『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が手作り感満載のチラシを大量プリントしたような紙を、ピラリとその場にいたリベリスタたちに見せた。 「これ、商店街の夏祭りのチラシ」 見れば分かるとツッコミたかったが、きっと何かしらあるのだろうと言葉の続きを待つ。 「この商店街のお化け屋敷、出るの」 何がと問わなくても、夏で出るといえば、答えはそう多くない。 話を戻し、数日前から開催している商店街の夏祭りの出し物として、商店街の店主たちが空き店舗を利用したお化け屋敷を、子供達を対象に作り上げた。 しかし、始まって直ぐから手作りのお化けや、黒い布やカーテンで仕切った通路が壊されるということが続いたのだという。 最初は訪れた子供達がはしゃぎすぎたり悪戯したりしてお化け屋敷を壊していたのだと思ったが、受付と称して見張りに立っていた商店街の文房具屋店主・三園が言うに、子供達が入っていないのにお化け屋敷の中から何かが倒れるような音が響き、中をのぞいたら誰もないって居ないはずなのに、お化け屋敷を壊している何者かの姿。 勿論止めに入った三園だったが、その何者かは子供のマネキンで、誰かが悪戯で動かしているのかと、叱ってみたら襲い掛かってきた。 からがらと言う態で三園はお化け屋敷から逃げるものの、そのショックで寝込み、お化け屋敷の公開は中止。 「お化け屋敷の中だけで暴れていたマネキンが、外へ出てしまったの。でも、直ぐに引き篭もったみたい」 マネキンがひとりでに動くなんてこと事態がホラーなものだから、それを目撃した人々は怖がり、キャーキャーとその場から去っていく。 それを見たからかどうかは正確には定かではないが、そのマネキンがお化け屋敷の中へと戻って行ったのは本当。 「怖がりたいという意思を持ってしまったのね。暑いだけに」 暑いから怖がりたいというのは、怪談で精神的に冷えようということなのか。 お化け屋敷を公開して定期的に修復しておけば、今のところは満足しているようだが、今後はどうなるか分からない。 「自分が怖がりたいって言う変なエリューションだから、怖がらせようとすると姿を見せる率が高いわ」 とりあえず人を襲うという行動は見せているし、そちらに意思が傾いてしまう前に破壊するのが望ましいだろう。 「あと、気をつけて欲しいのが、動くマネキンの噂で集まった普通のお客さんと、建物への被害。出来るだけゼロが望ましいわ」 そう言うと、イヴは夏祭りのチラシをリベリスタに押し付けた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:紺藤 碧 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月10日(水)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「お化け屋敷楽しんで……いきたいですね……!」 手作り感満載のお化け屋敷を見上げ、『コドモドラゴン』四鏡 ケイ(BNE000068)が興奮気味に瞳をキラキラさせる。 「お化け屋敷は怖いって思って入るから怖いんだぜ?」 俺はそんなに怖くないけどと続けられた『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082)の言葉に、ケイは本当かな? という眼差しを送る。 『プラグマティック』本条 沙由理(BNE000078)と『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)は、商店街の人が持ってきてくれた立て看板に、白い紙を広げ、その端をガムテープで止め始めた。 その横、お化け屋敷の入り口前に立つ『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)は、ボロボロの衣装に身を包み、服のあちこちに一通りベタベタと血糊付けを完了させて顔を上げると、軽く手を上げ、完全にノリノリだ。 「一般客の対応任せた」 「おう、任された!」 それに応える様に俊介も軽く手を上げて、先を行く龍治を見送る。 「ボクも……行きますね……」 ケイは死神の衣装をまといながら、龍治を追うように――ではなく、マネキンを探すため、お化け屋敷に入っていった。 沙由理と疾風は「冷房故障中の為、立ち入り禁止」でいいのではないかと話し、『手足が一緒に前に出る』ミミ・レリエン(BNE002800)は「清掃中」はどうかと控えめに言葉を挟む。 どちらにせよ、これ以降一般の客が入らなければいいので、理由はなんでもいい。 「立ち入り禁止とかだけじゃダメなのかな」 『戦うアイドル女優』龍音寺・陽子(BNE001870)は、そんな相談をしている3人に首を傾げる。 「禁止と言えばのぅ。そう言えば、こんな話をしっておるか?」 看板作りに参加するでもなく、先にお化け屋敷に入るでもなく、『鬼神(自称)』鬼琉 馨(BNE001277)は、皆が作業する後で、淡々と怪談話だ。 建物の中ならいいが、商店街のアーケードの中にまで空調なんてあるはずもなく、怪談話もさして涼しく感じられないのが切ない。 結局、最終的に看板には“改装及び冷房故障中につき立ち入り禁止”という文言に決まり、開いた紙の隙間に沙由理が汗をダラダラかいている人のイラストを書き添えて完成。 その間に、先に入っていた一般の人たちがポツポツと出口から出て行くのを確認できた。 まずは結界が出来るメンバーが結界をかけ、その後、羽織るだけだとか、準備が完了したメンバーからお化け屋敷へと入っていく。 人のお化けが増えて、改装中ということは……などと、通りかかった人は少し期待したかもしれないが、このお化け達が一般客用ではないことは誰も知らないのであった。当たり前だけど。 ● お化け屋敷に入った龍治は、一度周りを見回して幻視を解く。 すると、今まで襲われた被害者的な男のお化けだった姿が一転。加害者――しかも、殺人鬼的な姿に変わったではないか。もしこれで追いかけられたら怖いだろうが、怪談的な怖さと言うよりは、火曜や金曜のサスペンスである。そんなことはさておいて、龍治はまるで獲物を探すかの如く、ゆっくりとお化け屋敷の中を歩き始めた。 その数歩数分遅れて入ったケイは、本物か作り物か判別不能な死神の鎌を手に、足音をできるだけ殺してそろそろ歩く。勿論集音装置で耳を澄ませ、件のマネキンが出たらすぐに対応できるよう準備万端だ。と言っても、さっそく反撃ではなく、襲いかかってきたらのつもりではあるが。 怖いと感じる瞬間は千差万別のため、いつ何時マネキンが出てきてくれるか。一本道とはいえ、内部の地図みたいなものもないため、今どの辺に自分がいるのかもいまいち分からない。 お化けが2人増えた程度では、まだ様子見かもしれないが。 ● 看板を立て掛けたのち、俊介は看板組の中から一番乗りともいうタイミングでお化け屋敷に入るやATから取り出した衣装に身を包み、暗がりの元店舗内を闊歩し始める。 その手には雰囲気用のランプ。淡い明りに映し出された俊介の格好は、燕尾服にマントという映画によくあるヴァンパイアの格好だ。もしかしたら遠いご先祖もこの格好をしていたかもしれないが、まぁそれは今はどうでもいい。 「俺の役はヴァンパイアらしくってな!」 自信に満ちたような感じの大股で、お化け屋敷内を歩き始める。 そこへ横切る何かの影。 俊介はキランと瞳を光らせると、その影に走りこみ大口を開けた。 「貴様の血ィ……ヒャハハハハハ!!!!」 ガリッ☆ 「ぎゃぁああああああ!!?」 叫ぶと同時に鎌をなぎつつ間合いを取って振り返る。 「って。ケイかよ! オェッ!!」 「あ……危ないじゃないですか……!」 集音装置で音を拾っていたはずなのに、集中の方向による聞き落としだったのか、どうなのか。 「俺が血嫌いだって知ってるだろ」 だらだらと首から血を流すケイから、俊介は嫌そうに顔を背ける。 「俊介さんが、やったんですけど……」 「あーそうだった。悪い悪い」 俊介は天使の息でケイを回復させ、またそれぞれマネキンを探してお化け屋敷内を歩き始めた。 何やら今日は何時もと違う。 そろぉりと、隠れていたカーテンの隙間から顔を出したマネキンは、暗がりでよく見えないながらも辺りをキョロキョロと見回しながら、歩き出す。 「おやぁ」 いきなり声をかけられ、マネキンは足を止めると振り返る。 そこに立っていたのは、どこかいっちゃった瞳の、赤く染まった男。その手に持っているのは、ちょっと見慣れる細長いもの。 「けけけけけ……美味しそーなガキ、発見~」 男――龍治は、その手に持っていたものの先をマネキンの頭に当てる。 無機物の頭に当たってコンと軽い音を立てたそれは、戦国時代に日本に広く伝わったとされる、火縄銃の銃口。 心臓が飛び上がるとはよく言ったもので、マネキンはその場で軽く飛び上がると、一目散に龍治に背を向けて走り出す。 ある程度多分離れただろうと踏んでマネキンは足を止めると、あれは何だったんだと振り返るが、暗がりのお化け屋敷ではその先が見えるはずもない。 カシャン……カシャン……… 微か、鈍く金属がこすれあうような音に、辺りを見回す。 何の音だろうと、マネキンはゆっくりと歩を進める。 突然目の前に日本刀(のおもちゃ)が振り下ろされ、マネキンはその場で尻餅をつく。 「この無念……晴らさずにおくべきか! うらめしぃ! うらめしぃ!」 ギギギ……と、マネキンの首がゆっくりとその声の方へと向く。 そこに立っていたのは、目の周りが青黒く落ち込み、ざんばら髪の落ち武者。疾風である。 勿論大鎧には斬られた痕や、折れた矢、血糊をべったりとつけて、重い足取りで一歩一歩マネキンに近づく。 「我が恨み、末代まで祟ってやるわ!!」 カシャンっと脛当と毛沓が鳴った音がやけに大きく耳に響く。 マネキンは空振りしながらも立ち上がり走り出すが、その道を疾風に塞がれ、開いている逆方向へぐるりと向きを変えた。 (来たわね) 落ち武者にびっくりして走りこんできたマネキンの手を握り、沙由理は走り出す。そして、一通り落ち着いたところで、本当に小さい子供に対するように「大丈夫?」と声をかけた。 表情が変えられないマネキンが、こくこくと大きくうなずいたのを確認すると、沙由理はじっとマネキンを見つめて問いかける。 「ところで、わたし、きれい……?」 またも、こくこくと頷くマネキン。 「これでも……?」 沙由理は口につけていたマスクをとる。 その口は、耳あたりまで大きく裂けていた。 どわぁああっと冷や汗を流すマネキン。ゆっくりと沙由理から後ずさる。 「貴方のきれいな顔を頂戴!」 沙由理は裂けた口でにっこりとほほ笑み、マネキンに襲い掛かった。 きっと、喋れたならば「ぎゃああああ!」とか悲鳴を上げていたかもしれない。 振り返ってはいけない。 どうして数日前まではちゃっちいお化け屋敷だったここに、いきなりお化けが集まっているのか。 まさか自分が呼び寄せた? などと、マネキンは思っていたかもしれないが、その怖がりたい思いこそがマネキンに宿った意思。 それにしたってどこまで逃げる。 「なんで、どうしてかな」 暗がりの中、微かな光を受け止めた白装束がぼんやりと浮かび上がった。ただ、なぜだか首元と胸元だけが暗く落ち込んでいる。 ゆらりゆらりと俯き、猫背で近づく陽子。 「ボク、どうして負けたのかな……」 マネキンは台詞としていうならば「え?」という感じで陽子を見る。 「痛い、痛いよ……」 マネキンにある程度近づいてきたのを見計らい、ばっと顔を上げてクローを装備した手を振り上げた。 「ねぇ、どうして!」 口からぐばっと食紅を吐きながら、マネキンに襲い掛かる。 あーもー今日はなんなんだ! またも「ぎゃあああ!」心境で逃げ出すマネキン。 心臓ないのにまるでドキドキと早鐘を打つような感覚。 ほんと今日はなんなんだ。 呼吸もないけど肩でぜーぜーと息をしながら、おっさんのように膝に手をついて腰を折る。 ペタ……ペタ……ペタ………… ぞわわっと鳥肌幻覚。 振り向いちゃだめだ。振り向いたら何かいる。 でも怖いものみたさっていう好奇心は――…… まず見えたのは、青白い素足。そっと視線を上げると風もないのになびく白いワンピース。 ほ、本物キタ――――――!!! 違います。ミミです。 (逃げないですね) 近づいて追い立てポイントに誘導しようと思っていたのに、マネキンは一向に動く素振りがない。 それなら仕方がないと、ミミはマネキンの前まで近づくと、ぐわっと大口を開けた。 作り物どころか塗料で描かれた目がとらえた、人間じゃない口。 マネキンは四つん這いに近い形で逃げ出す。 そう、このマネキン、ちょっと腰を抜かしかけていた。 逃げ出して、だんだん逃げ道が無くなっているマネキン。だが、そんなこと本人は気付かない。 「おやおや、どうされたのじゃ? 小童」 その場で四つん這いのマネキンの前に腰を下ろし、馨は着物の袖で口元隠しながら、にやりと笑う。 しゃべれないマネキンはなんとか手振り素振りで今まで出会ってきたお化けのことを伝えようと努力するが、さっぱりそのモーションで分かるはずもない。 が、作戦は知っているため、伝わったふりをして馨はうんうんと頷く。 「夏は盆。集まっておるのやもしれぬなぁ」 馨がふっふと笑うや否や、ぽうっと頭の角が妖しく光る。 そして、どこからともなく聞こえてきた悲鳴。 「どれほど集まってきておるのかのぅ」 それが幽霊だとか、妖怪だとか、直接的な言葉は使わず想像力を駆り立てる。 そして、同意を求めるようにマネキンを見た馨の瞳がなぜだか光った。 もちろん、マネキンがまたも逃げ出したことは言うまでもない。 ● 「やだ、なにこれ」 追い立てる道すがら、つるんっと滑った床に、思わず悲鳴を上げてしまった沙由理。 それを見下ろす無言の燕尾服を見上げ、目を瞬かせる。 「……なに、つけてるの?」 「…………」 ゆっくりと手に持ったランプを上げた俊介の顔には板こんにゃく。 「誰が……こんな仕掛け……」 よろよろと鎌を杖代わりに現れたケイに、不自然に増えている毛。 毛は毛でも、それはべったりと濡れたカツラだった。 ● どれだけ逃げようとも息が上がるはずもないマネキン。それでも何時もと違う驚きと恐怖にどこか嬉しそうに見えるのだから不思議である。 現状、脅かされてばかりで襲い掛かってくる素振りのないマネキンであれど、自分の意に沿わない状況になれば一変すると聞いてしまっているため、倒すしかないのだ。 AFで連絡を取りつつ、建物への損傷をできるだけ抑えるため、多分中心部だろうという場所へと悟られぬよう、脅かしながら追い込む。 そして、あっちへこっちへと逃げていたマネキンの肩を誰かががしっと掴んだ。 「ヒャーハハハハッ!」 やけくそ気味の高笑いと同時に、マネキンは誰かに首筋を噛み付かれ、ただでさえ固いのに尚更固まる。脅かしこみの俊介の吸血は、ばっちり決まった。 「まっず! そんな問題じゃないけど!」 ばっと牙を外し、間合いを取るように数歩下がり、神気閃光をマネキンに放つ。 聖なる光を浴びたマネキンはその場で蹈鞴を踏むが、倒れるまでには行かず、自分に噛み付いたヴァンパイアに背を向けて逃げ出す。だが、その逃げた先に、鎌を手にしたままのケイが立ちはだかった。 「楽しんで頂けましたか……さようなら……」 言葉と共に放ったギャロッププレイによって、マネキンの動きが鈍くなる。出来るだけ動きを鈍くして、建物への損傷を最小限に。 よろよろと、歩いた先には流水の構えでブーストをかけた落ち武者疾風が業炎撃を放つ。 「そちらに行きますよ」 疾風の言葉に頷き、予めコンセントレーションで命中率を上げた沙由理が、退路を塞ぎつつ、マネキンの足に向かってピンポイントを放つ。 「ごめんなさいね、怖がらせるだけじゃすまないの」 完全にその場に倒れこんだマネキンに、 「なんで、どうしてぇええ!」 最後まで女優魂を炸裂させた陽子が、食紅で血反吐を吐きながら、魔氷拳を撃ち込む。 「流石プロ? じゃなくて、やりすぎて床壊すなよ!」 その鬼気迫る様子に一瞬たじろぐも、建物被害ゼロを目指して、陽子に叫ぶ俊介。 「血気盛んじゃのぅ」 攻撃に参加した場合、高確率で建物を壊すだろうと理解している馨は、マネキンの退路になりそうな隙間や道筋を視線だけで見遣り、逃げ出した際のサポートに徹する姿勢を見せる。 「今度は本物だ」 攻撃の合間を縫って駆け抜ける龍治の1$シュート。 だが、今までこれも怖がらせの一環と思っていた(と思う)マネキンも、そろそろ自分が退治されようとしていることに気が着いたが、時既に遅し。 リベリスタに囲まれ、これといった抵抗もすることなくその場に崩れ落ちた。 「……いただきます」 ミミは動かなくなったマネキンの傍らに座り込み。両手を合わせる。 「え、ミミちゃん?」 一体全体何を始めるのかと、暫く見つめていると、ミミはバリボリとマネキンを食べ始めた。 「E・ゴーレムに命と言う概念は無いかもしれませんが……それでも、命を奪った以上、食べるのが……命に対する礼儀ですから」 こんなもの食べてお腹壊さないのだろうかと思うが、ミミはR・ストマックによって何でも食べれちゃうお腹の持ち主。 数分後、お化け屋敷は何事も無かったかのような静けさを取り戻した。 この後、仮装したリベリスタの面々は、商店街の役員の方々に、当分お化けとしてバイトしないかと誘われるが、それはまた別のお話。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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