●暴力者、フィクサード 「おたのみもーす」 ばーん。戸を殴り破って一人の男が土足で上がりこんできた。 「なっ、何だお前は」 その場に居た者にどよめきが走る。それもそうだ。ここは武道を磨く者が集う道場。日本主流七派フィクサードが一、武闘派で知られる『剣林』の組織員達が日々己を鍛えている場所なのだから。 故に彼等はこの珍妙な侵入者に問うたのだ。「何者なのだ」と。 「なんらぁおまえら? ヒトのことじろじろみやがって。けんかうってんのあ」 それに呂律の回らない声でチグハグ返事をする侵入者。イライラしてきたのを隠しもしない。 「なんかムカつく……おまえらころすわ。そうだ、ころすためにココにきたんだったえなア! そうらった!」 言い終わる前にその男は手近な者の顔面を殴り飛ばしていた。ゴシャッと頸の骨が折れる音と、面白いぐらいに頭が変な方向を向いた剣林フィクサードがぶっ飛ばされて壁にめり込んで、失禁と痙攣と絶命と。 「てめぇやりやがったな!」 仲間をやられ、目の色を変えた剣林フィクサード達が一斉に男に襲い掛かる。 が、彼等の背後を強襲する糸と斬撃がそれを乱し妨害する。血潮が飛ぶ。 更なる困惑に包まれた門下生達が振り返れば、異形達が出口を塞ぐようにそこにいた。山犬の毛皮を被ったずんぐりとした男。それが従える土でできた人形達。アザーバイドだと、その場の誰もが理解した。 「だるいけど……まぁ、復讐と安住の為さ。我々『まつろわぬ民』と裏野部諸君の利害は一致していてね?」 異形がピッと門下生を指差した。ゆらりと蠢いた灰色の土人形が、前に出る。 『「ズルいよ僕は ぼ、僕」「ウケケケケケ」「た、楽し……いね?」「ブッチブチにブチ貫いてやるよぉおお~ん」「……、」「いいか黒お前ぜってぇ負けるんじゃねーぞお前が勝たなきゃ俺が出世できないだろうが分かってんの?」「はぁ はっ あは あははァ……」』 二つの声で意味の無い言葉を吐きながら。それが霧の様な武器を振り上げた。 暴力の開幕。序章は虐殺。 ●暴力者、リベリスタ 「日本主流七派フィクサード『裏野部』が、動き始めました」 ブリーフィングルーム。事務椅子をくるんと回し、振り返った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が深刻な表情で低く告げた。 過激派で知られる裏野部が、昨年ほどより不穏な動きをしていた事は報告書にも上がっている。 先ずは昨年末の女性革醒者連続拉致事件。それは旧時代に封印されていたアザーバイド『まつろわぬ民』等を解放し、裏野部勢力へ吸収し、『単独でアークと渡り合える戦力の確保』を目的とした物だった。 次いで裏野部は大規模雷雲スーパーセルを発生させ、神秘的超自然現象で『封印されし者』を解放せんと試みる。それはリベリスタの尽力により規模は縮小されたものの、古都であり西日本の霊的な要である京都はダメージを受け、奈良に封じられたまつろわぬ民や四国各地に封じられた魑魅魍魎等は解放されてしまった。 その結果。アザーバイド勢力を吸収して大勢力となった裏野部は主流七派を離脱、他派と露骨に敵対を始める。今や彼等は自らを『賊軍』と名乗り、四国にその勢力を集結させ始めているという。となれば当然、四国及び周辺地域で裏世界の緊張度合いは極限に高まる事となる。 「彼等裏野部の目的はこの国の全て、だそうです。そしてアザーバイド達は封印という屈辱に対する復讐を果たし、安住の地を得る為に。 ……神になるつもりなのでしょうね。裏野部首領、裏野部一二三は。弱肉強食なる純粋欲望の世に全て全てを創り変えて、それを統べる王であり神であろうと」 過ぎた欲望は身を滅ぼすと、童話にすら謳われる事だというのに。メルクリィはゆるりと首を振り、されどすぐに説明に戻る。 「未だその動きの本流は掴めておりませんが、裏野部一派が『賊軍』――即ち朝敵を名乗る以上は、天地がひっくり返っても『善い事』である筈がありません。必ずや大規模攻勢に打って出る事でしょう。 秩序と平穏を護る為。賊軍の情報を得る為。我々は立ち向かわねばならぬのです。例えそれが『邪神』であろうと」 よろしいですね、とメルクリィがリベリスタをつっと見据えた。頷きを返した彼等に柔く微笑むと、本作戦についての詳細説明を開始する。 「皆々様には四国の某市にある剣林管轄の武道場に向かって頂きますぞ。その周辺は剣林一派の縄張りでしてな、それを裏野部勢力が奪い取らんと襲撃をかけとります」 メルクリィの背後モニターに映し出されるのは古風で立派な大道場だ。そこでは剣林のフィクサード達が日々鍛錬に励んでいるという。 「おそらく、皆々様が到着した時に『裏野部勢力以外の生存者』はいないでしょうな。それは『決して少数ではなかった剣林一派』を捻り潰した裏野部勢力の異常性をも同時に表している、といっても良いでしょう。今、裏野部一二三に付き従っているような裏野部連中は所謂『裏野部的エリート』ばかりですからね……勿論、アザーバイド達も決して侮る事は出来ない厄介者揃いですぞ、お気を付けて」 さて、と一瞬メルクリィが間を空ける。少し言い難そうに――けれど言わねばならぬと、言葉を続けた。 「被害が出たのはこの道場だけ、なんて事はありませんぞ。裏野部は裏野部であり、アザーバイドも封印された恨みを抱いてる者ばかりです。その結果として――周囲の町や人は、片っ端から殺されて壊されて、酷い様相でしょうな……」 現場に辿り着くまでに、きっとリベリスタは幾つもの死体と幾つもの瓦礫を見る事だろう。まるで災害だと、メルクリィが呟いた。有象無象を壊しつくす無慈悲にして理不尽な存在。 ならばそれを食い止めねばならぬ――それこそが、リベリスタに課せられた任務なのだ。 「オーダーは『敵勢力の撃退』。……非常に危険な任務となる事でしょう。どうかお気をつけて。そしてどうか、ご無事で」 私はリベリスタの皆々様をいつも応援しとりますぞ、と心配を噛み殺すメルクリィは頷くのであった。 ●暴力者共の宴 有りっ丈の暴力が刻まれ、死が蔓延した街を駆け抜けて。 リベリスタ達の視界に飛び込んできたのは、広いフロアを埋め尽くす死体の山だった。血の海だった。 そして出迎えたのは、師範代剣林フィクサードに殴られて切れた唇をベロリと舐めあげ、犬歯の欠けた口でカカと笑う裏野部フィクサード。垂れっぱなしの鼻血。そしてその後方で死体の上にダラっと座ったアザーバイド、辺り周囲に土人形。 「きたなァ~アークだろおまえら。おれは裏野部の陀木 成だ。こんなところまでたいへんだなおまえあも」 ボロボロになった防寒着を無造作に投げ捨てて、死体を蹴っ飛ばして道を作って、成はニヤつきながら拳を鳴らした。返り血で真っ赤なそれを。『獲物を噛み砕くアギトの如く』と言われる為に『ブラッディジョー』と呼ばれるに至ったその所以を。 状況は問答無用。フィクサードとアザーバイドは臨戦態勢。 斯くして避けれ得ぬ戦いが、始まる。 「裏野部一二三(かみさま)のいうとおり、だ! ぜんう殺せってさ! いくぞオラ゛ァアアアアッ!!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月22日(土)22:56 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●貪 破壊の後、死が支配した町。呻き声すら聞こえない。 涙が、止まらなかった。駆け抜ける『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)の潤んだ瞳に映るのは悲惨なまでの『死』ばかり。血が滲むほど拳を握り締める。向かう先に居るであろうケダモノ達に、必ず死を届ける死神にならんと誓いながら。 「分かっては……いた筈でしたが見境というものが本当にありませんね」 噎せ返るほどの血の臭いに顔を顰めて『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が言う。これが裏野部一二三が目指そうとしたものの一端? 許せない。こんなの、絶対に許せない。見過ごせない。故に倒す。倒してみせる。それが如何なる相手であろうとも。 (――私は、アークだから) 単純明快だ。故に強いその想いは、揺るがない。 顔を上げる。見えてきた。剣林管轄の武道場。その入り口から。入る。見えた。外道一同。血の海の中。 「うぜー白黒をぶっ殺したと思ったら再生怪人たぁな。なんなんだ? テメェアイツらがそんな好きだったのか?」 きめぇ事しやがって。吐き捨てた『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)に、応えたのはアザーバイドのまつろわぬ民、唆聞だった。 「っていう風に君達が嫌がるかなって。良い反応をありがとさん」 「良いねぇ、マジまだ笑わせてくれんのかよ」 『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が鼻で笑う。 「そういやぁ人形劇団長がまだだったっけなぁ。オレ等もなんやかんやで常連客だけどよ、いいかげんこの人形劇も……幕引きと行こうや」 「幕引き? とんでもない。これからが本番だよ、人間」 最奥にて死体を椅子代わりに座す唆聞がリベリスタ達を指差した。土くれ木偶が動き出す。同時に、陀木成の呂律の回らない蛮声が響き渡った。 「いくぞオラ゛ァアアアアッ!!」 開幕。 「サテお披露目カ」 動き出した戦場。その中で誰よりも速く動いたのは『黒耀瞬神光九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)だった。 時よ加速しろ私は誰よりも疾いのだから――纏う稲妻に黒い九尾が黒曜石の如く光り輝く。完全戦闘形態。更に動く。複雑可変型機構刀・六八を銃の形に変形させると狙い定めた。その銃口が睨むのは白黒木偶。 「私ノ手の平で踊レ」 発砲。白黒木偶が構えた斧で防御する。リュミエールの役割はこいつの対応だった。仲間へ攻撃が行かないようその意識を引き付ける事。命あってこそ、全員で生きて帰ることこそ大事なのだから。 斯くして異形がその手の斧をぶんと振るった。それは確かにリュミエールを狙っていたが――彼女だけではない。リベリスタの全てを狙って、だった。全体攻撃を態々彼女だけに絞る理由などないのである。そして怒りにもなっていない状態で、近接技しか使えないならば兎角、彼女に易々と誘導などされはしない。 切り裂かれたその感覚。その斧の味。ランディ・益母(BNE001403)は生々しいほど知っている。忌々しいほど覚えている。 競り上がる気持ちを何と形容しよう。ただ今は、それらを全て、手にした斧――グレイヴディガー・ドライに込めて。 「邪魔だ、潰れてろ!」 己の行く手を阻む土くれ木偶に轟と一閃。荒れ狂う戦気は周囲一切を切り伏せる刃となり、嵐となり、切り刻む。 さぁ、戦場を奏でましょう――いつもの言葉と共に、そんな仲間達を支援するのはミリィである。賽は投げられた。ひゅるりと振るわれた白亜の指揮棒、果て無き理想が紡ぎ出すのは勝利への執念。勝利の証明。逸脱の旋律。理想と夢。希望の渇望。 「貴方達を打倒する為なら何処であろうと苦ではありませんよ」 き、と前を見据える。状況最善手を。何故なら彼女は戦場指揮官<レイザータクト>であり、他ならぬ戦奏者<ミリィ・トムソン>なのだから。 一方で、火車は助走を付けて飛び掛ってきた成の真正面に進路妨害するかの如く立ちはだかる。当然ながら目が合った。 「んだてめえ赤坊主コラじゃまらァーー!」 成の拳が上被りから隕石の様に叩き落される。ゴギンッ、と固いもの同士がぶつかり合う鈍い音が響いた。火車の顔面。ジャストミート――ではない。その額で真っ向から受け止めたのだ。一歩も下がらない。つっと血が二筋垂れた。その血より赤い赤い眼差しで、成を睨め付け鼻で笑う。 「おーおー? 歯も生え揃わねぇ 言葉覚えたてのガキじゃねぇの?」 「だあれががきだこらてめぇーおえはこれでも27……ろく? ご? はち? 20代らおらあばかにしえんのあてめーこらあ!」 「……何語だよ 通訳呼んでこい」 「あ゛ーなんかてめーむかつくちょおむかつう! いまおれのこおばかにしたろ! あ? したらろ!! ぶいころす!!!」 「だァから何語なんですかーって聞いてるんですけど もしもォーし?」 「んがあぁああーーーーーーー!!!」 瞬間湯沸し沸騰器である。家電なら優秀だったものを。再び突き出されたパンチを、されど火車は迎撃しない。顔面を横殴りにされても踏み止まり、その足で目指すは唆聞。 「いうだけいってにげうのかおまえってやつは! おまえってやつわああああなまえしらねえけどおまえってやつわーーーー!!」 「何言ってんだラリ男 黙らせたけりゃ黙らせてみろ 出来んならな」 「ばかいったやつがばかなんらぞてめええええーーーーーー!!」 「馬鹿って言ってねぇよ一言も言ってねぇよ まぁお前が馬鹿なのは事実だが」 「やろう、ぶっころしてやる!」 「銃なんか捨ててかかってこい、ってかぁ?」 徹底的に挑発する火車に成はカンカンだ。最早火車しか見えておらず、火車しか狙わない。キレればキレるほど強くなるその拳は確かに脅威だが、成に関する対応はリベリスタの作戦勝ちだった。火車以外の誰も成にアプローチしない故に、今成のターゲットは完全に火車のみとなっている。そして誰も彼を攻撃しない。故に、『最後に攻撃した者への攻撃が強くなる』という成の特性を完全に潰しているのだ。 「お れ と た た か え 赤坊主ぅあああああああ」 成の怒声が殴打音と共に空しく響く。 「全く馬鹿は困るよねぇ」 それを聞きつつ唆聞は溜息を吐いていた。リベリスタの作戦はどうやら己から倒す心算らしい。耐久型木偶を盾にしつつ、まつろわぬ民は肉迫してくる人間を見渡した。 眩い眩い、全てを焼く赤。血で濡れ死体で彩られた戦場を駆けるアンジェリカは――その心の中でそっと、フィクサードとはいえ死者を足場にする事を内心で詫びながら――ただただ唆聞を睨み付けている。 「お前の屈辱や復讐心まで非難する気はない。けど無関係の人達を理不尽に殺した事、それだけは絶対許さないよ!」 「弱肉強食。蜘蛛に蝶が喰われるのは理不尽かい? 赦せない事なのかい?」 「赦せる、赦せないの問題ではないのです」 跳ね除ける様に、言い放ったのはミリィだった。 「ただ、貴方達が私達の『敵』だから。だから私は、貴方達を倒します」 その言葉は魔力の篭った言霊となり、戦場中に響き渡る。それは心の無い木偶達を引き付ける事は出来ないが、動きを乱す事は出来る。元より始めからそのつもりだ。 「成程」 アザーバイドが低く笑った。翳す掌。飛ばされる糸がミリィの身体を絡め取った。雁字搦めに絞め付ける。息が詰まる。骨が軋む。メキメキメキ。少女の咽からヒュッと苦しげな息が漏れた。 その直後、振るわれる一閃。リベリスタを見境無く心身共に抉り裂いたのは白黒木偶の一撃。そこに加えて攻撃型木偶が剣状の腕を振り回す。 血。バシャッと足元に飛び散った血。されど瀬恋は、前に進む。拳に瞳に、殺意を燃やして。 「人形遊びは趣味じゃねぇんだよオルァア!」 Terrible Disasterで武装した黒鉄の拳を暴力衝動のままに振るい、絶対自負と自己法則で常識すらも捻じ曲げながら何処までも暴力的に侵攻する。力尽くで、木偶達を押し退ける。その壁をこじ開ける。 「ジョーちゃん、とっとと往きな!」 「ありがとう、瀬恋さん……!」 ランディ、瀬恋の攻撃、そしてアンジェリカの全体を薙ぐ攻撃に今や唆聞を護る木偶は全て土に帰していた。もうアザーバイドを攻撃から護るモノはない。アンジェリカは一気にアザーバイドへと間合いを詰めた。 「後悔の時間も、あげないよ……!」 五重に響く少女の声。五人のアンジェリカが唆聞を取り囲む。刹那。閃光。地獄の女王の名を冠する巨鎌La regina infernaleが無慈悲な弧を描く。蝙蝠羽を模した刃が乱舞する。 「ちぃ……痛いじゃないか」 辛うじて直撃こそ免れたものの、防御に深く裂かれた腕の傷に唆聞は顔を顰める。直後に、メキリと。展開するは巨大な毒顎。引き寄せたミリィを始め、周囲一切のリベリスタへと毒液滴るそれを薙ぎ払った。 唆聞を護る壁(木偶達)を突破した今、後は限界まで削りあう血みどろの死合い。 広い道場では天井や壁を活用するのは難しそうだ。リュミエールは残光を散らしながら、白黒木偶が振るう鏖の斧を巧みに華麗に回避する。 「本来ユーティライネンってのは無傷デアルベキダシナ」 防御も織り交ぜ、敵を見据えるリュミエールは粘り続ける。彼女が早々に倒れる事はないだろうが、思惑通り白黒木偶が彼女だけを狙う事はなさそうだ。 「コッチ見ねぇママ死ンジマイナ」 飛び出す超速。白黒木偶の意味の無い二重哄笑が響き渡る。 「てめーおらぁてめーこっちみろやおらああーー!」 何度目か。火車のみを狙って繰り出され続けた成の拳が彼を捉え、言葉通り殴り『飛ばす』。ブラッディジョー。獲物を食い潰す暴力殴打。飛ばされた火車が壁に激突する。そこに穴が開くほどに。瓦礫。されどそこから火車は立ち上がるのだ。両拳に炎を纏い、足元からは陽炎を立ち上らせ、不死鳥の如く。 「はぁ……こんなヌリィと風邪引くわ……本気かソレ?」 ペッと血唾を吐き捨てて、それでもあくまでも挑発を。成は馬鹿だ。凄く馬鹿だ。流石に同士打つまではしないが、それでもアッパーユアハートでもなんでもないただの言葉で火車に釘付けになっている。その分、火車は運命がぶっ飛ぶほどに傷を負う事になったが、手当たり次第に被害をばら撒かれるよりはウンとマシだと判断していた。 「オレ程度黙らせられん様じゃあ 他の奴がオメェ相手するまでもねぇ ……ってこった」 しっかしコイツ馬鹿だなぁ。馬鹿だ。凄く馬鹿だ。可笑しくってついつい、ぶふっと笑い出してしまう。 「こんなバカ飼ってる奴が 可哀想でよぉ……ブハッぎゃはは!」 成が何か言い返したと思う。だが呂律の回らない蛮声は最早理解不可能な音だった。何だろうが火車は彼を徹底無視。白黒木偶にも特にコメントする事など無い。視線は唆聞に固定だった。まだ戦える。拳に炎。炎の拳。踏み込む一直線のストレートが、アザーバイドを殴りつける。 口元から血を滲ませながら唆聞が放つ糸。されどそれは瀬恋を止める事は出来ない。拳圧で払い、そのまま瀬恋が向けるは拳。そこから迫り出した砲。攻勢を徹底的に緩めない。装填するのは湧き上がる怒り。 「白黒は嫌ぇだ。でもアイツらはアイツらなりの生き方って奴があった。そいつをコケにするみてぇな真似をされんのは、そいつはそいつでアタマに来んだよ」 背中から真新しく迸る血は、紛れもなく白黒木偶の斧によるもの。その痛みが更に、装填される弾丸に断罪の火を混ぜるのだ。瀬恋は倒れない。敵を斃し切るまで絶対に倒れない。敵がムカつくから、敵が気に食わねぇから、敵が舐めた真似をしやがったから。 「……だからぶっ殺す。正面からぶっ潰してやるよ。皆殺しだクソボケがぁ!!」 どん。濁流の如く放たれたのは断罪の魔弾。反動の衝撃が瀬恋の身体に重く響く。それは唆聞が防御に構えた腕を片方、吹き飛ばした。唸る様な悲鳴。更に重ねられたランディのアルティメットキャノンが、殴り付ける様にアザーバイドを弾き飛ばして壁に叩きつける。 「トムソン、成る丈俺の後ろに居ろ」 「はい。感謝致します」 二人とも満身創痍。特に肩を弾ませるミリィは既に運命を散らしている。ごく、と飲み込んだ唾は血の味がした。それでも果て無き理想の為に。 「光よ、来たれ――!」 振るうタクト。紡がれる光が、一切を焼き払う。全てを染める白。 その中から飛び出したのは黒い色――アンジェリカ。助走を付けて跳躍した。唆聞と目が合う。刹那。 「う ッあぐ」 ぞぶ、と。唆聞の毒顎がアンジェリカの薄い腹を貫いた。注入される凶毒が少女の柔らかい体内をスープの様に溶かしてゆく。くぐもった悲鳴。生理的な涙。血反吐。鼻血。吐血。嘔吐。 それでも、より一層毒が突き刺さるのも肉が削げるのも厭わず、アンジェリカは一歩踏み込んだ。震える手で振り上げた、冥府の鎌。 「これなら……逃げられないよねょ……? お前は、ここで、ボクが、――斃す!!」 正気かと唆聞が見開く目の先で、アンジェリカは更に一歩。掲げた鎌に、有りっ丈の力をこめて。 さよならの一閃。刈り取るは首。 鮮血。毒に蝕まれ掠れゆく意識の中で、アンジェリカは歌った。殺された者達の為に、鎮魂の歌を。唆聞の返り血で染まった刃の女神に彼羅の幸福な転生を願いながら。 元々が耐久型な上に木偶を壁にし続けていた唆聞を仕留め切ったのは疑いなく大功績であろう。 だが当然ながらかかった時間は短くない。回復手段の無いリベリスタは消耗を強いられる。そしてリベリスタ全員を薙ぐ白黒木偶の攻撃に加え、唆聞から、そして何よりキレ続ける成から延々と攻撃を受け続けていた火車も粘り続けたものの遂に倒れ付してしまう。しかしそれは火車が弱い事を意味しているのでは決してない。寧ろ彼だったからこそ、ここまで粘れたのであろう。 「つぎはだれだあ! なぐってやう!」 「アタシだよノータリン」 今度は瀬恋が、拳から血を滴らせる成を挑発する番だった。 「ったく、喰らい過ぎでアタマおかしくなってんじゃねぇか? テメェの顔よりはマシだけどよ!」 「あぁんだとなめてんのかおらァこらてめぇむかつくなぁあ!」 「ムカついてんのはお互い様だろ。逃すと思ってんのか野郎!!」 飛び掛ってきた成へ放つギルティドライブ。真っ向から受ける男。けれど、顔面からダラダラ血を流しながらもその脚が止まる事は無かった。瀬恋の顔面を殴る。瀬恋も成の顔面を殴り返す。罵倒しながらの血だらけインファイト。運命を代価に延長戦。 ランディも成へ向こうとした。が、その眼前に立ちはだかってきたのは他でもなく白黒木偶。心も意識も無いただの土くれを、ランディは細めた目で見遣った。 「見てらんねー姿だな」 怒っているだろうか。仮にも、彼を砕いた者達がこんなザマになっているのは。 「お前は好き勝手すんのが楽しいつったよな、楽しいかね? 少なくとも親分の為なり暴れたいっつうなら人形になって戦うのは違うよな?」 『ら』 一言。漏らしたその声は、紛れもなく黒鏡面のものだった。 『ランディ君。ランディ君。ランディ君。ランディ君。ランディ君ランディ君ランディ君ランディ君ランディ君ランディ君らんでぃくん』 無機質に、恋い慕う様に、懐いた子供の様に、何度も何度もゲシュタルト崩壊しそうなまでに繰り返されるその言葉。 ランディはそれに返事をする事はなかった。ただ墓標の如く黙し、欠けた斧を振り上げる。 「さあ怒りに震えろ兄弟、俺と一緒にな!」 もう、これは、『アイツ』じゃない。『アイツ』はもっと、強かった。 だが、戦いの終焉は間も無く訪れる。 これでもう幾度目か。白黒木偶が振り回す鏖殺の斧が全てを切り裂き、フラッシュバンによって敵を牽制したいたミリィが限界を迎えて倒れてしまう。 3人、倒れた。即ちリベリスタの撤退ラインである。 目配せ。殿に躍り出たのはリュミエール。成の右ストレートを全力防御。その間に倒れた仲間を担ぎ、リベリスタは撤退する。 「待てよおまえらぁー! おい! こらあ!」 成は追いかけようとする。が、唆聞は死に、白黒木偶以外の木偶も全滅し、戦力としては半壊状態。それにもう追いつけない。イライラするままに壁を殴りつけて成は怒号を吐き散らした。 戦闘結果は痛み分け。けれど現地に居た賊軍勢力のそれ以上の被害は防げた事を上げれば、僅差でリベリスタの勝利であろう。 けれど今も尚、四国には胡乱な気配が渦巻いている―― 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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