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<大晩餐会>昇り龍、乱れ髪

●黒い潮風
「ほっほ……こりゃあ、心が躍るのう」
 夜闇を照らし出す明るい照明の下で、着流しを着た老人が、遥か上空から下界へ睨みを利かせる、巨大な雷雲を見上げて言う。
 瀬戸内海にいくつもかかる吊り橋は、随分前から一切の車の通行が途絶え、潮の香りを漂わせる強い風の音だけが通り抜けていく。
 その橋のうちの一つ、向島と因島を繋ぐ『因島大橋』の真ん中で、車線を区切るガードレールにちょこんと腰掛けたその小柄な老人は、コンクリートの地面へ立てた杖の上に手とあごを乗せ、柔和そうな笑顔を浮かべつつ空を眺めている。腹に響く低い音を轟かせ、内部に稲光を瞬かせながら佇んでいる雷雲を見上げ、吹きすさぶ風に後ろへ流した銀色の髪をはためかせながら、老人は嬉しそうに、
「いやはや、血が騒ぐわ。この老体を、今更、こうも滾らせてくれるとは……裏野部殿には、感謝をせねばなあ」
「やだなあもう、年寄りくさいんだから」
 傍らで老人にそう言うのは、腕を組んで立つ、セーラー服を着た少女。艶めいた美しい黒髪……足元にも届きそうなほどに長いそれをポニーテールにまとめた少女は、老人とは対照的に瑞々しい若さを感じさせながら、快活に、
「ま、あたしも、彼には感謝してるけどねー。あの胸っ糞悪い封印から解放してくれたし……むっふふ、これでまた、生意気な人間をヤってヤって、ヤリまくれるってもんだわ!」
 無邪気な様子で物騒な言葉を吐き、けらけらと笑う。
「お前……美人のくせに、性格悪いのう」
「人のこと言えるの? ていうかあんた、年下のクセに生意気!」
 にやりと、笑い合う。
 漂う違和感。奇妙なやり取り、ではあった。
 二人の周囲には、無残に破壊されたいくつもの車両がひっくり返っており、激しく噴き上がる炎と共に黒煙をもうもうとたなびかせている。
「さて、さて。おっつけ、箱舟の連中もやって来るだろうて。せいぜい、楽しませてもらうとしようかの。のう、志摩子さんや?」
「ったりまえだっつーの! それよりハリキリすぎて、遊ぶ前に腰なんて痛めるんじゃないわよ。心水ちゃん?」
 老人の持つ杖の手元がぱちりと開くと、中からは波紋を描く鋭くぎらつく刃が覗き、老人の皺だらけの顔が、禍々しく歪んでいく。
 少女の美しい髪がうねり、ふわりと宙を泳ぎだすと、それは螺旋を描きながら収束し、少女の浮かべる笑みは、凄絶さを増していく。
 
●活路を開く
「裏野部一二三……ついに、動き出したわね」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、モニタを操作しつつ、ひとつつぶやく。
 映像に表れたのは、上空から捉えた四国地方の全景と、その全域をほぼ呑み込むかのように、黒々と渦巻く巨大な雷雲。
「昨年末から、賊軍を名乗って勢力を四国へ結集してきた裏野部一二三が、大規模な行動を起こすつもりらしいの。彼は……四国に住む全ての人たち、その膨大な数の命を食らって、自らの力を高めるつもり」
 イヴの語る四国の現況は、まったく、困窮の極みと言っていいものだ。
 裏野部一二三の手により誕生した、意思を持つ巨大な雷雲型E・エレメント、『ヤクサイカヅチノカミ』。それは、四国地方へと至ろうとするあらゆる船舶、航空機の類をことごとくに沈め、落とし、一切の航行を阻んでいる。更に、本土と繋がる三つのルートに存在するいくつもの橋は、配置された賊軍……フィクサードと、『まつろわぬ民』と呼ばれるアザーバイドたちから成る混成部隊によって、その全てが封鎖されているという。
 その上で、裏野部一二三は、巨大な孤島と化した四国において、一切の慈悲のない、大殺戮劇の幕を開こうとしているのだ。
「彼の部下の中には、『蜂比礼』……特殊な刺青型のアーティファクトを刻まれている者がいるの。『蜂比礼』を持つ者は裏野部一二三と神秘によって連結されていて、彼から力を分け与えられて強化されている上、刺青を持つ者が虐殺を行えば行うほど、それを通じて裏野部一二三の力は増していく……そういう仕組み」
 でも、逆を言えば、とイヴは付け加える。『蜂比礼』を持つ者の撃破の成功は、力を供給している裏野部一二三の弱体化にも等しいと言える。それは、後手に回った今のアークの状況において、数少ない希望をもたらす情報と言えた。
「でも……それも、彼が最終目的へとたどり着くための、ほんの足がかりにしか過ぎない。彼の本当の目的は、この国の全て……日本の全てを、手に入れることだから」
 裏野部一二三の、あまりにも常軌を逸した、邪悪。その最たる虐殺をここで許してしまえば、ことは、四国だけに留まらないのだ。
 アーク、引いてはリベリスタたちへと課せられた責任は、余りにも重く。
 しかし、それでも。
「手をこまねいているわけには、いかないものね」

 モニタに、島と島を繋ぐ連絡橋のひとつが映し出される。橋の上には、破壊された車両とその残骸がそこかしこに散らばっており、真ん中では、凶行を行ったと思われる一団が不敵に陣取っているのが見える。
「皆に担当してもらいたいのは、この『因島大橋』。ここを封鎖している賊軍を排除して、後続の本隊の進行ルートを確保するのが目的」
 真剣な面持ちで聞き入るリベリスタたちに、イヴはひとつ頷くと、映像を拡大する。
 まずピックアップされたのは、濃紺地に空へと昇る龍をあしらった着流しを颯爽と着こなす、杖を持った銀髪の老人。穏やかそうな笑みを浮かべる好々爺といった風情だが、
「伊駒心水。高齢だけど、現役のフィクサード。好戦的で、いつも血に餓えている……彼は『蜂比礼』こそ施されていないけれど、あの仕込み杖から繰り出される抜刀術は、長い研鑽の粋だけあって注意が必要よ」
 言われてみれば、老人は只者でない雰囲気を漂わせている、ように見えなくも無い。居合いの達人というのも、本当のことなのだろうと思わせる。
 次にモニタは、セーラー服を着て、長い黒髪をポニーテールにした可憐な少女を中心に据える。
「髪鬼志摩子、と名乗ってる。『まつろわぬ民』……裏野部一二三が封印から解放したアザーバイドたちの内の一体ね。髪の毛を自在に操る能力を持ってる……たかが髪、と侮らないで。細い糸でも、縒り集めれば容易く人を貫くわ……気をつけて」
 若い女の子らしい無邪気そうな笑顔を浮かべているが、彼女は人ではない。先の老フィクサードと同様、見かけによらず好戦的で危険な存在であるらしい。
 この二人を中心とする一団が、因島大橋の防衛に当たっているようだ。
「因島大橋は、上段部の自動車用道路と、下段橋内部の歩行者用の道路があって、伊駒心水と髪鬼志摩子は、それぞれ上下に別れて配置されているわ。あまり時間的余裕が無いから、皆にも、二手に戦力を分散して同時に攻撃を行ってもらうことになる」
 上段部には、髪鬼志摩子を中心としたアザーバイド勢力が。
 下段部には、伊駒心水を中心としたフィクサードたちが配置されているようだ。
 更に、上段においては、上空で『ヤクサイカヅチノカミ』が睨みを利かせている。戦闘に突入すれば、何らかの攻撃を受けることになるのは想像に難くない。
「この作戦の成否によって、本隊の状況も変わってくる……責任は重大、だけど。任せるわ。あなたたちなら出来るって、信じているから」
 迷い無くそう告げるイヴに背を押され、リベリスタたちは戦場へと向かう。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:墨谷幽  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年03月06日(木)22:49
 Deviceです。よろしくお願いいたします~
 裏野部一二三の野望を阻む足がかりとして、四国進撃へのルートを確保すべく、奮闘をお願いします!



●作戦目標
・フィクサード、伊駒心水の撃破
・アザーバイド、髪鬼志摩子の撃破

●失敗条件
・二手に分散した戦力、どちらか一方の全員の戦闘不能

●ロケーション
・瀬戸内海を、幾つもの島々と橋によって繋ぐしまなみ海道。そのうち、向島と因島の間にかかる『因島大橋』が戦場となります。
・時間帯は夜。上空の巨大雷雲型E・エレメント『ヤクサイカヅチノカミ』の影響で、空は曇り、強い風が吹いています。
・因島大橋は橋桁が二段式になっており、敵は上下段で二手に別れて配置されています。時間的余裕もそれほど無いため、リベリスタたちは戦力を二つに分散し、両者を同時に排除する必要があります。
・上段の自動車用道路には、アザーバイドたちが配置されています。四車線が通行できる道幅があり、中央はガードレールによって仕切られています。周囲には、破壊された車両がいくつか転がって燃えていたりします。
・下段の歩行者及び二輪車用道路には、フィクサードたちが配置されています。道幅は3~4メートルほどで、左右は転落防止用のフェンスで覆われています。ぽつりぽつりと照明が設置されていますが、全体的にやや暗いです。
・橋の長さは1.2kmほどあり、敵戦力は上下ともにそのほぼ中央に配置されています。

●敵性キャラクター
○『老いてなお剣呑』伊駒心水(いこま しんすい)
・着流しを着た老フィクサードです。部下とアザーバイドたちを率いて、因島大橋の防衛を任されています。
・仕込み杖を持ち、長い研鑽の末に磨かれた抜刀術を操ります。
・一見すると物腰穏やかな老人ですが、内面は血生臭い荒事や殺戮を好む、フィクサードらしい性格の持ち主です。
・ジーニアス×ナイトクリーク。高めの命中、回避値とCT値を誇ります。
・【浮島(EX)】物/遠/貫/出血/大上段からの抜き打ちで地を走る衝撃波を放ち、直線上の敵を薙ぎ払う。

○髪鬼志摩子(かみおに しまこ)
・セーラー服を着た少女……の姿をした、『まつろわぬ民』と呼ばれるアザーバイドです。
・元々は鬼髪(きはつ)という、髪の毛の集合体のようなアザーバイドたちの中の一体に過ぎませんでしたが、いつしか人に取り付く術を覚え、長い時を経た今では完全に一体化しています。
・非常に長い黒髪を自在に操り、刃物のように平たく揃えて切り裂いたり、針のように発射したり、縒り合わせることでドリルのような形状を作り出したりして攻撃を行います。
・【切断】物/近/単
・【毛針】物/遠/単
・【範囲刺突】物/近/範
・【ターミナスデフラワー(EX)】物/近/単/圧倒、必殺/突進し、形成した巨大なドリルで抉り、貫く。

○フィクサード ×4
・伊駒心水の部下である、若いフィクサードたちです。
・心水と共に、橋の下段部へ配置されています。
・ジーニアス×覇界闘士(トンファー)♂、メタルフレーム×クロスイージス(ボウガン、バックラー)♀、ヴァンパイア×マグメイガス(ワンド)♂、ジーニアス×インヤンマスター(苦無)♀、の4名です。

○鬼髪(きはつ) ×6
・髪の毛の集合体のような小型のアザーバイドたちです。ぱっと見には、風に飛ばされた誰かのカツラのようにも見えます。
・基本的には、髪鬼志摩子に付き従って行動します。彼女と共に、橋の上段部へ配置されています。
・髪の毛を細く縒り合わせて伸ばし敵を突き刺したり、針のように発射したりして攻撃してきます。
・【刺突】物/近/単
・【毛針】物/遠/単

●その他備考
・橋の上段部では、上空の雷雲型E・エレメント『ヤクサイカヅチノカミ』により、数ターンに一度、リベリスタたちを目標に落雷が落ちてきます。効果は広範囲に及びますが、そのためか、敵戦力に極めて近い状態では落ちてこないようです。



 以上になります。状況がやや複雑ですので、良く説明を読まれた上でご参加くださいね。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております~!
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスプロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
アークエンジェプロアデプト
銀咲 嶺(BNE002104)
サイバーアダムプロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
ハイジーニアスレイザータクト
文珠四郎 寿々貴(BNE003936)
フライエンジェスターサジタリー
鴻上 聖(BNE004512)
ジーニアスインヤンマスター
深崎 冬弥(BNE004620)

●賊軍たち
 今にも落ちてきそうな、雷雲。ぱっ、と一際激しい光が上空で瞬いたかと思うと、稲妻がリベリスタたちの至近を一撃し、弾け飛ぶ電弧が彼らの身体を瞬時に走り抜けていく。
「うぐ、効くなぁ……これはあんまり、時間かけてられないよねぇ」
 雷撃の余韻に痺れながらも、『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)たちは橋上を駆け、通行を妨げる占拠者たちと対峙する。
 それにしても、と寿々貴はつぶやき、
「……ヅラが動いてんぞおい誰のだよ」
「ヅラじゃないし! しっつれーな女ねアンタッ!」
 髪鬼志摩子。ここ、因島大橋の防衛のために配されたアザーバイド。『まつろわぬ民』は、確かにそんな風にも見えなくも無い、部下である鬼髪の二匹と共に真っ先に飛び出すと、長い髪を薄く揃えた刃を振るい、暴言のお返しとばかりに寿々貴の左腕を切り裂く。
 彼らは、即座に戦闘状態へと移行する。
 突出した志摩子を、『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が展開する呪印の結界が包み込む。
「ぐェ、何これっ」
 志摩子の動きを縛るフツの横合いから、『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)が飛び出すと、荒れ狂う思考の奔流を爆発力と成し、その指向性を鬼髪たちへと向けて解き放つ。
 雷慈慟は、弾き飛ばして引き離した鬼髪たちには目もくれず、じっと志摩子へ視線を飛ばし、
「惜しいな。アザーバイドでさえ無ければ、我が子を……」
「……えっ。な、ななな何言ってんのアンタ……」
 何かを感じたのか、びくりとして自分の身体を両手でかばう志摩子。雷慈慟は、いや、詮無き事か。と一つつぶやくと、頭を振り、戦闘へと意識を戻す。
 寿々貴が防御動作の効率化を仲間たちへと共有化して援護する傍ら、『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)は集中力を高めて動体視力を強化し、狙い済ました一撃を放つ隙を伺う。
「ふうん……なるほどね、アンタたちが、リベリスタっての。この橋を通りたいってわけね。ふっふん。できるかしらね?」
 聖に不敵な笑みを見せ付けながら、髪鬼志摩子は鬼髪を従え、リベリスタたちの前に立ち塞がる。
「ちょうど良かったわ。ヌルい人間ばかりで飽き飽きしてたところよ……あたしがヤリたかったのは、アンタたちみたいな生意気な連中なんだから!」

 『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)が大上段から振り下ろす、気力を込めた一撃はしかし、庇いに入ったフィクサードの盾に遮られる。その陰から、老フィクサードの鋭い眼光が拓真を見据える。
「やれ、無粋なことだ……わしゃァ、サシの斬り合いがめっぽう好きでの。ま、そうも言ってられん事情ちゅうやつもある……悪く思うなよ、若いの」
 伊駒心水。『老いてなお剣呑』、そう、仲間内では通っていた。老人は杖をぱちりと一つ鳴らして鍔元を開くと、一閃。黒い殺気を纏った刃が翻り、拓真の頭部をかすめる。
 にやりと口の端を曲げ、老人は問う。
「名は?」
「……リベリスタ、新城拓真。斬り結ぶとしようか、伊駒心水。賊軍よ」
「応ともよ」
 後ろでは、杖を構えたフィクサードの、前方へ掲げるその矛先へと、黒い鎖が形作られ収束していく。深崎 冬弥(BNE004620)はそれを横目に睨みつつ、周囲に浮遊する剣で陣を成しながら心水へと接近する。
「ほ、こいつは。これほどの剣士と、日に二人もやりあうとは。いや、今日は良い日じゃわ」
 続けざまに冬弥が放つ、巻き起こる旋風のような剣閃。二人の若いフィクサードへと傷を刻み込むが、心水はするりとこれを避ける。
 心水と入れ替わりに踏み込んできたフィクサードが、回転するトンファーの一撃を『天の魔女』銀咲 嶺(BNE002104)の肩口めがけて打ち込む。
「っ……」
 殴打を受けながらも、コンタクトレンズ型の暗視装置を通じて敵を見据えつつ、嶺の頭脳がもたらす演算速度は人智を超え、目まぐるしく戦闘プランが構築されていく。
 嶺は、背の六枚の翼を示威するように広げ、
「裏野部の……いえ、賊軍の皆様? ごきげんよう。後続のため、排除にあたらせていただきます……演算速度向上、皆様、オペレートはお任せ下さいませ」
 嶺の支援を受け、『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)もまた踏み込み。彼の友、拓真を援護するため、気糸を射出し、暗がりを照らす照明の一つを破壊しながら、フィクサードたちの身体を穿つ。
 細めた彼の青い瞳の中で、闘争は激しさを増していく。

●血闘
 拓真の全身から立ち昇る蒸気。心水を狙った全身全霊の一撃は、再び若いフィクサードの盾によって阻まれるが、装甲の上からでも響く圧倒的な衝撃によって、盾は砕け。フィクサードは地に沈み、動くのを止める。
 背後で、オーウェンの試みる奇策が発動する。
「さて、共同作戦を取るのも久しぶりである。準備は良いかね、我が友よ……行くぞ、このトリック、見切れるか!」
 彼は卓越した変装技術を駆使して、自らを拓真と瓜二つの姿に偽装したのだ。手持ちの武器までは似せられないまでも、めまぐるしい戦闘の中で起こる誤認は致命的な隙を生むこともあるだろう。オーウェンは拓真と体位置を巧みに入れ替えながら、心水めがけ気糸の一撃を放ち、彼の着流しの裾を切り裂きつつ足へと鋭く傷を刻む。
 だが。嶺は、周囲へと同調させた意識を元に味方へ能力を分け与え援護しながらも、それを察知し、警告を発する。
「皆さん、お気をつけを! 来ますっ……!」
 鋭く注視する彼女の視線の先、深く身を沈ませた老人。腰だめに構えた仕込み杖。
「ふはは……面白いことを考えるものよのう。じゃが、このジジイにも、ちょいとした技があってな? どれ、ひとつ……ご披露仕るッ!」
 節くれだった手元が、ふ、とブレたように見えた、その瞬間。前触れも無く走り抜けた衝撃波が、狭い通路を走り抜け。リベリスタたちを、深く切り裂いた。音が、後から彼らの脇を通り抜けていく。
「ぐ……っ! これがヤツの、必殺の一撃か……!」
「これほどの剣を……貴方はっ……!」
 深く肩口から胸元へかけてを抉られ、拓真はうめきと共に言い。
 冬弥は、脇腹に負った痛撃の痕をかばいつつも、歯噛みする。
「……これほどの域にまで至った、その剣を。貴方はただ、人斬りのためにしか使えないというのか」
「ふふ。異なことを言う、若いの」
 びょう、と強い風が、彼らの間を吹きすさぶ。
「ここまでに育て上げた剣だからこそ、人を斬りたい。そう思うのが人情、というものであろうよ?」
 想像するだに長い道のりを経て至ったのだろう、その粋を見せ付けられながら。同じ剣士でありながら、自分とはあまりにも道を違えた老人を、ただ冬弥は、惜しいと思った。
 後方で、フィクサードの杖から、収束した黒い鎖が濁流のように放たれ、リベリスタたちを飲み込んでいく。

「んん……読めないかあ。やっぱり、手早く終わらせるしかないねぇ」
 鬼髪の突き出した細い髪の一刺しをひょいと避けながら、寿々貴は癒しの息吹で味方の回復を図り、上空を睨む。巨大な雷雲。賊軍の長、裏野部一二三が生み出した『ヤクサイカヅチノカミ』。その攻撃周期を読み取れれば、と彼女は考えていたのだが、どうやらその試みは空振りに終わりそうだ。
「その髪、全部アフロにしてやるぜ! 焼き尽くせ、深緋ッ!!」
 緋色の槍を翻し、フツの呼び出した朱雀が、アザーバイドたちへと猛火を振り撒く。鬼髪たちの何匹かぼうっと延焼し、焦げ臭い匂いがあたりに立ち込める。
「あ、あッつ! ちょっと、冗談じゃないわよ!?」
 自慢の髪を台無しにされてはたまらないとでも思ったか、炎を必死に振り払うと、志摩子は幾本にも縒り集めた髪槍を伸ばし、フツの肩口、雷慈慟のももを抉る。
「ちッ……だが、自分が狙われる分には、戦術的価値がある。大いに狙ってくれ」
 ぶっきらぼうに言いつつ、雷慈慟は鬼髪の一体を気糸で貫き、その怒りを誘って誘導する。
 誘われた先には、たまたま密集する形となった、数体の鬼髪たち。
「頃合か。ここは任せる」
「ええ、見事な誘導です。では……行くぞ、異端ども?」
 好位置。聖は、白と黒、二振りの長剣を組み合わせて巨大な手裏剣を組み上げると、雷慈慟の導いた好機めがけ、それを投げ放つ。唸りを上げて飛翔する刃は、次々と小さなアザーバイドたちを切り裂き。真正面から両断された三体ほどの鬼髪がはらりと地に落ちると、ばらばらに解け、ただの髪束となって強い風に吹かれるままに散っていった。
「な……何やってんの、アンタっ! あ、あたしの……あたしの、友達を……ッ!!」
 怒りの色を両の瞳に灯す志摩子。
 彼女とて、元は、あのちっぽけなアザーバイドたちの中の一体に過ぎなかったのだという。今は姿を変えたとはいえ、彼女らの間にも、リベリスタたちには見えない絆や繋がりがあったのだろうか。
「許さない……絶ッッ対、許さないっ! アンタら、全っ部、抉ってやる!!」
 志摩子は、ポニーテールに纏めていたその艶めく黒髪を、さらりとほどくと。彼女の憤怒にあおられるように浮かび上がった黒髪が渦を巻き、やがて、巨大な螺旋へと形作られて行く。

●果てへと
 間合いが離れた隙を突かれたか、フツは上空から落ちてきた雷撃の直撃を浴びながらも。再び呼び出した朱雀の巻き起こす豪炎が、鬼髪たちの最後の一体を消し炭と変える。
「……人間のくせに……よくも、よくもよくも、あたしの大事な……」
 ぎり、と歯を食いしばり。志摩子が右腕に巻き付かせた幾重もの黒髪は、今や紛うことなき巨大なドリルと形を成し、空気の渦を巻き込んで唸りを上げている。
 志摩子はそれを、振り上げ。
「うああああああッ! 死ィィ、ねええええええーーーッ!!」
 叫び、地を蹴り、爆発的な加速で飛び出すと。最も近くにいた寿々貴へめがけ、漆黒の巨大ドリルを突き込んでいく。
「やば……!?」
 はっと振り返れば、寿々貴の鼻先へ迫る、強烈にスピンするその先端……。
 しかし。
 寿々貴の頭部をドリルが抉る、その直前。
「……させぬッ!」
 走りこんだ雷慈慟は、寿々貴の肩を押して弾き。必殺の螺旋を、その身で肩代わりする。
 ドリルは雷慈慟の胸に食い込み、鋭く肉を抉りながら彼を吹き飛ばし。そして、地面へと叩きつけた。
「っ、ごめん、大丈夫かい……!?」
 駆け寄る寿々貴の問いかけに、しかし、地に伏した彼は答えることなく。
「は……あははは、死んだわね! いい気味っ! 生意気な人間が、生意気な口を開いて、生意気なことをするからっ! こういうこと、に……?」
 けらけらと笑い声を上げる。
 だが、彼女の哄笑は唐突に、ぷつりと途切れることとなった。
「……終わりと、思ったか?」
 寿々貴に支えられながらも、立ち上がる、雷慈慟。胸にぽっかりと開いた、生々しい傷はそのままに。
 しかし彼は、驚愕に目を見開く志摩子へ向け。上空の雷轟の瞬きを背に、力強く足を踏み込む。
「な、なんで、死んでな……」
「運命をも捻じ曲げる、我々の力……甘く見たな、アザーバイドッ!!」
 回転する思考、脳裏に荒れ狂う奔流。雷慈慟は、そこに一筋の収束点を見出し。やがて実体となって爆裂させると、少女然とした華奢な身体を、大きく弾き飛ばした。
「あ……っぐ! あ……え?」
 叩きつけられた、その先。倒れた車両、炎を噴き上げ燃え盛るエンジン。
 彼女の見事な黒髪に炎が燃え移るのは必然であり、また自業自得と言えたかもしれない。
「あっ、あ、あたしの、あたしの髪……! あたしの、髪がッ……!!」
 ちりちりと毛先をあぶる火を、慌てて消し止めようとする志摩子。
 吹き荒れる強い風が、長い髪をばたばたとはためかせ。永劫を生きてきたその存在へと、終わりを告げる。
「ここまで、ですね。人に取り憑いたアザーバイド……一種の、悪魔憑きのようなものでしょうか? でしたら、ここは、私の領分です」
 寿々貴の起こす癒しの大奇跡に背を押されながら、聖は剣の一振りを水平に構えると、標的を射抜くべく踏み込む。
「ま……まずい、じゃん? これ……。助けてよ……助けて、心水ちゃんっ。助け……う、あああああ!!」

 ぴくり。仕込み杖を構える心水の眉尻が、かすかに跳ねる。
 鋭い思考で集中し、放った嶺の気糸が、次々とフィクサードの身体を貫き。後衛に位置していた二人が膝を折り、倒れこむ。
「私の武器は、羽衣を織りなす鶴の糸……恩返しじゃなくて、倍返しですけどね!」
「……ほっほ。面白いお嬢さんだのう」
 どこか。先ほどまでの余裕は鳴りを潜め……老人は、厳しい表情を頬に貼り付けたままに。
 再び、必殺の抜き打ちを地へと迸らせる。
「が……っ!」
「しまっ……」
 四人のリベリスタを等しく切り裂いた剣閃。特に、心水と真正面から激しい技の応酬を繰り広げていた拓真とオーウェンが、がくりと膝をつく。
「……すまん、友よ。後は…………」
「オー、ウェン……ッ!」
 倒れ伏すオーウェン。拓真はその傍らで、自らも等しく意識を失いかける。
 が。
「……まだ……終われないッ!」
 リベリスタとしての責務。剣士としての誇り。何より、託された、友の思い。
 総じて、運命の寵愛を引き出し、拓真は踏みとどまる。
「……伊駒、心水。長き年月、研鑽。その業。最後まで、見せていただく。それとも……俺では不服か?」
「ふ……」
 事、ここに至っては、もはや語るに及ばず。黙して頷く老人へ、拓真は裂帛の気合と共に、光を帯びる一撃を叩き込んでゆく。
(……やはり、強い)
 冬弥は、心水の必殺の一撃を浴びて負ったリベリスタたちの深い傷を癒しの詠唱で治療し、フィクサードの繰り出すトンファーの一撃をかろうじて避けながらも、大勢を見据える。
 敵の数はいくらか減り、勢いはこちらにあるように見える……が、仲間たちの被害は、決して浅くない。加えて老人の瞳が放つ、あの、鋭いきらめき。
 気力で負けるつもりも無い。が、どこかじりじりと追い詰められているような焦燥感が、冬弥を、リベリスタたちを包み込んで行く。
 と……そんな、時だった。
 きっかけは、その場の誰もが予想し得なかった方向から飛び込んできた。
 歩行者道の左右に張り巡らされた、転落防止用のフェンス。その一枚が、軋んだ金属音と共に切り裂かれ。生じた亀裂を潜り抜けて飛んできた……フツが、高らかに言い放ったのだ。
「お待たせ! 助太刀にきたぜっ!」

●そして、始まり
 寿々貴のもたらした加護によって、背に小さな白い翼を生やした四人のリベリスタたちが、目の前に降り立つのをじっと眺め。
 老人は、ふ、と……どこか寂しそうに。笑みを浮かべた。
「……そうかい。志摩子さんは、逝っちまったかい」
「ああ。悪いな、後はてめぇだけだ」
 フェンスを一刀で切り裂いた十字手裏剣を二振りの剣へと解き、聖はフィクサードたちを見据え、そっけなく言う。
 老人は。
「そうかい。なら……わしが気張るしか、あるまいのう。最後まで、付き合ってもらえるかの? なあ、若人ども」

「懸念事項は削除。君達の能力に期待する!」
 雷慈慟の援護が、仲間たちに活力を分け与え。聖とフツが、残った心水の二人の部下たちを切り伏せ、貫き、沈黙させる。
 寿々貴は倒れ伏したオーウェンを介抱しつつ、その詠唱は仲間たちを癒し。
 嶺の展開した気糸の罠が、心水の動きをぎりと縛り上げる。
「決着を……着けさせてもらう! うおおおおおッ!!」
 肉体は限界を超え、全霊を込めた拓真の一撃が、心水の真芯へと叩き込まれ。
 胸へと刻まれる一閃の傷。老人の枯れた肉体は、砕け。
「……く、く。ははは。ふははははっ」
 笑い。冬弥へ目掛け、繰り出される、その最後の一刀。
「やはり……惜しいな。貴方とは、別の形でまみえたかったものだ」
 交差する、二筋の剣閃。
 その一瞬は、あるいは永遠のようにも感じられ。
 ……やがて。冬弥が太刀を振るい、鞘へと収めたのを合図とするかのように。
 老人は、前のめりに倒れた。

「ま……好き放題、やってきたからのう……いまさら文句も、言えまい、よ。く、く……」
 尽きかけた命。その最後までを燃やし尽くすように、老人は言葉を搾り出す。
「わしァ……最初から、裏野部の若造への義理、など……どうでも良かったのよ。最後に、華々しく……この命、使い切れれば。そのような輩と、楽しく、斬り合いができりゃ……それで」
「俺たちは……そのお眼鏡に、適ったか?」
 傷ついた拓真の言葉に、老人は。
「……七十年、だ。わしは、ひたすらに剣を、剣だけを振るってきた。阿呆のようにな……そのわしを、お前さんがた、その若さで……越えちまった、ちゅうわけだ。ザマぁ無いのう…………だが、楽しかった」
 どこか神妙な顔を浮かべる若者たちに囲まれ。彼は、にやりと口の端を歪める。
「良ーい、人生だった。ま……わしのようには逝き急ぐなよ、若人ども。ゆっくりやりゃあええ……わしはその間、あっちで、志摩子さんとでも……楽しく、やると、す……」
 ……枯れ落ちた老人は、それっきり。

 因島大橋は開放され、間もなくこの橋を通り、アークは後続隊を四国へと送り込むだろう。
 目前に迫る、更なる動乱の時を前に。一つの戦いの区切りを迎えながらも、リベリスタたちの心に安らぎが訪れるのは、まだまだ先のことになりそうだ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした! 『<大晩餐会>昇り龍、乱れ髪』のリプレイをお届けします。

 先発隊である皆さん、その被害は決して軽くは無いものの。因島大橋は封鎖から解放され、後続の本隊を導き入れるルートの一端を開くことに成功しました。

 戦いは、この先も激しさを増していくのでしょう。また再び、皆さんと三高平市にて無事に再会できますことを、心よりお祈りしつつ。
 ひとまず、今回は、ご参加ありがとうございました!