●飢えた妖かしの刃 新月の暗闇に銃剣を携えた鋭い目つきをした男達が現れた。 昔の日本の軍服を着ておりその姿はまるで現実に現れた修羅のようだ。 傍らには付き従う獰猛な狼達が涎を垂らしている。 「子供たちを探しだしてぶち殺せ」 銃剣を片手に首領の禍臥辻零人は部下に命令を下す。 高知の山奥にある小さな学校に突然悲鳴が響き渡った。 荒々しい雄叫びとともに軍服の男達が次々に無抵抗な子供たちを襲う。 何もない静かな山間で血飛沫が飛び散った。 先生たちは必死になって子供たちを逃がそうとする。 「子供たちだけは、子供たちだけは、絶対に助けてくださ――」 「問答無用!!」 台詞の途中で若い女の先生は首を跳ね飛ばされてしまう。目の前で先生の首を飛ばされた子供は恐怖のあまり泣き出す。 命令を受けた部下が子供の頭に銃弾を叩き込むと大人しくなった。 禍臥辻は無抵抗な子どもや女の先生が次々に倒れていくのを見てほくそ笑む。 強ければ生き――弱ければ死ぬ。 その論理に従って禍臥辻はこれまで生きてきた。 特に弱いものが無残に死んでいくのは彼にとってこれ以上のない至福だった。 禍臥辻の論理を証明するのは虐殺に他ならない。 「もっともっと血がほしい。快感をくれ。俺が全部赤子のように捻り潰してやるよ」 ●新月の大虐殺 「皆も知っているとは思うけど、四国で元裏野部の賊軍フィクサードが暴れているわ」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)がブリーフィングルームに集まったリベリスタたちを前にして厳しい表情を向けた。すぐに資料を元に状況を述べていく。 賊軍が集結した四国は不穏な空に包まれていた。すでに昨年末に誕生した意志を持つ巨大なE・エレメント『ヤクサイカヅチノカミ』の雷によって四国と本州の間を航行することができなくなっており四国はいまや孤立した状態になっている。 裏野部一二三は四国で大虐殺を計画していた。『蜂比礼』と呼ばれる刺青のアーティファクトを身につけたフィクサードを中心にして賊軍部隊が殺戮を楽しもうとしている。 「貴方達に対峙して貰うのはそのアーティファクトを身につけた首領の禍臥辻たち。他にも妖怪の姿をしたアザーバイドが手助けをしてきて状況は厳しい状況にある。くれぐれも気をつけて行ってきて。幸運を祈っているわ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月14日(金)22:47 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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●闇に紛れる血塗られた刃 新月に紛れた森の奥から恐ろしい咆哮が木霊した。 旧日本軍の服装に纒った男達が山狩りをしている。狙う銃剣の先にはまだ幼い表情をした小学生たちが逃げ惑っていた。先生に連れられて必死に森の中を彷徨う。 禍臥辻は獣のように屈強な筋肉を張り出していた。 腕にはアーティファクトの蜂比礼の刺繍が禍々しく施されている。 まるで見た者が蛇に睨まれたような身の毛のよだつ思いに駆り立てられる。 「蜂比礼……厄介なものを用意したわね、本当に。しかも子供たちを狙うだなんて。効率的なのは間違いないけれど、許されることではないわ。厄介な状況には変わりないけれど、やれることはやらなくては――」 『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は絶望に彩られた戦場でまるで自分を鼓舞するように呟いた。 口唇を噛みしめてぎゅっと拳を握りしめる。森の奥から助けを呼ぶ子供たちの声を聞くたびに怒りが爆発そうになった。 だが、必死に胸を抑えて鼓動を落ち着かせる。普段は穏やかに見えるその横顔も冷たい冷気に晒されて頬が赤くなっていた。絶対に子供たちを守ってみせる――。 「子供を狙うってのは許せないよね。絶対止めて見せるんだから」 『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)が暗闇の向こうを睨みつける。すでにいつもの魔法少女の戦闘服に杖を手に翳していた。 どんなに強い敵にも恐れずに立ち向かう。 瞳に宿る強い意志は血を分けたあの姉の頑固さと通じるものがある。一度刃を抜いたら絶対に相手が倒れるまで収めるつもりはなかった。 禍臥辻がどんなに強くてもあのお姉ちゃんよりも恐ろしいデュランダルなんてるはずがないと強気で双葉は前に躍り出る。 「アタシが前に出て相手をひきつけるっきゃないねぇ。まぁ回復よりももっと直接的にこの子らを守れるようにアタシャ変わったんだ。だから願っても無い情況っちゃぁ情況だねぇ」 『遺志を継ぐ双子の姉』丸田 富江(BNE004309)は仁王立ちした。大きな腹を突き出して両手は腰に手を当てる。富江はいつも仲間を後衛から見守ることが多かった。 亡き双子の妹の意志を継いでこれまで可愛いわが子同然のリベリスタ達を支えて来た。 だが、本当はアタシは貢献することができていたのだろうか? もしかしたら見守ることを言い訳にして困難な状況から目を逸らしていたかもしれない。 足手まといになるのだけは嫌だった。富江は完全に自身を防御で固める。 絶対に前に出て今度こそ倒れないように。 「要救助者が多数、敵も多数と。まぁ劣勢だね。私にやれることをやるだけだよね。結果、どう転ぶとしてもね」 エイプリル・バリントン(BNE004611)はいつも冷静だ。禍臥辻たちに出来ることはそれほど多くはない。かえって弱腰でいては足元を掬われるだけだ。 フードから鋭い目つきで敵を睨みつける。 視線を向ける相手はアザーバイドでも他のフィクサードでもない。 蜂比礼を持つ首領の禍臥辻零人ただひとり。 奴を再優先で倒すことが出来れば暗闇に光明が射してくるはずだ。 「女子供を狙うとはまこと、見下げたやつらじゃ。何よりも腹立たしいのは失われゆく命に対してあまりにも無力な妾の力じゃ」 『大魔道』シェリー・D・モーガン(BNE003862)は口唇を噛んで耐えていた。 極悪非道な振る舞いをする敵をただ黙って見ているだけ。 そんなことは絶対に許すことが出来ない。 いつもの強気の赤い瞳が今だけは自信無さげに月明かりに濡れている。 真正面から戦うにはやはり厳しい。 だが、幸いにも戦場は人が乱れる険しい森の中だ。 シェリーは決心して深呼吸した。落ち着いてやれば上手くいくかもしれない。 集まった数少ない仲間を見渡して作戦を告げた。 勝つにはもうこれしか方法はない。 「それではいくぞ!」 シェリーは先頭を切って森とは逆の小学校の校舎の方へとかけ出した。 ●正義の盾 「お前ら何をしに来たんだ? 邪魔するならお前ら纏めてぶっ殺してやる」 禍臥辻零人が校舎の中で逃げ遅れた子供たちを物色してうろついていた。残りの仲間を森の捜索に当たらして自分は美味しそうな子供をみつけては嬲っている。 突然に現れたシェリー達の姿を見て一瞬にして顔つきが曇った。 夜の晩餐を楽しんでいた所にリベリスタ達が邪魔しに入ったのだった。それまで襲っていた子供を壁に突き飛ばしてこちらに向き直る。 後ろには逃げ遅れた先生たちが率いる覚えた子供たちの姿があった。 「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――魔法少女マジカル☆ふたば参上!」 双葉が禍臥辻の前に躍り出て名乗りをあげた。 両手を広げてこれ以上は絶対に進ませないと威嚇する。 勇ましい双葉の声に釣られてそちらを振り返ろうとしたその隙に富江が冷凍マグロを片手に禍臥辻へと突進した。 「新生お富、推して参るよっ!」 まるで牛のような大きな巨漢が禍臥辻目がけて一直線に突っ込んでくる。 闘牛のような気魄を漲らせて富江は猛進する。 禍臥辻はすぐさま銃を突きつけてリベリスタ達に乱れ撃った。雨霰の弾丸が容赦無く富江達に向かって降り注がれた。 「アタシに攻撃したらただじゃぁすまないよってねぇ!」 富江は咆哮した。降り注ぐ弾丸を身体を張って弾き飛ばす。跳ね返った一部の弾丸が禍臥辻やようやく応援に駆けつけた猫目達に反射してダメージを与えた。 「―――――あああああああああっ!」 富江は激しく羽を揺さぶると辺り一面の敵をうずの中に巻き込んだ。 有栖川や後藤田が激しい攻撃に膝を付きそうになった。このままではいけないと猫目が回復を施そうとした時、シェリーが横から火炎を放って邪魔をした。 横から火炎を放たれて逃げ場を失ったフィクサード達は苦痛に表情を歪ませる。 「貴方達早く逃げなさい! さもないとここで皆死ぬわよ!」 ティアリアが腰を抜かして怯えている生徒たちに向かって叫んだ。一番先にティアリアの声に気がついたのはまだ年若い先生だった。 皆からよく慕われていそうな易しそうな女性だ。傍らには泣きべそを掻いている三つ編みの女の子を抱えている。事態を悟った先生はティアリアの指示に従った。 すぐに学級委員やリーダーシップが取れる子に他の子供たちを逃がすよう促す。 だが、その時だった。後ろから挟み撃ちするようにアザーバイド達がやってきた。 鋭い牙に涎を垂らした猛獣の狗たちが次から次へと襲いかかかる。 一瞬の隙を突いて女の子が怯えて先生から逃げ出す。 「先生!」 若い女の先生が女の子を庇って目の前で血飛沫を上げた。 首を引き千切らせるように廊下の冷たいリノリウムの床に先生は横たわった。 「くそっ……絶対に許さぬ!」 シェリーはすぐに先生の死体に群がり始めた狗達に弾丸を叩きつける。 怒りを込めた最大火力の弾丸の雨が狗を打ち砕いた。 決死の形相で迫るシェリーは長い髪を振り乱しながら狗を追いかける。一匹も残らずに仕留めようと追うがすぐに狗達も逃げ出そうとした。 土隠や両面宿儺も仲間の逃走を手助けしようと前に躍り出てくる。 「紅き血の織り成す黒鎖の響き――其が奏でし葬送曲」 双葉が目を閉じて詠唱すると指先から漆黒の血液の鎖が無数に現れた。 「我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ……いけっ、戒めの鎖!」 目をかっと見開くと血液の濁流が一気に闇へと解き放たれた。無数に彩られた赤黒い鎖の束が一気に敵を激しい渦の中に巻き込んで見えなくなる。 獣達の絶叫する遠吠えが辺りに響き渡った。 ●強く儚き者たち 先生を失った子供たちは必死に学級委員を先頭に廊下を後退する。ようやく校舎外へと躍り出ると他の逃げていた先生と生徒のグループへと合流した。 フィクサードはシェリー達の作戦で闇の森から校舎へと戦場を移した。おびき寄せられたフィクサードやアザーバイド達が集まってきて逆に校舎が危険地帯になっていた。 「校舎は駄目だ。恐ろしい敵や猛獣が集まってきている。子供たちを連れて私達が来た森の奥へと逃げて!」 エイプリルは動揺している先生とまず話をした。怯えて気が動転している先生にまずは深呼吸をすることを提案する。落ち着かせた所で子供たちを守るにはどうしたらいいのかを手短に話した。すぐに先生の顔つきが真剣味を帯びる。 「私達はあれらをどうにかする仕事だ。だからキミは教師としての仕事を頼むよ。迷える生徒を導く近年あまりない教師っぽい仕事をね」 エイプリルは片目を瞑ってその先生に向かって笑みを浮かべた。 ようやく我を取り戻した男の教師が合流した隣の組の子供を連れて逃げた。リベリスタたちがやって来た安全である山道へと誘導する。 「そうはさせるかよ! 全員ぶっ殺す」 執念深い禍臥辻がしぶとくリベリスタの猛攻をくぐり抜けてきた。銃剣を振りかぶると思いっきりエイプリルの方へと突き進んでくる。 だが、エイプリルは怯まなかった。逆に両手を広げてブロックする態勢を取る。 さらにティアリアがエイプリルと並んで両手を広げて道を塞いだ。 「……分かっているわ、どう足掻いても、わたくし達だけでは絶対に間に合わないって事くらいは。それでも、助けられる限り助けなくて、なにが『先生』よ」 ティアリアは禍臥辻の攻撃を受けながら決意を込めた。 先ほど死んでいったあの若い女教師を助けることができなかった。 同じ教師としてあのひとは立派だった。 それなのに自分だけがもうだめだと弱音を吐いてどうするんだ。 戦う前から勝てないと諦めていては何も達成できない。 あの女性教師から大事なことを確かに教わった。 「諦めたりなんか、しないのよ!」 ティアリアが叫んだ。接近してきた禍臥辻の銃剣を身体で受け止める。 激しい痛みとともに目の前がふらついて倒れそうになった。 その時、エイプリルが横から敵に向かって閃光弾を放つ。 フィクサード達は不意を突かれた。前ばかり気にしていて後ろから挟み込まれていることに気がつくのが遅れていた。自負がブレイクされて双葉の攻撃が苛烈さを増す。 「この炎を以って浄化せん、紅蓮の華よ、咲き誇れ!」 業火の炎が後方の猫目達を巻き込んで辺り一面は火の海になった。両面宿儺と土隠も逃げ出すとするが今度は背後からシェリーの弾丸の餌食になる。 燃え盛る炎の中で最期に禍臥辻が焼けになって銃剣を思いっきり振りかぶってきた。 禍臥辻の弾丸が二人に容赦無く襲いかかった。 激しい銃撃にエイプリルは膝を着いて倒れてしまう。銃撃を浴びながら絶対に子供たちへ攻撃させるわけにはいかないと耐え続けた。 だが、その隙に先生と生徒達は山の奥へと姿を消すことに成功していた。 その時、エイプリルとティアリアの前に富江の巨漢が立ちふさがっていた。 禍臥辻の猛攻を浴びても富江は耐えに耐え続ける。 「HAHAHA! これでまだまだアタシは倒れない、……いや、まだまだどころか絶対に倒れないさ、なんたってアタシは絶対者。絶対に倒れないから絶対者なんだよっ!」 富江の気魄についに禍臥辻は息を切らした。力が弱まった所を狙ってシェリーと双葉の流れるような火の猛攻が禍臥辻を飲み込んだ。 炎上する炎の中で禍臥辻は体力を消耗させて力尽きた。アーティファクトの蜂比礼が施された腕を突き上げて。人差し指を天に翳してやがて灰となって崩れ落ちた。 ●明日への教え子 禍臥辻がリベリスタ達の集中した猛攻によって敗れ去ると、残っていたフィクサードたちは戦意を喪失して森の奥へと去っていった。 敵がこれ以上子供たちを虐殺する意志がないことを見てエイプリルも深追いしなかった。これ以上追いかけるとこちらにも犠牲が出る恐れがある。 敵が戦意を喪失して逃げてくれるならそれに越したことはなかった。 誰も死なずに敵を撃退することが出来てよかった。 子供たちや先生たちも最小限の被害で食い止めることが辛うじて出来た。 文字通りそれは決死の気魄だった。 誰もが最初から強い敵に諦めずに勇猛に戦ったからだ。 「だけど、私は――」 ティアリアは死んでいた若い女教師のことで胸が張り裂けそうだった。 絶対に守ると約束したのに彼女を救えなかった。 同じ教師として失格だ。彼女はもう二度と戻ってこない。 どれほど嘆いたとしても先生の代わりはいないのだ。 「ティアリア先生、泣かないで」 その時だった。ティアリアの袖を三つ編みをした女の子が引っ張っていた。 あの女教師が自分の命と引き換えに守った女の子。 「貴方は――?」 「わたし、わたしは明日美って言うんだよ」 三つ編みの女の子はティアリアに向かって微笑んだ。 側にいたシェリーが明日美をおんぶする。 強い意志を持っているその瞳はまるであの先生のようだった。 「明日美は将来何になるのじゃ?」 「わたしは先生になるの!」 シェリーが何気なく訊いた質問に明日美が答えた。 ティアリアはもしかしたら明日美は立派な先生になるかもしれないと思った。 彼女ならきっと子供を守る素敵な先生になるだろう。 すでに辺りには夜が明け始めていた。陽の光が暗かった校舎を明るく照らしだす。 ティアリアはともに戦った仲間とともに祈った。 どうか明日も、平和で美しい日でありますように――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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