●試練の迷宮 「以前から調査に協力頂いているアーティファクトの件で、今回もまた、協力をお願いしたいんです」 集まったリベリスタ達に向かって、マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう切り出した。 アーティファクトの名は、試練の迷宮。 試練を望む者を、モンスターやトラップの配置された迷宮へと転移させる修練型のアーティファクトである。 大きさは掌に収まるくらいの立方体で、材質は金属か何かのように見えるが、詳細不明。 これまでの情報から遥か昔、何者かが修練の為に造り出したのではないかと推測されている。 「以前から調査の為に幾人かの方に迷宮に挑んでもらったんですが、今回もそれを基に調査している最中、また別の迷宮が現れたみたいなんです」 今回も直接死亡するような危険は無いようで、負傷等によって動けなくなった者は強制的に迷宮の外へと転移させられるようだ。 「ですので今回も、調査に協力という形で迷宮に挑んで頂きたいんです」 マルガレーテはそう言って、集まっていたリベリスタ達を見回した。 アーティファクトの呼びかけに応じれば、応じた者たちは迷宮の入口へと転移させられる。 入口は門のようになっており、怪我などをしなくてもそこから迷宮を出る事は可能なようだ。 迷宮内は天井や壁、床などは石のように見えるが、戦闘を行っても傷付かない不思議な素材で出来ている。 また、物理的にだけでなく空間そのものも隔てられているようで、壁や天井、床等を透視で見通すことは出来ず、透過しようとしても少し潜る程度のことしかできないようだ。 内部では敵としてモンスターのような存在が複数出現するが、造られた存在で生き物ではないらしい。 生物のような外見や動きをするものはいても、あくまで創造物でありプログラム的な何かで動いているようだ。 ちなみにこれまでの迷宮は、最後の部屋にいるモンスターを撃破する事で試練を乗り越えたと判断されている。 「ですが、今回の迷宮は……部屋とか通路とか、そういったものが存在しない造りになっているんです」 マルガレーテはそう言ってから、今回の迷宮について説明し始めた。 ●ひとつの世界 「今回の迷宮内部は、見た目は地上のような造りをしています」 壁や床は以前と同じで石のような見た目ですが、天井は空のような色をしていて、床から見上げると空のようにも見えるのだと、フォーチュナの少女は説明した。 迷宮内の明かりの方も今回は陽の光のような感じで、しかも時間によって明暗が変化していくようだ。 大体24時間のサイクルで徐々に明るくなった後に暗くなり、完全に光が失われる時間帯もあるらしい。 「時期的には日本の初夏くらいでしょうか? 12時間ほどは充分に明るいですし、その前後2時間くらいは徐々に明るくなったり暗くなっていく、という感じですね」 例えるなら6時から18時まで明るく、4時から6時くらいが明るくなっていき18時から20時くらいで暗くなっていく……そんなイメージだろうか? 「その迷宮内で1日という時間が24時間サイクルで過ぎていくという感じです」 今回の迷宮も正方形をしているが、階層は1つのみで、端から端まで歩こうとすると数日掛かりそうというくらいに広大なのだそうだ。 「加えて、今回の迷宮には壁が迷宮の端、正方形を形作る四辺にしかないみたいなんです」 正方形型で、その内側には壁も扉も1つもない。 壁も無いのだから通路も無い。 逆に、すべてが通路という見方もできるかもしれないが。 とはいえ全く何もないという訳では無い。 「地上のような造りというのは空だけではなくて、床の部分も草や苔が生えて、地面のようになっているんです」 木々なども無数に生えており、さながら森の中という外見に仕上げられているらしい。 もちろん開けている所もあるし、場所によっては川などもあるのだそうだ。 「植物や水なども実物みたいに見えますが、創造されたもののようです」 内部では車等の機械の使用ができなくなるような力が働いているようで、移動手段は限られる形となる。 「草木の生える間隔や川幅などは5m区切りになっているみたいで、その辺りは今迄の迷宮に似ているかもしれません」 そう言う風に綺麗に仕切れるという点を考えても、普通の自然物とは異なる存在と言えるかもしれない。 この広大な迷宮……ある意味では迷宮と呼べる箱庭のような場所の中央に、今回倒すべき巨大樹がそびえているのだそうだ。 「中央から同じ距離で、東西南北にそれぞれ1本ずつ、合計で4本の大木が目印として生えているんですが……」 中央の巨大樹の生える場所は天井が高くなっているが、それ以外の場所の天井の高さは5mなので、周囲が開けていない限りはあまり目印にならないかもしれないとマルガレーテは説明した。 純粋に目印になるのはそれくらいで、あとは森や川の形などで判断するしかないだろう。 本当に地上ならば上空から周囲を見渡すということができるが、地道に探索していかなければならないという点で、これもまた迷宮と呼べる存在といえるのかもしれない。 「皆さんが到着する迷宮の入口も、内部のどの辺りに位置するのかは分かりません」 そこから真っ直ぐに中央を目指しても1日以上は掛かる。 迷ったり場所の特定の為に動き回る事になれば、更に時間を費やす事になりそうだ。 「飲食物や簡単な寝袋、テント等は用意しますので、アクセスファンタズムに入れていって下さい」 そう言ってからフォーチュナの少女は、今回も内部にモンスターような存在が出現するみたいですと話を進めていった。 ●巨大樹と、落とし子たち 「迷宮内部には動物や植物のようなモンスターが存在しています」 それらは全て、ボスである巨大樹が生み出したものなのだとマルガレーテは説明した。 特殊な外見をしたものもいるが、ほとんどは現実に存在する生物に似ているらしい。 「ただ、あくまで別の存在です。加えて、皆さんと戦う事で少しずつ変化していくみたいです」 例えば簡単に倒されるようだと耐久力が上がり、攻撃が全く効かないようだと攻撃力があがる。 回避され続ければ命中させる能力が上昇する。 「全体的な能力には限界があるみたいで、何かが上がればそれだけ他の能力が下がるみたいです。ですので、一概に戦い続けると不利になるという訳ではありませんが……戦い難くなる可能性はあると思われます」 全てに対しての対処法を考えるというのは不可能に近いだろう。 とはいえ全てを避ける事も不可能に近い。 「その辺りの……何て言いますか調整……塩梅、ですか? とにかくその辺が大事になるかと思います」 大まかに分けて、動物のような姿をしたものは内部を徘徊しており、リベリスタたちを発見すると襲ってくる。 植物の姿をしたものは、必要な時には動き回ったりもするものの、基本的には隠れたり普通の植物の真似をしたりして、リベリスタたちが近くを通ると襲ってくるというスタンスのようだ。 「どちらも元から多数が迷宮内部にいますし、巨大樹が生み出し続けているので総数はかなりのものになりますが……迷宮内部が広大ですので、密度はかなり低いようです」 もちろん騒ぎを起こせば集まってくるので、移動や戦闘には充分に注意するべきだろう。 そういった創造物たちに注意しながら中央へとたどり着ければ、今回のボスである巨大樹との戦いとなる。 「巨大樹は目印の大木よりもさらに一回り以上も太くて背の高い、木の姿をしたモンスターのようです」 大小様々……と言っても小さなものでも西瓜よりも大きな、大きなものは中に人が入れるくらい大きな、そんな実を無数に枝から生らせており、その実から動物や植物を生み出して攻撃を行わせるようだ。 「巨大樹自体は直接的な攻撃は行ってきませんが、実を生らせるだけでなく花も咲かせているようで、その花の香で周囲の物を混乱させたり魅了したり、といった攻撃をしかけてくるみたいです」 どちらも直接対象を傷付ける攻撃ではないが、有効範囲内すべての対象を目標にできるようだ。 「混乱を誘う香りは、みなさんが能力を使用する為の力を消耗させる効果もあるようです」 攻撃に対しての耐久力は極めて高いが、防御力は低く、攻撃を回避する能力に関してはほとんど無いと言っていいだろう。 「ただ、絶対者に似た能力を持っているようで、多くの異常を無効化してきます」 さながらこの小さな世界に君臨する、世界樹といったところだろうか? 「巨大樹を倒す事で、みなさんは試練を乗り越えたと認められることになると思います」 今回も調査への協力、お願いします。 マルガレーテはそう言って、集まったリベリスタたちへと頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月29日(木)22:07 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●迷宮の入口 (今回は屋外かぁ) 「……ちょっと不思議な感じ」 目の前に広がる風景を眺めながら、『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)は呟いた。 目の前には草木が生い茂り、頭上の枝の隙間から見える天井はパッと見、空にしか見えない。 雑草や苔に覆われた床は、しっかりと踏みしめなければ地面と勘違いしてしまいそうだ。 そして耳には……鳥や虫の鳴き声らしき音も聞こえてくる。 「VTSみたいだね、それにしても随分広いんだなぁ」 柚木 キリエ(BNE002649)も風景を眺めながら呟いた。 「破界器の迷宮、来る度に捜索範囲が広がって来てるね」 (性能的にも試練的にもどこまで広がるのやら) 四条・理央(BNE000319)も同意するように呟きながら、この世界を創り上げているアーティファクトについて想いを馳せる。 (この迷宮を作った人が気になります……手がかりが望めるものなのでしょうか) 「ううん、まずは目の前の事を!」 浮かんでくる疑問を振り切るようにして、『フロントオペレイター』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)は口にした。 「しっかりサポートします!」 そのままの……少し震えた弱気な雰囲気の漂う声で懸命に、自分に言い聞かせるように彼女は宣言する。 「チャンスがあったら迷宮に入る前でも終わってからでも、アーティファクト徹底的に『見たい』わ」 迷宮に入る前に確認した破界器の事を思い返しながら、『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)は呟いた。 魔術知識を駆使する事で何らかの情報が手に入らないかというのが彼女の考えである。 (たとえば作った人からのメッセージとか?) ほとんどの情報はおそらく此処……迷宮の中に存在しているのだろう。 だがアーティファクトその物について何かが解明できれば……探索以外の手段で情報を得る事ができるかもしれない。 (アーティファクトと言えば『破界者たちの主』を持ってた彼女、物語終はどうしているんだろう?) 耳にした言葉で、ふと依然受けた任務の事を思い出したキリエは……束の間、過去の事件に想いを馳せた。 (会えない方が良いのだろうけど) リベリスタがフィクサードと会うというのは……多くの場合、良い機会ではない。 「平穏に過ごせているのなら、それが一番だしね」 誰に言うでもなくキリエは呟き、思考を現実に引き戻した。 自分たちは試練を乗り越えるべく迷宮の入口に到着したところなのだ。 (『キミはこの先へ進んでもいいし、ここから引き返してもいい』みたいなメッセージが出たりして……) そんな事を考えつつ、智夫は暗視ゴーグルを確認する。 同じようにマリスも用意してきた暗視ゴーグルを準備した。 理央も慣れた様子で持ってきた方眼用紙と筆記具を手にコンパスを確認する。 「ふむ、屋内なのに屋外な迷宮ですか」 呟きながら『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)が辺りを見回した。 (自然も豊かで、自分たちフュリエにとっては心地よい、と思っていたんですけど) 「なんというか不自然な自然で気持ち悪いですねぇ……」 (とりあえず、ボスの巨大樹倒して早く出たいですね) 不思議な風景を眺めながらそう思ったところで、彼女は……あぁでも、と思い悩んだ。 「折角のダンジョンだから探索し尽くしたい欲も……!」 ●箱庭の森 迷宮に入って理央が最初に行ったのは、目標物の捜索だった。 事前に聞いていた大木等の目印が無いかと彼女は周囲を確認する。 セレアは方位磁針を気にしつつ、周囲に生えている木々の姿を観察してみた。 木々の形は全て同じなのか、それとも異なるのか? 同じならば全ては複製された物という事になるが、似ている物はあっても全く同じという草木は存在しないようだった。 それ故に特徴らしい特徴を見出すのが難しいと言えるかも知れない。 移動は勘に頼るしかないだろうか? 理央がそう考えていた時だった。 キリエは四方の壁の位置を調べる為に、音を立ててそれを集音装置で確認するという手段を提案する。 カセットコンロのガス缶を抜いて離れたところへ放り投げ、それをスキルを使用して破壊して……その音がどんな風に跳ね返ってくるかとキリエは意識を集中させた。 正確な判断は難しかった。 空のような天井が実際に天井らしいというのは実感できたものの、それ以外となると周辺の草木によって音がすぐに跳ね返ってきてしまうのである。 それらの跳ね返ってくる音とは異なる複数の音を確認したキリエは、すぐにそれを皆に連絡した。 「今動いた! あそこです!」 イーグルアイを使用していたマリスが何かを確認し、マスターテレパスを用いて伝達する。 理央も視界の隅に動くものを捉え向き直った。 複数の小さな虫……蜂の群れのような何かが、一行に向かって近付いてくる。 その虫達に向けて、キリエは全身から伸ばした気の糸を放った。 続いた智夫が投げつけた閃光弾によって、十数匹が動きを止め地面に落ちる。 残った虫も、セレアの創り出した雷によって薙ぎ払われ全滅し……最初の戦いは、呆気なく終了した。 もっとも、それはあくまで戦いの1つが片付いたというだけである。 近付いてくる他の脅威を避けるべく、6人はすぐに移動を開始した。 ●探索 智夫は隊列の前衛に立って、前方を警戒しながら進んでいた。 動くものがいないか注意し、不審な音等がしないかと耳を澄ます。 生物の姿は見えないが、見通しが悪い森の中である以上、寧ろ油断できない。 待ち伏せして襲う植物型の敵もいると聞いている。 「……なんか行動すれば即死に繋がる、的な展開だけはゴメンですよ?」 (クソゲー反対!) シィンは隊列の中程、不意打ちを受け難い位置で浮遊しながら……そんな事を考えていた。 一応いつでも使えるようにと、エネミースキャンは準備してある。 蜂の群れとの戦い後、一行は動物型の敵との戦闘も経験していた。 オオカミのような姿をした動物の群れと、熊のような姿をした単体のモンスターである。 最初の音を立てた地点に周囲の動物系が寄って行ったのか、それ以降は動物達との遭遇は起こっていない。 とはいえ植物型の敵との遭遇は発生していた。 遭遇そのものは複数回あったものの、戦いの方は全て短時間で決着している。 6人の戦闘能力が高い事はもちろんだが、早期に発見し不意を打たれぬように対処ができたというのも大きかった。 マリスは相変わらずイーグルアイとマスターテレパスを用いて索敵と情報伝達に力を注ぎ、理央は自分たちが不意打ちされぬようにと、作成した影人の1体を囮として先行させる。 同時に彼女はコンパスで方角を確認しながら、用意した紙を使って地図を作成していた。 暫く進むと、再び動物たちが姿を現す。 ほとんどは攻撃が一巡する前に呆気なく撃破されたものの、数度の攻撃に耐える個体も現れ始めた。 6人は油断なく進み……辺りが暗くなり始めたのを確認すると場所を定め、交代で休息を取り始める。 2人ずつの3交代制で最初に見張りに就いたのは理央と智夫だった。 理央が作った地図の整理や書き直しを行うのを視界の隅に収めながら、智夫は移動の時と同じように耳を澄まし、周囲を警戒する。 昼間と比べると、聞こえてくる音は少なかった。 虫の鳴き声は明らかに昼間とは変わり、鳥の鳴き声は殆んど聞こえなくなる。 1番目の見張りが終わり、2番目のキリエとマリスの見張りも何事もなく終了した。 3番手はセレアとシィンである。 フクロウ型のモンスターについての情報を思い出しながら、セレアは暗視を使用して上空にも気を配った。 高さそのものは5m程度ではあるが、上への警戒というものは気を抜くと軽くなる可能性もある。 (暇で眠くなるのもアレですし) 声をひそめて何か話でもと考えていたシィンは、話題は恋バナなんか妥当ですかねと結論を出した。 勿論、自身にはネタは無い。 (別にそういう願望無いですしね、人のを見ているからこそ楽しいのですし) そんな事を考えつつ、彼女は見張りをしているセレアに小声で話しかけた。 ●世界の中心を目指して 鳳仙花に似た植物が、大きな実を弾けさせるようにして周囲に金属のような種をまき散らす。 銃弾の嵐のような攻撃を耐え抜き一部を反射すると、キリエはそのまま距離を詰め一撃を繰り出した。 戦い方の影響の為か、敵の構成は植物動物共に変化してきているように見える。 植物は遠距離攻撃を行う個体が増えてきたような感があった。 動物の方は、最初は機敏なものも増えていたようだったが、現在は耐久力が高めの個体が増加しているように思える。 とはいえ一行を窮地に陥れるような強力な敵は今のところ存在しなかった。 厄介なのは寧ろ、魅了や混乱等の力を持つ搦め手型のモンスターである。 「今回は敵のスキルに精神・呪い系が増えたのが気になるね」 仲間たちの攻撃で消滅する敵を眺めながら、キリエは呟いた。 (エリアの広さといい、心の強さを試されている感じ) 「でも私も引き受けたからには、クリアしてみせるよ」 いつでも回復を行えるようにと皆の状態を確認しながら、キリエは周囲を警戒する。 理央が先行させた影人が何かと遭遇したらしく、先からは動物の鳴き声らしきものが響いてきた。 別の方角を智夫が指し示そうとした時、羽ばたくような音を立ててカラスに似た個体が姿を現す。 (敵の倒し方で能力が変動するってことは、全体を見てる『眼』があるのかしら?) 詠唱によって魔力を雷へと変質させながら、セレアは敵の能力と戦法について、迷宮の力について……頭の片隅で考察を行っていた。 自分には物理での攻撃というのは無理がある。 多少の不効率は覚悟の上で、神秘の力を用いて攻めるしかない。 敵の防御は神秘方面に傾いてはいるものの、彼女の攻撃を防ぐには大きく不足していた。 とはいえ戦い難くなっているのは事実である。 複製は困難にせよ、解析できれば……例えばVTSにフィードバック等はできないかと考えつつ、彼女は雷を周囲のモンスターたちに向けて拡散させる。 力の使い過ぎによる消耗も考慮していたが、その辺りはマリスらがほぼ完全に補っていた。 彼女は消耗した味方の回復を第一に考えて自身の力を分け与えつつ、その必要が無い時は敵の防御の偏りを可能な限り減らせるようにと物理と神秘の両攻撃を使用して攻撃を行ってゆく。 前衛の1人として敵の接近を抑えている理央は、味方が攻撃しやすくなるように、敵に隙を作るようにと援護射撃を行いながら相手側の動きを確認していた。 個々の敵は強力とは言えないが、存在している敵を倒す前に次の敵が現れるという状況が発生している。 長引けば状況は更に悪化するかもしれない。 そう考えた彼女は、応戦させていた影人に足止めを命じて移動させた。 その間にキリエが鳳仙花を仕留め、智夫が鳥型に土砕掌を叩き込む。 敵が消滅したのを確認すると、今度こそと彼は皆を促し急いでその場から移動した。 ある程度距離を取ったところでシィンがフィアキィに力を与え、皆を癒す緑のオーロラを創り出す。 強力であるものの消耗も極めて激しい癒しの技を、彼女は自身の生み出す力によって完全に使いこなしていた。 モンスターたちとの遭遇は増加してはいたものの、6人はほぼ万全という状態を維持したまま、小さな世界の探求を続けてゆく。 遭遇が増加したのは、移動時間の影響も大きいようだった。 夜間は動物型の動きが鈍るのを確認した一行は昼間に休息を取るようにしたのだが、休息している時に幾度も遭遇が発生するという事態が起こったのである。 夜も移動の音などを聞きつけた動物型や植物型が少数とはいえ襲ってきたので、結果として昼夜問わずに複数のモンスターと遭遇する事になったのだ。 それでも大きな損害を受けなかったのは、様々な力と手段が組み合わさった結果と言える。 全員の警戒と不足しない回復、影人による囮。 川があれば越える為にと理央や智夫が仲間たちへと翼の加護を施し……やがて6人は、目印となる大木を発見する事に成功した。 2本目の大木を発見した時点で、キリエが理央の地図を確認しながら巨大樹の位置を計算する。 幾度もの戦いと、堅実な探求の末……一行はついに、巨大樹のそびえる世界の中心を確認した。 ●試練の大樹 天井も高く見通しのよくなっているその場所では、そびえる巨大樹の姿が離れていても確認できた。 その周囲からは、鳴き声や動き回る音のようなものも多数聞こえてくる。 理央はすぐに符術を用いて、複数の影人を創り始めた。 戦いの援護をさせるというのもあるが、数体に囮として騒ぎを起こさせる事で陽動を行おうという目論見もある。 時間が経過すれば巨大樹の生み出す落とし子達が更に増える事になるが、全てを相手にするよりは戦いは容易になるはずだ。 消耗の激しい技を多用する彼女を助ける為、マリスは自身の力の多くを理央へと分け与える。 途中で鳥型に発見されてしまった為、当初の予定通りにとはいかなかった。 影人の作成を中止した理央は、2体を自分たちから離れるように走らせる。 マリスは急いで自身の力を回復させ、智夫は仲間たちに翼の加護を施した。 キリエも詠唱によって大いなる存在に呼びかけ、回復や浄化を行う仲間たちへと異常に抗する力を賦与する。 マリスが防御のネットワークを構築し視野を広げようとしている最中に、鳥型に続いてオオカミ型のモンスターたちが姿を現した。 理央が影人たちを向かわせた方角からも、唸り声のようなものが聞こえ始める。 敵に先制攻撃を加えた一行は、そのまま巨大樹を攻撃する為に前進して戦闘位置に就いた。 巨大樹の周囲には複数の動物型や昆虫型のモンスターが存在している。 それ以外にも、枝に止まっている鳥形や虫型、枝や幹に絡みついている蔓型のモンスターもいるようだ。 なるべく多くの動きを封じようと、智夫は神秘の力によって創り出した閃光弾を巨大樹に向かって投擲した。 続いて後衛に位置するセレアが強烈な雷を生み出し、周辺のモンスターを薙ぎ払う。 群れで活動するタイプの耐久力に劣る個体の多くがそれによって消滅したものの、それに耐えた物達や視界外の個体は、そのままリベリスタ達へと接近しようとした。 それらを吹き飛ばすように、シィンが炸裂する火炎弾を雨のように降り注がせる。 タイミングを計るようにして前進すると、マリスは巨大樹の弱点を探るようにして攻撃を開始した。 防御力が低く回復の手段を持たないというのであれば、とにかくダメージを与えるべきである。 攻撃を行う彼女を庇わせるように、理央は影人の1体をマリスの傍に移動させた。 彼女自身は巨大樹の射程に立ち入らないようにと注意して位置を取る。 敵が混乱や魅了等の力を持っているというのであれば、それを解除できる者が1人くらいは絶対に効果を受けないように心掛けるべきだった。 強力な味方はそのまま強力な敵に為り得るのだ。 警戒しつつ状況を窺う理央の視線の先で、巨大樹の各所に咲き誇る花々から……狂気をもたらす香りが漂い始める。 智夫はかろうじて香りから逃れはしたものの、射程内にいる者たちは瞬時に意識を乱され、心を蝕まれ始めた。 その一行に向かって、巨大樹の落とし子達が次々と襲い掛かる。 すぐに理性を取り戻せた者たちもいたが、全員という訳にはいかなかった。 反撃とばかりに放たれたキリエの気の糸が、落とし子達だけではなく味方や自分自身にも向けられる。 それに耐えた智夫が素早く浄化の光を放ったことで、残っていた者たちも意識を取り戻した。 セレアが雷で周囲を薙ぎ払い、シィンの力を受けたスプラウトとブロッサムが、リベリスタ達の周囲を癒しの力で包み込む。 それでも力の回復し切れない味方の消耗を補うように動きつつ、マリスは落とし子達の動きに気を配った。 攻撃可能な時の優先目標は巨大樹だが、新手が周囲から集まってくるような状況でそれに専念するというのは難しい。 周囲の状況に注意し、確認したものを皆に伝える。 ダメージの大きそうな落とし子がいれば、敵の数を減らす事を優先する。 マリスが情報を活用できるようにと動き、連絡を受けた理央は攻撃を行っていた影人に増援の相手を指示しながら……自身は衝撃波を球体状に変化させて敵に命中させることで、敵の接近を妨害しようと試みる。 巨大樹が魅了の香りを漂わせ始めて以降、彼女は魅了の除去を優先して行動する形になった。 智夫の生み出す浄化の光も加わったお陰もあって、リベリスタ達は勿論、影人たちへも繰り返された魅了の効果は最小限に留められる結果となる。 そうなれば……一行を戦闘不能に陥らせられる強力な攻撃は、ほとんど存在し得なかった。 最後はセレアの放った強烈な雷の直撃を受け……巨大樹は周囲の落とし子達もろとも、討ち滅ぼされる。 「討伐成功したら、レアドロ探し。ロマンですからね!」 本気なのか冗談なのか図り難い態度と口調でシィンが呟いた直後、周囲の風景が揺らぎ始めた。 そして……幾人かに聞き覚えのある声が響き、6人は自分たちが目的を達成した事を実感した。 『見事だ、汝らは試練を乗り越えた』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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