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『チャプスィ』という名のノーフェイス

●陳・梨花
 陳梨花(チェン・リーファ)と呼ばれるフィクサードがいた。日本七大フィクサードの一つである六道の中で育った梨花は、幼少から徹底的に何かを詰め込まれる。
 それはナイトクリークの武技であり。
 また暗殺者の心得と体捌きであり。
 人を騙す為の会話術であり。
 負けた時の遁走術であり。 
 彼女は六道のフィクサードとして暗躍する。表で、裏で。見えるところで、見えないところで。穢れ、汚れ、誰にも認められぬ悪名を受けて。
 そうして汚泥の中でもがき、何かを得ようとして戦い、そして何も得られず力尽きた。
 それは言ってしまえば自業自得でしかない。生まれはただ不幸というだけであり、悪事を重ねたのは自分の意志であり、他者を虐げて己の快楽としたのは確かだ。それ自体を悔いるつもりは全くない。他の六道の同胞のように、くだらなく死ぬ。それは自体はどうでもよかった。
 ただ、梨花には執着があった。今まで散々他人の心を折ってきたのに、折れずに自らに挑んできた者たち。
 アークのリベリスタ。
 どれだけの絶望を見せても、彼らは折れずに挑んでくる。いつか彼らの心を砕き、絶望に落としてやろうという執着。
 アークの戦う姿は梨花にとって――酷く妬ましかった。
 自らの不幸に絶望し悪事に走った自分とは違い、彼らは絶望することはなかった。人間の可能性を見せ付けられ、絶望に抗う様を見せ付けられ、酷く嫉妬した。人が持つ正しい輝き。それを唾棄するということは、その美しさを知っているからだ。自分自身が結局得ることができなかったことに、嫉妬する。
 幸か不幸か。それを梨花自身が自覚することはなかった。運命を失ってノーフェイスとなり、ただその執着の元に梨花は動く。

●アーク
 かつての戦いで『閉じない穴』が開き、強力なアザーバイドやエリューションが沸くようになった三ッ池公園。そこは時村財閥の政治力を使い、アークが封鎖・管理している。そこの哨戒は、アークの任務の一つでもあった。
 そして『万華鏡』がノーフェイスの姿を捕捉する。三ッ池公園内で何度も目撃情報が得られたノーフェイスを。
 そのノーフェイスが何故三ッ池公園から出ないのかに関しては様々な推測があるが、最終的には『ここで運命を失ったから、ここに留まってるんじゃないか?』という意見に収まった。
 数多の陣を構成し、哨戒に出たリベリスタを打破するノーフェイス。ここで倒さなければ、三ッ池公園の業務に支障が出るだろう。
「俺達も手伝うぜ! ヤツはブルマじゃないからな!」
「……えーと、未熟ですが多少のお手伝いはできます」
 過去、ノーフェイスに苦しめられたリベリスタチーム『ソードレイン』。彼らも一矢報いる為に参戦する。
 リベリスタにノーフェイス討伐の任務が下される。
 
●ノーフェイス『チャプスィ』
 神秘の技により誰にでもなれる術を手に入れたとき、梨花は『ごった煮』の皮肉を篭められある二つ名をもらった。
『チャプスィ』
 子供であることの意味を踏まえて、最後は小文字で。
『チャプスィ』はリベリスタを襲う。組織の為ではない。ただ自分のために。
 強い執着をその心に携えて。





■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年02月17日(月)22:09
 どくどくです。
 憎いあんちくしょうに鉄槌を。『チャプスィ』最終編です。


◆成功条件
 ノーフェイス『チャプスィ』の打破。

◆敵情報
『チャプスィ』
 ノーフェイス。フェーズ3。元は六道のフィクサードでしたが、拙作『<三ツ池公園大迎撃>呑口、闇に開く』で運命を失いました。以降、『陣』と呼ばれる能力を使い、リベリスタを絶望に落そうとしていました。
 元はナイトクリークだった為かCTが高めです。そのジョブに似た攻撃方法でリベリスタを攻めます。

 攻撃方法
 血鮮華  物近範 手にしたナイフで切り刻みます。出血、流血、失血、連
 夜羽の群 神遠全 蝙蝠の群れを召喚し、襲わせます。不幸、不吉
 運命流転 自付  ツキの流れを手繰り寄せます。CT、WP上昇。FB減少
 陣作成者  P  全ての『陣』の効果を受けません。
 七曲黄河  P  物防&神防が『陣の数×50』上昇。(別依頼『陳梨花という名のフィクサード』の紅水陣も含む。つまり初期は『陣』は七つとして計算する)
 呪詛返し  P  呪い系のBS(魅了、石化、呪い)を受けたとき、攻撃した相手にHPダメージ(防護点無視。特殊な〔反〕です)
 奇門遁甲  P  このキャラクターをブロックすることはできません。
 
  
『陣』
『チャプスィ』が展開する結界のようなものです。Eエレメントが一番近いでしょう。半径1メートルの幾何学文様の形で、低空飛行しています。HPが存在し、0になると破壊されます。常に行動済みのキャラクターとして扱います。また、ブロック行為を行いません。
 破壊されるまで戦場全体に効果を現します。

紅砂陣 P 赤い砂が気力を削る。ターン終了時にEPを50失います。
烈焔陣 P 烈火が身を焦がす。ターン終了時にHPを50失います。
地裂陣 P 大地が裂け、足場が崩れます。飛行状態ではないキャラの命中にマイナス修正。
風吼陣 P 荒れ狂う風が、空を舞うものを傷つけます。『陣』を除く飛行状態のキャラはターン終了にHPとEPを30失います。
化血陣 P 血液がいつも以上にあふれ出ます。出血系BS(出血、流血、失血)のダメージが2倍になります。
寒氷陣 P 凍てつく空気が動きを阻害します。ファンブル時、『氷像』状態になります。

 拙作『<三ッ池公園特別対応>金光、輝く時』の結果により、ある程度の知識があれば陣の破壊は容易くなっています。参加者の誰かが非戦スキル『魔術知識』『深淵ヲ覗ク』等の魔術看破系スキルを活性化していれば、全ての『陣』の物防&神防が減少します。

・リベリスタチーム『ソードレイン』
 何度か陣に挑み、助けられたアークのリベリスタチームです。
『陣』の一つを破壊することができます。相談卓で【ソードレイン指示】と指示してくれれば陣を一つだけ、好きなタイミングで破壊してくれます。陣破壊後、戦線から離脱します。

◆場所情報
 三ッ池公園内。広さは十分。時刻は夜のため、対策は必須。
 戦闘開始時、『チャプスィ』『紅砂陣』『烈焔陣』が前衛。十メートル後衛に『地裂陣』『風吼陣』『化血陣』『寒氷陣』がいます。それぞれの距離は五メートル離れています
 事前付与は一度だけ可能です。行った場合、『チャプスィ』も付与を行います。
 リベリスタ側の布陣は戦闘開始時に決めて構いません。敵前衛までの距離は十メートルとします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

●参加条件
 本シナリオは『陳梨花という名のフィクサード』と同時に参加できません。
 同時に参加した場合、後に参加したシナリオへの参加を除外する等の措置が行われます。
 この時、使用されたLPは返還されませんのでくれぐれもご注意の上、参加をお願い致します。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ノワールオルールインヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
ハイジーニアスデュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ナイトバロン覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ジーニアス覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ハイジーニアスクリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
ノワールオルールマグメイガス
セレア・アレイン(BNE003170)
ハイジーニアスソードミラージュ
鷲峰 クロト(BNE004319)


「セレアさん十七歳、頑張ります!」
 体操服にブルマ姿の『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)がポーズを決める。ソードレインの一人は大喜びだ。革醒して成長が止まったと言い張れば、肉体年齢十七歳と言い切れなくもない二十七歳のセレアさん。
 それさておき、セレアの瞳は『チャプスィ』の周囲にある陣を見据える。魔術の構成を見て、その深淵を見定める。その構造の脆いところを見つけ、仲間達にそれを伝えてゆく。
「そういえば、現実でやりあうのはこれが初めてか」
 鷲峰 クロト(BNE004319)がナイフを両手に構え、疾駆する。十歳そこらの少女の形をしたノーフェイス。以前は幻覚内で戦い、倒されて絶望を受けた。現実ではそうは行かないと刃を振るう。狙うは高熱を生み出す烈焔陣。
 教えてもらった軌跡のままにナイフを振る。もとより実体無き『陣』だが、その一撃が深く刻み込まれたのをクロトは直観で理解する。地面の揺れが気になるが、それでも数を重ねれば陣破壊は可能だ。
「ご機嫌うるわしゅう、『チャプスィ』。これで最後にしよう」
『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)がトンファーを『チャプスィ』に向ける。そのまま振り上げるようにトンファーを払った。払った軌跡のままに飛翔する一撃。それが『陣』を一直線に貫く。
 夏栖斗は『チャプスィ』の動きを思い出す。独特の足運びで人の隙間を縫うように迫るあの動き。回避能力の低いものを狙ってくるあの性格。故に夏栖斗は後ろに立つ。仲間を守るために。
「やれやれ、一年と二ヶ月ぶりじゃのぅ」
 着物を翻し『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が笑む。見た目こそ『チャプスィ』と変わらないが、瑠琵の年齢は八十を超える。その瑠琵からすれば、十四ヶ月は長いととるか短いと取るか。その笑みからは判断がつかない。
 赤く光る瑠琵の瞳が陣を捕らえる。それは生気を食らう術。音無く静かに命を奪う吸血貴族の技。それが生命なき陣であっても変わらない。それが『在る』のなら、その存在を食らうのがノワール。
「外道の悪態つきの寂しがり屋、おじさんは嫌いじゃないだけにねぇ」
 紫煙を吐きながら『足らずの』晦 烏(BNE002858)が言葉を吐く。相手は世界の敵であるノーフェイスだというのに、烏の口調は緩やかだ。例えるなら、悪戯をした子供を叱る親のような。
 だからといって、やるべきことを違えはしない。烏は陣の位置を見ると同時に、手にした銃を抜き放つ。抜いた、と思ったときには既に引き金は惹かれてあり、銃声が響くと同時に神秘を纏った弾丸は陣を貫いていた。
「精々爆笑しようと思ってたがよぉ。みっともなくて最早笑いもでねぇよ」
 拳に炎を宿らせ、『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が走る。卑怯、下劣、そして小物。火車にとって『チャプスィ』という存在を笑う理由はいくつもある。だがそれを口にするよりも、効果的なことがある。完膚なきまでに殴ることだ。
 火車の拳が陣を穿つ。熱風を生み出す陣が炎で焦げる。ただひたすらに打ち続けてきた炎の拳。『チャプスィ』にも何度も叩き込んできたこの拳。今回も叩き込む。だがその前に厄介なものを壊さなくては。
(ちょっとしたことで、『チャプスィ』なんて存在は生まれなかったかもしれない)
『折れぬ剣』楠神 風斗(BNE001434)は心の中で静かに思う。『万華鏡』が捕らえた別の陣の幻覚。この『チャプスィ』の過去。悪に堕ちた理由自体は、世間に翻弄された結果だといえなくもない。
 そこまで考えて風斗はかぶりを振る。もうそれを思うことに意味はない。目の前に誰かを脅かす存在がいる。自分の手には剣がある。それが現実だ。今はやるべきことをやろう。自らの限界を超えた一撃が、陣を裂く。
「手数で押し切るよ!」
『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)の手甲に稲妻が宿る。いける。戦闘経験が今が攻め時である事を察していた。大地を踏みしめ、滑るように移動する。重心をずらさない移動。突撃するような鋭さではなく、水のような柔らかな動き。
 雷光が貫くように、手甲が突き出された。その手甲は仲間を守るための物。時に敵を穿つ拳となり、時に仲間を繋ぐ手のひらとなり。手の届く範囲は小さいかもしれないけど、それでも悠里は手を伸ばす。
「待ってたゼ、アーク!」
 それは予知能力。フォーチュナの予知とは違う虫の知らせに似た予感。優れた戦士が戦場をかぎ分けるように、ノーフェイスはアークの到来を察していた。ナイフを構え、笑みを浮かべる。
 リベリスタは息を呑む。フェーズ3。将軍級と定義された元フィクサード。
 その牙が、今向けられる。


『チャプスィ』は立ちはだかる前衛をすり抜けるように後衛に迫る。その動きを知るリベリスタは、動きを止めることを初めから放棄し、陣の破壊に向かった。
「精々今の内はしゃいでろ。負け大好きなクソガキさんよぉ」
「アア、はしゃがせてもらうゼ!」
 火車の挑発に笑みを浮かば得てノーフェイスはナイフを構える。中衛に立つ瑠琵か、陣解析の知識を持つセレアか、後方射撃の烏か。
「おじさんの銃を評価してくれたのは、嬉しいね」
 多彩な銃の技を持つ烏に向かい、ナイフが振るわれる。そのナイフを、
「ここにいれば、アークが来てくれる。そう思ったんだよね、チャプスィ――陳梨花」
 夏栖斗が庇いに入る。ナイフはプロテクターの隙間を縫って夏栖斗の体を直接傷つける。痛みに顔をしかめるが、笑顔で夏栖斗は応えた。
「悪いがその加護、外させてもらうよ」
 烏が銃口を『チャプスィ』に向ける。鋭く尖った極小の弾丸。打撃と同時に間追った神秘の加護を砕く一矢。それが運を呼び寄せるノーフェイスの加護を破壊する。
「そっちを護ルのなら、次はこっちダ」
「え? あ、しまった!」
 夏栖斗はセレアに刃を向ける『チャプスィ』の顔を見て、失態に気づく。自分の体は一つしかなく、庇えるのは一人だけだ。両方庇える位置にいいたとしても、誰かを庇ったのならもう一人は庇えない。
 勿論新たに庇いなおせばいいのだが、また庇われなかったほうを攻撃するだろう。
「きゃああ!」
 セレアも一流のリベリスタ。一撃で倒されるほどヤワではないが、体力は高くない。全身を切り刻まれ、服が赤く染まる。
「大丈夫……とは言い切れないけどまだいけるわ!」
 セレアは魔力を束ね、解き放つ。黒の波動が三叉の槍となり、三つの陣を同時に貫いた。集中砲火を受けていた陣の一つがこれで壊される。
「烏のおっちゃん、スマン!」
「いいってことよ」
 夏栖斗は已む無くセレアを庇うことに専念する。魔術知識の高いセレアを守らなければ、陣の破壊は難しいだろう。
 火車の拳が炎を纏い、悠里の手甲に紫電が煌く。相手の懐に深く踏み込んで一撃を放つ火車と、一定の距離から複数の打撃を叩き込む悠里。同じ覇界闘士だが、その戦い方は大きく異なっていた。
 ただひたすらに炎の拳を穿つ火車。状況に応じて五行を切り替える悠里。全く違う闘士なのに、二人のコンビネーションは乱れることがない。だが、
「さすがにきついか!」
「そうだね。ソードレインの皆、お願いするよ」
 息のあった連携攻撃をもってしても、大地の揺れがそれを万全としない。このままでは殲滅速度が落ちると判断したリベリスタは、控えているチームに連絡を入れる。複数の矢と一人の斧使い。それが地を裂く陣を打ち砕いた。
「よっしゃ! 足場が安定したぜ!」
 クロトが陣破壊により揺れることのなくなった大地を踏みしめ、次の目的に向かう。跳躍するように陣に迫り、交差すると同時に十字にナイフを振るう。二つの軌跡が陣を裂き、少しずつ破壊していく。
「連続行使は厳しいか……!」
 風斗は剣を手にして呼吸を整える。赤い砂が気力を削る。闘神をその身に降ろしているとはいえ、大技を連発すれば息切れを起こす。しかし小技に押さえれば、その間にノーフェイスが跋扈する。
「瑣末じゃな。その程度ならわらわが癒してやる。ほれ、全力で行け」
 瑠琵が葛藤する風斗の背中を押すように言葉を放つ。回復に攻撃に。四神を繰る瑠琵のできる行為は多い。符が風斗に張り付き、力となる。に、と笑みを浮かべる瑠琵。少女のように可愛く、年齢を重ねた女性のように美しく、知恵者のように頼もしい笑み。
「ありがとう。これで決める!」
 瑠琵の力を借りて、風斗は全力で陣を穿つ。凍える風を放つ陣が、その一撃で砕け散った。
「やれやれ、さすがに厳しい」
 リベリスタが陣を攻撃している間に、ノーフェイスも攻める。コウモリの群れがリベリスタを襲い、ナイフが烏を切り刻んだ。出血の多さに運命を削る烏。
「ケケッ。もう一押しって所カ?」
「いいえ。まだまだ負けてません!」
『チャプスィ』の言葉にセレアが反論する。他のリベリスタもまだ闘志は消えていない。
 その強い意思。それを砕く為にノーフェイスはナイフを構える。


『チャプスィ』は射撃を行う烏と、セレアを庇う夏栖斗を交互に攻めていた。距離がもう少し迫っていれば同時に攻撃できたのに、とノーフェイスは悪態をつく。
「きついね、これは!」
 化血陣がリベリスタの血を奪っていく。体力に自身のある夏栖斗でも、長くは耐えてられない。運命を燃やして傷口を塞ぎ、消えそうになる意識を何とか保つ。
「これは厳しいかな。先に休ませてもらうよ」
 烏が『チャプスィ』のナイフを受けて、地に伏す。烏は射手であるが故に、耐久力は高くない。だが烏の射撃は、陣に多くのダメージを与えていた。
「これでどうです!」
 セレアの魔力弾が赤い砂を放つ陣を破壊する。陣を攻勢する魔力の核。セレアの知識と経験がそれを見切る。戦いながら正確な解析はできないが、攻撃を加えるたびに修正は可能だ。核を正確に貫いた鋭い一矢。それを見て憎憎しげに舌打ちをするノーフェイス。
「紅砂陣……チッ、紅水陣も崩れたカ。 ……ッ!」
 口元を押さえ、驚きの表情をするノーフェイス。何故かわきあがる感情を制御できない。そんな顔。その瞳から涙が流れ、地面に落ちた。それは、優しさに耐え切れず涙をこぼすような。そんな顔。
「ねえ。君はどうして、心がなくならないままフェーズを進めずにここまでこれたんだと思う?」
 夏栖斗は涙を拭い取る『チャプスィ』に向かい、問いかける。トンファーを構え、衝撃を直接相手に響かせる構えを取った。
「それは執着だよ。梨花。僕たちが羨ましかったんだ」
「黙レ……」
「そりゃ、梨花のやってきたことは僕等とは相反することだ。けど陳梨花の人生は、くだらなくなんかない」
「黙レ……!」
「君のことは忘れない。だから何も得てないなんてことないんだ」
 三度目の静止は無かった。ただ激情のままに、ナイフを振るうノーフェイス。
「おい。リーファ」
 クロトはそのナイフを受け止め、真正面から構える。後衛から目標を逸らさせる為に挑発するつもりだったが、その必要はなさそうだ。
 迫る『チャプスィ』のナイフ。左のわき腹に見える隙。上手く切りつければ大ダメージだ。クロトはそこを――狙わない。
「見えてるんだよ!」
 その隙は天絶陣の幻覚の中で一度見ていた。狙えばナイフの持ち手を変えてカウンターを受ける。その動きに誤魔化されることなく、クロトはナイフを翻す。高速で繰り出されるナイフの連続攻撃。
 一度間合を取り、親指を胸元に突き立てクロトは言葉を続けた。
「幻覚とかのインチキじゃなく、実力でやってみろよ。簡単には当たらねーぜっ」
「ケッ! その自信ごとてめーを砕いてやるヨ!」
「そうやって痛みを与えれば折れると思ったか? ままならなさを突きつければ諦めると思ったか?」
 全力の攻撃を繰り出しながら風斗が問いかける。一撃ごとに体が痛む。しかしそれ以上の打撃を、ノーフェイスに与えていた
「折れるものか。屈するものか。諦めるものか。オレは『折れぬ剣』、デュランダルの楠神風斗! たとえ傷つき欠けようと、折れぬ刃は必ずお前を斬り裂く!」
「ケッ! 絶望しない人間はいねーンダヨ!」
 頑なに『チャプスィ』は否定する。彼女は『折れた』人間なのだ。その強さを見せ付けられれば、自分が惨めに思えてくる。
「お主が幾らわらわ達を絶望させようと、唯の徒労じゃ」
 瑠琵が星の位置を知り、大極の流れを感じ取る。その流れに手を加え、ノーフェイスへ流れる『運気』を奪い取る。呪いに似た衝撃がノーフェイスを襲い、運の流れを奪い取る。
「わらわ達はお主のようにはならぬし、お主ももうわらわ達のようにはなれぬ。けして嫌いではなかったがの」
「俺は大嫌いだぜ、クソガキ!」
 火車は腕を回しながらノーフェイスに迫る。炎の拳を構え、ノーフェイスの体に叩き込む。粗野に見えて、しかしその動きは緻密。自分が最大限動けて、その上で相手に衝撃を与える為の動き。赤く熱い一撃が振るわれる。
「テメェ等みてぇなフィクサードを相手するのは、断然愉快痛快抱腹絶倒だがな!」
(僕は弱い。チャプスィと同じ状況に置かれたら、彼女と同じことをしたと思う)
 悠里は別チームから聞いた『チャプスィ』の過去を聞いていた。幼いころに不幸にあって、そのまま悪の道に走る。一歩間違えれば、それは自分に降りかかったかもしれない不幸なのだ。
(彼女の気持ちも理解出来る。だけど彼女がしてきたことは許される事じゃないんだ)
 しかし、ここで拳をとめるわけには行かない。悠里は痛いぐらいに強く拳を握る。過去は変えられないのだ。
 リベリスタは一斉に『チャプスィ』に襲い掛かる。それを待ち構えていたかのように『チャプスィ』のナイフが踊った。ナイフが集まってきたリベリスタたちの肉を裂き、血が飛び散る。
「ぐ……っ!」
「まだ折れん!」
 最初に倒れたのは後衛を守り続けていた夏栖斗。そして回避に劣る風斗。既に運命を燃やしていた夏栖斗は力尽き、風斗は運命を燃やして立ち尽くす。
「ようやく火がついてきたぜ!」
「まだ負けてねーっての!」
「僕はまだ、君を救っていないんだ!」
 火車とクロトと悠里もノーフェイスの猛攻で運命を燃やす。火車は程よく脱力して動きが鋭くなる。
「化血陣を残したのが響いてるわね……!」
 セレアが地面の血溜まりを見て唇を噛む。
 リベリスタは全ての陣を破壊せず、必要最低限の陣を残しノーフェイス打倒に走った。それは回復手がいない構成としては正しい判断だ。
 だがノーフェイスのナイフは出血を促す。化血陣との相性は高く、さらにナイフの攻撃範囲に一斉に迫った為にその犠牲者も多い。ナイフと失血のダブルパンチが、効率よくリベリスタを追い詰めていく。
 勿論、ノーフェイスも相応にダメージを受けていた。高火力の風斗を初め、腹部に衝撃を直接伝える火車。的確に斬撃打撃を叩き込むクロトと悠里。瑠琵とセレアの魔と符の攻撃。手ごたえは確かにある。
 だがそれは、フェーズ3の体力を削りきるには一手足りなかった。
 ナイフが風斗の意識を刈り取り、失血が火車とクロトの動きを止める。
 撤退すべきだ。悠里の脳裏に警鐘が鳴り響く。
「過去は変えられない。でも、未来なら変えられる」
 しかし悠里はノーフェイスの手を取った。
「神様がいるなら、どうかこの少女を助ける奇跡を僕に下さい」
 奇跡。
 歪曲運命黙示録と呼ばれる、自らの存在をかけて奇跡を起こす術。ノーフェイスに運命を与える奇跡を、ください。
 手ごたえは、ある。全ての運命を使えば、この少女にわずかな運命を与えることができる。ためらうことなく悠里は運命を燃やそうとするが、繋いだ手に向かってナイフが振るわれた。
 ナイフは『チャプスィ』自身の腕を切断していた。生まれた奇跡が、途切れる。
『彼女』の口が動く。

「ケケッ! こうされるとお前は泣くだろうカラナ! 後悔シナ!」
「もう十分救われタネ。ありがトウ」
『チャプスィ』の声と、陳梨花の声。全く同じだが異なる『彼女』の声。それが確かに聞こえた。

「今です!」
 ここを逃せば勝機はない。そう判断したセレアが魔力弾を放つ。黒の奔流が膨れ上がり、四種の魔力がノーフェイスを蝕む。
 断末の言葉はなかった。高密度の魔力に吹き飛ばされるように、ノーフェイスは宙を舞い、そのまま地面に転がった。


 満身創痍のリベリスタが身を起こす。
 足りない一手を陳梨花の良心が補ったのだろうか。紅水陣のメンバーが彼女の心を救わなければ、全滅してたかもしれない。
 傷ついたリベリスタ達はソードレインの助けを受けて、身を起こす。ダメージは深いが、死にいたる傷ではなかった。
「あー、なんつーか……良く頑張ったな」
「ザマァみろ……オメェが絶望させたかった分はオレが六道以上の連中に仕向けてやるよ」
 クロトと火車が体の痛みを我慢しながら、崩れ行くノーフェイスに言葉を放つ。
「それじゃまたな。何れ逝く、それまでに次の戦場の用意を地獄の閻魔と共にひとつ頼むさな」
 烏が静かに言葉を放つ。この少女がいたという事実を心に刻む。時折、今日の戦いを思い出しうざいあんちくしょうだったと愚痴るとしよう。

 一人の人生がここで終わる。世間に翻弄されて悪事に走った、どこにでもいる悪人の人生が。
 最後まで他人を妬む存在だったが、彼女は最後に人の優しさに触れる。
 その死に顔は嫉妬に満ちた顔ではなく、親を見つけた迷子のような泣き顔だったという。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
 どくどくキャラクター内で最強のEXスキルはなんですか、と問われたら『奇門遁甲』と迷いなく答えることができます。

『チャプスィ』というキャラクターは、『悪いこと』をするためのキャラクターでした。シナリオ内での悪人という意味ではなく『STがシナリオを作るレベルで悪いことをする』意味での悪事です。
 例えば人質をとったり、例えば心情的に倒しづらいキャラクターを足蹴にしたり。そういった『PCに憎まれ、PLに眉を顰めさせ』る為の存在でした。
 その目論見はうまくいったのでしょうか。答えは皆様のプレイングが伝えてくれました。

 それとはまったく別として、たぢまよしかずVCにイラストお願いしてよかったっ!

 若干作戦面に不備が見られましたが、総合的には勝利です。不備の分だけ、ダメージは甚大ですが。
 ともあれ、ゆっくり傷を癒してください。

 それではまた、三高平市で。