、事が終われば、二人の今夜の出来事に関する記憶も、曖昧になって元通り。という、フツなりの気配りである。 「……やれやれです。これほどまでに使いどころのないアーティファクトも、初めて見ましたよ」 言うが早いか、『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)の両手が翻り、抜き打ちからの精密射撃がアーティファクトへと叩き込まれる。手元に走った衝撃に、駒子は、きゃあ、と可愛らしい悲鳴を上げて後ずさる。 あばたは机の合間の通路を移動し、立ち位置を調整しつつ射線を通しながらも、部屋の隅の愁へちらと視線を投げる。隙あらば彼を駒子から遠ざけ、安全を確保したい腹積もりだ。 だが駒子は、あばたの狙いをよそに。ぎろりと剣呑な瞳を愁へと向けると、震える彼へと向け、巨剣を掲げる。途端、がば、とその刀身が真っ二つに割れると、開いた顎にぞろりと生え揃った牙で、愁の頭へかじり付く……が。 「……っ! 間に合った、かしらね」 愁をかばい、ソラが代わりにその牙の餌食となり。リベリスタをしてその肉を容易に削ぎ取る顎の威力は、思わぬ深手をソラの身に刻み込む。 七花が、机の列の上を低空飛行でふわりと浮かび上がりつつ、周囲に魔力の生み出す黒鎖を纏い魔術を練り上げていく傍ら。綾乃は、自ら構築した、攻撃に関する最大効率動作を仲間たちへと共有し、援護する……が。リベリスタたちへと流れ込むその思考の流れには、妙齢の女性を喜ばせるための当たり障りの無い言葉100選とか、三十路女の心を効果的に抉る最良のセリフ集、とかいった精神攻撃に分類される情報が多分に含まれており、心当たりのある一部の方の眉尻をちょっぴりピクつかせたりした。 それはさておき。 「いいから、邪魔しないでッ! 北尾くん、こいつらを片付けたら、今度はあんたの番だからね? お・ね・え・さ・ん! が、美味しく召し上がってあげるからね、覚悟しなさい!」 「うひいいい!?」 などと、修羅場は未だ続きそうな様相である。 ●一大決心 「全く……あんた、男でしょ? もっとシャキッとしなさい、シャキッと!」 「はっはいい!」 こう見えて高校で教職を務めるソラ、幼女めいた彼女の外見に反する迫力に、愁はびくりと肩を揺するが、視線はソラと駒子の間を行ったりきたり。彼なりに、一応先輩を気遣っている様子ではあったが、 「ほらっ、きびきび動く!」 「あっうわ、うわ!」 ソラはぴしゃりと言って、ぐいと彼の手を引き、一気にオフィスの入り口側へと退避していく。彼を安全圏へと移動することができれば、戦況はぐいと大きくリベリスタたちへ傾く。 「あっ、ちょっと、何してんのよ! あたしの獲物をっ、どこへ連れてくつもり……よっ!!」 「おわっ!?」 駒子はぎり、と歯を食いしばり、巨剣を振るって、目の前のフツの胸元を袈裟ごと鋭く切り裂く……と同時に、 「く……!」 「ッ!」 うねる尾が風を切ってしなり、鞭のように喜平と珍粘を打って弾き飛ばす。 「わっ、わあー!?」 吹っ飛ばされた喜平の長身が、ちょうど悲鳴をあげる愁の横にあった資料棚へと突っ込み、ガラスを砕き、書類を撒き散らしてひしゃげる。 生来優しい気質ではあるのだろう、愁は慌てふためきつつも喜平へと駆け寄ると、彼を助け起こす。 「あっあっあの、だっだ、大丈夫、で……」 「……いたた。やれやれ……なあ、君」 喜平は、肩を借りて身を起こしつつ。思いがけず声をかけられ、背筋をぴしりと正す愁へ……アクセス・ファンタズムから取り出した何かを、ぽい、と投げ渡す。 「君、彼女にさ。何か、伝えたいこと、あるんじゃないの?」 「……えっ」 びくり。彼は、両手の中に放り込まれたそれと、喜平の顔を、きょろきょろと見比べた後。喜平の言葉を反芻するように、じっとそれを見つめる。 「やってみなよ。君だって、男だ、いつもびくついてるだけじゃないだろう?」 やがて、きりりと口元を結ぶと。何やら決意に満ちた瞳を、高砂駒子へと向け……。 「アレを動かしてるのは、持ち手である高砂なんだろ? だったらその動きを封じちまえば……ってことだな!」 ひゅ、と槍を振るい、駒子の周囲に現出させた幾重もの呪印が、フツの気合と共にその包囲網を狭め、縛る。 「ちょっなっなにこれ、か、身体、重……」 「あらら、大丈夫ですか? 更年期障害?」 「あんたちょっとさっきから失礼すぎるでしょぶっとばすわよ!?」 珍粘は薄く笑いながら、駒子の注意を自分に惹きつけつつ机の上を走り、絶苦の呪いを帯びた槍でアーティファクトを突く。衝撃で、巨剣の刃の一部が欠け落ちるが、一撃の反動は珍粘自身にも及び、槍を握る腕にぱしりと裂傷が走る。 あばたの狙い澄ました気糸の一撃が射抜き、セレスティアの繰り出した燃え盛る火炎弾がアーティファクトを大きく弾く、が。駒子は、執念のなせる業か、依然がっちりとそれを掴んで離さない。 喜平の放つ散弾が、薄汚れた毛並みの生えそろう刀身を打ち据えるその後ろで、綾乃は癒しの風を吹かせてソラの深手を癒しつつ、 「高砂さん! あたしが言っても、説得力はないかもしれませんけど! それほどに結婚願望が強いなら、結婚は大事なことかもしれません、でも! それを急ぎすぎたがために、あなたにとって、もっと大切なものを失ってしまう……なんてことに、なってしまうかも知れませんよ!?」 「うっ……そ、そうかもしれない、けど……!」 他人事ではない、ひしひしと伝わる悲壮感に、駒子も思わずぐっと胸を打たれ……たのかどうかはさておき。 「命短し恋せよ乙女、といいますが……難しいものですね。私もいつか、分かる日が来るでしょうか」 言葉を詰まらせる駒子の手元へめがけ、七花が、練り上げた魔術、黒鎖の奔流を解き放つ。絡み合う鎖が次々と巨剣の峰へ打ち込まれ、絡みつき。 「うぐぐ……こ、この……」 「きっ……聞いてくださあああああいっ!!」 ぴーっ、がががが。鎖が絡みついた剣を重たげに支える駒子へ向け、唐突に、オフィスの入り口あたりから、拡声器を手にした愁が声を張り上げた。そんなものをどこから持ってきたのかと言えば、もちろん、喜平がわざわざ用意し手渡したものである。 「せっ、せっ、せんぱ……先輩っいや、駒子さん!!」 「はっはひ!?」 今までに見たことの無い部下の剣幕に、駒子は思わず声を裏返し。 ぐっ……と思わず前のめりに身を乗り出す喜平とフツを尻目に、愁は、 「ぼっ、ぼぼぼ、ぼく、僕はっ……僕、は! 駒子さんが! 大好きですゅ!!」 噛んだ。 ●一発逆転 「よーし、良く言ったぜ!」 「さすが、男の子だねえ」 からからと笑うフツに、うんうん、と力強く頷く喜平。 女性陣、ことに、駒子に近しいものを感じていたところの数名は、揃ってぽかん、と口を開けていたが。 しばし立ち尽くす駒子の頬を、すう……と、一筋の涙がきらり、流れ……。 「…………ほ…………本当、に? いいの、あたし、なんかで? あ、あたしガサツだし、あんたのこといっぱい叱っちゃうし……こんなモノまで、振り回しちゃって、それに、それに…………あ、あたしもう、三十路も近い、オバさんだし」 「ぐっ」 「うぐぅっ」 外様のソラと綾乃に思わぬ精神ダメージが及ぶが、ここは我慢である。 「いいの、あたしで……?」 「もちろんです! 駒子さんじゃないと、僕、ダメなんです……!」 「ああっ、愁くん……!」 ぶわっ、と大粒の涙が溢れ出し。リベリスタたちを置き去りに、泣き笑いのまま通じ合う二人。 「…………ええと。これで解決、なんでしょうか?」 「少なくとも、二人の修羅場は終わったみたいだけど……」 七花とセレスティアも、毒気を抜かれて顔を見合わせつつ、ぽつりとつぶやく……が。 「あ、えっと……それで、ですね。皆さん」 駒子は、諸々のショックで、アーティファクトの支配から解放されたらしく、打って変わってしおらしく、恐縮しながらリベリスタたちを見回し。 「これ……手から離れないんです。何とかしてもらえませんか……?」 困り顔の駒子の手に未だ握られている、奇怪な生物めいたアーティファクト。それが、宿主の言葉を不服とするかのように、唐突に、がば、と口を開き。 警戒が走り抜けるリベリスタたちへ向けて、血肉や骨混じりの生々しい弾丸を、嘔吐するような不快な吼え声と共に、凄まじい勢いで吐き出した。 「きゃあっ!?」 「ッ……!! まだ、終わっていないようですね……!」 骨肉の弾丸は、七花と珍粘の身を容易く抉り取りながら、部屋の入り口の扉を粉々に砕き、隣のオフィスにまで粉砕の余波を広げる。 「すっ、すいません! すいません! これはあの、あたしの意思じゃなくて……たっ助けて、愁くぅん!!」 「駒子さああん!!」 「……仕方が無いですね、もう」 透き通った水晶めいた瞳をきらと煌かせ、ふう、とひとつため息をつくと。あばたは、二丁の大型拳銃の銃口をぴたりと巨剣の開いた口腔部へ向け、きっぱりと言う。 「こんなモノ、残しておいてもロクなことになりませんし。さっさと壊してしまいましょうか」 ●門出 「……あなた。今後、女性と会話する時は、もう少し考えて発言する事。ヘタに地雷を踏んだら……死ぬわよ?」 こくこくこくと何度も頷く愁に言い置いて、ソラは詠唱し、清らかな音色を響かせて仲間たちの傷を癒す。ふとソラは、涙目になりながらも、リベリスタたちが狙いやすいようにと必死に剣を前方へかざす駒子と目が合い、物言わぬまま、こくん、と頷き合う。何だかんだで、彼女にはシンパシーを感じているところがあったし、多分に複雑ながら、愁とのことを祝福する気持ちもソラにはあるのだった。 珍粘は、凶悪なほどの苦悶をもたらす黒い霧を生み出して広げ、 「まあ三十路なんて、超えてしまえば吹っ切れるものですよ、下らないことに悩んでたなーって……だって、まだ、人生の半分を過ぎただけなんですから」 ドライにそう言うと、駒子の手元から伸びたアーティファクトを霧で包み込み、閉じ込め。 「私も、何か一言、かけてあげられたら良かったのですけど。私が言っても、説得力に欠けますよね。なので、私は……私にできることを、やるだけですっ」 尻尾の針による一撃をするりと避けながら、七花は四条の魔光を次々に迸らせ、叩き付け。 「所詮は、他人の力を借りないと飯も食えない半端物だ。隙が出来れば、へし折るのは容易だろ?」 轟音を響かせながら放つ喜平の散弾が、幅広の刀身に、ぴしり、と乾いた音を鳴らしつつひびを入れ。 「そこだッ、もらったぜ! とんでけーっ!」 フツの携えた真紅の長槍が、どこか少女の声めいた高い風切り音と共に突き込まれ……。 「っあ!」 一閃。がっ、と硬質の音を響かせながら、駒子の手から、巨剣が弾かれる。それはくるくると宙を舞いながら放物線を描いて飛び、やがて、リベリスタたちの目の前の床へと落ち、刃の先を突き立て……止まった。 「今です、高砂さん! 北尾さんと一緒に、逃げて!」 「は……はいっ!」 セレスティアの叫びに、駒子ははっとして、机の合間を通って駆け出し。やがて、ちょっと気弱で頼りない、優しくて愛しい青年の手を迷い無く取ると、二人、ひとつ、笑顔で頷き合い。 ぺこり、と、彼らはリベリスタたちへ頭を下げてから、オフィスを抜け出し、去っていった。 しばし……ほっこりと、それを見送ってから。 「……さて、と」 床のタイルを砕いて突き立ち、ぎちぎちと身を震わせるのみとなったアーティファクトへ、彼らは視線を集める。未だ元気に動き回る尾の攻撃を考慮して距離を置き、遠巻きに周囲を囲みながら、 「ああ、気づいたら、もうこんな時間じゃないですか。夜更かしはお肌の大敵……ただでさえ、ジャーナリストとかしてると、夜討ち朝駆けって感じなのに」 「ええ、そうよね。まったく、随分と振り回してくれたわね……?」 今回、色々な意味で一番ダメージの大きい、オトナの女性二人の険しい視線。 その直接的な原因といえば、あの新しく誕生したカップルにあったと言えたものの。そこに神秘が介入しなければ、リベリスタたちの出動は無く、こうして余計な心労を背負い込むことにもならなかったわけで。 そんな二人を慮ったのかどうだか、 「後は、動かなくなるまで叩き伏せる。というところで、どうでしょうか?」 あばたの提案に、反対する者はいなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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