「……以上だ。グッド・ラック!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月10日(月)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● そろそろ春の気配を感じたいものだが如何せん冬はしぶとい。開け放った窓から車中に流れ込む風は身を切るように冷たくて、これから訪れる海の水もまた人を拒むように冷たいのだろうと思う。だけど―― 暗い山肌が尽きて広がった先に春先の海が見えた。表面にきらきらと銀の光りを刷いてうねるそのさまに、「úžasné!(素敵!)」と短くチェコ語の歓声が上がる。くすみのない藍色を目にして座席から腰を浮かせたのは『朱蛇』テレザ・ファルスキー(BNE004875)だ。 その横で、 「……こんな時期に海辺でバーベキューってなんか寒そうだけど」 窓に顔を向けた『六芒星の魔術師』六城 雛乃(BNE004267)が呟いた。おお、寒い。乱れる髪を手で押さえながら、早く窓を閉めてと前列に座る奥州 一悟(BNE004854)に頼む。 「あ、ごめん」 一悟は撮影を中断すると窓を閉じた。またスマートフォンを手にすると、ガラス越しに海の写真を撮り始めた。完全に遠足気分だ。 「タコ、見えねぇな……。やっぱ、アワビとサザエを投げ切るまで顔ださねぇのか」 「エリューション化したタコを写したところでその写真を外部に出すわけにはいかないんだぜ?」 となりから蒼嶺 龍星(BNE004603)が突っ込む。 「わかってるよ。神秘秘匿の義務だろ?」 「海の食材を大量に取って投げ渡してくれる大蛸さん。なんていい方なのでしょう。折角の好意なのですから全て受け止めておいしく頂きましょう!」 雪白 桐(BNE000185)は膝の上に置かれた大量のタオルをぽふぽふと叩いた。柔らかいタオルをまんぼう君(剣)にたくさん巻きつけて、タコが投げた鮑や栄螺を受け止める作戦用のものだ。季節外れの海水浴のために持ってきたわけではない。 「ええ、こういうエリューションは大好きですわね、お仕事ですから討伐しないといけませんが。日本風の表現だと、そう、バカっぽい、というのでしょうか。悪口を言うつもりはないんですよ? ただ深刻に考えなくてもいい仕事、というのは気楽なので……」 ねっ、と桐に笑いかけると、テレザは持参した日本酒の瓶を撫でた。 『もうだめ駄狐いつ』明覚 すず(BNE004811)がやはり持参した日本酒の瓶を抱え持ちながら、「タコはタコわさよねぇ」と流れる車窓の景色をバックに頬を緩ませる。早くも夜の晩酌に気が飛んでいるようだ。 「ええっと……蛸さんも食べていいんですよね?」と桐。 「おう。食べられるなら食べちまおうぜ。調理は頼んだぜ、雪白シェフ!」 「く、食えるのか? エリューション化したタコだぞ?」 口の端をかるく引くつかせる龍星に対し、『究極健全ロリ』キンバレイ・ハルゼーがさらりと、「きんばれい、普段Rストマックで産廃ばかり食べているので本気なのです」と言い放った。どんな小学生、いや家庭なんだ? なんと言葉を返せばいいのやら。一瞬にして静まり返った車中に、こほんと小さく咳払いの音が落ちる。助手席から首だけを横向けて、『天の魔女』銀咲 嶺(BNE002104)が一言。 「まず話を聞きましょう」 タコを食べる、食べないはそのあとの判断です、と大人らしく締めくくる。 「それもそうだな」 龍星が指で鼻先に落ちたメガネを押し上げた。 車体が減速し、路肩に寄った。止まったところはちょうどガードレールが切れて岩が階段状に海へ続いている場所だった。 「……どのみちエリューション化した生物は放置できません。浜辺のパーティーとしゃれ込む前に戦闘となるのは必然。みなさん、気を引き締めてまいりましょう」 「そやね。銀咲さんのいうとおりや」 嶺の言葉にうんうんと頷きながら、まずはすずが一番にドアを開けて潮風が吹きつける道へ出た。 ● 岩と岩の間に小さな砂地を見つけたリベリスタたちは、最初にベースキャンプの設置を行った。 「満ち潮になったとき、ここは大丈夫でしょうか?」 桐は携帯コンロを平らな岩の上に設置しながら不安げに海を眺めた。 「いま引き潮の最中ですが、この時間に波があの位置であればまず大丈夫でしょう」 どうやら嶺は事前に潮見表を調べて来たらしい。天気はこのまま崩れることがないようだから、まあ、水位が上がったところで皿を持って岩の上へ逃げてしまえばパーティーの続行に問題ないだろう。 「よし。準備オッケーだ。火は今じゃなくてあとでつけるほうがいいよな?」 一悟と龍星は、岩と岩の間に松明となる束ねた枝をつき刺して回っていた。さすがに星明かりだけでは暗いだろうと考えてのことで、それらは暖を取るためのものではなかった。 「そんなものよりは早くキャンプファイアを作ってください」 そういったのは真夏を先取った姿のキンバレイだ。肩に羽織ったバスタオルの下は、おとうさんに持たされたというVストリングの水着。白肌ボディに赤いVラインが艶めかしいが、さすがに寒いらしくさっきからしきりに震えている。弱暖気魔法の実装を心の底から待ちわびる小学生であった。 「ちょ!? 海で水着は分かるけど早すぎるというか……布すくなっ!」 「元気やのう」と、すずがあきれながら、ごはんが詰まった大きなタッパをカバンから取り出して岩の上に置いた。 「ハルゼーさん、そんな恰好じゃ風邪ひいちゃうよ~」 おしゃれな超ミニスカート姿の雛乃が言っても説得力がない。 「大丈夫です。おとうさんの愛が守ってくれているので、きんばれいは風邪をひきません」 「でも寒いですね、ハルゼー様?」と袖口のバンドをきっちり巻き止めてテレザ。 「……はい」 ワイングラスを片手にした嶺が、服を着なさいとキンバレイを叱った。 「風邪をひいてからでは遅いのです。さあ、すぐ服を――」 空気を切り裂く鋭い音。 強い潮のにおいを放ちつつ、木端微塵になって飛び散った破片。 それはいきなりだった。 「出たな怪人タコ男! ケジメ重点や!」 すずの叫びにリベリスタたちが顔を海へ向けた時にはもう海面から赤こげ茶っぽい色の足が数本ばかりにゅっと突き出ていた。 そのうちの一本が大きくしなったかと思うと、巨大な貝が岸に向かって一直線に飛んできた。初速、時速138キロで投げ出される貝はまさしく凶器である。人に当たれば重症、当たり所が悪ければ即死だ。直せず当たらずとも、砕け散った貝の破片で皮膚が切り裂かれてしまうだろう。 「結界を張りましょう、奥州さん!」 「おう!」 雛乃と一悟は素早く道路へ上がると、万が一の事故を防ぐため結界を張った。 ばさっとバスタオルを砂の上に落とし、キンバレイが足場対策のために『翼の加護』の詠唱を開始する。戦うべき相手を前にしてもう寒さは感じなくなっていた。 「さて、美味いもん食うか!」 龍星が皮手袋をはめた手を拳で打つ。 「食材はきっちり受け止めますよ!」 まんぼう君、準備よし! 桐が巨大な剣を構える。 「では、堪能させていただきましょうか(戦闘を)」 などと言いつつテレザは全力防御の構えをとった。 海から次々と投げ込まれる海産物。 キャッチ第一号はその背にシルバーグレーの翼を広げた嶺だった。涼しい顔で栄螺やときおり混じる鮑を指先より発した気糸でみごと絡め取りつつも、その頭の中では脳が大タコとの直接対決にそなえてフル回転している。絡め取った獲物は腕をさっと一振り、優雅なしぐさで糸をほどいて後ろへ転がした。 それを後方待機していた雛乃がすかさず拾い上げてベースキャンプへ運んでいく。 少しずつ山となっていく食材の横では、桐がタオルでぐるぐる巻きにされたまんぼう君の腹で貝を受けて止めは絶妙のタイミングで刃を寝かせることによって、ほとんど殻を割ることなく食材を確保していた。かけた貝殻の破片でときたま切り傷を負ったり、まんぼう君を持つ手が貝を受け止めるたびにビリビリとしびれたりしたが、どちらもひどくなる前にキンバレイが癒してくれるので問題はなかった。 血の付いたバールのようなものをバットよろしく構え、大タコの剛速球を凡フライにしているのは龍星だ。 「よし、次だ! 来い、また打ち取ってやる」 最初は空振りの連続だった。たまに当たっても加減が分からず割ってしまうことがあった。平均時速138キロといえは、プロ野球の投手並み。速い。それが回転しながら飛んでくるのだ。翼の加護を受けて足場の問題なく絶妙の位置につけたとしても、飛んできた貝のほうで横へ流れたり、バールの手前で下に落ちたりした。 が、いくつか数をこなすうちにさすがに目が慣れて来たようだ。力加減も巧みにバールを下から上へ巧みに振り上げ、貝を山なりに打ち上げ後ろへ送る。 「おー! ナイスキャッチだぜ、テレザさん! で、それ何個目?」 龍星が打ち上げた貝を捕獲し、ベースキャンプへ運ぶテレザに一悟が問いかけた。 「5個ですわ。サザエが4つとアワビが1つ」 「む、結界を張りに行った分だけ出遅れたか……。だが負けん! 龍星! 勝負はこれからだ!!」 いきなり勝負宣言する一悟。 なんといってもオレには秘密兵器がある。雄叫びと同時に一悟は大タコが投げた貝に向かって全力ダッシュした。獲物を掴み取るべく突き出されたその両手には白いクッション状のものがはまっている。白いクッションには顔文字が―― (´・ω・`)どり~ん、どり~ん(´・ω・`)♪ りん、りん、りんん、と微妙な残音が波に洗われた岩場に響きわたった。 癒されるというか気がそがれるというか。その音はすずが召喚した人影たちですら棒立ちにさせたほどの破壊力。大タコの足も貝を絡ませたまま固まっている。 雛乃は手にした貝を下に置こうとしてなぜか額でたたき割ってしまった。 嶺は気糸をほどいて貝を手に乗せ、鋭いとげを軸に独楽回しをしてしまった。 桐はまんぼう君を振り下ろそうとしてハイバランサーがあるにもかかわらず豪快にずっこけ、 『究極健全ロリ』キンバレイはVストリングを両手でグイッと……(以下検閲削除)。 龍星は大空振りしてバールを手からすっぼぬかせ、 テレザは飛んできたバールであやうく頭をうつところだった。 「……ええっと。1個、とったどー」 場の空気を読んでか、こわごわ捕獲を宣言する一悟である。さすが神秘の素材(´・ω・`)でできたクッションは衝撃を完璧に吸収して一悟の手を保護し、さらに表面に鍵傷ひとつ作っていなかった。 が―― 「気負わずに戦うのはええけど、浮ついた気持ちで戦えば事故の元やし、仕事は真面目に、やね」 「え?」 すずは手振りで「いいからそのクッションを外せ」と一悟を叱った。 ● 「よし、これで最後だ!」 龍星の宣言を持って大タコは都合、栄螺が80(うち全破損が24)と鮑が16(うち破損が2)をすべて投げ切った。 直後、海が割れてざんぶと大波が岸に押し寄せ――とここで一旦中断。各個人の捕獲数をみてみよう。捕獲数ランキングに一悟が勝手にエントリーしたのは自身を含める4名だ。 嶺が22個(18+4)、桐が17個(13+4)、一悟が14個(11+3)、龍星が17個(14+3)。 「ちぇ! 最下位かよ。あのままクッションがあったらオレが勝ってたぜ、絶対」 あのままだと夜のお楽しみ、海の幸数が激減していたであろう、間違いなく。 その2つのクッションはいま、岩の上に仲良く並べられ夕日を浴びて橙色に染まっている。 水平線におしりをつけ始めた太陽をバックに、タコが海面から姿を現した。 エリューション化したわけは? なぜこのようなことをしたのか? タコから話を聞くために飛び立った嶺の行く手を塞ぐように、キンバレイが背中を嶺に向けて立ち塞がった。 キンバレイにはどうしても言わねばならぬことがあった。 「あーそこの大蛸入道に告ぐ~そのような立派な触手を持っていながら海の幸を投げるだけとは何事か~国のお父さんお母さんは泣いているぞー!悔い改めて触手と粘液でぐっちょんぐっちょんのえろシナリオにシナリオを変更するのであーる。それが世界革命への道でありブルジョア階級打倒への一歩であーる。平たくいえばおとーさんのでぃーどらいぶ充実に協力するのですー!!」 そう、これは触手シナリオなのだ。なのにエロがないとは何事か! お約束事をなんと心得る、そうすけの馬鹿もんが! 「ちょ……。バルゼーさん、変なフラグ立てないでよ」 はい、立った! いまフラグ立ったよ! 「きゃっ!?」 距離があるにもかかわらず、伸ばされた触手もといタコの足は波を起こしつつ波打ち際から離れていた雛乃を捕え、腰に巻きついた。そのまましゅるしゅると上着をまくり上げながら足を胸に向かって伸ばしていく。 「イヤっ! やめてお願い!!」 あ、ブラジャーが……(以下検閲削除)。 「こらっ! 誰を捕まえているのですか、きんばれいはここなのです!!」 もちろんタコはキンバレイの言葉など理解していない。後ろにいる嶺もわざわざ訳してやったりしていない。にもかかわらず、第二の触手、否、足がキンバレイに襲い掛かった。 「ひぃ……ゃやぁぁっ……」 足の内側にびっちりとついた吸盤が乙女の柔肌をこすりあげる。赤い水着の内側に滑り込んだそれは巨大な肉の塊を捕えると、ちゅぽん、ちゅぽんと吸い立てた。さらにもう一本が伸びてきて―― 「あふぅ……あ、ああん…っ…そ、そこはだめぇぇ」 いやいや言っている割には吐息が桃色のキンバレイである。自らなまものと戯れる係を志願しただけはある。足の裏をこちょこちょされただけなのに無駄にエロい。 「すまん、許せ……」 真っ赤になって惨状から目を逸らす龍星、豪快に鼻血を空へ吹きあげる一悟。ひとりを除き、男性陣はすでに戦闘不可能に陥っていた。 ただひとりの例外男子。桐は雛乃とキンバレイが己の身を犠牲にしてタコの注意をひきつけてくれている間に、自己能力を高めつつもスカートの裾を風になびかせて、タコの背後へ回り込んだ。 「逃がしたりしませんよ? 美味しく頂くのです」 逃走経路を桐が抑えたのを見て、すずは式符が変じた鴉に命じてタコの顔面に突撃させた。 たちまちタコの顔色が怒りからどす黒く変化していく。 どっぱーん!! リベリスタたちを乗せた岩よ砕けよ、とばかりに強烈な波打ち。それはムフフな展開に呆けていた龍星と一悟の目を覚まさせるには十二分な攻撃だった。 「……ってえな、おい!」 「ふっ……やってくれたな」 波を飛んでかわしていたテレザは機を見て雛乃を捕えている足に魔力剣を振い、エリューションから青い血をすすりあげて生気を奪った。 テレザの攻撃にしお、としぼんだ足から、着衣を乱してぐたりとしている雛乃と巨大な吸盤が零れ落ちる。 雛乃の体は岩に当たる前にすずの人影が受け止めた。テレザがタコの足から落ちた吸盤を拾いあげてしみじみとした口調で呟く。 「吸盤というのは、この、これがジャパニーズ・萌え文化、なのでしょうか?」 萌えるのはジャパニーズの中でも一部の人たちだけです、はい。 すずが傷癒術を施して仲間を癒しているあいだに、桐がタコの後ろ頭をまんぼう君でどやしつけた。ノックバック発生。タコが目をぎょろりとさせて岸へ打ち上げられる。 「みんな、攻撃をやめて! 最初に話を聞いてあげるは――!??」 魔の触手が気高き貴婦人に伸ばされた。嶺の足に絡みつくと、ぴったりと吸盤で張りついてストッキングを引きちぎった。余計なものと言わんばかりにパンティストッキングの残骸を海に投げ捨て、魅惑の生足に再び絡みつく。 こうなっては話しを聞くもへったくれもない。 足に絡みついた吸盤は大きさや並び方で、ああこれはオスだな、と頭の中でわりと冷静に判断を下しつつスーパーピンポイントでタコの目を狙撃する。するりとほどけ落ちたタコ足を今度は逆に嶺が生糸で絡め取った。 「逃げられるとは思わないでくださいね?」 身動きの取れなくなったタコに龍星と一悟が真っ赤に燃えあがった拳をたたき込む。 フルボッコされて大タコはすっかり焼きあがってしまった。 「これが本当のタコ焼きだぜ!」 合掌。 ● 「これだけ食材あれば腕の振るいようが色々ありますね」 つぼ焼き、生け作り、地獄焼き、酢の物などなど……。桐がみんなのリクエストにこたえて次々と腕を振るう。 ぱちぱちと松明がはぜる音と波が静かに寄せては返す音をBGMに、満天では星々が輝いていた。 宴会は龍星のあいさつで始まった。 「折角の食材だ。残さず食べようじゃないか! ……て、ちゃんと味わって食べろよ一悟」 せっかくのロマンチックな雰囲気の中、一悟はひとりでテーブルの上に並べられた料理をせっせと写メしていた。わざわざ国の親に見せつけるために写メしつつ喰う。 バスタオルで体を包み込んだ雛乃とキンバレイは、岩の上でどりんクッションを背に仲良くならんで紙皿にもった料理を堪能していた。キンバレイのほうはただ咀嚼していた、というほうがぴったりだが……。 松明の揺れる明かりを頬に受けつつ、フルーティな白ワインを片手にバター焼きにしたアワビとサザエに舌鼓を打つのは嶺だ。足元のクーラーボックスには同居人へのお土産がちゃっかり入っている。 「タコはやっぱりタコわさよねぇ」 「私、日本酒は割と気に入ったので、それとあうお料理になるのなら……とてもイイですわね」 ぬるめにつけた酒が香り立つ白いお猪口をかちんと合わせ、すずとテレザはにっこりとほほ笑みあった。 もうすぐ春―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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