● 鼻歌を歌いながら、広場の雪を棒でなぞっていく。 しかし不思議な事に、棒を持っている存在の姿は見えなかった。ただ、棒が空中に浮かび、動いているのだ。不思議な不思議な、一夜限りの出来事は此処から始まった。 広範囲に渡って、棒は雪の上に絵を描いた。 いや……これは絵というか不規則で意地悪な線の羅列であっただろう。 暫くして、役目を終えた棒は遠くに投げられ、凍った池の上にバウンドしていく。 そして誰もいないはずなのに、手を叩く音だけが聞こえた。 刹那。 線の上を埋めていく様に入り組んだ青色の壁が作られていく。空気中の水分を吸い取り、どんどん広がっていくのだ。 数秒も経たない内に其れは其れは大きな箱を作り出したのだ。だが中は道が分かれに分かれて、迷路の状態。 「でーきた! ……あれ? 何処にお菓子を隠したっけな」 氷の壁に映ったのは、背中に氷の翼を生やした女の子であった。 ● 「公園に出現した迷宮を壊すなら、壊してしまえばいいじゃない」 『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)は顔を斜めに傾げて言った。 「物理的に壊してもすぐ直ってしまんよ。だから何か核的なものを壊さないとあかんて杏理さんが言っとったよ」 『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)はマリアの言葉に返事をした。 そう、これから行くのは、氷の迷宮だ。如何やらアザーバイドが何らかの目的の為に作ってしまったらしい。 「アザーバイド自体はフェイトを得ているみたいだから、其処まで危険では無さそうだが……こんなもの突然できていたら大変だからな」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)はそう言いながら、擦りつけて来たマリアの頭を撫でてみる。 アザーバイドの名は『インビジブル』。姿は見えない、上位の存在。だが氷や鏡に映れば見えるのだとか。序に悪戯好きの、子供思考。 「なんだかめんどくさそうな相手ね。凍らしてしまおうかしら」 「凍らしたら、きごーぐれんしても平気かなぁ……」 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)がそう言ってみれば、『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)がくすりと笑う。 「でもなんでマリアさん、自分から着いて来たんです?」 今度は『灯集め』殖 ぐるぐ(BNE004311)が顔をこてんと傾けて聞いてみる。 「お菓子があるって聞いたから!」 だ、そうだ。 「氷の迷宮って事は寒そうだよね! ベったんベったん、ちゃんとお兄ちゃんが上着を持ってきてあげたから安心していいよ!」 『一人焼き肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)がふわふわの帽子をマリアの頭に被せ、もこもこの着いた上着を広げてみせた。 ともあれ危険な任務では無い事は確かであろう。 軽い気持ちで、色々壊して来てくれれば其れで良し。では、いってらっしゃいませ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:EASY | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月17日(月)22:11 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 近づけば近づく程、周囲の気温が下がっていくのはよく解る。 凍てついた迷宮が建っているのだからこそ、それも当たり前の事であるのだが。 「べったんべったん! ちゃんと温かい格好し――――てないね!!」 『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)の目の前、『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)は未だ白ワンピースという、此の寒波に喧嘩を売っている格好であった。そろそろ冬服を検討すべきだろうか。 「へっくち!」 マリアの口からくしゃみが一つ。 小刻みに震える小さな身体につられて、背中の大きな羽がちょっとした布団的な役割の為に素肌に巻かれていた。 「明らか、翼の使い方を間違えているわね。旭」 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は準備という言葉を知らないマリアの為に、指を鳴らした。すれば『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)がメイド服の格好でマリアへと近づく。 本日、旭はマリア専用のメイドなのだ。氷璃曰く、フォーチュナ牧野杏理と同じ気質を持っている素直で良い子であるからなのだとか。 「はいー。これはこれで可愛いのだけど……マフラーあるよ? あときごーぐれんしようか?」 さておき旭はマリアの首に長いマフラーを巻いてみる。長い彼女の髪がマフラーと絡んで少し大人っぽくなったように見えるか。 続いた『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)も、これまたマリアの為に防寒具を準備していたようだ。 ところがどっこい。旭と同じマフラーを用意していた為に、マリアの身体が二つの長いマフラーに抱かれなんとももふもふな姿に変身。 「あかん、うちもマフラー持ってきてしもた」 ここでまさかの『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)もマフラーをマリアの為に持ってきていた。防寒具と言えばやはりマフラーなのであろうか、流石に三本巻くのはキツいか。けれどいっちゃう? やってみちゃう? やりましょう。巻きましょう。 ―――という訳で出来上がったマリアは三本のマフラーに抱かれていた。一つのリプレイでこんなにマフラーを連呼したのは初めてだよ。 序にだが、椿は手袋も持ってきていたのでそれもマリアには着けさせている。 先程の寒さに死んでいたマリアの表情は一変、今はぬくぬくと。炬燵に入っている猫のような表情に変わった。 「所で、旭」 「はーい、なんでしょうか」 氷璃が旭に手渡したのは、旭の首にぴったりと合いそうな首輪であった。成程、運命狂の辞書に自重という言葉は無いらしい。 あまりにも初体験過ぎる出来事に、旭は全力で首を横に振った。が、氷璃がそれで引く事が無いのもまた事実――。 ではそろそろ目的のものへとダイブしようか。 「なんかうっかり霧散しちゃったような気もしたがそんな事はなかったぜ」 大丈夫だ、問題無い。『灯集め』殖 ぐるぐ(BNE004311)は呟いてみたが、吹き通って行った風に紛れて言葉は誰にも聞かれていなかった。 ● 「ふわぁ……!」 声を上げた旭の瞳は輝いていた。夜の月と満天の星々がぼんやりと透けて見える天井は何処か、此の世界では無いような美しさを孕んでいるのだ。 天井さえ鏡である事には間違いはない。見上げた姿が、まるで宇宙の中に浮いている様に見えるのもまた美しかった。 だがやはり、其れにばかり見惚れていては前が見えない。 「はうっ」 「お?」 立ち止まった竜一の背に旭が顔をぶつけたのは言うまでも無かった。 「ふぁぁ……失礼しました。ちゃんと前を向いて歩くね」 「大丈夫大丈夫。それより、別れ道だなぁ」 「あれまぁ」 迷宮内部、最初の別れ道に遭遇した。どっちが正解か、なんて事は先に進むまでのお楽しみである。 そこでカラン、と音がした。杏樹が迷宮の通路に弾丸を落した音だ。 「ああ、すまない。音が響いたな……目印になるものでも軌跡にしようと思ってな」 「若干物騒な目印やんなぁ」 遊び感覚で来た椿に対し、割とガチな杏樹に感心した。迷路を行く上で、来た道に戻されているなんていう事はよくあるのだ、置いておけばきっと何かの頼りにはなるはず。 「「「「ふお」」」」 「「「「ぐるぐが」」」」 「「「「「「いっぱいでーす!!」」」」」 注:多重残幻剣 大量に増えたぐるぐが合わせ鏡に映ってもっと数が増えて、一瞬其の場はぐるぐに支配されているかのような遊びっぷり。 「なんか増えとるー!!?」 椿が声を荒げた事にぐるぐは、否、ぐるぐ全員がにこっと笑って見せた。其の息さえぴったりな行動に何故だか圧倒的なプレッシャーを感じるを得ない。 「と、とにかく……そうやなぁ、ぐるぐさん左の方の路を行って見て来るとかできひん?」 「「「「「わかりました、お待ちくださいね」」」」」 ドドドド……と、効果音にすればそのような感じ。大きな尻尾を引きずって道に消えていくぐるぐ達へ椿は利き腕を伸ばし。 「全員で行く事ないんやでー……」 と言ってみたのだが、消えた後ろ姿が帰ってくる事もなかった。 「まあ待ってれば来るわ。大丈夫よ」 氷璃は杏樹が持ってきた緑茶を口に運びながら、優雅にも空中で足を組んでいた。 ということで、少し待たされるリベリスタ達六人。 「へっくしゅん!! ずびびー」 「あら? まだ寒いのかしら。着込んで来ない方が悪いのよ」 「むぃー」 再びくしゃみをしたマリアを氷璃が毛皮のコートで包んだ。氷璃の背には六枚の翼があるのだが、其れにも負けない程に毛皮は暖かく柔らかく。 照れ臭いのか、それとも子供心ながらの天邪鬼か。 「ふ、ふんだ! お姉様にも負けないくらい大きな翼がマリアにもあるもん! こっちの方があったかいもんっ!」 と謎の対抗心を燃やしたマリアであった。だが氷璃の抱擁から離れないのは何故であろうか。 ふと思いついた旭が杏樹の肩を叩いた。振り向いた杏樹の頬に、旭の人差し指がぷにっとあたる悪戯をしてみた所でひとつ質問。 「そういえば杏樹さん、おかしの臭いする?」 「まだ……まあ、まだ入って間もないからかもしれない。其の内あったらちゃんと伝える」 「うんうん。お菓子の香りがいち早く察知できるってなんか素敵だねぇ」 やはりそんな簡単にはいかないか、と思った旭。そんな所でぐるぐが帰って来たのだが――如何やら左側は行き止まりであったそうな。 ● 「また行き止まりだーうおー」 全力疾走、からの両足で地面を蹴りあげ行き止まりに回し蹴りを叩きこんだぐるぐ。そのまま反動でリベリスタ達の来た道へと駆けて行く。 「マリア飽きてきちゃったーおんぶ」 「べったん飛べるじゃん!」 これで幾度目かの行き止まりだ。流石は迷宮か、時間的にも眠くなってきたマリアが竜一の背に抱き付いた。 「正面から見ると、竜一さんに羽がはえてるみたいやな」 椿が丁度竜一の手前に居たため、ベストポジションでそれが見えた。なんとなく、似合わない。 ともあれ杏樹の落してきた弾丸の軌跡に従えば、道も大分絞れてきているはずなのだ。なかなか当たりの路に入れないのは、迷宮の意地が悪い所であるか。 「ちょっと旭。迷宮全部燃やしてしまいなさい。アザーバイドを引っ張り出すのよ」 「氷璃さん、む、無茶です……」 氷璃は旭に無茶振りをするのが面白いようで、くすりと笑って見せる。だがアザーバイドさえ見つけて、更には案内をさせれば事は早く済むのは確かだ。ふと、氷璃はそこで気づいた。おかしい、頭には帽子があったはずなのだが――無くなっている。 「どうやらアザーバイドが近くにいるみたいね」 氷璃は少し乱れていた髪の毛を元に戻しながら、周囲に目線を配った。いっそ燃やしてしまえば出て来るであろうか? 折角連れて来たが、うとうとし始めたマリアをこのまま寝かしてしまうのは惜しい。ならば次の手を考えるのみ。 「しかし、本当に綺麗に映ってるな。見事なもんだ」 杏樹は迷宮の壁に手をつけてみた。少し心が童心に帰っているのか、なんだか舌を出してあっかんべーとしてみたくなった。 「ん?」 其処で竜一は異変に気付いた。 「ごめん、べったん宜しく」 「はいはい」 竜一の背から降ろしたマリアを椿が抱えた。其の侭竜一はおもむろに歩いていく。椿はそんな彼の行動を不思議そうに眺めていたのだが、その先には杏樹がいた。 そして再び、杏樹。右をみて左をみて、よし、今なら誰も見ていないと盛大にべーっと舌を出してみた――うむ。やはり鏡である事には間違いがない。すぐさま表情を戻したのだが。 「わ!?」 「杏樹たん下がって下がって!」 竜一は杏樹の腕を引いた。鏡に移りし杏樹は未だべーっと舌を出したポーズのままであったのだ。 『ん! あ、バレちゃった!? ずーっと追ってたのに、気づいてくれな―――』 「うなれ!! 俺の幻想殺し!!」 『ふぇ?』 竜一の抱き付きスキルが発動した。今し方、杏樹が居た場所に向かって広げた両手で何かを捕まえた。 「なにしとんの!!?」 「何時もの竜一の病気ね」 椿や氷璃、そのほかのリベリスタ達には竜一が自分抱きしながら、何も無い空間に頬ずりしているように見えるのが残念なところだ。 だが少し手前に移った鏡を見れば、竜一が抱き付いているのは杏樹の格好をしたインビジブル以外のなにものでもない。何故か杏樹は心の中でその光景を見ながら複雑な気持ちになった。 「皆! 俺がこの子を抑えているうちに先に進むんだ!!」 『助けてええええ!! まだなんにも悪戯してないのになんで見えてるのおーー!!?』 むぎゅむぎゅはすはすはす……。 「なあに、大丈夫だ……すぐに追いつくさ!」 『やだぁぁぁぁ!!? 二人にしないでー!! お願いですから助けてくださいいい!!』 すりすりすりすりぎゅっぎゅっぎゅっぎゅぎゅむ……。 「杏樹さんて慌てると、ああいう顔になるんですかね」 「さあ……どうなんだろうな」 そこで動いたのは椿であった。 「いい加減にぃぃ―――」 RetributionをAFから一瞬にして解き放つ。地面を蹴った椿は一直線に竜一へと飛んだ。 狙うはただひとつ――その後頭部。 「―――しときぃ!!」 「ぎゃああああ!!」 轟音響く鏡の世界。やまびこのように何度もクリティカルヒットしたその音が反響していったとか。 「椿。あなたがやらなくても、私が後で竜一を雪の中に埋めておくのに」 氷璃が壁に激突したまま動かない竜一を、細く冷たい目線で言い放っていた。南無。 『死んじゃうぅ……あんまりあっためられると、しんじゃうぅぅ、摩擦熱でしんらうぅ』 ぐったりしたインビジブルの傍で、竜一の肌がテカテカしていた。何かをやりきったような顔で清々しささえ感じ取れる。 「あら、じゃあ燃やされたくないのなら道案内をしないと駄目ね? 旭」 「きごー……」 氷璃が手を上げれば、旭の腕に纏わり着いた炎が少しずつ周囲の気温を上げていく。 『ひっ』 何故だ、この脅し。かなりひどいぞ! 脅えたインビジブルは遂に土下座の格好になり、額を地面に擦りつけていた。 「燃やして良いの!? マリアやるマリアがやるマリアマリアマリアマリアマリア!」 「あかんよ!? 燃やしたらあかんからな!?」 殺意が高いパーティであった。椿の静止も相成って、一応其の場は収まったのであった。 「改めまして、こんにちは」 『えっ、こちらこそ? こんにちは』 旭は鏡に映っている方のインビジブルへ頭を下げた。 インビジブル自身、今から何かをする気は大体竜一のせいで無くなったようだ。無駄な敵対は避けるべきである。 ただ、仲良くなりたいだけ。旭のその優しい心は警戒心も敵対心も見えない屈託無き表情から見ればわかるのであろう。何故だかインビジブルも途端に心を許してしまった。 「お菓子の場所を探しているんだよね?」 『うーん、ちょっと作った迷路が巨大過ぎた。もうちょっとコンパクトでよかったのだけれど』 うっかりなミスでこんなもの作られてもたまらないのだが。旭はくすっと笑ってから、タッパに入れて来た卵が沢山は言ったカステラサンドをチラっと見せた。 「今手持ちにはこんなものしかないけれど……どーぞ?」 『うひぇぇ、いいの? いいの? 一番大きなのもらっていい?』 輝いたインビジブルの瞳。そして人差し指がタッパの中から一番大きなカステラを持とうとして―― 「マリアもー!」 と言いながら横からマリアに一番大きなカステラは奪われたのであった。 「とぉー」 『!?』 ばさーっとインビジブルの(姿は杏樹ではある)服を盛大に捲ったぐるぐ。中をふむ、と確認した瞬間に杏樹の方向をじ……と見たぐるぐ。 「今見たのを忘れないと」 魔銃バーニーを取り出した杏樹はぐるぐの方へ銃口を向けた。 「あかんな。もはや統率なんて取れたもんじゃないわ」 「いいんじゃないの、ゆるくゆるーく」 冷静であった椿はおいかけっこやら始まった現場に対して溜息を吐いてみるが、竜一の言葉に表情が苦笑いへと変わったのであった。 「ん?」 ふ、と。杏樹が。 「甘い匂いがするな――」 ゴールに辿り着くまで、あと、少し。 ● 「旭。ガトーショコラを作って来たわ。切り分けて頂戴。勿論、紅茶の準備もね?」 「はーい。紅茶なら既に用意してきました、えへへ」 「あら、流石ね」 という訳で、最奥部屋。つまりはゴールというやつである。 中央には水晶の形をした核があるのだが、それをさっさと壊してしまうのもわびさび無いようなので、始まったのはお菓子に囲まれたお茶会。 「竜一、寒いわ」 「はいはい」 竜一のヒザの上に座ったマリアは、なんだかんだで彼がしてくる抱擁を受け入れていた。暖として。暖として(大事な事だから二回)。 「べったん何食べる?」 「マリアは全部食べる!!」 旭から竜一が受け取ったガトーショコラは、少し切り分けたにしても大きいサイズ。如何やらマリア専用らしい。 「竜一、あーん!」 「……べったん、あーんしてくれるの!?」 「なんちゃって、キャハハハハ!!」 わいわいと続いていくのだが、そんな風景を疑問に思えたインビジブルは元の姿で顔を斜めに向けた。インビジブルの隣に座っていた椿は、インビジブルの変化に気づく。 『ななななな、なんでニンゲンとお菓子食べてるんだろう』 「せやなぁ。でもなんで迷宮なんて作ったん?」 『えっと……お菓子取られない為だったんだけれど……。でも皆と食べるのは、楽しいね』 思いがけず笑ったインビジブルに、返す表情は笑顔で。椿こそ、楽しそうにマリアがお菓子を食べている姿は嬉しくも思えた。 『取られるのは嫌だけど、迷宮なら来る人も嫌になって帰るかなって!』 「……まあ、悪戯は程々にな」 溜息混じりに笑った杏樹。ゆらゆらと燃えるカンテラの火に、少しだけインビジブルは身を引いた。 「ああ、これが苦手か?」 『う、申し訳無い。その火を遠ざけて欲しい……死んじゃう』 「儚い上位の住人だな。わかった」 次にインビジブルの肩を叩いたのはぐるぐであった。何処にいるかはわからないけれど、鏡を見ればわかるのだろう。肩の位置を確かめながら叩いた。 「はーい、インビジブルさん。これガムなのですよ、あげます」 『ありがとう……?』 ぐるぐが板ガムを差し出してきた。それ事態、インビジブルにとってはなんもへんてつもないことに見えていただろう。 しかしぐるぐがそんな何も無い事をするなんて無くて。 インビジブルがガムを引っ張った瞬間、ペチン、と銀色の金具がインビジブルの指を挟んだのだった。昔駄菓子屋とかでよく売ってる偽物のガムのあれである。 『……っ!!?』 そしてインビジブルの叫び声が響いたのであった。 「悪戯をするのは大抵、構って欲しいからなのよね。きっちり反省したら遊んであげ――」 氷璃はそう言いかけて、旭が淹れてくれた紅茶を口に運んだ。 どうやらインビジブル、既にぐるぐの悪戯の罠にハマっているようだ――。 ● 「―――ていう事がありましてですね」 「そっかぁ、でも僕はさぁ、そんな寒そうな所行きたくないよ。ぐるぐちゃん」 ぐるぐは戻って来たブリーフィングルームの中で、何をやらかしたのか拘束されていた深鴇に事後報告をしていた。 元はといえば黄泉ヶ辻。放っておけば箱舟内部を滅茶苦茶にするのは見えていたかもしれないが。 「でもそうだなぁ。面子的には僕、また運命狂に埋められたかもしれないから行かなくて正解かも」 机に突っ伏している彼を見ながら、ぐるぐは回転する椅子を廻しては遊んでみた。 しかし、ピタっと止まり。一点に、真面目に深鴇を見たぐるぐの表情は何処か真剣で。 「なぁに?」 「そういえば……タロちゃんには謝らなきゃいけない事が近く発生するような気がする」 「……ふーん?」 深鴇はその言葉の真意を知るのは先の出来事であった。 されど、恐らくぐるぐの中では深鴇の事を心配はしていなかった。のらりくらり生きている彼だ、きっと上手くやってくれるはず。 もしもが起きたのなら、その時は愛想よくてへぺろと舌を魅せて上げれば許してくれるだろう。 死は見飽きたし、葬儀屋をしている彼としては―――其の結果はあまりにも残酷であったかもしれないが。 「ぐるぐちゃんが良かれとやったのなら、それは是だ。謝るなんてとんでもない! また会いに来てくれるだろうし、今度は僕が会いに行くよ」 何処に居ても。きっと見つけてみせる――と死神の元フィクサードは笑ったのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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