● 日本国内主流七派の内一つ、『六道』には『地獄一派』というものが存在する。 彼等は死を忌避する為にありとあらゆる研究を続ける派閥ではあるが、更に地獄一派の中にも区切りが存在し、其の一つ、『焦熱地獄』が今回の文字通りの火種である。 自ら研究をする他の地獄の名を冠する者達とは打って変わって、焦熱地獄を取りまとめる『焦熱』は研究を行うだけの頭(知識と技術)が無い。 其の為、優れた研究者を確保し、金を与え、代わりに研究させている訳なのだが……もちろん焦熱の考えに賛同した、信頼された研究者達な為に裏切りは無い。 焦熱が主に行う事は金稼ぎだ。 焦熱こそ、頭は悪いが戦闘能力だけは、ずば抜けて高い。頭が悪いとはいえ、単純に銀行を襲って金を奪おうなどはしない。焦熱にも一定の正義というものが有る様だ。 其れに加え、彼女は十六武衆という戦闘精鋭部隊を近くに置いている。十六武衆という名なのだから、16人居ると思われるだろうが既に何人かは死の世界に旅立っており、其の数も今では半数以下に成っているらしい。 残った者は残った者でクセのある奴が多い。逆に言えば、そのような曲がりものであるからこそ、生き残っているのやもしれないが。 雨は降ってはいない、真夏の午後。 周囲の蝉の鳴き声が鼓膜を震わせ、不愉快な湿気が肌を濡らす。 ……暑さは最高潮だ。 だが、状況と相反して涼しげに和装を着こなす女が居た。 太陽光避けに番傘を刺し、顔は見えない。けれど良い香りのする女だ。 彼女に、アタッシュケースが投げつけられたのだが彼女は動じる気配も無い。代わりに傍着いていた三人の若き男の内、刀を持った1人が乱暴にも、ケースを真っ二つにしたのである。 其処から舞ったのは、諭吉の描かれた札束ばかり。 散らばった其れを、プライドなんて知らずと、膝を折って拾い出したのもまた、其の女であった。 「お嬢! そんな事しなくても俺らがやるっての!!」 「お着物が汚れるじゃねーの? あーあー」 「切らない方が、良かった系?」 3人の側近は騒ぐのだが、一向にガン無視を決め込む女に、顔面蒼白、よれたスーツ姿の男が息荒く。四つん這いになって金を拾う彼女に、跪いた。 「『焦熱』とやら。金さえ与えればなんでもやると聞いた!!」 「ええ、やりますよ。お金さえ積んでくれるのであれば」 「殺して欲しい奴等が居る。 娘が攫われたんだ、警察に言えば娘を嬲った画像を世間にバラ撒くと脅されているんだ。 最初は1億だった請求だが、向うは調子に乗って次は3億を要求してきた。此の侭払っても額が増え回数も増え、キリが無いと俺は踏んだ。もう限界だ!! 娘が可愛くない訳では無いが……正直……本当に俺の子かも分からない娘には……本当の愛情というものが芽生えないんだ。 最悪、娘を含めてもいいから殺してくれ、全員だ。だからお前等みたいなのに頼む他無いんだ!」 「地獄の壱丁目に迷い込みましたか。大変ですね、因みに此れは御幾等万円?」 「足りないか……? もうそれしか出せないんだ、額は―――」 されど『焦熱』と呼ばれた女は不機嫌極まりないと、 「……足りない」 酷く女にしては低い声色で言った。 「下らない。 そんな下らない事に此の私の手を使おうだなんて、貴方様の御依頼の金額は退屈した事に慰謝料込と此処までの交通費と浪費した私の命の時間とこれから面倒なものに手を廻さないといけない労働を全て合わせて、5京4568兆9600億円。今すぐ持ってきなさい」 「鬼だ、鬼がいる」 「……けど、私の人生の目標がこんなつまらない事で達成されたら他の地獄の方々に申し訳がつかないのです。 ……仕方ないし、機嫌も良いから5京4568兆9599億『だけ』まけましょう」 ● 「皆さんこんにちは、依頼をおひとつ宜しくお願い致します」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達を出迎えながらそう言った。 今回の依頼の敵は、六道であるが……主にやって欲しい事とは、六道による超一方的な皆殺し合いに巻き込まれる一般人の犠牲を抑えて欲しいというものだ。それと、エリューションの撃破。 事は、雇われである六道の『焦熱地獄』という一派が、ホテルの一室を盛大に人ごと焼き尽くしているという事。 されど放っておけば、此の炎はやがて通常の炎とは全く別の、あり得ない速度でホテル全てを飲み込み尽くす。 犠牲はでかい。 巻き込まれる無関係者も多い。 其れをアークは見逃す事ができないのだ。 「場所は7階建てのホテル。大元はその6階。 他より広い、6階の一室は既に炎が渦巻いている事でしょう。 ……あれは焦熱地獄という、フィクサード一派による故意のもの。彼等は特に炎を操ります、お気をつけて。特に、彼等は焼死体からエリューションを作る事ができる。その、補充もしたいのでしょうからそれも食い止めて頂きたいのです」 一般人を救うにしろ、炎をどうにかするにしろ、六道とぶつかる事は確実であろう。 地獄一派である彼等は死を嫌う為か、追い詰める所まで追いつめられれば、自ら撤退という道を選ぶだろう。 「金の為に、利益の為に依頼を行えども、其の為に死ぬ彼等では無いので、ね」 リベリスタは屋上から行くか堂々玄関から行くか。つまり上から攻めるか下から攻めるかはリベリスタが決める事が可能だ。 屋上から行けば重要度の高い6階は近い、だが他の階に彼等が保険を置いていない事は無いのだ。 「ホテルの階にはそれぞれフィクサードがうろついております。私達アーク対策でしょう、何かあればすぐに焦熱へ連絡が行く様になっていますし、足止めを喰らう形で戦闘する事は避けられないかもしれない。それに放っておけば他の階に集まる戦力になる。幾ら精鋭の皆さんでも、数で押し負ければ危ういかもしれないので、色々考えてみて下さい。 焦熱は特に死を忌避したいでしょうし、やる事をやれば撤退するでしょう……。 彼女の周りに居る男性は十六武衆という焦熱が作った戦闘部隊です。特に其の3人には気をつけて、躊躇わない、迷わないというのは時には強さである事もありますので。 皆様が頼りです、色々と事情をかかえた一般人が多そうですね、宜しくお願い致します」 ● 周りは炎、逃げ惑う仲間や、パニック状態の仲間。 嗚呼、どうしてこうなった? 「あの糞親父がぁぁァ……化け物差し向けやがってぇぇぇエ!!」 「本性出ると可愛い顔も歪んじゃうねぇ?」 ゲラゲラ笑う焼処という男が少女の首を掴んだ。 「お嬢ちゃん様さー、此の状況さねぇ、逃れる為に幾ら払えるかなぁ? 後悔しても、知らないよぉ。 地獄の沙汰も金次第」 ―――我等、六道が最下層地獄一派也。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月19日(火)22:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 騒がしい。 己等が居る事によって元より騒がしかったのは事実であるのだが。此れが原因のものでは無い『異物』が入り込んだらしい。 全ては特摩が把握していた。 指揮を出すのは鉄钁では無く焦熱だ。上にいるフィクサードからの連絡に『顔色を良くしながら』も、彼女は言った。 「どっちが先に階を制圧するかの争奪戦ですね。 鉄钁、特摩は此処の掃除が終わったら、下を掃除しなさいな。燃処は私と、上へ行きましょうか」 ● 屋上。 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が薙ぎ払う腕により、一掃されたフィクサード達が凍り付いていく。『どっさいさん』翔 小雷(BNE004728)は敵の間を縫って、凍った彼等の顔面を拳で穿っていけば、敵の中心を突っ切る事は簡単だ。 まるで戦車の様な怒涛の勢いである。 雇われた敵等に目を向ける事も無く、屋上から下へと続く階段の扉を小雷が両手で開き、階下への路を征くのだが―――屋上から7階へと続く階段が終る、其処に居たのは。 「ご立派ね。初めまして、交渉があるのだと……お聞きしましたけれど?」 言ってしまえば、1面が終わり、2面通り越して早くもボスが出て来たのだ。 悠里は額から汗を流し、小雷は拳を構えた。見間違える事は無い、焦熱本人だ。 事後ではあれど説明するのならば、屋上制圧の途中で悠里は言ったのだ。『君達、焦熱に連絡出来るよね? 商売の話をしにきたって伝えて貰える?』と。 見事。 金の話に食いついた焦熱ではあるものの、だが隣に焼処を置き、加えて7階のフィクサードを引き連れている。 そして、7階までは既に炎が回っているのだ。否、焦熱が来たからこそ7階が落ちかけていたと言っても過言では無い。だが、まだ一般人は誰一人として命は落としはいない。 「貴様が……焦熱」 小雷こそ、今すぐにでも飛び出しそうであるのだが、悠里は其れを片手で制した。まだ、戦闘を勃発させる訳にはいかない。 「行き成りで悪いけれど、僕の有り金あげるからさ。僕は此処の一般人を買おうと思う」 本来なら命を金で買う行為というものは、したくは無い。だが、金で焦熱を動かせるのであらば手段として行使するを得ない。 悠里にとっては金はどうでもいいのであろうが、苦渋の交渉でもあった……悟られないように平静を保つものの、握った左手に嫌な汗が溜まる。 対して焦熱だが、答えはあっさり出した。 「いいわよ、全部は駄目ですけれどもね? 既に貴方達がやんちゃしている間や、今此の瞬間にも、6階は手遅れよ。早さが足りないわねえ」 交渉のイニシアチブは此方だと言いたいのか、焦熱は着物の帯辺りから扇子を一つ取り出して貌を隠した。因みに扇子は白地に金と書いてある。 恐らく、嗤っている。其れは悠里にも小雷にも解っていた。 「全部は駄目……そりゃそうだよね。じゃあ、7階と5階と4階」 「ん~ふたつ!」 「7階と5階」 「やっぱひとつ!」 「7階!」 「かしこまり! 100万でいいわよ」 遊ばれているのか。 小雷の全身の毛が逆立ち始めている間にも、金銭のやり取りは早くも終了を告げる。 ハッとしたのは、小雷だ。 気づいたのだ、焦熱の中に眠る業の炎を。轟、豪、業と! 「危ない!」 焦熱の右腕が上から下に払われた刹那、小雷が悠里を押して二人は地面に転がった。火柱が地面を伝って悠里と小雷のすぐ隣を裂くように駆けて行ったのだ。軌跡には赤黒い炎の爪痕を残して……。 「茶番は終わりよ。残りの金は殺してから奪うから問題無いわ。ふふ、次は当てちゃうわよ可愛いお二人さん?」 「其れが焦熱地獄? 仕方ない、ここからはお互い力押しだ」 「2人で私の相手をして下さるの? 舐められたものね……」 ゆらり、陽炎の中で立ち上がった小雷の瞳には揺るがない、迷いの無い、決意を秘めた黒色が渦を巻く。 「今日の俺は機嫌が悪くてな、覚悟してもらおうか」 「ふふ、小さな獣さん。貴方を売り飛ばせば一体幾らになるのか……楽しみねえ」 「侮るなよ!!」 焦熱の炎に少しばかり焦げ付いたバンテージを口で強く引き、腕を引き締め、小雷は地を蹴り飛ばした――。 ● 避難は着実に行われていた。 それも四条・理央(BNE000319)と『縞パンマイスター竜』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)のお蔭でもあったであろう。 魔眼とは恐ろしいものだ。 特にホテルの従業員や、警備員を中心に洗脳していけば彼等は炎さえ恐れずパニックにも成らずに、冷静沈着に避難指示を開始した。 ジリリリと非常ベルが鳴り響く内部ではあったが、誰一人列を乱さずに一般人が動いてくれていたのは生存数にも大きくプラスになった事だろう。 そして何より手間をかけない影人の存在が重要だ、1階と2階を無難にもアーティファクトを壊す事が可能であった。 されど、階を上に上がっていく度に段々暗雲が立ち込めていく。 3階の敵を制圧する事は容易かった、6人で全力で攻撃すれば何も時間も掛からない。だが、4階からが本番。 ――泣き声。 列の後方から仲間の後ろをついていた『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が振り向いた。 廊下の隅にて両手で顔を覆い、泣き喚いていたのは小さな男の子だ。されど此の階には敵が居る。待った無しと突っ込んで来たフィクサードから壁を作る様にして雷音は立ったのだが、更にその手前に『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が立つ。 表情はブッダスマイル、だがすぐさま真剣なものに切り替えた彼は緋色の槍を敵へと向ける。 「巻き込まないって決めたからなぁ」 そう、一般人は戦闘には巻き込まないと。 突っ込んで来たデュランダルの一撃、重い其れを寸前で槍でいなした彼は其の侭回転して敵を殴り飛ばした。 仰け反った敵に対し、 「ミリーちゃんキーック!!」 『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)が横から突っ込み、フツが飛ばした敵を飛び蹴りという名の業炎撃で吹き飛ばしてゆく。 「あんたたちもエリューション化してみる?」 着地してからビシ、と決めたミリーの指先は敵へと向けば……少し冷や汗をかいたように後退していく敵さえ見れる。愛らしくも、雄々しいその態度に。 その後ミリーはフツの方へ振り返ってサムズアップ。フツも同じくサムズアップで返した事が一瞬だけあった。 「なるほど、流石雇われたフィクサードということかな?」 「そうだな。どいつもこいつも群れないと何もできない腰抜けか。雇われる……随分、高い買い物をしたものだな?」 理央と『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が冷静に分析を行う。 だが後退しない敵は恐らく六道地獄一派の傘下フィクサードであるのだろう。焦熱が此処を焼けと言えばその通りに動く、まるで機械人形のような哀れな存在だ。 しかし哀れみの瞳なんて無かった。ユーヌと理央は札こそ取り出す。その間にも回復されては困ると、後方の敵へと視界を移し、 「炎と一緒に、全て流れてしまえ」 「残念だったね、此処でお終いだよ」 投げた札が轟、と唸りを上げて波しぶき立つ荒々しい津波を起こしたのであった。飲み込まれていき、流れてゆく中で、なんとか抗ったフィクサードも居たのだが……ダブルアクションをかましたユーヌは二枚目の札を放つ。 計、3回の玄武招来が行われれば、特に後衛職である敵は一網打尽。どうしようもない、こればかりは諦めるしかない。 「畜生がァ!!」 波を抜け出してきた、敵の前衛。ソードミラージュであろうか、素早く足を動かし接近してきたが、 「させるかってーの!!」 迎え撃った竜一が待ってましたと言わんばかり。 ソードミラージュの膝あたりまで低い位置でフルスイング。骨が罅割れ、砕ける音をかましながらソードミラージュは盛大にこけていった。 「……大丈夫か?」 「……? お姉ちゃんたち、魔法使いさん?」 抱きしめていた男の子に、出口を示した雷音。後姿を見送ってから、札を一枚取り出した。 リベリスタ全員に指示を飛ばしていたのは、そう雷音で。 「ボクは計算を違えないのだ」 まるで、鬼の如し。指の間に挟んだ一枚の札が盛大に炎を吹き出し、燃え上がったのであった。 だが、その時には既に上を見上げて顔色を悪くしていたのは、フツだけであった。 ● 7階。此れは些か無茶が過ぎたという事か……。 地を駆ける炎が厄介であった。かなりの遠距離まで届く、炎の爪――焦熱地獄。 連打するようなスキルでも無いのだろう、だが放たれた時こそ身さえ心さえ燃え尽きそうに成る業のもの。 「だから、なんだっていうんだ!!」 再びかまされた炎の爪を、拳から薙ぎ払った氷で止めながら。されど、瞬時に氷さえ溶かして爪は悠里の胸を貫く。 悠里の背後から斬り込んで来た焼処の刃は呪いの其れ。 だが小雷が刃を歯で噛んで止めた事には流石の焼処もビクリと肩を震わせた。 距離を取った焼処。そして元々後衛位置の焦熱。そしてそして、突破した屋上と7階に元々居たフィクサード達が二人を囲んでいた。屋上に居た奴等は大した事は無いものの、群れに紛れられると地味に厄介。 背中合わせの小雷と悠里。お互いに肩が上下する程に息使いが荒々しい。チラと後ろを見た悠里と、偶然にも同じ行動をした小雷の視線がぶつかった。 「どう……しよっか、笑えない状況だね」 「ふ、俺は自分が思うより負けるのが嫌いなようだ」 「奇遇だね」 揺動に失敗すれば離脱をも考えていたものの、此の数の差で逃げれる隙は与えられない。防火シャッターで敵を分断しようにも、其処まで辿り着けるとは思えない。 再び思うが侭に走り出した二人。悠里は敵の群に氷を放ち、小雷は焦熱へと向かった。……ものの、焼処が刃で彼を刺して其れを許さない。確固たる意思か、姫を守る騎士のような瞳で小雷を睨みつけた。 だが、小雷の瞳は焦熱へと向くのだ。 「そこまで金に執着する理由はなんだ」 「……生きる為。死なない為。私達地獄一派はそういう派閥よ、等活も、叫喚も、阿鼻も、黒縄も……他も、ね」 地獄一派は死を嫌う一派。 逃れる為に研究をし、研究の為には金が必要だ。 其れを掻き集める為にはどんな依頼でもこなそう。今だって、哀れな少女と取り巻きの男を殺してしまった所だ。 「守銭奴め、の貧しさは心にあると知れ」 「死なない為に、他者を地獄に落すのはイケナイ事? 怒らないで頂戴、小さなリベリスタさん」 焼処を蹴り飛ばし、焦熱へと向かった小雷―――だが、 「行かせねえっつってんだろ聞き分けろ小僧共がァァァアア!!!」 怒りに満ちた、焼処の―― 「小雷君!!」 ――悠里の止める声と共に、激しい熱風が二人を襲った。 ● 4階を超え、5階。 理央の回復に少しばかり持ち直したリベリスタ達だが、更に上がれば難易度は上がる。 蠢く炎塗れの一般人や、震えて動けない一般人、そして既にエリューションへと成り果てた―――一般人。 よく言えばまだその程度の被害で収まっていた事は幸運だ。 だが悪く言えば、地獄絵図。 ふと、気配に気づいた竜一が構え、千里眼で見えていたフツが竜一に危ないと叫ぶ。すれば、金属と金属が擦れる音が響いて階は震えた。ジャラリと鳴る、マグメイガスの血鎖が竜一の剣に絡んでいたのだ。 すぐさま、ユーヌの呪いを嫌う光が周囲を包んだ。血鎖が錆びて砕けていく。 「スゲッ! 今の避けるたぁ、計算が狂うなぁ! 死んでくれたほうが天国見れるからさ! な、な、死のうぜ!」 「あっ、リベリスタ? 下での活躍『視てた』ましたよ、此処から先は行かせれないのでスイマセンッ」 キャラ濃い2人、鉄钁に、特摩だ。 プラスα、六道フィクサードもいるものの、眼中に入らない程に2人の方が纏う雰囲気が違う。 「出たな、名有り!!」 竜一は判断する。焦熱は不在、ならば鉄钁から狙いたい――だが阻んだ、特摩。竜一の爆風が雑魚を蹴散らし飛ばしていく。 「んだよ、俺狙わんといて!? アークの顔ばっかりじゃん! 俺と!! 楽しくやろう!! ぜ!!」 聞き流した竜一、残念そうに呆けた鉄钁。だが真横を掠ったミリーの炎。 「お! やるじゃん、そうそう、そうこなくっちゃ!!」 再び鉄钁の詠唱が今度は蒼炎を産み出し、リベリスタ、そして一般人をも数名巻き込んでいく。ジリジリと髪の毛の先が燃えたミリーがぎょっとしながら首を振って炎を消しつつ。 「テンション上がるのだわ!」 廻りも上も炎だらけな事にキャッキャと喜ぶミリーの、アンコール。腕に巻き付いた炎を振り払えば、蒼を飲み込んでいく。だが其の中には今し方エリューション化した子もいた。少しばかりの悲しい気持ちがミリーの心にトゲを刺す。 「無関係な人を巻き込んで……!!!」 じわりと胸の内に立ち込めたのは、怒りか。 1階から仕事してきた理央の影人が一般人を守って、敵のジャッジメントレイに消されていく。されども護った一般人は非常階段へと向かって、一礼して去って行った。 1人救えた事に少しの安堵。だが理央は手を動かす事を止められない。炎が、仲間を燃やす炎を消さなければなのだ。 逆再生で消えていく炎、溢れる光――其処から飛び出したユーヌの玄武と、雷音の朱雀が渦を巻きながら敵を圧倒した。特に狙われた鉄钁が2人を見ながら、アレから倒さないと!と指示を出した。 すれば攻撃はユーヌと雷音へと矛先が一斉に向いた。リベリスタにフィクサード、どっちも後衛から潰す心算か。 だが再びのユーヌの玄武が襲い、続いた雷音こそ2回目の朱雀を呼び出す。数こそ敵の方が多かったものの、地道に削れていくのは大したものだ。 「関係無いものまで巻き込んで……!!」 「まあまあ、フィクサードってそんなもんじゃん! 他人の為に怒れるんか、俺には無いものだなあ~」 鉄钁は何処までも明るい。堪え、抑えた叫び声のような声が雷音の口から出た。其の隣で冷静にも瞳を瞑り、そして開いたユーヌは一言言う。 「死ね」 圧倒的な水飛沫と天駆ける朱雀に、奪った敵の命は多い。敵にも焦りが見えるのか、庇われて唯一となった回復手が詠唱からの発動を行っていく。 その間を縫って竜一をフツは特摩を囲んでいた。邪魔であった、鉄钁へはいかせまいと、特にノックバックが。 「超、痛いですねえもう」 手前と後ろを交互に見た特摩。 「さてと、お前さんを解放する時が来たようだ。悪いな、深緋」 先に動いたのはフツであった、札を取って朱雀の召喚。狙いを定めて鉄钁から射殺すのだ。 特摩が一瞬面白くない顔をしたものの、『やりかえし』と言いながら己が剣をフツの肩口に叩きつければ、肉が裂かれて骨が断たれた。すぐに理央の回復が間を挟み、そして背後を竜一が駆ける。だがブレーキをかけた。眼前すれすれを掠っていく、鉄钁だ、ソウルクラッシュであった。 「ウハ!! かわしたスッゲー!!」 「黙って戦闘できねえのかよ!!」 鉄钁を押し退けて竜一、フツは再度特摩へと仕掛けた。 其の時に、ミリーの火柱が一緒に地面を駆けていく。アハハと楽しんでいるのか、笑顔の彼女は言った。 「ねえ、とっておき!」 「取って置きですか……ああ、此れの事?」 特摩の剣が紅蓮を纏う――警戒した理央や雷音やユーヌ。 だが。 「あらあら、下の子達もやんちゃねえ」 焦熱の声が響き、特摩の炎が鎮まった。此の状況で女の声、違える訳が無い。竜一が一円玉を飛ばして、チリンという音が響く。 「ほら! 焦熱とやら! これやるからとっとと帰れ! ついでに、お兄ちゃんと呼び慕うならもう一枚やるぞ!」 「え、本当!? お兄ちゃん!!」 「お嬢止めてください……」 焼処の嘆きに、焦熱はゴホン。咳払いをした。 彼女の背には上階から倒しきれなかった大量のフィクサードと、6階から発生したエリューションを引き連れて、来てしまったのだ。 「とりあえず、其の2人を返してくれねぇか?」 フツが、冷静に持ちかけた。燃処の両手にぶら下がった悠里と小雷の身体が目的だ。其れを、乱暴にリベリスタの方へ投げつけつつ、焦熱は再び扇子で貌を隠した。 隣ではまた、焼処が悠里から受け取った金をバラ巻いていく。 宙に舞う、諭吉の描かれた紙。燃えていく、燃えていくのだ、何もかも――。 「地獄の沙汰も金次第。でも要らないわよ、貴方達からの金なんて綺麗過ぎて使えないわ」 形勢は圧倒的に不利に成った瞬間であった。 8人で戦うならまだしも、上階の敵の数が減っているならまだしも、6人で、増えた敵勢力と正面から激突するか。 諦めきれない。 リベリスタ達がギリギリの所まで戦い、それでも、矢張り、仲間を護りながらの戦いは器用の度合いを高く要求される。 時間はそう掛からない頃合いでの、撤退は、免れない。 ● 燃える長方形の建築物。其の屋上で風に吹かれて焦熱は笑った。 頭上でテレビ中継のヘリが飛んできていたのだが、夜空に駆ける炎の爪が此れを『ついでだ』と切り裂く。 大分広い屋上の端に、墜落した其れが更に爆発、炎上して爆風を起こしていく中、焦熱は膝を着く3人の部下を控えさせつつ、扇変わりの数枚の札束で空を仰いだ。 「毎度! おおきに、アーク。大した事無いんやねえ、本日は大儲やでぇ? アハハハハハハハハ!!!!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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