● 世間の奴等はオレ達が汚れていると言う。 確かにここは汚い掃き溜めで。 オレ達は醜いドブネズミだ。 だが、清潔で行儀の良いビューティーに何の価値がある? むしろありのままに汚れたオレ達こそが、世界のトゥルースを知っている! だからこの姿はオレ達の誇りであり、魂! パンクでロックなラットソウルだ! 薄汚れたココはオレ達のステージ! だから聞いてくれ、オレ達のソウルソングを! 「センチュー!」 ● 「中々ソウルフルな歌だと思う。だがこのライブを続けさせる訳にはいかない」 少し残念だけどな。 そう、物憂げに笑ってみせる『駆ける黒猫』将門伸暁(BNE000006)。 彼を前に、集められたリベリスタ達の心は一つだった。 「頼むから分かるように話してくれ」 代表した一人の言葉に伸暁は一瞬驚いた顔をしたが、そこはアークのフォーチュナー。 何も無かったかのような顔で詳細を説明し始めた。 「先ず場所は某所の下水道。そこでネズミのE・ビースト達がライブを行っている」 「本当にドブネズミかよ」 思わず漏れた言葉を伸暁はそよ風の様にかわし、ホワイトボードに情報をつらつらと書き始める。 「この歌声は強力なカースだ。視界全体の汚れていない存在にアンラックを与える」 「汚れていない存在?」 今度は伸暁もかわさず、真剣な顔で頷く。 「ああ、彼らのソウルは清潔さ――クリアネスを嫌悪している。 自分達を否定し、排斥するエネミーとしてね。 彼らのソングは自分を理解してくれない世界への、ピュアでホットなロックなのさ」 「だから、頼むから分かるように話してくれって」 「汚れた姿で相対すれば、ある程度その威力を減じる事が出来ると思う。 もっともそれはソウルからの汚れではない以上、ゼロには決してならないけどね」 ――最初からそう言って欲しい。 リベリスタ達の心は相変わらず一つだった。 「バンドのメンバーは4匹だが、紡がれる歌は一つだ。 だが曲目はコーラスがメインでね、4匹全員が倒れない限り歌は続くしカースは有効だ。 注意して欲しい」 今はただ下水道で歌っているだけの彼らだ。 だが、このまま放置すれば程なくフェーズが進み歌声は下水の外にまで届く様になるだろう。 そうなる前に彼らを処理しなくてはならないのだ。 崩界を防ぐ為に。 「それと、残念ながら歌詞の内容はわからなかったよ。あくまでネズミの鳴き声だからな」 「さっきセンチューって言ってなかったか?」 「今すぐ向かえば一曲目の開始直後に到着できる。 油断できる相手じゃないが、お前達ならノープロブレムだ。 さあ、ネズミ達の反抗にフィナーレを伝えて来てくれ」 スルーしやがった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月09日(火)23:42 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
● 8月某日。 三高平市水道局下水道整備施設の清掃用マンホールの前に、見た目の異様な集団がいた。 ほぼ全員、どんよりと汚れた服装をまとっている。 「砂糖も塗してみようかな? 甘い香りー」 泥でべっちゃり汚した後に土や埃で見事にコーティングしてみせた挙句、更に別要素まで検討しているのは『スターチスの鉤爪』蘭・羽音(BNE001477)である。先月ハタチになったばかりの彼女、ちょっと容赦無い汚れっぷり。 「ロックなネズミの呪われた歌か。 どんなメッセージを歌に込めてるのか、ちょっぴり興味はあるが……早いとこ黙らせてやる」 気合十分の『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)は古着に泥を付け、腕や顔にも泥を塗り、すなわちこれ全身泥だらけなり。下水対策だというゴム長靴を履き、手には古新聞という名の対G用決戦兵器。 「若者の音楽はよう分からぬが、何やらかっこいいのう。 どうれ、ネズミとはいえその心意気、存分に受け止めようではないか!」 幼い見た目に似合わぬ巨乳を軍服に包み、かつてはネズミと同じげっ歯類に分類されていたうさぎの耳を揺らす『雪暮れ兎』卜部 冬路(BNE000992)。彼女が軍服を着ているのはいつものことなのだが、今日のそれは泥と炭でしっかりと汚された夜戦仕様である。 「この服洗って汚れおちっかな?」 まさかの普段着。『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)はTシャツにぐしごしと泥をつけている。次はズボンだ頑張れ。 「まさかこんな場所で、ネズミのロックバンド見に行くなんてなぁ。 まぁ、まこもロックは大スキだし! ネズミさんたちにはロックらしく、伝説のライブをもって引退してもらうぞっ」 「魂が篭っていれば人間で無くても関係ないのよ! ね、まこにゃん! だから、どんなに汚れていても毛ほどの問題も無いのよ!」 ボロボロに引き裂き、インクや泥で汚したシャツとパンツ。そして泥だらけの長靴。更に頭の上から砂をどざーとかぶり、ピンクの髪は砂まみれな『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)に、 どことなく妙なテンションの『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)が話しかけながら腕を絡める機会がないものかと隙を狙っている。彼女の全身も泥まみれだ。 「服の中の下着の中までぐずぐずよ?」 ……全年齢ですからね? さて、ここまで普通に汚れてる人たち。 ● 一番気合が入っていたのは、ずたずたで泥まみれの、しかしあくまでゴスロリ衣装。 腕や足には泥塗れの包帯、更にマスク手袋長靴の完全装備で露出部分ゼロ。 「艶々黒光りするあんちくしょうが現れても決してこの肌には触れさせ……あら目的が」 汚しておくように、という連絡の理由とは違う目的のために気合入りまくりの『鬼泣かせ』鬼哭・真心(BNE002696)。すっごい暑そうだがコレなら台所で不倶戴天な感じのヤツらが乙女の柔肌に振れることはないよ! きっと! そしてこの場では逆に異彩を放つ、特に汚れてない人が3人。 「えっと、ソウルフルでヒートなビートがラットのハートをテイクアウト? ネズミ界ではナウなヤングにバカウケなんでしょう、多分。 え、泥? 私、調査書にあったねずみのうたの特性は効かない体質だし」 さらりとそう言ってのけた、汚しているわけでもないジャージ姿の『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)に向けられる、幾人かの羨望の目。 『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)は、なんとフォーマルな普段着のまま。まさかの普段着第2弾。 「ルカ、下水とかでいい感じに汚す。別にあとで洗えばどうってことない」 こちらも普段着の『原罪の羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)の、その発言はある意味で周囲を戦慄させた。 「ルカルカさん、女の子なんだしさすがに下水はやめとこうぜ?」 「若いうちは体を大切にするのじゃ!」 さすがに水着パーカーのまま下水ざぶざぶは、他の人の精神衛生のためにやめてあげてください。 ということで、アークが清掃局から黒インクやら泥水やらをいっぱい借りてきました。 セッツァーさんは作業着も貸与。 「姿は汚れても、別にルカのすべてが汚れるわけじゃないし」 「姿は汚しても我が心は……我が声(うた)はクリアそのもの」 ふたりとも、頭からかぶれー。 ● 「どうでも良いけど中型犬程度の鼠ってカピバラみたいね」 「……何気に中型犬サイズって、大きいよね……」 杏のひとりごとに反応し、じゅるり、と思わずヨダレをこぼしそうになる羽音。 そんなやり取りがあったりしたものの、下水道の行軍は、思ったよりあっさりと進んでいった。 そりゃあ、蜘蛛やらGやらちっちゃいネズミやらがもんすたあさぷらいずどゆうな感じだが、そんなものは先に気がついた人間がいればなんとでも対処できるのであり……熱や音、そして暗闇を見通す目。結構揃ってる状態のこのチームの前に、エリューションでもない彼らが隠れることなどまず不可能だった。 もちろん、見つけた真心が絶叫したりもしたのだが、先に謝られていた他のリベリスタたちにはそのあたり、織り込み済みである。 衛生的に問題のあるヤツらが発見される度に彩歌の気糸や牙緑の古新聞やルカルカの懐中電灯が唸る。 念のため結界を張りながら移動していたが、そもそも奴らには怯えたり警戒するだけの知能がない。 むしろ地上の人間が時折地中から聞こえる悲鳴を聞かないために使われていたような気がしたのは、きっと彩歌の気のせいではないだろう。 「ネズミたち、きっとがっつり迎撃準備してるよね」 おおよそ10分の待機時間。ネズミたちがどう動いているのか、検討もつかなかった。 ● 伸暁の調査書や彩歌の懸念に反し、ネズミ達はリベリスタに対し何の対策も行わなかった。 ただ、歌声を一層大きく張り上げただけだ。 仲間と共に突入しながら冬路は耳を澄ませる。 彼女は全ての言語を解読しえるその兎耳の力で彼らの歌を翻訳するつもりなのだ。それが、彼らを退治する事しかできない自分に唯一出来ることと信じて。 「おぬしらの熱い熱いその想い、残さず聞き届けてやるからの!」 ドブネズミのライブは丁度、始まろうとしていた。 ――いや、観客の到着を待っていた、というべきだろうか。 バケツのドラムに陣取ったモヒカン(ネズミ)。 鉄の板に針金を張ったギターとベース(ネズミ)。 そしてその前に立つ、電気スタンドをマイクスタンド代わりに握り締める、ボーカル(ネズミ)。 彼らはリベリスタたちを一瞥すると口の端を上げ、ニヤリと――そう笑ってみせた。 「チィウッ」 ゆっくりとした節で、楽器をかき鳴らし、何かを歌いだす。 このテンポの歌なら翻訳と同時に歌い返せる。そう判断し、冬路はスウと息を吸い、歌い出す。 「どーぶねーz「「「アウトおおおおお!!」」」 何人かが一斉に叫んで冬路の歌声をかき消した。 ● リベリスタ達が思っていた以上にネズミ達の耐久力は高く、戦闘は長引いていた。 既に最初の曲は歌い終わり、2曲目に移っている。いや、大人の事情とかではなく。 10人がかりの猛攻を受けても尚、ネズミ達は歌う事をやめ様としない。その歌は呪いとなり、リベリスタ達の身に纏わり付く。 だが、事前にわかっていたそれに、怯むものは居ない。 「羊はねずみにまけないもの」 断言し止めるもののない鉤爪でそのネズミの皮膚を裂くルカルカの身体は、既に彼女の最大速にまでギアを上げられている。意図的に塗ったドロに彩られその身をより黒くした彼女に、構えたベースギター(鉄板)の弦を切られたE・ビーストの、ネズミにしては涼やかな顔が僅かに歪んだ。 「まこ的には、心意気はキライじゃないんだけどさ。ゴメンな!」 切れた弦の音を聞いてか、より一層熱く歌い出すボーカル。その身を縛り上げるべく放たれた真独楽の気糸が毛皮を締め、狙い済まされた彩歌の気糸が更に追い討ちをかける。 それでもあくまで歌い続けるドブネズミの腹に、ダメ押しとばかりに大剣が叩き込まれた。 破壊的な闘気を纏った羽音の、全身の力を込めた一閃だ。 「……じゅるり」 反撃にと振るわれた爪を難無く回避した羽音の目は、何やら瞳孔が縮んでいる、ような気が。 「本当にロックなネズミ達……おいしそ いや、何でも……」 猛禽類の本能が滲み出るその言に、何者も恐れる様子無く勇猛に戦っていたげっ歯類達が一斉にビクッと飛びのいた。ついでにげっ歯類じゃないけど兎形類的逃げ腰な冬路もなんだか背筋がゾクッとした。 「羽音殿、このネズミどもは餌ではないのじゃ!」 そうツッコミを入れた冬路をドラムの鋭い爪が襲うが、彼女はこれを難無くかわす。 同時翻訳は、流石に曲の節に合わせた訳とは行かないため、作曲知識がある訳でも無い彼女は歌い返しを既に諦め、歌詞の内容を覚える事を主眼としているのだが……その表情は、2曲目の開始からこっち、どういうわけか僅かに険しい。 メロディーの合間を縫う様に轟音と共に激しい雷撃が荒れ狂った。 その雷を呼ぶ杏は、歌手を目指すバンドマンだ。音楽に言葉なんて関係ないと断言した彼女は、雷音にリズムを乱され曲が台無しになる事を避けたのだろう。だがその雷に容赦はなく、ネズミ達を苦しめる。 よろけた所に夏栖斗の掌打を受け、ついにボーカルがドサリと倒れた。 「どうせ歌うなら、日本中に愛と勇気と感動を与える歌にしてくれよ」 倒れたのを見て取った牙緑がそう言いながら、冬路を狙い続けているドラムのネズミに標的を変えヘビースピアを全力で一閃する。急所は避けつつも腹を大きく薙がれたドブネズミは、言葉は分からないまでも意味は通じたのだろうか、牙緑をギロリとお調子者らしからぬ形相で睨んだ。 ――俺たちが歌うのは、誰かのためじゃない。 ● ネズミ達は、メインボーカルが倒れようともあくまで歌う事をやめようとしない。減じられているとはいえ、不吉を呼ぶその歌の魔力により、リベリスタ達は幾度と無く足や手を滑らせ、少しずつだが着実に手傷を増やしていた。 しかし、激しく熱いロックに混ざり、低く渋い歌声が戦場に響いている。 セッツァーの歌うオッフェルトリウム。聖餐の始まり、神の御子が最後に取った晩餐を模す儀式の中で歌われるその奉献唱は仲間達の傷を見る見る癒して行く。歌声の数という名の音量で負けようと、魂の躍動は負けぬと歌い紡ぐその福音。 「センチュー! の愛らしさに釣られたらこのザマですわ」 ソウルフルなリズムに合わせて舞い戦う真心が、そこだけ翻訳した(と、思しき)将門への憤りを込めオーラの爆弾をギターのネズミに植えつけようとした。 「おいつめ ネズミ ネコ 噛むチュー」 しかしネズミは真心の手を姿勢を低くする事でギリギリかわしてみせ、あまつさえクールにウインク。 その動きは今までとは比べ物にならないほどキレのあるものだった。 「喋ったああああ!?」 真心はそれどころではなかったが。 「やはり、おぬしら……」 一連の戦いの様を見、冬路が苦い顔で呻いた。 ネズミ達の絶やさぬ歌の意味を知る彼女は、仲間より少し先んじて気付いていた。 彼らは『思っていた以上に丈夫』なわけではない。『思っていた以上に強い』のだ。 ただ、頑なに歌いながら戦おうとする為に攻撃も回避も散漫になり、結果的に弱い。 先ほどのドラムの動きは、歌詞の合間だったゆえだ。 ――そもそも折角の毒を持つ牙を一度も使っていない。 それほどまでに歌う事を優先しているのだ、彼らは。 「ねずみが歌うのも理不尽の歌?」 ベースのネズミの首筋をけりぬきながら、ルカルカが首を傾げる。 「どんな歌歌ってるのかな?」 真独楽もまた、よろけた隙を突き気糸を持って縛り上げながらも歌の中身を一層気にしだす。 「冬路、バベってるんだよね……。ネズミ達の歌の歌詞、どんなの…?」 動けなくなったベースの頭蓋を真正面から叩き割り、沈めた羽音が冬路を振り返る。 「――羨ましいと。 自分達と違って『世界の汚れ』でない私達が妬ましい、と」 「……おい、それって」 視線を向けられた冬路が搾り出したその言葉に、思わず攻撃の手を止めかけた夏栖斗が目を剥く。 「ネズミは、危険を予知する事があるそうですわね……」 真心が呟く。 このネズミ達は賢い。人の言葉を覚えつつあるほどに。 知っていたのだ。リベリスタ達が、『自分達をこの世界から排除する存在』が来る事を。 自分達が、この世界と相容れない存在となってしまっている事を。 「逃げる事も出来る、戦えばひょっとしたら勝てるかも知れぬ。けど、それよりも歌いたいと」 それが、それだけが自分達に出来ることだから。 『妬みも悲しみも、全部オレ達だから。全部ロックに込めて』 メンバーは既に半分、けれど彼らの歌は終わらない。 『汚れも醜さも、全部オレ達だから。全部誇りだと言い張って』 ボーカルが倒れようとも、ベースが砕けようとも、歌う事を止め様とはしない。 決して。 『誇りを歌いたい。魂を歌いたい。そしてその歌を聞いて欲しい。』 聞き手は、観客は今ここに居る。待っていた。 だから聞いてくれ、オレ達の『全て』を! 「「センチュー!」」 二曲目が終わり、下水道に響き渡ったネズミの声は、下水道のどの生物にも通じない言葉。 それは、自分たちを排除しに来るはずの誰かに向けた言葉。 ――そして、三曲目が始まった。 ● オレ達は元々世間から爪弾きにされたドブネズミだ 邪魔者だと監獄に追いやられて見ないフリ そうした綺麗な奴らを憎んだ オレ達が一体何をしたっていうんだ? けど気付いたんだ どんなやつって歩けば埃がつく走れば汗をかく転べば泥がつく 生きていれば汚れるんだ 汚れている事こそがありのままなんだ それを洗い落としてしまっているあいつらには一生分からない あいつらは本当は一番大切なものを知らずに捨ててしまっているのさ オレ達は忘れない 纏っているこの真実を あいつらが見ないフリをするこの楽園は、捨てられた真実たちの終着地なんだ そう気付いたオレ達は歌を得た オレ達を語る歌を手に入れた けれど、その引き換えに世界から見捨てられた けど気付いたんだ どんな歌だってどんなに歌ったって聞こえなきゃ意味がない 観客が、奴が欲しいんだ 聞いてくれる奴等が欲しいんだ そしてそれは 今手に入る 見ないフリなんかしない オレ達に会いにこんな掃き溜めにまで来る オレ達の声が聞こえる オレ達が伝わる オレ達は世界の汚れ 今からあいつらに洗い落とされる あいつ等は掃除人 今からオレ達を洗い落とす けれどその間、あいつ等にオレ達の歌が届くはずだ 逃げようか? 返り討ちにしようか? ――そんなのロックじゃねえ! 観客から逃げてどうする! 誰にも伝えなくてどうする! 全部歌うんだ オレ達全部を聞いて貰うんだ。 この世界で生きていけるあいつ等が妬ましい その妬みも憎しみも 全部込めて 全部歌う オレ達の魂を聞いてくれ オレ達の全部を聞いてくれ オレ達の歌を聞いてくれ オレ達の歌を聞きに来てくれて 有難う 本当は死ぬのが怖い けれどオレ達はこの時の為に歌って来た ● 「やっぱり大事なのは魂ね」 呟く様に言った杏の雷が再び暗い下水道を照らす。 電流に苦しんだその隙に、牙緑のヘビースピアが正確に心臓に突き入れられ、優男のネズミが倒れる。 「君たちの溢れんばかりの魂の叫び、確かに受け取った」 仲間の傷は最早殆ど無い。回復は無用と判断したセッツァーの召還した魔炎は、残るネズミの身を焼く。 「轟く火花の彩を、餞と致しましょう」 彼らの前のめりさに敬意を表し、ただひたすらに命中の難しい死の爆弾を植え付けようとし続けた真心の手が、ついにドラムの体を捉えた。 「──♪」 使い手にすら反動を返す爆発の合間、真心が見たのはいかにもお調子者らしい、人懐っこい笑顔。それから、ビシリと立てられた親指。 「このせかいに生まれ落ちたのが不運……というか不条理。 理不尽。そんな世界が好き。アンコールはしないよ」 ネズミ達の絶命を確認しながら、そう呟くルカルカの視界の端を淡い光が横切る。 「生まれ変わったら、のびのび歌えますよーに」 それはケミカルライトの光。ライブではつき物のそれを、真独楽と、戦闘が終わって即彼に走りよった杏が仲良く振っている。 「声は届かなくとも、伝わる想い(ロック)はある……はず、多分?」 彩歌がサングラスをかけ直しながら呟く。 頬の炭が流れ落ちたようなのはおそらく汗のせいだろうと、冬路が気を切り替える。 「服の汚れは……まあ……ここまで汚れてしまえば、着替えるのが早かろうが遅かろうが関係あるまいて」 「……帰りに銭湯でもよりたいなぁ」 「!! まこにゃんおふろまこにゃんおふろまこにゃんとおふろはあはあ」 ひとりぼうそうした。 セッツァーが咳払いして空気を戻す。 「皆でオンセンにでも行って汚れを落とすのもいいかもしれないな」 「「「賛成ー!」」」 リベリスタたちの声が重なって、もう歌の聞こえない下水道に響いた。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|