●海の藻屑の果て 空は不穏な雰囲気に包まれていた。 灰色の薄暗い雷雲が覆って時折激しい電光が走る。 明石海峡の海はまるで空に呼応するかのように荒れ狂っていた。 蟻地獄のように渦潮が出来て海上のものを巻き込んでいく。 大きな海坊主が突如として潮の中から現れる。 入道の姿をした頭の丸い黒い化け物だった。 鬼が慟哭するようにうなり声を上げて迫ってくる。 「海坊主だ! 誰か助けてくれ!!」 近くを航行していた小さな漁船の船長が叫んだ。海坊主は突き出した頭で周りに浮かんでいる船を睨みつける。 早く逃げようと舵を切ったが、船はまるで言うことを聞かない。 激しい渦に巻き込まれるように漁船は後退していく。 「船長ダメです! 機関部がやられました!」 「なんとかして持ちこたえるんだ!」 乗組員たちは必死になって甲鈑にしがみついたが時すでに遅かった。 海坊主は口から水鉄砲のようなものを吐き出して船に襲いかかる。 船が真っ二つに割れた。 その瞬間、船は海の藻屑になって掻き消えて行った。 船長の絶叫は激しい嵐に掻き消されて聞こえなくなった。 ●神の雷 「明石海峡大橋に賊軍を支援するアザーバイド達がいるわ。貴方達は何とかして奴らを撃破して後続の味方を四国に突入させるよう尽力してほしい」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)がブリーフィングルームに集まったリベリスタたちを前にして厳しい表情を向けた。すぐに資料を開けて説明を続ける。 賊軍が集結した四国の上空は不穏に満ちていた。 すでに昨年末に誕生した意志を持つ巨大なE・エレメント『ヤクサイカヅチノカミ』の雷によって四国に航行することが出来なくなっていた。 四国はいまや孤立した状態になっている。 裏野部一二三は四国で大虐殺を計画していた。『蜂比礼』と呼ばれる刺青のアーティファクトを身につけたフィクサードを中心に賊軍部隊が殺戮の時を待ちわびている。 四国への連絡線である神戸・鳴門ルート、児島・坂出ルート、尾道・今治ルートの3つはすでに賊軍のフィクサードやアザーバイド達に封鎖されていた。 「貴方達には明石海峡大橋を守っているアザーバイド達を撃破してきて欲しい。上空から落雷がリベリスタ達を狙ってくるからくれぐれも気をつけて。無事に任務を達成して後続が四国に足を踏み入れることが出来るように」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月10日(月)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●天誅の雷に撃たれ 不穏な漆黒の雨雲が辺りを覆い尽くしている。天誅を下す轟音の雷が夜の帳を時折駆け抜けた。空と呼応して海の方も荒れ狂い始めて波が激しく渦巻いている。 明石海峡大橋にすでに異形の化け物達が陣取っていた。これ以上四国には一歩も近づけさせないというように恐ろしい妖気を放っている。 「元裏野部の兵は無し、全て『まつろわぬ民』の兵か……まるで妖怪退治だな」 陰陽の服を纏いし深崎 冬弥(BNE004620)が鋭い切れ長の目で睨み付けた。式符に大業物を身につけている姿はまるで現代の妖怪を退治する陰陽師だ。 「なんか……アザーバイドっていうより妖怪大行進って感じがするね」 『六芒星の魔術師』六城 雛乃(BNE004267)も敵を見て頷いた。足元に身につけたミストのピンクのブーツが可愛らしい。足にぐっと力を入れて滑らないように気をつけながら敵の陣営の中に向かって進んでいく。 「まつろわぬ民……とは言え、酒呑童子まで駆り出すなんてね。アレは京都の鬼ではなかったかしら……? 大江山のと言うくらいなのだし。ま、それに類するものか、近いものといったところね」 慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は厳しい包囲網を敷いている敵の中に酒天童子の姿を見つけて言った。 不断は穏やかな笑みを浮かべているがすでに表情は引き締まっている。周囲に気を配りながら慎重に仲間の後ろから続く。 「殺戮なんてダメです、悲しいことが起こるのは――思い留まるのは既に無理なのでしょうか。ただ倒すことでしか止められないのは悲しいです」 雪待 辜月(BNE003382)は思いつめた表情で静かに口を開いた。 「後進の憂いを憂いを絶たねばな。腹立たしい事に敵も見事な手並みだ。これだけのアザーバイドを揃えて、各所で実戦投入している。思い知らせてやらねばの、妾達の質をの」 『大魔道』シェリー・D・モーガン(BNE003862)がまるで自分に言い聞かせるように言った。側にいる辜月の優しさに共感しながらも心配な気持ちになっていた。 今は敵に憐れみや同情を感じている時ではない。気の緩みが仲間の死を招く。一刻も早く敵を倒すことだけを考えてまるで自分に言い聞かせるように語る。 「さーて賊軍退治行こうか。にしてもわざわざ賊軍を名乗るか……まあいい。叩き潰してその強さを食らうだけよ」 漆黒の翼を広げて『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は飛び立つ。敵を叩き潰すことだけを考えていた。好き嫌いは激しい方だが、果たして今回の敵は自分を満足させることができるかと強気の態度で挑む。 「おい、本気かお前らその程度で俺達を止めようってのか!? 封印とやらに閉じこもり過ぎて寝ぼけてんじゃねーの?」 『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)も拳をすでに握りしめている。後衛の頼もしい仲間がいるから存分に暴れまわるつもりだった。 挑発しながら敵の中央に向かって一目散に駆け込んでいく。 「それじゃ、全員生きて帰ろうぜ!」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が相棒の深緋を天に高々と突き上げて宣言した。味方の無事を願いながら先頭に立って突き進む。 天から落ちて来る雷に自ら避雷針となって攻撃を受け止めた。 深緋が絶叫するがフツは握った手に力を込めて何とか耐えしのいだ。その隙に仲間のリベリスタたちが大橋に次々と進撃していく。 ●坊主対決 「海にいるからって油断してんなよ! 坊主対決といこうじゃねえか」 フツは海上に出現していた海坊主に符を撃ち放つ。 射抜かれた海坊主は小さな坊主を見て怒りを露わにした。まるで自分の方が位が上だといわんばかりに水鉄砲をぶっ放してくる。 フツは攻撃が味方にいかないように立ち回りながら必死にブロックする。 大橋の中ほどではアザーバイド達が強力な陣営をすでに構えていた。突き進んできたリベリスタたちに向かって空から姑獲鳥が急降下して火炎弾を放ってくる。 辜月はすぐに敵の見える位置に陣取って後ろから翼の加護を施した。攻めてくる敵に注意するように仲間に指示して整えさせた。 姑獲鳥の絨毯爆撃に対してシェリーが前に出て辜月やティアリアへの攻撃を自らが受け止めてブロックする。激しい攻撃に晒されて防戦一方となった。 シェリーは歯を食いしばって耐えしのぐ。 仲間の回復手をやられるわけにはいかないと必死の形相で食い止めた。 雛乃がその隙に両手を広げて詠唱を試みる。短いスカートと長い髪がふわりと広がったかと思うとその瞬間に指の間から黒い血鎖の束がアザーバイド達に放たれた。 前にいた両面宿儺や土隠が巻き込まれてうめき声を上げる。 敵が怯んだ時を狙ってカルラがテスタロッサを構えて弾丸を乱れ撃つ。 雨霰の弾丸が敵の身体に次々と撃ち込まれた。 姑獲鳥たちは翼をやられて態勢を崩した。高度を下げて橋の上に降りてくる。 フツはすぐに詠唱して火の鳥を出現させると姑獲鳥に攻撃を仕掛けた。 炎に巻かれながら姑獲鳥は上空を急降下して橋に激突する。落ちてきた所を狙ってティアリアが遠距離から鋭い一撃を放ってトドメを刺す。 急激に体力を奪われて冷たい橋の上にぐったりと身を横たえて動かなくなる。 土隠が仲間がやられて怒り狂った表情で襲いかかった。口から大量の糸を撒き散らしながらリベリスタたちを絡め取ろうしてくる。 シェリーは自分に任せろとばかりに両手を広げて前線に立った。 指先を伸ばして敵に狙いを定めると業火の炎が現れた。 伸びた炎のカーテンが放たれた糸を燃やして尽くしていく。 「よもや、自分の体積以上は吐けぬとはいわぬよの?」 口から糸を吐き尽くして土隠は息切れした。後ろから冬弥が突っ込んでいく。 大業物を鞘から抜いて大きく振りかぶると姿勢を低くした。 その瞬間に力強く刀を大きく振り回す。 鋭利な刃物と風圧の中に土隠は巻き込まれて容赦無く刻み込まれた。 逃げ場を失った土隠は自慢の足を披露できずについに地面へと突っ伏す。 攻撃に巻き込まれた酒呑童子と両面宿儺は辛くも後退した。 緑色の体液が飛び散って敵は苦しそうに表情を歪める。それでもやられてばかりはいられないと攻撃を浴びることを覚悟で両面宿儺が猛スピードで迫ってきた。 「あんたの力は阿吽より上? それとも下? まあ、どちらでもいいわ。叩き潰してわたしの力の糧とするだけだし」 フランシスカが速度を生かして両面宿儺に体当りした。 真上からの不意打ちを食らってたじろいたがすぐに立て直す。自慢の剣を立て続けに連続で振り回してフランシスカを切り刻む。 至近距離から猛攻を受けて避けることができず身体に傷を負ってしまう。 両面宿儺の素早く行動しながら切り刻む攻撃に押され気味になった。 常に動きながら先回して攻撃をしてくるために攻撃と防御がしづらい。ついには体中に怪我をしてフランシスカも立っていられなくなっていた。 それでも他の仲間が奮闘している姿を見て自分が倒れるわけにはいかないと踏ん張る。「フランシスカさん、狙って今です……!」 その時だった。辜月がフランシスカを支援して後ろからマジックアローを放つ。 目を撃ち抜かれた両面宿儺は一瞬動きが止まる。 後ろからは大業物を振り回しながら冬弥が辺りをメッタ斬りにしていた。 巻き込まれた両面宿儺は口から液体を吐きながら後退する。 その一瞬の隙をついてフランシスカは飛び上がると剣を構えて急降下した。 鋭い剣の切っ先が両面宿儺の首と首の間を真っ二つに切り裂く。 敵は絶叫しながらその場に崩れ落ちた。 ●海の藻屑となりしか 「大江山の酒呑童子がそんなことするなんて、ねぇ?」 くすくす笑いながらティアリアが挑発する。心の中を読み取った酒呑童子が侮辱された思って剣と盾を武器にして突撃してくる。 「ふん、心を読むとかそんな小細工しないと勝てないなんてたいした事ないのね。酒天童子の名が泣くわよ」 直前でティアリアの前に出て代わりにフランシスカが剣で受け止めた。 激しい剣戟の応酬が繰り広げられる。 酒呑童子はフランシスカの剣筋を見抜いて盾でブロックを試みる。 対してフランシスカは機動力を生かして先へ先へと動いて剣を繰り出した。 力強い剣に押されそうになるがついに渾身の力を振り絞って押し返す。 斜めに身体を斬られて酒呑童子は後退した。 カルラが後ろから拳を握り締めて力一杯ぶん殴りにかかる。 振り向いた酒天童子の鳩尾にカルラの鉄拳がめり込んだ。 酒呑童子も負けじと拳をお返しに叩きこむ。両者とも苦痛でうめき声が出た。 さらに酒呑童子が殴るとカルラも殴る。壮絶な殴り合いが続いた。 「ちょっと手が読めるくらいで止めきれる、避けきれると思ってんのかオラァァ!」 酒呑童子が堪らず盾で食い止めようとした時だ。 カルラが吠えて思っきり血で濡れた拳を盾ごと吹き飛ばした。 盾が二つに裂かれてついにカルラの鉄拳が酒天童子の腹を破壊する。 「後は貴様だけ――束の間の現世で申し訳ないが、今一度討滅させていただく!」 冬弥も後ろから大業物を振りぬいて援護した。 そのまま欄干に激突して酒呑童子は崩れるように海の中へと墜落した。 荒れ狂う波の合間から巨大な海坊主が虎視眈々と狙っていた。苦戦を強いられている仲間を支援するためにすぐさま遠距離から水鉄砲を撃ち放ってくる。 後ろに陣を取っていたティアリアと辜月が狙われた。すぐに側にいたシェリーが助けようとかばいに入ったが防御に間に合わない。 ティアリアは事前に構えていたお陰で辛うじて交すことができたが、辜月はまともに背中を撃たれてそのまま海へと弾き飛ばされてしまった。 「辜月! 今助ける……!」 フツは荒れ狂う橋の下へと真逆に飛んだ。 海坊主の水鉄砲を身のこなしで辛うじて交わして槍を突き出す。 「深緋に捕まるんだ! 早く!」 フツが叫ぶと同時に海に溺れていた辜月が手を伸ばす。何とかそのままの勢いでフツは辜月を海から引っ張り上げることに成功していた。 海坊主に襲われないようにすぐさま辜月を抱き抱えて橋の上へと飛ぶ。 そうはさせないと海坊主も大きな口を開けて二人を飲み込もうとしてきた。巨大な口の中に突風が発生して徐々に吸い込まれて行こうとする。 フツも両手がふさがっていて満足に攻撃することができない。 仲間の誰もが絶体絶命のピンチだと思った時だった。 「さっきからどっかんどっかんって、そのお返しだよ!」 雛乃が怒り狂った顔で欄干の上で仁王立ちになっていた。 六芒星の輝いた杖を突きつけながら詠唱すると電撃を纏った鎖が次々と現れて巨大な海坊主の元へと放たれた。 大きく口を開けていた海坊主の頭を締め上げる。 シェリーも雛乃を援護して辜月を救うために立ち上がっていた。 空中に魔法陣と文字が浮かんでシェリーはその中で静かに目を閉じる。 突然に髪がふわり逆だってシェリーは目を見開いた。 大きく両手をしならせて遠距離から弾丸の雨を発射させた。 魔術の弾丸が海坊主の白い目を撃ちぬいた。 海坊主が絶叫しながら海の藻屑の底へと吸い込まれていった。 ●百鬼夜行もかくや 「しっかりしろ……大丈夫か?」 フツが気絶していた辜月の頬を叩くと息を吹き返した。すぐにティアリアが駆け寄ってきて傷ついた辜月を回復させる。 幸いなことに命の別状はなかった。 すぐさま海に落ちた辜月を助けることが出来て大事には至らない。 側で見守っていたシェリーも安堵の溜息が出る。 「無事で何よりじゃ。それよりあまり皆に心配をかけるな」 シェリーの辛口の言葉に辜月は頷いた。周りには様子を見に来た雛乃やフランシスカの姿などもあった。皆激しい戦闘で体力を消耗していたが、敵のことは元より大事な仲間の安否のことが心配だった。誰も欠けることがなくてよかった心の底から無事を喜び合う。 「とりあえずこの場の露払いのお仕事ぐらいはちゃんとこなせてよかった。あとは皆が頑張って残りの賊軍を倒せるように祈っておこうかな」 頼もしい仲間の進撃を見つめてようやく雛乃もほっとした。 大橋を守っていた敵がすでに駆逐された。 傷ついた先発陣に代わって今度は無傷の後衛陣が次から次へと明石海峡大橋を通って淡路島へと進行していく。勝負はまだまだこれからだった。 賊軍との本当の闘いは彼らの手にかかっている。 だが、自分たちの闘いは一先これまでだ。 後の戦いは一体どうなるのかはまだ分からない。 ただ一つだけ今言えることは。 「百鬼夜行もかくやというところだな――『まつろわぬ民』というものは」 冬弥は倒れた敵を最後に見下しながら大業物を鞘へと締まった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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