● 私の名前は不知火・淵華(しらぬい・ふちか)。 日本国内、主流七派。最大大手である『逆凪』に属するフィクサード……もとい、最近は只のOL状態。人の命を駆け引きする戦闘よりも、数字の駆け引きの方が多い気がするのは嘘では無い。 産声を上げてから本日今現在まで、私の歳を数えて29歳13ヶ月。 24歳あたりから歳を数えるのを止めていたのだけれど……先月、事件は起こった。 数少ない友人がサプライズの誕生日パーティーをしてくれたのだ。そればかりは嬉しく思うし、感謝もしている。だが、ふとケーキの上の蝋燭の数を数えてしまったのが運の尽き。 更に追撃の一手、此れが予想以上にも破壊力抜群。周囲の友人たちの左手の薬指には大人し気な飾りつけであっても、高価であろう石が、そう、まるで……漆黒の闇夜に燦然と輝く満月の程に、私の眼には眩しくて仕方ないそれがもう、だから、つまり、私が言いたい事は。 「結婚したいよお……」 最早溜息しか出ない。午前1時を少し回った、バーのカウンター席。何故だか、耳に入ってくるジャズも寂しげな音色に変わってしまった。 私の体勢はカウンターに突っ伏し、何を頼んだか忘れたが濃い目の茶色い液体が入ったグラスを掴み――此処で涙でも流せれば美しかったであろうが、三白眼の瞳が虚ろに上を向いて白目状態。 「うぶっ……!!」 込み上げて来たのは涙では無く、吐き気。数分後にはWCに駆け込むであろう。 婚期に焦れば焦る程、恋は空回り、砂の様に掌から零れ落ちていく。想いを乗せた言葉を紡ごうとしても、いざと言うときに舌を噛み出血。足下を紅く染めた光景と相手の男性の蒼い顔。嗚呼、素敵に絶望な対比と退避。 「逃した獲物はァァ、でけぇぞぉ……」 そう。 此の私、不知火淵華に見合う男とは年収3000万以上、容姿端麗、才色兼備。出来れば年が近いか、年下であるなら……なお良し!! それでそれで、毎週3回はデートをしてくれて、2ヶ月に1回は旅行に連れてってくれて、「家で主婦していてくれれば……それでいいよ」と言ってくれて、かつ!! いってきますのチューは何時もしてくれて、作ってあげた料理がちょこっとマズくても「美味しいよ……」って言ってくれるそんな、そんな!! あ、子供は兄弟は多い方が良いってパパが言ってたから、4人くらい欲しくて、できれば1姫2太郎で、それでそれで……。 「ぐふふふふふふふふふふふふふふふ……うぶっっ」 白目でニヤついていたからか、吐き気が現実に私を引き戻した。 先程予知した事が現実と成ったか。もしかしたら私はフォーチュナの才能もあったかもしれない。 席を立った、その時であった。 「最近賊軍元気だよなぁ……。あ、そうだ、話は変わるが此処ら辺の地域で右大臣っていうアザーバイドの目撃情報が出回ってるって知ってるか?」 「あー! なんか力を持ったアイテムを持ってるアザバが居るとかって話?」 「そうそう。アイテム自体は偽物らしいんだがよ、テンプテーションみたいな能力があったりとか! でも其のアザバさん、『本物』を探してるらしいぜ?」 「マジかよ、なんか子供の時に見た絵本を思い出したわ。アークみたいに眼があって直ぐ見つけられれば頂きに行っちゃいたいくら――」 「え?」 ―――ガシャン!! と。話をしていた、同じ逆凪支店の新人の男4人のテーブルに、私は踵落としを決め込んでいた。 「ねぇ……其の話。詳しく、聞かせて?」 「「「「は、はい」」」」 ● 「で」 という事で。 「其の女のテンプテーション付アイテムへの執着心が、見事、アザーバイドと接触するまでに至らせた――という事でしょうか」 氷河・凛子(BNE003330)は移送中の車内の中、資料を捲った。其の執着心、プライスレス。というか、そんな所で運命が上手い具合に転がっていくのも理不尽たる世界の凄い所であるかもしれない。 「そうッスね。不知火淵華は、アザーバイド『右大臣』と接触するッス。アザバが持っている、『火鼠の皮衣』を奪い取る為にッスね」 リル・リトル・リトル(BNE001146)はチャームポイントなのか、頬から伸びるひげを上下に動かしながら、凛子の言葉に続く。 だが、其の火鼠の皮衣。偽物。 「偽物でも、パッシブでテンプテーション能力だなんて傍迷惑な品ね。上位の世界ってよく分からないわ」 矢の様に景色が飛んでいく車外を見ながら、ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は魅惑な足を組んだ。 因みに其のテンプテーション。E能力者やアザーバイドには効果が薄いらしい。つまり、右大臣が居た世界では全くの役立たず。其れは言い過ぎか、雨風を凌ぐ壁や、冷たい身体を温めたりくらいには役に立つだろうか。あと、ファッション的なあれ。 「だが……淵華は、そんなものを手に入れてまで婚活したいのか?」 首を捻った熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)。だが直ぐに汐崎・沙希(BNE001579)の二本の指が、伊吹の頬をつまんで横に引っ張った。恋路を逸れ、年齢が危機的状況の乙女の絶望が男に分かるのだろうか、いや、わからないかもしれない。恐ろしいぞ。凄く。恐ろしいぞ。 「ともあれ、アザーバイドがフェイトを得ていないのは事実。還すか、討伐か――二択に一つです」 ミリィ・トムソン(BNE003772)は伊吹と沙希の戯れに一瞬程、苦笑いをしたのだが。直ぐに真面目なものへすり替えた彼女は冷静に状況を分析した。 所で、此れはなんだろうか。 全員が車の後部座席にだらりと掛かっている一枚の布を見た。 出所は不明。今までのアークの依頼で何時の間にか回収されていたアーティファクト『火浣布』。 「因みに此れ、アザーバイドの右大臣が出す炎に当てると本物の『火鼠の皮衣』になるらしいッスよ」 リルが呟いた言葉に、『成程』と。其の二文字が全員の頭の中に浮かび上がった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月28日(金)22:24 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 何時か白馬に乗った王子様が……いや、此の歳で白馬とか白タイツの王子様とか勘弁願いたいが。素敵な男性が現れてくれるはずって、此の手を取ってくれるって。 だから、だから。 「お願いですから、火鼠の皮衣をください……っ」 「いや……ちょっと無理」 「そこをなんとか」 「マジ無理っす」 「重々承知の上」 「本当。駄目だって」 「ですが私はそれがないと」 「うんだから、ええい!! しつこい!! 黙れドブス!!」 「今なんつったァ!?」 眼前で両手を合わせて、祈る様に不知火淵華は頼み込んでも。アザーバイドの右大臣は顔を全力で横に振って断り続けた、そしてキレた。 両者、遂に武器を取り出す。暗黙の内に武力交渉と成った様だ。 ゴホン。 と、一回。咳払いした『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)。其処でようやくリベリスタの存在が、フィクサードとアザーバイドに知らしめられたわけだ。 右大臣の方は何やらまた可笑しな連中が増えたと苦い顔をした訳だが、淵華の方は箱舟の精鋭を眼にしてギョッと。 「さっきから聞いていれば……仕方のない方ですね、逆凪の」 凛子の目線は淵華へと向く。其の瞳に呆れとからかいの意を込めて。 「引くわー」 追い討ちをかけるように『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は呟いた。内心、必死過ぎる淵華に同情か、呆れのようなものを胸でぐるぐる回転させながら。 「自業自得のような気はするッス……」 『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)も、帽子を深くかぶり直しつつ呟いた。 降り注いだ言葉の三連星だ。突き刺さった言葉の数々に、まるで胸に槍でも刺さったかのように胸を抑えた淵華。良く見れば、地面コンクリに点々と塩水の跡。 「や、やめろアークの!! 其れ以上はやめるんだ!!」 「お前等鬼か!? 悪魔か!!」 「淵華さんのフェイトはもう零寸前だぞ!!」 遂に逆凪の部下の男達が、何かしらを第六感で捕えて焦りの表情を見せてきた。 「あ、あ、あ……あんまりだ!!」 叫び出した淵華の声が静かな裏路地に響いた。 其の対角線上、対極的に「あらあら」と言う様に利き手を頬にあてた『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)。 「女の執念は恐ろしいな」 その隣で痛む頬を抑えながら目線を沙希から遠ざけた『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)の姿があった。 「うるさいわね。箱舟みたいな頭堅い奴等に乙女の純情なんてわかんないわよ!!」 淵華はリベリスタ一人一人を指差しながら、半ば顔真っ赤な状態で金切り声をあげた――刹那。 「えっと危ない、ですよ」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は呟いた。 直後、淵華の背後から真っ赤な業炎がうねりを上げてフィクサード達、リベリスタ達を包み込む。空気なんて読まなかった右大臣の攻撃だ。 周囲の温度が一気に上がっていくと同時に、リベリスタ達はミリィの指揮あったからこそ避けたものの、フィクサード達はゲフッと咳払えば黒い煙を吐き出す。 「ゆ……許さない、乙女の顔を焦がすなんてェェーッ!!」 「それは完全に、逆恨みというかお門違いというかだな」 伊吹が冷静に淵華の嘆きにつっこみを入れてみたのだが、それはそれで火に油を注ぐようなものであり。 「えと……戦場を奏でま……奏でてますね」 ミリィの、指揮棒を持った腕が振られて。割ともう既に始まっていた開戦の合図を知らせた。 ● 「はー……」 ペラ、と捲ったのは開いた魔術教本の間に挟んだそらせん(2)。4コマの漫画を眼で追いながら、塞がっていないもう片方の手を敵へと向ける。 たるい、かったるい。けれども目の前の女は如何しても気持ちが分ってしまうから何故か放っておく事ができない気がして。其の理由が理由だからか、現実から目をそらしつつソラは雷を迸らせる。 ソラに迫るナイクリの男の胴が射抜かれて、代わりにデュラが前へと出てきた。 しかしソラを背で隠すようにして立った伊吹がデュラの男の腕を掴み、後衛への進軍を食い止める。止めた……はいいものの、代わりにデュラの剣の柄が伊吹の腹を直撃して、来る前に食べたものが胃から逆走してくる。 胃液を吐き出しつつ左手で口元を抑えた伊吹は、フリーの方の腕に得物を持った。 ――乾坤圏。 特殊な手に入れ方をしたソレを指に絡ませて、伊吹は投げ込んでは敵のホリメを狙うのだが。気糸が飛んできた――其れは、伊吹の武器を弾き飛ばして軌道を逸らせ、プロアの頬を掠って終わる。 割と真面目に戦闘を行う逆凪の部下達。ソラと伊吹が動いただけだが。 (きちんと対応を行って来るだけ侮れない……ですね) そう判断したミリィの目線が横に平行移動した。恐らく彼等の手際の良い行動は、つまり。だから。 「ガルルルルル!!」 淵華の機嫌を此れ以上損ねない為だ。 「高……」 ……高望みをしなければきっとこんな事にもならなかっただろうに。 ミリィは少し目線を地面へと落として、ハァと重たい溜息を吐いてみた。気を取り直して、 「――御機嫌よう、逆凪の。執念で此処まで辿り着いた事は賞賛にも値しますが、だからと言って目的の物を黙って渡させる訳にはいきま」 「誰が、高望みだって!!?」 「せん。……なんで考えてた事、わかったんです!?」 彼女はリーディングを持ち合わせてはいない。しいて言うなれば、乙女の勘だ(パッシブ)。 弾丸のそれのように突っ込んで来た淵華は細くて長いレイピアの先端をミリィへ向けた。 リルに、伊吹。前衛の手は既に塞がってしまっている。だからこそ中衛であるミリィは彼女の攻撃を甘んじて受け、そして進軍を留めた。 レイピアの細い先端と、指揮棒の細い先端で受け止め超圧力がかかる。淵華の力は何故か馬鹿力だ、ミリィの手首が悲鳴を上げている事に淵華はニヤリと笑った。 「とばっちりで痛い目みるくらいなら、帰ったほうがいいんじゃないッスか?」 ナイクリの攻撃、ダンシングリッパーを左腕を犠牲にして直撃を避けたリル。彼女……じゃなかった、彼にそう言われたナイクリは一瞬だけ苦い顔をしたのだが、如何やら止まってくれる事な無いのだろう。 此の場に居る逆凪に限り、できれば箱舟は相手にしたくなかった。 箱舟――否、時村財閥にはお世話になっているからだ。リベリスタやフィクサードという関係さえなければ、名刺交換から始まってお付き合いしていればなんらかの形でメリットが発生する相手かもしれない、会社的な意味で。 だがしかし、上司が――あの、色恋沙汰に狂った上司の機嫌で給料が減らされるならば!! 此処で命を賭けるしかなくて。なんとも滑稽な話に見えてきたが。 「そこまでして、痛い目見る覚悟という事ッスか!」 「俺にはぁぁ、俺には妻も娘も。認知症の母親もいるんだーーーッ!!」 リルの頬に塩味の水滴がポタリと落ちた。無慈悲に其れを払いのけたリルは。 「なら、フィクサードなんてやってるんじゃねーッス」 ドゴォ!! と。容赦なんて無かった氷の結晶を纏いし腕が、ナイクリの腹部を捕えた――。 (さん……右大臣……ん……右大臣さん……) 「誰だ!!」 脳内に響く声。 沙希のテレパスが捕えたのは右大臣である。伝えたい事は此の戦いの意味や、リベリスタ側に戦意は無い事。此の後、火浣布を燃やして頂きたい――というのはまだ、言わなくても大丈夫か。 仲間の言葉に自分の言葉を織り交ぜて、放っていけばきっと右大臣も信じてくれると沙希は疑わず。 「だが……此の状況、我には未だ真偽が掴めぬ」 (貴方が、信じるべきほうが真実です) そう嘆くけれども、右大臣は迷い始めていた。そして沙希は察していたからこそ、あえて自分の言葉で彼を撫でる。 彼が放つ炎は、煉獄の劫火の如くに熱く革醒者たちの肌を焦がす。されども攻撃して来ない、後々になって表れた者達。 駒はきっちり揃っている。あとは、フィクサードが右大臣を攻撃でもしてくれれば右大臣の心情に王手をかけられるのであるが。 デュランダル、か。沙希の腹部に大きく傷を作り、出血を施したのは。 繋がっていた絆(テレパス)が痛みに遮られた。仲間に翼を与え、精神力を巡回させた沙希の回復は一手遅れる。 「そっと、私は瞳を閉じる」 声が響いた。大人の、優しそうな。それでいて、内に秘めたる母性を露出させたような。 凛子であった――最上位の回復手だけが行えるという、デウスエクスマキナ『機械仕掛けの神様』。彼女が呼び出したソレの腕がそっと地面に触れれば、リベリスタに、そして右大臣にも行き渡るのは慈愛の塊。回復を同じくする彼等が敵であるものか、そう理解できたのは此の時であろう。 傷口をそっと優しく埋めていく刹那にも、―― 「美しい」 ――と、声を漏らしたのは異界の住人右大臣であった。治癒の神の神々しさに、重ねたのは、そう――彼の世界の。 嗚呼、我が姫よ。 如何して此の最下層の世界に来てまで探し物を見つけられぬ我は。 きっと貴女は、振り向いてはくれないのでしょう。 月が綺麗だと――何時か言える、その日を夢見て眠った数は計り知れない。 さえど、貴女が他の男に奪われてしまえば其れを思う事すら意味を持たなくなるのは――、悲しくて。 (そう、ね) 再び繋がった絆に、流れ込んで来たのは純愛という二文字。 其の重さに、沙希は胸前の服をぎゅっと掴んだ。 ● 足下から舞い上がった闇、淵華を包み込み武装を行った。 「ダークナイト、か」 「うふふ!!」 伊吹の胸に飲み込まれた刃――それが、ビキキと音を奏でて石化の印を施していく。 舌舐めずりした淵華の目はマジだ。伊吹は背筋がゾクっと震えた。たった一つの愛が欲しいが為に此処までするなんて、女のあれそれは恐ろしい。 抜かれた刃が乱暴だったからか、伊吹の傷口から血が飛んだ。その鮮血の間で、右大臣へ向かっていく淵華の姿が見えた。 マズイ、と察したのはミリィであった。小さな顔を強張らせて指揮棒を淵華へと向けた。 まずい――だが、体は上手く動かない。膝までついた伊吹、だが、口は動いた。 「おい、三十歳一ヶ月」 ピク。 淵華の身体がビデオの静止ボタンを押したかのように止まった。 「火鼠の皮衣……ですか?」 ピクピク。 バトンタッチしたようにミリィが言葉を繋げた。 「焦ってアーティファクトに頼るのは負けよ!」 ピクピクピク。 ギギギギと音が出るかのようだ、人形の首を後ろに向かせるように振り向いた淵華の口が動く。 「な、ん、で、し、っ、て、る、の、か、な、ァ~?」 特に、だ。火鼠の皮衣火鼠の皮衣火鼠の皮衣―――火鼠いる!! そう、リルは火鼠のアウトサイド。其の毛で織られたものが、おそらく淵華も欲しいもの、なのだが。 迫って来た淵華の目が完全にイっていた。舌舐めずり、結婚という二文字におぼれた女はここまでになるのか――いや、そんな事は絶対に無いのだが。淵華はそれに人生を賭けているからか、どうしてもその皮衣が欲しかったのだ。 いっそリルごともってかえれば――そう淵華の脳裏を過ったのだが。 「させませんよ」 凛子であった。 「どけぇ!!」 「どきません」 リルの前にでた、スレンダーで、それでいて長い髪を揺らす白衣。 リルを守るが為に其の場にいたようなものだ。だからこそこういう時にいれなくて、どうするというのだ。 「本当は俺が貰いたいくらいだ」 なんて伊吹が冗談交じりに本気をいってみただけで、凛子の瞳が殺意を以て彼を射抜いた。 しかし次の瞬間。凛子は剥かれた刃を、奈落の剣を肩から脇腹にかけて直撃させてしまう。だが、其の顔は薄ら笑っていた。 「この程度では倒れていられません!」 勝てない、と感じたのは淵華であった。嗚呼、そんな愛があればと泣きそうになったのもこの時で。 やり返しだ、凛子の血が滲む腕が前を向いた。其の距離、零。そこから放たれた光が淵華を直撃し、其の瞳がリルを映す事は無くなった。 同年代が幸せになっていく中、取り残され疎外感を感じてしまう其の恐怖。ソラには解らない訳では無かった。 むしろ、 「物凄くわかる、わかる!!」 ソラの瞳が此れ以上に無いまで輝いていた。何故か、仲間を見つけたようなそんな感じの。 「やめて! わかるとか言わないで!! なんだかすっごい恥ずかしくなってきたじゃない!!」 「とりあえず、落ち着いて話をしましょうか」 友達に話をする感覚で言葉を紡ぎながら、放った雷撃がフィクサードを撃ち落とす。 右大臣プラス逆凪を相手にすれば、リベリスタたちの消耗も加速し早々にフィクサードを落しこむ事も叶わなかっただろう。先に右大臣の信頼を得たのは、なんとも偶然ではあれど幸先の良い付箋であった。 「……その、貴方達も付き合わされてご愁傷様ですね」 ミリィは指揮棒の先に光の子種を纏わせて。 「出来るならこの様な事で命を賭けるのは考え物ですので、素直に引いて貰えると私は嬉しいのですが」 小さな光は、大きくそして爆発的な程に膨れ上がっていく。 できればこんな馬鹿な事で殺しなんてしたくは無いのだ。してしまえば其れは、過激的なフィクサードや殺しを悦とする黄泉ヶ辻と何が違うというのか。 まだ戻れる、まだ、終わらせる事ができるからこそ。ミリィは強気に、本気に。瞳の奥に威風を纏わせた。遥か多くの戦場を奏でた声が、周囲に散らす。 「ですが、向かってくるのであれば私の名において容赦はしませんよ?」 ごくりと、フィクサード達はツバを飲み込んだ。 ソラの雷撃と、右大臣の炎に飲み込まれていく――其処に凛子の光が加われば、力量こそ劣る逆凪の部下達は荒い息混じりになっていくのだ。 右みて、淵華は汗を流す。左見て淵華は顔が真っ青になる。部下達もギリギリの体力であろう、上司たる己が部下を切り捨てては今度の会議で何を言われるか、今の人員不足に加速をつけることは、できなくて。 「で、話すの? 話さないの?」 ソラは再三問うた。 「……う、わかった」 刹那、戦場が凍り付いたのは言うまでもないかもしれない。 デュラの男はリルに攻撃する為刃を振り上げた姿勢で止まったし、リルはその衝撃が来ない事に頭にハテナを浮かべて瞳を開いた。 凛子は回復を行うが、肝心のリルが攻撃を受ける前に詠唱が終わってしまい回復が行き届き、沙希も同じく回復を発動させたまま固まった。 伊吹は回復した身体だが、未だ傷口を抑えている姿勢で止まっている。 「はぁ……なんか、疲れてきました」 ミリィは、深く溜息を着いた。そういえば、これで二回目だと嘆きつつ。 「テンプテーションの効果で籠絡しようとするのが間違いよ」 「はい」 「自分を磨いて、自分の力で落とさないとだめなのよ」 「はい……おっしゃる通りです」 「仮初の力ではきっと幸せは得られない、得られたとしてもほんの短期間の幸せ。その先に待ってるのは不幸とさらなる絶望だから焦ってはいけないわ」 「はいい……っ、すいません」 「焦らずゆっくりといきましょう、ね? 大丈夫、まだ何とかなるわ」 結局だ。 結局淵華は武器を仕舞いつつ、部下を引かせつつ、ソラの前で正座していた。 やっぱりほら、アークなんて相手にしたくなかったのだ。結局こうやって負けてしまって、いや、命こそあるからまだいい方なのかもしれないが。 「何か質問は?」 「いえ、特に……」 「そう。……私より先に抜けようなんて許さない(小声)」 「ひっ」 「今何も言ってないわよ。いいわね?」 「ひぃっ」 淵華、泣きそうである。もう二度とアークとは関わらないと心に決めつつ。 傍にずっといてくれて、私は不老だから相手も不老で、私より先に死なない。 たったそれだけを満たす相手ならば、きっと見つかえるであろうに。沙希はそっと淵華にテレパスを行いながらも、諭すのだが。 時折混ぜる皮肉が彼女の心を防壁ごと叩き潰していたのは天然なのかそれとも故意なのか。 (まあ後は適当で良いのだけれど、この界隈じゃ難しいみたい) 言の葉という、綺麗な文字でぼっこぼこに叩き潰した沙希は、地面にうつ伏せで倒れている淵華を見て頬に手を添えて「あらあらまあまあ」と笑った。 「夢見る乙女も十代なら可愛げがあろうが……二十歳過ぎたら現実を見ろ。三十路過ぎたら現実を受け入れろ」 トドメに伊吹が、木の棒で淵華をツンツン突きながら、置き土産にと言葉を。 「ムッキー!! 何で男にそんな事いわれなくちゃいけないのよ!! ベーっだ! イイ男捕まえてやるんだから!!」 「反省くらいしろ」 涙目で起き上った淵華は、腹いせ混じりに伊吹の頬を抓った。何故だか今日は頬を異様にもつねられる日であると実感しつつ。 此の後泣きながら淵華は帰っていく訳だが、話はまだ少し続く。 「火浣布ッス」 手渡したそれは、アークにあったもので。火鼠の毛から織られたものだという。 「此れに貴方の火を通して欲しいッス。そうすれば、本物になるはずッス」 「ああ、すまないな……これで、やっと姫も――」 燃え盛った炎は、周囲を包んだ。何故だか、それは熱くは無く。 ゆっくりと愛を育むように、少しずつ赤色に煌めいた火浣布は、きっと、きっと彼女の愛の灯を――。 右大臣は、迷惑をかけたと一礼して元の世界へと戻って行った。 ――死が二人を別つまで、守ってくれる事であろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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