●ロンドンの戦いの後に ロンドンでの戦いも一息ついて、日本に帰還するリベリスタ。 いくつかの爪あとを残した戦いであったが、戦い自体はキマイラの作製者六道紫杏を初め、ジェームズ・モリアーティと『倫敦の蜘蛛の巣』を滅ぼしたこともあり、大勝利といえよう。 そんなわけで、ある程度の余裕も生まれる。『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)はロンドンの戦いで出会ったある人のことを考えていた。日本が嫌いな『スコットランド・ヤード』の老警部のことを。 確か次女が日本にいるといっていた。それが日本人嫌いの理由なのだと。 さてその次女とはどのような人物なのだろうか。 その人物像と居場所情報は、あっさり入手できる。老警部の所属する『スコットランド・ヤード』内では有名な話で、彼らも親子関係は良くなって欲しいと思っている。真摯に問えば、教えてくれた。 彼女――ナタリア・ダニエルという人物は。 ●Natalia=Daniel=Oomura スマートフォンを耳から外し、そっとため息をつく女性。落胆と安堵。二つが入り混じっていた。話をしていたのは自分の母親。ロンドンで大事件が起きたと聞いて、心配になって電話したのだ。 「お義父さんどうだって?」 「無事だけど落ち込んでるみたいデス。メンタル的に辛い戦いがあったトカ」 温泉街の外れにある金物屋。自作のお土産を売るのがメインの仕事だが、少し離れたところに鍛冶を行える施設もある。その鍛冶の施設で男女は話していた。 「そりゃ大変だ。イギリスに帰る?」 「ノー! ダッドがサムライソードの良さを認めるまではイギリスにリターンホームしないデス!」 かぶりを振って女性が腰に手を当てる。彼女の父親を知る者が見れば、きっとこういうだろう。親子とは似るものだ、と。 「それよりもユーレーが出たみたいだから、イットーリョーダンしてきマース」 「ああ、母さんが予知したEフォースか。気をつけて」 愛する人に軽く手を振って、日本刀を持つ英国女性は庵を出た。 ●少女六人 「今日はみなさん、集まってくださってありがとうございます……」 リンシードは集まった人たちに頭を下げる。机の上に広げた地図。そこに赤丸がつけてある。 「実は……ロンドンのダニエル警部の娘さんが、ここに住んでいるようです」 赤丸の着いている場所は、山中の温泉街だった。雪見の温泉宿として広告がでているが、規模としては小さめである。 「温泉ですかー。入ってみたいですねー」 「そうね。体を休める意味でもいいかもしれないわ」 シーヴ・ビルト(BNE004713)と『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)が、宿の写真を見ながら頷いた。その後で一枚の写真を手にする。 「この人がその娘さん?」 「はい……ナタリア・ダニエル・オオムラ……リベリスタで、デュランダルみたいです」 「父親と同じジョブなのね。闘い方も父親と似通っているみたい」 父親の闘い方を見ている『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は、ナタリアの詳細なデータに目を通していた。高打撃を連続で叩き込む連撃デュランダル。父の域には達していないが、その闘い方はまさに父の背を見たものだ。唯一の違いは、 「日本刀を使うんですね、この人」 『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)がナタリアの腰にある刀に目を移す。破界器のようだが、その長さは明らかに彼女の身の丈にあわされている。つまりゼロから打ち出した刀だ。 「彼女の……旦那さんが刀を打ったみたい、です。この、大村誠さん……」 「ふーん。ラブラブなんだー」 『純情可憐フルメタルエンジェル』鋼・輪(BNE003899)が写真を見る。刀鍛冶の修行をしているのか、腕の筋肉がかなり盛り上がっている。戦闘系革醒者というよりは、破界器を作製するタイプなのだろう。 「父親とは……結婚してから会っていないみたい、です」 「仲が悪いのかしら?」 「はい……喧嘩をしていると、聞きました。お互い、意地を張っているようで……」 リンシードは老警部のことを思い出す。一方的な理由で他人を嫌う人だが、排他的な人ではない。娘のことに関しても、彼自身気になっているようだった。 「それで、リンシードはどうしたいのかしら?」 「……とりあえず、話をしてみたいんです」 糾華はリンシードの行動に驚きを感じていた。かつては『人形』と呼ばれていた妹が、一時すれ違っただけの人のために動くとは。そしてそのために他人に協力を仰ぐとは。 (嬉しいものね) 糾華は言葉なく微笑む。こうした変化を、人は成長と呼ぶのだろうか。 「皆さん……同行してくれませんか……?」 頭を下げるリンシード。その頼みを断る者は、ここにはいなかった。 ●男ならこの気持ちを納得していただけると思うのですがいかがでしょうか。分かりませんかそうですか。 「へへへへへ。こんな体になったのならやることは一つだよな。女湯を覗く! そしてあわよくば女の体にとりついて、あんなことやこんなことを……うひひひ」 革醒していない人には見えないEフォースが、町の入り口で下品な笑いをしている。 女の子の六人連れがやってきた。ゴシック多彩な少女達だ。和風な温泉街では目立つが、それが似合うぐらいに可憐な少女達。どれが一番などと決めることができない。 「ど・れ・に・し・よ・う・か・な……君にきめた~!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:EASY | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月01日(土)22:34 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 「ユーレイが沸いたと聞いてみたら……フーアーユー?」 ナタリアはEフォースに向かってアイアンクローを決めている『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)をみて、驚きの表情を浮かべていた。そのまま消失するEフォースに見向きもせず、リンシードは口を開く。 「は、始めまして、ナタリアさん……あの、急に申し訳ないのですが……今日は折り入って、話があって来ました」 言葉こそたどたどしいが、リンシードの真剣さにナタリアは改めて六人の旅行者を見回した。 ● 「立ち話も何だから……貴女のお店、お土産屋さんだったわね。お邪魔しても良いかしら?」 という『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)の提案により、一通りの自己紹介の後に一同はナタリアの住むお土産屋に向かっていた。お茶とお菓子を出され、ここまできた疲れを癒す乙女達。 「日本刀の素晴らしさを語ってパパを説得するのがミッションなのですね。わかりました!」 分かっているようなわかっていないような『純情可憐フルメタルエンジェル』鋼・輪(BNE003899)の興味は、時折見られる虫類にあった。家の影に蜘蛛などを見かけ、嬉しそうな笑顔を浮かべる。 「人の為に行動できるリンシードさん偉い子いい子っ」 シーヴ・ビルト(BNE004713)は頭をなでかねないほどの勢いで、リンシードを褒めている。この旅行の発端はリンシードの行動力によるものだ。フュリエに『親子』の概念は理解しがたい。強いていうなれば、世界樹とその子という感覚か。そんなことを思う。 「ダッドの話デスか?」 「そうよ。『スコットランド・ヤード』のダニエル警部」 ナタリアの瞳を見ながら、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が告げる。あの老警部とは何度か共闘したことがある。日本人嫌いな男だが、けして心から嫌悪しているわけではなかった。 彼が意固地になっている原因は、ナタリアがイギリスを出て日本にいるからだ。一応実家に連絡は入れているみたいだが、父とは絶賛喧嘩中である。 「いやほら、連絡は入れないと誘拐したみたいだし」 とは夫である誠の言である。 「二人の仲直り大作戦です!」 拳を握って『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)が立ち上がる。渦中のナタリアはコタツの上にあるミカンをむきながら、乙女たちを見ていた。誠はじゃあ俺店番するから、と席を外す。 「お子さん作っちゃったら一気に解決しそうな気がするのだけれど……なんてね、うふふ」 「あー、逆に怒られそうかな、それは」 席を外す誠に糾華が耳打ちする。それを適度に受け流す誠。そして糾華の視線はナタリアのほうに向く。既に妹が説得を始めていた。 「えと……倫敦では貴女のお父様に、何度もお世話になりました……だから、という訳ではないのですが……その、少しお父様と会う気はないですか……?」 「ンー。ダッドとは絶賛喧嘩中デスから」 リンシードの説得に、眉をひそめて応えるナタリア。父のことをよく言ってくれるのは嬉しいのだが、それとこれとは別問題のようだ。 「喧嘩の理由は『父親が日本刀のよさを認めてくれない』なのね」 「イエース! ダッドは重機最強で固まっているのです!」 糾華の確認に、ナタリアは憤慨するように叫ぶ。意固地なのは親子だなぁ、と老警部を知る者は思ったとか思わなかったとか。 「刀のよさは私も分かります!」 「オゥ! 同士発見です!」 がしっと握手するセラフィーナとナタリア。二人が日本刀の良さについて語り合っていた。同じフライエンジェで日本刀使い。お互いの武勇伝を話し合い、話が少しずつ脱線していく。 「もういっその事、実力行使で刀の良さを解らせればいいんじゃないんですか……?」 「いいですね! 直接対決でも良いし、どっちがより大きい岩を切れるかとかでも良いです!」 「コヨイのサムライブレードは血に飢エテルネー!」 呆れたようにリンシードが突っ込みを入れれば、セラフィーナとナタリアがノリノリで答えた。さすがに本気ではないようだが。 「うちのパパとの関係性と比較してみましょうかー。ときどきケンカはしますけど許してくれないってことはないですね」 最年少の輪が落ち着いた意見を出す。フルメタルなセイヴァーとクイーンの関係を思い出しながら、腕を組む。 「うちの場合はアレですね、ママが強いんです。最終的にはそこに落ち着くんで、やっぱりお母さんを頼るのが一番なんじゃないでしょうか」 「ムー……」 「んー、人間の親子関係って不思議っ。一緒の流れで繋がってるのに近かったり離れたり」 輪の言葉に悩むナタリアを見て、シーヴが率直な感想を告げる。悩むあたり、ナタリアも父への情はあるみたいだ。 「ダニエルが挑んだ精神的に辛い戦い。貴女は何処まで把握しているのかしら?」 氷璃がナタリアに問いかける。詳しくは聞いていないのだろう。彼女も家族という意味で無関係ではない。聴いていたら彼女も穏やかではないことだ。 「っ! ……シーザーとオーレリアが……?」 「二人の遺体がキマイラの素体に使われて、ダニエルを誘き寄せる罠として使われたのよ」 さすがに茫然自失になるナタリア。彼女からすれば姪と甥だ。 「私も親戚とは険悪だけれど……親のいる間は大事にしても良いんじゃないかしら?」 「……少し、考える時間をクダサイ」 糾華の言葉に、すこし重い口調で答えるナタリア。さすがにショックが大きいのか、その足取りは重い。だが、意固地になっていた部分は確かになくなっていた。後は彼女次第だろう。 「……うまく、いったんでしょうか?」 「関係を考え直す機会になったかもしれないわね」 リンシードの問いに糾華が答える。ショックは大きいみたいだが、それはナタリアの家族愛ゆえ。その愛が意固地な気持ちを吹き飛ばすことを、今は祈るのみである。 ● 宿屋にチェックインして、一同は温泉に向かう。温泉を期待していた輪が早くいこうと皆をせかすこともあったが、他の乙女達も早く温泉で体を温めたかった。 雪降る地のひんやりとした空気と、地面の熱が合わさり心地よい。ほかに客がいないこともあり、静かで穏やかな雰囲気に包まれて一同は温泉に浸かっていた。 「わーい! 虫さんでーす!」 輪は近くで見つけた虫を手にして喜んでいた。六本足をわきわきしているのをみる。間接部分の動きや、甲羅の部分を触ってその感触を楽しんでいた。 「わっ! 輪さん、それ遠くに捨ててください!」 無視の類が苦手なセラフィーナが、拒絶のポーズを取る。趣味はそれぞれだが、同様の理由で虫はお断りである。手早くお湯を浴びて、温泉に退避する。 「ふにゃー、ぽかぽかして気持ちいいっ」 シーブがいつも以上のゆるい口調で温泉を満喫していた。ラ・ル・カーナにも水浴び用の泉はある。だけど寒冷地もなければ地熱で温まる泉もない。 「んん、いい気持ちー」 お湯の中で伸びをする糾華。白銀の長髪をタオルで結い、全身を包む温かさに弛緩している。伸ばした手をすべる水滴。水滴は糾華の肩をすべり、そのまま温泉に落ちた。 「糾華が皆と温泉だなんて珍しいわね」 いいながら氷璃は淡雪のような白い肌にお湯をかける。そっとしゃがみ、お湯を掬い、身を漱ぐ。その一連の動作さえ品格を感じさせる。 「そうですね……私も始めて、です」 糾華と同じように水色の長髪をタオルで結ったリンシードが、糾華の方を見て口を開く。胸元に手を当てて心配そうに姉を見る。 「色々あって……ね。隠すの、止めたの」 心配そうなリンシードの視線を受けて、糾華が左胸の傷に触れる。傷跡は何年経っても消えはしない。肉体の傷も。心の傷も。だから糾華はひたすら傷を隠していた。誰にも触れさせなければ、これ以上傷は深くならないとばかりに。 だけど違うのだ、と糾華は思う。過去は消えない。ただ一人で溜め込んでも、消えることのない痛みが続くだけだ。だが、誰かと背負うなら痛みは軽くなる。 「リンシードと皆となら、大丈夫って。そう思ったから」 「ねーさま……」 傷を隠そうとしない糾華に微笑むリンシード。そこにある種の強さを感じ取り、信頼されている事実に胸が温かくなる。 「糾華、ずっとその傷を隠していたのね?」 氷璃がそんな糾華の手をとった。 「その傷は貴女の心にも深い傷を残したでしょう。でも、貴女はそれを乗り越える決意をしてくれた」 そこにどれだけの葛藤があったのだろう。そこにどれだけの苦しみがあったのだろう。傷の痛みも、深さも、それが与える心の叫びも、すべて想像することしかできない。もしかしたら一生傷は消えず、苦しみは永遠に続くのかもしれない。 「娘のような貴女の成長がとても誇らしく思えるわ」 でも、それを乗り越えると決意してくれた。その結果はまだ分からないけど、その一歩を踏み出したことが素晴らしい。その先はまだ闇の中だけど、その未来に幸があることを祈るのみである。 そんな皆の絆を再確認する空気の中、 「皆仲間だと思ってたのに、一人だけずるいです」 と、セラフィーナの不満げな声があがる。 顔を水面に半分鎮めつつ、シーヴを見ていた。ふくよかに温泉に浮かぶ双丘を。自分自身のと比べて、セラフィーナは陰鬱な気分になる。裏切り者は、ここにいた。 「ふふふ、世界樹の恵みなのですよっ。フィアキィが恵みを運んできたらきっと大きくなるかもっ」 胸を張るシーヴ。背筋を伸ばして真っ直ぐ立つだけで、大きく揺れた。ぽよん、と言う擬音が響く。 「私もミステランに転職すればフィアキィ効果で大きくなったり……?」 自分の胸を見ながら、そんなことを呟くセラフィーナ。乙女には、刀を折ってでもやらなければならないときがある。今かどうかはともかく。 「あ、シーヴさん」 「なんですかあざかさーんっ……って、いひゃいっ」 糾華は揺れるシーブの胸を見て、思わずぺちたーんとビンタしていた。弾力があるちくせう。 「あら? シーヴが助けを求めて、求め……求めているのね!」 氷璃が同じくぺちたーん! 「まったくこれだからフュリエは……!」 リンシードが容赦なくぺちたーん! 「りんもいつかあれくらい大きく……ママに似たら希望があるけど、おばあちゃん似だと絶望だなー……」 輪が将来を想像してぺちたーん! 「な、なんなんですか。もうっ」 涙目になりながらシーヴが皆の行動に困惑する。皆の心が一緒になった瞬間だった。 「ごめんね、シーヴさん大丈夫?」 そんなシーブの手を取る糾華。皆に叩かれた所を優しくなでた。押し返す弾力。現実は非情である。 持つものと持たざるもの。持たざるものからすれば、持っているものとの差を示されるだけで傷を受けてしまう。 しかし糾華はその傷を乗り越えた? 乗り越えた。乗り越えたと思います。 そこにどれだけの葛藤があったのだろう。そこにどれだけの苦しみがあったのだろう。傷の痛みも、深さも、それが与える心の叫びも、すべて想像することしかできない。もしかしたら一生傷は消えず、苦しみは永遠に続くのかもしれない。 それって一生成長しないってこと? いやいやまだ将来がある。未来はまだ分からないけど、その未来に幸があることを祈るのみである。強く。マジで。 「うーうー。でも撫でてくれるし、いい人、なのかなぁ?」 「ねーさまはいい人ですよ」 疑問に思うシーヴにリンシードが一言付け加える。いろんな意味で皆の絆が深まっていくのであった。 ● 「温泉からあがったら卓球なのです。お約束です。がんばりますよ!」 輪がラケットを手に気合を入れる。燃え盛る火山のオーラ。 「手先の器用さなら自信が有ります。スピン全開、ツバメ返しです!」 セラフィーナも負けじと気合を入れていた。静かに立つ剣豪のオーラ。 「温泉の定番って聞いたしやってみたいっ」 浴衣を翻しシーヴが参戦する。故郷の如く豊かな自然のオーラ。あとぽよん。 「とりあえずぺたちーんってするわ!」 「ひゃんっ」 糾華も同じように浴衣を翻し……八つ当たり気味にシーヴの胸に一撃食らわせた。ひらひらと舞う蝶のオーラ。 そんな四人の二対二のダブルス形式である。因みに氷璃とリンシードは、温泉上がりの牛乳を飲みながらの観戦モード。 以下、ダイジェストでお送りします。 「くらえ! 支配の指ではなく、支配の刃。刃ですよっ!」 「先読み&残像すまーっしゅ!」 「むむむ、これはウェポンマスターの本領を魅せる時っ。二刀流れっぷーじんっ」 「ダンシングリッパーあたーっく! くるくるくるー!」 「ねーさまが回って……浴衣が翻って、お肌が……」 「今日の糾華ははっちゃけ……元気ね。どうしたのかしら?」 「ねーさま……コメント欄に、『好きに動かして大丈夫です』って書いてたらしい、です」 「あらまぁ」 「虹色アル・シャンパーニュすまーっしゅ!」 「多重残幻らけっとー!」 「おらおらっしゅっ! えいっ」 「分身ハニコ魔球!」 「糾華さんがボール沢山投げたー!」 「全部打ち返します!」 最後はボール十二個を打ち合うすごい卓球になりましたとさ。 ● 『美味しい料理』とはどのようなものだろうか? 色々な意見はあるだろうが、『採れたての材料』は素材の鮮度が劣化せず、驚きの味を生み出す。それを長年研鑽を重ねてきた手法で調理すれば、 「おいしー! 揚げたてさくさくです!」 ほっぺたに手を当ててセラフィーナが喜びの声を上げる。けして高級な味ではないが、それでもこの美味しさは衝撃である。 「いくらでも食べられそうです。おかわりもらいまーす!」 美味しいおかずだと食事が進む。輪はお茶碗片手にお米を入れたお櫃に向かう。フタを開けると炊き立てご飯の湯気が広がった。 「ボトムチャンネルの植物もおいしいですっ」 異世界生まれのシーヴは基本菜食で育ってきた。故郷の食事も美味しかったが、こちらの料理もまた違った美味しさがある。 「お土産に持って帰れないのが惜しいわね」 氷璃は天ぷらを食べながら、そんなことを思う。この美味しさをアークの皆にも伝えたい。味覚を伝達するツールを真白博士が発明してくれないかしら。 そして糾華とリンシードは、 「ほら、リンシード。あーん」 「え、あーんですか……?」 山菜天ぷらを突き出した糾華が、リンシードに向かって言う。素のCT値36を誇る糾華の攻撃がそこにあった。 当然といえば当然だが、食事は皆一緒にとっている。皆の視線が一斉に集中した。 「ねーさま、みなさん見てますが……」 「あーん」 「あの……」 「あーん」 笑顔で続ける糾華。皆の視線。あと自分自身の気持ち。様々なものが混ざり合って、リンシードは口を開けた。瞳を閉じ、口を開けて待つ少女。天ぷらをゆっくり近づけ、口の中に入れると口を閉じて咀嚼する。 「ん……や、やっぱり照れくさいじゃないですか……!」 「うん。私も、あーん」 リンシードを逃がさぬように真正面に回り、糾華が口を開ける。回避値195を誇るリンシードであっても、避けれえぬ何かがそこにあった。 「今日の糾華さんは攻めモードです!」 「リンシードさんもたじたじです!」 「仲がいいってすばらしいっ」 セラフィーナ、輪、シーヴがその様子を見ていきり立つ。 「程ほどにね。料理が冷めるわよ」 興味なさげにいいながら食事を続ける氷璃。でもリンシードがどう動くかは、見てみたかった。 心臓の高鳴りを感じながら、リンシードは箸で天ぷらを掴み、ゆっくり糾華の口元に運んでいった。 ● 電灯が消え、部屋が暗くなる。 六枚の布団に眠る乙女達。その寝顔はあどけな―― 「シーヴさん、ラ・ル・カーナの夜ってどんなかんじなんですか?」 「フィアキィを使って火を点したり消したりする人もいるよっ」 「便利なんですねー」 幻想纏いのライトを光源に、セラフィーナ、シーヴ、輪がトークしていた。パジャマトークならざる浴衣トーク。 「地球では生まれた日の星座があって、それで占いとかするんですよ。 そういえばシーヴさん、好きな人とか気になっている人がいます?」 「みんないい人ー。好き好きっ」 「そういうことじゃないんだけどなー。いいおっぱいしているのにもったいない……」 仲良くトークする三人。そしてもう片方では、 「ねーさま……お布団、温かいです」 「ふふ。おやすみなさいリンシード。……あら、氷璃さんも一緒に?」 「ええ、一緒に寝かせて貰って良いかしら?」 リンシード、糾華、氷璃が川の字になって寝ていた。 (こんなにたくさんのぬくもりが集まるとは思いませんでした……これからも、これを大事に護っていきたいです) (氷璃さん温かい……お母さん……) (Bonne nuit mon trésor……おやすみ、私の大切な娘達) お互いのぬくもりに包まれて、安らかに眠る三人。意識はすぐに夢の中に包まれていった。 そして乙女たちはアークに戻る。戦い続ける戦士達の、わずかな休養。 後日、『スコットランド・ヤード』からナタリアがロンドンに一時帰国したという連絡が入ってくる。相変わらず意地を張り合う二人だが、関係は一歩前進したのだろう。 一泊二日の温泉旅行。わずかな期間の休養だが、そこで得た思い出はけしてわずかなものではない。心の思い出となって、残り続けるのだ。 三高平市に向かう電車の扉が閉まり、ゆっくりと動き始めた―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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