●スネーク・フライト作戦 「緊急の案件です。危険性の高いE・ビーストの存在が確認されました」 作戦室に駆け込んできた『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)は、開口一番にそう告げた。 「現在、駿河湾の海上を、大型の生物が北上中。数時間後には、三高平市港湾地区の上空に到達する見込みです」 和泉は緊迫した面持ちで集まったリベリスタたちを見回すと、モニターを操作し、映像を切り替える。 抜ける様な晴天の空。見渡す限りの青い海。 が。誰しも心洗われるような清々しい光景の中に、そいつは映りこんでいた。 海上の低い空を、波しぶきをあげながら身をくねらせるようにして泳ぐ、異物。 そいつは、聖銀のように煌めく、真白い鱗に覆われていた。 また、そいつは、産毛のようにひらひらと翻る、無数の小さな翼を生やしていた。 そして、そいつは、鞭のようにしなる、長大な、あまりにも長大な身体を持っていた。 「蛇を母体とするエリューション・ビーストのようです……フェーズは2と断定されました。皆さんには、これを撃退していただきたいのです」 低空を悠然と泳ぐように進行する、翼持つ蛇。その威容は、神秘を体現し神秘と共に活きるリベリスタたちにも、どこか神々しいものを感じさせた。 和泉は、モニターに映る映像を更に切り替える。 「港湾地区周辺には、作戦決行時刻に合わせて一時的に避難命令が出されることになっています。皆さんはその間に、目標が港の船着場に差し掛かった時点で、こちらの武器を併用しつつ攻撃を行ってください」 映し出されたのは、港の波打ち際を見据えるような位置に設置された、先端に銛を備えた大砲……のような代物。 「古い、捕鯨用の銛撃ち機を改良したものです。これを使えば、目標を地面へと失墜させて拘束し、上空への逃走を阻むことができるはずです」 コンクリートの上に据えられた、半ば錆付いた捕鯨砲は、かつて駿河湾でも捕鯨が行われていた頃の名残りなのだろう。先端で、そこだけがやけにまぶしく磨かれた鋭い銛が、ぎらぎらと太陽光を反射している。 和泉は、更に説明を続ける。 「それから……一点。憂慮すべき事項があります。こちらをご覧ください」 映像は海上をゆく蛇の長大な身体へと戻り、その最後尾近く、尾の先端周辺を拡大する。 先端の少し手前に、黄色がかり、球状に膨らんだ器官が見てとれる。表面はハニカム状の格子模様で、良く見れば、内部で何かが胎動するように、どくん。どくん。と、一定のリズムで震えているのが分かる。 「恐らくは、この器官から子供を……小型のE・ビーストのような生物を排出する可能性が高いと推測されます。どの程度の数かは分かりませんが、注意が必要です」 生々しく、ぬらぬらと濡れた表面の球状の器官が、不気味に低く鼓動を響かせながら脈動している。 「昼間の作戦決行となるのは幸運でした。エリューションの活発化する夜間の戦闘となれば、更に厄介な事態になっていたはずです」 和泉は、リベリスタたちの顔を一通り見回すと、 「危険な相手ではありますが、皆さんなら、きっと勝てるはず。よろしくお願いします」 お気をつけて……そう言って、頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:墨谷幽 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月26日(水)00:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●接触 「空を行く、在りえざる威容。それはどこか、遠き地の神の姿にも似て……ああ、これこそ正に、神秘のなせる業よ」 埠頭に据えられた係船柱に片足を乗せ、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)は、言葉通りの神ならぬ姿を前方に認め、目を細める。 直上から降る太陽光をきらきらと反射して輝かせつつ、身をくねらせて宙を泳ぐ、巨体。八つの瞳と無数の翼持つ、白き蛇。 それを目にするにつけ、『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)は、 「詩的なのですね、喜平様。でも、確かに……あのような存在が、この世界の古い時代における、神や魔物の類。そんな風に呼ばれて、後の世に伝わっていくことも、分かる気がします」 「そうだね、実に。とはいえ……」 とはいえ、だ。いかに神のごとくの姿を誇るとしても、ここに集うリベリスタたちが成すべきことは、根本において何も変わりはしない。 隣では、『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)と『魅惑の絶対領域』六城 雛乃(BNE004267)が、アクセス・ファンタズムを解放し各々の武装を取り出しつつ、 「私ね、あんな風に翼の生えた蛇が出てくる漫画、読んだことがあるの。えーっと、何だったかな……雛乃さん、知ってる?」 「ん~、ゲームだったら知ってるかな? あんなデッカイエリューションが相手だなんて、本当に、モンスターをハンティング! って感じだね。ゲームと違って、こっちは命がけだけど……」 「あはは、そうだね。うん、気をつけて頑張ろうね!」 楽しげな会話に聞こえたが、目前に迫る巨体は嫌でも二人の視線へと飛び込んでくる。ぴり、と緊迫しながら、二人は戦いへと意識を傾けていく。 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は、コンクリートの地面にごついボルトで打ち付けられて固定されている、やや錆び付いた捕鯨砲に手を触れ、一通りの操作を確認する。急ごしらえといった風の今回の秘密兵器だが、ひとまず作動に問題は無いようだ。 「捕鯨砲、とはね。こいつもまさか、白鯨ならぬ白蛇を狙う時が来るとは、夢にも思わなかっただろうな」 つぶやくと、杏樹は砲を動かし、銛の先端を、徐々に大きくなりつつある敵影へと据える。 久々の大物捕りだ。油断せずに行こう。そう心を引き締めると、杏樹は離れたところにあるもう一門の捕鯨砲の傍らに立つ影に向けてひとつ手を振り、親指を立てて合図する。 合図を返しながら、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は、 「ふむ。今回の相手は、でっかい蛇ですか、厄介ですなー。でもま、今回はこうして、大空を舞う相手を叩き落す秘密兵器もあります。何とかなるでしょう、多分」 顔にかぶった白い奇妙な仮面の下でくつくつと笑みを浮かべつつ、砲の先端を白蛇の鼻筋へと向ける。 蛇は、あと一分と経たぬ間に、この銛が届く間合いへと差し掛かるだろう。 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)と『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は、それぞれ捕鯨砲の射手を即座にサポートできる位置へと立ち、その時を待っている。 「捕鯨砲だなんて、良くあんなものがありましたね。随分と使い込まれているようですし、歴史ある一品……という感じ」 かつてその砲台が、巨鯨を相手に海を渡っていた時代に思いを馳せるレイチェル。 「私も、一度じっくりと見たり弄ったりさせてもらいたいところですが……そのためには、まず。目前の鯨狩り、ならぬ蛇狩りですね」 楽しませていただきましょう……つぶやきを端として、レイチェルの頭脳はめまぐるしく回転を始める。 やがて。 「……来ます!」 最前列へと飛び出した彩花の頭上で、巨体は身を躍らせ。 か、と巨大な顎を開くと、高らかに咆哮を放ち、リベリスタたちの身をばりばりと震わせる。 ●空を切る 標的の到着を目前にして施した準備により、各々が戦力の底上げを図ったリベリスタたちは、上空の白蛇と真っ向から対峙する。 「ありがと、ファウナさん! いっくよーっ!!」 ファウナの援護により、背に小さな翼を抱いたルアの柘榴石のナイフから放たれた一閃が、白蛇の擁する無数の羽のいくつかを斬り飛ばす。続けざまにくるりと身を翻し、反動を殺さず二連撃を繰り出し、更に数枚の羽がはらりと落ちる……が、白蛇の飛行は依然安定している。 雛乃は、事前の詠唱によって練りこんでいた魔力を収束、解き放つ。荒れ狂う濁流のような黒鎖が白蛇へと絡みついていくのを見据えつつ、レイチェルはするりと手の中へと現れたナイフを手の平で弄びながら、 「空を飛ぶということ……あなたは自由でいるつもりかもしれませんが、そうではないのですよ。地に足を据えていないということは、行動を制限されているということ……つまり。とても、読みやすいのです」 それを、投げ放つ。緻密かつ精緻な狙い撃ちが純白の鱗を穿ち、血飛沫が散る。 巨大な頭部の真下へと常に陣取り、白蛇の注意を引く彩花の試みが一定の効果を導き出しているのを確認すると、杏樹は軋む捕鯨砲の砲身をぎしぎしと言わせながら回転させ、太陽光を反射してぎらりと獲物を睨みつける銛の先端を、標的へと定め。 「……いける。まず一つ……空の散歩は、終わりの時間だ。受けろッ!」 引き金を引き絞る。どすん、という、深く身を震わせるような強烈な爆裂音を周囲に響かせながら、放たれた銛は、じゃりじゃりと鳴く鎖の尾を引きずりながら、一直線に飛翔し。 白蛇の、頭部の後ろあたり、喉元付近を貫通する。 頭をもたげた白蛇、地の果てまで届きそうなその雄たけびにいささか顔をしかめつつ、杏樹はすぐに鎖を巻き取りにかかる。貫通し、展開した鉤ががっちりと白蛇の背に食い込み、鎖はぴんと張り、上空の巨体を一定の範囲に留め置くことに成功する。 続いて、二門目の捕鯨砲を叩き込もうと、九十九が照準を合わせた……その時だった。 どこか苦しげな高い鳴き声を上げた白蛇の、開いた顎の内。口腔内へと、強烈な光が収束していき。 膨れ上がり、溢れ出す瞬間。それは巨大な光の奔流と形を変え、地上へと伸びて炸裂する。 「っ、しまっ……!」 突き立つ光の柱に巻き込まれた彩花の身が高熱に焼かれ、衝撃に吹き飛ばされつつも、何とか地を滑りつつ体勢を立て直すのを尻目に。白蛇の長大な身体、その尾の先端付近では、ある変化が起きていた。 ハニカム模様の浮かび上がる、奇妙な器官。脈動するその内部から、薄壁を通り抜けるように、ずるりと小さく細い影……ミニチュアのような白い蛇が這い出すと、二枚の小さな翼を必死に羽ばたかせ、宙へと飛び出していく。小さな蛇は一匹ではなく、ずるり、ずるりと次々に子蛇たちが飛び出しては踊るように周囲を舞い飛び、リベリスタたちへ無邪気そうな仕草で、くりっと鎌首を向ける。 3体の子蛇たちが集い、編隊飛行のように白蛇の前方、捕鯨砲との射線を遮る位置へと陣取ると、子蛇たちの口から照射される光が透き通る三角形を描き出す。 「やれやれ、件のバリアですか、厄介ですな。ここは一つ、邪魔な雑魚は一掃するに限る。くっくっく、私の弾から、逃れられますかな?」 ひとまず捕鯨砲の発射をあきらめ、九十九は宙を飛び交う子蛇たちへと銃を向け掃射し、弾丸を撒き散らす。小さな身体が示す通り、敏捷な動きでそれらをひょいと避けていく子蛇たちだが、一匹が弾丸をかすめられ、あっさりと身体に穴を開けて地へと落ちて行く。 展開は概ねフォーチュナの予知どおり、うっとおしく飛び回る子蛇たちの肉体は、相当に脆いようだ。 ファウナがその遠き故郷とのリンクを図り、力を借り受けている傍らで、機を伺っていた喜平は手にした巨銃から散弾を放ち、バリアを形成する子蛇の一角を含む数匹をまとめて吹き飛ばす。 白蛇は鎖に繋がれ、しかし未だ、リベリスタたちの手が届かぬ空を泳いでいる。 ●鎖 隙を見計らう九十九、縫うように放たれたその銛の一撃を、しかし白蛇は身をくねらせてかろうじて体をかわし、鎖はコンクリートの地面へと空しく線を引く。 しかし。運悪くも外れた初弾を、九十九は即座に引き戻していく。リベリスタたちの瞳に、諦めの色は無い。 いくらかの時が経過し、羽音を撒き散らしながら辺りをうるさく飛び回る子蛇たちは次々と叩き落されて散っていくが、白蛇は再度生産器官を脈動させ、数を補なう。 レイチェルがその様を横目に観察しつつ、細めた眼で状況を鋭く分析しながら繰り出したダガーの二連射が、数匹の子蛇を寸分違わず貫いて落とす。続くように、霧めいて広がる無数の氷刃をルアが展開し、飲み込まれた子蛇たちがいくつもに寸断され、ばらばらに散る。 雛乃も負けじと、短いスカートの裾を際どく翻しながら手をかざし、 「あたしの魔術の深淵、見せてあげるよっ!」 走る雷が次々と子蛇たちの真芯を射抜き、消し炭へと変えていく。 思う様に飛び回っていた子蛇たちのうちの数匹が、リベリスタたちへ向けて小さな口を目いっぱいに開くと、脆弱なその身体からは想像もできない高出力の光線が放たれ、喜平とルア、九十九の肌を焼き、貫く。 また、三体の子蛇が再び編隊飛行を開始し、親蛇への射線を阻むバリアを作り出す。 「活路を開きます……皆さん、追撃を!」 ファウナが、炎を宿らせた無数の矢を火山弾のように連射して、視界の中を飛ぶ子蛇たちをまとめて一掃すると。 生まれた隙を見逃さず、杏樹の魔銃から撃ち出された弾丸が、バリアを形作る一角の子蛇の頭部を消し飛ばす。ふ、と、三角形の光の壁が消失したところへ、杏樹はすかさず、針の穴を通すような精緻な射撃で追撃をかけ、白蛇の最後部付近で脈打つ、黄色がかった奇怪な子蛇たちの生産器官へと弾丸を叩き込む。 ぴしり。ハニカム模様の表面に、細かいヒビが走ると。 「相手が何であろうと、この世に認められぬものは、例外なく粉砕する。それが我々の、至極単純な道理だよ」 杏樹の叫び、告げた狙いへと応じる喜平の巨銃へ収束する破壊のエネルギーが、巨大な弾丸の形へと成す。 円周上に広がる衝撃波と共に撃ち放たれたそれは、刹那の時、遮るもののいなくなった白蛇の尾の先端へとぶち当たると弾け、破壊し。ガラスめいた表面組織と濁った黄色い体液をあたり構わず撒き散らしながら、内部に蠢く未生育な幼体もろともに、吹き飛ばした。 おおおおん……と、遠雷を思わせる甲高い鳴き声を響かせ、白蛇は八つの瞳に炎のような赤い光を灯すと、捕鯨砲の脇に立つ九十九へ目掛け、眩しく輝く光線砲を放出する。 「やらせは、しませんッ!!」 仲間の危険を察し走りこんだ彩花は、九十九の眼前へと立ちはだかると、両腕の鉄甲を十字に組み、九十九と捕鯨砲への攻撃をかばう。 瞬間。光柱の奔流、その直撃を受け、宙へと弾かれ舞い上がった彩花は、しばし滞空した後に……その身に抱えた機械化部の重量そのままに、がしゃり。と、音と衝撃を響かせ、地に落ちた。 「無茶をなさる……彩花さん!」 九十九の呼びかけに、しかし彩花は、沈黙をもって答える。 「……なるほど。貴女の心遣い、無碍にはできますまいのう。さて、白蛇さん。事ここに至っては、悠々と宙を舞うその優雅な姿も、もはや許しておくわけにはいかぬというもの」 がりり。錆び付いたハンドルが軋みを上げ、ぎらつく銛は、怒りを帯びたかのように鋭利な先端で巨体を睨む。 「そろそろ、地を舐めていただきますぞ!」 破裂音。空を伝う衝撃があたりを伝播し、迷い無く放たれた銛は、引き摺る鎖によって空へと線を描きながら飛び。 白蛇の太い胴、その中心を、寸分違わずに貫いた。 鮮血を散らしながら身悶えし、金属音めいた高い悲鳴を轟かせる白蛇を、強力に巻き取られていく鎖が容赦なく引き、やがて。 文字通りにコンクリートの足場を揺らしながら、巨体はついに、地へと失墜した。 ●あの空は遠く遥かに 戦いは、地上戦へと突入していた。 引き摺り下ろされ、自身を守るはずの子供たちも失くし、身動きを封じられた白蛇の巨体へ。リベリスタたちは、各々が最も得意とする攻撃を加えて行く。 瞬く間に、十数秒も時が経過した頃。 「鎖で縛ることなら、あたしにだって出来るよ! いっけーっ!!」 「私は、大切な人を守るために……貴方を、倒すわ。ごめんね、許さなくて、いいから……っ」 雛乃の手元から飛び出した絡み合う黒鎖が、怒涛のごとくに巨体に絡みつき、縛り上げ。舞い散る雪花、煌く純白を纏うルアが地を蹴り、閃く風のような刃で鱗を切り裂き。 「さあ、蛇なら蛇らしく……地べたを、這い回れッ!」 「身体が大きいというのも、難儀なものですな。もはや二度と、自由に空を舞うことは叶いませんぞ?」 レイチェルのダガーが、剥がれた鱗の下、赤く塗れたピンク色の肉を目掛けて執拗に突き刺さり。大仰な仕草と共に九十九の放った銃弾の二連射は、白蛇の眉間へと狙い違わずに吸い込まれ、滝のような血液の流れを溢れさせる。 杏樹とファウナはひとつ頷き合うと、互いの武器をがちりと合わせ、狙い定めて。 「次は無い……きっちり仕留めて、埋めてやる。なに、心配するな、弔いくらいはしてやるさ」 「神、魔物……神話には、相応しい終わりがあるものです。あなたの生きる世は、きっと、ここでは無かったのでしょう……」 氷を帯びた魔弾が白蛇の背を撃ち抜き、燐光を撒いて飛翔するフィアキィが冷気を収束し、うごめく無数の羽を、ぴしり、ぱしりと凍結させていく。 くあ、と口を開き、苦しく切なげな細い声を上げる白蛇の、その口腔内へと、喜平は巨銃の砲口を突き入れる。 「……勝機! 悪いが、これが仕事でね。恨んでくれるなよ?」 そうつぶやくと、慈悲も無い零距離射撃を、ぶちかました。激しい光条が爆裂するように迸り、白蛇の体内を荒れ狂い、破壊していく。 と。 もはや大勢において優劣は決し、白蛇に余力は多く残されていない……そう、思われた瞬間。 「っ、気をつけてください、まだ……動く!」 最も冷静に場を掌握していたレイチェルが、その兆しを察して叫ぶ。 破れかぶれか、それとも狙いすました一撃だったのか。ずたずたに引き裂かれた白蛇の口腔内から膨れ上がった光が、一瞬にして伸び。咄嗟に地面へ身を投げて回避した杏樹の身体をかすめつつ、片方の捕鯨砲を飲み込み、見る間に蒸発させた。 唸りをあげ、鎖の一本をばらばらに引き千切りながら、白蛇は再び、青空を目指す。あるべきところへと帰るかのように。美しい白銀の鱗を、きらきらと煌かせながら。 誰もが動けず、浮かび上がる巨体を見送るしかない……そう思った時。 「………………逃がしは……しません……ッ!!」 立ち上がり、雷を纏いながら、走り出す。 「……彩花さん!」 「彩花……! 最後を、決めてくれ!」 仲間たちの後押しを背に、運命をも捻じ曲げ、彩花は疾走する。 未だ繋がった天上への道、今にも引き千切られそうな鎖の上を、彩花は駆け上がり。白銀の蛇、その身を蹴って、飛び上がり。 「神の名を冠する、翼持つ蛇……ですが、私はリベリスタ。その任を全うするのみです!」 弓なりに背を反らせ、両の鉄甲を振り上げると。 「大御堂の、名に懸けてッ! うあああああああッ!!」 白蛇の脳天へと、渾身の膂力を乗せて叩き付けた。 衝撃と共に、電弧が十字の軌跡を描いて迸る。 頭蓋を砕かれた白蛇は、大空の只中で……静かに、事切れ。 巨体は再び地へと失墜し。そして、二度と飛び立つことは無かった。 ●束の間の空白 追った傷と、最後の無理がたたり、再び意識を手放してしまった彩花を物陰で休ませながら。 「さて。結局、この蛇は、どこへ行きたかったんでしょうかな」 「分かんないけど……何にせよ、放ってはおけないものね」 九十九の発した素朴な疑問に、ルアは少し悲しげな表情を滲ませる。 雛乃は、動かなくなった巨体……死してなお、美しくきらめく鱗を眺め、 「……気休めだけど。お祈りくらいは、してあげようかな……なむなむ」 「そうですね……お休みなさい」 傍らのファウナと共に、手を合わせて目を伏せる。 「ま、何にせよ。これにて任務完了、というわけだね」 「ああ。彩花が目を覚ましたら、撤収するとしよう」 喜平の言葉に杏樹も頷き、一人離れ、一門だけ無事に残った捕鯨砲を観察していたレイチェルへと声をかける。 レイチェルはそれに短く答え、歴史と時代を越えて力を貸してくれたその錆び付いた砲身をもう一度撫でると、仲間たちの元へと戻って行く。 間もなく、港湾地区の避難命令が解かれる頃合だ。じき、この場にもいつもの喧騒が戻るだろう。 リベリスタたちが後始末を終えて立ち去った後、それまでのしばしの間。海辺の一角には、潮風と波の音だけが静かに漂っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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