●計算された演出 「ねえ、わたしをた・べ・て」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)が、チョコレート風呂に入りながら上目遣いに声を震わせた。目撃したあるリベリスタは度肝抜かれた。 すでに今年で29歳のアラサー腐女子がするような事ではない。 バレンタインのこの日に当然の如く蘭子は本命チョコを渡す相手はいなかった。 だが、蘭子にはもう時間がなかった。なりふり構っている余裕はない。 いい男はこうしている間にも若い女の子に取られていってしまう。 アラサー腐女子の勝てる見込みは全くなかった。 「そうよ、アラサーが勝つにはもうサプライズしかない」 蘭子は思いついた。若い子には普通にやっても勝てない。ならばこそサプライズを演出することによって男を釣ることができるのではないかと考えた。 大人の女性はサプライズによって男をドキドキさせる。 蘭子は前からやりたかったチョコレイト風呂をついに演出してみせたのだった。 「本命がいる人もいない人もサプライズを演出してチョコレイトを渡しみてはどうかしら? きっと渡される方もドキドキするはず。もしかしたら日頃の想いが上手く伝わって大成功になるかもしれないわね。それじゃ一緒に楽しみましょう」 蘭子はチョコレイトに塗れながらウィンクしてみせた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月28日(金)22:56 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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●シュスカ・ザ・エンジェル 聖なる夜は澄んだ空気に星たちが瞬いている。郊外の丘の上にある教会には聖バレンタインを祝うために人が集まっていた。 チョコレートケーキやカクテルなどが色鮮やかに並べられている。お城やお伽話に出てくるようなお菓子が花を添えていた。 ステージは有志による催しが開かれていて観客を楽しませている。 バルコニーの扉が何故か開いていた。冷たい風が中に入り込んできている。 快は扉を閉めようとパーティを抜けだしてバルコニーに向かった時だ。 誰かの歌声が聞こえてくる。凛とした澄み渡るような声だ。 伸びのある通りのよい音色は聞く人を魅了するような力を持っている。 快は気付かれないようにそっと足音を潜めて後ろに回りこんで見た。 シュスカが目を閉じて歌っていた。 まるで誰かに永遠の祈りを捧げるように―― 見渡すばかりの綺麗な三高平の光に向かって口ずさんでいる。 吸い込まれそうな雰囲気だった。シュスカは何かを歌っている。時折口ごもってしまって音が乱れる所があった。 それでもシュスカの歌声は魅力的だった。 じっと目を閉じていればどこか別の場所へ連れて行ってくれそうな雰囲気。 聖バレンタインの夜がもしかしたらそうさせるのかもしれない。 ずっと聞いていたいと快がそう思った時だった。 「あっ、どうして――」 シュスカが驚きに目を開いてこちらを見ていた。 後ろの方で誰かが盛大にずっこける音がして振り返ると、竜一と悠里が一緒に足を取られて地面に転がっている所だった。 「あはは、ちょっと聞かせてもらったよ」 悠里は苦笑いを浮かべながら弁明をする。本当は竜一がシュスカに気付かれないように後ろから近づいて下から覗こうとして悠里が止めに入った。あと僅かな所で悠里に捕まってしまって竜一は一緒に転けてしまったのである。だが、竜一はにこにこしてそんな事情は口にしない。 「ん~~~? むこうからなにかきこえてくるの~」 その時まるで美味しいお菓子に釣られるようにミーノがやってきた。次々に集まってくる仲間を目にしてシュスカも頬を真っ赤にした。聞かれていたかと思うとすごく恥ずかしい。 「歌、上手くなりたいなって。でも、自己流じゃ難しいわね」 シュスカはこっそりと歌の練習をしていたことを打ち明けた。休憩で少しバルコニーに立ち寄ったら綺麗な光景に思わず歌いたくなったのだという。もともと前から上手くなりたいと思っていて絶好の練習の機会だと気を許していた時の出来事だった。 「じゃあ折角だし舞台の上で歌ってみない? 僕達も手伝うし」 悠里は冗談っぽく笑ってシュスカに提案する。せっかく良い歌声をしているのに秘密にするのは勿体無いと思った。出来ることなら皆でステージに上って一緒に歌を披露したい。 竜一はギターができるし、悠里自身はピアノが弾けた。 「こいつはまた、おもしろいメンバーが揃ってるな。オレも参加させてもらってもいいかい?」 帰りが遅い皆を心配してフツが顔を出していた。さり気なくどこに隠し持っていたのか愛用の琵琶を取り出してかき鳴らす。 「その夢! みんなでかなえよう!!」 面白くなってきたと竜一が嬉しそうに叫んだ。 「快は何か出来るっけ?」 悠里は快に質問する。 「俺は楽器は使えないから、シュスカさんの歌にあわせてバスパートを歌うよ。あと、俺に出来る事は……そうだな」 「きゃぁぁぁ!!」 シュスカは短く声を上げた。快がフィギュアスケートのリフトよろしくシュスカの身体を持ち上げる。そのままお姫様抱っこにして上から覗き込んだ。羞恥で顔を真赤にしたシュスカが口を小さく開けて見つめ返す。 「今宵限りの歌姫を、舞台にエスコートすること、かな」 快は近くにいるシュスカの顔にドキドキしながらも何とか平常心を見せようとした。すぐにシュスカを抱き寄せたままステージに連れて行く。 突然現れたシュスカ達に観客は驚いて盛大に拍手を送った。 ●スパンコールのオンステージ ステージはスパンコールのように色鮮やかに飾られていた。即席のメンバーでセッションを行うためにしばらくの間楽器の調整をそれぞれで行っている。 「まさか、バレンタインでセッションをするなんて予想外だったわ。でも、すごく楽しそう。まるで高校の時にやった文化祭のバンドを思い出すわ」 蘭子が楽屋裏に集まったシュスカ達の側に集まって言った。傍らには興味深そうに付いてきたリシェナも一緒である。初めて見る楽器もあってなんだか楽しそうだ。 「蘭子さんも、よかったら混ざる?」 シュスカは笑顔で蘭子に問いかける。 「あら、嬉しいわ。それじゃ、私はタンバリンでもやろうかしら。リシェナちゃんもやる?」 「面白そうでござる。要するに、ショウを交えてチョコを配ればいいのでござるね!」 蘭子に振られてリシェナも胸を張って答えた。よく分からないが、今こそフュリエの出番だと張り切る。皆が期待しているような目で見てきて一段とやる気が巻き起こった。 メンバーは皆でセッションの練習を開始した。もちろん突然ステージに余興をするスケジュールを組み込んで貰ったために本番までに練習する時間は少ない。 さらに久しぶりに楽器に触るメンバーもいて勘を取り戻すにも一苦労だった。ようやく簡単な曲調と歌詞を決めて全員でセッションが出来るようになったのは本番まであと僅かという時間帯だった。慌ててひと通りだけ合わせてほとんどぶっつけ本番だった。 「みんなで楽しくやればいいよ。恥をかいてもみんな一緒ならきっと笑い話になるから!」 悠里がわずかの練習を伴にした仲間に向かって元気づける。 「自己流でいいのさ。音は楽しむのが一番だ。皆でジャムセッションとしゃれこもうじゃないか!」 竜一もアコースティック・ギターを担いでステージに乗り出した。 現れた即席の「シュスカ・ザ・エンジェル」のメンバーに観客は盛大に拍手で迎える。 センターに立ってマイクの調整をしたシュスカは緊張していた。思わず不安で後ろを振り返ると皆の頼もしい顔がそこにあふれていた。 シュスカは意を決めてそっと深呼吸をした。自分は一人じゃない。皆がいてくれるから自分もそれに精一杯の力で応えたい。小さな蕾のような口唇がマイクに近づく。 凛とした声音の合図とともに一夜限りの演奏が始まった。 観客は演奏が始まった瞬間に、シュスカの意外な才能に酔いしれた。不安定でまだおぼつかないところももちろんある。それでも張りのあるよく通る声は聞いていて気持ちがいい。 竜一はポーズを決めながらピッキングを早めた。高まる興奮をさらに盛り上げようとするかのように仲間の演奏をリードしていく。オクターブ奏法で技巧を全面に出した竜一の演奏はさすがに慣れていて聞いている分にもかろやかだ。フツはそんな竜一が暴走しないように、ゆっくりと渋い琵琶の音を奏でて調子を合わせる。 皆それぞれの演奏はやはりバラバラだ。 ピアノ、バス、マラカス、ギター、タンバリン…… それでも統一感のない演奏を何とかまとめようと必死になってベースを作る。 悠里もフツのそんな意図を悟って上手く両手で弾きこなしていた。途中で手が滑って変な音が出てしまったがそれも愛嬌だ。すぐに気を取り直して鍵盤を懸命に叩いていく。 ブランクを感じさせない悠里の演奏で皆もそれぞれのペースを保つことができていた。 ミーノはマラカスを振りながら実に楽しそうにシャカシャカしていた。他のメンバーの音に掻き消されないようにアピールするためにくるくる回転しながらツインテールを揺らす。 蘭子もミーノの横でタンバリンでリズミよく叩いていた。昔ドラムを叩いていたこともあって合わせるのはお手のものである。時折ミーノとステップを踏んで前に出て踊った。 快はシュスカの歌声を引き立てるようにバスでハモる。蘭子たちと一緒に軽やかで激しいステップを刻んだりして華麗に見せつけた。これには観客も拍手を送る。 うろ覚えのパーカッションを鳴らして快は彩りを添える。 「チョコシュリケンでござる! チョコがほしい人は口を開けるでござる!」 間奏の時にチョコレートを持ったリシェナがロンダートを決めながら現れた。観客席に向かって華麗にバク転を決めながらチョコを手裏剣のように投げ込んでいく。 「バレンタインでござるよー。皆大好きでござるよー」 リシェナの配られたチョコレートはステージ演奏に花を添えた。 「へいへーい! みんなっきょーはとびいりのおんすてーじだよっ!」 ミーノの掛け声とともにシュスカの歌声が戻ってくる。 ●夢から覚める迄に もっとみんなで演奏をしていたい。 シュスカは心の中で次第に感情が溢れてきているのに気づいていた。 もうすぐこの楽しいセッションも終わってしまう。最初はバラバラで全然統一感のなかった演奏も最後の方に差し掛かって少しずつ咬み合いを見せてきた。 シュスカの歌声が皆の演奏を引き立てている。 逆に皆の演奏がシュスカの声音をさらに魅力的に引き立たていた。 皆のそれぞれの楽しそうに演奏する姿がとても嬉しい。自分も頑張って皆の演奏をより上手く見せるように胸の奥底から声を出した。 それぞれの発する音がとても気持ちがいい。 シュスカが幸せそうに歌を披露しているのを見てフツも熱くなっていた。 これまでに彼女の声を耳にしたことがあったが歌うところは初めてだ。 伸びがあってよく通る、きれいな声だ。出来ることならばずっと聞いていたい。 統一感のなかった音が徐々にひとつに纏まっていくのがわかる。 いまだに緊張を宿しながらも全身で歌っている彼女を見て音楽はやはりいいと改めてフツは思っていた。 悠里も最初はうまくいくか心配だったが、やはり最高に楽しかった。 いまだガタガタで足並みもうまく揃っていない。 それでも十分だった。こうして一緒に楽しい仲間と演奏することができるのだから。 大歓声とともにつかの間のセッションは終わりを告げた。 まだ皆で演奏していた余韻が残っている。 シュスカはまだ満足していなかった。もっともっとうまくなりたい。 このメンバーでもっと演奏を続けたかった。 霞んできた歌声 バラバラの演奏 お互いへの信頼 そして皆の笑顔をもっと―― その時だった。 観客席から大きな拍手ともにアンコールの声がかかる。 やがて会場全体がコールで包まれた。 メンバーたちは互いに顔を合わせる。 すでに準備はできていた。今よりももっとうまい演奏を届けたい。 フツがそんなシュスカの意図を悟って両手を上に突きつけて叫んだ。 「さあ、もう一曲行こうぜ! 夢から覚めるにゃまだ早い!」 聖なる夜の本番はまだまだこれからだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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