●ただアナタだけを愛して 始めは、この気持ちが何なのかわからなかった。 ただあの人を見ていると胸が苦しくて。押し潰されそうで、切なかった。 あぁ、きっとこれが恋なんだ。 私がそう理解するまでに、そう時間は掛からなかった。 だけど、同時に。 私がこの感情の異常性に気が付くのにも、そう時間は掛からなかった。 ――食べたい。 大好きなあの人のことが。 ――貪りたい。 あの整った唇を。あの繊細な指を。あの美味しそうな頬を。 ――啜りたい。 その体に流れる血を。肉汁を。脳髄を。 ――貴方の全てを、味わい尽くしたい。 「ねぇ、お兄ちゃん……知ってる? 最近、この辺りで神隠しが起こってるんだって」 最初は市販の生肉を食べて誤魔化していた。 「あぁ、知ってる」 そのうち、それだけじゃあ満足できなくなった。 「何でも若い男の人が神隠しにあってるらしいね」 次に街をうろつく野良犬や野良猫を食べるようになった。 「単なる一過性の家出だろうってのが、大方の見方らしいな」 新鮮なお肉が、涙が出るほどに美味しかった。 「でも、もしかしたら本当に神隠しかもしれないよ?」 そのうち、どんどん大きなモノを狙うようになっていった。 「でも、もしかしたら本当に家出なのかもしれない」 どんどんと、似たモノを求めるようになっていった。 「……お兄ちゃん。本当は、お兄ちゃんも気が付いてるんだよね?」 我慢が、利かなくなっていった。 「本当は、俺も気が付きたくなかったけどな」 ――大好きな。とっても大好きなお兄ちゃんを食べたいと思う気持ちが、抑えられなくなっていった。 「それでもここに来たってことは、期待してもいいのかな……?」 私はお兄ちゃんを見上げる。期待に、全身が火照って視界が歪んでいく。 「それでもここに来れたのは、全部お前のためだよ」 ずっとずっとため込んだ気持ちを。全て、ここで。 「お兄ちゃん、大好きだよ。……食べちゃいたいくらい、大好きなの」 ――音が、聞こえる。 どこかでがらがらと崩れるような、そんな音。 「俺も大好きだよ。……食べられてもいいと思えるくらい、大好きだ」 私は……私達は、その音の正体を本能で理解する。 「それじゃあ――」 きっとそれは私とお兄ちゃんを祝福する、 「いただきます」 ――崩壊の序曲。 ●ただキミだけを愛する 「連続神隠し事件が起こってるわ」 集まったリベリスタ達を見渡し、『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)が今回の事件について説明を開始する。 「神隠しの対象は若い男性。犯人はノーフェイスの少女。神隠しと云われる所以は、少女が対象の全てを喰らい尽くすから」 その結果、男達の行方が掴めず、最終的に神隠しまたは家出として処理される。 「今回の対象は少女の兄にして、この神隠し事件を追っていたリベリスタ――だった人」 だった人。そのイヴの言い方に、リベリスタ達は顔を顰めて次の言葉を待つ。 「今はノーフェイスの為にその命を投げ打とうとしているフィクサード」 驚愕ではなく重い沈黙が降りるのは、ある程度この結末を予測していたからか。それでも、やはりという落胆の色は隠せない。 「今回、貴方達にお願いしたいのはこのノーフェイスの撃破。方法は大まかに分けて二通りあるわ」 まずは一つ。ノーフェイスがフィクサードを喰らう前に突撃し、二人を同時に殺すこと。 二つ目。ノーフェイスがフィクサードを喰らうのを待ってから、一つになった「ソレ」を殺害すること。 「もちろん、それぞれに問題がないわけじゃないわ」 一つ目の方法については、フィクサードはたとえフェイトを使ってでも立ち上がり、その命が尽きるまでこちら側に牙を向くだろう。――自らを、最愛の妹に捧げるために。 「二つ目については……彼の存在が最後の鍵だったんでしょうね。彼を殺し、その身を食べれば――少女の体はフェーズを移行するわ」 彼の存在が歯止めになっていたのか、それとも彼と一つになることが移行するための条件だったのか、それは定かではないけれど。 フェーズが移行すれば、より凶悪に。より多くの肉を求めるようになることだけは間違いない。 「どちらの方法を取るかは貴方達に任せるわ。ただ、一つだけ忠告しておく」 イヴが指をぴんと立て、リベリスタ一人一人の目を見据える。 「今回の事件の終結は、この二つの命の終焉を以ってしか迎えられない。フィクサードが生き残れば復讐者と成り果て、ノーフェイスが生き残れば厄災を撒き散らす」 故に、確実に二人を殺すこと。 今回の事件に―― 「――ハッピーエンドは存在しないわ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:葉月 司 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月08日(月)23:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●断ち切る願い 最愛の妹の為に自己を犠牲にする。 それは一見ひどく難しいことのように思われて、その実、単に思考停止がもたらす安直で一番楽な方法でしかない。 「確かに泣かせる話だな。だがそんなものは優しさではない」 ネオンが照らす街中を走り抜ける影――『ソウルブレイカー』竜一・四門・ベルナルディ(BNE000786)はそれはただの自己陶酔だと切り捨てる。 竜一の言葉に同意するようにその隣を駆ける男、雪白・万葉(BNE000195)が頷く。 「真に大事なら叱ってこそでしょう。それが他者を巻き込み、危害を加えても何もしないというのは……」 そんなもの、愛でも何でもなく放置である。 「まぁ、好きやという気持ちが高じてカニバリズムへ走る言うんは全くわからへんわけやあらへんけど……」 『イエローシグナル』依代・椿(BNE000728)は物憂げな表情で瞼を伏せながら言葉を続ける。 「他人を巻き込んだ時点で、この二人にとってのハッピーエンドを迎えさせるわけにはいかへんよな……」 捕食という形が二人にとって真のハッピーエンド足り得るのかはわからないが。それでも、二人が望む行為を容認することはできない。 リベリスタ達は駆け抜ける。 ネオンが途切れ、途端に闇を濃くする路地裏。 そこに。 兄妹は、抱き合うようにして立っていた。 ●その手で最期を ――背後に、人の気配がする。 それも複数人。殺気を孕んだ空気が背中に突き刺さる。 「……お兄ちゃん」 だが妹はそんな空気を歯牙にもかけず、ただじっと兄の瞳を見つめて囁きかける。 「リベリスタ……か。予想よりも早かったな」 妹の頭を撫でながら、兄の右手が動く。 その手に握れているのは、ショットガン。 ずどん、という重い発砲音が路地裏に響き、それに続いて無機質でありながら、どこか生物の鳴き声にも似た悲鳴が妹の背後から聞こえる。 「いきなり不意打ちとは、随分なご挨拶だな」 明かりの届かない闇の先。そこからざっと音を立てて現れる人影を見て、兄はふんと鼻を鳴らす。 「何とでも言いなさい」 そんな兄の言葉に答えたのは、先ほど二人に向かって式符を放った四条・理央(BNE000319)だ。 「……私には理解できませんが、お二方のお互いへの想いはきっと本物なのでしょうね」 理央の背後から結界を張り終えた『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)が二人の様子を見つめながら呟く。 妹をリベリスタ達から庇うように自身の側に引き寄せ、銃を構えた半身を前に出し戦闘態勢へと移行している兄。 そんな兄に全てを委ねるように、リベリスタ達の方を見向きもしない妹。 その姿は、まさに――捕食する側とされる側だという認識を忘れかけてしまうほどに美しい兄妹愛だった。 「ですが、だからこそ。妹さんが運命に愛されて居ない存在だと気付いた時点で貴方は行動を起こすべきでした」 瞳を伏せて首を振るカルナに、しかし兄は嘲笑にも似た乾いた笑みを返す。 「気付いた時点で既に手遅れだったのさ。俺が気付いた時には、既にこいつは俺の手に負える範囲を逸脱していた」 だから、せめて。 「そいつに食われて、この先も無辜の人々を犠牲にし……剰え、世界を滅亡させるのか、元リベリスタ?」 「…………」 その竜一の問いに、兄は答えない。 「やれやれ。血生臭いのは嫌いではないが、こういうのはどうも気が進まない」 『ディアブロさん』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)が肩を竦めながら兄妹との距離を詰める。それに続くように『毒絶彼女』源兵島・こじり(BNE000630)が「だけど、まぁ」と言葉を続ける。 「そっちもあまりお話する気はないみたいだし。幸せブレイク始めます」 「歪んだ愛情の報いは受けてもらうぞ!」 最後に『深闇を歩む者』鷹司・魁斗(BNE001460)がその手にした破滅のカードを妹へ投げつけて――戦局は幕開く。 「私と、お兄ちゃんの……」 吸い込まれるように自身へと向かってくるカードが見えているのかいないのか。妹はゆらりと揺れながら兄から身を離す。 「私とお兄ちゃんの最後の時間を邪魔する人は……みんなみんな――殺してあげる!」 身を屈め、カードを掠めるように避ける「妹。その膝のバネを爆発させて、妹が魁斗へと迫る。 「ぐっ……!」 大きく開かれた口に、ガードした腕の一部を持っていかれる。 「貴方達は前菜。残らず食らって……それから、お兄ちゃんをいただくことにするわ」 「ふん。貴女のお兄さんがメインディッシュ?あんな不味そうな肉、よく食べる気になるわよね。ゲテモノ好きなのかしら」 その魁斗を庇うようにこじりが前に出て挑発する。攻撃はまだしない。今はまだ、その為の力を内で練り上げる段階だ。 見れば他の者もほとんどもそういった行為に時間を費やしている。 そうしなかったのは先ほど妹を攻撃した魁斗と、あともう一人。 「まずはとにかくこの二人を引き離さないとだね……!」 理央だった。 理央は妹が魁斗目がけて駆け抜けた隙をついて割り込み、兄に向けて鴉を放つ。 「俺と妹を分断しようって魂胆か……だが、そううまくいくと思うな……!」 鴉の突撃をショットガンの銃身でいなした兄が、今度はこちらの番だと言わんばかりに引き金を引く。 目の前に迫る銃弾。それを間一髪のところで避ける理央。 「だが本命はこっちだ……!」 それが散弾銃であるが故に大きく回避行動をとらざるをえない理央の動きを予測していた兄のトラップネストが理央の体に絡みつく。 「理央さん……!」 兄の追撃をさせまいと万葉が気糸を編んで兄の銃を持つ手を穿つ。 ちっと舌打つ兄。その体勢を整えさせまいと魁斗がギャロッププレイで追い打ちをかける。 「あっちがなんとかやっとる間にこっちも……!」 リベリスタ全員を包む守護結界を展開させた椿が精神を集中させて呪印を組む。 「自分、今までに食べた人の名前とか覚えとる?」 「食べた人数は覚えてるわ。でも、名前なんて始めから知らない」 「言葉での動揺は誘えへんか。なら純粋に力比べやよ……!」 その言葉と同時に呪印が完成し、妹を封縛せんと浮かび上がる。 「力比べ?……違うわよ。これは――」 それが妹に触れようとした瞬間、妹はにやりと笑い、 「追いかけっこよ!」 弾けるように横へ飛び、呪印から逃れてしまう。 「なっ!?」 その突然の行動に、椿も幾重に呪印を出現させ妹を追わせる。だが―― 「あかん、追いきれん……!」 ついに追いきれず、虚空へと消えていく呪印。 「そっちもきついか。やれやれ、まいったな」 竜一が椿の隣で苦笑混じりにぼやく。 「こっちもさっきから何度も撃ってるんだがな。まるで手応えがありゃしない」 予想以上に妹の回避能力が高い。 「そやね。うちもさっきの呪印はかなりの手応えやったんだけど……」 「なら、下手に拘束とかは考えずに数撃っていこうか!」 「そうね。幸い、こっちには数の優位があるんだもの。とにかく押しまくるわよ!」 ノアノアの蹴りが宙を裂いて妹を誘導し、こじりがラッシュを妹に叩き込む。 「そういえば貴女……お兄ちゃんのことをゲテモノって言ったわよね?」 「言ったけど、それが?」 こじりの攻撃を受け続けながら、それでも不敵な表情を崩さない妹。 「人間なんて、それだけでゲテモノよ。貴女も、私も、お兄ちゃんも……この世にゲテモノじゃない人間なんてどこにもいないわ」 醜くて、汚らわしくて、吐き気さえ催すのに。 「けど、やめられない。この衝動を抑えられない。だから私は食べるの。泣きながら、笑いながら食べるの。お兄ちゃんを食べれば、もっと食べられるようになる気がするの。もっともっと人間を減らすことができる気がするの。……だから邪魔しないで」 底冷えする声が耳元で聞こえる。 「もう頭の中までおかしくなってるのね、ご愁傷様!」 とっさに首を横に倒し回避を試みるもわずかに遅く、肩の肉と血を幾ばくか持っていかれる。 「こじりさん……!」 その様子を見たカルナが即座に癒しの息を吹きかけてその傷口を塞ぐ。 「あら。今までの人はここに噛みつけば一撃で倒れたのに……貴女、頑丈なのね」 それとも後ろの人が優秀なのかしら。 その口に含んだ肉をゆっくりと嚥下し、唇についた血にそっと舌を這わす妹。 「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはどう思う?」 「そうだな……まずはお前と合流して、それから考えたいところだが……」 「させるかっ!」 ふむ、とやや思案げな表情を浮かべる兄の隙を突いて魁斗が黒のオーラを発して攻撃を仕掛ける。 「速度、角度、威力……大体こんなものか。なら――」 兄が動く。 魁斗の攻撃による被害を最小限に抑え、そして、 「肉を切らせて骨を絶つ。それがプロアデプトの本質だ」 魁斗の死角からショットガンによる一撃を放つ。 「ぐっ……!」 そしてそのまま激痛に反応が遅れる魁斗の脇をくぐり抜け、兄妹は合流を果たす。 「あは、お兄ちゃんおかえり」 目の前にいる邪魔者――ノアノアの肩を噛みちぎり、突き飛ばす妹。その隣に立ちながら兄が優しく妹の頭を撫でる。 「ごめん。せっかく切り離せていたのに、ヘマしちゃった」 理央がようやくトラップネストの罠から脱出して仲間の隣に立つ。 「気にしないでください。それより、敵のデータはわかりましたか?」 「ばっちり。捕まってた分のお代くらいはもらわないとね」 万葉の問いに理央はこくりと頷き、告げる。 「皆、ターゲットを妹から兄に変更だよ」 「ということは兄の方が御しやすいんだな」 「御しやすい、というより……妹の回避能力が高すぎるのが問題、かな。妹から先に倒すには時間が掛かりすぎちゃう上に……兄の方はなんだか、企んでる気がする」 じっと兄の方を睨みながら、警戒心を露わにする理央。 「以外と早くに気付かれたな」 その視線を受けて、悪びれもせず兄が笑う。 「俺は今日、結界を張っていない。……この意味がわかるか?」 「……何が言いたいんですか?」 天使の歌を奏でながら、カルナが尋ねる。 「何、簡単なことさ。――俺が銃を撃ったのとあんたが結界を張ったの、どっちが早かったかという話さ」 「……っ!?」 「まぁ、仮に結界の方が早かったとして……この発砲音をいつまで隠し通せるか、という話でもある。つまりあんた達はどちらにしろ、先に俺を倒さなきゃいけないってわけだ」 ここで、リベリスタ達はようやくイヴの言葉を思い知る。 妹を第一に考え、行動するという言葉の意味を。 「ならば、望み通りお前から解き放ってやろう」 ノアノアが一歩前に出て告げる。 「妹を想うなら、殺すべきだった。諦めずに、食われようとせずにね。私ならそうするよ」 「ご忠告痛み入るよ。それがたとえ、もう手遅れの忠告だったとしてもな。だから……まずはお前から殺してやろう」 そして再び兄が――いや、兄妹が動き出す。 まずは兄の銃声がノアノアの目を引きつけ、妹が飛びかかる。 「が、ぁ……!」 そこは先ほども噛みついた場所。カルナの回復だけでは完全に回復しきれなかった傷口に、妹は執拗に噛みついたまま離れない。 そして動きが阻害されたノアノアの脇腹に突きつけられたショットガン。 「ノアノアさんっ!?」 発砲音と共に崩れ落ち始めるノアノアの体。 だが、その体は完全に倒れきる前に踏みとどまる。 「せめてもの、最大限の手向けとして――」 片膝をついたノアノアが、 「屠ってあげよう、この悪夢が」 兄の側頭部目がけて足を振り上げる! 「ついでにこれも食らえ、小僧!」 そこに竜一の練り込まれた魔力が叩き込まれ、兄は体勢を崩す。 「この程度……!」 こじりが全体重をかけた一撃を銃身で受け止め、銃口を差し向けて牽制する。 そしてバックステップでこじりと距離を取り、後方のカルナへ向けてトラップネストを放つ。 「まずは回復を絶つ。お前はそっちの厄介な方を頼む」 兄が妹に目配せし、理央の方へと差し向ける。 「さて。回復される前に削りきれるか、それとも俺が倒れるのが先か。お互いに死力を尽くそうか」 そして静かな声で呟き、リベリスタを睨み付ける。 「俺達の邪魔は、誰にもさせない」 たとえそれが誰も報われない結末を迎えようとも。 「それでも、こいつは殺させない……!」 ●無 食われる願い 食べて、斬りつけられて、そんなやり取りをどれくらい続けただろう。 「おに……ちゃん………?」 お兄ちゃんが、ゆっくりと倒れるのが見える。 一度倒れたお兄ちゃんが起きあがって、そしてこれが二度目。 「だめ……」 私の本能が警鐘を鳴らす。 『今ここで倒れさせてはいけない』と。 今ここで倒れれば、お兄ちゃんはもう二度と私の手の届かない場所に行ってしまう、と。私の直感が告げる。 「お兄ちゃんっ!」 だから私はお兄ちゃんに駆け寄ろうとして―― 「あら、どこへ行くのかしら?」 黒髪の女の子が私の前に立ちはだかる。 「どいて」 多分、私の声はひどく低い物になっているだろう。 「嫌」 だけど女の子はにべもなく、怖がることもなく平然と拒絶する。 「どきなさい」 私の中で、何か得体の知れない感情が膨れ上がっていくのがわかる。 「何故?」 それは、私がここ最近ずっと抱えていた衝動とも異なるもので。 「いいから、そこをどきなさいよぉ……!」 食べたいという衝動よりも強い激情の渦となって私の心を焼き付くす。 「……確かに動きは更に速くなったけど、その分単調になったわね」 女の子がナニかヲ喋っテいる。 「邪魔をする奴は食らっテやる!」 そう、それが私の存在意義。 邪魔な肉の器を全て全て食らイ尽クスのみ。 別の肉が極上の肉を更に私の手の届かない場所へと運んでいく。違ウ、あレは極上の肉じゃない、お兄ちゃんダ。 「おそらく、彼を食べていないから移行しきっていないのでしょう」 肉ガ私の周囲を取り囲う。アァ、お腹が空イテきた。 「イタダキマス」 肉を食べる。肉を削がれる。削がれる。削がれる。肉ヲ食ベル。肉ガ殺ガレル。 「アアァァアァアァァアアァァ!」 「叶うことなら死後くらいは、二人一緒に……」 「これで、終わりだ!」 ――視界が、暗転する。 それト同時に私の中の狂気がほんの少しだけ抜けるのがワかる。 「最後はせめて……同じ場所で眠らせてあげますね」 倒れ伏した私の手に、何か暖かな物が触れる。 それはキッとずっと探していたものデ。多分、私がお兄ちゃんに求めていたもノ。 「あァ……あったカい、な………」 指先からだンダんと感覚がなくなっていき、それと同時に私の意識がゆっクリと沈んでいく。 「お兄ちゃん……」 最後に、大好きな人の名前を呟いて。 これでよかったんだという感情、まだ死にたくないっていう感情。色んな感情をない交ぜにして、私は最後に大きく息を吐く。 ――アァ、せめテ一口だけでもいいから食べたカッたなぁ……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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