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<賊軍蠢動>忌み猫一匹、花一匁


 忌み嫌われたこどもは毬をとんとんと弾ませながら嗄れた声で歌い続ける。
 花一匁、どうせ誰にも貰われやしない忌み子はぽつんと一人取り残されていた。
「妾はの、妾はの、今になっては感謝しとるんじゃよ。
 こうして、かの方が神になり遊ばれれば妾も忌み子と呼ばれんからの」
 短く切りそろえた黒髪に、柘榴色の瞳が何とも特徴的な子供は、大凡子供のものとは思えない低く嗄れた声は四国地方――香川県のあるコンサートホールの中に響いていた。
「知っとるかえ? 十二支にもなれんかった猫の話を。
 まあ、知らんでもええがの。今から死んで貰うんじゃからの。
 妾はそれだから憎くて憎くて堪らんくての! ついでじゃ、祭りにしようかえ」
 ぐしゃり、と肉片が辺りに散らばる。耐えず振り下ろされる金棒が、倒れていた男の頭を抉り続けた。

 ――あの子が欲しい?

 要らないと放られた子はどれ程辛く悲しいのか。
 要らないと放られたからには、幸せそうなイキモノなど虫唾が走る。
 目の前の観客もそうだ。楽しげに笑いながら此方を見ている。ああ、なんと××しいのか。
 死を以って死を以って、死を以って贖えばいい。死を、死を、鮮血を浴びて、己の生を恨めばいい。
 たしん、と鼠の尻尾が地面を叩く。女は猫の尻尾を揺らしてくつくつと笑っていた。
「のぅ、『逆凪』の。企業営業もええが、デスクワークだけじゃ何も得られんぞ?
 ――丁度いい! 観客にも見せびらかそうぞ! 妾の素敵な殺しをの!」


 モニターに映し出された少女の名前は猫ノ童子。裏野部に所属していたフィクサードだ。
 裏野部――その名前を口にしようとしたフォーチュナは小さく首を振り、「裏野部じゃなかったわね」と囁いた。
 昨年末に起こった女性革醒者連続拉致事件。一連の事件から、主流七派が一つ、『裏野部』はある目的のために日本各地に存在する霊的スポット――岐阜、奈良、京都、大阪、四国といった中部から西日本に掛けての場所で古き時代に封印されたアザーバイドを開放する儀式を行っていた。
「……裏野部、いいえ、今は『賊軍』と名乗ってるんだけど」
 ブリーフィングルームのモニターを見詰めていた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は「宜しいかしら」と資料を手にリベリスタへと振り仰ぐ。
 各地で行われた儀式では大規模雷雲スーパーセルを発生させることにより、神秘の力を帯びた自然エネルギーでの封印破壊を目的にされていたそうだ。
『裏野部』と『アーク』の戦闘の結果、その儀式は彼らが考えていた以上に規模が縮小された……が、幾つかの場所ではアザーバイドが解放されてしまっている。
「『まつろわぬ民』、解放されたアザーバイドの名前ね。
 彼等はアザーバイドを利用し、アークや他の派閥より強大な戦力を確保しようとしたの。
 これを取り入れた裏野部は今、『賊軍』と名乗り、他のフィクサード六派――いえ、黄泉ヶ辻を除いて五派かしらね――を相手に抗争を繰り広げている模様よ」
「フィクサード同士で?」
「ええ。彼等の目的は『まつろわぬ民』達は嘗ての復讐を果たし、安住の地を手に入れること。賊軍は、まあ、端的にいえば欲望赴くままに生きていける場所を手に入れたい……この国、かしらね。
 その王とならんとする――いいえ、神にならんとするのが『裏野部一二三』その人よ」
 神、とならんとする。何とも荒唐無稽な話に思えるが、それを為さんと動きだした以上は止めぬ訳には行かない。
 現状の賊軍らは日本の国内でも切り離された『島』である四国を拠点に力を集め出しているそうだ。

「……で、皆さんに向かって欲しい場所があるの。
 香川県にある、逆凪コーポレーション傘下の企業よ。一応、優良企業なので本日はこの会社の所有するホールでリサイタルが行われることになっている。
 大勢の一般人の元に賊軍が乗り込んで殺戮を行いながらその周囲の勢力圏を掌握しようとしてるみたいなの。他のフィクサードと競り合うだけに留まらず一般人までもが犠牲になるわ……」
 なにはともあれ、彼等は『裏野部一派』。殺戮を楽しみ、暴力を好む彼等が一般人の大勢いる場所に武器を以って乗りこんで平和的解決等有り得ない。
「猫ノ童子と、彼女の連れるフィクサード……チマと呼ばれる踊るネコの妖怪(アザーバイド)が取り付いた4人は逆凪のフィクサードと、一般人、その両方を手に掛け続けてるわ。
 流石は元・『裏野部』かしら。殺戮はお手の物、ね」
 皮肉る様に囁きながら世恋は「だから、」とリベリスタを見回す。
「一般人を助けて欲しいの。それに、これ以上好き勝手させる訳にもいかないでしょう?」
 地図と共にそっと魔除けと書いた御守りを渡しながら世恋は「ご武運を」とリベリスタを見送った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年02月24日(月)00:11
こんにちは、椿です。

●成功条件
・『賊軍』フィクサードの撃退
・生存する一般人過半数以上の保護

●場所情報
 四国。逆凪グループの子会社が所有するピアノホール。
 ピアノリサイタルが開催され、地元市民が多数ホールに訪れている模様。
 ホールは小規模ではあるものの客席が多く、満席に近い状態。
 到着時、<賊軍>による凶行は始まっているようです。

●『賊軍』
・猫ノ童子(ねこのどうじ)
 ビーストハーフ(猫)×ナイトクリーク。
 元・裏野部フィクサード。現・賊軍所属の童。
 短く切りそろえた黒髪に柘榴色の瞳の幼児。実年齢はとうに60を越えた婆。
 猫以外のビーストハーフに特別憎悪を感じており、金棒を手に殺しにかかります

・『チマ』×4
 まつろわぬ民達と共に封印されていた猫の妖怪であり、フィクサードに取り付いています。
 三毛猫の耳としっぽをフィクサードに与えています。
 フィクサード其々のスキルに加え、何れも回避力及びDAが高くなっています。
 また、フィクサード自体には自我は無く、ほぼアザーバイドに乗っ取られている模様。
 猫ノ童子以外の全ての対象に敵意を剥き出しにし攻撃を行う傾向があるようです。

●逆凪フィクサード
・桐葛 宰
・紅宮 庸子
 宰がビーストハーフ(鼠)×ホーリーメイガス、庸子がジーニアス×デュランダル。
 逆凪の社員であり、突如として猫ノ童子らに襲われています。手傷も多く、懸命に応戦していますが、長くは持たない事が観測されます。

●一般人
 客席に座っている人、逃げ惑っている人合わせて生存人数は20名程度。
 その他は亡くなっているのかだらりと椅子に腰かけて居たり、通路に倒れて居ます。
 状況も分からずに座っている者も居れば、目の前で人が殺され恐慌状態の物も居る模様。
 なお、裏野部側は特別一般人を狙う事はないが、戦闘中に近くに居ればさらっと殺します。

宜しくお願い致します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ジーニアスプロアデプト
メリュジーヌ・シズウェル(BNE001185)
アウトサイドプロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
ハイジーニアススターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)
ハーフムーンインヤンマスター
岩境 小烏(BNE002782)
フライダークホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
ナイトバロン覇界闘士
喜多川・旭(BNE004015)
アークエンジェダークナイト
宵咲 灯璃(BNE004317)
ハイフュリエミステラン
ルナ・グランツ(BNE004339)


「――――? ―・―・―・―!  いっちにっのさーん!!! いぇーいどんどんぱふぱふっ」
 オーディエンスを置き去りに、茶化す様に声を張り上げて。
 いつか、『――――』の可愛いお姫様が行っていた殺人予定(ラジオ)を真似る様に『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)は両手で嗤う赤と黒を握りしめながら翼を広げる。
 元の赤よりももっと深い赤色に変化した緞帳が羽ばたきに大きく揺れる。役者が如く、大仰な仕草で誘う様に翼と化した腕を揺らした『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)に寄せられる強い閃光に彼は優雅に笑うのみ。
 客席を掻きわけながら真っ直ぐ前進していく『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)の手に握られたChat noir(ふきつ)がゆっくりと彼女の手から離れていく。暗く落とされた客席側の照明の闇を引き裂く様に真っ直ぐ、獲物を逃す事は無いと柘榴色の眼光が厳しくなっていくのを受けとめて、舞台上の役者はくつくつと笑った。
「賊軍、と言いましたか」
「如何にも、」
「組織が崩壊し、内部分裂。そして散らばる中でも『裏野部』以外にはなれなかった者達……。
 自分でも分かって居るでしょう? 行くべき場所がないことなんて」
 怠惰が生み出した喜劇の様だ、と『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)はぼんやりと思う。ホールの中に足を踏み入れた時、遥紀はミスティコアを手に真っ先に己のやるべき事を考えた。
 目の前の金棒を振り回す女の動きを食い止めたレイチェルに引き続き、小烏は周囲に跳ね回る妖怪が憑いたフィクサードの体を縛り付けている。
 遥紀の前を走り抜け、持ち前のバランス感覚を生かした『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)は長い髪を揺らしながら魔力増幅杖 No.57を『元・裏野部』――賊軍ではなく、このホール所有企業である、逆凪社員へと向けた。
「アー、ク」
 掠れ気味に出された声を聞きながらルナは小さく頷く。逆凪だけでは無い、届く範囲全てにルナが与えたのは彼女が連れるディアナとセレネが送る新緑のオーラ。優しい春を想わせるそれを広げたことで、傷を負い、眼前の敵とは違う新たな敵(アーク)の存在に身構えていた逆凪社員、紅宮庸子はぽかん、と口を開いていた。
「……、え?」
「逆凪さん達、今回わたしたちは敵じゃないから、気にしないで!」
 咄嗟に掛けられた『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の声に刃を握りしめる手に再度力を込めた庸子はゆっくりと振り仰ぐ。鼠であった事が災いか、目の前の童子から集中攻撃を受け続けていた桐葛宰は丸い瞳で現れた長耳のアザーバイドを見詰めている。
「別に私は妖怪付き(まつろわぬ民)ではないよ? ああ、私はね、元からこういう種族なんだ。
 ……逆凪のお二人さんには突然だけど一時的な共闘を提案するよ?」
「僕達は、フィクサードで、お前達は……」
「面子って大事だと思うし、一応、分かるけど。それだけで何かを護れる訳じゃないのは、分かるよね?」
 ルナの真摯な瞳を受けとめて、庸子は戸惑いを含みながらじ、と見つめている。
「このホールも観客も利益の元でしょー? 見捨てて逃げたら、さぁ、大変!
 時村が新しいホールを立てるかも? 事件の起きた古い方は閉館かもね? 後処理任せちゃっていいのかな?」
 くすくすと笑いながら告げる灯璃の言葉に庸子が剣を握りしめる。何処となく挑発的な彼女の言葉に黙って居られないのもやはり『フィクサード』なのであろうか。
 フィクサードとリベリスタの違いは簡単だ。思想の違いだけ。私利私欲を求めるか、そうでないか。それ以外はどんな悪党でも『人間』なのだろうと長いボトム生活でルナは良く知っていた。
「よーし、もうちょっと頑張ってねん。お姉ちゃん達、人助けに来たの」
 唇を悪戯っ子の様に吊り上げて笑った『Eyes on Sight』メリュジーヌ・シズウェル(BNE001185)は座り込んでいた宰へと援助のエネルギーを与えていく。活力を与える事は、ホーリーメイガスである彼に期待して居ると同義だ。
(――お姉ちゃんは賭けるよ、貴方達が人を護るために戦ってるって、)
 小さく頷いたメリュジーヌに宰は落としていた杖を握りしめ目を伏せる。
「はいはい、お姉ちゃんに捕まってねんっ! 逃げるんだよー!」
 子供達の背を押して、できる限り救うんだとメリュジーヌは背中を押した。子供達にとって、ハイテンションの『お姉さん』の存在は支えであったのかもしれないが、それでも危険が訪れていることには変わりない。
 周囲に未だ存在していたチマが身体を捻り上げ、自身に女神の加護を与えていた『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)の元へとその拳を振り翳す。
「おおっと? 猫さんだ~! 可愛いーっ!」
 誰よりも――オーディエンスを置き去りにしたラジオを展開していた灯璃よりもハイテンションに、それこそ観客、役者全てを無視した自由演技(アドリブ)に長けていた陽菜は瞳を輝かせて、笑った。


 四国、香川県にあるピアノホールに掲げられた演目はピアノリサイタル。
 無料で開放されたイベントに地元市民達が多数訪れている――というのはブリーフィングルームで聞いた話しだ。
 和やかな日になる筈だった、イベントに猫目を細め、金棒を手に舞台近くの一般人の頭を殴り飛ばした<賊軍>――元は裏野部であり、今は首領等の儀式の結果散り散りになった組織の寄せ集め。他の七派の受け入れを拒否し、一二三の元へ残った性根からして『裏野部』であった彼等――の猫ノ童子は舞台袖に立っていた逆凪社員へと襲い掛かったのだそうだ。
「にゃんこは可愛いんだけどなぁ。でも、爪はちゃーんと切っとかなきゃねっ」
 くす、と笑ったメリュジーヌが段々と前に進んでいく。座席と言う障害物をスルーしていくメリュジーヌはルナが探った感情通り、怯えながら椅子に捕まっている一般人へと視線を送り、手をひらひらと振った。
「なるべく遠くへ逃ーげーてー! 動けるのなら今がチャンスっ☆
 なんとなんと! 闘争の商品はこの先の人生だよー!」
「ひっ……」
 椅子を透過によって抜けるメリュジーヌと目の前で金棒を振り回す童女の区別がつかないのか怯え、椅子へと深く腰掛ける。
 こっちだよ、と懸命に声をかける陽菜の目は猫ノ童子の耳としっぽをつい追ってしまう。猫が大好きな彼女らしいということなのだろう。涙を浮かべる子供の手を引っ張って、出口の扉から外に押し出す。
「ところで、十二支にもなれなかった猫の話し興味ある~! どういう話しだろ?」
「国によっちゃあ猫も十二支だがね。まぁ、それが本題と言う訳でもなかろう」
 くつくつと笑った小烏の掌で白兎が跳ねる。真っ直ぐに進む鴉に猫達が飛びかからんとすれば、旭がその拳を受けとめた。
 ちら、と旭が視線を送ったのは彼女が昇った舞台の下、一般人達が陥る凶行や恐怖の地獄絵図。誘導するメリュジーヌや陽菜の二人に彼女が寄せた期待は多大なるものだったのだろう。
(わたしは誘導に回れないけど……お願い、みんなをたすけて!)
 ぎゅ、と固めた拳が妖怪の腕を取る。舞台上での攻撃に加えて舞台へと進むレイチェルの頬を掠め、後方に存在した一般人の肩を貫いた疾風の刃。どれもこれもリベリスタ達と同じ技を使うフィクサードの仕業だ。頭の中で作りだした最適ルート、この場所を行けばいいと跳ね上がった猫の様子に興味をそそられたのか猫ノ童子が「おや、」と小さく笑みを浮かべる。
「ほう、そちらにも猫がおるのかえ? いやはや、勿体なきモノじゃのう……見た所、人を殺す事に秀でてそうじゃが」
「やめてください、猫のビーストハーフの品位が落ちてしまうではないですか」
 呆れと嫌悪を一心に感じさせるレイチェルの物言いにくつくつと笑った猫ノ童子が麻痺を打ち払う様に身体を捻り上げる。驚異的な集中領域に達しながら、猫ノ童子のステータスを見極めんとするレイチェルの瞳が段々と細くなる中、ふわ、と飛び上がったルナが杖を振り翳しゆるりと笑う。
「逆凪のお二人さん、共闘してくれる? そうでなくても最低限こっちに攻撃してこないでくれたら助かるかな」
「無論――ですが、私は兎も角、桐葛は彼女の忌み嫌う鼠にして回復手です。狙われない訳がない……」
 死ね、と言っているのかと庸子から向けられた視線を感じながら舞台上から飛び降りようとするチマの身体を降らす火炎の力で押しとどめたルナは小さく首を振る。
「あはははっ! 流石社畜共っ! 逃げなかっただけ褒めたげるけど頭が固いんじゃない?」
 ふわ、と宙から降ってきた灯璃が宰や小烏サイドへと向かわんとするチマへと一気に剣を振り翳す。何時もより赤く見える伯爵の様子は彼女の狂気を帯びたのだろう。妖怪憑きへと灯璃が向けたのは歓喜と狂気の瞳、唯それだけだ。
「役立たない三流社員が心配してる暇あるんなら手ぇ貸しな。社畜の意地を見せてみろ!」
「社畜つったな、あとでぶっころしてやる!」
 吼える様に威勢良く告げた宰が施す回復に灯璃がくつくつと咽喉を鳴らして笑いだす。宙を舞い続ける彼女の背を見詰めながらじ、と目を凝らしながら魔女の秘術である『結界』を作り上げんとする遥紀はぶつぶつと小さな詠唱を続け出す。
 一般人を庇う事を視野に入れている彼だが、詠唱中に他の行動をとる事はできない。その場で歪夜の魔女が与えた結界を張り巡らせる為に彼が唱えるしかないのだろう。
「老いたる害悪の世迷い言は性質が悪いな。誰もが言祝がれ、求められる存在とでも?
 棄てられたのなら、求められないのなら、無様なまでに手を伸ばすしかない。人は生まれ落ちた瞬間から、」
「不平等、とでも言いたいのかえ? 聖人君子様よ」
 ぎ、と睨みつける猫ノ童子が投げるカードが遥紀の頬を掠めていく。彼は攻撃を避けるではなく、受けとめることで己の強さを以って跳ね返さんとしているのだろう。
 攻撃を受けることに関しては一番の弱みであった陽菜はサジタリアスブレードを手に「猫ノ童子さん!」と声を張り上げ、全方位に弾幕をばら撒いて行った。


「DJは毎度お馴染このわたし、『断罪狂』あかりんでお届けしま~す! 皆愛してるよっ!
 それじゃあ、早速イってみよーっ♪」
 行くのか、逝くのかよくは解らないが。オーディエンスのチマ達が人間とも思えぬ奇声を発する。一般人を巻き込むように舞台下に立っていた遥紀共々ばら撒かれた弾丸を避ける様に頭を下げたメリュジーヌが「にゃっ!」と可愛らしい声を上げる。
「頭を伏せてぢーっとしててね☆ おっとっとー!」
 ハイテンションなメリュジーヌに続き、こっちだよ!と声を張り上げる陽菜は唇を噛み締める。
 大好きな猫がそこにいて、それが敵だなんて。にゃんにゃん天国であるならば全力で抱きしめて愛でていたい。それが陽菜という少女なのだろう。
「妾はやはり『他』とは慣れ合えんのぅ。逆凪の、そちらの聖人君子と手を組むか」
 くつくつと笑う猫に目をやって、レイチェルは猫ノ童子を睨みつけた後、チマの行動を阻害する。弾丸をばら撒く、魔術を使う……全ての攻撃は個体個体を止めるだけでは叶わない。
 殲滅を目的としたレイチェルが一手下がれば、立ち変わる様に旭がまるい瞳を向けて舞台上へと呼び寄せる。
「――これ以上、殺させないッ」
 怒りを目に浮かべた旭の炎を想わせるドレスが舞い上がる。合わさる様に降り注ぐ焔がチマの身体を舞台へと押しつければ、誘う様にそっと手招きした。
 回復手として行動する宰と前を行く庸子へと視線を送りながら旭は全てを受け入れると言う様に両手を開く。
「ねえ、猫ノ童子さん。あなたの憎しみを向ける相手は、違うでしょ?
 そんな八つ当たりで命を奪うなんて、わたしは……認めないっ!」
「桐葛ちゃん、回復お願い! 紅宮ちゃんはこっち!」
 ルナの声を聞いて動いた逆凪フィクサードが旭に向けて寄ってくるチマの腹を切り裂く。続けざまに小烏は一般人に近付かない様にと気を配り左の翼を翻す。宰の前に居る彼は肩を竦めて遥紀の方へと視線を送る。
 彼が張り巡らせる陣地。その中に閉じ込められた時狂気の猫はどう動くのか――
「やれやれ、だがね」
 小烏の言葉と同時、完成したと言う様に遥紀がほっと息を付けば『猫』は首を傾げて唇を歪め醜く笑っていた。
「逃げ場がないかのぅ……いいのう。力無き物の脳髄を散らばらせるのも快感だがの。
 妾は人死にがあれば何でも良いのじゃ! 死んでくれるかの――?」
「喜んで、とは行ってあげれないかにゃー?」
 茶化す様に告げるメリュジーヌが唇を歪めて気糸を放つ。続く様に気糸を発したレイチェルは回復役のチマの身体を貫いて眼鏡の位置を直している。
 冷徹な瞳は少女のソレとは思えない。同じ『猫』であれと、同じ『柘榴色』であれど、その意思は別物なのだろう。
「自らの不幸を何かの生にして周囲に憎悪を振り撒いている人間など、要らないに決まって居るでしょうが」
「でも、忌み猫がどういうのか分からないけど、周りが何て言おうと猫ノ童子さんは猫ノ童子さんだよ!
 例え世界の全てが猫ノ童子さんをいらないって言ってもアタシは猫ノ童子さんのこと好きだし、必要だよ!」
「笑止、お主が好きなのは猫であって、妾は猫ならぬ人じゃぞ?」
 遥紀とは相反する言葉を吐きだす様に陽菜はじわじわと削られる体力と、ぐらぐらと揺れる視界の中で「猫ノ童子さん」と呼び続ける。
 与えられたダメージはイチかバチか。確立的な攻撃であったのかもしれない。金棒を振り翳した猫が赤い緞帳よりも輝く月を昇らせれば、それをバックに役者は飛び上がる。
 握りしめた役者(べりある)、真っ直ぐに投げ込まれた役者(ねびろす)。所有者たる『少女』は無邪気に笑い声を上げている。
「忌み子、忌み子って五月蠅いなぁ、そんな事より祭りだろ! もっと楽しく殺し合おうZE!」
 ハイテンションな灯璃に陽菜はそれでも、と言った様にサジタリアスブレードを握りしめたまま大きな緑の瞳に期待を込め続けている。
「だから、恨みを拡大させるようなことはやめて!
 こんなこと続けてたら本当に忌み子とか言うのになっちゃうよ。十二支になんか入れなくたっていいじゃない!
 猫ノ童子さんには、そこの鼠とかとは比べ物にならないくらい可愛らしい耳と尻尾があるんだから」
「そ、そこの……」
 耳を揺らした宰がふるふると震えているのを陽菜は見ずに猫ノ童子ばかり見つめている。
 その体を貫いたのはチマたちの弾丸。この場で誰よりも優しかったのは陽菜なのかもしれないが――裏野部はやはり裏野部か。安易に手を払いのけ、狂気を滲ませながら猫は大仰に笑いだす。
「請われた所で手を払いのける。望む癖に嘆く癖に、理想が高いのか。だからお前は弾かれたままなのだろうさ」
「言ってくれるな、聖人君子!」
 吼える猫の月がじわじわと身体へ与える攻撃をカヴァーするように小烏は翼を以って遥紀の眼前へと訪れる。
 カタカタと膝を震わせる宰に向けてにこやかに微笑んだ猫を見つめ、旭はふるふると首を振った。
「――これ以上は、もう、誰も、殺させないんだからっ……!」
「はいはーい! そろそろ、そろっといなくなるにゃ!」
 旭の元へと集まったチマ達を狙い打つメリュジーヌ。彼女の頬を掠めた傷を見つけ、回復役として動きだした遥紀が周囲へ癒しを与えていく。
 数の減ったチマ達に視線を送りながら止めだと言う様にレイチェルが狙い打てば。彼女の攻撃は運を味方につけていた猫ノ童子の足を引き摺って行く。
 満身創痍であった宰を睨みつける猫の瞳に肩を竦めたのは誰なのか。小烏はくすくすと笑いながら未だ自由であったチマの身体を縛り付けた。
 確かに一般人達は死んでしまったのだろう。それでも救えた数は多い。まだ、自分の目的を果たせていると感じながらも亡くなった人を想い旭の碧の瞳には憂いが浮かびだす。
 明るいメリュジーヌが紫の髪を揺らし、年よりも幼く思える言動を繰り返しながら、何処か楽しげに「お姉ちゃんが終わりをあげちゃうっ」と繰り出した気糸はチマを真っ直ぐに貫いていく。
 癒しを送る遥紀が背負った翼を揺らし、色違いの瞳を細めて繰り出した魔力の奔流。その中に散らばる翼はチマ達の体を切り裂き続けていく。
(不平等なればこそ、手元に何か残る様に努力するのが人間なんだよ。愚かな理由だ、全く……)
 遥紀にとっては全く以って愚かであっただろう猫の考え方。相容れぬ其れを実感しながら青年を狙う様に研ぎ澄まされる爪を感じとり小烏が彼の近くで「兄さん、」と声をかける。
 どこか茶化す様な雰囲気なのは劣勢を全く感じさせないからであろうか。庸子へと視線を送り、炎を纏わせた腕で薙ぎ払う旭は「お願いね!」と一時的な共闘関係に在る逆凪へと声をかければ困り切った様に頷き庸子が真っ直ぐに切っ先を振り下ろす。
「結局、名前が変わろうとも彼らがやってる事に変わりはないんだね……」
 ルナの瞳が揺れる。彼女の澄んだ青の前、一匹の猫が醜く目を見開いて嗄れた声で鳴いている。
 胸を貫いた黒い剣が紅に染まる。唇を歪めた灯璃がこてんと首を傾げ、エンドロールを口にした。
「それじゃあ、今日はこの辺で。DJはあかりんでした。シーユー、バイバーイ!」
 血に染まったピアノホールにはくすくすと少女の笑い声だけが静かに響いていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした。賊軍です。
 其々の想いがあって、とても面白いなあと感じました。
 一般人は少数のみの犠牲で済みました。皆様のお陰ですね。

 また、別のお話しでお会いできます事をお祈りして。