● St. Valentine's day。 愛の誓いの日、ではあるものの、未だ和らがない寒さが続いている。 そんな寒さに体を震わせながらチョコレートを買いに行く――なんて事が『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)にとっての憧れでした。 壁掛けカレンダーを見詰めて、溜め息一つ。 今日は2/14。 ハート、ブラウン、ピンクで彩られた景色が其処にはある。 「せれんれん……」 「私、思うの。バレンタインって呪詛を吐きたくなるイベントよね。ああ、クリスマスでは顔面にケーキをぶつけられたりした訳だけどね。25歳になって未だにこれってどうかとも思う訳ですよ。だって、私だって、ほら、女子力マシマシーでバレンタインとかはしゃいでみたいもん。バレンタインチョコとか手作りしちゃいたいよね」 「いや、あのさ」 「雪解けもまだな月鍵さんの心! とかそんな、いやいやいや、雪解けだってそろそろ来ましょうよ。いやいやいや、大体、バレンタインですよ? 外見ピンク色ですよ? ゆるふわ系女子ですよ? 如何考えたって似合う外見してるじゃないですか、ねえ? 外見詐欺って言った奴誰だ!」 「世恋!」 ブリーフィングルームで呪詛を吐き続ける月鍵(25)をダイジェスト映像でお送りしました―― ● 「あ、あのさ。近くのカフェテリアでバレンタインイベントがあるんだけど!」 暇? と笑顔で駆け寄ってきた『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) の水色の瞳は輝いている。 先程まで机に突っ伏したフォーチュナの相手をしていたとは思えない。 「凄い可愛い感じのお店なんだけどさ、バレンタインって事でチョコ作りとかアクセ作りをやってるんだよ。 あと、愛の南京錠ってやつ? ああいうのもイベントの一環で設置してるそうだからやってみても楽しいかもしんないし。どうかな?」 チョコレートを作ったりビーズアクセサリーを作ったりと当日の為のイベントが準備されている様だ。 蒐が言った『愛の南京錠』とはカフェテリアの裏手に在るモニュメントに南京錠を掛けて永遠の愛を誓い合うと言うものだ。銀細工への加工もカフェテリアに来ている職人がしてくれると言うのだから、オリジナルのもので行える。 「ロマンチックだし、折角だからオリジナルの物作ってプレゼント交換とかも良いかもな! あ、勿論普通のカフェだからお茶しても良いと思うぞ。結構美味しそうだった!」 主観たっぷりの感想を述べる蒐はそうだ、と手を合わせ満面の笑みで『君』に声をかける。 「海外のバレンタインって男性が女性に花を渡すらしいんだけど。 なんか『英国紳士っぽい、カッコイイ!』ってならねぇ? 俺、凄い憧れるっ!」 はい、と花を差し出す蒐は笑顔で「遊びのしおり」を差し出した。 「暇だったら、ちょっと寄ってみない? 折角のバレンタインだしな!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月26日(水)00:05 |
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● 2月14日は愛の誓いの日。 少女達が華やぎ思い思いにチョコレートを作る、そんな可愛らしい『バレンタイン』。 どこぞの企業の策略か、などと騒ぎ立てる訳でもなく、パステルカラーで固められたファンシーなカフェではイベントが行われていた。 「ハッピーバレンタインだ、世恋」 雑貨屋で購入したブックマーカーを手に呪詛を撒き散らしていた世恋へと歩み寄ったレン。 あ、普通のバレンタインだ、と世恋が思ったのも束の間だろう。 「ハッピーバレンタイン!」 「レンの奴シャレてんなぁ」 ――恐怖の時間は、何時訪れるか分からなかった。 「今日も活きが良いな、伝説、捌くモンを待ってる……そんな目ェしやがってェ」 片手には悠里、火車、レンからプレゼントされた相州伝魚切之太刀を握りしめている世恋。 もはや『伝説』と呼ばれるのには慣れたのか。バレンタインだから魚は居ないだろうと余裕を滲ませる世恋にレンはハッとした様に顔を上げた。 「と、ところでユーリが持っているソレは……」 「いや、実はまた団地の人に貰っちゃってね」 「何者!?」 カフェの華やぐ雰囲気を一気に壊したカカオ。何故にカカオ。 そっか、バレンタインだからか……。 「なんだなんだそのデケぇ……はっ! ソ、ソレはまさか……」 何か知っているのだろうか震える火車にその通りと悠里は頷く。 古来メキシコはオルメカ文明より伝わる、 トリニタリオ種の究極の形態!伝説のハイブリッドカカオじゃねぇかぁ! 全容5mを超えるその姿はさながらファイアドラゴンの吐く火球(ブレス)の如く! その実の大きさから樹木部は450m-1000m…… 土地によっちゃあ世界樹とまで言わせしめるその大木に発生する究極の実! ――以上、火車の解説だった。 「何故かたまに唸る!」 「!?」 「世恋は料理だけでなく、こんな事までできてしまうと言うのか……さすがは生きる伝説……!」 レンの無垢な瞳を向けられて白目をむく月鍵世恋。 微笑む悠里に固唾を飲んで見守っている火車。以下、レンの解説である。 硬い……か、硬いはずのカカオが粉々にあっという間に見慣れたチョコレートの形状にしてしまった! 一人で運ぶことさえ困難で謎の呻きを発するカカオさえ 世恋の伝説級の腕にかかってしまえば朝飯前か! 暗転。 「いっただっきまーす!」 「おいしくいただくぞ。ありがとう、世恋」 「あ、オレ甘いの苦手だからビターなのも良いか?」 「も、もう許してっ!?」 木霊する叫び声に慌てて現れたリシェナ。何故か手にはCDを握りしめている。 「お、落ち着くで御座る世恋殿! キャラ崩壊してるでござる!」 呪詛を吐く世恋に慌てるリシェナがCDをそっと手渡して優しく微笑んだ。 目の前のフォーチュナが自分より年上なんて、と少しだけ考えてしまったのは気のせいだろうか……。 「二十五歳女性とか嘘だととか思ってないでござる! えーと、世恋殿。あるぱかの声を収録したCDでござるよ。ほら、ある(↑)ぱか(→)」 「パカァ……」 どんなCDか是非お聞かせ頂きたい。微妙なアルパカヴォイスを聞きながら片手に包丁の世恋と藁人形と釘を握りしめたリシェナ。 「誕生日には胸を狙われ、ゾンビ映画ではセクハラされ……ボトムチャンネル怖いでござる。 拙者、よく効くストレス解消法をを知ってるでござるよ。わら人形と釘を持ってどこかの木に打ち付けるでござる」 「そ、それは丑の刻参りって言うんですよ……。何だかわかりませんが大丈夫ですか、傷は浅いですよ!」 どんよりムードを放っている世恋とリシェナの元にチョコレート作りの用意を整えていたミリィが顔を出し首を傾げる。 何故か愚痴り始めたリシェナにそっと悠里達が差し出した(伝説の)チョコ。 「お食べ」と言わんばかりのソレを手にしながらミリィは「チョコを作りましょう!」と目を輝かせている。 「お姉様はきっとこれからです。大丈夫、素敵な人が現れます……多分」 暗黒面に落ちそうな世恋を誘いつつ厨房のテーブルの前でエプロンを付けたミリィが腕まくりし気合を入れる。 「レッツチャレンジなのですよ!」 「チョコ!」 チョロい25歳。 「そういえば去年もこうして二人でチョコを作りましたよね? 何だか少し、懐かしいです」 「作り方を教えた気がするわ」 懐かしいと笑いながら湯煎しているチョコレート。思い出話をしながら去年、教わった通りにとミリィは手順よくチョコレートを作っていく。 「チョコレート差し上げますね。これからも宜しくお願いします。ハッピーバレンタイン、お姉様」 「ハッピーバレンタイン、ミリィさん。こちらこそ」 厨房は騒がしい。メールで誘った汀夏奈が「わーいっ!」とエルヴィンからプレゼントされた水色の可愛らしいエプロンにはしゃいでいる。 「俺は妹の分、夏奈はお兄ちゃんお姉ちゃん達の分を。勿論、お互いに交換する分もな」 「お兄ちゃん、お菓子作り得意なの……?」 瞬く夏奈が首を傾げればエルヴィンは悪戯っ子の様にニヤリと笑って見せる。 「これでも結構昔からやっててな、普通に作る程度なら問題ないんだぜ?」 「おお!」 期待してますと言わんばかりの少女の視線にエルヴィンは頷いて白と黒の二種類のトリュフチョコを手際よく作っていく。 悪戦苦闘する夏奈に「多少形崩れしてもそれっぽくなるから良いよなコレ」と笑いかければ、「おいしそう?」と困った顔で問うてくる。 のんびりとした談笑を続けながら出来上がったらカフェでティータイムしようと一つ約束。 「はいこれ、あーん。味見」 「美味しい! 後で紅茶淹れてもっとお話ししようね?」 きらきらと輝く瞳で少女は楽しそうに微笑んだ。 ふにゃ、とした笑顔を浮かべながらシーヴは「チョコ作りーっ」と幸せそうに笑っている。 「私は初めてのバレンタインっ、色んなイベントがあって楽しいのです」 「ボトムは、こういうイベントがあるからぁ……一年の確認がしやすくて良いねぇ~」 眠たげなリリスが目を擦りながらへにゃりと微笑む。リリスの言葉にシーヴが瞬けば、可笑しそうにリリィは小さく笑みを漏らした。 「バレンタインデー、は初めて来たときにもあったね。もう一巡り。長かったような……短かったような……不思議な気分」 「……色んな事が毎日起きて、あっという間でしたわ」 「そっかー! 最初はどうなるか少し心配だったよ」 リリィの言葉に感慨深そうに息を吐くアガーテに「これが変わるってことなんだねぇ」と可笑しそうに笑ったルナ。 「でも、皆変わってない様で……」 じ、と姉妹達の顔を見詰めエプロン姿の姉妹達を視線で追った後、ヘンリエッタは可笑しそうに小さく笑みを零す。 ラ・ル・カーナで見た姉妹達と変わりない様で、何処か変わった様に見える。心地いい変化が、そこにはある。 「初めてチョコを食べた時に『こんなに甘くておいしいものがあるなんて!』とびっくりしましたわ」 懐かしいと笑みを浮かべるアガーテに「今日はチョコを作るよ!」とルナが大きな瞳一杯に好奇を浮かべて笑っている。 「チョコからチョコを作るんだよねぇ……そのまま食べちゃダメなのかなぁ……?」 「チョコは食べる方が好き……あ、あはは。さ、流石につまみ食いはしないよ?」 子供じゃないし、と頬を膨らます最年長に可笑しそうにヘンリエッタは小さく笑う。 「男でも甘い物が好きで構わないと教えてくれた人がいるから、オレは作る方も食べる方も好きかな」 「よし、刻んで溶かして。怪我しない様に注意だよ」 さて、気を取り直してチョコレート作り。六人は其々が考えるチョコレート作りを初めて行く。 包丁を握りしめ、よしと気合を入れた様に袖をしっかり後ろで纏めたリリス。 「刃物を使うし、眠らないように気をつけないと………くぅ……」 「……リリス、起きて。包丁を持ったまま寝るのは危ないよ」 ヘンリエッタの声を聞いてぐらぐらと揺れる頭を支えたリリスにルナがくすくすと笑みを浮かべる。 たどたどしい手つきで包丁を握りしめたアガーテは緊張した様にチョコレートを一欠け刻んで瞬き一つ。 「包丁……その、あまり得意ではありませんが、こんな感じで宜しいのでしょうか?」 「アガーテ、手は丸めて添えるの。猫さんの手だよ。こうやって、手を丸めて、にゃー」 にゃー! とシーヴが鳴けば、リリィはそうそう、と頷きアガーテの手元を優しく見守っている。 レシピ本を持っていたヘンリエッタは本から顔を上げ、物珍しげに「にゃー」と一声。 「にゃー、は本には載って居なかった。リリィは物知りだね」 猫さんの手、猫さんの手、とざくざくと切りながら緊張するアガーテも難なくチョコ刻みを終えている。 ヘンリエッタはトリュフを、お料理の得意なリリィは姉妹を見詰めながらナッツを砕き、違うチョコレートを用意する。 「やっぱリリィちゃん、何か作ってる時は凄いイキイキしてるねっ!」 ルナが頷けば、リリィは嬉しそうに微笑んだ。 さて、次の手順は、 「まずは湯煎でチョコ溶かすー。まだかなっまだかなっ♪」 わくわくしているシーヴがるんるんと身体を揺らして居る頃、のんびりとリリスは起きあがる。 「あれ、何時の間にか皆湯煎に入ってる……? ……リリスも頑張ろ……」 今からスタートです。 「みんなの顔作ってみよう」 ホワイトチョコにチョコペンでぐりぐりと口を描く。目にビーンズを嵌めるが……不格好。 「あっ、ちょっとずれて福笑いみたいにっ><」 「チョコで顔を作ってるんだぁ~」 ひょこ、と覗いて如何しようかなぁと首を傾げるリリスはリリィにならって小さな型にチョコを入れていく。 「ルナお姉ちゃんにも、ひとつ味見してほしいな」 「味見? いいのー?」 ぱぁ、と明るい表情をするルナにリリィはどうぞ、とチョコレートを一つ差し出した。 整えられた形は花の蕾の様。花弁は難しいから、来年はチョコレートの可愛い花を一つ咲かせようと意気込んで。 「味見ならつまみ食いじゃない。オレからもお願いするよ、おねえちゃん」 あーん、と差し出すトリュフがルナの口にころん、と転がっていく。ヘンリエッタに向けてぱぁと笑顔を咲かせるルナ。 せっせと袋やリボンを用意していたアガーテは「ラッピングは如何でしょうか」とふんわりと微笑んだ。 「どなたかにプレゼントするのも素敵ですわね」 「見てみてっそっくりっ! アガーテさんにプレゼントですっ」 へへ、と笑ったシーヴに瞬いて、花の様な笑顔をアガーテは浮かべていた。 アリステアにとってバレンタインは特別な日だ。 去年は『親しくなったおにぃちゃん』と過ごした一日だった。今年は『大切な人』と過ごす、かけがえのない一日に変わったのだから。 ガトーショコラを作ろうと意気込むアリステアの横顔を見詰め涼は一緒に過ごせる日を嬉しく思う。 大切な人と過ごせる一瞬一瞬が幸福ではあるけれど、チョコを好きな人に渡すイベントだと思うと妙に気恥ずかしい。 「包丁使うの上手いね。お料理とかもするの?」 「料理はあんまりしないんだけども……とりあえず、これくらいはね」 チョコレートを刻んでね、と掛けられた声に小刻みな音を立てながらチョコを刻む涼。不思議と慣れた手付きにメレンゲやオーブンの準備とせっせと動くアリステアは興味深そうに首を傾げる。 「良いか悪いのか、刃物はリベリスタとしての依頼で否応なく触れるしな。流石に自分の指を切ったりはしないさ。 でも、こうやって料理してるとアリステアは女の子らしいな、て改めて思うよ」 「ふふ、お料理好きだしねっ」 えへへと笑ったアリステア。ロマンチックの欠片もないと涼が告げてもアリステアにとっては新しい涼の一面を見れるだけで嬉しくて、楽しくて仕方がない。 「あ、余ったチョコでホットショコラ作ったから、どうぞなの」 「ありがとう」 生地を型に流し込み、焼き上がるまで待機だとオーブンの前に二つ置いた椅子。 笑いながら一口喉に流し込んだホットショコラの甘味に涼はほっと一息。 「……あ。やけたらどうしよ。どこで食べよっか?」 「折角のカフェだしね。焼けたらゆっくり食べることにしようか」 まだ時間も沢山ある。もう少し一緒にいたいな、と微笑むアリステアにそうしようと小さく微笑んで喉に流し込んだホットショコラはやはり甘かった。 「さて、ケーキ作るわよ」 さて、とエプロン姿の未明が気合を入れる。切り口の市松模様が綺麗なサン・セバスチャンは一人で作るには中々手間がかかるし難しい。 「いつもは俺が作る事が多く、逆に節目の日や祝日はミメイが作る事が多かったからな。 偶にはこう言う共同作業も悪くはあるまい」 「ま、こういう機会じゃなくても一緒に料理したいんだけどねー」 じ、と見つめる未明の瞳は「普段からもやりたい」という意思が込められている。 成程、出来る男オーウェンは未明が遊びに来ても一人で準備を終わらせるようだ。くつくつと笑いながらオーウェンは未明を観察する。 下準備に、必要な道具の手渡し。完璧なフォローを受けて未明の作業も順調に進んでいく。 「スポンジ部分を分担できる今日は、さくさく作業が進むわ」 「ほう、そろそろ形になってきたな」 二種類のスポンジを見つめるオーウェンに未明はスポンジを見詰めながら悩ましげに息を吐く。 スポンジを切り分けてガナッシュを掛けるだけ。そこまでは辿りついた。準備は完璧だ。 「任せていいかしら。あたしがやると多分、……というか絶対、歪むし」 包丁片手に恐る恐ると切り分けてガナッシュを少し取り、側面の凹凸をしっかり埋める様に頑張るが―― 「ほら、ね」 「問題ない。奇跡と言うのも起こせる物だ」 む、とした未明の頭を撫でながらオーウェンは少し型崩れしているサンセバスチャンを見詰めている。 じ、と出来栄えを見詰めていた未明は一息ついて「洗ってくるわ」と手をひらひらとさせ、一度振り返る。 「ん、まぁ、味は落ちてないはずだから。後で珈琲でも淹れてゆっくり食べましょう」 「ああ。そうだな、味に問題はないし、見た目も……酷くは無いぞ?」 え、と振り返った先にはにやりと笑ったオーウェンの姿。 ナイフで切り取り、オーウェンの作った物と合体したサンセバスチャンは綺麗な形を保っていた。 唇に浮かんだ悪戯な笑みに未明は可笑しそうに一つ、笑みを零した。 ● 「さて、何を作るかな」 じ、とアクセサリーを見詰めているユーヌは竜一へとちらりと視線を送る。 「ふむ、BoZ的には数珠の方がよさそうか? 普段使うなら携帯ストラップが良さそうだが」 「ちょ、ちょっと待って! BoZのギタリストである前に俺はユーヌたんの恋人なんだからね!」 数珠は却下された。 どうしようとユーヌの横顔を見詰めながら普段から使えるものを考える。 ふむ、と呟いて会話もなくたんたんとビーズをテグスに通していくユーヌは器用にビーズをせっせと組み立て続けた。 羽根と小さな竜がついたストラップはユーヌと竜一の様に思えて少し可愛らしい。 「うむ……竜の造形はもうちょっと凝って見たいが……」 大きすぎても使い辛いかと手もとの竜を見詰めて首を傾げる。 作っただけで終わらないのがこの無表情な恋人の可愛い所なのだろう。 あと、は、と少しのおまじないと小さな文字で『安全祈願』とバレないように刻んでいく。 「こんなものかな。さて、竜一はどんなのが出来た?」 せっせと竜一が作っていたのはユーヌの綺麗な黒髪に似合いそうな髪留めだ。 コンセプトは普段使い出来そうなシンプルかつ可愛らしさを演出しながらも邪魔にならず主張し過ぎずともワンポイントとなるような感じ――の物。欲張りなコンセプトの元恋人の髪を傷めない様にと竜一が作ったのは、花をモチーフにした髪飾りだった。 「はい、じゃあ、ユーヌたんにプレゼント!」 小さなビーズで作った花、赤色の濃薄をイメージし色のグラデーションをしっかりと掛けている。 真ん中には誕生石であるエメラルドをあてはめた其れを見詰め、ユーヌは小さく瞬いた。 「さすがユーヌたん、手先器用だよねえ。ありがとう! 今すぐつけるー! 大事にするね!」 「意外に、でも無いか。変なところが凝り性だし……うん、嬉しいな」 無表情ながら何処か喜びを感じるユーヌの表情に頬をすりすりとしながら「ユーヌたんちゅっちゅ」とはしゃぐ竜一。 ユーヌの髪には可愛らしい花の髪飾りがちょこんと乗せられていた。 「さて! バレンタインだー! 今日はちょっと変わったことしよー! アクセサリー作るんだって!」 明るい笑顔を浮かべる壱也にコヨーテも嬉しそうに大はしゃぎ。 「食ってもなくなんねェしイイなッ! じゃ、最後にとっかえっこしようぜッ」 食うなよと言うツッコミは抑え、ドヤ顔のコヨーテに「いいねー!」と明るい笑みを浮かべる壱也。 自信満々のコヨーテは胸をとんと叩いて「いちやに似合うヤツ作ってやっから待ってろよォ」と余裕の笑みを浮かべている。 「オレには強そうでカッコイイの頼むなッ!」 「よし、任せて!」 壱也とコヨーテ其々が何を作ろうかと思案を始める。アクセサリーでも邪魔にならない物をセレクトするのが淑女紳士の嗜みだ。 「何がイイかなァ……ブレスレットもイイなッ! 腕はリベリスタの武器だかンなッ!」 「ブレスレットだと自分でも見えるし素敵かも! そーだなぁ、じゃあ、わたしはコヨーテくんにブローチ……というかバッチ的なものにしよう!」 マフラーにもつけれて、ジャケットの襟に付けることもできるオシャレ道具。 きゃっきゃとはしゃぎながらコヨーテは「いちやといえば」と観察する。 壱也と言えばイメージカラーは赤。赤い石を手に取りながら、「おッ、カワイイなーッ!」と喜んでとったのはハートと星の石。 「いちやは星とハート、どっちがイイッ?」 「ハートが可愛い!」 赤大好き、ときらきらと目を輝かす壱也の意見を得て赤色の石とハートを組み合わせたブレスレットが完成。 「コヨーテくんは黒ってイメージなんだよねぇ」 でも、と横顔を見た時に目に付いたのはコヨーテの蛍光ピンクの瞳。 六芒星の台座の中心にピンクの石を置き、歯車やシルバー系の犬モチーフアクセサリーを乗せていく。 ワンポイントだと言う様に散らばせたピンクのストーンは夜空の星の様に可愛らしい。 「ピンク……あ、目かァ。かっけェかもッ!さっすがいちや! センスイイなッ!」 「えへへ、かんせーい! 気に入って貰えるかな?」 「おォッ! カッケェ! よし、ばっちりいちやっぽいのできたぜッ!」 ドヤッと出来たブレスレットを差し出して。カッコいい、かわいいと二人ではしゃぎあう。 そんなバレンタインもいいかもしれない。 「バレンタインだね、御厨ちゃん」 バレンタインに誰かと過ごす何て新鮮、というよりも初めてだといちるは瞬く。 折角のバレンタインだよ、と夏栖斗が楽しそうに笑うと彼女はこくこくと頷いた。 「よし、いちる。プレゼント交換をしよう! はいっ!」 「……? え、こんなの売ってるの。バレンタインチョコって、色々あってすごいよね」 いちるに渡されたのはいちごとミルクチョコレートの薔薇。可愛らしい薔薇のチョコレートに瞬くばかりのいちるに夏栖斗はへへと笑いを漏らす。 「ほら、外国ではバレンタインに男は花を贈るっしょ? んじゃ、チョコで作ったら二重にお得な気がしない?」 「うんうん……って、え、これ、手作り、なの!?」 ぽかん、と口を開けていちるは手元の薔薇を見詰める。手作りと誇らしげに笑う夏栖斗に「おお……」と感動とも取れる吐息を漏らした。 「ボクはふつーに買ったものだから、ちょっと恥ずかしいんだけど……」 バナナチップやナッツの入ったチョコレート。自分で食べたから分かる美味しさは感謝の気持ちをたくさんこめてプレゼント。 嬉しそうに夏栖斗は受け取って「バレンタインのチョコって嬉しいよね! 男子マジちょろい!」と囃したてる。 明るい夏栖斗に首をこてん、と傾げいちるは小さく唸る。 「ちょろい、かなあ? ボクも義理でも貰ったら嬉しいのはおんなじよ?」 「僕も嬉しいしね。癒されるなあ。いちるって癒し系っていわれない?」 更にこてん、と首が傾げられる。「癒し系」と何度か口にしてからいちるは瞬いて、笑った。 「御厨ちゃんは、何系だろう。元気系?お話してると明るい気持ちになるよ」 薔薇の花弁をひとつ摘まんで口に含む。美味しいと浮かんだ笑顔に元気系の夏栖斗はへらりと笑った。 カフェテリアの一角でそわそわと身体を揺らして居るルアはテーブルの下にチョコレートを隠し持っている。 あからさまに誰かを待っている雰囲気の彼女にくすくすと笑みを浮かべたスケキヨはゆっくりと『愛しいあの娘』へと近づいて行った。 「と、待たせちゃったかな? 御免よ」 「スケキヨさん!」 来たの! と表情から愛が迸っているルア。でも両手にはプレゼントのチョコレート。 「……あれれ、今日はハグは無し、かい?」 何時もの突撃が無いのを可笑しそうに笑いながらスケキヨは両腕を広げて見せる。 其処までされればスケキヨさん! すき! なルアも黙ってられない。挙動不審に見える位に大げさにそわそわと身体を揺らす。 「ち、ちがうよ、え、えっと! こ、これ、バレンタインのチョッ!」 ガッ。 痛そうな、音が一つ。 「うぁっ!? だ、大丈夫かい!? 傷は出来ていない!?」 勢いよく机の下からチョコレートを取り出したルアの指先が机の角にクリーンヒット! 思わず痛みに目尻に涙が貯まる彼女にそっと手を取り大丈夫かいとスケキヨはさすさすと指先を撫でる。 痛いの……とルアは涙を浮かべながら、改めてプレゼント。 「あのね、紅茶の香りがする生チョコとその上にスイートクランベリーを乗せたの。 お家でね、作ったの。喜んでくれると嬉しいな!」 「改めて、素敵なチョコを有難う。嬉しいな! チョコの色にクランベリーの赤が綺麗に映えて、何だか食べるのが勿体ないや」 くすくすと笑みを浮かべるスケキヨにルアはえへへと笑みを浮かべる。 開けられた包装紙、その中にあるのはルアお手製の生チョコ――なのだが。 「あっ、さ、さっきの衝撃でクランベリーが転がってる……あ、あぅぅ……ご、ごめんね」 じわ、と涙を浮かべながら「味は大丈夫だと思うから!」と必死のルアにスケキヨはくすくすと笑みを浮かべる。 「少しくらい形が崩れても大丈夫、ルアくんに怪我がないのが一番だよ。 じゃあ、食べさせてくれるかな?」 「はい、あーんっ!」 笑顔で差し出したチョコレート。口の中にころん、と入った甘味に続きスケキヨはルアの指先をぺろりと食べる。 「ひゃ、ひゃわー!? 指はだめなのっ!」 慌てる彼女に「フフフ」と笑みを漏らすスケキヨは其の侭掌を取ってぶつけた個所をじっと見る。 「だって美味しそうだったんだもの。大きな傷は無い様だけど……心配だから、もう一度」 ちゅ、と指先に落とされたキスにルアは「ひゃぁ」と声を上げ、一つ、照れ笑いを零した。 ● 「おや、月鍵さん。こんにちは、寒いですね」 「あ、こんにちは!ハロウィンの時……いや、違うかもしれない」 仮面の人だった、あれは、と世恋が混乱する中、義衛郎の腕に抱えられたのは花束。 普段着の義衛郎にハロウィンの仮面の人かと混乱する世恋に「お礼ですよ」と彼はそっと花束を差し出した。 ブリーフィングルームで良く出逢う相手ではあるものの、お礼はした事無いな、と考えたのがプレゼントのきっかけであるらしい。 露草を中心にピンクの薔薇と数本のブルーベリーの枝が添えられている。 「露草の花言葉は『感謝』、ピンクの薔薇は何処か月鍵さんっぽかったので。 因みにピンクの薔薇の花言葉は『淑やか』、ブルーベリーは『実りのある人生』だそうで……」 素敵ね、と瞬いたフォーチュナは先に貰ったチョコレートを手提げ鞄に入れて花束を抱えて首を傾げる。 「何時も予知を有難うございます。とても助かってます」 「私の出来ること、だし、」 でも、有難うは嬉しいと頷く世恋に「宜しくどうぞ」と手をひらひらと振って。 ちょっと格好付け過ぎたかなと義衛朗は一人、肩を竦めて見せた。 「こっちだよ、世恋さん」 ひらひらと手招いた快に気付き、カフェテラスへと足を向けた世恋は紅茶に口を付けている恵梨香にも気付き「こんにちは」と笑い掛ける。 戦いに身を投じる恵梨香にとってこうしてカフェで穏やかな時間を過ごすのは貴重だ。 戦いで荒んだ心を癒すのに無邪気にはしゃぎまわるフォーチュナ(年上)の姿は丁度良い。 リベリスタであれど女の子だ。過酷な任務で人間性を見失わない様に、たまにはのんびりと過ごすのも大事な訳で。 「ハッピーバレンタイン、今日はちょっと珍しい組み合わせだよね。紅茶でいい?」 快から見れば後輩の女の子を二人カフェに連れてきた様にも見えるが、実のところ年上は桃色のフォーチュナだ。 コーヒーをテーブルに置き、紅茶を注いだ快に礼を良い、腰かけた世恋に恵梨香は鞄から包みを取り出した。 「快さんには義理チョコを。世恋ちゃ……月鍵さんには以前手に入れたアルパカの毛で編んだ手袋を」 「私から、二人に。さっき砕き……じゃない、作ったの」 砕き。少し引っ掛かる言葉に快は首を傾げるが、聞かない事にしよう。 其々のプレゼント交換を終えて「ちゃんとしたお礼はホワイトデーにするけど」と快は続け用意しておいたミニブーケを其々に手渡す。 それで十分だと笑い合う中で恵梨香が始めたのはアルパカの話し。のんびりと話して今はこの時を大事にしよう。 カフェでガールズトークというのは乙女として大事なイベントだ。 ホットミルクの甘さと温かさにほんわりと笑みを浮かべた旭の前で、ホイップとベリーソースを浮かべたホットチョコに口を付けたミュゼーヌも幸せそうに笑みを浮かべる。 談笑の中の一区切り。そうだ、と言わんばかりに旭が緑色の瞳を輝かせ「じゃーん!」と紙袋を机に置く。 「わたしからのプレゼント、持ってきたの。はっぴーばれんたいん、ミュゼーヌさん!」 「わわ、ありがとう……!」 何だろうと首を傾げていたミュゼーヌの瞳がきらきらと輝く。 袋の中身は手製ホットビスケットとチョコレート・コンフィチュールの小瓶が三つ。 「それから、もうひとつ!」 じゃじゃん、と出したのはヴィトレイルミディアムのアンティークグラスを、金色の花の芯に据えたヘアピン。可愛らしいそれに「綺麗」と嬉しそうに笑うミュゼーヌ。 彼女に似合うと思って、と差し出されたソレをそっと髪に付け、ミュゼーヌは嬉しそうに微笑んだ。 似合う、とはしゃぐ可愛い妹分に「でもね」と囁いたのは、渡されるばかりではないからだ。 「実は……私からもハッピーバレンタイン、旭さん」 先手を打たれたわ、と可笑しそうに笑った彼女が差し出した包みの中、薄桃色のラナンキュラスを象ったイヤーマフ。耳当ては幾重にも深く重なった花弁そのもので、とても可愛らしい一品だ。 「ふわぁ……うれしい、かわいい……っ、どお? にあう? えへへー」 「素敵、とっても似合うわ!」 だいすき、と幸せそうに笑う旭にふわりと笑ったミュゼーヌはホットチョコに口を付ける。 サプライズとして秘密で用意していたけれど、それは旭も同じだったようで。 大切な妹分と心が繋がっている様で、ほっこりと幸せな気持ちが浮かびあがった。 外国生まれのリセリアにプレゼント交換を、と猛が希望した事はリセリアにとって予想外であったのかもしれない。 バレンタインだし、と彼女が用意したチョコレート。 猛の意向での交換でリセリアが一番気になったのは彼が何を用意するか、だ。 当の猛の方も「どうしたもんかな」と悩ましげな感じではあった。 ――そして、当日。 「それじゃあ、せーの、で出そうぜ……せーのっ」 「じゃあ……せーのっ」 緊張の一瞬ではある。リセリアが差し出したチョコレートクッキー。手渡しに向いた手作りの物だ。 悩ましげだった猛が用意したのは青いバラの花一輪。花束だと「せーの」で出す前にバレてしまうかもしれないと一輪だけ用意した物だ。 早速食べたいと言う猛に頷きながらリセリアの手にはしっかりと青薔薇が握られている。 「んー……甘上手い、やっぱリセリアはいい嫁さんになれるぜ」 うんうん、と口に含んだチョコクッキーの甘さに嬉しそうに笑う猛にリセリアは掌でくるくるとまわして居た薔薇をじ、と見つめる。 「……青い薔薇、青い薔薇にも花言葉があるんですよね……」 記憶に在る花言葉は不可能、ありえない、転じて奇跡、神の祝福――それから、 「『夢叶う』……ありがとう、猛さん」 ふわ、と笑った彼女に猛は何処か嬉しそうに目を細める。 「はは、ま、来年もまたよろしくな」 「此方こそ、宜しく、です」 店の様子にそわそわと肩を揺らした鷲祐は流石にファンシー過ぎて自分には合わない気がすると身体を強張らせる。 しかし、目の前の『お姫様』にはこのファンシーな空間も良く似合っている。 「……今日はどうした、なゆ。いつもより落ち着きがないな」 そわ、と身体を揺らした那雪。テーブルの上にはトリュフに甘さ控えめのガトーショコラが置かれている。 自然に頬が緩む鷲祐にのみもの、とこてんと首を傾げた那雪が用意したのはカモミール。 「2/14の誕生花、らしいわ……。逆境に負けない強さ……だなんて、お兄さんを思い出したから、用意してみたの……」 こくこくと頷きながら口を付けたカモミール。心地いいそれに鷲祐は彼女の言葉を聞きながら緩く笑って那雪を見詰める。 「……そういえば、少し身長伸びたか? ……大人っぽくなった気がする」 こてん、と首を傾げる那雪に鷲祐が小さく笑みを零す。ぼんやりとした彼女らしい反応だ。 「あ、プレゼントは、これ……あのね……お兄さん、いつもかっこいいけど……これでいつもと印象が、変わって、もっとかっこよくなると思うの」 きらきらとした瞳で見つめる那雪が差し出したのはシルバーにブルーのリボンを掛けた箱。 ありがとう、と笑いながら鷲祐が差し出したのは青味のグレーで包まれた小箱一つ。 「……期待しないでくれ」 瑠璃色の織り糸で作られた手袋は光りが滲み、鮮やかな青色を演出する。せめて、その指先でも護れればという意思の込められたプレゼントは那雪の指先には丁度のものだろう。 「気分転換の時で構わないから、……時々、それ、かけた姿、みせて、……ね」 太めのフレームに蝶々のデザインが施された眼鏡へ期待を込めて那雪は目を輝かせた。 ● Love padlocks――モニュメントなどに南京錠を掛けるソレ。 「カップルで南京錠をかけて永遠の愛を、結びつきを約束する……ですってなかなか浪漫がある話よね」 「ふむむ……」 糾華の言葉にお姉様に鍵をかけてだれにも渡さず自分から離れない様にしたくなる時がある、とリンシードは悩ましげに唸る。 夢があるわよね、と明るく微笑む糾華にこくんと頷いて二人揃って店内へ。 手を引かれるリンシードがきょろきょろと南京錠を探して居る中、糾華は職人の元へと歩みより、首をこてんと傾げた。 「あの、こういうのが欲しいのだけど」 「よろこんで、お嬢さん。そちらの水色のお嬢さんと?」 「ええ」 モチーフは小さな花と蝶。可愛らしいイメージのそれをせっせと作る職人にリンシードも「いいですね、こういうの」とふんわりと微笑んだ。 自分達にぴったりのデザインの南京錠。二人揃って手にとって一緒にそっと鍵をかける。 「月並みだけれど、ずっと、ずーっと一緒に居られる事を祈ってるわ」 「私も、ずっと一緒にいられるようにお祈りします……」 ちゅ、と額に落とされたキスに恥ずかしそうに片手で額を抑える。色の白いリンシードの頬がうっすらと赤らみ、照れを浮かべる彼女に糾華は優しく笑い頭を撫でた。 「一緒に、生きましょう。リンシード」 「絶対に、離れませんからね、お姉様……」 両手でぎゅっと握りしめた掌。小さく笑った糾華は店内でもう一度同じ物を頼みましょうと微笑む。 お守りになるから、もう1セット。離れない様にとお祈りして。 「南京錠、と言っても様々なデザインがあるのだな」 見回す雪佳の隣で対になりそうな二つの物を探しあるくひよりの求めるデザインはハートモチーフの物。 「これなど如何だろう」 これにしましょ、と目を輝かすひよりに頷いて雪佳は二人揃ってモニュメントの前へ。 「ゆきよしさん、先に掛けて? わたしはその掛け金の部分にかけるの。えへへ、これでずっといっしょなの」 ふにゃりと笑うひよりに頷いて、雪佳はしっかりと鍵をかける。 かちゃり、と重ねて掛けられたそれにひよりは嬉しそうに笑って頷いた。 心を重ね交わし合う。しっかりと掛けられた鍵はこれ以上にない位に固く掛けられている。 「はは、これだけしっかり掛ければ離れ離れになる事はないだろう」 「ゆきよしさん、これ、わたしの心の鍵だから、ゆきよしさんに持っていて欲しいの」 そっと差し出されたひよりの鍵。雪佳は誕生日に貰った飾り紐に其れを通して肌身離さず持ち歩く、と小さく囁く。 瞬いた後、「ゆきよしさんの鍵も、わたしに預けて」とひよりがゆるりと笑えば、雪佳は頷いて白い掌にそっと、置いた。 ペンダントの鎖に通した鍵はひよりの胸元で揺れている。 肌身離さず。大事にすると笑ったひよりに雪佳は小さく頷いて、ぎゅっと鍵を握りしめた。 「俺の心は、君の物だ。同時に……君の心は、俺の物だ」 「……去年の今頃、こんな未来は想像して無かったの。一年経った、と言われると不思議な感じ」 こくん、と頷いたひよりに全くだ、と雪佳は頬を掻く。小さな本の虫との探偵ごっこ。あの時、ラズリと一緒に遊んでなければ、この未来は無かったのかもしれない。 「この繋がれた縁を、これからもずっと大切にしていこう」 「でも、続くと良いな」 ちゅ、とこれからもよろしくと不意打ち気味に頬にキス。突然のそれに驚き耳まで真っ赤になる雪佳の唇には小さな笑みが浮かんでいた。 「えへへ、誓いのちゅーなの」 (……ここからの進展も、まだまだこれから、だな) あまり聞かない習慣であっても面白そうだと義弘は祥子と連れ添ってイベントへ参加していた。 ロマンチックね、と笑った祥子と共に彼はバレンタインの雰囲気が溢れかえる店内の中を歩いている。 「折角だから可愛いのが作りたいな」 「イニシャルを刻んで、ちょっとだけデコレーションをしてみるか」 職人がS.HとY.Sと刻んだ南京錠。大事そうに握りしめる義弘に祥子は用意されていたデコレーション素材を手にとって振り返る。 「ハート型にでもデコってみるか?」 「じゃあ、あたしたちのイニシャルとピンクのハート、クリアのストーンでキラキラにしてみるわ」 せっせとデコレーションを始める祥子に義弘は興味深そうに南京錠を見詰めている。 キラキラとハート、見るに煌びやかな南京錠が完成し祥子は「どう?」と首を傾げて笑った。 完成した南京錠はしっかりとモニュメントに付けに行く。 義弘の腕の中、祥子は南京錠を手にお祈りを一つ。 (ずっと、一緒にいられますように……) 両手を包む大きな掌に嬉しそうに祥子は笑みを浮かべる。願掛けをするように義弘は耳元でそっと一言囁いた。 「愛してるぞ、祥子……。これからも、よろしくな」 ちょっと気恥ずかしいと頬を掻く義弘に祥子は嬉しそうに微笑む。 かちゃり、と掛けられた南京錠は離れませんように、という意思がしっかりと込められていた。 「これであたしたち、離れられなくなっちゃったね。ひろさん大好きよっ♪」 バレンタインか、と零された拓真の声に「良くも悪くも、お祭りですね……」と悠月は頷く。 「毎年、この時期になると賑やかになるな」 周囲の様子を眺めていた拓真に悠月が浮かべた笑顔は周囲の楽しげな様子から来たものだろう。 愛の誓いの日。良くも悪くも楽しければいい。 ふと、拓真の視線が止まったのは南京錠に細工を行っている職人だ。 「俺達もイベントに参加しようか、悠月」 「南京錠……? ああ、なるほど。お願いしてみましょうか」 願いの木等と類似したものかと悠月は納得し、二人揃って職人の元へ歩み寄る。 どんな細工にしましょうと問われた言葉に拓真は少し首を捻った後、彼らしく「剣がいい」と告げる。 「剣は俺のこれまでの歩み、その物でもあるから」 「ふむ……では、月――分かり易い所で、三日月、かな。生まれた時から私と共にある象徴です」 剣と月。両方の南京錠。拓真と悠月を顕すその意匠に納得し、二人揃ってモニュメントへと歩みよる。 掛けられている南京錠に倣い二人一緒に掛ける時にふと、悠月は笑みを漏らした。 「……なんでしょうか、改めてこういう事をすると、照れるものですね」 緩やかに浮かべられた笑みに頷いて、願い事をしながら掛けましょうと手をかける。 願い事は―― 囁く悠月に拓真も緩く笑みで応える。 「そうだな、悠月と長く共に居られるように、とでも願っておこうか」 かちゃり、と掛けられた鍵に視線を送り、拓真はそっと悠月の肩を抱き寄せる。 まだ寒い冬の風の中で感じる体温に悠月は目を伏せて、小さく笑みを浮かべる。 「この願い事は、叶うだろうか」 「――叶えましょう、一緒に」 その言葉にふっと浮かんだ笑みのまま、晴れた冬空を見上げあぁ、そうだな、きっと、と一言。 その視線につられる様に眩しげに目を細めた悠月は小さく微笑んだ。 「二人だけの南京錠を作って貰おう?」 「じゃあアヒル隊長っぽい形にして貰おうぜ!」 明るく笑うフツにこくこくと頷くあひるは「アヒルさんの形で、きゅーとなの!」と嬉しそうに笑っている。 きらきらと瞳を輝かせるあひるの目の前で出来上がった『アヒル隊長』。刻まれたのはFとAのイニシャル。 二人の名前を刻んだ後、フツはよし、とあひるの手を引いてモニュメントの元へと向かった。 (一番高い所がいいけど……届くかなぁ……) 世界で一つだけのモノが出来上がったと幸せそうなあひるの手に握られた錠。 フツがふと視線を送れば彼女の手の中にあるそれは言葉が無くてもあひるが色んな形で支えてくれてるのだと実感させてくれる。 「くわっ……」 そっと手を取ったフツにあひるは瞬いて幸せそうに微笑んだ。 何も言わなくったって、思っている事は伝わっていく。不思議だなあと瞬くと共に感じた安心感は何時もの優しい彼だからだろう。 フツがあひるの手を取って、導く。その安心感に浮かんだ笑みに重なる様に「あひる」とフツの柔らかな声が降る。 「ありがとな、あひる。お前さんのおかげで、頑張れてる。いつも感謝してるぜ」 「ふふ! あひるの方こそ、感謝でいっぱいだよ。いつでもフツの力になりたいから……その言葉で、あひるは幸せ これからも、ずっと隣に寄り添って……おじいちゃんおばあちゃんになっても、そばにいさせてね」 へにゃりと微笑んだあひるにフツは頷く。 南京錠を握るあひるの掌に重ねる様に掌を置き、がちゃん、と鍵をかける。 願い事は勿論、二人の幸せ。思いっきりお願いした、とあひるが笑えばフツは頷いてかけられた南京錠を見詰める。 「錠は盛にして、成に繋がる。 これからもあひると2人でイチャイチャして盛り上がって、思い出を成していこう」 幸せは、思いっきりお願いしたから、きっと、叶うよとあひるは嬉しそうに微笑んだ。 イギリスの戦いを終えた風斗は日常を満喫するとカフェでコーヒーとチョコを堪能して居る……のだが。 可愛らしい雰囲気は非常に居心地が悪い。流石はバレンタイン、だろうか。 「倫敦、お疲れ様でした……また沢山、お怪我されたのですね」 囁く様に言ったリリに風斗は頬を掻く。暇なら如何だろうと誘ったは良いが、妙に華やぐ雰囲気には慣れない。 「え? どうしたんです? 一体どこへ……」 束の間の平穏を裂く様にリリがそっと風斗の手を引いていく。首を傾げる風斗に彼女がそっと差し出したのは南京錠。 「これは、南京錠……?」 「ええ、約束、してください。次も、また次も、こうして無事で戻ってくると」 約束です、と囁けば風斗は指きりのものか、と小さく頷く。 「はい、約束します。無事に戻ってくる事を。あ、リリさんもですよ。一緒に誓って下さいね」 「ええ、勿論」 約束しますと願いを込めて一緒に鍵をかける。ほっと一息ついたリリがそっと差し出したのはチョコレート。 今日と言う日をお祝いする様に、そっと差し出すそれにリリは少し緊張を感じていた。 「ハッピーバレンタイン、です」 作るのも渡すのも、緊張する。沢山お世話になったから、お礼として。 けれど、去年と何処か違って感じるのは何だろうか。少しばかり緊張で紅潮した頬を抑え、差し出す其れに風斗は瞬いて、へにゃりと笑う。 「ありがとうございます! 必ずお礼しますから!」 その言葉にほっと胸を撫で下ろすリリが後で知ったことなのだが―― 「……えっ? これって永遠の愛のモニュメントだったのですか……? ……ず、ずっと楠神さんが元気で幸せだったら、それが、一番、です……っ」 なんてやり取りがカフェのなかで店員と行われていた。 ――St. Valentine's day! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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