● 真夜中。黒羽のフライエンジェ、『規格外』架枢深鴇が墓地に舞い降りた。 ……とは言え、彼が足を置いた場所は墓石の上。死者冒涜の葬儀屋である。 彼は黄泉ヶ辻に身を置き、アークが介入しなければならない事件を起こしてきた。 しかし、先月。我儘に流され異形化した所をアークのリベリスタに助けられ、其の侭流れでアークに身を寄せたのだ。それからは大人しくしていたのだが。 ともあれ、元は黄泉ヶ辻。何を起こすか知れた所では無い。 「ちょっと。ちょっとちょっと! 僕の事あんまり追いかけて来ないでよ! ずっと見てたでしょ、ご飯も風呂も寝てるときも! 僕にプライベートって無いの!?」 一見、其の場には深鴇一人しかいないのだが。 不思議ともう一つの男とも女とも取れない声が響く。 『友達だろう?』 「友達? あははは! 参ったなぁ、僕の命を狙う友達はちょっと困っちゃうよ」 四角柱の上に座った深鴇は、何処から拾ってきたのか、否、拝借してきたのか。お地蔵様の口許に真っ赤な唇を塗り始めた。周囲には、真っ黒の鴉が一羽、また一羽と増えていく。 『また契約結んでさ、そうしたらまたいっぱい助けてあげられるのにな』 「うーん、だって僕はぁ。今居る所で友達作っちゃったし。大歓迎受けたよ、地面に埋葬されそうになるくらいにさ」 『其れは御愁傷様で』 まるで若い友人同士が、次の休日に何処へ行こうか話しているようなノリで会話は続いていく。不可思議な光景ではあるが、其の場には和やかな雰囲気しか無い。 「だからもう自分の世界から出てこないで! ほら、シッ! シッ!」 深鴇は数m離れた墓石の上に居る鴉に向かって、手を払った。 『酷いなぁ、何人くらい殺せば逢ってくれるかなぁ』 「この人で無しー」 『人じゃないからなぁ』 「ロクデナシー」 刹那、深鴇を囲んでいた何十羽という鴉たちが一斉に舞い上がっていく。舞い落ちる黒い羽が深鴇の身体にふわりと乗り、其れを嫌そうに払い退けて。 「もう! 皆やだねえ、個人の事情で世界混乱させてさぁ!!」 果たして深鴇が言えた事かどうか。 ● 「だもんでちょっと神殺しをしてよ。死神、死神殺すのさ」 集まったリベリスタ達へ、唐突に切り出した深鴇。 契約という名のもとに、死神と繋いだ友人という関係は、何時しか深鴇のフェイトを喰うものに変わっていた。 だが其の契約という鎖をアークが壊したからには、鎖の消えた死神が何を仕出かすかは分からない。最悪、再びフェイトを狩る存在に戻るかもしれない。今度は深鴇のみのフェイトを喰うという制限は無く、此の世のフェイトを持つ者全てを対象にして。 「死神さんはね、此の世界に残った残りカスみたいなもんだから……前よりかは強くないよ。多分ね、多分。本体は上位にいるから殺せないのがアレだけどねぇ?」 リベリスタ八人の間を縫う様に歩きながら、深鴇は資料を配ってみた。 「僕ねぇ、自慢だけど死神さんと仲良しさんでね。でも殺しちゃうんだぁ、これって最高に絶望じゃない?」 リベリスタ一人の耳へ、吐息混じりに面白おかしく言ってみた彼は未だフィクサードが身体から抜けていないのだろう。 「でも居たら君達が困るもんね。だからちゃちゃっと殺しちゃおうね。 死神は僕が呼んであげるから。戦う場所ならどこでもいいし、なんなら時間はお昼のがいいよ? あいつら光が嫌いだしね。バッドステータスも効かないのあるし、あんまり運命使っちゃうと向うが強化されちゃうから、短期決戦がいいかもねー」 彼が言う様に、死神は運命を喰う。特に展開される闇は光を通さない。以前もそれによって苦戦したが、食わせなければ問題もないかもしれない。簡単では無いだろうが……。 「ともあれー死神が狙って来るのは僕だろうからね。君達はあんまり身の危険、心配しなくていーよ。ごめんねー巻き込んじゃってあはははは!」 肩を上下に震わせて笑っている彼であるが、配った資料には手汗が見える。 「……好きな子がいたんだ。あの子から貰った命、捨てる訳にはいかなくてねー」 生かされたからこそ、だから――もう死ねなくて。 「良かったら、僕を助けてくれると嬉しいな」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年03月04日(火)22:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ひとつ、貸しが出来た。 誇らしくも黄泉ヶ辻であった架枢深鴇がリベリスタだなんて、呆れて笑い話にもならない出来事である。されども真っ当を夢見た男にとっては、墓に入るまで忘れられない出来事であっただろう。 其の、延長戦。 野球であれば九回裏に歪曲という名のホームランにて得点は追いつき、からの十回目。 残りカスを仕留める為、後腐れ無くリベリスタに成る為。――けれども今日も、如何にもこうにもアークの力を借りなければならないらしい。 「ねぇ、これでまた貸しひとつ。僕の身体は一個しか無いのに、払いきれるかなぁ? どう思う、祈花の導鴉くん」 「できるだけ大人しくしてくれればそれで良いと思うような気がしなくもないけれど」 肩に腕を回され、顔を覗きこんでくる深鴇。其の吸い込まれるような黒い瞳に映った『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は、目線を合わせたり合わせなかったりと忙しく。 「要するに、あちらはよりを戻したい訳ですね」 「そうだよーロマネちゃん。媒介が無いと此方の世界で、ほんとのアタシデビューができないみたいだからね」 「そんな古いものを、よく覚えていますね」 「もちろん。ねえロマネちゃんこの後ヒマ? どう? 僕と遊ばない?」 返答は無かった。 『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)が言う様に、上位世界の死神は如何にかして此方の世界の運命を狩り続けたいようだ。 下位の更に下位。これ以上落ちるところが無いボトムだからこそ、運命の狩り場としての効率性は一番良いのだろう。 それを許すのは、ボトムの世界の住人としてお断りしたいのは当たり前の事で。 されども世界なんて比較的如何でもいいと思っている深鴇からしてみれば、自分の命を狙われている――正しくは、自分の命を人質にされている事は面倒極まりない出来事。 「本当、まさかな」 まさか深鴇とこんな事になるだなんて予想もしていなかった『黄泉比良坂』逢坂 黄泉路(BNE003449)を始め、此処に集まったリベリスタのほぼは彼を助けたいと思っていた。『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)も同じく、敵であった者が何時の間にか此方側になっている事には驚きを隠せない。 例外としては、『おばけ』疊 帶齒屆(BNE004886)のように自分自身がおばけであるからこそ、死神に喧嘩を売りに来たものもいる。誤算があったのは『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)のような徳の高いものがいた事か。早く逃げなくては滅されるかもしれない。 ただ、帶齒屆は内心が疼く。何故だろう、この深鴇という男を死なせてはいけないと騒ぐのだ。 そんな帶齒屆の視線に深鴇は気づく間もなく。全員が想い思いの神秘を発動。自付を身に纏い、己の能力値のギアを熱く回転させた。 「お前さんが一緒に戦ってくれるなら心強いぜ」 「どうかな? 裏切るかもよ? なんてたって僕は、あの気狂い集団の一人……だったしね」 フツはいつにも増して、太陽の様に輝く笑顔を深鴇へとぶつけた。 笑いながら、彼の肩を叩くフツの手の衝撃のせいでは無く。不自然と深鴇の手は震えている。其れを察してか、フツはぐい、と深鴇の身体を肩ごと引き寄せて耳打ちした。 「なァに、心配すんなよ。お前さんはこのオレが、そしてみんなが全力で守るからサ。あいつの分までな」 ――あいつ。 あいつとは、きっと知らない所で消えてしまった子の事であろう。 「うん。そうだね……」 何処かしら余裕が無い表情に、フツは表情を苦笑へとすり変えた。 時は待ってはくれない。この場で何もせず終われば死神はきっと追って来る。だからこそ追いつかれる前に、切り取るのだ。此の世界から。 「さ。そろそろ始めるわよ。こんなくだらない事、さっさと終わらせましょう」 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は死神に対して恐怖心も、脅えも見せず。只、神殺しの予行演習だと笑った。 何より、深鴇の中にあるフェイトがきっとあの子のフェイトであるのだろうと察して。貴重なそれを、死神ごときに狩らせられるのは癪だ。 氷璃が魔陣を紡ぎ、ミリィが指揮棒を掲げた。 『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)が鉄甲を纏った腕を構え、 「だいじょうぶ、ぜったいまもるよ」 ――殺させない。 と誓いを高らかに深鴇へ捧げた、刹那。深鴇の呼びかけは、これまで死神を召喚してきた容量で死神を誘い出すのであった。 ● 「にしても、呼べば何処でも来てくれるって好かれていますね」 「僕は、君に好かれたいよ。戦奏者ちゃん」 ミリィの言葉に、深鴇は苦笑いをした。 其の儘ミリィは敵を観察。ボロいローブに影の巨体。中身は恐らく、骨以外無いのであろう。ただ少し前に現れた時よりかは影が薄く、その存在が此方に受け入れられていないからであろう、存在感さえ薄い。潰すなら今である。 不思議と漆黒の鴉が周囲に集まって来た。昼だからこそ明るかったものの、太陽を雲が隠していくのは何らかの神秘的作用なのか。 「関係無いわ」 だが氷璃は怯まない。開戦と共にぶっ放そうと思っていた詠唱を今、解放する。 此の上位の存在が、今に至るまでどれ程の恐怖と絶望を撒いて来たのか。此の世界に傷を与えて来たのか。容赦は要らない、万死に値する存在に鉄槌を。 伸びた音色の、四色の魔光は死神を穿ち、其の侭彼の存在の動きを止めていく。スキルの直撃に他愛も無いと目を細めた氷璃。 驚いたのは、死神の方であっただろう。 『何を』 「何って、今更言う事があるのかな」 友人かっこ仮に呼び出されたかと思えばこの仕打ち。成程、如何やら友人だと思っていた深鴇は最早そういう存在では無いのだろう。 「友達って思ってたのはそっちだけだよ」 其の一言と、氷璃の攻撃だけで伝える事は全て伝えきっただろう。其の意味は『討伐』。 地面が震え、木々が騒めく程の咆哮が響いた。声帯が無いのに声が出るあたり上位の存在とやらはよく解らない。 周囲の鴉が一斉に鳴き出し、死神の鎌は錆びついた其の色が冴え冴えと輝き放ち始めた。 ぶるり、震えた深鴇の身体。元とは言え一般家庭の気弱な男の子であった深鴇は、こんな超常現象は恐怖以外のなにものでもない。今すぐにでも色んなものが下半身から漏れ出しそうな勢いで―――あったのだが。 「心配すんな!」 フツの声が、深鴇の恐怖を握り潰す。 後衛に、一番後ろに位置した深鴇の瞳に仲間たちが映った。嗚呼、此れが正義の味方? 深鴇はもう私達の大切な友達だからと。深鴇を見ていた旭の目線は優しさに溢れ、だが死神を見た顔は真剣其の物に移り変わる。 「いくよー」 振り上げた旭の利き腕は死神のローブを突き抜けて、浮きだった旭の腕の血管が活性化しては死神から生命力を奪い取る。 見た目こそ大人しげに見える旭だが、其の威力と命中は特化と言っても過言では無い。できれば深鴇は一番相手にしたくないと内心思ったほどに。 続くミリィも指揮棒を舞わせる。 深鴇を見た彼女は、深鴇に対して何も思わない事が無いとは言えないと言うのだが。されども其れを問い詰めていくのは此の後でも可能だ。 ミリィは優先順位というものを間違えない。其れは戦闘指揮の加護があってか、それともミリィ・トムソンという個人の性格が見せる技なのか。 「死神、此れ以上。好きにはさせませんよ」 ともあれミリィの眼力は死神の恐怖心を煽る。死神の能力値を大幅に下げ、精神に打撃を与え――それだけでミリィは動く事を止めない。次の、次の次の次の次の行動まで先読みをし、仲間の行動の中心核を担うのだ。 「フツさん!」 「オウ!」 続くフツが式符を放つ。背では深鴇を守る壁であるのだが、敵が動けぬ時まで庇い続ける必要な無いから。 できれば離れるなとフツは深鴇に言うのだが。気分で行動する彼が来てくれるかは少し不安である。 「………死にたくないし、生きたいのでしょう?」 ロマネの言葉が深鴇を振り向かせた。放つ深鴇の超回復を其の身に受けながら、ロマネは指を動かした。 「わたくしめもまだ死にたくはありません。……頼りにしていますよ」 あなたの為の、戦いだから―――一気に、深鴇の顔が赤く染まり俯いた。 其れを知らないロマネがスーパーピンポイントを撃ちこみ、黄泉路が暗黒を生み出す。 見知らぬ技術でこの場に存在する権利を受けている死神。興味はあれど、今日、此処で終わらす矛盾に少しの惜しい気持ちを其の身に宿し。 「深鴇の為だ」 周囲に黄泉路が生み出した影は数多の武具と成り黄泉路に使われる為に柄を差し出していた。その一つ一つを掴み取り、投げ、投げ、投げていく黄泉路。 遥紀が翼で死神を射抜けば、帶齒屆のソウルクラッシュが防御を無視して貫通する。 帶齒屆は「けひけひー、はじめまして我が嫁死神。お名前は死神でいいの?」なんて愛らしくもマイペースな発言を零しつつ、イマイチ感情が読めない無表情のまま死神の周囲を漂った。 そんな……流れるような連携は氷璃を先頭にして行われていた。鮮やかと思える程に技の数々が死神を射抜いていった。 それは友情のおかげか、それは生きたいと願う人を、生かす為に尽力するリベリスタのおかげか。 けれどもそんなの、死神は容易く手折ってしまうのだ。 「旭さッ―――!!」 ミリィの指揮は効いていた。 確かにそう叫んだ瞬間、眼光がリベリスタ達を薙ぎ払う。あくまで死神の狙いは深鴇であった、だがフツの堅い守りがある限り彼には手を出せない。それにだ、旭や黄泉路が死神の進行方向を塞いでいるのだ、深鴇を仕留める仕の字も見えないこの絶対包囲。 だからこそ、無い脳みそで死神は考えたのだろう。 旭へローブから伸びた腕が彼女の身体を捕まえ、今までリベリスタを背にしていた彼女がくるりと振り向かされた。心の中では逃げてと叫んだ旭だが、腕は攻撃を強いる。そう、旭の身体は魔氷の腕を、遥紀へと向けたのであった。 ● 氷璃が先手を取った時は好調に思えた此の勝負。されど先手を取られてしまえば、旭か黄泉路が敵に上手いように動かされる始末。 攻撃し、攻撃され、一長一短のその勝負。特に旭に狙われた後衛の体力の消耗が著しい。 ――頼りにしているぜ、手伝ってくれたら嬉しい。 確かそんな事をフツが言っていた。 深鴇は「ねえ、それってどういうこと?」と聞き返そうとして止めた。頼りにされている事だろうと解っていたからだ。 だが。 「ごめんねこんな時だけど、僕、大型のスキルを数うてない人だった」 「いまそれ言うか!?」 突然のEP無くなりました発言にフツは心底驚いた。マギウスやデウスを連発していればそうなのか。驚いてしまったからか、フツは飛んできた死神の鎌に上半身を大きく削がれて内臓を前方にぶちまけた。フツの視界が暗くなる、薄れた視界の中で深鴇が何処かへ歩いて行った。 死神がいなければ深鴇を逢う事も無かったし、こういう状況で一緒に戦う事も無かっただろう。そう思ってみれば、死神の存在に感謝しなくてはいけない部分も無いのだが。 「くそっ」 此れ以上、遥紀自身が友人を失くすのは見ていられなかった。 癒したがりの君を、守りたいんだ。そう正面から深鴇へ言えば、どんな顔をするのだろうか。 遥紀は付与された氷を片腕で割り、冷えた身体を奮い立たした。眼前を視れば、深鴇が顔を覗きこんでいた。 「ねえ」 「へ?」 「君にしか頼めないんだ、祈花の導鴉くん。君の精神力を僕に頂戴よ」 遥紀がこくりと頷く。深鴇の肩に手を置いた。遥紀からして前方、深鴇から後方では死神が大きく鎌を振り上げている。 「深鴇、言いたい事がある」 「いくらでも言うといいよ、後でね」 肩に置いた手に深鴇の手が重なった。送り込む精神力の心地よさに深鴇は笑った顔を見せた。 「デウスエクスマキナって、こうやってうつんだよ。覚えておいてね、祈花の導鴉くん」 「負けてられないな」 刹那、光は溢れる。深鴇のデウスもそうなのだが、速攻で組み立てた遥紀の聖神も周囲に行き渡った。 いける、と思ったミリィは指揮棒に無意識に力が入った。指揮棒の先を死神へと向け、 「二十秒内で終わらせます。氷璃さん、刃の在処は?」 「あら? 見透かされていたのね。分かったら教えてあげるつもりだったわよ――頭部にあるわね」 其の指揮棒の先端を死神の頭部に合わせた。 戦闘の中、氷璃は死神が媒介として成している刃の在処を探していたのだ。よくよく考えてみれば、媒介が無ければ此の世界にいられないのなら、其れさえ壊してみれば最短ルートであったかもしれない。 だが鎌は振り落される。強烈にも無残にも威力がものを言う其の鎌を。 「深鴇!!」 護ると、庇い続けると言っていたフツが飛び込んだ。深鴇に当たるはずであった攻撃を何回の己が身で受けて――上半身が下半身からさよならをしたのだが、フェイトに守られては元に戻る。 痛みなんて慣れっこか、歴戦を辿って来たフツだ。今更フェイトが飛ぶ感覚なんて解らない訳では無いが、どうにも死ぬ感覚には慣れない。 「次、オレから離れたら駄目だぞ!」 「てるてる坊主くん、ありがと」 感謝、しているよ。 深鴇の礼もそうだが、間も無く。二回目の斬撃がフツを襲う――其れを深緋が受け止め「フツ! 深緋折れちゃう!!」なんて叫び声も聞こえたが意外にもフツ、此れを無視。 「今です!」 ミリィの声が響き渡る。敵の攻撃後の硬直は最大のチャンスなのだ。 いい加減にしなさい――と氷璃の魔光が轟く中、其れに乗って旭は片腕を振り上げた。護ると言ったからには成さねばならない。 「約束は、破れないから!」 その腕に最大の力を込め、穿つ右腕は死神の頭を穿つ。合わせて動いた黄泉路が刃を振り回し、己が受けた傷を倍返しすると言わんばかりに死神を貫く。 「あんまりボトムを舐めてもらっては困るな、死神風情」 其の儘黄泉路は刃を横に向け、右へと切り払った。死神のローブの布に塗れながらも、刃が顔を出した時には金切声が周囲を揺らす。鼓膜が破れそうだ、耳を抑えた黄泉路の視界がブレた。けして此の世界の声では無いそれが、周囲の建築物の窓硝子を一斉に割ったのだ。 「まったく」 ロマネは溜息一つ。溜息をすれば幸せが逃げるだなんて聞いた事があるが、吐かずにはいられない死神の駄々っぷり。 「ロマネちゃん、おこなの?」 「うるさいですよ、深鴇」 此の世界にいたい? 此の世界のフェイトを喰いたい? そんな事情――面倒至極迷惑千万。 「この世界にお前の居場所は無い。疾く消え去りなさい」 ロマネの細くも長い指が、影った雰囲気の中で妖しく蠢いた。彼女の指に纏わりつくのは、淡く発光する気糸。其れが撃ちだされた瞬間には、死神を貫いていた。 『が、……ギ、ギギギギギギギギギギギギギギ!! はsyd::殺」!!!』 死神は再び鎌を滾らせる。フツが危険な今、鎌を二振り程すれば深鴇に攻撃が行く事もあるかもしれない。ただ、仲間はそうさせない為に己が身を盾にしてでも彼を守る所存であったのだが。 チェックメイト―――状況は、死神の詰みである。 「私達の仲間が助けたその命、死神になんて渡さない!」 渡せない。渡せるものか。ミリィの組み上げた戦闘シナリオは完璧で終わる。舞っていた指揮棒はピリオドを着ける様に、一点で止まった。其の先、帶齒屆が飛び込んでいく姿。 「日本語でおけ、だゾ。けひひ、今度はいつ来るんだい? また遊ぼうゾ~」 此れで恐らく十三回目。最後のソウルクラッシュの詠唱をしながら、帶齒屆は光の灯らない瞳の中死神を映した。 脅えているのか、それとも怖がられているのかは分からない。けれど、帶齒屆は返事を待つまでも無く ―――一瞬だけ、深鴇は言葉を紡ぐ「ありがとう」と。己がリベリスタであった日、うっかり黄泉の狂介と鉢会ってしまいリベリスタ仲間を跡形も無く残骸に変えられたあの日、唯一生き残った深鴇は死神に守られていたからこそ、殺されなかった――― 其の腕を振り落す。其の瞬間、死神を形作っていたローブが空間に消え去り跡形も無く。 「後腐れはいけないわよね」 氷璃がパチン、と指を鳴らす。繰り出された魔曲が鎌の破片を射抜き砕いていった。 周囲の鴉が一斉に飛び上がり、雲が風に流されて一斉に消え去った。 光が溢れ、その場は何時もの平日の昼へと戻った。 「深鴇」 「ハーイ、なんでしょう愛しのロマネちゃん」 「……死んだらうちの墓地に埋めて差し上げようかと思いましたが。貴方は生き埋めにした方が面白いですね」 「ね、ねえ、囀ることりちゃん。僕が危なかったら助けて」 「え、えっ」 ロマネは早すぎる埋葬は専門外なのだが、深鴇は経験があるので青白い顔をしながら旭に話かける事によって平静を保っていた。 「深鴇、云い忘れていたわ。次、マリアに手を出したら――」 「其れ以上は言わないでください女王様。助けて、祈花の導鴉くん」 「え、すまない……やだ」 黄泉路は帰り際、深鴇の肩を叩く。 「深鴇、あの死神召喚の仕組み……あんたには理解できていたのか?」 「うん。……黄泉の首領でも倒せたら教えてあげてもいいよ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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