● もしかして:河童? 濃緑色の肌の色。背中に背負った亀のような甲羅。長い指には水かきが突いていて、手足、身体はしなやかな筋肉に覆われている。嘴じみた尖った唇に、頭のてっぺんに皿のようなものが乗っている。 鋭い瞳は、獲物を狙う狩人のそれだ。体躯も2メートル近い。プロレスラーのような体つきをしていると言えば分かりやすいだろうか。 そいつは、誰が見ても、どこから見ても、河童であった。 『俺より強いやつはどこにいる?』 低く、よく響く声だ。 河童は勢いをつけて川から飛び上がる。盛大な水しぶきが上がった。春の日差しが心地いい河川敷で、ふん、と呟いた。 『おかしいな。この世界には、強いやつがいるはずなのだが』 水底に開いたDホールを一瞥し、河童は川沿いに上流へと歩き始める。川の流れはなかなかに速く、幅も狭い。周囲のようすを見渡して、河童は首を傾げる。 『結構な数、妙な力を持った者がいるようだが』 果たして、どこに? 何度も何度も首を傾げて、河童は唸る。ターゲット達の、正確な位置は把握できないようだった。 『おっと……いけない』 ふいに足を止めると、河童は慌てて川に飛び込んだ。数秒後、すぐ近くの道路を高校生の一団が通過する。河川敷は、高校の通学路であるようだ。とすると、彼らは登校中なのだろう。 『彼らは弱い。強いやつにしか用はないのだ』 水面から、顔だけを覗かせて彼は言う。 『見えるぞ……。強者と戦う未来が』 彼の頭に乗った皿が、薄紅色に怪しく光った。 ● 強靭な精神と強靭な肉体 「アザーバイド(アサタロウ)。この世界で言う河童に酷似した外見をしているわ。しかもどうやら[E能力者を探知する能力]と[未来視]の2つを持っているみたいね」 不必要に被害を拡大させるタイプではないみたいだけど、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は呟いた。 それから、アサタロウについて判明している情報を、仲間へ伝える。 「未来を覗ける、と言ってもかなり鮮明に覗けるのはせいぜい数秒先までで、それより先はかなり大雑把にしか覗けないみたい」 未来を覗く能力を発言させているのは、恐らく頭の皿だろう。それに加えて、E能力者を探知する力も持っている。 近くに行けば居場所がばれる。 至近距離からの攻撃なら、未来視で回避することもできるだろう。 それに加えて、プロレスラーじみた体格。 「打たれ強さと、攻撃力の高さが予想されるわ」 強者と戦うことを目的としているため、E能力を持たない一般人などからは姿を隠して行動している様子が伺える。 「できれば生きたままもとの世界に返してあげたい。強制送還にはなるでしょうけどね」 手間が増えるね、と呟いて。 イヴは出撃する仲間達を見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月20日(木)23:10 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 6人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●河童推参 川の流れに逆らって、緑の巨漢が泳いでいる。鋭い眼光、頭の皿、背中には甲羅。太い腕で流れを掻き分け、物凄い速さで上流へと泳いでいく。 アザ―バイド(アサタロウ)。河童である。 『強い奴は、何処にいる?』 低く、太い声でアサタロウは呟いた。 その言葉を聞く者は居ない。 アサタロウは、ただただひたすら上流へと向かう。何者かの気配を感じ、引き寄せられるように。 或いはそれは、本能だったのかもしれない。 より、戦いに適した場所へと向かうという、闘争本能。 そして……。 『見つけた……。お前達の素性に興味はない。我と一戦、交えてもらいたい』 ゆっくりと立ち上がり、アサタロウは両腕を頭の高さに掲げた。すぐにでも戦いに移ることができる体勢だ。すでに戦いの準備は出来ている。 アサタロウの両腕の筋肉が、太く太く、盛り上がった。 ●ウェルカム実力行使 「ふむ戦闘狂と戦うのはこれで何度目だろうな。少しは大人しくしてくれれば良いものを……」 両手の拳銃をゆっくりと持ち上げ『アウィスラパクス』天城 櫻霞(BNE000469)はそう言った。櫻霞の戦意を受けて、アサタロウの表情はさらに鋭く、闘志に満ち溢れたものとなった。 アサタロウの全身に、闘気が漲る。 「可愛くない河童さんに興味はありま……コホン。もとい、色々と残念なので早く送還してしまいましょうっ」 がっくりと肩を落とし、猫耳をぺたんと倒した『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)がそう呟いた。河童と聞いて、もっと可愛い容姿を期待していたのだろう。残念ながら、アサタロウの体躯は、まるでプロレスラーのようだ。 『来い』 アサタロウの一言が、戦闘開始の合図となった。櫻霞は容赦なく銃の引き金を引く。まっすぐに飛び出した弾丸が、アサタロウの頭部へと迫る。狙いは頭部の皿である。アサタロウの皿は、未来予知の能力を有している。それを潰すための、牽制の一射。 飛んできた弾丸を、アサタロウは片手で掴んで受け止めた。 しかし、櫻霞の一射はあくまで牽制。銃声と共に飛び出した『ファッジコラージュ』館伝・永遠(BNE003920)が、懐中時計を眼前に突き出す。 時計から滲みだす黒い霧が、アサタロウの身体を覆い隠していく。霧で出来た黒い箱が、アサタロウを閉じ込める。 『ぬっ……。ぐ』 呻き声をあげるアサタロウ。全身を襲う痛みに顔をしかめながらも、素早く拳を突き出した。正拳突きの風圧が、永遠の胸を撃ち抜いた。 『我の拳は、距離などものともしない』 突風と共に、霞が飛び散る。胸を撃ち抜かれた永遠だが、その足は止まらない。口の端から血を流しつつも、その眼はまっすふアサタロウの皿を狙っている。 「死に物狂いでいらして下さいませ。永遠にとっては痛みは愛。永遠にとって世界の敵は恋のお相手でございます」 痛覚遮断によって痛みを感じていないのだろう。歪んだ愛情をその胸に、永遠の執拗な攻撃は留まることを知らない。 『いい度胸だ! 容赦はせんぞ!』 アサタロウの拳が永遠の脇腹を打つ。 永遠の身体が、光の鎧に包まれたのはそれと同時だった。 「え、えーい! きょーこなよろいをふよしますですっ!!」 杖を振りあげ、そう叫んだのは『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)である。杖の先から溢れた光が、永遠の身体を覆ったのだ。反射の性能を備えた光の鎧が、アサタロウにダメージを返す。 『遅れたか……。だが、見えるぞ』 口端から血を流しながら、アサタロウは素早く水中に逃げこんだ。先ほどまでアサタロウのいた位置を、黒い鎖の束が通過していく。 「ちっ……。あたしの詠唱の速度には追い付けないと思ったのに~」 悔しそうな顔で水面を叩くのは『六芒星の魔術師』六城 雛乃(BNE004267)だった。素早く視線を巡らせて、水中に逃げたアサタロウを探す。 次の瞬間、雛乃の真下からアサタロウが飛び出して来た。素早く、そして鋭く突き出された掌が雛乃の腹を叩く。 「う、っぐ」 『手を抜いて勝てる相手ではないようなのでな。遠慮はせんぞ』 二発、三発と連続して叩きこまれる掌打が、雛乃の身体を空中へと叩き上げる。追い打ちをかけるべく、アサタロウが跳んだ。 「あたしがガッツリと相手してあげる!」 雛乃とアサタロウの間に、五十川 夜桜(BNE004729)が飛び込んだ。剣を突き出し、アサタロウの拳を受け止めた。 衝撃が、夜桜の身体を突き抜ける。バランスを崩した夜桜が、川へと落下。濁流に飲み込まれ、姿を消した。 櫻霞の放った弾丸を、甲羅で受け止めると、アサタロウはそのまま川へと飛び込んだ。どうやら夜桜を追っていったらしい。 「愛いとか愛らしいとは無縁の河童さんですぅ」 アサタロウを追って、矢が飛んだ。櫻子が放った矢が水中へと飛びこむ。アサタロウの動きを阻害するための一射だが、アサタロウには読まれていたようで、水中から伸びた太い腕が、櫻子の矢を掴みとった。 その隙に、テテロが夜桜を川から助け出す。 「げほ……」 飲み込んだ水を吐きだす夜桜の背を、テテロが擦る。テテロの手には、淡い燐光が宿っていた。夜桜の全身を光の鎧が覆っていく。 『どうやら……一筋縄ではいかないようだ』 水面に頭だけ出して、アサタロウは言う。 6対1。数の不利など、気にならないのだろう。アサタロウの戦意は益々燃え上がっているようだ。 アサタロウの脚が、水面に叩きつけられた。水面が激しく波打ち、周囲に衝撃波を撒き散らす。 立ち上がった水柱が、櫻霞や櫻子の攻撃を打ち消した。 水柱を突き破って、アサタロウが飛び出した。迎え撃つのは、永遠だ。懐中時計から溢れる黒い霧が、アサタロウを襲う。 しかし、アサタロウの未来予知はその攻撃を読んでいた。片腕を振って、霧を薙ぎ払うと、擦れ違い様に永遠の胴へと拳を叩きこんだ。 吹き飛ばされた永遠を、雛乃が受け止める。 2人を護るように、夜桜が前へ。テテロから付与された光の鎧が、夜桜の全身を包み込んでいる。 先ほど、反射ダメージを受けたばかりのアサタロウは、それを見て一瞬躊躇した。 「ミミミルノのちょっかんがぴぴーん! ときたのですっ」 テテロが飛び跳ねる。超直感で何かを感じ取ったのだろう。シンクロによって、テテロの思考を理解した櫻霞と櫻子が、銃弾と矢を放つ。 2発の弾丸と1本の矢は、まっすぐアサタロウの皿へと突き進む。回避行動に移るアサタロウの進路を、黒鎖の束が塞いだ。 アサタロウの視線が、杖を掲げた雛乃を捉えた。雛乃が笑う。アサタロウもつられて笑った。 弾丸を右腕で、矢を左腕で受け止める。 『一手、足りないか』 アサタロウの頭上に、夜桜が飛んだ。叩きつけるように振り下ろされた剣が、アサタロウの皿を割る。額から血を流すアサタロウだが、闘志は失っていない。 カウンター気味に放たれた拳が、夜桜の頬にめり込んだ。 吹き飛ばされ、岩にぶつかる夜桜と、それを助けに駆けていく櫻子。追い打ちをかける余裕はアサタロウには無い。体勢を立て直すべく、水中へと飛び込んだ。 次にアサタロウが姿を現したのは、リベリスタ達よりも上流。小さな滝の真下だった。川幅は狭く、アサタロウの左右には、高い岩壁がある。 逃げ道はない。 それと同時に、アサタロウへ攻撃を加えられるのも正面からのみだ。 「大人しく蜂の巣になっておけ、次に眼が覚めた頃には終わってる」 水上を飛ぶ櫻霞が、両手の銃をアサタロウへ向けた。引き金を引くと同時に、無数の弾丸が一斉に掃射される。まるで蜂の群れのような弾丸の嵐が、アサタロウを襲う。 『来い!』 未来予知を封じられたアサタロウのとった戦法は、自身へ向かう攻撃の方向を、一方向からに限定する、というものであった。この位置を狙えるのは正面からのみ。アサタロウ自身も逃げ道はないが、元より正面からの戦闘は望むところ。 力試しにはもってこいだと考えているようだ。 アサタロウは、片足を高く振りあげた。弾丸の嵐が当たる寸前、高く上げた足を水面に叩きつける。衝撃波が発生し、弾丸を食い止めた。 完全に防ぐことはできなかったようで、弾丸のうち何発かはアサタロウに命中する。 弾丸の嵐に紛れ、夜桜と永遠が飛んでいた。水飛沫を上げながらアサタロウに急接近。黒い霧が、永遠の持つ懐中時計から溢れだした。 「その体とその種族……河童というのはあまりマッチ致しませんね。河童なのにプロレスラー見たいな体型をなさっていて残念でございます」 残念だ、と溜め息を零す。永遠と夜桜の突撃を、アサタロウは正面から受け止めるつもりだろう。アサタロウは、鍛え上げた筋肉と、それに由来するタフネスを有する。 それ故に、難儀しているのだが。 「さーて、あたしの強さはキミのお眼鏡にかなうのかな?」 永遠に次いで、夜桜が疾駆する。大上段に振りあげた剣が、ギラリと怪しい光を放った。夜桜のオーラが剣に集中する。自身にしろ、相手にしろ、防御など無視した最大火力の斬撃を放つための姿勢である。 正面から受け止めるのは危険だと判断したのだろう。未来予知はなくとも、E能力者を探知する天性の勘は健在だ。 永遠の霧がアサタロウの腕に纏わりついた。激痛が走る。皮膚が裂け、流れた血が川の水を赤く汚した。浸食してくる霧を無視して、アサタロウは拳を引いた。 直後、裂帛の気合と共に正拳突きが放たれる。巻き起こる暴風。衝撃波が放たれた。衝撃は、夜桜の胸を打ち抜いたようだ。貫通する正拳突きは、夜桜に次いで、永遠を打つ。 水面が波打った。直後、2人の身体が川へと落ちる。盛大な水飛沫が上がる中、2人を護るべく雛乃が飛び出した。 雛乃だけではない。 「すぐにかいふくしますですっ!」 「痛みを癒し……その枷を外しましょう……」 即座に、テテロと櫻子が回復へと回る。飛び散る燐光が、傷ついた仲間を癒していく。水面を舞う光の粒子は、まるで蛍のようにも見える。 『美しい光景だ』 アサタロウは、思わず一言そう呟いた。 彼の視線が、光へ向いたその一瞬の隙をついて、雛乃は魔方陣を展開。溢れだす黒い鎖が、水面を走る。アサタロウは、拳を振って、鎖を束を薙ぎ払う。千切れた鎖は、元の血に戻って、川の水を汚した。 だが……。 『ぐっ』 アサタロウが呻き声を上げる。先ほど、永遠と夜桜を迎撃した際のダメージと疲労が蓄積しているのか、彼の動作が鈍る。 鎖が、アサタロウの全身に巻き付き、その動きを封じ込めた。 全身の筋肉に力を入れ、アサタロウは鎖を引き千切ろうともがく。 「させません」 櫻霞を抱えあげ、櫻子が飛んだ。 アサタロウが鎖を引き千切り、貫通する正拳突きを放った。衝撃が櫻子を打ち抜くと同時に、彼女は櫻霞を投げていた。 落下していく櫻子を、永遠と夜桜が受け止める。 投げ飛ばされた櫻霞は、そのままアサタロウの眼前へと飛んだ。 「まったく、慣れない前衛なんてやるもんじゃないな」 銃口を、アサタロウの額に押しつけそう言った。冷たい視線がアサタロウを射抜く。数秒の沈黙。 やがて、アサタロウはゆっくりと手を降ろし、溜め息を吐いた。 『降参だ……。好きにしろ』 正々堂々戦った結果の敗北である。 アサタロウの表情は、どこか清々しげなものだった。 ●武闘家の帰還 『強い奴を探しに来たが……負けてしまった。複数相手でも相手取れると、自惚れていたようだ』 砂利の上に座り込み、アサタロウは唸るようにそう言った。戦闘で負った傷は、すでにテテロによって治療されている。 戦いに負けた上に、情けまでかけられたアサタロウは、初めのうちこそどうしようもないくらいに落ち込んでいたが、やがて考えを改めたのか、感謝の言葉と共に、まだまだ修行を続けられる、とそう言ったのだ。 元の世界へ帰った後も、また何処かの誰かに勝負を挑みに旅立つつもりかもしれない。 傍迷惑な奴だ、と思いながらも、リベリスタ達はアサタロウを送り返す事に決めた。 無意味な殺生は、望むところではないのである。 「とりあえず……食べる?」 持参していたきゅうりを、アサタロウへと渡す雛乃。それを受け取り、アサタロウは深く頭を垂れた。先ほどから、アサタロウの態度は殊勝なものである。 『迷惑をかけた……。またいつか、手合わせ願いたい』 そう言い残し、アサタロウはDホールを潜って、元の世界へと帰って行った。 「そのうち本当に帰れなくなるぞ、全く困った来訪者だ」 櫻霞は言う。アサタロウの姿は既に見えない。 アサタロウを見送って、永遠と櫻子はがっくりと肩を落として、項垂れた。 「もう少しマルマルとした可愛い感じでございましたら永遠だってこんな事……!」 「次に出てくるならもっと可愛い河童さんがいいですぅ」 しょんぼりと落ち込んだ様子の櫻子を、櫻霞はそっと撫でていた。 そんな2人を、テテロと夜桜が興味深そうに観察している。 なにはともあれ……。 傍迷惑な河童の送還は、これで完了だ。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|