●暴 暗い雲が立ち込める町を、危なっかしい足取りをした男が一人、歩いていた。その傍にいるのは灰色の土人形と、双頭四つ腕四つ足の異形である。傍から見ればなんとも、どこまでも、珍妙で胡乱で不気味な三人衆。 そんなのが駅前の広場を憚らずに歩いているのだから、否が応でも人々の目が集まった。何だあれは。コスプレイヤーかチンドン屋か。視線。視線。その中で異形達は立ち止まる。 「……おまえ、と」 徐に、一般人を指差したのは男だった。 「おまえと、おまえと、おまえと、おまえと、おまえと、おまえと、おまえと……」 そのまま一人ひとり指差していく。だが途中から分からなくなったのと、数が多いので、その男はそうするのを諦めた。それと同時に近くの者の顔面を殴りつける。獲物を抉り喰らう様な一撃だった。頭部の、顔があった部分を綺麗に貫通した拳。 どよめきが走った。それから悲鳴が迸った。一目散に怯えて慌てて逃げ出すそれらに、拳から血を滴らせる男はニィと笑む。 「ぜんぶころせって、裏野部一二三様(かみさま)がゆってうからそうするわ。そうやっえアタマいいふりしてきどってるのもいまのうちらぞ。このせかいがかわるんらってよ。すごいとおもうぜおれは。かみさまになんて、なろうっておもったってなれないよ。なんだっけ。それで。おまえとおまえだ、そうだよなにみてんだころすぞ。ころそう。そうだころせってゆってたんだっけ、そうだぜんぶころすんだった。よしいくぞおまえあ!」 「『……、』『いつもそうやってお前は力です~ぐ解決したがるだろそれが駄目なんだってちょっと一旦クールになってからどうにかしろって俺はいつも』『……め、目、痛いよお……』『おまえのかーちゃんでーーーべそーーーー』」 「今日こそ我等の世の始まりである」「然り」「では只管に励もうか尾尾歯」「そうしようか尾尾歯」 実に多彩な声。明らかに3人分以上の声。 3人分以上なのは声だけではない。 男が拳を構えた。土人形が砲と斧を構えた。異形が矢を番えた。 唸る。 鮮血。 断末魔。 ●暴々 「遂に裏野部が――否、今や『賊軍』と名乗る裏野部一二三勢力が、大規模な行動を開始しましたぞ」 事務椅子に座した『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が低い声で言い放つ。その背後モニターには四国全域が映し出されていた。先日、四国にアザーバイドを含んだ裏野部勢力が集結しているという情報があったばかりである。 「四国上空は現在、裏野部一二三によって誕生させられた意思を持つ巨大雷雲Eエレメント『ヤクサイカヅチノカミ』の放つ雷により、四国へ出入りせんとする一般の艦船・航空機は航行不可能な状態にあります。3つの本州四国連絡橋も賊軍の手で封鎖されてしまいました。 実質……現在の四国は陥落したも当然、といった状況ですな。ですが彼等が四国だけで満足する訳がなく、その目的も四国の支配ではございません。 裏野部一二三の狙いは『この国の全て』――彼は圧倒的な力をつけ進化する為に、四国の全ての民を残さず喰らって自らの力にせんと目論んでいるようですぞ」 凡そ人間的な考えではない、とメルクリィは顔を顰めた。あまりにも邪悪。あまりにも非人間的。最早それは人を辞めた存在なのであろう、と付け加え、機械のフォーチュナは説明を続けた。「問題はその『喰らい方』なのである」と。 「彼は部下であるフィクサードと吸収したアザーバイド勢力に大虐殺を命じております。 刺青型アーティファクト『蜂比礼』。これを刻んだ賊軍フィクサードは裏野部一二三からの力の供給によって強化されております。 彼等が虐殺を行い人命を『喰らう』事で裏野部一二三は際限なく強化され続けますが、逆に彼等が人々を虐殺できずに死ねば、分け与えた分の力は回収できずに裏野部一二三の力は減じる事になりますぞ」 賊軍は確かに強力にして凶悪にして最恐最悪の集団だ。だがそれを纏めているのは裏野部一二三と言う強力な個人であり、それ故組織としては非常に脆い。 即ち、極端な話をすれば裏野部一二三さえ殺せれば賊軍は瓦解するであろう。 その為に、だ。 リベリスタ達は虐殺を阻止せねばならない。 裏野部一二三の強化を防がねばならない。 そしてその為には――戦わねば、ならない。 「凶悪な敵が、皆々様の前に立ち塞がる事でしょう。決してご油断無く。 そして――どうか、どうかお気を付けて、行ってらっしゃいませ」 ●暴々々 辿り着いたリベリスタ達の視界には赤い色が一面に広がっていた。死体だらけだった。尚もあちこちで悲鳴。雷鳴。 ゴッ、ぐぢゅっ、ぐしゅっ。鈍い音が断続的に響いている。 倒れた一般人に馬乗りになった男の背中が見える。拳を何度でも振り落としているその姿が。 だがこちらの気配に気付いたのか、それがピタリと静止した。ふらつくように立ち上がる男が、振り返る。返り血で真っ赤な色をして。 「おまえらもだ」 へ、へ、へ、と肩を揺らすフィクサードがリベリスタを指差した。血でぬめる指先から滴り落ちる、赤。 臨戦態勢をとるリベリスタの正面にはフィクサード。見渡せば周囲にはリベリスタを取り囲むように二体の異形。 戦いだ。戦いが始まる。酷く粗野で、酷くシンプルなそれが。 弱肉強食。――喰わねば、喰われる。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月09日(日)23:00 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●B 雷鳴。稲光に照らされた夜は、死体と絶叫に彩られて血塗れていた。 これを惨状と言わずして何をそう形容しよう。 咽までこみ上げた気持ちはされど、ぐるぐるぐちゃぐちゃ言葉にならなかった。『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)が思い返すのは先日の惨劇。怒りに我を忘れそうだった。だが、『今生きている人達を守らねば』という思いが彼女を冷静にさせる。血が滲むほど拳を握り締めた。深呼吸を一つ。 この光景は、己の所為でもあるのだ――『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)がその光景から目を逸らす事はない。目を覆って逃げる事なんて許されない。 (ただ、今は私に出来る最善を) これ以上、何かを取りこぼす事がない様に――『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)を突き動かす思いもまた同様。 (……私は、私の眼に映る人を守りたい) 何も知らず、普通に普通の幸せな人生を送っている人が、突然理不尽な暴力に晒されて命を落とすなんて。神秘以外にもそういう不幸はあるかもしれないけれど、そんなの許される事じゃない。だからこそ、防げるものは防ぎたい。己の力は、その為に。ダイヤの雪をあしらった指輪を、アリステアはそっと撫でた。 (私、頑張るね) 一緒に戦う皆と、明日からも生きて行く為に。 「しかし賊軍とはまた気取った名前だぜ。神気取りの愚連隊の間違いだろ?」 吐き捨てる様に言ったのはランディ・益母(BNE001403)だった。その言葉に、そして駆け付けたリベリスタの気配に、賊軍達が振り返る。 ごろごろ、ぴしゃーん。再度の雷鳴が、戦場をおどろおどろしく照らし出した。 火の点いた導線が爆薬へ向かう様に。 全ては烈火の如く、始まりを告げる。 「『そっち』は任せたぞ」 ランディがさっと視線を送れば、頷いたのはアリステア、アンジェリカ、ミリィ。一般人を少しでも救う為に動き出す。 「しっかりして!」 阿鼻叫喚を切り裂く様に声を張ったのはアンジェリカ。その身体より発せられるオーラは、僅かながらも周囲の人々のパニックを和らげるか。腰を抜かしていた者は無理矢理にでも立ち上がらせ、喚き散らすならば張り手して言い聞かせる。 「ボク達が食い止めるから早く逃げて!」 「逃げて! ここから走って!」 強結界を周囲に張り巡らせるアリステアも声の限り叫んで一般人の避難を促す。状況に思考が追いついていない者だらけ、そんな緊急事態時の指示はシンプルな一言命令が一番だと聞いた事がある。 (お願い、逃げて……!) その祈りが届いてか、彼女等の行動は決して無駄ではなかった。時間さえあれば一般人はこの場から逃げ去るだろう。 「意識を確り持って下さい! そして、今はただ振り向かないで走って!」 ミリィもその声を以て一般人の背中を押す。その目はしっかと戦場を見澄ましていた。その手に持つは『果て無き理想』と名付けられた白亜のタクト、まるで音楽を奏でる様に凛然と揮いながら。 「任務開始。――さぁ、戦場を奏でましょう」 今日も今日とて、少女は勝利と理想を証明する為に戦いと言う名の旋律を紡ぐ。皆の力を逸脱させるほどに。 「貴方達の相手は私達です。何時までも余所見をしていては怪我だけでは済みませんよ?」 不敵に笑んで挑発してみせる。それらは全て、賊軍の目を一般人から自分達に移す為。既に『演奏』は始まっているのだ。観客にして演奏者は自らであり敵であり――怒号と罵声が、喇叭の如く鳴り響く。 「とっとと失せろ! ぶっ殺すぞ!」 間誤付く一般人を死なない程度に蹴っ飛ばし、猛然怒涛と前に出た『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)は怒れる獅子そのものである。立ちはだかるは矢と剣を番えるアザーバイド両面宿儺:尾尾歯の眼前。ガンを飛ばす。 「好き勝手暴れ放題してくれるな鬱陶しい」 「規則に従わねばならない規則など無い」「あったとしても従わねばならない道理は無い」 「あぁ、いいぜ。この前殺しきれなかったアタシらが悪ぃんだ。後腐れないように全員ぶっ殺してやらぁ!」 それは己の絶対主張。咆哮の様なそれは大気を理をも震わせる。その中を、尾尾歯の氷と炎の矢が二重に飛んだ。リベリスタに降り注ぐそれらの中を一直線に駆ける存在がある。拳を振り上げたその男の名は陀木 成、歯列を剥いて躍りかかる。 「てんめえええこら赤坊主こらウォラァアアアアアアアアッ!!!」 ゴキッ、と鈍い音がする。成の拳をコメカミに受けたのは『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)。その表情は気怠げに、一滴の血を垂らしながら溜息一つ。 (昨日の今日かよ鬱陶しい) 言葉も喋れんガキ。出来損ないゴミ人形。封じられてたアザーバイド……端から端まで役立たずじゃねぇか。 しかし、だ。そんな『ゆかいなナカマ』ともこれでおさらばかと思うと、やはり、 「……爆笑だなぁこりゃあ」 「あああ゛ア゛!? だれあばくしょうらこらあああっ」 「あぁうん 流石は裏野部でも一二を争う愚昧蒙昧暗愚の馬太郎 とても敵いそうにねぇ……」 「ふっ! やっとおれのすごさがわあったようらな! ふはは! ざまあ!」 因みに火車が言ったのは隅から隅まで悪口なのであったが、ノータリンの成には伝わらなかったようだ。コイツ真正バカだ。よし今日も放っておこう。火力落ちんなら儲けモンだ。 火車は駆け出す。ボッ、と鬼暴で武装した拳に炎が灯った。そのまま振り抜けば巨大な火柱が周囲一切を獄炎の底に閉じ込める。赤く染まる光景。赤く照らされる全て。 それらを全て切り裂いたのは、荒れ狂う鏖の斧だった。炎の中からゆらり、と現れる白黒木偶。掲げられた斧からリベリスタ達の血と血と血が流れ落ちる。 「『……飛行機……』『はぁ、寒いとメカってるぽんぽんがむっちゃ冷えて辛い訳よ~マジでマジで』『……』『ちょっとぉ~~聞いてる聞いてますもしもぉーーし?』」 意味の無い言葉――否、言葉ですらない雑音。それを撒き散らす木偶の前にランディは立ち塞がり、グレイヴディガー・ドライを構える。片刃の斧が纏う瘴気が静かに揺らいだ。言葉は無い。前々からそうだ、お互い戦いながらベラベラ喋る性質ではなかった。1000の言葉を連ねるより、斧の一撃が何より雄弁。 ならば――やはり言葉は無く。有りっ丈の闘気を込めてランディが壊すものを振り被った。迸る力の奔流に刃が啼く様に唸る。 一閃。激しい力の砲撃が白黒木偶の真正面から襲い掛かる。衝撃。立ち上る土煙。曖昧な視界。 けれどその中に、キラリと。新月よりも黒く光ったのはアンジェリカが携える巨鎌La regina infernaleだった。そしてこの惨劇の中で朗々と紡がれるアリアは、少女が歌う鎮魂歌。白黒木偶との間合いを詰めるその姿は光と共に五重となり、独唱は重奏となる。 最適に戦う為に死者を足場にする事を心の中で詫びながら。その死者達の幸福な転生を、手にした刃の冥界の女王に祈りながら。 (今のボクにはこんな事しか出来ないけれど――) 致命的斬撃の嵐。賊軍に食らわれた者の怒りと哀しみを刃に乗せて。 衝撃に白黒木偶がタタラを踏む。血肉の代わりに土の欠片が、周囲に散った。 ●B2 リベリスタは作戦通りに動いていた。 尾尾歯は瀬恋とミリィが挟撃の形でブロックし、後衛のアリステアを除く他全員は白黒木偶を取り囲む。全員で白黒木偶へ集中砲火を浴びせている。 しかし同様に賊軍も猛攻勢を浴びせてくる。尾尾歯の矢と剣が、炎と氷が手数を以てリベリスタを苛み、成は憎き火車へ拳を繰り出し続け、白黒木偶の砲と斧が暴力を撒き散らす。 激しい、激しい、文字通り血みどろの戦い。腹を空かせたケダモノの咆哮めいた雷鳴が轟き、落ちる雷がアリステアを襲う。ふらっ、と身体から力が抜けたのは落雷による激しい衝撃だけではない。白いドレス、その腹部は少女の血で真っ赤に染まりきっていた。今やリベリスタに無傷の者は誰一人いやしない。 だからこそ己が仲間を支えるのだ、と。倒れそうになったアリステアは杖を突き、それに縋り姿勢を凛と伸ばす。 「私の祈りは、大切な皆の為に――身体が動く限り、できる事はやるの」 誰かが死ぬのは嫌だ。そんなの駄目だ。見たくない。だからアリステアは悲劇を拒絶する。祈って、願って、組んだ指に光るプラチナ。救いアレ、奇跡あれ、安寧と平穏あれ。 ――アリステアの祈りに応えて、全てに博愛と慈愛の手を差し伸べた者が『誰か』なんて、少女は知らない。名前も顔も。 ただ彼女にとって大切な事は、『仲間を癒す事』。それが、全てだった。 デウス・エクス・マキナ。身体を焼く炎を拭われたミリィはけれど、火傷の残滓に顔を顰めて苦痛の声を噛み殺す。生々しい赤い火傷が刻まれた手でしっかり指揮棒を握り締めて離さない。夢を理想を手放さない。その理想(ユメ)の為に幾ら傷つく事になろうとも。運命の花弁が散ろうとも。 「私は、私達は貴方達にだけは負けられない! 貴方達が作ろうとしている世界なんて、絶対に認められないから」 ミリィの強い眼光が白黒木偶を貫く。まるで巨大な鉄槌に殴られたかの様に土人形が蹌踉めいた。 それの終わりは近い――攻撃の手を緩めぬまま、火車は拳を振り上げる。ヒビ入り半壊ラジヲなんざ速やかに粉砕するに限る。 「ドタマっから壊してやっからよぉ、気の利いたエンディングくらい流せよ!」 殴打。重なるのはアンジェリカが振るう鎌、瀬恋の砲撃。そして白黒木偶の返す全撃。踏み止まる。ふうっと瀬恋は噛み締めた歯列より血交じりの息を漏らした。 (あの野郎) ムカつく。が、己よりムカついているに違いない者がいるだろう事を、瀬恋は知っている。 「しっかりやれよ? 益母のニーサンよ」 「当たり前だ」 応えたランディが白黒木偶の間合いに踏み込む。目の無い顔に視線を合わせる。 「お前らは好き勝手やって獣の様に生きるが裏野部つったよな」 「『……』」 「神に縛られ、死を縛られ、何処が自由だ。神より神を殺す獣にでもなった方が響くぜ、何倍もな」 「『『あああああああああああああああああ』』」 多重の声だった。斧を振り上げた木偶。応える様にランディも斧を構え、力任せに受け止める。が、直後に白黒木偶の腹部砲が唸りを上げて弾丸を撒き散らした。執拗に処刑。何発も何発も何発も、弾丸がランディの身体を抉り続ける。被弾の衝撃はまるで電気ショックを浴び続けているかの如く、されど彼は一歩も引かずに己が斧に更に更に力を込めた。削れる運命も流れる血も全て込めて。 「これで終わりだ。――永遠にな!」 その斧が砕かれるのは3度目だった。 白黒木偶の斧を砕いたその勢いのまま、ランディは闘気を込めたグレイヴディガーを力の限り一気に振り抜く。 がつっ、と。刃が土の身体にめり込んで。 炸裂するエネルギーが、白黒木偶の身体を木っ端微塵に粉砕した。 ●B3 響き続ける戦闘音。 それはリベリスタが凶悪な敵を相手にして今尚撤退に追い込まれていない事を意味している。 が、それでも消耗は零ではない。白黒木偶が倒し、精神力が大きく削られ続ける事を防げたのは僥倖か。 殴打音。成の拳が火車の腹部を捉える。食い千切る殴打。ぶぢゅっ、と骨に臓物が拉げた音。げほっ、と湿った声は血交じりの胃酸を吐いた音。 「とどめらうるぁああああ!」 成が追い討ちをかけんともう一発、拳を振り上げる。 が――その一撃は火車には届かなかった。 「よくも散々悪友ボコってくれたモンだ」 火車と成の間に割って入り、肩部装甲で成のパンチを受け止めたランディがフィクサードを睨みつける。 「んらーてめえ……てめえも赤いのか! どいつもこいうも赤いろでよぉ、なんらあああ赤鬼野郎ぅああ!!」 「超裏野部級の間抜け面が。せめて人間の言葉で喋れ、愚図め……その煩ぇ口にでっけぇのぶち込んでやるぜ!」 「くいちぎってやうああああああっ!」 咆哮を上げた成。の、横っ面を真っ直ぐぶん殴ったのは瀬恋の重い拳だった。 「ピーピーうるせぇな、タマついてんのかよ」 「しゃぎゃああ! てめえなぐりやあったな!」 「おいおい、パパに貰った玩具で大はしゃぎか? 馬鹿雑魚にゃお似合いのダサ行為に間抜け面だなぁ?」 「ふぬぅあ! だまれぼけ! だまらすぞ!」 「どうやら 黙らせられてねぇみてぇですけど? 飼い主に躾 頼まなかったんか?」 そこで成を一瞥したのは口内の血唾をペッと吐いた火車である。皮肉たっぷり鼻で笑い、成が何か言い返すのは聞き流し、据えた視線の先には尾尾歯。 「他トコの奴が! オレ等んトコで! 好き勝手してんじゃねぇ!」 足元より立ち上る陽炎。まるで地面を縮めているかの様にアザーバイドとの間合いを一気に詰めた火車が燃える拳を振り被る。ここからだ。これからだ。喉貫通してヤっから、と殴りつける。殴り続ける。 リベリスタが次の標的として定めたのは尾尾歯だった。 立ち向かう皆を、アリステアはその祈りで背中を押す。頑張って、なんて言うのは今更だ。痛いのも苦しいのもさっきからだし、自分だけじゃない。祈り、吹き渡る癒しの息吹。今、少女の唇は神聖魔法の呪文を紡ぐ為にあるのだ。聖なるかな、と彼女は謳う。戦いを終わらせる為に、戦いを長引かせる為に。 は、と呼吸を整え、ミリィはすぐ傍のアンジェリカに目配せする。一瞬のやり取り、指揮するは戦闘作戦。アンジェリカが頷いた。 「いきますよ……!」 既にミリィの精神力は無い。黄金の髪を靡かせて、アザーバイドの間合いに真正面から飛び込み挑む。そのまま思い切り、尾尾歯の身体に組み付いた。複数ある手が絡む様に、その動きを阻害する。 「ぬぅ、小癪な!」「なんと、邪魔な!」 二つの顔が不機嫌に顰められ、炎と氷の双剣がミリィの身体に突き立てられる。柔らかい少女の身体をいとも容易く貫通する大振りな二つ。 「――~~っ……!」 鮮血。血飛沫。少女の意識が断ち切られる。 が、その隙に。背後より忍び寄るアンジェリカが死神の如く『地獄の女王』を振り上げていた。精神力を貪る術を持つ彼女は奪った力で必殺技<ロイヤルストレートフラッシュ>を行使する。一閃、二閃、アザーバイドの背中に刻み付ける断罪の十字架。完璧に死角を突いた驚異的にして致命的な一撃。 「「貴様ァ!」」 振り返りざまに尾尾歯が怒りに任せてアンジェリカを含めた多方向へ矢を放つ。降り注ぐ火と氷。暴力の雨。その中を、瀬恋は駆けた。助走を付けて、力の限り両面宿儺の顔面を殴りつける。 「イライラさせんじゃねぇよ負け犬がぁ。今更出張ってくるんじゃねぇよ! 二度と土の下から出てこれねえように徹底的にぶち殺してやる!」 再生の暇など赦さない。もう一度、もう一度だ。既に自己強化は切れ、炎と氷が命を削り苛む中、瀬恋は臆す事無く立ち向かう。 もう一度だ。確実に、殺す為に。この苛立ちを如何にかする為に。ただ、敵を斃す為に。 「あぁ、っとにムカつくわどいつもこいつも! 弱い者いじめして強くなろうなんつーしみったれたとこが特によぉ! 一匹も生かして帰してやるかってんだクソボケがァアアアアアッ!!!」 烈火の様な衝動を拳に込めて。地面をしっかと踏みしめ狙う獲物を逃がさない。 振り被る右拳。幾つもの死地を乗り越え、切り開いてきた傷だらけの拳。根性こそが最終兵器。 迫る拳。咄嗟にアザーバイドは腕を構えて防御体制をとったが、そんなモノなど瀬恋の前では何の役にも立たなかった。防御の腕ごと貫き、尾尾歯の上半身を消し飛ばす。 ざまあみろ、と掠れた声で呟く。その時にはもう、灼熱と零下に体力を蝕まれ力尽きた瀬恋は前のめりに倒れこんでいた。 正に壮絶な削り合い。 だが体力・精神力的にもリベリスタはほぼ限界を迎えていた。 その強力無比な回復力で仲間を支え続けていたアリステアが雷に打たれ、遂に倒れる。これで倒れた者は三名、撤退のライン。 アイコンタクト――そこからのリベリスタの行動は素早かった。倒れた仲間を抱え、成を射撃で牽制しつつ、撤退する。 「あっ……くそ、ああー! またにげらえた!!」 頭を抱える成であったが、全ては手遅れ。一般人はリベリスタが戦っている間にすっかり避難してしまった。アザーバイド達ももう居ない。撤退したリベリスタにも追いつけない。賊軍としての作戦は大失敗という訳だ。 雷鳴の響く戦場。夜はまだ明けない―― 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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