●瀬戸大橋上賊軍防衛 四国を暗雲が覆う。稲光を放つ雷雲が。 それは自然発生した雷雲ではない。『ヤサカイカヅチノカミ』と呼ばれるEエレメント。伝承を信じるなら天地開闢時に生まれたイザナミ神八柱の一。雷神とよばれ、古くから信仰の対象となった存在だ。 その真偽はさておき、『ヤサカイカヅチノカミ』は嵐を生み出し航空航海を妨げ、階位結界により通常兵器を阻むほどのエリューションである。そして裏野部――今は賊軍を名乗っている――により四国を繋ぐ三つの端は封鎖される。これにより四国は物理的に隔離され、容易に手の出せない状態になった。 そして四国に鎮座する賊軍の王、裏野部一二三の目的は四国の支配に留まらない。 賊軍の王は部下達に『『蜂比礼』と呼ばれるアーティファクトを刻む。それにより力を増した賊軍たちは一二三から力を与えられ、同時に一二三の『蛇比礼』とリンクする。彼らが人を殺せば殺すほど、一二三の力が増すのだ。 そして『蜂比礼』を刻まれた賊軍たちは四国で虐殺を始める。力なき一般人を初め、そこを守るリベリスタや元同胞であった七派フィクサードまで。賊軍以外は皆殺しにし、その力を賊軍の王にささげる為に。 阿鼻叫喚。屍山血河。悪逆無道。 四国の地が、悪意に染まる。 「――ということはだ、良。四国の人間を私達が皆殺しにすれば一二三は餓死するのではないか?」 「ざっと四百万人程いるんですが、やってみますかぃ?」 女性の言葉にため息をつく男性。この女の『思いつき』は、概ね真実をついているのだ。それが実現可能かどうかはさておき。 「ふむ……飽きるな」 「おまえのようなヤツがいるから、剣林は脳筋とか言われるんだなろうなぁ」 二人の男女はいいながら橋を歩く。発生した雷雲と嵐によりバイクは大破。落雷の音を警鐘としていたのか、多くの賊軍とアザーバイドが現れる。『まつろわぬ民』……そう呼ばれる封印されたアザーバイド。 「だがアイツラなら飽きそうにない。殲滅させるぞ」 「あいよ了解ですぜぃ」 炎を展開する女と、氷を展開する男。それを狙うかのように、落雷が落ちてくる。この雷雲が賊軍の支配下なら、こちらに不利になるように落雷が落ちてきてもおかしくない。 「……もしかして、不利な状況ですかねぃ」 「だな。不利なほうが歯ごたえがある」 女の言葉に賊軍たちは嘲笑する。この戦闘バカが。力任せで攻める剣林など恐れるにたらない、と。 (……菫のヤツ、他のやつの為に囮になるつもりかね) 氷を操る男は賊軍の罵倒を聞きながら、そんなことを思う。四国には多くの賊軍がいる。ここで多くをひきつければ、それだけ多くの剣林同胞が四国に入れるのだ。だから戦闘狂のフリをして賊軍に挑む。 (ま、戦闘狂で直情なのは本当ですがね) そんな彼女に振り回されるのは嫌いではない。だから剣林を抜けた身ではあるが、剣林の為に拳を振るう気でいた。 「『一射十炎』十文字菫、参る」 「『氷原狼』水原良、義によって参戦しますぜぃ」 二対四十。ましてや相手は布陣を組んで待ち構えていた者たち。それでも臆することなく二人の剣林は歩を進めた。 ●アーク 「場所は瀬戸大橋。敵数は賊軍と『まつろわぬ民』を含めて四十名」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。 「よんじゅうっ……!」 集まったリベリスタの反応は、差異こそあれどそのような感じだった。戦力差はざっと五倍なのだ。臆するな、というほうが無理だ。 「彼らはこの橋を渡る者を待ち構えている。構成も層が厚い。 最前衛はデュランダルと格闘系のアザーバイド。壁型のアザーバイドの後ろに物理射撃を行うスターサジタリと神秘射撃を行うマグメイガス。全体支援&回復を行うホーリーメイガス。さらには『ヤサカイカヅチノカミ』からの落雷がある」 幻想纏いに送られるデータを確認し、陰鬱な気持ちになるリベリスタたち。ここを突破しないといけないのか。 「幸運なことに、この戦場には『蜂比礼』を持ったフィクサードはいない。精鋭と呼ばれるのは、指揮官だけ」 つまり、二軍を集めて陣形を組んでいるということだ。とはいえ数が数だ。油断すれば一気に崩壊しかねない。 「あと、貴方達が到着するより少し前に、剣林のフィクサードが到着している。賊軍相手に戦闘を開始している様子」 モニターに映し出されるのは、二人で闘う覇界闘士とスターサジタリ。氷と炎の範囲攻撃を繰り出すが、総合的に見れば戦力不足だ。 「彼らの判断は現場に任せる。アークの目的は賊軍の打破」 賊軍さえ倒せれば問題ない、とイヴは告げる。剣林がある程度賊軍戦力を削ってから攻めるのもよし。胸が痛まない程度に同盟を結ぶもよし。一緒に殲滅してもよし。 敵の数は多いが、足を止めるものはいなかった。ここで裏野部一二三の跋扈を許せば、その牙はいずれ日本全土に向くのが分かっているからだ。ここで止めなくてはいけない。 その決意を胸に秘め、リベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月09日(日)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「賊軍……完全に人を辞めた連中共か。災いを食い止める為にも突破させて貰う! 行くぞ、変身ッ!」 説明しよう! 『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)は三高平アクションクラブに所属しているアクション俳優である! だがアークフォン3Rを起動させることにより『強化外骨格参式[神威]』を纏ったヒーローになるのだ! まぁ、ただのダウンロードなのだが。 「おおおお……! 良、変身ヒーローだ!」 「……あー、そういえばお前幻想纏いとか初見だっけ?」 その様子を瞳を輝かせてみる射手のフィクサード。確かに幻想纏いはフィクサードにはない技術だから、はじめてみれば驚くものだ。 「なんていうか、相変わらず面白系姫様だな」 そんなフィクサードを呆れるように見る緋塚・陽子(BNE003359)。以前会ったときもこんな感じだったか。もっとも面白いだけのお姫様ではないことは『万華鏡』の情報で理解している。むしろ自分に似た強さのフィクサードだ。 「熱々のお二人さんは先日ぶり」 「お前は……ジョージ十二世……!」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)の挨拶に、全く違う名前を返す女性のフィクサード。確かに本当の名を名乗った覚えはないな、と烏は思い直す。まぁ名前は記号だと深くは追求しないことにした。 「成り行きでこうなった。互いにその方が都合が良かろう」 軍帽の位置を直しながら『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が剣林のフィクサードたちに告げる。リベリスタとフィクサード。立場は違えど、今の共通の敵は賊軍なのだ。表立って手を繋ぐわけにはいかないが、敵対しない程度なら問題ない。 「剣林の奴らとはとりあえず休戦だ。ややまともな悪いのだからな」 『D-ブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)が両手の羽根を広げて構えを取る。足に剣を挟んで闘うスタイルだが、その構えに隙はない。油断すれば一気に刈り取られそうなほどの熟練を感じさせる。 「二人占めはズルいです。混ぜて下さいな」 言葉と共に『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が前に出る。手には半円の形状をした刃武器。十一の刃が橋のライトに照らされ、鈍く光る。戦力差は五倍ほど。だがうさぎは『祭り』の始まりのように楽しげに歩み出る。 「まいどー僕ちゃんでぃーす!」 気軽に手を上げながら『泥棒』阿久津 甚内(BNE003567)がタバコを咥える。そのまま空に浮かぶ雷雲のエリューションを見た。このおかげでバイクに乗れなかったのだ。全く面倒なことこの上ない。 「ツンドラさんも菫ちゃんも似たもの同士だよね。そういうとこが相性良いんだろうけどね」 「似てない。もう少し強さに貪欲になって欲しいのに」 「似てねぇ。もう少し周りを見て欲しいんですがねぇ」 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)の一言に、剣林のフィクサードは二人同時に言葉を返す。これはこれで仲がいいんだろうね、と悠里は納得した。 「剣林とアークか。だが数はまだこちらが有利。陣を崩すなよ!」 賊軍指揮官の常庵が指示を出す。一つ目小僧と賊軍の戦士が武器を構え、後ろのほうでは射撃系と魔術師系のフィクサードが、遠距離攻撃の構えを取る。 四十対二対八。戦力差は明らかな攻防戦。最善策は一度兵を引き、策を練ることだ。援軍があれば最適か。武闘派の剣林がいれば、逃げるぐらいの時間は十分に稼げるだろう。 だがリベリスタは引くことなく、それぞれの破界器を賊軍に向ける。 ● リベリスタのとった陣形は、前衛はとにかく敵陣突破。後衛は一定の距離を離しての援護である。 空から雷が落ちてくる上に、敵の数が多い。そうなればその戦略は当然である。賊軍も無理に分断させず、守りを固めるように指示を出す。純粋な数の上ではこちらが有利。守りに徹すれば勝てるという算段だ。 「敵は多いけど、君達がいるなら楽な仕事だ」 「そりゃこっちの台詞だぜぃ。やー楽できそうだねぃ」 悠里が篭手に稲妻を宿らせ、水原に語りかける。帯電する拳を握り締め、一つ目小僧の群れに身を躍らせた。豪腕を唸らせるアザーバイドの拳をかがんで交わし、懐にもぐりこんで拳を振るう。 まさに紫電。瞬く間に稲妻が走り、近くにいた一つ目たちを打ち据える。重心を崩さぬフォーム。相手の構えから次の行動を推察する経験則。そしてたゆまぬ鍛練が生み出した肉体。それがまつろわぬ民を圧倒する。 「氷原ちゃん、アレやってよアレー。諸共でも構わねーからさ」 甚内が矛を構えて一つ目小僧を抑えながら水原に語りかける。そのまま矛をアザーバイドに突き刺し、そこからエネルギーを吸い取っていく。相手から穂先を通じてエネルギーを吸い取っていく。 『アレ』というのは水原の氷の武技である。味方を巻き込む恐れがあるので、アーク参戦後は控えていたのだが。 「いやお前ら耐性とか持ってないだろうが」 「でもマジ敵多くて鬱陶しー」 不真面目な口調で言う甚内だが、巻き込む人数を考えれば有効打である。了承も得たしとばかりに水原の拳が唸る。踏み込みと同時に放たれる拳。しなやかな動きは、まさに狼を思わせる。 「楽しい戦場デート中失礼っと。オレ等もこの先に用があるんで障害物は勝手に排除するぜ」 「デートにハプニングは付き物だ。こちらも勝手にする」 十文字に語りかけた陽子が、そのまま戦場を駆け抜ける。狙いは敵軍前衛。敵の数は多いが、だからこそ燃える展開だ。大鎌を構え、地面を蹴る。自ら回転するように体をひねり、遠心力で刃を振るう。 攻め一辺倒の陽子の動き。それは危険に見えて、だからこそ賊軍は無警戒だった。敵陣深く踏み入った鎌は一つ目の死角をつき、回避を一瞬遅らせる。跳ね上げるような一閃が鍛え上げた筋肉を裂き、アザーバイドを絶命させた。 「敵は四十か。正直もう一桁多かったら流石に辟易したが」 橋を埋め尽くす賊軍に臆することなく疾風が構えを取る。一足で三歩をかける縮地の構え。地面を蹴る音が聞こえたと同時に、突き出される稲妻の拳。幾度と無く戦いを乗り越えてきた外装骨格が体に馴染む。 振り下ろされる賊軍の斧を骨格の腕で受け止める疾風。火花が散り、互いの殺意がぶつかり合う。そのまま力を篭める賊軍を腕を振るっていなし、回し蹴りを叩き込む。帯電した状態で地面を転がる賊軍のデュランダル。 「集いも集ったり、ろくでもない奴らがよー。かかってきな」 両手の羽根で宙を舞い、足に掴んだ剣で賊軍を相手しながら比翼子が叫ぶ。賊軍の数は多い。リベリスタの前衛だけでは押さえられないのだ。故に比翼子は挑発をして、後ろに向かおうとした敵の気を引く。 頭に血が上った賊軍と一つ目小僧が比翼子に飛びかかる。振るわれた拳をひらりとかわし、横から迫るチェーンソーを足の剣で受け止める。力では賊軍戦士が勝るが、速度と技術でその一撃をいなしてかわす。だが数が多い。その後ろからハンマーを振り上げる賊軍。 「問題ない。これが仕事だ」 そのハンマーの一撃にウラジミールが割って入る。高重量武具を振るうタイミングでナイフを振るい、相手の機先をそらす。間合を外した武器は十全の威力を発揮しない。重量に振り回されるように、ハンマーは地面に落とされる。 ウラジミールはそのまま敵の指揮官を見た。酒瓶片手に指揮を執る坊主。その指示は鋭く、見た目通り酔っているとはとても思えない。リベリスタたちに実力では劣る賊軍たちが善戦しているのは、指揮官の指揮能力と回復力による部分が大きい。 「いやはや、八雷神とはおっかねぇな」 空から落ちてくる稲妻に戦々恐々視ながら烏がタバコをふかす。雷神の原型ともいえるその名前は、自然信仰という形でいまでも恐れられている。それを名乗るだけの電力と大きさがあるのが恐ろしい。 「神仏を軽視するつもりはないが、あれは所詮エリューションだ。なら攻撃が届けば倒せる」 「確かに。しかし攻撃を届かせることが厄介なのだがね」 十文字の言葉を聞きながら烏は銃の引き金を引く。天に届けとばかりに放たれた銃弾は天には届かなかったが地に降る雨となることになる。火薬と鉛の弾雨は賊軍たちに降り注ぎ、橋を血に染める。 「『夜翔け鳩』犬束・うさぎ。祭りと聞いて我慢できずに駆けつけました」 剣林の流儀に合わせるように挨拶をした後で、うさぎが戦場に踊る。『11人の鬼』につけられた角度の違う十一の刃が振るわれ、一つ目小僧の胸が赤く染まる。止血が止まらない。消え行く自分の命に恐怖しながら、一つ目小僧は拳を振るう。 「あの目、一つしかないですし。狙って潰したら楽そうじゃないです?」 「ふん、狙うまでも無い」 うさぎのやんわりとした攻撃誘導に、十文字が拳を握る。小さな飛び火のような細かい炎が一つ目小僧に向かって飛ぶ。それを払おうとした手をすり抜けるように炎は目に吸い込まれ――アザーバイドが炎上した。 「なんならあの目玉の視神経部分を狙おうか?」 「なるほど。狙うまでも無いとは『狙い必要がないぐらいに的が大きい』という意味でしたか」 十文字の射撃能力に舌を巻くうさぎ。同時に頼もしくもあった。ここで囮になるなどもったいない。行き着くところまで行って欲しいものである。そのためにも、この防衛ラインを突破しなくては。 四十の敵数。それはけして安易な道ではない。 しかしリベリスタは少しずつ、その道を進み続ける。 ● 賊軍防衛ラインの強みは物量とそれを指揮する常庵の指揮能力である。個人としての能力はリベリスに分が出る。 それは逆を言えばその二点を上手く機能させなければ、この防衛ラインは意味を成さないことになる。 「どこ見てんだよ、お前らの相手はあたしだ! かかってきな!」 比翼子が神秘の言葉で相手を乱し、同時に高速で動き回って切りかかり、賊軍たちを混乱させる。そして集まった賊軍たちの攻撃を、ウラジミールが捌いていく。比翼子が足でつかんだ剣を飛びまわりながら振るい、ウラジミールのナイフが比翼子に迫る殺意を切り裂いていく。 「この程度の反撃では物足りぬだろう?」 ウラジミールは短く挑発し、ナイフを構える。ただそれだけの姿なのに、賊軍は難攻不落の砦を相手している気分になる。見た目は老兵だが、そのうちに秘めた経験と戦闘力に圧倒される。何をしても防がれてしまいそうな、そんな威圧感。 「く……攻めづらい……!」 破壊の光を放ち、舌打ちする常庵。リベリスタに攻撃目標を選択されてしまっている。本来なら高火力の疾風と悠里とうさぎを攻め落としたいのだが、それが遅々として進まない。頼みの綱の『ヤサカイカヅチノカミ』もそれを察して上手く後衛がばらけている。仲間を巻き込むよう稲妻を撃てば、数の問題で被害が多いのは賊軍側だ。 「悪の根はここで絶つッ! これで終わりだ!」 感情を高ぶらせて、疾風が腕を突き出す。その感情に連動するように、装着している『SVアームブレード』が起動した。リミッターが解除され、カバーが開いて手甲から刃が現れる。その刃を一閃し、賊軍の一人を討ち取った。 「おじさんも一射十弾と魅せようか」 時折落ちてくる稲妻に体を痛めながら、烏が弾丸を放つ。十文字の炎が一を十に膨れ上がらせる炎なら、烏の弾丸は一秒に十発を撃ち放つ弾丸の武技。わずかに沈黙し、相手の『居』を外して弾丸を放つ。虚を疲れた相手は判断すらできずにその一撃に倒れ伏した。 「呑んだくれのハゲ坊主叩くんだー!」 賊軍の前衛がいなくなれば、リベリスタたちは一気に後衛に肉薄する。後衛を庇うぬり壁に甚内の矛が走る。アスファルトをしっかり踏みしめ、腰を回転させる。そこから背骨、肩肘、そして手のひらに伝わる力の伝達。使い慣れた矛に乗せた氷の力が壁を凍らせ、突破口を作っていく。 「リスク満載のチキンレース。面白れーじゃねーか」 回復なしのチームゆえの特攻作戦。陽子はこういった作戦が性に合っていた。リスクとリターンは陽子とて理解できる。それを理解したうえで、賭けるのだ。自分自身をチップにして、ハイリスクなギャンブルに身を投じた。その鎌が、ぬり壁を裂く。 「負けてられませんね。皆殺殲滅といきましょう」 最初にぬり壁の防衛陣を突破したのはうさぎだった。静かに迫り、刃を振るう。戦場という状況において、それを行うのは至難だ。まさに死神のように気がつけばそこにいる暗殺者。振るった刃が賊軍の足元を地に染める。 「僕達は前だけを見て敵を倒せば良い」 悠里は剣林フィクサードたちのほうを見ない。それはアークとしては積極的には共闘しないという認識もあるが、様々な戦場を潜り抜けてきた相手への信頼もあった。彼は失いかけた人の手を離すような男じゃない。 前に拳を突き出す悠里。その耳に響く音。それは水原の独特の足捌き。 技は、見て記憶するだけでは覚えられない。そこに心が無いから。 心は、蛮勇に攻めるだけでは鍛えられない。そこに技が無いから。 迷い無き心と鍛えられた技を持ち前に進む。心と技、それが一体になってようやく一つの武技となる。悠里の動きは頭で考えるよりも自然に動き、氷鎖を相手に刻んでいた。 「……あれ。もしかして」 その動きに一番驚いたのは、当の悠里だったのだが。 少しずつ押し続けるリベリスタ。文字通りの壁となったぬり壁も、比翼子の挑発に乗っておびき寄せられている。リベリスタの構成が攻撃的であったこともあり、賊軍は一人また一人と倒れていく。 勿論賊軍とてただ突っ立っているわけではない。回復する人間のいない構成では、怪我人も増える。 「さすがにきついね、これは」 幸運と悪運、その両方を武器に突貫していた陽子が膝を突く。これからが本番だと言いたげに、運命を燃やして立ち上がった。 「問題ない。ここで倒れているといらぬ心配をかけるからな」 賊軍の攻撃を引き受けているウラジミールが唇の血を拭う。怒りにより攻撃力を増したまつろわぬ民の攻撃は、さすがのロシヤーネでも運命を燃やすほどの猛攻だったようだ。 「やれやれ、おじさんあまり体力はないんだがな」 後方から弾丸の雨を降らせていた烏も、『ヤサカイカヅチノカミ』の落雷を受けて運命を削る。痺れる肉体を無理やり動かし、銃を握り締める。 しかし戦果はここまで。賊軍防衛ラインの崩壊は、誰の目にも明らかだった。 賊軍の敗因は集団の矛先を上手く変えられたことと、常庵が回復に掛かりきりであったことだ。 「いいように陣形を乱されたか……!」 「そういうことよー。わりぃけどここでオシマイさー」 甚内が常庵に斬りかかり、笑みを浮かべる。挑発されたぬり壁を癒して自分を庇わせようと命令するが、その狭間に疾風が戦場を駆け抜ける。 「抗う力さえもない人々を護る為にこの力はあるんだ」 橋の向こう側にいる四国の人たち。今なお恐怖に震える彼らを助けることが、革醒した力を得た意味。決意を胸に秘めてその思いを力に変えて、一気に常庵に迫る。夜の冷気すら吹き飛ばす熱い闘気。 「これ以上の犠牲は生み出させはしない!」 気合一閃。袈裟懸けに振るったアームブレードの刃が、破戒坊主の胸を裂いて地に伏した。 ● 常庵がいなくなれば、残りの賊軍はまさに烏合の衆。 瞬く間に制圧され、戦いは、瞬く間に終結に向かった。 「任務完了。戦闘続行に影響はない」 賊軍の猛攻を耐え切ったウラジミールが体の状態をチェックして、ナイフを収めた。賊軍前衛の攻撃をほぼ受けきった形になる。 「たいした相手ではなかったなー」 比翼子が腰に手を当てて、勝利を喜ぶ。彼女が賊軍をおびき寄せて困惑させたことが、賊軍の攻撃力を大きく削いだ結果となった。 「行け。今は争うときじゃない」 「ここで囮になる程度で満足はしないんでしょう」 疾風とうさぎが剣林の二人に向き合い、言葉を放つ。アークと剣林は友好的ではないが、ここで争う意味合いはない、とばかりに。 「どーよー菫ちゃん旦那はー!」 「以前より覇気が低い。もう少し本気を出せ、良」 「厳しい評価だな、お姫様。忠狼も大変だ」 甚内が十文字に水原の評価を尋ねれば、思ったよりも酷評が帰ってきた。その評価を聞いて、陽子が頭を掻いた。剣林のデートはよくわからない。 「水原君も大変だな。安らぐ余裕がなさそうだ」 「安らぎを求めるほど、俺は女性に希望を持っちゃいませんぜぃ」 「うん。それは相手によるんじゃないのかな? 優しい女性もいるよ」 同情するように烏が水原に語りかけ、こぼした水原の愚痴に悠里が答えた。十文字が変と言うつもりは……確かに変り種だが、ともかくパートナーに何を求めるかはそれぞれである。 耳朶を打つのは、落雷の音。一億ボルトの天からの鉄槌。 『ヤサカイカヅチノカミ』の轟音で、革醒者たちは気を引き締める。この橋の向こうは戦場なのだ。裏野部一二三が待つ、四国。 賊軍防衛ライン崩壊により、後続のリベリスタも四国に突入できるだろう。 だが夜はまだ明けない。大晩餐会は始まったばかりなのだ。 夜明けの鐘を鳴らすべく、リベリスタは歩を進めた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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