●賊軍跳梁 四国を暗雲が覆う。稲光を放つ雷雲が。 それは自然発生した雷雲ではない。『ヤサカイカヅチノカミ』と呼ばれるEエレメント。伝承を信じるなら天地開闢時に生まれたイザナミ神八柱の一。雷神とよばれ、古くから信仰の対象となった存在だ。 その真偽はさておき、『ヤサカイカヅチノカミ』は嵐を生み出し航空航海を妨げ、階位結界により通常兵器を阻むほどのエリューションである。そして裏野部――今は賊軍を名乗っている――により四国を繋ぐ三つの端は封鎖される。これにより四国は物理的に隔離され、容易に手の出せない状態になった。 そして四国に鎮座する賊軍の王、裏野部一二三の目的は四国の支配に留まらない。 賊軍の王は部下達に『『蜂比礼』と呼ばれるアーティファクトを刻む。それにより力を増した賊軍たちは一二三から力を与えられ、同時に一二三の『蛇比礼』とリンクする。彼らが人を殺せば殺すほど、一二三の力が増すのだ。 そして『蜂比礼』を刻まれた賊軍たちは四国で虐殺を始める。力なき一般人を初め、そこを守るリベリスタや元同胞であった七派フィクサードまで。賊軍以外は皆殺しにし、その力を賊軍の王にささげる為に。 阿鼻叫喚。屍山血河。悪逆無道。 四国の地が、悪意に染まる。 四国はまさに地獄だった。 弱い者は死に、力のあるものが支配する。賊軍が元裏野部というフィクサード集団であることを証明するかのように、狂乱は繰り広げられていた。 「壊せ壊せ! 殺せ殺せ! 四国全てのモノは、我等が王の一二三様のものだ!」 「「「王! 王! 王!」」」 「大地を血で染めろ! 叫喚を響き渡らせろ! 暴力で己を示せ! 我等は何者だ!」 「「「賊軍! 賊軍! 賊軍!」」」 「賊軍の使命はなんだ!} 「「「破壊! 略奪! 殺戮!」」」 「そうだ! 我等が王より授かりし『蜂比礼』を通じて、死者の怨嗟や悔恨が一二三様の元に送られる! それにより我等の王は力を増すのだ! 故に壊せ! 奪え! そして殺せ! 王がこの四国を、そしていずれは日本全てを食らうために!」 「――日本を食らう? 戯言を」 突如響く女性の声。そして緋の剣線が走る。 攻撃を仕掛けたものを見れば、彼岸花の着物を着た一人の女性がいた。その手には日本刀を持ち、その周りに刀型のEゴーレムが浮遊している。 「聖四郎様の物となるこの国を汚すか、賊軍。我が刀『緋一文』の露となるがいい」 「は! 『蜂比礼』を得たこの俺に勝てると思うなよ! 一二三様の持つ『蛇比礼』から流れるこの力! 全ての風を我が手の元に!」 叫んだ男の体に浮かぶ刺青。風が唸り、嵐と化す。それに呼応するように、賊軍たちも破界器を構える。その構えと動きが精鋭であることを示していた。 しかし着物の女は臆さない。真っ直ぐに男達を見据え、刀を構える。 「嵐とは縁起がいい。私は風を止める凪の刃。 『緋一文』神埼紅香。その嵐、ここで消え去る定めと知るがいい」 ●緊急連絡 『エマージェンシー、エマージェンシー! ポイントDWに神秘の嵐が発生しました』 四国入りしたリベリスタたちは『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)から入ってくる通信を耳にする。 『嵐の発生元は賊軍の模様。放置すれば近くで避難している一般人を巻き込みます。早急な措置が求められます』 緊急事態にもかかわらず、和泉の口調は冷静だ。だがその内心が穏やかでないことは、付き合いの長いものなら分かっている。敢えて『仕事』に徹することで、目にした惨劇で崩れそうになる自分を保っているのだ。彼女はこの嵐を放置したときの未来を『視て』いる。 『賊軍のデータ、および『まつろわぬ民』のデータを送信します。追加情報ですが、賊軍と闘う正体不明(アンノウン)がいます。賊軍の敵のようですが、完全にこちらの味方というわけでもないようです』 幻想纏を通じて情報を確認したリベリスタは、しかめた顔をする。なるほどこれは味方とはいいがたい。共闘できるかも怪しい所だ。 『付近のリベリスタチームは排除に向かってください』 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月11日(火)22:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 賊軍の戦力。『蜂比礼』による身体強化。そして『颶風』。猪俣はこの三重の防壁で自分自身を守り、大魔術を行使していた。それが猪俣率いる賊軍チームの勝ちパターンだ。 神埼一人ではこの防壁を突破できない。故に退却して、虐殺阻止の為に自ら避難所に向かうつもりだった。 ――リベリスタがやってくるまでは。 「賊軍ねぇ……なにを気取ってんだか」 リベリスタの一番駆けは鷲峰 クロト(BNE004319)だ。荒れ狂う嵐を貫く風のように、日本のナイフを構えて疾駆する。高速で振るわれるナイフが煌き、低温を生む。時すら凍らせる羽根の一閃。二太刀は止まることなく翻る。 右のナイフを払い、左のナイフを突き出す。風狸は一撃を身をひねってかわす。避けられた? 否、避けさせたのだ。クロトは体制を崩すことなく体を回転させ、風狸を蹴り飛ばした。バランスを崩したアザーバイドを追うように両手を交差させて日本のナイフを十字に振るう。 「まったく下らないな」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は目の前の猪俣に向かい、静かに言い捨てる。神だの賊軍だのといったところで、裏野部の根本的なところは変わらない。力を得て、暴れまわるただの子供だ。 ユーヌは手のひらに光を生み出す。蛍のような小さな光はユーヌの意思に従い敵陣に進む。戦場全体を眺め、誰もが注目していない瞬間を見計らい飛ばす。わずかな間隙だが、気付いたときには既に手遅れ。蛍は光となり、爆発して賊軍の足を止める。 「どうせどこに居ても当たるのだ。ならば……至近距離を取らせて貰おう」 メガネのブリッジを押し上げて『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は歩を進める。脳内を駆け巡る様々な戦略パターン。『万華鏡』の情報を起点にして生み出された様々な予測。それをわずか一歩の間に整理する。 ブリッジを押し上げた指先を下ろし、横に振るう。圧倒的な思考の本流がその動作の中で集い、そして爆ぜる。瞬間の圧力なら猪俣を超えただろうか。その圧力に耐えかねたクロスイージスの賊軍が、後ろに吹き飛ばされる。 「弱いヤツしか狙えない腰抜けどもが。オレが相手してやるよ」 巨大な『虎的獠牙剣』を構え、『力の門番』虎 牙緑(BNE002333)が牙をむく。呼気と共にその身に降ろすのは老いた虎の姿。竜生九子不成竜の第四子。義侠心に富み、罪人に悪を裁く獄門の監視役。 賊軍の刃が牙緑に迫る。速度で相手の動きを止めるソードミラージュの武技。されど賊軍の刃は牙緑を止めることができない。身に宿った虎の加護が牙緑を守る。振り上げた一剣が、お返しとばかりに賊軍に振り下ろされた。 「神などと自称する者が碌な奴ではあるまい」 『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)が賊軍の頭のことを思いながら、破界器を構える。神を模した作製物が所持していた神の武器の偽者。幾度と無く激戦を潜り抜けてきた戦友。それを手にし、自らに神秘の力を纏わせる。 『乾坤圏』……そう呼ばれる破界器。本物なら、投擲すれば頭を穿ち戻る宝貝。偽者のそれにはそんな力はない。だが、使い手が一流ならそう思わせるだけの威力が生まれる。音と共に腕輪が飛び、避ける間も与えぬ速度でアザーバイドの頭を穿つ。 「避難所を襲わせるわけにはいかないね」 飛行の加護を全員に与えながら『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)が口を開く。闇を見通す瞳は、多くの人が避難している学校の姿を捉えていた。雷雲とどろき、賊軍による虐殺が続く悪夢。それを絶たねばならない。 羽根を広げ、意識を集中する。祈りを胸に、力を御手に。イメージは柔らかな風で仲間を包むように。大事な人の手を繋ぐように優しく遥紀は術を行使する。穏やかな光がリベリスタと神埼を包み、その傷を癒していく。 「ほう。礼を言うべきか」 「リベンジは一旦お預けよ」 予期せぬに回復に問いかける神埼に『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が答える。ロンドンではひと悶着あったが、今はそれを言っている場合ではない。 六枚の黒い羽根を広げ、フランシスカが舞う。手にした大剣は異世界の戦士より誇りと共に譲り受けたもの。体内に宿る闇のオーラを剣に乗せる。横なぎに剣を振るい、生命力を奪う風を生み出す。巻き込まれた賊軍が呼吸を乱した。 「…………」 『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は神埼と一瞬目が合い、目礼を送る。直接の面識はないが、話は聞いている。彼女とはけして相容れない仲ではあるが、折り合いをつける余地はある。故に今は何も言わない。 刀と剣を抜く。息を吸い、そして吐く。一連の動作により、竜一の心が研ぎ澄まされる。荒れ狂う炎と水面に広がる水滴。異なる二つの因縁を繋ぐのが彼の掲げる『合縁奇縁』だ。刀と剣を持つ二刀流の戦士は、その身に軍神を降ろして回復手を庇うため破界器を構えた。 「邪魔しに来たか、アーク! だが嵐は止められない! 共に死ね!」 猪俣が風をまといながら、リベリスタに向かって叫ぶ。賊軍もその風に背中押されるようにいきり立つ。 暴風は荒れ狂う。しかし暴風に負けぬ位置で、リベリスタたちは前に出る。 ● リベリスタは基本的に神埼を攻撃しない方針でいた。神埼もそれに習い、リベリスタを巻き込まないように動く。賊軍を倒さなければならないのは、共通だからだ。 だがさすがにこちらの作戦に従わせるのは無理なようだ。背中を預けるつもりも無い為、賊軍の押さえもリベリスタに有利なようには行ってくれない。 「おいまつろわぬなんちゃら、お前らほんとはアザーバイドじゃなくてE・ビーストだろ?」 クロトが風狸にナイフを向けながら語りかける。挑発に怒りを感じたのか、風狸はクロトのほうを向いた。 「ほら、ウッキーウッキー泣いてみろ? 団子やっから、そのまま山に帰って温泉に浸かってな」 「俺たちが獣にしか見えねぇのか。しょぼくれた目だから仕方ねぇな」 しかし挑発を返され、誘いには乗ってこない。仕方なくクロトは二本のナイフで風狸に切りかかる。上手く多くを誘えれば一気に刻んでやろうと思ったのに。 「お久しぶりね、緋一文。倫敦ぶりかしら?」 「久しいな」 フランシスカと神埼が向き合い、互いの破界器を向ける。ほぼ同時に攻撃の態勢に入り、一歩踏み出し抜き放った。刃は――互いの後ろから襲い掛かろうとした賊軍を切り裂く。 「リターンマッチに余計な横槍入れられるのは嫌なのよね。つーわけでわたしも賊軍潰すのに一枚噛ませてもらうわよ。倫敦の時の借りもあるしね」 「キマイラ打破はこちらの利でもあったのだがな」 剣を交えて負け、だけど見逃してもらった。ロンドンで受けた恩はそんな程度のものだ。だからこそ、その借りはここで返す。フランシスカは黒の大剣を構え、賊軍に向き直る。 「ならば今も利的関係で敵対しないということだ。この国が狂った野蛮人共に乗っ取られるのは俺もご免なのでな」 伊吹が白の腕輪を投擲しながら神埼の言葉に応える。神埼のことは資料でしか知らない。『直刃』の一人、手練のダークナイト。そして賊軍に殺される前に一般人を殺すことを厭わないフィクサード。やはりここで討つべきか―― 頭を振ってその思考を振り切る伊吹。今はそれを思う時ではない。一人でも多く敵を倒すときだ。投擲した腕輪は伊吹の意に従い風狸を追い詰め、その頭蓋を穿つ。そのまま地面におして動かなくなったのを確認し、次の目標に向かう。 「あの建物の中にオマエの古い友人とか親兄弟親戚とか、避難してる可能性は絶対無いとは言えないよな?」 牙緑は賊軍のソードミラージュに切りかかりながら、言葉を放つ。これで相手のやる気がそげれば、と思ったのだが返ってきた答えは意外なものだった。 「いるかもな。まさか親とか親戚だから殺せないって思ってるのか? 甘いんだよ」 「何……!?」 牙緑は賊軍の答えに怒りを感じた。彼らにとって親や親族はどうでもいい。今が楽しいからだ。それを上回る暴力という快楽が、家族の縁を断ち斬る要因となっていた。裂帛と共に破界器を構える牙緑。血の滾りを叩きつけるように大上段に剣を構え、賊軍に叩きつける。 「まさに子供だな。徒党を組んで暴れまわる」 毒舌を放ちながらユーヌは符を構える。賊軍や風狸の攻撃を受け流しながら、風狸の一匹に狙いを定める。耐久力に乏しいユーヌは、その爪が掠っただけでも手痛い打撃を受ける。だが、ここで倒れるわけにはいかない。 彼女が手にしているのは一枚の紙。だがそれには材質、色、角度、そして文字の意味。様々な要因が重なった一枚の神秘。星の力を受けた一枚の符は、賊軍が付与した回復の加護を打ち払い、衝撃で風狸を地に落とす。 「やったぜユーヌたん!」 竜一はユーヌの活躍を目にしながら、遥紀に向かって飛んでくる攻撃を捌いていた。剣と刀を用いてインヤンマスターから飛んでくる護符や猪俣の魔術を受け流し、逸らし、そして切り裂いていた。賊軍の護符の効果により軍神の加護は既に無い。だが、それは仲間を守らない理由にはならない。 竜一は闇を見通す瞳で戦場を見回し、虎視眈々と機会をうかがっていた。今のところ作戦通りに事は進んでいる。こちらの攻めも守りも問題ない。だが賊軍もそれは同じのようだ。時折飛んでくる猪俣の大魔術が、こちらを深く傷つける。 「休む暇が無いとはこのことだね」 竜一にかばわれている遥紀が回復を行う。相手の攻撃に余裕があれば、翼を広げて攻撃を加える予定だった。だがそんな余裕は全く無い。積み重なるダメージを前に、遥紀は魔力をフル稼働して祈り続ける。 やはり賊軍は回復を行う遥紀を真っ先に倒したいのだろう。敵後衛の攻撃はこちらに飛んでくる。遥紀を庇う竜一は痛みに耐えながら、相手に牙をむくような笑みを浮かべる。その痛みを少しでも打ち消す為に、遥紀は魔力を練った。 「さすがにこの混戦では押しのけるのは難しいか」 オーウェンは敵を押しのけて前に進む作戦を行おうとしていた。だがオーウェンが敵を押しのけても、他の誰かがその穴を埋めるべく入ってくるのだ。そして乱戦になれば味方も攻撃範囲に入ってくる。仲間と連携すれば可能だったのだが、已む無く断念する。 オーウェンの鋭い一撃が風狸を貫く。その一撃が風を受ければすぐに蘇るといわれた風狸の再生力を奪い、リベリスタの殲滅速度が増していく。十重二十重に策を用意するのが、優れた策士。 攻勢に動くリベリスタ。だが賊軍もそれに対抗できるほどの実力を兼ね備えていた。 最大火力の猪俣。符術でリベリスタの加護を崩しながら、玄武の力で火力を削ぐインヤンマスター。幻影を放つ剣で速度と気力を奪っていくソードミラージュ。高い防御力で賊軍を庇い、傷を癒すクロスイージス。総合火力はリベリスタに劣るが、それでも皆無ではない。 「……まだだ」 「この程度じゃ負けないわ!」 体力に劣るユーヌと前のめりに攻めるフランシスカが一度膝を突き、運命を削り立ち上がる。 「こんなところで倒れてる場合じゃないんだ」 高火力ゆえに集中して狙われた牙緑も運命を燃やすほどのダメージ受ける。歯を食いしばり、賊軍を睨む。 砂時計の砂は静かに落ちていく。風はいまだ、収まることなく吹いていた。 ● 「――時間だ」 時計を見ていた遥紀が苦々しげな口調で仲間に告げる。猪俣を倒す為に必要な時間を逆算し、そのラインまで時間が経ったのだ。理想ではこの時点で五人は倒しておきたかったのだが、それには一歩届かなかった。倒した数は風狸が四体。後衛のインヤンマスターが前に出て、残った前衛は六人。 「ぶっきー頼む!」 今まで遥紀を庇っていた竜一が前に出て、伊吹が代わりに入る。これによりリベリスタの前衛は竜一、ユーヌ、牙緑、フランシスカ、クロトの五人。 「あれ……オーウェンは?」 「あそこ!」 オーウェンは物質透過で地中を進み、単独で敵後衛まで潜り込んでいた。猪俣の側に現れ、奇襲をかける。 「最早四の五の言っていられん。特攻させてもらうぞ!」 猪俣は火力特化型マグメイガス。ならば肉弾戦に持ち込めば勝ち目がある。オーウェンの目測は誤りではない――猪俣が『蜂比礼』で強化されたフィクサードでなければ。 オーウェンの打撃を受け、その一撃を体で受けながら笑う猪俣。詠唱していた呪文を解き放ち、オーウェンを吹き飛ばす。蓄積されたダメージもあり、オーウェンはそのまま地面を転がって動かなくなった。 まずいか、とリベリスタは息を飲む。 相手を吹き飛ばせるのは、ユーヌ、牙緑、伊吹、そしてオーウェン。伊吹は遥紀を庇い動けず、オーウェンは今しがた倒れた。 「命が惜しくばそこをどけ、賊軍!」 「邪魔をするしか能が無いのか。案山子のほうがまだ可愛げがあるぞ」 牙緑の剣が風を生み、ユーヌの銃が賊軍を吹き飛ばす。それでも一人分しか道はできない。前衛を倒すたびに猪俣の元にいける数は増えるが、一気呵成の攻めとはとてもいえない。 「成せばなる! いくぞ!」 現状を理解しそれでもポジティブに踏み出す竜一が前に出る。パーティ内でも最大火力を誇る竜一の剣武は、猪俣が『蜂比礼』で強化されているとはいえ、まともに受ければ痛手である。 「やられっぱなしじゃねーぞ、ここから巻き返してやるぜ!」 クロトが賊軍の攻撃で意識を失いそうになり、運命を燃やして何とか耐える。まだ負けてはいない。賊軍前衛を倒し、一人でも多く猪俣のところに送ることができれば勝ち目は出てくる。振るったナイフが賊軍の一人を倒した。 「まだ負けてないわ! その風食わせてもらうよ!」 フランシスカが黒の剣に呪いの力を篭めて猪俣に迫る。自らの体力を削りながら、それ以上の打撃と呪いを相手に与える。 一瞬石化する猪俣だが、クロスイージスの光がそれを払う。そのまま呪文詠唱を続けるフィクサード。 「でかいのがくるぞ!」 牙緑の叫びと同時に、猪俣が魔力を解放する。重ね重ねた魔力の生む衝撃が、リベリスタを襲う。身を削って闘うフランシスカと、本来後衛なのに気丈に前に立っていたユーヌが力尽きた。そして遥紀を庇っていた伊吹と、猪俣に切りかかっていた竜一が運命を燃やすほどのダメージを受ける。 「まだだ! 散々やってくれたお返しはさせてもらうぜ。支払えよ、てめえの命で!」 限界を超えて繰り出す竜一の一撃。十字に繰り出す一撃が、風を裂き猪俣の胸に傷をつける。命脈を断った確かな手ごたえ―― 「まだだァ! 風は! 止まねぇ!」 「フェイト復活……!」 叫ぶ猪俣を見ながら、遥紀が憎々しげに言葉を吐く。後一歩まで追い詰めたのに、その一歩が届かない。 その一歩は、例えば火力の高いものが庇うことで、相手へのダメージ量を減らしたことでもあった。また猪俣攻勢に出るノックバック作戦の齟齬でもあった。短期決戦になるのは分かっていたのに攻勢に回りきれず、その結果敵殲滅速度が下がっていたのだ。時間半ばにして勇み足な行動に出たのも要因の一つだ。 神埼が無言で刀を収め、戦闘から離脱する。 「一般人の掃討なら俺も手伝う」 「お前を待つ者は、それを喜んでくれるのか?」 手を汚すといった伊吹に、神埼は冷たく問いかける。伊吹の脳裏に浮かぶのは娘の顔。戸惑う間に伊吹の横を抜けて神埼が駆けて行った。 猪俣を包む風が徐々に勢いを増してくる。竜が巻きながら天に昇っていく。 「破壊! 略奪! 殺戮!」 猪俣の風に巻き込まれないように賊軍たちが退避していく。リベリスタも倒れた仲間を抱えて戦線を離脱し始めた。これ以上ここに留まれば、あの嵐に巻き込まれてしまう。 「泣け! 啼け! 哭けェ! その悲しみが一二三様の力となるのだ!」 暴虐の嵐が、荒れ狂う。秒速40メートルの空気の奔流が、避難所を襲った。 ● 「思ったより怨念が集まらなかったなぁ。数が少なかったのか?」 嵐の塔が収まった後、崩壊した避難所から自らに流れ込む怨念を感じながら猪俣は呟く。 「猪俣サン。結構な死体がありますぜ。皆切られてますけど」 「くそっ! 先に入って殺されてたか……お?」 苦労の割にはたいした実入りは無かったと愚痴る猪俣は、瓦礫の中にあるものを見つけて笑みを浮かべる。 彼岸花の着物を着た女性と、血にぬれた日本刀。 神埼は嵐に巻き込まれ、ボロボロになって気を失っていた。一般人の『処分』をもう少し早く行っていれば、巻き込まれずに逃げ切れただろう。それをしなかったのは彼女の判断なのだが。 「いいモン見つけたぜ。まだ息があるようだな」 「死ぬまで可愛がってやりましょうや。へっへっへ」 下品な笑いを浮かべ、賊軍は神埼を抱えて塒に持ち帰る。 「せい……ろ、さま……」 小さく呟く神埼の声は、稲妻の音に紛れて消えた。 四国はまさに地獄だった。 弱い者は死に、力のあるものが支配する。賊軍が元裏野部というフィクサード集団であることを証明するかのように、狂乱は繰り広げられる。 暗雲は晴れず、嵐はまだ止まらない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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