●亡失 これは極秘任務なのだと告げられたとき、彼は確かに、嫌な予感を感じていたのだ。だが、その誘惑に容易く抗える程度の執着ならば、そもそも彼は、遥か高みを目指そうなどと思ってはいなかっただろう。 行き着く先には、愛しの暗黒空間だ。 もちろん、与えられた任務を完全に、完璧にこなしさえすれば、何の問題もなかったこともまた確かだった。だが、そうはならなかった。 「こちら管制室、ストレンジャー応答せよ! ストレンジャー! 状況知らせ! ストレンジャー、応答せよ!」 致命的な問題を生じた宇宙往還機は、炎に包まれ、重力に引かれて。遠ざかる、狂えるほどに欲した暗黒に手を伸ばしながら、彼は、空を落ちていく。 「ストレンジャー、応答せよ! 聞こえないのか、スト……」 「……見えるんだ……」 「何!? ストレンジャー、良く聞こえない! もう一度言ってくれ!」 機体はやみくもに回転し、そこかしこで爆発が起こり。走る亀裂からコクピットにまで入り込んでくる炎の舌に、全身を焼かれながら。 彼のかぶったヘルメット、金でコーティングされたバイザーに映りこむのは、彼がどんな時も恋焦がれてきた、あの漆黒の宇宙。 「ストレンジャー、何が見えるんだ? 応答しろ、状況を、ストレンジャー……」 「見えるんだ……ソラが、俺を、迎えに」 激しい衝撃音とノイズを最後に、通信は途切れた。 ●終末か、再生か 「……彼はその墜落の最中に革醒し、フェイトを得て生き延びました。奇跡的な生還、でしたが……宇宙開発計画の縮小が推し進められる中で、一部の科学者がごく秘密裏に、かつ強引に進めたプロジェクトであったことから、その成功も、失敗も……彼の存在そのものすら、一切が表沙汰になることはありませんでした」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、用意された資料を片手に、難しい顔でリベリスタたちへと語る。 「情熱? 執念……? ともかく彼は、その後ももう一度宇宙へ行くことを望みましたが……事故で負った重い傷や、崩れた精神バランス、放射線障害……様々な理由で、結局、彼はプロジェクトを下ろされました。彼がこの先、再び空へと上がる機会が訪れることは、きっと無いのでしょうね。もう二度と……」 映像に映されたのは、病院と思われる清潔そうな白い建造物と、窓際で物憂げに佇む、車椅子に乗せられた白い患者服の男。 全身に負った重度の火傷。極限状態で蝕まれた精神。ただでさえ、宇宙へと至る旅路とは、遠く険しいものだ。一線から外れた男に、逆転の目はまず、訪れまい。 少しばかりの哀れみをにじませながら、和泉はぽろりと心情を漏らすが。すぐに気を取り直すと、きりと表情を引き締め、 「名前は、バーナード・シャトルワース。35歳。現在、彼は設備の整ったこの日本のとある病院で治療を受けつつ、療養とリハビリを行っているのですが……問題はむしろ彼自身ではなく、彼が日本へと持ち込んだ、とあるアーティファクトの存在です」 映像が切り替わる。 厚くごわごわとした白い生地に引かれた赤いライン。胸と背中に据えられた、大きな生命維持システム。ぎらぎらと、映りこむ全ての光を金色に変えて反射する、丸いバイザー。 「事故の折に革醒したのは、彼だけでは無かったんです。彼と生死を共にした、宇宙服……せめてもの記念にと、相当の無理を言って彼が譲り受けたこのアーティファクトは、持ち主の精神と深く同調して、彼が抱えるその強い願望を叶え、現実のものにしようとしています。即ち……主が恋焦がれて止まない、宇宙への回帰を」 もう一度、あのソラへ。彼の、何にも代えがたい、恐らくはたった一つの望みは、彼のこの先の生涯においても、きっと叶うことはないだろう。 ならば。 作り出してしまえばいい。 彼の望む、宇宙を。 「アーティファクトはシャトルワースもろともに自壊し、それに伴って発生する極大のエネルギーは、超高密度に収束。やがて膨張を始め……その結果誕生する、超・極小規模の宇宙は、半径にして百数十メートル以上の範囲を飲み込み。そこに存在する全てを、例外なく破壊し尽くすことになるでしょう」 淡々と述べる和泉だが、しかし、その表情にはぴりりとした緊張感を帯びている。 和泉は、危険な任務へ赴くリベリスタたちへと申し訳なさそうな顔を見せつつ、 「残念ながら、彼が欲するものは……他の多くの、何の罪も無い人々の命を巻き込みます。彼を宇宙へと還すわけにはいきません。皆さんの手で、彼の望みを断ってください。よろしくお願いします」 そう言って、す、と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:墨谷幽 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月14日(金)21:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●こんなにも綺麗な星の下で 『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)は、様々に絡み合う心中を胸に秘めたままに、院内の階段を駆け上る。 (宇宙はロマン……って気持ちも、分からなくもないけど) ブリーフィングで告げられた、『彼』の目的。多くの無辜な人々を巻き込むであろうそれを止めなくてはならない、という気持ちも、確かに真咲の胸中には在りつつも。タイムリミットは数十秒、ドキドキするシチュエーション。どこか心を躍らせている自分がいるのもまた、確か。 ない混ぜになった感情の中で、真咲は、知らずに微笑んでいる自分に気づく。 一方、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)は強固な結界を展開し、発生しうる無用な犠牲へと配慮しながらも、『彼』の思いへと思考を馳せる。 手の届かないものに焦がれるうち、やがて心の中、深く焼きついてしまう。願い、などという綺麗な言葉では到底おさまらず、それはもはや、狂気とか妄執と呼ぶべきものかもしれない。 だからこそ、と、喜平は思う。 「何もかも犠牲に、ユメへと手を伸ばす。酷く馬鹿らしくて……でも、何て、人らしいんだろうな」 ぽつりと彼の漏らした言葉に、リベリスタたちの中にも、感じ入る者はきっといたことだろう。 やがて、駆け上がるリベリスタたちは頂点へと到達し。 開いた扉の向こう……果たして、『彼』は、そこにいた。 屋上に敷かれた、真白いタイルの上。ごわつく多層構造の防護服。胸郭部を鎧う、グラスファイバーの甲冑めいた四角い膨らみの上には、様々なデバイスが盛り込まれたパネルが光り。背負うのは、巨大なランドセルのような主生命維持ユニット。 金色に輝く、半球状の遮光バイザーの奥からこちらを見通しているであろう、落ち窪んで暗い瞳を、今、垣間見ることはできない。 アーティファクトと化した船外活動服を身に着けたバーナード・シャトルワースは、今日に限ってやけに強く瞬いて見える、頭上から降り落ちてきそうな星空の下へ……静かに、佇んでいた。 「……良い夜だな、バーナード。今夜はこんなにも、宇宙(ソラ)が近い」 『地球・ビューティフル』キャプテン・ガガーリン(BNE002315)は。奇しくも、自らとアイデンティティを近しくする目の前の男へ相対すると、その素直な心情を口にする。 「ワタシは、悲しい。宇宙に憧れ、夢破れて今、ここに至る……決して珍しい話ではない。だがバーナード、君は、その憧れそのものを忘れてはいないのだろう」 懐かしきロケットの外壁から造り上げられた、堅牢な二枚の複合装甲。ガガーリンは言葉を紡ぎながらも、それを構える。 悲しくも、恋しい暗黒空間を今にも届きそうな天へと抱きながら、重力井戸の底、地球(テラ)で対峙するコスモノートとアストロノート。 「宇宙飛行士は、夢と憧れを忘れてはならないのだ。だが、君が下した、その決断……それが、ワタシは悲しい」 ならば、せめて。目の前の彼とて、共に宇宙を目指したチームの一員、ならば、道を外れたチームメイトを正しく導くこともまた……キャプテン・ガガーリン、彼はそれこそが、自らの役割なのだと心に決めていた。 通じるものがあったか、否か。シャトルワースの背後から、小さな影が4つ、風を切り飛び出す。小型の、宇宙船……まるでSF映画に登場するような、前衛的で、あるいは遠き日に少年が空想した未来の産物のような子供じみたそれらは、シャトルワースの内面に深く根ざした概念を表すものなのかも知れない。 そして。 シャトルワースは、星の海へ……高々と、その両腕を掲げる。 ●還るべき場所 「宇宙とか、宇宙から見た地球だなんて、映像や写真でしか知らないけれど。あんなに体がボロボロになってまで、恋い焦がれることが出来るモノなのね……」 崩壊のカウントダウンを始めたアーティファクト、そしてシャトルワースへ神速の踏み込みで接近したソラの手元で、魔術教本がばさりと開き。繰られたページに浮かび上がる魔術紋が形成する無数の氷刃が、シャトルワースと、ミニチュアのような宇宙船の二隻を包み込む。 ソラにとって、宇宙飛行士たちの抱く遠く儚い夢、その情熱や妄執とは、およそ触れたことのない存在に過ぎなかった。だが、目の前の男が目指すものに真っ当な道理が伴わないことは、誰にでも明白であるに違いない。 「なにより……ね。そんな方法で得たものが、本物であるはずが無いじゃない?」 手のひらをくるりと翻すと、氷刃は、夢破れた哀れな男と宇宙船へと殺到していき、真空空間のごとくに凍結させていく。 「宇宙を目指す、そんな途方も無い夢を持つ者は、往々にして、ある種のエゴイストであるとも聞く……だが!」 『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)は、吼える。 彼女が抱く、誇り高きその名は。かつて極北の地から暗い宇宙へと旅立ち、そして生還して、再び故郷の地を四本の足で踏みしめた……。 「我が名は、ベルカ! 『還ってきた』宇宙犬の名を戴く、リベリスタだ! 『還れなかった』貴様の不運には同情する、だが……還るべき大地を自ら生贄に捧げようというその行いは、言語道断ッ!」 ぐんと背を反らし、投擲した閃光弾が、瞬く星たちを巻き込み炸裂し。飛び交う宇宙船たちを強烈なショック波が捉え、動きを縛る。 「……往ったきりで還りを望まぬシャトルなど、笑止に過ぎる。そうでしょう、同志ガガーリン?」 ベルカの問いに、ガガーリンは深く頷く。 その頭上を横切り。一隻の小型宇宙船が、『双刃飛閃』喜連川 秋火(BNE003597)を光線砲で狙う。伸びる緑色の一条の光を潜り抜けるように避けると、秋火は両の手に携えた小太刀の刃へと、美しい星空を映し込みながら。 「良い空だな……星が綺麗だ。これが君の焦がれたソラか、シャトルワース? なるほど、あそこへ還りたいという君の気持ちも、分からなくはない」 和装に帯びた、きらめく二本の刃。緩い夜風になびく金色の髪は、包み込むような星の海へと良く映える。 「……だが。その想いを果たす為、何者をも犠牲にしていい筈がない。残念だ、しかし、止めさせてもらうよ」 秋火は、宇宙船たちとシャトルワースの間を遮るように飛び込み、目のくらむような連撃を放って、シャトルワースの宇宙服を外殻上から切り裂いていく。彼の未だ抱く、揺籃の夢と現実の決別、その手助けをするように。 射線の通りやすい位置取りを保ちつつ、『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は、佇むシャトルワースとうっとおしく飛び回る宇宙船を、その透き通る水晶のような眼へと捉え、つぶやく。 「ありますよね、目的に拘泥し過ぎて、手段を選んでる間に目的が歪んでくってこと。仕様変更とも言いますけど」 あくまで冷めた口調で言うと、あばたは両手の大型拳銃を抜き放ち、雨のごとく銃弾を浴びせる。プラスチックが折れるような、金属めいて重たげな見た目に反して軽い音を鳴らしながら、宇宙船の一隻がエンジンらしき部位から炎と煙を噴き出し、白いタイルの上へと墜落する。 色の無いあばたの瞳に、目の前の男は、どう映っていることだろう。宇宙船の一隻を撃墜したあばたは、続く標的へと無機質な眼球を動かしていく。 その視界を横切って駆ける、『ロストワン』常盤・青(BNE004763)。彼もまた、複雑な想いを胸中に抱きつつ、携えた大鎌を振るう。 彼は思う。誰しも、どこか、帰りたい場所があるものだろう。例えば故郷。家族。時に、過ぎ去った過去へも。 目の前のこの男にとっては、それが宇宙だった。それだけのことだ。しかし。 「この場所に、新たな宇宙を作らなくても。宇宙はもう、ここにあるよ。地球の重力に縛られていると忘れてしまうけど……ボクたちも、この地球も、広大な宇宙の一部なんだから。……そうは思わないかい、宇宙飛行士さん」 青の言葉は、眼前の男に向けられたものか。それとも、己の存在意義に苦悩する、自身へも向けられたものだったか。 一閃する大鎌が、シャトルワースの首元を狙うが。直前、飛び込んだ宇宙船の一隻が、ぎらりと星の光を映す大鎌の刃へとぶち当たり、直撃を阻害する。どこか、怒りにかられたように機首を震わせる宇宙船を見据えながら、青は再び長大な鎌の柄を握り締め、誓う。 彼を、宇宙へ還すわけにはいかない。 ●カウントダウン 瞬く間に過ぎ去る十秒ほどの時は、しかし着実に、アーティファクトの内へと、不穏な内圧を溜め込んでいく。 ソラの指先から、二条のまばゆい電弧が迸り、シャトルワースと宇宙船の間を走り抜ける。内部から弾け飛び、簡素な回路らしきモジュールをスパークさせながら、宇宙船の一隻が地に落ちて砕ける。 障害は、残り二隻。 「宇宙に行きたかった、というけれど。貴方が行きたかったのは、本当に、そんな所なの? ……違うよ、そこは、宇宙なんかじゃないよ……ただ、貴方の、夢の中でしかない」 言葉で、そう呼びかけながらも。真咲の振るう巨大な三日月斧が描くその軌跡に、躊躇いはない。光を放ちながら、重圧を持って斧はシャトルワースの肩口へと、二度、叩き込まれる。鈍い音と共に刃は弾かれるが、走る亀裂からは、しゅうしゅうとエアが漏れ出していく。 ベルカの絶対零度の殺意がシャトルワースを射抜き、ガガーリンはその後方で、十字型の絶対防御壁を構築し、仲間たちを護る。 「バーナード、ユーの無念、ワタシには良く分かる。ワタシもまた、宇宙へと上がる術を失った者だからだ。我々は、チームだ。共に宇宙に憧れるチームなのだ……!」 届かぬことは、分かっていた。だが、ガガーリンはあえて、叫ぶ。伝えねばならなかったのだ。 「忘れぬ限り、胸の中に宇宙はある。飛べずとも、宇宙飛行士でいることは出来るのだ。その胸に宇宙を、誇りを取り戻せ……! 戻ってこい、バーナードッ!!」 しかし。 星空へ、その声は、悲しい響きと共に吸い込まれ。 喜平は、 「どうやら、届かぬようだ。残念だが、しかし……それもまた、人の業、というやつなのかも知れないね」 しみじみとしたつぶやきと共に散弾を放ち、宇宙船の二隻をまとめて打ち据える。 空中で痛撃を受けた一隻が、ふらつきながらも軌道を修正し、ソラへと突撃を敢行する。腹部に一撃を受け、弾かれるソラと入れ替わりに踏み込んだあばたが、 「わたしが好きなのは、決定された未来であって。『チャンス』に『賭ける』など、本来は性に合いませぬ。しかし、最も高い成功率を弾き出す手段が、それだというならば……致し方なし」 殺意を込めた怜悧なる弾丸が、シャトルワースをかばう宇宙船の一隻、そのコクピットらしき部位を撃ち抜き、撃墜した。 「……クソのようなオール・イン。この勝負、勝たせていただきます」 ぴしり、ぱしりと凍りついた船体を軋ませながら、最後の宇宙船がベルカへ一条の光線を放つが、ベルカは獣めいた挙動を発揮してこれを避け。 同時に飛び出した青と秋火が繰り出した斬撃が、絡み合うような軌跡を描き。青の五重残像が光と共にシャトルワースを切り裂き、秋火は音を置き去りにするほどの神速の追撃を刻み込む。 更に過ぎ去った十数秒。 残された、時間は。 ●回帰への光 ベルカの双眸が、闇夜に煌く月明かりのごとくに輝き。凍てつく凶眼が、子供めいたちっぽけな宇宙船の船体、その真芯を撃ち抜き。 「……同志秋火! 叩き落せッ!!」 「ああっ! 想い焦がれて、でも、その手は届かない……そんな辛さに苛まれているのは、君だけじゃないさ、ボクだって……ッ!!」 跳躍。宙を背負いながら、秋火の手は、瞬間、淀むことなく翻り。彼女が地へと降り立つまでに、最後の宇宙船はばらばらとなって刻み分けられ……男へ、覚めやらぬ少年の夢想、その終焉を告げた。 バーナード・シャトルワース。 しかし彼は。その手に一度掴みかけた、あのソラへと再び還ることを諦めようとはせず。 「間に合うか……!?」 かすかにその頬へ焦燥の汗を伝わせる、喜平の目の前で。 外殻に走った亀裂。多層構造の繊維の表層の裂け目。バイザーのひび割れ。露出した部位、その内部の至るところから、紫電を伴う強烈な光が漏れ出し……今にも弾け飛びそうなまでに膨れ上がっていく。 リベリスタたちに見て取れる、その、残り時間。 およそ、10秒。 「出し惜しみなしで、いかせてもらうわ!」 残り9秒。雷が走り。 「貴様の還るべきは、宇宙などでは……ないッ!!」 残り8秒。凍りつく視線の槍が射抜き。 「その夢や、想いごと……イタダキマスっ」 残り7秒。 「さぁ、ソラへ帰れ……想い焦がれ、恋焦がれた漆黒の宇宙へッ!!」 6秒。 「夢は、叶わなければただ、終わるものだよ。縋るものじゃあない……」 5。 「極小規模の宇宙創成とか、死ぬから! 跡形もなくなるから! 退避ー!!」 4。 「宇宙(ソラ)は我々を容易に受け入れてはくれない、だからこそ……我々は……!!」 3。 光が、弾け。 「………………自己満足、かもしれない。でも。あなたはボクが、きっと宇宙へ還します。だから、今は」 横様に振り抜かれた大鎌が、背負った生命維持装置を両断し、破壊した瞬間。 金色のバイザーが、まばゆい光片を撒き散らしながら、ぴしりと。 砕けて、散った。 ●望み 目も開けていられないほどの光の奔流が、無への回帰を果たそうとするかのように収縮し、消え去った……その後に。 バーナード・シャトルワースは、仰向けに床のタイルの上へと、静かにその身を横たえていた。着込んだ宇宙服は、破れ、ひしゃげ、折れ。半ばほどが割れ落ちたバイザーの中で、力ない光を宿す、その瞳。 わななきながら開く唇へ、傍らに跪いたガガーリンが耳を近づけるが、そこから言葉が紡がれることは無く。ガガーリンはただ、彼へ、近しきチームメイトへ、一つ……深く、頷く。 旅立つ男を見送り、真咲は、 (……ゴチソウサマ) 心の中で、ちろり、と舌を出した。 天上に瞬く星たちへ、秋火は目を細める。 肉体から解放された男は、その想いを叶えたのだろうか? あるべきところへ、還ることができたのだろうか? 「ソラソラソラソラって、何だか居心地が悪かったけれど。……まぁ、このくらいは、ね」 「ええ、同志ソラ先生。しかし、思い入れのある品だ、本人は離したくないと言うかもしれないが……すまないな、許せよ」 ソラとベルカは、共にシャトルワースの破壊された宇宙服を脱がせてやり。 「アークがこれをどう処分するかには、興味がありますしね。後は私にお任せを」 真っ白なシーツをかけてやる二人の横で、あばたが言う。アーティファクトは、帰還後、彼女がアークへと届けることになった。 青は、息を引き取ったシャトルワースの髪をほんの少し切り取ると、大切にそれを布で包み込み、胸へと収める。後で、シャトルワースの属していた宇宙開発機構へ、エアメールでそれを送るつもりだった。そして……青は、伝えるつもりだった。彼が、いかに宇宙を愛していたか。どれほどに夢見ながら、死んでいったか。 それは、革醒者としてではなく、あくまで一人の人間としての、青の挑戦だった。読んではもらえないかもしれない、捨てられてしまうかもしれない。それでも。 それでも、ボクたちが血を流しながら護る、この世界が持っているはずの、善意を……ボクは、信じたい。 掲げた喜平の巨銃から、轟く砲音と共に、光の塊が昇ってゆく。 それは喜平の、そしてリベリスタたちなりの、還れなかった男への、せめてもの手向けの炎だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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