●フィクサードVSフィクサード 七派フィクサードの一、裏野部。 昨年末に人為的にスーパーセルを発生させ、神秘の力を宿した超自然現象で『まつろわぬ民』と呼ばれるアザーバイドたちを解放し、七派を離脱。以降、裏野部の首領である裏野部一二三を神とすべく、裏野部フィクサ-ドは四国にいる首領の元に集う。 彼らの目的は弱肉強食の世界。この国すべてを奪い、壊し、支配すること。そのためにアザーバイドたちを吸収し、一フィクサード組織の枠を外して暴威を振るう。リベリスタの活躍により被害はかなり縮小されたものの、霊的の要である京都はダメージを受け、奈良や四国の『まつろわぬ民』は解放され、被害も続出していた。 小規模の組織は連携して対応し、また裏野部以外の七派……今となっては六派だが、それらは裏野部と敵対することになる。露骨に襲撃を仕掛ける裏野部と、それに対応する六派の構図。唯一黄泉ヶ辻のみが裏野部と気質が近かったこともあり、被害は少ない。 それは裏を返せば、裏野部と気質が遠い組織はその暴力をまともに受けることになる。 例えば利潤追求の恐山などは、戦闘力の低さから強く狙われることになる。 「ま、戦闘力が低いからこそ頭を使うのが恐山なのよ」 『善意の盾』と呼ばれる恐山のフィクサード――七瀬亜実は倒れ伏す裏野部フィクサードを見下ろしながら、ため息をつく。 裏野部フィクサードは一二三のいる四国地方に移動していた。四国に物資などを運ぶ為の輸送部隊。七瀬はそれを襲撃したのだ。 「ああ、山賊ちっくなお姉さまもワイルドでステキ!」 「戦力が整う前に兵站を潰すのも立派な戦術だからな」 「……うむ。裏野部の勢力は六派で好きに切り取るという盟約もある。問題ない」 七瀬の部下もそれぞれ言いながら、倒した裏野部フィクサードを一箇所に集めていく。鋏を持つ娘と、スーツを着た小ざっぱりした男、そして岩のような大男の三人だ。 「殺すなら殺せ!」 「そうね。積荷奪われた以上はノコノコ戻っても殺されるわよね。ここで死ぬのもあとで死ぬのも一緒。同情するわ。だから恐山に鞍替えしない? 具体的には私の下に」 七瀬の提案に、怪訝な顔をする裏野部フィクサード。 「戻ったら懲罰。野に下っても仕事の当てが無い。なら私が雇うって話よ。無理強いはしないけど。 まぁ、今すぐに決めろとわ言わないわ。私達も本来の目的があるし」 「お嬢、開けましたぜ」 「……間違いありません。『犬神持ち』です」 部下達が裏野部の運転していたトラックの積荷を開ける。そこには大型動物用の檻と、その中に首輪をつけて転がされている少年がいた。頭に犬の耳を生やし、凶暴な表情で唸っている。 「犬耳首輪少年……!? お姉さまダメですわ! そっちの趣味に走るだなんて!」 「説明したでしょう。『犬神持ち』よ」 「痛い痛い痛い! 耳引っ張るのやー!」 部下の一人の耳を引っ張る七瀬。説明したのは昨日だというのに、この娘は。 犬神。四国地方周辺の伝承としてはポピュラーな存在である。地方によって伝承は様々だが、曰く、箪笥の中に犬神がいる。世代を追って継承される。犬神に憑かれた者は体中が痛み、苦しみ、犬のように吼えるようになるという。 神秘を知らぬものならただの与太話だ。だが神秘サイドから見れば、それが封印された妖怪の一種であることは分かる。 『まつろわぬ民』……その凶悪さゆえに、過去のリベリスタに封印された妖怪達。 「んー。伝承の通り」 七瀬は裏野部が運んでいた少年に目をやる。檻の中に首輪をつけて閉じ込められ、着ている服も薄汚れた犬神憑き。そして数多くある犬神の伝承の中にはこういうものもある。 「犬神持ちが家にいると、その家には福が来る……ですよね。それだけ聞くと聞いていた『まつろわぬ民』の恐ろしさとは違う気がするんですけど」 「犬神はその特性から独占しようとドロドロした争いが起きたみたい。昔の人が封じたのもそれが原因ね。強さは……あの程度の檻なら破壊して逃げるぐらいにはあるみたい」 七瀬が見る先で、少年は檻を破壊する。幽鬼のような犬の霊体が、その体から出てくる。 「どうします?」 「意識を奪えば犬神も消えるわ。本体集中砲火で行きましょう」 恐山のフィクサードたちは、犬神持ちを倒すべく破界器を構えた。 ●アーク 「イチハチマルマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながら、これから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「フィクサード組織『裏野部』と『恐山』の抗争に介入してください」 和泉の説明に怪訝な顔をするリベリスタ。要領を得ないということもあるが、フィクサード同士が潰しあうならかまわないのではないかという意見もあった。 「裏野部一二三を頂点とした<賊軍>は四国に兵力を集めています。兵と物資を乗せたトラックを恐山が襲いました。この積荷の中に、アザーバイドに憑依された一般人がいます」 モニターに映し出されるのは、年端も行かない少年。狂ったように暴れまわり、人を超えた力を振るう様は、アザーバイドに憑依されたといわれれば納得する動きではある。 「『犬神』……そう呼ばれるアザーバイドは憑依主に苦痛を与えると同時に、それを住まわせる家には幸福を与えるといいます。恐山はそれが目的と思われます」 「一般人って言ったよな……。犬神をはがして助けることはできないのか?」 リベリスタの言葉に和泉は少し言いよどむ。不可能ではありませんが、と前置きをして続けた。 「少年から発生している『犬神』を全て倒せばその影響から逃れられます。 ですが恐山のフィクサードはそれを邪魔してくるでしょう。アザーバイドに憑依された一般人も抵抗するはずです。簡単ではありません」 『万華鏡』に転送された恐山のフィクサードと『犬神』等のデータを見る。確かに簡単にはいけそうもない。 「恐山も一般人を殺すつもりはないのか、攻撃は加減気味です。ですがアークのリベリスタに対しては加減をしないでしょう」 面倒な話だ、とリベリスタは嘆息する。そして画面の端のほうを見た。傷ついた裏野部フィクサードが、戦況を見守っている 「……後ろに裏野部フィクサードがいるんだけど、コイツラはどうすればいい?」 「彼らに戦闘できるだけの体力はありません。放置してもいいですし、四国に合流される前に押さえておいてもいいです」 恐山に寝返る可能性も考えると、アークで押さえておいたほうがいい。勿論そうするなら、弱っているなりだが抵抗はあるだろう。 「最低でも『犬神持ち』を恐山に渡さないでください」 例え一般人の命を奪ってでも。和泉は口にしなかったが、指令の内容はそういうことだ。初めから一般人を殺すつもりで攻撃するのが、ベストだろう。 どうしたものかと悩みながら、リベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 ●恐山 「ところでお姉さま、どうして私前衛じゃないんです?」 「アークが来るって予知があったからよ」 「面倒ですよねー。何とかならないかなー」 波佐見の言葉に沈黙する七瀬。若干思い悩むような、そんな表情。 (恐山斎翁は対裏野部としてアークと提携することも視野に入れている。それを思えばアークとの摩擦は少ないほうがいい。……だけどそれはあくまで可能性) 七瀬は首を振って、思考を現実に戻す。戦略的なことは後回しだ。今は可能な限り『盾』を増やさなければ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月26日(水)22:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 七瀬亜実は、アークがこの戦場を見たときに思ったことを部下に思念会話済みだった。 『アークは裏野部をいきなり広範囲攻撃してくるはず。それを私が庇って連中に恩を売るから』 なので四条・理央(BNE000319)と『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)と『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が影を立体化して現れたとき、不覚にも呟いてしまった。 「げ」 ● 「恐山が誇る戦闘集団、『善意の盾』か」 『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)は『善意の盾』こと七瀬の横を通り過ぎながら、眉を潜める。純粋な力技ではなく、智謀に長けた恐山のフィクサード。面倒な相手だ。 通り抜け様に恐山フィクサードに閃光弾を放つ。強烈な音と光と電光が恐山フィクサードを包み込んだ。稲光が二人を襲い、その動きを留める。前衛の波佐見はともかく、後衛の七瀬はその光をまともに受けて動きを封じられる。 「裏野部を捕獲しろ!」 フツの命令どおりに立体化した影が動く。その命令に従い、影は動揺しているフィクサードを拘束していく。そしてフツ本人は波佐見に向かって槍を突き出す。紅の槍とハサミの破界器が交錯する。 ハサミが小回りと速度で動けば、槍は長さと重量で攻める。一瞬の隙を縫えば小回りの効くハサミが勝るだろう。もっとも、フツにそんな隙はない。積み重ねた槍の技量が波佐見を追い詰め、横なぎに払って吹き飛ばす。 「悪いが下がってもらおうか」 ユーヌが小型のハンドガンを構える。呪符で構成されたその破界器の標準が七瀬に向く。ベルカの電光で動きが鈍っている彼女を狙うことなど、ユーヌにとっては造作もない。影人に命令を与えた後に、引き金を引く。 弾丸は出なかった。弾丸の代わりに呪符によって生まれた風が、圧縮されて打ち出される。風が吹き荒れ七瀬を包み、その体を吹き飛ばす。地面を転がるように吹き飛んだ七瀬の先は、自分達の部下の場所。 「……あいかわらずみたいね。たいしたつきあいでもないけど」 「そうかしら。私は良く覚えてるわよ」 淡々としゃべる『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)に七瀬が答える。前にあったときはマンションでの戦いだったか。興味はないとばかりに涼子は七瀬に銃口を向ける。弾丸が七瀬を穿つ。 涼子はそのまま歩を進めながら、自分の破界器を回転させる。回転のエネルギーを受けて重心が折れ、涼子の拳に収まった。ナックルと化した拳銃の具合を確かめるように、拳を振るう涼子。 (力押しは俺のスタイルではないのだがな) 金の長髪をかきあげる『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)。ただしその姿は引き締まった体ではなく、清楚な女性。以前戦った七瀬に気づかれないように、神秘の力を使って変身していた。 予定では自分も七瀬を一箇所に集める予定だったが、既に事は足りている。ならばとばかりに脳内の処理速度を速めていく。変身と同時に行うことができれば楽だったのだが、と言葉なくオーウェンは嘆息する。 「早い再開だったな」 『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)は恐山フィクサードと犬神持ちの間に割り込むように移動し、語りかける。彼らの計画を阻止してから二ヶ月。かなりの速度で復興したことに舌を巻く。 『黒の本』を開き、七瀬に攻撃を加えながら仲間に指示を出す。鬼謀と呼ばれた指揮の到達点。陣地では及ばぬ的確な指揮に、仲間達が効率よく動く。純粋な指揮能力では、恐山の指揮者すら上回る。 「あみあみご機嫌麗しゅう、元気だった? 賊軍退治お疲れ様。続けてアークのオーダーはいりましたー」 片手を上げて挨拶する『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)に、ものすごく嫌そうな顔をする七瀬。その七瀬に向かってトンファーを振るう。その軌跡のままに生まれる衝撃の刃。 犬神持ちの気配を感じながら、夏栖斗の視線は恐山のほうを向ける。三つ巴。やりにくい状況だが、四の五の言っている余裕はない。できることを最大限やって、できることなら全てを救いたい。 「では行きますよ」 理央は『古びた盾』を構える。この盾は理央が革醒者になるきっかけとなったもの。リベリスタという人生を共に歩んできた存在。手にした重量は良く馴染み、戦いの恐怖を打ち消してくれる。 傷ついた仲間達を見ながら、理央は札を構える。星の位置とそれを受ける角度。符術の基本に従い、指に挟んだ符が舞う。そのまま恐山たちに向けて符を振るい、フィクサードたちの運気を乱す。 「予想はしていたけど私の集中砲火か……!」 勿論恐山たちもやられ放題ではない。思念による作戦変更で動き出すフィクサードたち。そして、 「犬神がこちらも敵と認識してきた!」 「人間は全部敵、な感じか。檻に閉じ込められて、気がたってる」 閉じ込めたのは賊軍なんだがな。と思いながらリベリスタは犬神のほうにも視線を向ける。襲い掛かってこなければ優先度を下げるつもりだったが、仕方あるまい。 アーク、恐山、そして犬神。互いの目的の為に、三つ巴が今始まる。 ● 恐山は犬神持ちを捕らえて、離脱したい。 対しアークはそれを阻止したい。最悪、犬神持ちを殺害してでも遮るつもりだ。 しかしアークの第一目標は犬神持ちではない。それに取り付いている犬神だった。 「珍しい外道法だな」 雷慈慟が七瀬に攻撃を加えながら言葉を投げかける。精神を乱す効果は七瀬に通じないが、攻撃自体のダメージは蓄積される。七瀬のこめかみを通過する雷慈慟の一撃。集中砲火の効果が出ているのか、七瀬の体力は限界が近いのがわかる。 「幸福を呼ぶ存在だというのに、当の本人はとても幸福には見えない」 「世の中なんてそんなものよ。誰かが幸せになるなら、誰かは不幸になる」 雷慈慟はそんなものかと会話を打ち切った。それ自体は間違いではないだろう。だが、これは不幸の押し付けだ。それを一般人に背負わせる気はない。 「これで全員確保ですね」 理央は影人が裏野部フィクサードを全員確保したことを確認し、回復の神秘を行使する、犬神と犬神持ちの攻撃が激しい。瞳で呪われ、恐山を倒そうと一塊になっているところに、広範囲で攻撃を仕掛けてくるのだ。、 「とりあえず、こちらからです!」 理央は見る者に活力を与える光を派なる。光はリベリスタたちを照らし、犬神の与えた呪いの瞳を打ち払う。理央自身には高い戦闘力はない。だが彼女が皆を支えているからこそ、前に立つものがダメージを受けながら踏ん張れるのだ。 リベリスタの攻撃は、恐山への攻撃から犬神のほうに完全にシフトする。火力を恐山に向けている余裕がない。恐山は一人を攻撃すればいいのに対し、リベリスタは三体の犬神を相手しなければならないのだ。 「無理に全部救わなくてもいいと思うけど」 「……うるさい」 リベリスタの意図を察した七瀬の言葉を、涼子が短く切って捨てる。ナックルになった破界器を手にして、犬神に向かって歩を進める。小細工などない。ただ真っ直ぐ距離をつめて拳を叩き込む。 七瀬の言い分もきっと正しい。だけど、その言葉に従うのは嫌だ。そんな迷いなく、澱みなく、純粋な『殴る』という意思。その意志が涼子の体を動かす。真っ直ぐな意志を乗せた拳が、犬神を穿つ。 「久しぶりだな」 「……息災で何よりだ」 ユーヌが犬神に攻撃を仕掛けている石垣の間に割って入る。敵同士なのに奇妙な挨拶だと互いに思いながら、ユーヌは符を手に石垣は手甲の甲を盾のように構え、相対する。お互いを無視してそれぞれの目標に攻撃を仕掛けることは出来る。だが、それを許さぬ鋭い空気が張り詰めていた。 動いたのは石垣が先。真っ直ぐ突き出した拳を回転するように横に交わすユーヌ。そのまま回転の勢いを殺さぬように石垣に迫り符を突きつけた。その手をつかむ石垣。動き田と待ったユーヌの手の先で、符が星の光を放つ。運気を乱す光が石垣を包み、彼を覆う加護を打ち崩す。 「いい位置を確保できたわね」 オーウェンは恐山と犬神を視野に入れて、笑みを浮かべる。女性口調なのは、七瀬達にばれないように演技しているからだ。敵全てを見据え、細く練り上げた神秘の糸を展開する。鋭く鋭く、研ぎ澄ますように意識を集中する。 オーウェンの意志と共に糸は解き放たれる。七本に分かれた糸は、獲物を見つけた蛇のように目標に向かう。相手がどう動き、どう避けるか。そこまで計算した上での射撃。『Dr.Tricks』の分析から、逃れる術はない。 「恐山だけに専念できればよかったんだがな」 フツは紅色の槍を構え、戦場を見渡す。恐山四人に犬神が三体。もとより手が足りないのは承知の上だ。犬神の一体をブロックしながらフツは符を構えた。南の聖獣、火の鳳、紅羽を持つ鳥、そう呼ばれる存在を召喚する。炎の風が、恐山と犬神を薙いでいく。 フツは犬神持ちを見る。恐山の手に渡れば、彼は日も当たらぬ場所に死ぬまで閉じ込められるだろう。それを許してはいけない。この世界に住む者を一人でも助け楽しませることが、自分を活かしてくれた世界に対する恩返しなのだから。 「あつーい! あの坊主、ぶっころー!」 「相変わらず怖いね、はさみん。なんでそんなに男嫌いなのさ?」 夏栖斗は怒りの声を上げる波佐見に向かって、半笑いになりながら問いかける。発言も怖いが、男に対して容赦のない彼女の闘い方を夏栖斗はよく見ている。彼女の二つ名は冗談めかしているが、それが笑えないことを知っていた。 「ほえ? 油っぽくてごつごつして臭いのに抱きしめられて嬉しいの? もしかして貴方もホモセクシャル?」 「違うわ! つーか、乙女がホモとか言うのはなんかトラウマだからやめろ!」 「この場合のホモセクシャルは広義の同性愛って意味だからだから、想像してるのとは違うよー」 心の底から否定する夏栖斗であった。彼の名誉の為にいっておくと、会話しながらきっちり犬神は攻撃しています。 「ここで封じさせてもらうぞ。『善意の盾』!」 ベルカは支援と回復を行っている七瀬に向かい、自然を向ける。犬の野生と、研ぎ澄まされた智謀を含んだベルカの瞳。その眼光は指揮者の到達点の一つ。多くの経験と唯人では得られない獣の感性が、七瀬を射抜く。 ただひたすらレイザータクトの技を積み上げてきたベルカと、積み上げず広く浅く技を得た七瀬。その在り様を差別することはできない。だがこの状況においては、積み上げたベルカに軍配があがった。ぐらりと揺れる七瀬が、地に伏す。 「お嬢!」 「構うな。攻撃続行」 駆け寄ろうとする神尾を制して、七瀬は意識を失った。 三つ巴の戦いは加速していく。 ● 犬神の瞳が呪いを植えつけ、首が飛びリベリスタを傷つける。同時に犬神持ちが周りの者に飛びかかった。 「厄介なコンビネーションですね」 「はしゃぐな、犬。さっさと消えて貰おうか」 理央とユーヌが犬神からの呪いと傷を回復していく。理央の盾から広がる淡い光がリベリスタの傷を癒し、ユーヌの符が蝶となって飛び交い不調を払う。二重の回復がリベリスタたちの活力を生む。そのおかげもあり、リベリスタのダメージは浅い。足を止めることなく、リベリスタは犬神を攻めることができる。 後衛から戦場を見る二人は、苦しそうに喘ぐ犬神持ちの少年が目に留まる。まるで水の中にいるように喘ぎ、全身をかきむしりながら周りのものを傷つける。その様はまさに理性をなくした獣だ。その苦痛から早く解放しなければ。 「犬神持ちの体力が危ないわ。次の手に移る準備よ」 オーウェンが犬神もちをスキャンして、その体力具合を皆に伝える。犬神三体を各個撃破していくリベリスタに対し、恐山は犬神持ち一人を集中放火しているのだ。もともとの体力の違いこそあるが、消耗具合は犬神持ちのほうが多かった。時折術で生み出した影が犬神持ちを庇うが、一撃で崩れ去ってしまう。 オーウェンは恐山と犬神に攻撃を加えながら、同時に犬神持ちのほうにも視線を向けていた。最悪の場合、犬神持ちを撃ち殺す。大事なのは『恐山に犬神持ちを奪わせないこと』だ。そのためなら、巻き込まれた一般人の命を奪う覚悟はあった。 「もらった!」 「そうはさせるか!」 トドメとばかりに犬神持ちに放った神尾の一撃を、ベルカが庇って受ける。そのまま運命を削って立ち上がるベルカ。だが後悔はなかった。ここで身を挺さなければ、そのときこそ後悔するだろう。 運命を燃やしながら、ベルカは笑みを浮かべる。戦略的には『相手に奪わせて纏めて殺害する』ほうが効率がいい。だがベルカはそれができなかった。ナイトメアダウン時に仲間に生かされたように、自分も誰かを生かしたい。 「無茶をするな、ベルカ!」 フツが仲間を心配しながら、印を切る。鮮やかな炎が戦場の革醒者たちを照らす。燃え盛る炎が犬神と、そして恐山フィクサードたちに襲い掛かる。戦場が一瞬、緋に包まれた。炎に巻き込まれ、犬神の一体が潰える。 『まつろわぬ民』……フツは消え行くアザーバイドを見ながら一瞬物思いにふける。悪さをしたために封印されたアザーバイド。もしかしたらこの槍も……妖刀と呼ばれるものも、そう分類されるのかもしれない。そんな根拠のない想像。 「……こっちは片付ける」 涼子が拳を握り、犬神に迫る。犬神からすれば、緋の中から黒の少女が現れたように見えただろう。飛んでくる首の牙を受けても怯まない。不可侵という名の自らに掲げた誓いが、犬神を払いのける。そのまま拳を振り上げ、叩きつけた。 痛みにもだえる犬神に、さらに拳を叩きつける。涼子を突き動かすのは、どうしようもない苛立ち。自分自身にすら理由の分からない苛立ちが、彼女を死地に向かわせる。泣きも笑いもしない顔の中に、涼子はどれだけの感情を抑えているのだろうか。彼女自身すら分からぬことを、余人が分かるはずもない。 「よく耐えたな。後もう少しだ」 雷慈慟が犬神持ちに語りかけながら、仲間に意識を向ける。仲間のうちの何人かはエネルギー不足を訴えている。それを察し、仲間達の気力を回復させた。雷慈慟自身が攻撃するよりは、そのほうが効率がいい。 思考はそのまま恐山フィクサードのほうに向く。裏野部戦闘後のダメージは、それなりに重いのだろう。以前闘ったときほどの勢いはない。勿論ここで手を緩めるつもりはない。崩界の可能性を取り除くのだ。 「今まで助けれなかった一般人、自分で殺した一般人はいる」 夏栖斗が最後の犬神に向かってトンファーを振り上げる。自分の手は血に濡れている。それは間違いない。 「だけど、助かる目のある一般人が助けれないのはもうたくさんだ」 だからこそ、常に正しくあろうと心を律する。犬神に囚われた小野寺を救うため、炎を帯びたトンファーが弧を描いた。 跳ね上がるようなトンファーの一撃で犬神は宙を舞い、そのまま空気に溶けるように薄れ、そして消えていった。 ● 犬神に取り付かれていた小野寺は、傷こそ受けているが命に別状は無かった。苦痛の元が去ったこともあり、気を失っている。適切な治療を施せば、すぐに普通の生活に戻るだろう。 「……あー、痛い」 ものすごく不満げな顔を上げて、七瀬が口を開く。全身ボロボロで仲間に支えられている状態だ。腕を少し動かすのも苦痛なのだろう。戦闘行為などもってのほかだ。その痛みが肉体的な痛みなのか、ここまでやって何も得られなかったことに関する痛みなのか。おそらく両方なのだろう。 リベリスタもフィクサードも、まだ闘おうと思えば戦える。戦闘不能は七瀬だけで、怪我こそあるが闘える状態だ。 もっとも、犬神持ちが解放されたので恐山に闘う理由もなく、アークも無駄な戦いは避けたかった。自然と戦いは終結に向かう。 「そこのロシア製ワンコ! お姉さまの仇!」 と、波佐見だけはやる気満々だったが。 「死んでないわよ。まったく『幸運』も『人』も手に入らない。踏んだり蹴ったりだわ」 そんな波佐見を押さえながら、七瀬はリベリスタに捕まった元裏野部の団体を見る。彼らはアークによって、全員拘束されていた。今の状態では取り返すのは無理だろう。やれやれと言いたげにため息をついた。 「これで終りってことでいいか?」 「いいわよ。むしろ見逃してくれる礼を言いたいぐらいね」 フツの言葉に七瀬が応える。事実、闘えばアークが勝つだろう。だがそれをすればこちらの被害も少なくない。手負いの獣を追い詰めて手痛い反撃を受けるつもりは無かった。リベリスタの目的は達したのだ。 「お礼……そうね、たいしたことじゃないけど天気予報をしてあげるわ。 四国の天気は剣林弾雨の大荒れ。所により雷が落ちるでしょうね。裏野部ラジヲがそう言ってるわ」 七瀬が告げた意味不明な『天気予報』に、怪訝な顔をするリベリスタたち。 その意味を知るのは数日後、大晩餐会と呼ばれる大戦のときであった。 一人に『厄』を押し付け、幸せになる方法。『まつろわぬ民』の中でも特異な災厄といえる犬神。 それが誰かを不幸にすることは、もうない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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