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<アーク傭兵隊>第66番目



 うるせェ……此れで五百七十六時間と三十二分だったかァ。

『助けて』
 誰かに仕える気もねェ。
 誰かに命令される気もねェ。
 たった一人、キースだけは気が合うから話を聞いてやってるだけだ。聞いてやらなくて今後一切戦いに呼んでくれなくなったら、俺、泣いちゃうだろうがよォォ。
『復讐がしたい』
 それにしてもよォ……さっきからうっせーんだよ。
『村を壊したい、キマリス』
 誰だよ、此の俺、『キマリス』様を呼ぶやつぁよぉ。
 争いてぇか、戦争してぇか、闘争してぇか、全てを曝け出しておっぱじめてェのか。知らねェぞてめェの世界が戦乱になってもよォ。
『頼む』
 俺を復讐の道具に使うんじゃねェ、贅沢にも程があンだろゥがよ。キースくらい強くなりゃァいいじゃねェの。マジ超意味わかんねェ。
 ……しかし最近暇だな。
 キースも俺の名前を呼びやがらねェ。
 いいぜ、今日だけは俺の機嫌が良かった事に感謝しなァ。
 暇潰しに力を貸してやる。何、村ァ、一個焼けばいいんだろォ?
 対価は安くねェよ、お前の未来永劫今後一切輪廻に戻れると思うなよ。


「依頼を宜しくお願い致します。皆さんには、海外に行って頂きたいかと」
 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達にそう言った。
 相手はあの魔神だとか。
 ふざけるな、そんなものホイホイ呼べるのか。
「呼べたので、大変なのです。願いが届く程の、運と、狂人的な願い。まさに運命が引き寄せた……と言っても言い過ぎでは無いかもしれませんね」
 魔神とは、バロックナイツ『キース・ソロモン』が魔術書によって従えている異世界の神である。其の第六十六位であるキマリスが、エジプトにある小さな村の近くで目覚めてしまったのが今回の依頼。
「其の村……風習があるみたいで、生贄の。
 其処で、母を贄にされた少年が革醒者で、何を如何頑張ったのか……7日7晩、魔法陣と複雑な儀式を用いて闘争神に願ったそうです」
 其の少年の『身体』をキマリスが操っているようだ。少年はデュランダルであったようなので、其のスキルを主に使って来るものと思ってもいいだろう。
 残念だが、其の少年は既に魂か、そういったものをキマリスに奪われて死よりも苦しい何かを迎えている。
「魂があるのかは分かりませんが……出方次第で返して頂けないでしょうかね……いえ、これは私の独り言なのですが」
 少年の身体だけがキマリスを此の世に干渉できる媒体を成しているのだ。
 だが、やはり魔神に身体に許すのはかなり難しい様で、少年の身体も少しずつ壊れていき、終わりへと向かっている。それはすぐ壊れる訳では無いだろうが。
「男の子が死にもの狂いで作った儀式でしょうが、キマリスが出せる力はかなり制限を受けているようです。
 それに少年の身体の事もありますからね、時間さえかければ此方の勝ちは見えるでしょう。なので、村に被害を与える前に彼を止めて欲しいのです。宜しくお願い致します」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕影  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年06月17日(火)22:43
 夕影です うっかり出ちゃった。脳筋!脳筋!純戦!純戦!

 以下詳細

●成功条件:少年の身体が壊れるまでキマリスを通さない
●失敗条件:キマリスを村に到達させる

●少年
・名前も知れぬ村の子、享年17
 褐色肌、細身でありますが、ターンごとに壊れていきます
 ジーニアス×デュランダル(RANK3までの攻撃を行います)

●魔神:序列66番『キマリス』
・上記の少年の身体を動かしております
・黒馬に跨った、剣と盾を持った魔神だそうです
 20の軍隊を所有し、悪霊を従える地獄の大侯爵です
 闘争神であり、かなり単純に純粋に闘争が好きです
 拙作『<九月十日>六十六の呪音』にて出ています

☆キマリスがフィールド上に健在している時、体力が低下しているリベリスタは全て彼の特殊能力『No.66』に支配され、戦闘意欲が大幅に削られます。これには対抗判定を適用し、心の強き者は『No.66』に抵抗、または無効化できる時もあります

 以下の攻撃だけ少年のデュランダルスキル以外に使います

 Devilishamazing(神遠単他付命中回避アップ)
 No.66(P:)

●黒馬
・キマリスが所有している馬です
 キマリスの命令を最優先し、彼の足として戦場を移動します
 移動と攻撃を同時に行う事ができ、非常に高い攻撃威力を持っています
 ブロックには4人必要です

・攻撃方法は以下
 突撃(?遠貫通BS弱体虚弱)
 蹴り飛ばす(?近単BS崩壊無力呪い)
 暴れ馬(HP30%以下で発動。ブロック無効)
 捕食(?近単HP回復中BS出血致命必殺)

●死霊×12
・アフリカの死霊を呼び寄せたものです
 物理無効、遂行者のようなもの活性化
・この死霊はキマリスが戦場に居る限り、戦闘不能になってから4T後に体力を半分回復した状態で復活します
 キマリスの命令を最優先し、彼の刃として動きます

・攻撃方法は以下
 切る(神近単BS流血致命)
 無念(神近範BSショックダメ0)
 怒り(神遠2単BS怒り呪い)

●場所:村の近く
・一本道、時刻は夜、足下も不安定です

それでは、宜しくお願い致します
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
ジーニアスナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
アウトサイドデュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
サイバーアダムクロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
ハイジーニアスデュランダル
真雁 光(BNE002532)
ジーニアスデュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
ハイジーニアスレイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)
ノワールオルールクロスイージス
浅雛・淑子(BNE004204)
ナイトバロンソードミラージュ
蜂須賀 朔(BNE004313)
ハイフュリエミステラン
シィン・アーパーウィル(BNE004479)
ギガントフレーム覇界闘士
コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)

●戦え『戦士は』戦え
 『人』とは、脆い生き物である。
 たかが数十年で死ぬし、身体の内部……特に心臓なんて一つ壊れれば全てが駄目に成る。
 少し爪を立てれば血が出るし、皮が削げる。
 少し掴めば骨が拉げて叫び声を上げるわ、首を捻れば直ぐに千切れる。
 そんな程度の生き物に魔神たる彼、『キマリス』は興味が持てなかった。
 其の為か、此のボトムでは彼の記録がほぼ無いと言って良い程だ。
 彼は闘争神であり闘争心の塊であるから故に、自分より弱い生き物、戦えない生き物の存在を眼に映さない。ボトムであれ、一般人であれ戦争や戦があった時代には心が躍っていたのだが……魔神が干渉すれば砂の様に崩れて、戦況なんてあったものでは無いであろうから、此れもまたつまらないもので過ぎてしまった。
 だが、革醒者は別だ。
 彼等は良い。
 彼等は面白い。
 彼等は一言言って平伏す輩とは格が違う。そして強ければ、強い程良い。
 特にキース・ソロモンとは気が合う。其れ以外は? と聞かれるのであらば――、
「ああ、来れば来ると思ったワケだ」
 悪魔に命を捧げた憐れなる少年の、まだあどけないベビーフェイスがやけに歳を帯びて見える。褐色で、細身の、名も知らない少年の身体から覇気が見える。
 ――此の上無い、幸運に感謝しよう。
 偶には気まぐれに気まぐれを重ねて、『瞳に入らない存在』の願いを聞いてやると、こうやって自然と見返りはついて来るようだ。
「そうだろう? 覚えていたさ、『箱舟』」
 声色こそ幼い。まだ声変わりが始まったくらいの、其の声に力がある。
「……また、お前に会えるとはな?」
 『元・剣林』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は言う。思い出される――昨年の九月は説明する事も無いであろう。
 あの時、あの日は日本を獲りに来たキースの腕の一つとしてキマリスは配置されていたが、今回は違う。己が意思で此処に来た、媒介こそ脆いものの。
「オレのコト覚えてるかッ? また遊んでくれるって約束したよな!」
「ああ、良くぞ死なずに生き延びてくれた。友人を作るとしたら、貴様の様なものが良いと思ってンぜ? コヨーテ、覚えている其の名を」
 『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)がまるで子供の様に輝く笑顔でキマリスに近づく。危ない、と思えた『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)なのだが未だにキマリスから殺気が感じられないのと、コヨーテのあまりの嬉しさが伝わってくる為に、伸ばした手をひっこめた。
 うんうん。コヨーテくんの尻尾がぶんぶんと揺れている……様な気がする。尻尾は無いけれど。
 愛らしい空気に、こほんと咳払いがひとつ。
「御機嫌よう、異界の闘争神よ。申し訳ありませんが此処より先は通行止めです」
 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が一つ、賽を投げた。その一言でキマリスが今後如何するのか、何をしに来たのは知っていると理解させる事は可能だろう。
「だろうな」
「それに、戦いたいのでしょう? ――私達、アークと」
 無表情であった少年の顔が、今、此れ以上無く口が横に裂けて笑った。
 嗚呼、嗚呼、思い出される九月。此の騒げる罪の血を止めてくれるのは箱舟の使徒か、どうであれ闘いの中で見出せる快楽が早く、早く欲しいからこそ口の中の涎が溢れる。
「……まァな?」
「早い再戦ですよね。どうですか、人の身体は」
「久しいな、勇者。心地いいとは嘘でも言えないが、仕方ない。俺の本体でやると身体が持たないだろうからな、此れぐらいで丁度良い」
 『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)も前回の戦いで倒れていたが、再び足を運んできてくれていた事にキマリスは嬉しいのだろう。舐めるように光の身体を見回して、口の端から液体が我慢できずに垂れ流れる。
 そして、『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が知りたい事は一つ。
「キースは……如何してるの?」
「おいおい待て待て、俺よりキースか嬢ちゃん! まァ良いか、そんなもんすぐに知るさ」
 キマリスがキースの現在を知っているとすれば、たった一つ。彼(キース)が刃を研いでいるという事だが、主の情報をあっさりと渡す辺り、キースは魔神の管理を今現在厳しく行っていないようだ。
「其の情報、信用できるか微妙臭いですけど」
「そっちが信頼しようがしまいが……俺には関係無いからな」
 『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)が目を細め、信用薄いようにじとっと彼を見たのだが確かに闘争神たる彼が『その他どうでも良い事』に嘘を吐く理由も無いようだ。
 神とは面白い。
 キマリスに限って言えば馬鹿な程に単純だが、狂おしい程純粋である。
「所で、少年の魂とやらは……」
「ほう、気になるか? 此の身体の中身部分は此処にあンぜ」
 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)はキマリスが今憑いている、少年の方が気になるようだ。
 そも、ボトムに魂というものが存在するかは別だ。只、此のキマリスであるからこそエリューションフォースでは無いナニカを捕えられた。
 彼の褐色の右腕に灯る、赤紫色の炎。悲しみと苦しみと恨みが混じりに混ざった様なものであった。其れを見た刹那、
「狂ってる……」
 『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は胸の奥から怒りがこみ上げて来た。たった一つ、魔神が混ざっただけ。其れも気分で来ただけで、大勢が死ぬ。そんな理不尽が彼女は信じたくは無いのだろう。
 増幅する怒りに呼応するように淑子の長い髪の毛が重力に反して広がっていく。其れを隠す様に『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)は前に立った。
「キマリス君、その少年の魂。契約を果たせなんだ時に持ち逃げするような無様はやめてくれたまえ」
 朔としては彼の魂が今後如何なろうと興味は無いのだが、契約を果たせなかったキマリスが其れを破ってでも魂確保する下衆であるのなら、これから戦う上で期待も薄れる。
 そんな真似だけはされたくない。
「これは頼みでも、まして命令でもない。私の敵が戦うに値する相手であって欲しいという、私の願望だ」
「……あ? 考えてなかった。そうだな、それもそうだ。それくらいお安い御用だぜ。ただし」
 ―――見事、契約を破綻させてみせろ。
「さてそろそろ、お喋りも過ぎた。俺とお前等の共通言語は言葉じゃあ無い」
 キマリスは拳を前に出した。
「こっちだ」
 ゾクゾクゾク、と身体の奥から感じる震え。其れは決して恐怖から発生するものでは無い。朔が、コヨーテが、虎鐵が、そして天乃が感じたのはそういうものであるのだろう。
「さぁ、戦おうぜ? 魂が震えるような戦いをよ!!」
 虎鐵の巨大過ぎる太刀が片手で持ち上げられ、刃の先端がキマリスへと向いた――。

 キマリスにはNo.66という特殊な能力がある。ハッキリ言ってしまえば、キマリスは此の能力を好いてはいない。
 アフリカの悪霊や軍を従わせる将軍であるから故の、能力なのだろうが。意味は、『従わせる力』という垂れ流しで単純な力だ。
 だが此れは強者や体力的に元気な者には通用しない能力だ。彼が彼の世界で頂点に居るのは、全て此の力のお蔭とは言えないであろう。
 先程も言ったが、垂れ流しの能力――つまり、キマリスが発する『言葉』には全て『言霊』の力が乗るのだ。例えばキマリスが一般人に『死ね』と言ったのならば、それは確実に起こる未来という事になる。
 其れをキマリスはあえて使った。
 彼にとっても心苦しいだろうが、魂を獲った身としては契約は果たすべきもの。
 それにだ、もし此の能力を使ってすぐに果てる程度のリベリスタであるのならそれまでだ。面白味も無い、逆に言えばそうなのであれば、今後彼等を見ても面白いとは思えなくなるだろう。
 そうじゃなければ、涎が出る程楽しいだろうし。そうであって欲しいと内心思い。

『戦えない奴はいらねぇ、『平伏し』、『命乞い』をしろ!!』

 大地は震えない、重力は大きくなる事も無い。だが、だが、
「わぁ!?」
「うぐぅっ!!?」
「っ!!」
「――は!?」
「んんっ!?」
 壱也、ミリィ、ウラジミール、シィン、淑子が砂に縫い止められるように、頭を下げかけたのであった。
「なんだッ!? また皆、腹ァいてェのかッ!!?」
 コヨーテには解らない。前回も解らなかったのだから。
 まるで地面に大きな磁石でもあって、其れに引き付けられているかの様になる平伏せという、言葉の魔力。されど身を任せてしまえば、立ち上がる事がきっと困難であろう。
『よしよし、偉いな。誉めてやらんでもない』
「また、それか」
 虎鐵が呆れ混じりに言ったのだが。
『悪いな、俺も此の身体で全力でやらねえと負けるだろう。なんだ、全力を出さない方が良かったか?』


 キマリスの足下より、影が膨れ上がる。其れは馬の形を成し、キマリスを乗せた。周囲には、地面から這い出て来たように悪霊が影で出来た武具を持ちゆらりと揺れる。
 ビリビリとキマリスから醸し出される覇気に、空気が揺れた。肌で感じた其れに、
「――来ます!!」
 ミリィが指揮棒を構える。其の先端にはキマリスを合わせて。
『やれ』
 半目で、キマリスがそう命令を下した。瞬間的に動き出したのはキマリスもそうだが、リベリスタ達も同じ。
「『閃刃斬魔』、推して参る」
 朔が先手を取り、其の場から足跡だけ残して消えた。気が付けばキマリスの眼前で回転しながら葬刀魔喰を振り回す。
 馬の首が吹き飛び、だがキマリスは姿勢を逸らして刃から逃れた。
 だが朔は此れでは終わらない。突き出した足、刃と共に放った片足の蹴りをキマリスの懐を捉えつつ、だがキマリスは朔の足を掴んで一回転振り回し、朔が来た道へと強制的に投げ返した。
 バウンドしながら着地して勢いを止めた朔が、顔を上げた。首無い馬の上に立ち上がったキマリスだが、
「さあ、踊って……くれる?」
『速ェなオイ!! ハハッ、いいぞ俺でさえ見えなかった!!』
 背後に辿り着いた天乃。
 キマリスの目線が後ろへ流れていくのと同時に、生み出した気糸が天乃の手から投げられる。
 背を足場に跳躍したキマリスが気糸に絡む事は無かった。何処を狙ってんだと言いたげの瞳でキマリスは天乃を見たが、天乃の瞳が細くなって笑った。
「狙ったの、お前じゃないし……」
 馬が其れに絡んで動きを封じられた。成程、天乃の殺意がビリビリとキマリスを楽しませていたのは手の込んだフェイクで、狙いはそっちか。そう気づいた時だが、キマリス再び後方――
「空中だと足場はねぇぜ?」
「いくぜッ、キマリスッ!!」
 空中にキマリス、虎鐵、コヨーテの一柱と二人。
 リベリスタ二人は、刃と拳を振り上げ、そして降ろしていく。身体を捻らせてコヨーテの拳をいなしたキマリスは、彼を足場に地面へと逃げた。其の一瞬の間に振り落した虎鐵の巨大過ぎる刃が、キマリスとコヨーテを分かつ様にして振り落された。
 地面に足が着いたキマリスだが、眼前で淑子が斧により馬の前足を綺麗にカットした所を目撃。そして降り注ぐ光の雷――だが片手で掴んだ雷撃を握りつぶしたキマリス。

 しぃん……。

 と静まり返った戦場。そして刹那、クックックとキマリスの肩が揺れた。
「く……ククク、はは、ははははははははははははははは―――!!!」
 暫くの間、魔神の大爆笑をお楽しみ下さい。
『はは! ははははは!! 面白いな、そうだ、こういうのは良い、良いぞ、もっとだ、もっとやろうぜ――!!』
 たった十秒が過ぎた時であったが、欲しかったものが目の前に全て凝縮されて置かれているのには我慢がならない。
 さて、というようにミリィは言う。
「準備運動は、終わりですか?」
『ああ、次からが本番だ!』

 張り裂けそうなくらい胸が高鳴る。
 ぞくぞくと心の奥から湧き上がる何か。朔は、其れに対して愛にも似た、恋にも似た甘い甘いものを感じていた。
 息をつかせる暇なんぞ与えてやらない程度に、朔の足は止まる事を知らない。キマリスの眼前に位置を取ったかと思えば、背後に廻る速度の鬼。繰り出す、刃に殺意を乗せて。そして一閃。
 其れを朔の腕ごと受け止めたキマリスは言う。
「あ? なんだ、此れ」
「――葬刀魔喰」
 亡き家族が残した、一振りの刃。悪名高い魔女の作品は、留まる事を知らない朔の欲を表しているのか妖しいオーラが放たれているのは止まらない、止まれない。だが其の刃は主をも蝕む。現に、ポトリと朔の腕から血が滴って止まらない。
「独り占め、良くない」
 キマリスの背後に回った天乃の気糸がキマリスの首に絡みついた。キュ、と縛られた首と気糸ワイヤーの間からぷつりと血が溢れ出した。
 ゲボ、と一つ咳をしたキマリスだがすぐに気糸を両手で引きちぎって切り離す、あまりの馬鹿力に一瞬目の動向が全開になった天乃だが、刹那、解けた糸をキマリスが引き寄せ天乃を朔にぶつけた。
「ちょこまかと……!」
 舌打ち一回、放った天乃の目線の先でキマリスは駆けた、駆けた、駆けた先―――さあ、ガチンコだ!!
『遊ぼうぜ、なあ!!』
「おうよッ!!」
 まるでキマリスとコヨーテは友達同士が集まる様。しかし其れは熱い抱擁をかわす同士では無く、拳に殺傷威力を乗せて撃ちあう中だ。
 覚えてるか、機械の君。
 格闘は得意では無いとキマリスは首を振っていた事を、だが、
『頑張って魔神相手に練習してきたぜ!!』
 少年の身体(キマリス)がコヨーテの正面から少々の跳躍と共に回し蹴りを放つ、直撃した其れがコヨーテの首から嫌な音を奏でた。
 威力のままに一回転だけ回ったコヨーテの身体だが、キマリスの其の威力をそのまま利用して右手を振り上げキマリスの頬を穿つ。此方も首を回しかけたが、回さないように首を抑えたキマリス。
『なんだ、精密さと威力は上がったようだな。素晴らしいぞ、コヨーテ』
「俺だってあン時から毎日寝て過ごしてねェからなッ!!」

 其の頃、死霊が最前衛組みを邪魔していないのは、ミリィのアッパーが効いていたからである。
 ミリィの優しい心で少年の事を気にすれば気にする程、キマリスの命令が威力を増して、重力が下に下にと叫んでいる。
「う……」
 目線だけ一瞬、下を見れば己が足が砂に埋もれていた。
 キマリスの命令とは、彼の能力とは、もしかすれば食物連鎖の頂点を極められる理不尽な能力ではあるのだが、其れを使わないからこそ侯爵止まりの地位で落ち着いているのか。否、地位など欲しいとも思ってはいないのだろう。
 本当に闘争しか望んでいない神には、闘争で答えるしか方法は無い。それは紛れも無い事実であろう。
 指揮棒を構え、アッパーを放つ。其れが味方の助けになると信じて、だが一斉に敵として大勢が映すミリィの姿。これらが一斉に彼女を蝕んだとして、何ターンが限度であろうか。
「二十秒……でしょうね」
 刃を持て、弓を持て、と迫ってくる死霊の姿。だがミリィは一筋も怖いとは思わない。痛みも、苦しいのも、覚悟済でから恐れる事もない。戦車だろうが軍隊だろうが指揮棒一つで押さえつけてやるくらいの心構えだ。
「大丈夫だ、ミリィ嬢は自分の仕事を遂行せよ」
「まだ、終わりには早いでしょう?」
 ミリィの前方にウラジミールの大きな影が立った。後方には戦線を支えるシィンがウィンクを一つ。
「お願い致します。彼等の矛先さえ曲げていれば、きっと、きっと勝機は――!」
「ウダーヂ、了解した」
「まっかせなさーい!」


 ウラジミールから「『挨拶(プリヴィエート)』だ」と受けた傷は未だ治らない黒馬。そして飛ばされた頭は何処知らず。 
 しかしこの子も魔神の右腕だ。すぐにへばる程度では無い。再び生えて来た頭が、壱也の首を噛み千切っていく。ギリィと奥歯が鳴った壱也、しかし傷は逆再生をしているように治っていくのは彼女の真骨頂だ。
「キマリス!!」
『なんだ』
「馬、ちゃんと躾といてよ。女の子は餌じゃないし顔は蹴っちゃ駄目だって!」
『ははは! 面白い』
「ははは、じゃない! 面白くもない!」
 馬のものとは思えない咆哮が響いた刹那、鈍い音と共に壱也が少し後方に吹き飛んだ。なんとかして二本の足を地面に縫い止めて倒れなかった彼女だが、朝に食べたものが逆流しそうになるのを止めた。すぐさまシィンが回復の詠唱にはいった、今回のチームの要こそシィンである。仲間が傷ついた其の瞬間を見逃さないのは、今までの依頼で培った経験が言うのだろう。
「むっかー!!」
 羽柴ギガントが上から、下に。エジプトの砂道に刃を大きく食い込ませた。砂を削る様に軌跡を描いて走り出す、其処には光のチェインライトニングが一緒に同じものを狙って並走する。
 近づけば回転力と共に放つ、あまりの速さと威力から繰り出される攻撃に両腕の皮が引き千切れ骨が軋んだとしても止まらない。再び断頭した馬の頭、揺らいだ其の肉体が早くも体力の底を見え隠れさせた。天乃の刃を抑えながら、横眼にひゅーと口笛を吹いたキマリスが、此処で、思わぬ事を口にした。
『魅力のある女は嫌いじゃない。壱也だったか、力が欲しくないか? 使い方はお前次第、俺の場合は闘争をさせる為に使うが、誰かを護れる力でもある。……俺と、契約しないか?』
 ザク。
 壱也とキマリスを分かつ様に大戦斧が振り落された。砂煙を上げ、そして揺らめく淑子の姿。
「馬鹿言わないで、貴方は人の命をなんだと思っているのです……!!」
『……次にもし会えたら、答えを聞こう。他の奴等でもいいがな、俺は戦う奴が好きだ――!!』
 ぶおんと軽々しく振られた斧がキマリスの眼前を通過していく。本来ならば淑子のような華奢で愛らしい少女が振るうはずも無いものが、まるで手足のように簡単に。
 許せない、あり得ない、理解しがたい。だがそう思うごとに淑子の力が、否、キマリスのNo.66の制限が高くなっていく。
 縦に、横に、斜めに、もう一度縦に。キマリスが縦横無尽な刃の乱舞から後退していけば前方へ歩み、淑子の斧は怒り狂っていた。
『人間には、時折理解できない奴が居るな』
 暇潰しで来た魔神。それによって大勢が死ぬ事、既に一人が死んでいる事。
 淑子の中で其れが重なるのは、己が両親が暇潰しと題したなにかに殺された事。だからか、許せない、そんな理由で罪なき者の命が奪われる事が。
「そんなに暇が厭わしいなら、わたしが殺して差し上げましょうか」
 ――暇なんて、感じられない程に。
『ああ、いいな。此の俺の滾る血を止めてくれるのなら歓迎しよう、女』
 大戦斧の間合いにキマリスが、更に其の奥に入った。淑子と少年(キマリス)の顔が、吐息がかかる程に接近していく。
『生きる意味が『闘争』の俺に、果たして女ァ……お前が俺を裁けるのか?』
 両手を地面につけて勢いを増し、両足で淑子を押し返したキマリス。
 だが直後。
「よぉ、あれから俺は更に強くなったぜ? 楽しんでいけよ!」
 虎鐵の斬魔・獅子護兼久が月明りにギラリと光った。
 背後だ、キマリスが振り向いた時には遅すぎた――もう振り落された刃に、格闘で対抗すれば腕ごとイってしまうだろう威力を持ったそれに。
 金属と金属がぶつかり、響き合う音が響く。
 キマリスの頬から一筋の汗が流れていく、地面に背を、上には刃を振り落した虎鐵の姿が。その間には、
「やっと武器を出したかよ、おっせーんだよ」
『あ……ぶねー……ククク、ハハハハハ!! 惜しいな、惜しいが……』
 彼等の間には、少年が握っていたのはキマリスが愛用する不器用な形をした片手剣であった。虎鐵を弾いたキマリスは器用にもバク宙しながら体勢を立て直す。其の姿は、片手剣と盾を持ったいつかの姿。
『やるな。……そうだった忘れていた、何時もお前、虎鐵? お前が俺を楽しませる、まただよ、またじゃないか!! ほら見てみろ!!』
 盾を持った左腕がぷらんと揺れた。まるで言う事を聞いていないのか、よく見れば左肩がパックリと割れていた。キマリスの力で強化された身体であれ、虎鐵の力はそれを凌駕した。
「次は右腕でも貰おうか?」
『ハハハハハハ!! そうさ、こうじゃないとな。一方的程つまらないものは無いさ、これでいいんだ鬼陰虎鐵!!』
 そしてキマリスの目線がコヨーテに流れた。
『悪いな、やっぱり格闘は俺は疎いらしい』
「お前が全力出せるならッ、俺はそっちの方がいいぜッ!」
 そして何より、早くも脆くてガタが来た少年の身体。ついに、ぼとりと落ちた少年の腕。
「しかしよ……テメェの身体を動かしてる訳じゃねぇから実際はそんなに戦ってる気にはなってねぇんじゃねぇか? 前はなんだかんだで実体だったじゃねぇか……ま、俺は結構楽しんでるんだけどな?」
『ああ、そうだな……実体か……実体』
 具現化はできない訳では無いのだが。やれば恐らく少年の弱すぎる身体が数秒で塵になってしまうだろう。
 ひとつ、砂を蹴ったキマリスは悔しさを感じていたのだろう。何故己は魔神であり、回りくどい事をしなければ此の世界の彼等と遊ぶこともできないとは。
『神が悩んだ時は誰に頼ればいいか。まあ、そんな事よりもっと忘れられない傷跡を俺にくれよ』
「壱也さん、頭ひっこめて!!」
「へっ!?」
 ミリィの叫びに反応した壱也が回避した。その頭上すれすれのところ、力を凝縮させたような砲弾が飛んでいったのだ。アルティメットキャノンな訳だが、キマリスが出したのは何かそうじゃないような異様な力。
「今私狙った?!」
『魂回収してやろうかと思っただけだ』
「それ引きずるのやめて!?」

 キマリスが武器を出してからだ、確実に戦いの流れは変わっていた。左手こそ無くなった彼ではあるが、得意の剣を意のままに操るのは苦戦の流れ。
 ただ、リベリスタもそれで負ける訳にはいかない。揺るがない貪欲な、勝利への渇望が続く。

 此処に正義も悪も無い、あるのは何方かが勝ち、何方かが負けるだけの話だ。

「……く」
 服が破れ、全身傷だらけであるのはウラジミールであった。死霊の群の撃を其の身ひとつに受け、確かに彼は体力は防御には長けた……痛みには慣れている部類のリベリスタではあるだろうが、数を受ければ傷の数は増える。
「大丈夫ですか?」
「ああ、問題は無い。問題は……」
 其の背にミリィを置き、されどウラジミールはだからこそ負けられないのだと、油断すれば震えて折れる足を立たせていた。ミリィのアッパーが敵を集め、それをウラジミールが庇う。庇ったのをシィンと光が回復し、前衛はキマリスに集中できる。とても有効な作戦と手段であった。
 人語さえ話さない死霊の咆哮と恨み、そして刃を身に受けて。だが目線の先ではたった一つ、復讐に散った少年を見ていた。
 彼の復讐劇は是は否かはウラジミール一人の頭ではわからない。きっと、おそらく答えは出ないものなのだろう、何が悪いのかなんて此処の正義感で全てが変わる。
 死霊の中に駆ける、ミリィの裁きの光。其の一瞬、死霊たちの間からキマリスの姿がウラジミールには見えた。
「本当に復讐をしたいのはそれを止めることができなかった自分ではないのかね?」
『……俺に言ってんのか?』
 虎鐵を蹴り退けたキマリスがウラジミールの声を聴いた。恐らく、其れはキマリスの手の中で拘束された少年の魂に語り掛けたものなのだろうが。
『無駄だぞ、老兵』
「だが、少年の魂は返して頂きたい」
 ぐん、とウラジミールを囲う重力が高くなった。へばりつきそうになる身体を持ち上げ、ミリィは其れを肩を貸して支えた。
 魂が返されないと、復讐に変わる解決法が見いだせない。
 魂が返されないと、少年は二度と母親のもとへは帰れない。
 ――それは、それはあまりにも残酷な事だから。
『望んだのは、少年の方だがな』
 此の悪魔が、初めて悪魔らしい事を呟いた。キマリスから放たれた砲撃がコヨーテを飲み込みながらウラジミールを巻き込んだ。
 即座に、
「まだ、終わりには早いでしょう?」
 二匹のフィアキィが両手を合わせて祈った。其の主、シィンが願えば緑一色の光が戦場を包み込む。其のあまりの眩しさにキマリスは目元の前に腕を置いて、影を作った。
『人間じゃねえのもいるんだな』
「エクスィスが守りし世界の住民、フュリエが闘争神をお持て成し致しますです。遊んで行って下さいです」
 彼女の回復が軸と成ってリベリスタ面子を守っていた。キマリスこそ、回復が誇る彼女を狙いたいものなのだが、他を優先してしまっていたのは少しでも長く此の戦闘を終わらせたくないからであっただろうか。
『人間は面白いな、フュリエとやら。それが気に入っているから力を貸しているのだろう?』
「……フュリエも面白いですよ。異界人同士仲良くします?」
 おもしろき、こともなき世を、おもしろく。
 シィンの指が前を向く。確かに今回復したばかりではあるのだが、詠唱は既に終わっていた。正面向きの指にフィアキィが触れて、共同で作り出した魔法陣が回転した。
「さ、少し熱くなりますですよ!!」
 刹那、爆発音。死霊に黒馬、キマリスを巻き込んで放たれた爆発が彼等を一斉に押し込んだ。
 砂煙の間、其処から元気に抜け出してきたキマリスを朔が抑え込む。此の手で捕まえて、刃を心臓に突き刺して――だが、そうする前にキマリスの片手剣が朔の心臓をクリティカル。
 倒れ伏した朔を瞳に映せば、壱也が邪魔、邪魔だと黒馬に大剣を振り落した。黒馬の影が一瞬だけぶれた、其の、刹那の間、黒馬の足が淑子の胸を貫いてしまっていた。


 キマリスの肩に足が乗った。天乃の其れ、履いていないだろうが其れはキマリスには関係は無い。振り落そうとした直後だ、気糸がキマリスの首に絡んで解けない。
 此の位置から撃てば逃れられぬと踏んだのだろう、そしてミリィの助けもあったのだろう。何よりミリィは軍師である、戦況を正しく定めて暗算すれば仲間の攻撃が直撃する位置なんてすぐに割り出してしまう。
 解けない、抜けられない、気糸の呪縛地獄。
 何か、一言、そう例えばキマリスが『離れろ』と言えば――
「彼女に、No.66は効きませんよ」
『やらねぇよ……!』
 ミリィの言動が間に挟まれた。楽しい戦闘をまるで自分に有利にするような事は、キマリスはしないだろうがそもそもそんなのは天乃には意味が無い。
「私を、否定、させない……」
『今まで、どんな地獄を見て来やがった?』
 ただ。血を流し、身を削り、命をすり減らし、運命を投げ捨てるようにして闘ってきた天乃。其の経験の中で既に彼女こそキマリス同じく、戦闘欲こそ自身の現れ。NO.66が効いてしまえば天乃は天乃では無い。
 ギリギリと締まるキマリスの首。遂に首がはち切れそうな程。天乃の腕に力が籠っているのか、ぶつぶつと否定させまいと呟きながら逃がさまいと言う。
 人間の身体とは、脆いもので。
 首を絞められただけでキマリスが止められると思うなと叫ぼうかと思った刹那、虎鐵の剣が上半身を綺麗に切り裂いていく。直撃してしまえば、それこそ身体を分断されてしまうだろう一撃をまともに受けるヘマはしなかった。だが、振り切った虎鐵を乗り越えてコヨーテが炎を従わせて拳を振り上げていた。
 楽しくて仕方が無いのは一緒だ、こういう死線を乗り越える寸前が一番楽しい。虎鐵さえ其処で終わる事はしなかった、当たらなかった刃をもう一度と振り上げて来る。
 其の隣から淑子が斧を回転しながら振り回し、倒れていたはずの朔が起き上り、脳天から垂れる血を一舐めしてから女のものとは思えない闘争心に満ち満ちた瞳を向けていた。
 笑ってしまう、笑ってしまうな。
 そういえば、デュランダルのスキルの中にはこういうのを一掃できるスキルがあるそうな。それはどうやって撃ったか、確か、こうだったか――。

 体力が減りきり、名の通りに暴れ出した黒馬は非常にまずいものであった。其の儘誰しもが止める事が出来ない程に荒れ狂う此れが、ミリィに、否、ウラジミールに牙を剥いてしまえば。彼の元々死霊の攻撃を受け止める其処に黒馬の圧力が乗ってしまえば、こうやって彼のフェイトが飛ぶのも早かった。
「――今すぐ!!」
 だがシィンはそれでも冷静に、回復を祈り、与え、癒していく。
 出た血を止め、身体の呪いを弾き飛ばしていく。重なったのは、光の回復だ。此の面子でありなら、回復の力も高かった。そして――
「いい、加減に、してください!!」
「そろそろ終わらせるよ、黒馬なんかに構ってられないんだからね!!」
 光が其の侭雷撃を唱え、壱也が再び剣を振り上げた。荒れ狂う馬が迫るはシィンだ、だが其の前に立った二人が懇親の力を解放する。
 何処に其処までの力が眠っているのか、剣を振り回す壱也が、だが其の柄を掴む両腕は例えシィンや光の回復を施したとしても血が止まらない。其処に痛みは確かに感じていたが、だけれど痛いと嘆く事はしない。
「こんのおおお!!」
 上から下、突っ込んで来た黒馬を、縦に切り裂いた壱也。
 真ん中から避けた黒馬の影だが、其の儘壱也を通過していく。其処に、光が打ち上げた雷の子種が暗雲を生み出して、雷を落とした。
 二体の招雷が綺麗に黒馬に直撃すれば手品の様に消えた黒馬の姿。
 瞬時に、チ、と舌打ちしたキマリスではあったのだが――が、
 が、
 が。
 光の瞳の先。
 剣を振り上げたキマリスの姿が見えたのだ。
「あ」
 ―――ぶない、と言いかけた所で遅かった。

『俺の、勝ちだな箱舟共』

 急展開。
 ニィと笑ったキマリス、最早片手しか無いその腕で刃を振り落せば麻痺の嵐が前衛のリベリスタを包み込んだ。例えシィンの物理無効が施されていても無駄であった、此の嵐は全てを弾き飛ばす。特に神秘傾向の技であるが故に、特に今回の前衛には神秘に弱い者は多かった。
 身体を切り裂かれ、吹き飛ばされ、膝をつき、倒れた前衛こそ多かった。砂煙と、倒れるリベリスタの間をキマリスは進んでいく。
 見ゆる先には、少年が滅びを望んだ街。一歩一歩、其の街の終焉をカウントして歩いていくのだが。
「―――……お待ち、下さい」
「誰が、勝ったって……?」
 たった、五人。
 最初にミリィと光が立ち塞がった。ウラジミールさえ、ミリィに抱えられているがまだ倒れきる事も無く。壱也が剣を構えて後衛の彼女らを護る心算だ。
 キマリスの瞳に、其の彼等は輝いて見える、そうだ闘争こそ素晴らしい。最後の最後の最後まで番狂わせは普通に発生するからこそ、油断してはいけなかったのをキマリスは忘れていた。
 光が奏でる回復の息吹。シィンの発動させる緑のサンクチュアリ。
「ボクらは、ボクらはまだ、負けてはいない!!」
「まだまだ、終わらないですから!!」
 重なるのはミリィのアッパーで、キマリスを縫い止める為の決死の策だ。
「此処から先には、行かせられないのです! 少年の魂の為にも、街の人の為にも、貴方に殺しを行わせない為にも!!」

『――邪魔だ、平伏せ』

「あぐっ」
「うわあ!?」
 No.66か。
 体力の少なくなっている彼女等、そして彼との闘い以外を望む事でキマリスの其の能力は特に効きやすくなっている。
 砂を食み、砂を掴みながらも頭だけは下げまいと抵抗する五人にキマリスが近寄った。右手にぶら下がる刃からは仲間の血が滴っている。其の一部に私達も成るのだろうかと、汗は止まらない。
 ウラジミールの首を掴み、持ち上げれば簡単に彼の足は地面から離れた。キマリスの足を掴んだのは光だ。
「ボクは、何かを、誰かを、護るためなら命なんか……!!」
『そうか』
「ボクは、村も仲間も護りきってみせます、だって、だって――ボクは、勇者だから!!」
『そうか』
 例え指しか動かなくなったとしても抵抗するのだと。命の最後の一滴まで燃やし尽くさんとする光の瞳が諦めないと訴えかけていた。
 此の状況で、今やたった四人になった状況で――――本当に、本当に?
「皆、起きて!! こんな場所で終わるボク等じゃないでしょ!! 起きてよぉ!!」
 じたばたと足を動かす光、だが其の時。ウラジミールの身体が地面に落ちた。見れば、少年(キマリス)の右腕が遂に取れていて。
『チッ。これで、本体ならこんな事にはならなかったんだがなァ……』
 血がぼたりぼたりと平伏しかける彼女らの身体に落ちていく。其の腕の代わりと言ってはなんだが、キマリスの本来の腕が少年の身体から突き出して生えた。其の腕の感触を確かめている間――。
「フフ」
『ん? どうしたウラジミールとやら』
「いや、貴方には見えませんか、此の光景が」
『……―――?』
「お気を付けたほうが良いな、我等箱舟は如何にもしぶとい」
『……―――あ?』
 ずどん、と衝撃がひとつ。腹部を見れば、先ほど見覚えがある妖しいオーラの刃が刺さっている。

「勝手に戦いを終わらせるなよ。時間が無くて急いでんのか? なら、最後まで楽しめよ、『此処』で」
「まだだ。まだ物足りない。もっとだ、もっと本気を出してみろ。儀式が不十分だとか、その体が限界だとか知ったことか。そんなもの根性で何とかしろ」
「……リボン取れた」
「ハハッ! 今ちょっとッ、痛かったぜッ、イッちゃいそうになったぜッ!!」

 ゆら、と立ち上がった四つの影。番狂わせか、冗談じゃない。確かにあの時、殺した、確実に殺した。殺した感覚があったのに――何故生きて。
「リベリスタには、フェイトというものがあるのをお忘れですか?」
 最後に立ち上がった淑子が言った。
 運命を従わせ、運命を引き寄せるその残機。まさか其れが全身内臓露出する程切り裂いてもまだ立ち上がらせるとは。
『ク、クク、いいなぁ、おまえら俺の箱庭に全員閉じ込めて永遠終らない闘争を続けさせたいなぁぁ』
「おい、どうした、貴様……!!」
『わりぃなぁ、時間だ』
 膝を着き、地面に胴体が倒れた少年の身体から血が噴き出し砂に其れが吸い込まれていく。復讐の望み果たせなかったものの、なんとも酷い。
『人間は脆いな、こんなに直ぐに壊れてしまう。俺が触れば壱日として持たない』
 倒れて動かないが、口だけは動かせるようで。最早見えていないだろう瞳は、影って死んでいる様。
 まだ戦いは終わっていないと朔が少年の胸倉を掴んで訴えたのだが、だが、制限時間は楽しければ楽しい程あっという間に過ぎてしまっていた。
 コヨーテは言う。血が噴き出し、止まらない身体へと。
「なァ、あの時名前を呼んで貰ってどんだけ嬉しかったか、分かるか? ずっと頭から離れなくて、会いたい、欲しい、二人の時間がずっと続いてほしいって思ってた」
『ああ』
「したコトねェけど、こォいうの恋ってェの? いや、恋なんかよりずっとずっと楽しくて、気持ちイイよなッ!」
『そうだな、同感だ。……そういえば、契約は果たせなかった暁には、なんだったか』
 その時、何かを察した淑子が手を出した。
『ああ、そうそう、そうだったな。返そう。こんなものが欲しいのか? 物好きだな、人間は。貴様等には煮ても焼いても食えぬものなのに』
「貴方には、必要無いものでしょう?」
 揺らめく緑の炎が、手渡された刹那。元の身体に入り込むように消えていく。
『そうだなぁ、契約も成立しねぇ、お前等とは最後まで遊べねぇ。こんちきしょう、散々だ。おい、契約主、復讐したいなら『生きて』自分でなんとかしろ』
 刹那。
「痛っ!? いっ、いぎゃっ!? いだああ腕!? いだああ、ぁああぁぁああ!!!!!?」
 叫び出した少年と、顔を見合わせたリベリスタ。すぐにシィンと光が少年の傷を癒す為に詠唱を行った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
依頼お疲れ様でした、結果は上記の通りになりましたが如何でしょうか
まずは遅れまして大変申し訳ございませんでした
皆さんの熱いプレ、とても素敵でしたので死者が出ないという方向へとなりました
久しぶりの魔神で夕影も楽しく執筆できましたありがとうございました
それではまた違う依頼でお会いしましょう