● 彼は英雄足りえたのだろう。 彼は誰かにとっての英雄だったのだろう。 彼の判断は多くの人を救った。 彼は英雄に足りなかったのだろう。 彼は誰かにとっての英雄にはなれなかったのだろう。 彼の判断はたった一人の女を見捨てた。 彼を仲間の誰も責めなかった。見捨てられた女さえも責めなかった。 そうであれ、と求められた『リベリスタ』としての彼を誰も責めなかった。 仲間の多くは恐らく、彼と同じ判断をしただろうから。 女の伴侶でさえ、彼に詫びた。彼の親友は泣き腫らした目で謝った。 彼女が望んだ道を選び取ってくれてありがとう、すまなかった、と。 数多くの人を守りたいと願った彼女が自ら選んだとしても、この結果だっただろう、と。 彼女を一番良く理解していた親友が言うならば、そうだったのだろう。 けれど。彼は英雄になりたかったんじゃなかった。 彼はそんな大それた望みを抱いていた訳じゃなかった。 ただ、自分の手の届く範囲を、自分の愛する人たちを守りたいと、そう願って、結果は、これだった。 かつて愛した女を喪い親友に傷を刻み、仲間を泣かせた。 数千を守った事は、良かったのだろう。だけど、本当に守りたかったものは、何一つ守れなかった。 過去のその判断はずっとずっと、彼の心に残り続けた。 手に持っていたはずの宝石は、手から零れて荒涼とした心の砂地に埋もれた。 もう、自分の手の内に宝石を得たいなんて思わない。 ただ、どうか、砂地に一つだけでも、誰かの宝石の原石を、地に残して逝きたい。 なあ。 この世は悲しみだけじゃないんだろう。 なあ。 どうかこの手に確かに、『救った』という証をくれ。 なあ。 ● まるで、奇跡のようだった。 傷付き今にも暗闇に沈みそうだった意識が、眩い光に引き戻された。 今まさに仲間に刃を振り下ろそうとしていた敵が吹き飛んで動かなくなっていた。 誰も彼もが呆然として、痛みのなくなった体を見下ろし、何が起こったのかと顔を見合わせた。 理由はすぐに知れた。 足音に振り返った全員が、かつての仲間を見ていた。 仲間を切り捨てる判断をした事を苦にして、一人姿を消した男が――宝石の様に煌く小さな花を手にして、立っていた。男が掌を強く握れば、それは埋め込まれたシェルアクセサリーのように収まった。 その時には誰もが理解していた。 彼は既に『こちら側』ではないのだと。 彼は泣きそうな顔で、呟いた。 ――殺してくれてかまわない、ただ、その前に。 ――俺に『もう一度』をくれないか。 ――その後ならば、もう、構わないから。どうか。 ――どうか。 ……彼は、知っていたのだろう。彼の親友の子が、捕らわれた事を。 戦力差ゆえ無謀と知りながらも、自分たちが救出に突撃した事を。 同じく泣きそうな顔で、仲間が一人進み出た。 俺はまた、お前にばかり負わせたのか、と。 彼は小さく笑った。 ――負い切れなかったからこうなった。 ● 「代償と引き換えに『小さな奇跡』を起こすアーティファクト」 「彼が願った『傷付いた仲間の全快』と『守る力』の代償は彼の全フェイト」 「ノーフェイスと化した彼を、討ってください」 「彼の仲間であるリベリスタは、彼の『望み』を、自分達の『目的』を果たす為に彼と行動しています」 「……彼らの子供の一人が、人身売買系フィクサード組織に捕らわれているので、その救出です」 「彼は自分も見知ったその子供を助け、『何かを救った』実感が欲しい」 「……ただ」 「彼のフェーズの進みは速い。……救出が完了する頃には、仲間の手に負えない程になっている」 「『今の彼』に抵抗する気がなくとも、その頃にはもう、分かりません」 「だから、どうか」 「今の内に」 「……『誰かを救いたい』と願う彼を、殺してください」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月21日(金)23:04 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|