● 波の砕ける音がやけに近い。 知らず知らずのうちに海側へ回り込んでいたようだ。 うっかり足を滑らせて落ちてしまえば、たぶん、もう波の上に浮かぶことさえできないだろう。 両目はすでにつぶされていた。 寒さにしびれきった指先に感覚はなく、武器を手にしているかさえ怪しい。 それでも戦わなくてはならなかった。 友と呼んだ仲間を殺さなくてはならなかった。 なぜならあの船には……。 ああ、あの船には身重の妻が乗っているから。 運命の寵愛を失ってノーフェイスになったとしても、自分勝手な奴だと唾を吐きかけられようと、どうしても助けたい。 ● 昨年末、裏野部一二三が四国上空に意思を持つ巨大雷雲、E・エレメント『ヤクサイカヅチノカミ』を創りだしたことは記憶に新しい。事実上、スーパーセルをもって四国を支配下に収めた裏野部は、その名をあらため“賊軍”を名乗り、この国の全てを手に入れんと今まさに動き出していた。 「まずは四国の全ての民を残さず喰らって自らの力と化す事……」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちを前にしていきなり話を切り出した。声は真剣そのものである。 和泉が醸し出す剣呑な雰囲気にのまれて誰も声を上げられなかった。 「誇張でもなんでもなく、“賊軍”による殺戮は始まっています。フィクサード、リベリスタ……覚醒している、していない関係なしに自分たちに従わないものはすべて抹殺対象です」 もちろん国とてこの事態を放置するわけもなく、即時自衛隊を動かしたのだが、四国を覆った『ヤクサイカヅチノカミ』の階位結界で通常の兵器は届かず、結局はリベリスタに頼るほかに手段は無かった。 「みなさんに向かってもらいたいのは四国は高知のとある港町。ここで地元リベリスタたちが“賊軍”らによって仲間同士で殺し合いを強要されています。最後に生き残った者と同じ番号をつけた船だけは――地元の人々が乗せられているのですが、逃がしてやるという約束で」 船は全部で10隻あったという。殺し合いですでに6人のリベリスタが死亡し、6隻の船が沈められてしまった。船に乗っていた人々は、土隠(つちごもり)と呼ばれる人型アザーバイドたちによってすべて狩られている。 アーク介入時に残っているのは3隻。60名の人々と、3人のリベリスタ。 「……うち一人がすぐにフェイトを使い果たしてノーフェイスになります。彼が人としての意識を保っていられるのは短く15分ほど。意識を失えば誰彼かまわず襲い掛かり始めるでしょう」 できればまだリベリスタとして立っていられるうちに倒してあげてほしい。これはわたしからのお願いですが、と和泉はわずかに声を震わせた。 「敵のリーダーは元裏野部派の覇界闘士です。『蜂比礼』と呼ばれるアーティファクトを身体に刻まれています。この刺青型アーティファクトによって裏野部一二三と繋がれているため、命を奪えば奪うほど裏野部一二三の力の力が増します。逆に、このフィクサードを倒せば、裏野部一二三の力をそぐことができるでしょう。彼は配下に元裏野部派のフィクサード2名のほか土隠(つちごもり)とよばれる人型アザーバイドを12体従えています。それと……スーパーセルから放たれる雷にも気を付けてください」 ご武運を。 そういってフォーチュナはゆっくりと頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月13日(木)22:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「おいおい、どうした? とっととぶち殺しちまえ!」 辺りに吹き荒れる強風も裏野部フィクサード、代石五郎の野次を掻き消せなかった。それどころか一緒になって、黒い壁のような海を背景に殺し合う3人の地元リベリスタたちを鞭打つ。 「何度も言わせんな。見逃してやるのは1隻だけだ。早くしないと波にのまれちまうぞ」 地元リベリスタたちの足元には6体の死体が落ち葉まじりの泥水にまみれて転がっていた。いずれもほんの1時間前まで仲間としてともに戦っていた者たちだ。直接手を下したのはフィクサードたちではない。その多くを無念のうちに葬ったのは5番のゼッケンをフィクサードにつけさせられた地元リベリスタのリーダー、陣内智樹だった。 誰よりも頼りがいがあり強く正義感に満ちた男。それがいまや―― 「しかし醜いねぇ。なにがリベリスタだ。あいつを見ろ。腹ぼての嫁を助けたい一心でノーフェイスになってまで命乞いする仲間をぶち殺してんだからよ。笑えるぜ」 風とフィクサードたちが哄笑するなか、智樹は3番のゼッケンをつけたマグメイガスにとどめを刺そうとして強く前に踏み出した。が、足を降ろした先に死体があり、思わずバランスを崩して尻もちをつく。そのすきにと、1番のゼッケンをつけたプロアデプトがふたりから距離を取った。 「何をやってんだ! お笑いが見てぇわけじゃねぞ!」 手にした盃を投げ捨てて怒鳴る代石五郎の耳元に囁きかける者がいた。 「アークが来た? 海から? そうか、やっと来たか。さて、と。アークよ、正しくリベリスタであってくれよ? オレとしちゃ、そのほうが喰らいやすくていいからな」 ● 春先とはいえ悪天候の海はとても暗くて冷たい。それも並の悪天候ではなかった。四国上空を覆っているのは超巨大な雷雲。否、E・エレメント『ヤクサイカヅチノカミ』だ。海は立つのもやっとというほど強風が吹き荒れていた。 揺れの激しい船首に陣取り、暗視で海を精査していた『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が目標発見の第一声を上げた。 全員が一斉に天乃の指さした方へ顔を向ける。が、高波に遮られてなかなか目標を捕えられない。 「どこですか? チコには見えないのだ」 助けを求める人たちの姿を探して船縁から身を乗り出した『きゅうけつおやさい』チコーリア・プンタレッラ(BNE004832)の襟首を、『花染』霧島 俊介(BNE000082)が後ろからぐっと掴んで甲板へ引き戻した。 「危ないってばよ、チコちゃん」 まだ目標と接触してさえいなかった。チコーリアは水上歩行ができるので溺れる心配はないが、ここで海に落ちてしまえば置き去りは確実だ。この中の誰が欠けても作戦の成功が難しくなる。 「焦る気持ちはよう分かるんよ。けどね……」 土隠たちに沈められるまでもなく、この高波で船が転覆する恐れがあった。海がこんな状態では船から落ちてしまった人を救い上げるのは困難だ。しかも土隠たちと戦いながらとなればほぼ不可能に近い。チコーリアの焦りも当然だった。 「何故もっと早く来なかった、という誹りは……やはりわたしたちが受けるべきなのでしょうね」 ひとり、『クオンタムカーネル』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)の目は1キロ先の岸辺を見ていた。海岸にぽつぽつと残る少ない灯りを目印にフィクサードたちを探す。あのどこかに賊軍を名乗る者たちがいるはずだ。 突然、強い光が陸から放たれた。夜の闇を一直線に切り裂いて伸びた光は3回。いずれも一瞬であったが、暗視を活性化していた者や暗視装置をつけていた者たちの目はハレーションを起こした。 「い、いまのは?!」 白く飛んでしまった視界。『プリンツ・フロイライン』ターシャ・メルジーネ・ヴィルデフラウ(BNE003860)は懸命に瞬きを繰り返して払おうとした。 虚を突かれたリベリスタたちは一斉に臨戦態勢をとった。先ほどの光に攻撃力はなかったが、こんな状態で敵に囲まれたら一巻の終わりだ。 『聖闇の堕天使』七海 紫月(BNE004712)が翼の加護を唱えるなか、前方の闇に悲鳴が次々と上がった。ようやく視力を取り戻したリベリスタたちは、そのとき、一隻の船が、真っ赤な火柱を夜空に打ち上げながら、船体の中央部からふたつに折れるようにして海中へ没していくのを目撃した。空を飛ぶ黒い4つの影も。 『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)が、上を向いて沈みゆく船首付近に乱暴に書かれた数字を見つけて叫ぶ。 「3番だ! 3番の船が沈んだ!」 それは陸で地元リベリスタの1人が死んだということ。 先ほどの光は陸地より沖にいる土隠たちへの合図だったのだ。 『ロストワン』常盤・青(BNE004763)は唇をかみしめた。 (ボク達はヒーローじゃ無い。けど、1人でも多く助けられればいいな) そんな青の思いはいきなり踏みにじられてしまった。まだ完全に回復しきれていない目では海に落ちた人を探すことさえ難しい。やみくもに暗い海に腕を伸ばしたところで手に当たるのは冷たい海の水だけ。 のしかかる悲しみにがっくりと落とした青の肩を強くつかむ者がいた。 「ほらみろ。関係無い奴等が被害を喰う。裏野部が動くとこれだ、ふざけんな!」 ふざけんなふざけんな。背に翼を得た男は叫びながら船縁を蹴った。 救えるだけ救う。たとえそれがどんなに困難な状況であっても。あきらめない、それが霧島俊介だ! 俊介はとぎれとぎれに聞こえてくる悲鳴を頼りに、荒波にのまれながら溺れかけている女性を見つけた。 「うぉぉぉっ!」 防寒ジャケットの背をむんずと掴んで海から引き上げる。その横を作業服の老人が流れていった。俊介は女性を右腕一本で抱くとすぐ老人を追った。左手を伸ばして襟首を捕まえる。老人はそのまま海の中を引いていくことにした。潮の流れに老人の体をもっていかれそうになりながらもなんとか船にたどり着いた。 ほかの仲間もそれぞれ救出した人たちを腕に抱えていた。 チコーリアと紫月は2人がかりで太ったオバサンを船の上へ引き上げている。 天乃は素早く甲板に震えてうずくまる人影を数えた。 「……7、8……8人」 沈められた3番船20名中の8名。 まだ助けられる命がある。助けを求める声がまだ耳に聞こえている。 だが、リベリスタたちはつらい決断を下さなければならない。 土隠たちからの攻撃がないのは幸いだが、このまま3番船の遭難者救助を続けるわけにはいかないのだ。陸では今度は1番のゼッケンをつけたビーストハーフのプロアデプトが智樹に殺されようとしている。ノーフェイスと化した智樹自身の、人としての意識も失われつつある。のこり2隻が無事なうちに土隠たちを排さなくてはならなかった。 「ゲームのように殺し合いをさせた上でさらに犠牲を求めるとは許しがたい悪行ですわ!このような行為を捨て置けるはずもありません、闇の裁きを与えましょう」 紫月が声を微かに震わせて言う。 チコーリアはAFからスワンボートを呼び出すと海へ投げ込んだ。1人でも2人でも、これにすがって助かってくれればいい。いや、助かってほしい。 願いをかけた白いスワンボートが上下しながら後ろへ流れていく。 「さて、どこまで出来るかは判らないが……やれる事をやるしかあるまい」 クリスの言葉に涙を振り切ったリベリスタたちの目は、アザーバイドたちが乗る船へ向けられた。 オフェンサー、続けてディフェンサードクトリンを使用―― 激しい怒りに蛇の瞳孔をすぼめ、波の上に踊る残り火に翠珠の鱗を輝かせたターシャが吠える。 「みんな行くよ!」 ● 人質たちの船を沈めた後、なぜか沈黙する3番の土隠船を無視して、リベリスタたちを乗せた船は中央に陣取る5番の敵船へ向かった。 先駆けてチコーリアが稲妻を土隠れたちの船へ落とした。スーパーセル『ヤクサイカヅチノカミ』が無作為に落とすそれと比べればはるかに劣りはするが、それでも敵の出鼻をくじくには十分だ。 土隠たちが痺れて身動きが取れないうちに、船が敵船の真横につけられた。 青は我先にと敵船に乗り込むと、無数の気糸を放ってさらに土隠1体の自由を完全に奪った。 (あと11分) 数えているのはノーフェイスとなった智樹が自我を失うまでの時間。できれば意識のあるうちに妻子の無事を伝えてあげたかった。 「さあ、踊って……くれる?」 天乃が吹きすさぶ風をものともせず、高く天へ舞い上がりながら魔力鉄甲を振り上げて被り物ごとアザーバイドの頭を叩き割れば、ターシャが生み出した真空刃が土隠一体の足を切り取る。 「回復の必要は……まだありませんわね?」 青が生糸をといて後ろへ下がったのを見計らい、紫月が双界の杖を高く掲げて嵐の夜より深い暗黒を呼び出した。傷つき弱った3体を闇がまとめて飲み込む。 戦いにはやる心をなだめすかしながら、俊介が戦いの場から一刻も早く人々を遠ざけるために陣地を張った。 チコーリアが風のうなる音に負けないように大声を張り上げて、人質たちが乗った船に警告する。 「助けに来ましたのだ! みなさん、ここからすぐ離れてください、でも危ないから岸へ戻っちゃダメなのだ。海で待っててください。必ず戻ってきますのだ!」 だが、船はなかなか動き出さない。人を遠ざける陣地の中にいて、さらにチコーリアの言葉を聞いてもなお、どうしていいのか分からない様子だ。 あばたは土隠たちの対処を仲間に任せ、ハイゼンベルクの下でイーグルアイを発動させると、波をかぶらない程度の高さから5番船に妊婦の姿を探していた。 智樹の妻は人々の真ん中にいた。額にぬれた髪をべっとりと張りつかせ、苦しげに顔をゆがめて丸く突き出た腹をさすっている。ああ、まずい。早く病院へ送ってやらなくては。 だがしかし。その前にこの海から急ぎ離れてもらわねばならない。 『えー陣内様、陣内様。沖の方をご覧ください、メカメカしくてちったい女が手を振っているのが見えるでしょうか。』 頭に響く声を聞いて、陣内の妻があばたのいる方へ顔を向けた。目が見開かれ、ついで眉頭が解かれた。今にも泣きだしそうな顔であばたに手を振る。リベリスタの妻であれば、あばたの姿をひと目見て理解したのだろう。助けが来たと。 あばたはこくりと頷くと、みんなを促してすぐにここから離れるようにとテレパスを送った。エンジンの始動に戸惑っているのを見ると、即座に陣内の妻を通じてやり方の指示を出した。 5番の人質船に続き、遅れて1番の人質船も動き出した。 直後、また陸地より強い光が発せられた。 これで残る地元リベリスタはノーフェイスとなった智樹ただ一人。 仲間をやられて痺れの取れた土隠がようやく動き出した。 その土隠の真後ろに天乃がするりと降り立った。 「動く、な」 振り返る間を与えず、鋼を超える固さの気糸で幾重にも取り巻いて、土隠の盛り上がった筋肉を締め上げる。 クリスの魔力銃が火を噴いて、土隠の額に文字通り風穴があいた。 5番敵船陥落。 「4体仕留めたのだ! のこり8体なのだ!」 痛手をこうむることなく4体の土隠を仕留めたリベリスタたちは、敵船に乗り込むと手早く死体を海に投げ捨てた。 「オレたちはこれで行く。だから早くここから逃げろ」 そういって俊介が指示を出した直後、先ほどまでリベリスタたちが乗っていた船が船底が見えるほど大きく傾いた。 悲鳴と重なりながら、人が海に落ちた水音が次々と上がる。 「くっ! せっかく助けた人たちをよくも!!」 船の揺り返しを利用して、土隠が2体、リベリスタたちがいる船に飛んできた。3番船の土隠たちだ。ここにきて独自の判断で動き出したのだろう。 土隠は空を飛びながら黒い気糸をリベリスタたちに向かって放った。 青が船縁で身を躍らせ、振るう大鎌で断ち切っていく。 「こっちを見ないでね!」 クリスは後ろを振り返ると、1番の敵船にフラッシュバンをたたき込んだ。黒の風景が一転、白に塗り替わる。1番敵船の動きを封じた。 青が切り損ねた気糸が数本、七海の腕に絡みついた。 あばたがとっさに土隠のほうへ引き寄せられていく紫月の体に抱き着いて止める。 「やらせるかよ!」 俊介が怒気の塊をぶつけると、土隠たちは船に足を降ろすことなく暗い海へ吹き飛ばされた。 土隠が波の下に隠れてしまう前に、とチコーリアが魔弾を、ターシャが真空の刃を海に次々と撃ち込む。 どん、と船が揺れた。さらに2体が船に飛び移ってきていた。 天乃と青がブロックに入る。 あばたが土隠たちに狙いを定めて引き金を引いたとき、陸地で再び強い光が発せられ、続けて左舷で火柱が立ち上った。 一旦岸へ向かって走り出し、それから沖へ逃れるべく土隠たちの船を大回りしていた2隻のうち1隻が沈められていた。 「1番だ! くそ、1番がやられた!」 銃口から途切れることなく魔弾を吐き出しながらあばたが叫ぶ。 5番の船は追いきれない、と判断したのか。1番の敵船が船首をまわしてリベリスタたちの船へ向かってきた。 船の上ではまだ2体の土隠が猛威を振るっていた。天乃と青の2人を海へ叩き込むと、1体は毒を滴らせる顎門でチコーリアに食いつき、のこる1体は肩でターシャのみぞおちへ体当たりした。 だめなのか。救えないのか。ここで負けてしまうのか。 振るう刃に、掲げた杖に、構えた銃につきまとう絶望感。 「あきらめんな! オレたちだけが救う力を持っているんよ。ここであきらめたらリベリスタじゃない!」 俊介の激が飛んだ。 「……爆ぜ、ろ」 チコーリアを投げ捨てた一瞬の隙をついて、天乃は土隠に死の爆弾を植え付けた。 飛び散る肉片の浴びながら、青が大鎌を踊り振う。断末魔をあげることなく、もう一体の土隠の首が落ちた。 クリスが向かってくる敵船にフラッシュバンを決めれば、続けざまに俊介が神聖なる裁きの光を放つ。息つく暇を与えずあばたが雨よ霰よと弾幕をはり、4体を乗せたまま船を沈めた。 「12体、全部倒したのだ!」 紫月に癒されたチコーリアが小さな拳を突き上げて叫んだ。その横で青が腕時計を確認する。 「あと5分です!」 しかし、海からは助けを呼ぶ声が断続的に上がっていた。リベリスタとして見捨てることはできなかった。 せめて、愛する人の無事だけでも最後に知らせてやろう。フィクサードたちに嬲られる智樹の姿を岸に確認したアバタは、ノーフェイスに向けてテレパスを送った。 「行ってください! この人たちは私たちが助けますから!」 声の主は智樹の妻だった。 5番の船が戻ってきていた。みれば大勢の人が海に落ちる危険を厭わず船縁から大きく体を乗り出して、暗い海に腕を伸ばしていた。 ● 「陣内、お前の家族はアークが無事に保護するよ。わかってるよな? いや、わかってくれなくてもこうするしか、無いん」 俊介たちが船を最大速度で飛ばして岸にたどり着いたとき、ノーフェイスはすでに虫の息だった。かろうじて人としての意識が残っているらしく、俊介たちを見ても襲い掛かりはしなかった。それどころかサジタリのひとりの前に立ちはだかって庇ったのだ。それでも―― 「はっ! お涙ちょうだいの臭い芝居なんぞ見たくもねぇ。そこのくたばりぞないと一緒にまとめて死ね。一二三さまの力になることを光栄に思えよ、くそリベリスタども」 フィクサードが鋭い犬牙をむきだしにしながら唸った。蛇の刺青が走る太い腕で風を断ち切り、生み出した地獄の炎でノーフェイスもろともリベリスタたちを包み焼く。両脇に控えていたサジタリたちも同時に弓を引いた。 焼け跡の死骸を踏みつけて粉々にしてやろうと、五郎たちが歩き出したその時。 「――なっ!?」 下火になった炎に変わって、クリスが放ったまばゆい光が当たりを明るく照らし出した。 俊介と七海。ふたりの癒しの風が、光が、五郎の邪悪な炎から仲間を死から守っていた。 天乃の拳が、青の刃が、サジタリたちが放った魔矢を撃ち落していた。 チコーリアが地に伏せながらも前に出たサジタリを魔弾で打った。 「天国にも地獄にも行けると思うなよ。どこでもない場所がお前らには相応しい」 ターシャが五郎たちの回りに無数の不可視の刃を配して切り刻む。 「ちぃぃ! 悪あがきせずとっととくたばりやがれ!」 「お断りします」 薄れゆく白の光の中に立ち上がる影が一つ。 「外道、死すべし」 あばたの永久炉は船の上で十分すぎるほどの魔力を回復していた。仲間と自身の怒りと、死んでいった者たちの無念を込めた破滅の魔弾が、シュレーディンガーとマクスウェルの2丁に途切れることなく装填されていく。 「一片の血肉もここには残さん。消え失せろ!」 ● 空にはまだ『ヤクサイカヅチノカミ』が居座っていた。いまもこの四国のあちらこちらで仲間たちが命を削っている。たった一人の男の野望のために、かけがえのない多くの命が失われてしまった。これからも失われていくだろう。長い夜はまだ終わらない。 「……ていってたんよ、智樹さん」 俊介がのぞき込む先、涙を流す母親の腕の中にはぼろ布に包まれた赤子がいた。 そうだとも。明けない夜はない。必ず朝日は昇る。 赤ん坊の泣き声と静かに頭を下げる人々にその背を見送られながら、リベリスタたちは次の戦場へ向かって歩き出した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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