● 其れは正に、世界の終末であった。 豆があった。鬼に投げるアレ。 が、其れらが増殖し、増えに増えていく。 数十個で止まるならばまだ可愛げはあるものの、数百数千と瞬く間に増えていく。 マンションの一室のテーブルの上に収まりきらなくなった豆は、テーブルの上から零れてリビング一帯を埋め、遂には廊下や個室、トイレやバスルームを侵食していき最終的には窓硝子を割って外にバラバラ落ち始めた。 そして一夜にして、原因の豆があったマンション周囲は豆によって埋もれ、周囲の道路にも豆は広がっていく。まだ終わらない、まだまだ増え続ける。 気付くのが遅かったなんて言い訳のできる域を、超えたのだ。 其の内、此の豆は日本を埋めて海を辿り全世界を埋めるであろう。 豆の悲しみは、ボトムの未来を摘むのだ。そう、豆はただ、ただ――― 『投げるなァァァ、食べ物をォォ、投げるなァァァァ、ちゃんと全部食えェェエ』 ――食べ物の恨みって恐ろしい。 ● 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)がそんな未来を予知したらしい。 「……っていう大事件を起こさせない為にも、増える豆を如何にかして欲しいのです。世界は今大ピンチなのです。皆さんの胃が世界を救うのですよ!」 成程。わからん。 「原因は革醒した豆一個なのですが、都合よくステルス的な能力があるので普通の豆とは……ほぼ見分けがつかない感じでして。 序に食べて、胃液で溶かして栄養を搾り取って排泄してあげないと倒せないみたいなので……つまり当たりを引くまで食べ続けなければいけないのです。 だ、大丈夫ですよっ、杏理も手伝いますので! 危険は無いので! 放っておく事が一番の危険なので!!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月11日(火)22:04 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 事が始まる前日の夜。 「よーし、今日は飲んじゃうぞー。まずは生からパニッシュ!!」 『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)は居酒屋のカウンターに1人、陽気に浮かれ気分で手を挙げて店員を呼んだ。 此処は三高平。 少し飲んでいれば見慣れた顔が続々と店内に入り、カウンターからテーブルへ移動したりなんなり。 急所開催された遅い新年会に流されるまま。酔ってしまった彼は極楽気分に浸りながら、ふと天井を見上げて思い出した。 (……あれ? 明日なんか依頼があったような……) されど、よもや、まさか。 其の事を1秒後に忘却した彼は、新たなる店を求めて居酒屋の扉を潜った。 ● 「――――………という事がありまして、オレは初めからクライマックス、オェッ」 どうしてこうなるまで放っておいた! 翔護が嗚咽を漏らした途端に、残りの6人全員が彼から本能的に数m離れた。小学生の時、『あいつ汚い奴!』として大勢が1人を虐めるアレ的なものを思い出すのだが。 「酒臭ッ!! ッて言うと失礼かッ!?」 無くて良かった猟犬。無くても彼が飲んだ酒の量は大体察せるよ。彼には大量の水が必要である。次からは依頼の前夜に飲酒禁止! 駄目だよ! 『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)は1人翔護に近づき、背中を擦ってみる。有り難そうに笑った翔護だ。 だがしかし、其の震えた笑顔とは裏腹に顔面は蒼白で直ぐに彼の視界は下を向いた。出る、何かが。本来下から出なければいけないものが上から出る。 此処は依頼で指定されたマンション一室の玄関手前。公的な場だ、駄目、此処でリバースはダメ、ゼッタイ。 「待て。此処で吐くんじゃない」 冷静にそう言った『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は、部屋の鍵を回して、ドアノブも回す。人が1人は入れるくらいまでの空いた扉。 「お邪魔しま「お邪魔します!!」 義衛郎を追い越して、すかさず翔護は家のトイレへと走って行った。マッハで。 「すげえッ! なんだ今の速度はァ!!」 「愉快な奴だな。人間、危機を目の前にすると通常より遥かに凄い力が出るとか出ないとかだ」 「今が其の危機的状況なんだなッ」 「ああ、そうだ。彼の健闘でも祈っておいてくれ」 感心したコヨーテに、くすっと笑った義衛郎は扉を全開きした。 如何やら、レディーファーストと彼は言いたいらしい。中に手を向け、女性達を見回した。 「流石義衛郎様なのですぅ! 杏理様、ささ、行きますよぉ」 「あ、はいっ」 『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454)に手を引かれて入っていく『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)。 二人に続いて『星雨』九・亜美(BNE004876)も入っていく。 最後に『トライアル・ウィッチ』シエナ・ローリエ(BNE004839)が部屋へ入り、一度後ろを振り向く。 義衛郎へ向いた目線が何か言いたげものになっていて、一度下を向き、そして再び彼へと向く。 「なんだ、どうした?」 「ありがとう……」 「ああ、どういたしまして」 表情を全く変えないシエナであったが、一度お辞儀した其れには彼女の感謝の意が見え隠れしていただろう。 ● トイレからは戦闘音(意味深)が響く中、ロッテと杏理はリビングに通じる扉の硝子部分をに顔を押し付けた。右に目線が、左に目線が行く。ふむ、如何やら。 「此の部屋で間違いないのですぅ、超増えているのですぅ」 「そうですねぇ……困りますねえ」 ころんころんと絶えず音が響く。 扉を開けば此方の廊下に流れ出てしまいそうな程に豆が増えて、増えて、増えまくっているのが見えたのだ。ミラクル神秘、マジ神秘なんでもあり。 コンロにことんと置いた鍋の音。シエナがリビングの方を見て―― 「ヨッシャ! 腹減った、食うぜッ」 ――と、コヨーテがリビングの扉を開いた瞬間に、豆が廊下へ一気に駄々流れて来たのであった。 「ひいいい、一気に流れ出て来て足下が福豆に侵食されたのですぅ!!」 此れにはロッテは慌ててしまう。足首あたりまで一気に豆で見えなくなったのだ。大量過ぎるだろう、大量にも程がある。 右足を上げ、足の踏み場を探してみるのだが。……無いな、足の踏み場というものは。ならばそーっと足を下ろしていくロッテ。 「豆臭いなぁ。あ、そうそう、あんまり踏んで砕かないように――」 ふと思い出したように義衛郎はそう言ったのだが。ばきばき、と同時に音が聞こえる。 「――うん、遅かったかな」 「ごめんなさいなのですぅ」 ちょっと足場無いからね、仕方ないね。 「では、まあ。とりあえず一か所に集めましょうか」 杏理の言葉に其の場に居た全員が首を縦に振った。 「ヘヘッ、全部食らい尽くしてやンぜッ」 と活気に溢れながらも、両手で廊下側の豆をリビングへ押し退けていくコヨーテ。其の最中にも、空いた手で豆を拾あげポリポリと食べてみる。 食べ続けないと、ノルマが増え続けていくからね。少しでもいいから減らさないといけないのだ。 「お腹でなら、お役に立てる……かも?」 シエナは窓側に寄った豆を中心に寄せていく。コヨーテ同じく豆を拾って一粒食べてみる。 彼女、シエナの身体の中は所々機械化しているのだという。いまいちその燃費が悪いようで、お腹はよく空くのだ。ならば今日、沢山食べて燃料を補給すればグッドだね。 一粒食べて、また一粒食べて。シエナはお腹をポンと叩き、此の依頼、イケる。と確信した。 一か所に集まった豆の総量は……真面目に一粒ずつ数えれば何日かかるか分からない程の量だ。 「んも~豆まきしたら、ちゃんと食べなきゃ! もったいないですぅ! この……どこにいるかわからないエリューション豆に同感なのです、おこですぅ! わたし達が必ず、美味しく頂きますからねぇ~! 安心するのです、豆!」 ロッテが高らかに宣言した所で戦闘は始まった。翔護が生き返るまで、ノルマの量を減らす六人は増える豆を囲みながら無言でポリポリポリポリポリ。 ――三分後。 ポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリ。 「やっぱり旨くは無いな」 義衛郎は呟いた。お世辞にも福豆は美味しいとは言えない。神秘だからといってやはり今日の此れも旨くは無いのだ。 「そうですぅ? ロッテは結構イケるのですぅ! 任せろ、全部食べるですよぉ」 対照的にロッテのテンポは早い。右手と左手を器用に使って、次々口に運んでいく。表情も頬が少し紅潮して、楽しげ。 ――十分後。 ポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリ。 「口の中、渇いて来た……」 シエナは相変わらず無表情のままなのだが、単純に此の作業が辛くなってきたかペースが落ちて来た。いや、味も変わらない、ただの豆なのだ。飽きない方がおかしいのかもしれない。 「ですね……。杏理はちょっと辛くなってきました……」 「ヤバイのです! わたしの体カラッカラになっちゃう!」 其処でロッテは取り出した! マイ、水筒である。中にはあったかい緑茶をいれてきたようで、口の中に潤い成分を補給します。 「ささどうぞなのですぅ! 杏里様も、はい! あちちなので気を付けてくださいね!」 「ありがとうございます、ロッテさん。亜美さん……大丈夫ですか?」 「明日にはしばらく豆は見たくないって言ってそうなのです!」 亜美こそ口に運んでいく。彼女の隣にあるあひる隊長と呼ばれたものが可愛らしく鎮座して行く末を見つめていた。 ――二十分後。 ポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリ。 「……」 「………」 「…………」 「……………」 「………………」 「…………………」 最早誰も彼もが、言葉を発するという事を止めた。 作業という名の食に没頭しているのだ。しているのだが、何故だ此の葬式でもしているかの様な重い雰囲気は!! 「―――だァァ!! ただ黙って食ってるだけだと何かムズムズしねェ?」 耐えられなかったコヨーテは、盛大に背伸びをして天井を見つめてみた。何か、此の重い雰囲気を打破する術は無いか考えてみたのだが。 「何か面白話……とか?」 「俺は無いな……あるのなら是非聞かせて欲しいとは思っているよ」 シエナも義衛郎も手は止めないけれど、暇潰しと豆を食べる肴になればと己の過去を振り返ってみる。 其処で。嗚呼、そういえば! と自慢の歯を魅せて笑ったコヨーテ。 亜美は一粒豆を上に投げて、其れを口でキャッチして食べながら、そんな彼の表情に気づいた。 「お、何か面白い話ありましたですか!?」 「あるッ。ダディと一緒にメキシコ住んでたコトあッけど、そン時はよく豆料理食ってたなァ!」 「豆料理! おいしそうなのですぅ!」 片手に乗せた大量の豆を口に流し込みながら、ロッテはコヨーテの話に食いついた。 「辛くてすっげェウマかったっけ……」 思い出しただけで幸せそうな雰囲気を醸し出したコヨーテに誰もが朗らかな気持ちに成った。 「……ちりこんかん?」 杏理が顔を斜めにした。 メキシコの豆料理で辛いものと言えばこれだろうかと杏理は思った(STが調べた限界)のだがあっているだろうか。如何した事か、此のリプレイ書いてるのに腹が減ってきたよ。プレイングで飯テロしてくるとは思っていなかったよ。 「ダディの部隊にいたメキシコ人も、ビーンズパワーですっげェ力持ち!って言ってたし。この任務終える頃には、オレもマッチョだなッ!へへッ」 流石、豆。 ちなみに大豆の主産県は北海道だとか。 此の依頼の場所は静岡県某市なので、北海道では無いのは残念なところではあるが。 「ん」 シエナは福豆の中から取り出した一粒を杏理の口を目掛けて、投げてみた。 急に投げられたものでびっくりしたが、偶々だが杏理の口の中に入ってはもぐもぐごっくん。 「オニハーソト、なんて」 「ふふ。次はフクハーウチ、ですね!」 そんな所で。 「お待た! 皆オレの事待ってた? やっとフェイト復活したぜ、ごめん誰か水頂だ……うわ!?」 翔護が戻って来たのだが。 其の頃には、豆を食べ飽きた全員が机の上で突っ伏していた。 ● 「わからなかったら、当たるまで食べるしか……ない?」 「うんにゃ、見つけるから問題無し! 心配サンキュゥッ」 シエナが不安そうな目線で、相変わらずポリポリと口を動かす。 「じゃ100グラム目いくよー」 その隣で翔護は千里眼と、エネミースキャンを発動。 神秘は見通せない、かつエネミースキャンに反応するのが、つまり原因の豆である。成程、そんな方法があったかやられた。 一つの豆がソレに引っかかった。やたらと集めた豆の奥の奥のへ行ってしまっているが、翔護の腕はその一粒をすくい上げる為に伸びて行く。 「ホイさ、中入った」 カップの中に如何やら原因の豆を入れる事ができたようだ。一応は、此の中に入った一粒を食べればいいので依頼は完了したも同じであろう。 「シエナ……チョコフォンデュとかやってみようかなって……」 ぼそっと呟いたシエナ。 確かに延々同じ味のものを食べ続けるのは単純に拷問のようなものがある。 味さえ、味さえ変えればいいのだ。シエナは台所へ行って、持ち運んだ鍋にチョコレートを入れて溶かし始めたのだ。それを最初にほぼ全員が何か作業を始めていく。 リビングに残ったコヨーテはAFから取り出したのは様々な調味料やらなにやらいろんなもの。 「ブラックペッパー&ソルト、チリソース、マスタードにわさび醤油に……にんにくラー油なんか付けてもいけッかなァ?」 「大丈夫だと思いますよ……辛いの本当に大好きなんですね」 「おうッ、大好きだぜッ!」 「杏理にも是非、なにか試させてください」 「おうッ」 コヨーテはチリソースをからめた炒り豆を口に運びながら、再びパッと周りが明るく成るような笑顔を見せた。 「牛乳が……あるといいのだけど」 「じゃあ、俺が買って来ようか?」 「ボクも付き合いますですよー」 シエナが、人様の家の牛乳を勝手に使う訳にもいかずに悩んでいたが、翔護と亜美が玄関の方へ歩いていく。 「牛乳っていくらくらい?」 「150円ですかねえ?」 其の頃、義衛郎は調理場にて忙しく動いていた。誰かが義衛郎は料理が上手いと言っていたのだが、本人曰く料理の腕前は凡人的だとか。 暫くして。 「あら? なんだか、軽くパーティですね」 杏理は、クスっと笑って並べられた料理を一望した。 出来た料理のお品書き。 大豆の炊き込みご飯。 大豆の味噌汁。 大根と大豆のサラダ。 大豆とひじきの煮物。 大豆ハンバーグ。 大豆のトマト煮。 きなこ。 チョコフォンデュ。 その他辛味調味料と、チョコソース。などなど……。 「口に合わなかったら、残してくれて構いませんので」 「いえ……全部美味しく食べれそうかなって……」 義衛郎は流しで手を洗いながら、リビングに居る全員へそう言った。だが恐らく残す者はいないであろう。 「わ~、しゅごいのですぅ、タダ飯なのですぅ!」 ロッテの女子力が発動。お皿に均等に料理を分けていくスキルが発動していく。 「あ、コヨーテ君のだけは辛くしてあるから安心してね」 「マジかッ、スゲエッ!!」 ちょっとした気遣いも忘れないプライスレス。 人の家であれ、此処は少し洒落たパーティ会場か。何時もの依頼を忘れて行う食事はそれはそれは美味しいものでした。 食事が始まって、すぐの事であった。 ガリッ。 「「「「「「「あ」」」」」」」 誰かが、原因の豆を食べた様で。増える豆も増えなくなったそうだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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