●つまるところは 別段、何を考えてのことではない。 ただ単に新しい世界が好ましく、ただ単に冷え切った空気が心地よく、ただ単に日差しが暖かだった。 そういうものだ。 物事すべてに大して、何か壮大な理由が必要なわけではない。 ごく簡単な話だ、『ただ単純な、そうした事柄』が積み重なった結果、そうしようと思い至っただけなのだから。 否、思い至るという言葉自体、大仰と言えるのかもしれない。 気付けばそこにいたから、何となく足を踏み出しただけなのだ。 物事の始まりなんていうものは、得てしてそういうものだ――少なくとも、そのちっぽけならざる来訪者にとっては、まさしくその通りだったのだ。 ●必要なのは 「鼠が大量発生したので回収して下さい。以上」 全く感情のこもらない声での、淡々としたごく短い説明に、ピンク色が大きく腕を振り回した。 『ええい、鼠じゃない! ちゅーぽっぷさんだ!』 首はないまでも、首の後ろとでもいうべき辺りを摘まれた、ピンクの無地に赤い花柄のパッチワークのテディベア――自称『くまくま盗賊団』なる一味のボスが、猫の子よろしくぶら下げられたままでふかっとした両腕両足をばたつかせる。 そんなテディベアもどきをぶら下げた腕を突き出すように伸ばして、『直情型好奇心』伊柄木・リオ・五月女(nBNE000273)は迷惑そうに眉を寄せた。 「そんなこと言われてもなぁ。こんな真冬の最中、テディベアに呼び出されるこっちの身にもなってくれ。あー寒い」 『テディベアじゃない、くま頭領だっ!』 歯軋り……でもしようとしたのか、もふもふのお口をもにゅもにゅさせながらくま頭領が空中で地団駄を踏む。 けれどその内に諦めたのか、ぶら下げられたままで肩を下ろすと、集うリベリスタ達に顔を向けた。 『えー……ごほん、つまりだな。我々が移動用に開けておいたディメンション・ホールから、ちゅーぽっぷさんの群れが雪崩れ込んだみたいなんだ』 「明らかにお前の過失だな」 『だからこうして、協力してくれと頭を下げてるんじゃねぇか』 頭を下げると言いながらふんぞり返ったくま頭領に、五月女がげんなりとした視線を向ける。 「クマ公曰く、そいつらに大した戦闘能力はないらしい。ついでに甘いものに目がないって話だよ……鼠なのに」 『ちゅーぽっぷさん!』 「とにかく、だ。そういう訳だから、早いところ討伐するか、回収して送り返して欲しい。――幸いこの広場より外に逃げる前に封鎖も出来たようだし、人目は気にしなくて済む筈だ」 狭いとは言えない広場を見回した五月女が、後はよろしくと言いながら、傍にいたリベリスタにテディベアもどきを押し付けたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月14日(金)22:37 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 冬の日差しも眩しく注ぐ。 「うふふ、全長30cmのモコモコアザーバイドの捕獲ごとき、新米といえどリベリスタの私には造作もないこと――」 意気揚々と広場に踏み入った小島 ヒロ子(BNE004871)が、カラフルなもこもこがうろつき回っている光景を目にして一瞬口を閉ざす。 「って50匹か! 多いな! 団体料金必至だな!」 声を大きくしたヒロ子の傍で、『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)が傍のベンチで丸まる鼠もどきに手を伸ばして鼻面を突いた。 「敵意も害意も無いアザーバイドさんを討伐してしまうなんて以ての外だわ」 「また大量ね……」 『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)も零す傍ら、『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)が表情を和ませる。 「ネズミさんでも、やっぱりぬいぐるみ見たいで可愛い外見ですね」 「可愛い……の、かしらね、これ」 「くま頭領さんも可愛いですし、モフモフしたくなります」 ピンクのテディベアもどきへと視線を移しながら、壱和が頷いた。 「鼠みたいなもこもこのアザーバイドっすかあ、色んな色いうのが粋っすねえ」 カラフルな来訪者達を眺め、『プリックルガール』鈍石 夕奈(BNE004746)もまたしみじみとした感想を紡ぐ。 「……ま、まあ、祭りの露店に売られてるカラーひよこ的なイメージも無いでもないけど、気のせいと言う事にしとくでやす」 「最近、カラーひよこ見なくなったよな……」 懐かしむ『直情型好奇心』伊柄木・リオ・五月女(nBNE000273)が、夕奈の言葉に同意を込めて溜息を吐く。 一方でことの発端たるテディベアもどきといえば、 「まったく! 気軽に来てもらえるのは良いのだが、ちゃんと管理はしてほしいのだ」 「悪いな、うっかり油断している隙にこう、ちょろちょろーっと」 腰に手を当てた『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)に腕をわたわたと動かすものの、ボディランゲージなのか悶えているのかいまいち分からない。 「おしおきだ! ――久しぶりだな、息災だったか?」 「おうふ!」 誤魔化し口調のくま頭領を抱き上げた雷音が、縫い包みめいた身体をぎゅっと抱き締めた。 そんな風にじゃれ合う面々を余所に、『足らずの』晦 烏(BNE002858)が早速幻想纏いから取り出した蒸しパンを千切って鼠もどきの鼻先にぶら下げる。アザーバイド達に匂いがつくのを懸念して、普段の一服も今ばかりはお預けだ。 「甘いものに目が無いって話だが、腹ペコって訳じゃねぇのは幸いかな」 「うむ、腹ペコだと外の匂いに釣られて放浪を始めてたぞ」 烏の言葉にくま頭領が雷音の腕に抱かれたまま頷く。一方で『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)もまた、寝転がっている鼠もどきへと手を伸ばして尻尾を摘む。 「鼠、じゃなくてちゅーぽっぷサン? それが大量発生したのか」 「私に言わせればただのカラフルボールなんだがなぁ」 頷き返した五月女が、持ち込んだ動物用のタグを数えながら眉を顰める。 「でもちゅーだし、鼠に似てるから鼠だな」 尻尾を押さえられたアザーバイドがちちちと甲高い鳴き声を上げるのを見て、フツが口端を持ち上げた。 「それでは君にもちゅーぽっぷさんの見張りをお願いするのだ。返事ははいかイエスだぞ!」 「いえっさー! ……あれ!? ボスは俺様だぞ、俺様だよな!?」 くま頭領を手近なベンチに下ろした雷音が指を一本立てて詰め寄ると、びしっと敬礼したテディベアもどきがすぐに首を捻って敬礼を解く。 「そうだ、君も寒いだろう」 おろおろおとした抗議は気にもかけずに、雷音は真っ白なマフラーをくま頭領の首に巻き付けた。 「お。おおお!? もふもふだぞ、ふわふわ!」 もっふりしたテディベアもどきが、ぴったりサイズのマフラーの感触を堪能して声を弾ませる。 「それでは諸君、大変だろうが頑張ってくれ」 健闘を祈る、といつもの口調で告げたフォーチュナの見送りに、リベリスタ達は各々散会したのだった。 ● D・ホールに程近く、鼠の尻尾を数本握ったままずるずると引き摺られていくピンク色のテディベアに、蒸しパンを千切る手を止めて烏は思わず視線を泳がせた。 けれど放っておけば何処までも引き摺られていそうな有様に、仕方なくテディベアをひょいと摘み上げる。 「大丈夫かね」 「おお、同志よ! 救済の手を感謝する!」 勝手に同志扱いされた烏が閉口したところに、摘み上げられ漸く立ち上がることに成功したくま頭領が、改めて鼠の尻尾を束ねて引き摺ろうとし始める。 が、烏の撒く蒸しパンに群がるちゅーぽっぷ達に引き摺られて、またも転びそうになっていた。 「く、食い物の亡者共め……」 道を作るように撒かれるパンに群がって勝手にD・ホールへの道を辿り始めたちゅーぽっぷに、くま頭領が悔しげに唸る。 それを緩く笑って見下ろした烏だったが、ふと首を捻った。チーズやサツマイモ入りの蒸しパンをD・ホールの方向へと落として歩くたび、ボタンのような目がじーっとその動きを見守っている。 「腹ペコなのかい?」 「はっ……いいや違うぞ! べ、別に美味そうだなんて思ってないからな!?」 じゅるっと涎――なのかなんなのか、口許を拭うテディベアもどきの頬の辺りが心なしか赤みを増す。 「……あーん」 「あーん! あーん!!」 思い付いて千切った蒸しパンを差し出した途端、今し方の強がりも忘れたようにぱっくり大口を開けたくま頭領に赤いフードの下で笑った烏が、そのピンク色の中にも放り込んでやった。 「お菓子の匂いは、ボクもつい釣られちゃいそうですね。……おやつの時間ですし、お腹が空いてきてしまいます」 甘い匂いに満たされた広場で、シュスタイナと作った菓子を手に壱和がゆらりと尾を揺らす。 「二人で作ったから、きっとちゅーぽっぷさんにも喜んでもらえますよね。シュスカさんのお菓子は美味しいですから」 「頑張って作ったのですもの。喜ばれるといいわね」 ほんの少し口許を綻ばせたシュスタイナが、小さめに砕いたブラウニーを手に頷いた。 そんな友人へと微笑み返して、壱和がアザーバイド達へと声を張る。 「あまーいお菓子がありますよー」 まるでその言葉を聞き付けたかのように、周囲でころころしていたアザーバイド達が一斉にぴんと耳を立てた。 「! 可愛い……!」 一斉に詰めかけたちゅーぽっぷ達が、ブラウニーの甘い匂いを漂わせて一歩進むたびちょこまかと後を追いかける。 「シュスカさんも触ってみませんか? モフモフですよ」 匂いで広場中央へと誘導していきながらも、菓子に夢中になっているちゅーぽっぷを抱き上げた壱和が、尻尾をぱたぱたと揺らしながらシュスタイナへと差し出した。 「じゃあちょっとだけ」 そっと抱き取った薄青い鼠もどきはといえば、与えられたブラウニーに夢中で逃げだすつもりもないらしい。 「何か前にも似たような事があったような……って。ちょ、」 そこにも匂いが移っていたのか、それとも何か隠されているとでも思ったのか。 雪の結晶のワンポイントを鼻先で突っつき始めたチューポップの口許から、シュスタイナがそっとマフラーを放した。 「マフラー引っ張るのはだめよ? これ壱和さんに貰った大事……な……」 言葉半ばで慌てて口を噤んだシュスタイナが、ちらりと傍らの壱和を見る。 けれどどうやら彼女の方は肩や頭に這い上がるちゅーぽっぷへの対応で聞こえてはいなかったらしい。 「ちゅーぽっぷさんより、壱和さんの方が可愛いわよね、これ」 「シュスカさん?」 小さな呟きも今度は聞こえたのか、きょとんとして聞き返した壱和へと、何でもないというようにシュスタイナは首を横に振る。 「……食べる?」 ちゅーぽっぷを下ろして手にした菓子の一つをそっと口許に差し出すと、反射的にぱくりと口にした壱和がすぐに表情を綻ばせた。 「うん。やっぱり美味しいです♪」 にこりと笑う壱和へと、シュスタイナもそっと微笑んだのだった。 ● 『浅雛、お前さんの真上にある枝に2匹くらい引っかかってるぜ』 幻想纏いからフツの声が聞こえてきた時、淑子は丁度周囲を見回したところだった。 「どうやって登ったのかしら」 首を傾げ、樹上のアザーバイド達に菓子をかざして甘い香りを漂わせる。 「ちゅーぽっぷさんは木登りが得意だぞ!」 「あんな卵だかボールだか分からない体型でか!?」 何故か胸を張ったくま頭領が、五月女の驚愕をほったらかしてちゅーぽっぷ回収の為に淑子の許へと駆けてくる。 その様子を認めた淑子が、そこここから鼻先を突き出したアザーバイド達を逃がさないように持ち寄った菓子を広げた。 「さあ、ちゅーぽっぷさんたち。あまいあまいお菓子は如何?」 パウンドケーキにシュークリーム、ロールケーキ、カスタードタルト。並べられる洋菓子から豊かな甘い香りが漂い、途端にピンと耳と尾を立てた鼠もどきが集ってくる。 「折角鼠さんなんだもの。ベイクドチーズケーキも」 慌てたのか焦り過ぎたのか、樹上から転がり落ちてきたちゅーぽっぷを抱き留めて、口元へと色付いたケーキを差し出した。 「比較的量産の容易なものを選んでみたけれど、味に手抜かりがあってはパティシエの名折れ。先生に申し訳が立たないもの、そちらも保障するわ」 「よひ、ほまえらいふぞ!」 いつの間にかちゅーぽっぷに混じってシュークリームを確保したくま頭領が、焼き菓子を頬張りながら鼠もどきたちの尻尾を掴んで引っ張る。 「ふぎぎぎ……!!」 「お手伝いするわね」 菓子に群がったまま離れようとしないカラフルな来訪者達を力尽くで引っ張ろうとしてはすぐに引き戻されるくま頭領をじっと見ていた淑子が、微笑を零すと菓子に齧り付くちゅーぽっぷを更に数匹抱き上げた。 「うむ、くるしゅーない! ――っておい、これは俺様のだぞ!」 齧り掛けのシュークリームを振って偉そうな態度でのたまったくま頭領が、ふんふんと鼻を近付けてきたちゅーぽっぷ達から目いっぱい腕伸ばして遠ざける。 「……くまさんとも、お友達になれるかしら」 逃げるテディベア、ではなく逃げるシュークリームを追いかけ始めたネズミもどきの構図を見守りながら、淑子は小さく微笑んだ。 その頃同様に、スキルを介して発見されたアザーバイドの報告は、他のリベリスタへも届けられた。 『朱鷺島、その噴水の影に1体いるぜ』 「分かったのだ」 やはり幻想纏いを介したフツの言葉に、雷音が翼をはためかせるように噴水の際へと舞い降りる。 指示された場所では影にすっぽり隠れるようにして来訪者達が固まっていた。そこに菓子を撒いた瞬間、飛び跳ねるようにしてちゅーぽっぷ達が群がった。 「こんにちは。お菓子はおいしいかい?」 タワー・オブ・バベルと異界共感を介して掛けた声に、アザーバイド達は碌に答えない。 それでも雷音の問いかけに答えるように、一匹が鼻先を持ち上げてちち、と甲高く鳴き声を上げる。 猫が喉を鳴らす仕草にも似た響きに、雷音は柔らかく微笑んだ。 「それなら良かったのだ」 少女の掌に撫でられて、アザーバイドは心地良さげに目を細めると、再び菓子にか齧り付いたのだった。 ● 「ホラ、干し芋にプディングだぜー。こっちに来れば食べれるヨ!」 D・ホール近くで丸まっていたアザーバイドに、菓子をちらつかせて引き寄せる。 「いい子にしてたら後でもっと色んなお菓子がもらえるからなー」 フツが都度、集められてくるちゅーぽっぷを餌付けするように菓子で行動を抑制しながら、D・ホールの傍へと整列させていく。 菓子に滅法目がないらしいアザーバイド達はといえば、どれもこれも菓子に齧り付いている所為で、移動させられても気付いていないらしい。 「だいぶ集まったな」 「ああ、諸君の頑張りに感謝だな」 引き渡されたアザーバイドの足にタグを取り付け、瞬間記憶でちゅーぽっぷの数を数えながらのフツの言葉に五月女が軽く頷いた。 そんなやり取りをしている五月女へと、万が一の為の護衛役を買って出た夕奈が疑問を向ける。 「研究者センセなんすよね。主に何を専門で研究してるんすか?」 「私か? そうだな、最近は主にアザーバイドが食用に耐え得るかというのが目下の研究目的だ」 「食用っすか?」 「ああ、例えばこのちゅーぽっぷ」 言いながら、五月女が鼠の尻尾をぶら下げる。宙ぶらりんにされた毛玉がちゅーちゅー鳴きながら暴れているのは、些かシュールな光景だ。 そんな抵抗など意にも介さず、白衣のフォーチュナがにこやかに言う。 「この世界にも鼠を食用とする文化はあるが、こいつの場合はどうだと思う!?」 「…………」 「甘いものばかり好むようだし、ひょっとしたら肉も良い具合に甘いんじゃないかと思うんだが……」 嬉々として推論を述べ始めた五月女に、夕奈は笑みを張り付けたままでそっと視線を外した。 ぶら下げられた鼠もどきが切なく暴れているのを見ないようにして、目視と聴覚を頼りに周囲にも他にアザーバイドがいないかどうか気を配る。 「ふむ、君は視力に自信があるのかい? 先程から目で探しているようだけど」 放られている間に気が済んだのか、夕奈の様子に目を留めた五月女が尋ねた。 「マスターファイヴは伊達じゃねえっすよ、家政婦はよく気が付くのが本義。見たり聞いたりは得意っす」 「それは頼もしいなぁ」 あっさりと食い付いてきた五月女に、話題が変わってほっとしたように夕奈がある荷物を手に取る。 「で、一番肝心要のおびき寄せは」 夕奈の取り出したタッパーを五月女が覗き込んだ。 「こいつ。あんころ餅っす。普通のと栗餡のと黄粉混ぜたん。大量に作って来たっすよー」 アザーバイド達が逃げないように、手作りの和菓子で惹き付けていく。 「遠慮のうたんと食べや、何せつい張り切って作り過ぎたもんで未だ家にも死ぬほど残ってるさかいな……」 餅に齧り付く鼠もどきを集めてきた群れの中に運びながら、夕奈の目が少し遠くなる。 ちゃっかり横から手を出した五月女が、鼠もどきに混じってあんころ餅を食みながら笑った。 ● ちらつかせた菓子に群がる魚のように、ちゅーぽっぷ達を引き連れてD・ホールへと誘導する。 「一匹残らずお帰り願うぜー!」 「お疲れさん、それで最後かな」 ヒロ子の連れ戻ったアザーバイド達にも数字入りのタグを装着させ、五月女が改めて集った数を数えていく。 「おっと、逃がさないぞー、このフワッフワの感触……ロボ派の私もちょっと揺らぐ!」 「うう、可愛いのだ。可愛いのだ!」 風に流された甘い香りに惹かれたのか、群れから離れていこうとしたちゅーぽっぷを抱き上げたヒロ子が、柔らかな毛並みに頬を摺り寄せた。 雷音もまた、足元で菓子を齧る一匹へと感触を楽しむように抱き締める。 「でも、彼らは彼らの世界でのびのび生きた方が幸せでしょう。うんうん」 一匹位手元に残しておきたい気持ちもヤマヤマなんだけどね、と言いながら、ヒロ子が抱いていたチューポップをD・ホールへと送り込む。 「お~よしよし……元気でな。強く生きるんだよー」 「アレだ、この世界にいてもいいようになったらまた遊びにこいよ」 ちゅーぽっぷとの記念撮影を済ませたフツが、頭や膝に乗せていたアザーバイドもホールから送り返して、カラフルな毛玉も鳴き声もあるべき場所へと戻っていった。 「沢山歩いて疲れたわね。お菓子沢山持ってきてるの。まだ日が落ちるまで時間あるし、一緒に食べましょう?」 「ふふ。任務中にずっと、皆さんの作ったお菓子が気になっていたの。わたしも頂いて良いかしら?」 シュスタイナの言葉に微笑んだ淑子が、此方も持参した菓子を新たに広げる。 「勿論わたしからのおすそ分けもあるから、是非召し上がって頂戴」 「お菓子……特にチョコあるならウイスキー欲しくなるわー……」 「お、君はウイスキー派かな?」 ヒロ子の言葉にいち早く菓子の山へと手を伸ばしていた五月女が尋ねる。 「まぁね。でも我慢我慢! それは夜中まで待つ!」 「流石に日中からというのも体裁が悪いからな。コーヒーでも飲むかい?」 蒸しパンもあるぜ、と烏が幻想纏いから次々取り出す菓子を一つ手に取って、ヒロ子が神妙な顔になる。 「手作りお菓子のおじさまにすら負けてる私の女子力……あれ、これブルーベリーだよね?」 「豪州は今が夏で旬だからな」 果実を練り込んだ蒸しパンをまじまじと観察しながら口に運ぶ隣で、淑子もまた腕によりをかけた菓子を広げた。 「宜しければ紅茶もどうぞ。保温ポットに入れてきたから、まだ暖かいはずよ」 菓子を頬張りながら差し出されたカップを興味津々に覗き込むくま頭領を、ヒロ子が後ろから抱き上げる。 「肌寒くなってきたらちゅーぽっぷが欲しくなるな……やっぱ一匹位残しとくべきだった?」 「ほ、ほあっ! ひゃまふるな!」 とても残念そうな顔をしたヒロ子が、ちゅーぽっぷの代わりにくま頭領の頬っぺたを摘むと、菓子で口を一杯にしたテディベアもどきが腕を振り回して抗議の声を上げた。 日はまだ高く、冬の広場に甘い香りが漂い満ちる。 寒空の下、細やかな茶会はまだまだ幕を閉ざしはしないようだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|