●エリューション 『敵エリューションの数は五体』 『蜘蛛型のエリューションビーストが四体と、それを使役する女性型ノーフェイス。Eビーストがフェーズ1で、ノーフェイスがフェーズ2』 フォーチュナが告げたエリューション事件。歴戦のリベリスタが向かい事件はすぐに沈静化すると思われていた。 だが、彼らは予想外の苦戦を強いられることになった。 「これでどうだ!」 「くっくっく。悪くない一撃じゃ。これで三回目の死亡じゃな」 マグメイガスの放つ一撃が、ノーフェイスの胸を穿つ。確かな手ごたえ、そして確かなダメージ。 だがノーフェイスは、その傷を受けて立ち上がる。開いた傷口を塞ぐのは体内から沸いて出た蟲。傷口を縫うように糸で縫合し、ヒルのような蟲が肉となって体を埋める。 「超再生能力か!? だったら!」 デュランダルが振り下ろす全力の一撃。傷の回復を妨げる切り口が、確かに入った。これなら―― 「やったか!?」 「無駄じゃ。何度でも蘇るぞ」 「馬鹿な! 確かにエリューションは、神秘は世の理を超える存在だが……!」 このリベリスタチームは多くの事件を解決してきた。神秘の何たるかに触れ、多くの常識外の存在に触れてきた。だが、 「不死身の存在などありえない!」 ●リベリスタ 「Eアンデッドとは確かに言うが、デッドがない者は存在しない。あれは『死体が動くエリューション』だからな」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、説明を開始する。 伸暁の言うとおり、終わりが存在しない者はない。圧倒的な強さを持つ存在であっても、死は訪れるのだ。そして死人は蘇らない。かつて日本を襲ったネクロマンサーであっても、死体を操るだけであって死の境界線を越えることはできない。 「じゃああのノーフェイスはどうなんだ?」 「わからん」 モニターに写る存在。それは確かに『不死身』といってもいい存在だった。ダメージを受けないわけではない。だがどれだけダメージを与えても体内の蟲が傷を繋ぎ、埋めていくのだ。腕を吹き飛ばしても、首を裂いてもなお死なない。 「何らかのトリックはあるのだろうが、今のところ不明だ。だが時間をかければ『万華鏡』もその正体を掴むことはできるだろう」 なんだよかった、と安堵するリベリスタの心は、モニターに映し出された次の映像で戦慄に染まる。 そこはどこかの洞窟なのだろう。多くの人間が繭に包まれ、ノーフェイスの体からはいでる虫たちの養分になっている未来映像だった。 「この戦いの後、このノーフェイスは町を襲い多くの人間を誘拐する。目的は虫たちの餌にするといったところだろうな。こうなればさらに力を増す。おそらくだが、不死性も」 「『万華鏡』は間に合わないのか!?」 「もう数時間は掛かるだろうな。少なくともここで待機していたら移動時間の関係で間に合わない。 そこでお前達、今から現場に言ってあの蟲使いの相手をしてくれ。『万華鏡』の情報が入り次第連絡する」 む。リベリスタたちは初めてのケースに一瞬すくむ。不完全な情報は海外での戦いで経験済みだが、一番知らなければならない情報が隠されているというのは厄介だ。不死の謎を解かねば、勝ち目はない。 「幸いなことにダメージを与えることは可能だ。強さ自体も現状フェーズ2の領域を超えることはない。『死なない』以外はエリューションの特性だ」 「その一点が厄介なんだがな」 リベリスタは嘆息して頭をひねる。 完全に防御に徹して『万華鏡』からの情報を待つのもいいだろう。あるいは敢えて攻撃し何かの情報の断片を探る手法もある。神秘の術を使って直接調べるのもいい。 どうあれ最悪の手法は分かってる。このまま放置し、エリューションに力を与えることだ。自分たちは安全圏にいて多くの人間を犠牲にする。これができるなら今ここでブリーフィングルームから逃げ出している。 急いで荷物を纏め、リベリスタたちは現場に向かった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月21日(金)23:24 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 「桜庭さんはなんだか不死身みたいな状態なんですね。その仕組みを解明しないことには打つ手なしですか」 『純情可憐フルメタルエンジェル』鋼・輪(BNE003899)は喪服を着た女性を目にしながら、ナイフを手にする。もっとも虫大好きな輪の興味はノーフェイスの不死性よりも周りにいる蜘蛛とノーフェイス自身の能力にあった。 「不死身、ねぇ」 巨大な斧を肩に担ぎ、ランディ・益母(BNE001403)が口を開く。不死身が事実かどうかはともかく、何度も殺さなくてはいけないことは確かだ。その謎を解明しない限り、こちらの勝ちはない。『万華鏡』に頼るのもいいが、こちらでも情報を仕入れたほうがいいだろう。 「不死身、不死身なァ……面白いじゃねェか」 顎をさすりながら『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)が歩を進める。無銘の刀を手にゆらゆらと。本当に何度殺しても死なないのなら、それはそれで面白い。そう言いたげな笑みを浮かべる。 「不死身、ですか……」 思案するように『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が口を開く。先行部隊が四度殺し、さらに『万華鏡』の予測ではさらに三度必要だという。それだけの生命力を誇るエリューションは、類を見ない。 「この世界において完全な不死は存在しない。何れの強者においてもその不死には理由があったのだから」 今までの激戦を思い出しながら『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が破界器を握り締める。そんな者たちに勝利したアークなのだ。希望はある。それには今を凌がなければならないのだが。 「その秘密を解き明かさねばやっかない事となるだろう」 グローブ型の破界器を手に填めながら『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)がノーフェイスを睨む。これは何かの前兆なのだろうか、と思いながら今は目の前の相手に意識を集中する。 「死にたくないとは思うけど、不死になりたいとは思わないわね」 白衣の襟を直しながら『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)が億劫そうに口を開く。彼女はそれほど好戦的にはなれない。不死の秘密を早く解明し、トドメを刺して終わりにしたい。 「少なくとも小説なんかに出てくる不死者は、それをポジティブに捉えてる人は少ない気がするな」 両手に『ジャマハダル』と呼ばれる特殊な握りをした短剣を持ち、フィティ・フローリー(BNE004826)が不死のノーフェイスを見る。小説などを読むようになったのはこちらの世界に来てからだが、その心境は理解できる。 「ほぅ、これは面白い。じゃが、大凡の見当は付いたのじゃ」 長くを生きる『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)がノーフェイスの不死性に辺りをつける。大まかな憶測がつけば、それを証明するのみ。外れていれば修正すればいい。札を手にして小さく笑みを浮かべる瑠琵。 「始めまして。犬束・うさぎといいます。あなたを倒しにきました」 一礼して自己紹介をする『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)。ノーフェイスは倒すべき相手だ。未来に起こりうる人的被害を考えれば、礼節を尽くす必要はない。だけどうさぎはこのノーフェイスを『害虫』ではなく、『元人間』としてみていた。 「桜庭・葵。些か腹がすいてな。悪いが食事に付き合ってもらうぞ」 ノーフェイスは瞳を細め、笑みを浮かべる。まるで人間のように。その意志を察したように蜘蛛達も動き出す。 「皿の上に乗るのは、おぬしらじゃがな」 場の空気が一気に冷える。その殺気に呼応するようにリベリスタも破界器を構えた。 ● 「『何度でも復活するなら、何度でも殺してやる』なんて言えるほど私は働き者じゃないのよ」 『はたらかないせんせい』ことソラは言いながら最速で動く。誰も味方が接敵していないのを確認し、前に進む。ソードミラージュとはいえソラは基本後衛のリベリスタ。積極的に前に出ることは珍しい。 「体内の虫と一緒に凍てついてしまいなさい」 通り抜け様に桜庭と周りの蜘蛛達を氷霧で包む。圧倒的な速度とソラ自身の魔力が吹雪レベルの風を発生させた。そのまま体勢を立て直し、ソラはもう一度手を振るう。二重の氷霧が桜庭を包み、傷つける。 「いきますよ」 言葉と共に駆けるフィティ。刃に対して直角を向く特殊なナイフ。インドを旅行していた時に見たものを破界器にしたものだ。それを硬く握り締め、凍り付いている小蜘蛛に迫る。走っている速度を殺さぬように、刃を振るう。 右のナイフで払うような一閃。さらに左のナイフが突き出される。両のナイフが繰り出す流れるような連続攻撃。一撃のパワーが劣るなら、小さくても何度も突き立てる。それがフィティの剣武。だが速度の乗った一撃は、確実に蜘蛛を傷つけていく。 「蜘蛛が四匹周りにいるんですね、うーんプリティ」 それだけではなく、新たに生み出すこともできるらしい。それを思って輪は心ときめいていた。そんな個人的な好き嫌いを心の中に秘め……きれてはいないけど、輪は蜘蛛の押さえに向かう。 意識を鋭く、体内のギアを切り替えるように呼吸を整える。体内の反射速度や手足の動きがそれに呼応してスムーズになる。生死をかけた戦いにおいて、コンマ一秒動きが速くなることはそれだけ生存率が高くなる。輪は小さく笑みを浮かべて、蜘蛛にナイフを突き立てた。 「御機嫌よう、蟲使い。申し訳ありませんがこの先は通行止めです」 「戯言か? 道など切り開くものよ」 ミリィの言葉に笑みを浮かべる桜庭。互いに引く気なし。ならば力で押し通すのみ。ミリィが指揮棒を手にして仲間に指示をする。戦場を俯瞰するように見て、仲間達が持ちうる特性を最大限に活かせるように。 神算鬼謀をもって敵に挑み、クェーサーの最奥を行使する。万全の準備を敷いてなお、指揮するミリィは恐怖で足がすくむ。完全なものなどありえない。それは桜庭の不死もそうであり、同時に自分達の勝敗もそうであった。負けるはずはない、と思いながら同時に負けを認めるラインを想定するのが指揮者の務め。 「問題ねぇよ。ドンと構えてな」 ミリィの不安を察したのか、ランディが斧を構える。戦場で不安になるのは当然のことだ。それを払拭する為に、俺達が戦うのだ。背中で後衛に語りながら片刃の小野を振りかぶる。 魔力が渦を巻き、筋肉に力が篭る。不可視の力と、鍛え上げられたランディの体躯が融合する。握り締めた斧の柄を通じて、二つの力が螺旋を描いて凝縮される。その力を叩きつけるように斧を振りかぶった。轟音と共に蜘蛛に叩きつけられる二つの力。 「任務を開始する」 ウラジミールが桜庭の前に立ち、ナイフを構える。注意深く相手を観察しながら、少しずつ距離をつめる。見た目が人間とはいえ、その中身は蟲の巣。わずかな動きが攻撃の予兆となることもある。 桜庭の胸を食い破って百足が現れる。巨大な顎にぬらりとした体液を光らせ、ウラジミールの喉を食い破ろうと迫ってきた。その頭部をナイフで弾き、桜場への距離をつめる。至近距離からの相手への胸部打撃。如何なる距離でも攻撃可能なのが、軍隊格闘技。長年染み付いた動きが、ノーフェイスを揺らす。 「今日、この場で引導をくれてやるのじゃ」 陰陽道を進化させるためにラ・ル・カーナの術を身に着けた瑠琵。意識すると同時にフィアキィが舞い、空から赤く燃える石が降ってくる。高熱と落下エネルギーを持った石は、激しい爆発音と衝撃をあたりに撒き散らす。 これだけの衝撃を与えながら、瑠琵の顔には油断はない。自分の予想が正しいのなら『表面』を焼いても致命傷には至らないからだ。だが肉を削ぐことに意味はある。桜庭の傷口を蛆が塞ぐのを見ながら、再び魔力を練り上げる。 「喪服、色っぽいですね。……どうして着ておられるかお聞きしても?」 「喪に服しておるからじゃよ。今で食らった人間達のな」 桜庭に語りかけながらうさぎは破界器を振るう。うさぎの意識は常に桜庭のほうを向いている。それは『蟲使い』というノーフェイスにではなく、桜庭というパーソナリティにである。 「所で、そもそも貴女の目的ってなんなんです?」 「我が『子』を多く生むことじゃよ。人間を食らって、それを養分として」 うさぎの問いかけに、桜庭も快く答えてくれる。存外お喋りが好きなのか。そんな彼女の性格を感じ、しかしうさぎの動きは変わらない。むしろ『倒すべき人間』をイメージできて、その攻めが加速する。 「そのようなことはさせません」 槍を構えたユーディスが、蜘蛛と交戦しながら決意の言葉を示す。ユーディスの放つ温かい光が、虫達が刻んだ猛毒を打ち払う。それを厄介に思った蜘蛛が糸を放ちユーディスを捕らえようとするが、槍の一閃でその拘束を切り払う。 「言葉は通じるようですね……」 うさぎとの会話を見ながら、ユーディスは驚きの声を上げる。ノーフェイスである以上、会話が可能なのは理解できる。ならば弱点もそれに準じるのでは? 例えば頭部や心臓。そこを狙えば撃破は可能なのかもしれない。 「死なねェってんなら何か有る訳だ。どんなもんかは、まァ殺してみりゃあ分かるよなァ」 逆に銀次は思考よりもまず行動だ。桜庭の真正面に立ち、軽く脱力する。ゆらゆら揺れる様はまるで柳の枝のよう。弛緩して揺れる銀次の体が、突然消える。そのまま桜庭の後ろから迫り、不意の一撃を食らわせる。 殺った。銀次は手の平から伝わる斬った感覚に笑みを浮かべる。しかしその顔はすぐに舌打ちで元に戻る。ダメージは確かに与えている。だが、それを埋めるように蛆がわき、雲が傷口を縫い合わせていく。 「本当に死なねぇなぁ! めんどくせぇ」 「問題ない。今は『万華鏡』の連絡が来るまで時間を稼ぐ時だ」 猛る銀次を、ウラジミールが静かに制する。他のものの心情も、似たようなものだった。 死なぬ虫使いに対する焦りと疲れ。 そして、今まで幾度となく自分達をサポートしてきた『万華鏡』への信頼。 そのウェイトはそれぞれだが、楽な戦いではない。同時に、絶望にまみれた戦いでもない。 希望はある。そう信じてリベリスタたちは破界器を構えた。 「いい眼じゃ。その光を持ったまま食らえば、さぞ美味じゃろうて」 ノーフェイスは嗤う。人を養分としか思っていない。そんな笑みだ。 蟲の羽音は、いまだに止まることなく続いている。 ● アークの戦闘経験は高い。そして集まったリベリスタの瞬間最大火力は、桜庭の再生能力をはるかに凌いでいた。 「これでどうだ!」 刀の柄による銀次の殴打が桜庭の頭部を穿つ。骨を通して、確実に衝撃は桜庭の体内に届いた。いくらノーフェイスとはいえ致命傷だ。だが、 「効いたぞ。だがまだ死なぬよ」 「同じヤツを何度も殺すってのは始めての経験だなァ? さァて、何度殺せば死ぬんだい?」 「さてな。死んだことがないから分からぬわ」 笑みを浮かべる桜庭。斬っても死なず、殴っても死なない。銀次は五感を研ぎ澄まし桜庭を観察するが、違和感は感じられない。 ……いや、違和感だらけなのだ。多種多様の蟲による匂い。羽音。そして体内を這う蟲の気配。五感で差異を見つけるには、情報が多すぎる。 「再生は死に難いだけでおって許容量を超えれば死ぬ。そうでなければ元々命が、無い?」 「無礼じゃな。確かにわらわは生きておるぞ。なんなら心臓の鼓動でも聞いてみるかえ?」 蜘蛛を片付け、ランディが別の蜘蛛に向かう。桜庭が再生するときの蟲の音を聞きながら、そのおぞましさに一瞬総毛立つ。リベリスタが運命を燃やして蘇るように、本当に蘇ってくるのだ。 「無限機関みたいな何かなんでしょうかね」 輪が自分に当てはめて、意見を口にする。だが自分の中で脈打つ機関と、目の前の虫とでは大きく異なる。輪としてはあっちのほうにあこがれるなぁ。ぶよぶよしたところとか節々とかざらざらしたところとかぬめぬめしたりとか。うへへ。 我に返って子蜘蛛にナイフを振るう輪。ナイフの軌跡に光が走り、蜘蛛の皮膚を切り裂いていく。 「絶対に何かあるはず。その何かを見つけないと」 ソラは脳内の魔術知識を総動員し、桜庭を見る。傷の治り具合、様々な呪いのかかり具合、そして死亡からの復活……魔術的な要素が関わっているのなら、ソラの知識に必ず引っかかる。 その結論は『分からない』だった。それは逆に言えば、アーティファクトなどの魔術要因ではないということだ。魔力の流動は何一つ見られない。ソラの魔術知識は、アークの中でも高い。その彼女が見つけられないのなら、魔術的な要素はないと見ていいだろう。 「どのような仕掛けであれ、倒すには違いないがな」 ウラジミールが相手の真正面に立ち、ナイフを突き立てる。鋭い一撃に、桜庭の肩を貫く感覚。全く人間と変わらない手ごたえ。再生を行う蛆は、一糸乱れぬ動きで傷を癒している。 「それができぬから、おぬしらは苦労しておるのじゃろう」 帰って繰る桜庭の言葉。ウラジミールはこのノーフェイスが虫に操られているのではないかと懸念していた。だがそうではない。明らかにこのノーフェイスは自分の意志がある。 「どの様な状態においても体内の蟲が傷を埋める……ですか」 ミリィが桜庭の再生能力を見ながら思案に耽る。確かに火力で圧倒はできる。だが、殺せない。死ぬほどの傷になっても、再生するのだ。『万華鏡』で聞いていた情報だが、実際に目の前でやられてしまうと、その厄介さに頭を抱えてしまう。 「肉体を何度壊しても再生するのであれば何らかの核が存在しており、其れが肉体の欠損を再生する様に命令していると考えたほうが妥当ですが……」 「良い推測じゃな。褒美にいい物を見せてやろう」 ミリィの言葉に桜庭は自分の胸部を裂く。心臓の位置に取り付く多足の昆虫。その蟲と瞳が合う。 「『心蟲』と名づけた。死の間際に心臓に刺激を与え、蘇らせるものじゃ」 裂いた傷口はすぐに塞がる。心臓についた虫も隠れて消えていった。 「心臓。なるほど人体の構造と大きく逸脱していないということですか」 ならば心臓とその蟲を貫けば殺せる。ユーディスはそこまで思考し、そして止まる。あの再生力を突破して心臓を貫く。それが可能なのか。アハトアハトの様な超火力ならそれは為しえるのだろうが……。 「……いや違う。嘘は言っておらんが、全てではなかろう。そも、自ら不死の手の内を明かすあたり妖しいものじゃ」 瑠琵は桜庭の言葉に訝しげな表情を浮かべる。 「確かに心臓が動くなら幾ら壊しても蟲を集め直せば直る。じゃが何度も壊せば蟲が足りなくなり歪になる。蟲の無貌が数多の蟲を操り血肉と化しておると思っておったが……奴から削ぎ落とした肉片は肉のままか」 瑠琵は地面に落ちた桜庭の血肉を見て、自らの仮説を棄却する。推測は間違いではないだろう。ではどういうからくりか。 「ええ。体内で大量に飼育している蟲が身体を再生する。その理屈は別におかしくない。だが、それだけなら単に蟲達のリソースが尽きるまで殺せば良い筈」 うさぎが桜庭を見ながら言葉を紡ぐ。桜庭そのものを凝視するのではなく、わずかに焦点をずらしてその周りを観察するように。 「だから問題は、その蟲達がどうも無尽蔵であるらしい事。見抜くべきは、そこじゃないでしょうか」 うさぎの視線は桜庭の足元に向かう。 思えば、醜悪で目を引く子蜘蛛や、不死を見せ付けるような尊大な態度。心臓の蟲を見せ付けるなど、桜庭の行動は視線を自分に集めるものだった。 それは己の不死性に対する自信と取れなくもないが、それが不死の秘密から目を逸らさせる為だとすれば? 「足元から蟲が!」 うさぎの視線を追いかけたフィティが、土から頭を出した幼虫を見つける。それは桜庭の足を食い破って体内に入っていく。 「蟲の補充。それが無限の再生力の……不死のからくりか」 「正解じゃ。わらわの『巣』から生まれた幼虫じゃよ。『巣』から地中を渡り、わらわの元にやってくる。数度『殺された』程度では潰えぬぞ」 ランディの問いかけに、あっさりと肯定する桜庭。幼虫の謎を解かれたぐらいでは桜庭は動じないということか。 「なるほどのぅ。蟲に傷を塞がせておいて、ノーフェイスの肉体変化で皮膚をかぶせたということか。そしてその蟲は『巣』からくる地中を伝って補充する。無貌の者ならではの芸当じゃのぅ」 瑠琵が桜庭の再生プロセスを看破する。正解、とばかりに笑みを浮かべるノーフェイス。 「つまりその『巣』を見つければいいわけね」 「ふん。人間ごときに探れるものか」 「なら『神の目』ならどうだろうな?」 リベリスタの言葉に怪訝な目をする桜庭。高精度の未来予知が存在するなど、知りようもない。 リベリスタの瞳にはっきりと希望が見えた。破界器を握り締め、ノーフェイスに突きつける。 ● 「カッカッカ! タネがバレりゃたいしたことねぇな。てめぇをここで足止めして、巣を叩けばいいわけだ!」 銀次が無銘の刀を振るう。型のない自己流の剣術。荒々しくあるが、実戦で磨かれた動き。荒波が岩を削るような、豪快な動き。からんと下駄を鳴らして近づいて、相手が間合いに入るや否や刀を振るう。 「三度殺せば町を襲わなくなることは分かっています」 ミリィが『万華鏡』の情報を思い出しながら、仲間に指示をする。もはや子蜘蛛はなく、ノーフェイスを叩くのみ。乱戦において効率よく攻めることができるように指示を出し、ミリィ自身も眼光でその動きを射竦める。 「ええ。町を襲わせるわけにはいきません」 ユーディスの槍が回転し、ノーフェイスの胸元から出る百足を弾き返す。誰かを守るための戦いは、彼女の最も得意とすることでもあり、最も求めている戦いだ。父母の気高く、そして尊い背中を思い出す。 「はい。街に行かれると蟲の幼虫さんを沢山産みそううですし」 フィティが腕を交差させ、真正面からノーフェイスに切りかかる。『万華鏡』で見た予知。多くの人が繭にくるまれ、ノーフェイスの蟲の養分となる悲劇。そうなれば桜庭を倒すことはさらに困難になるだろう。 「でもたいした『擬態』ですね。さすがは虫さんです!」 輪が桜庭を中心に円を描くようにステップを踏む。残像がノーフェイスを幻惑し、残像の一つがわき腹に切りかかる。ノーフェイスの指先から生えた針がその動きを捕らえ……残像は虚空に消える。輪はその隙をついて、真正面から切りかかった。 「油断をするな。不死でなくとも戦士級のノーフェイスだ」 常に桜庭の真正面に立つように闘うウラジミール。蟲の毒も、糸も、すべて不屈の精神で振り払う。この程度の痛みはいままで経験してきた戦場に比べればたいしたことはない。手に馴染むナイフが、蟲の猛攻を受け流していく。 「そうですね。彼女は思考し、考え、そして騙す女性です。さらに奥の手があってもおかしくありません」 うさぎがいままでの会話から、この『人間』の性格を組み立てる。不死の秘密を隠すために、敢えて不死性をアピールして目を引く。大胆なように見えて実に計算高い。だから殺そう。『桜庭・葵』という一個人を。 「策があった所で、この場での雌雄は決したも同然じゃ」 瑠琵が異世界の術を解き放ち、仲間達の体力と気力を癒していく。火力も手数も回復力もリベリスタが勝っている。それでも不死である桜庭をこの場で滅することはできないが。だがこの差を盛り返す策があるなら、いま使っているはずだ。 「この場では、ね。少なくとももう一戦しなくちゃいけないわけだけど」 ソラが魔法陣を展開し、音を響かせる。それは祝福された音。天上の鐘を思わせる清らかな音。音が体に染み渡る。皮膚に、筋肉に、骨に、神経に。染み入る音は血管を巡って体内を駆け巡り、優しく体を癒していく。 「そういうわけでな。悪いがここで倒れてな!」 ランディが『グレイヴディガー・ドライ』を振りかぶる。瘴気を纏った赤黒い刀身。大上段に振り上げた斧に集う二極の力。それは砲弾の如く真っ直ぐに桜庭に叩きつけられる。 「オマエはここで倒れてろ!」 圧倒的な質量がノーフェイスを吹き飛ばす。『墓掘り』と呼ばれる斧が三度目の『死』を蟲使いに告げた。 ● 『生きてるかお前ら。たった今『万華鏡』の予知が入った。マジックのタネはばれてしまえば何のことはないものだったよ。実は――』 「『別の場所から失った蟲を供給する』」 幻想纏いから入ったフォーチュナの通信。それを先取りして、リベリスタが答えた。口笛の後にフォーチュナが言葉を続けた。 『エクセレント。ホットな情報はやはり現地に行かないといけないということだな。 いまから回復班をそちらに向かわせる。悪いが十分な休みはくれてやれそうにない。連戦になるがやれるか?』 フォーチュナの言葉にリベリスタは気を引き締める。それはこのノーフェイスの『巣』を破壊するには、何らかの障害があるということだ。 「くっくっく。させぬよ」 吹き飛ばされて体中がボロボロのノーフェイスは、地に伏したままの状態だが『蘇って』いる。あれだけやってもまだ死なない。徹底的に潰せば時間はかなり稼げるだろうが、それをすれば『巣』を襲撃するだけの余力が残るかどうか。 どの道『巣』を叩けばノーフェイスの不死は消える。ならば叩くべきはノーフェイスではなく、『巣』のほうだ。『万華鏡』はこのダメージだと桜庭は街に向かわないと予知している。 リベリスタたちは急ぎ、指定された地点に向かった。 日の当たらぬ蟲の『巣』―― そこを守る蟲の瞳が、鈍く光っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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