下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






星降る丘で、あなたと。

●ふたり
 ひゅ、と、冷たい風が二人の足元を通り抜けていく。厚手のジャケットを羽織ってきたが、やっぱり、少し、肌寒い。

「さむくない?」
「ん。だいじょうぶ」

 踏みしめた雪が靴の裏で鳴らす、きゅ、きゅ、という音が、耳に心地良い。
 あたりは、一面真っ白な銀世界。都会の汚れた雪とは違う、何にも染まっていない、純白の。
 再び風が吹いて、初雪は思わず隼祐の腕にぎゅっとしがみつく。風は、二人の髪を撫でて揺らしながら、さらさらのパウダースノーをちらちらときらめかせつつ、上空へと舞い上げていく。
 二人はそれを目で追い、やがて、気づく。

「…………わあ」
「すごいな……満天の星空、ってやつだね」
「うん……」

 小高い丘の上。喧騒から離れ、眩しすぎるネオンサインや光化学スモッグにも邪魔されず。星たちの光は、真っ直ぐに二人の瞳の中へと飛び込んでくる。
 明るい星。暗い星。赤い星、青い星。帯のように連なっていたり、一人きりで寂しく瞬いていたり。

 初雪は、抱え込んだ隼祐の腕の温かさ、もたれた彼の胸から聞こえてくる、とくん、とくんという微かな鼓動を感じながら、目を細めて空を眺める。
 隼祐は、腕に感じる初雪の胸の柔らかさ、仄かに白い彼女の吐息、星空にも負けず劣らず、きらきらと輝いて見える彼女の横顔を、微笑みながら眺める。

 二人、言葉少なく。
 ただ、じっと、星を眺め続ける。

「…………このまま、時間が止まっちゃえば、いいのにね」

●かれら
 作戦室へ顔を見せた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、珍しく不機嫌そうな顔を隠しもせず、しばらく口を開かないまま、仏頂面で何かを考え込んでいる様子だった。
 やがてイヴは、意を決したように、大きく口を開く。
「……対象は、新島隼祐(にいじま しゅんすけ)、21歳。ごく普通の大学生……だけれど。革醒して、ノーフェイス化が進行してる」
 モニターに映るのは、栗色の髪の、優しそうな、ごく普通の……まだ少年と言っていいくらいの、あどけない微笑。
「今はまだ、被害が出てるわけじゃないけど……フェイトを得られない以上、いずれ、そうなるわ。確実に」
 重々しいイヴの言葉は、リベリスタたちならば誰しも、痛いほど良く分かっていることではあった。
 映像が切り替わる。
「瀬奈初雪(せな はつゆき)。24歳。とある小規模な組織に所属してる、リベリスタ」
 肩の後ろで切り揃えられた、つやのある黒髪。つり目で気の強そうな面持ちに見えたが、彼女は今、とても穏やかな表情を浮かべている。
 二人は、仲睦まじく抱き合い、静かに……静かに。
 星を眺めている。
「新島隼祐の革醒と、瀬奈初雪との出会いに因果関係があったのかは、分からない。ただ……きっと、彼女はそう思ってる。責任を感じてるんだと思う」
 イヴは、悲しげに目を伏せる。
「彼女は、この丘の上で……星の下で。自分で、決着をつけるつもり。でも……」
 彼女は、きっと、そうはできない。その場の誰もが、そう思っただろう。
 だって、映像の中の、彼女は。あまりにも。

 あまりにも、幸せそうで、悲しそうで、そして、そして。
 儚げに見えたのだ。

「二人を……解放、してあげて」
 作戦の条件提示としてはひどく曖昧な、その言葉に。
 しかし、集まった面々は、誰しもが大きく、強く頷いた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:墨谷幽  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年02月05日(水)22:59
 Deviceです。
 よろしくお願いいたします~



●成功条件
・新島隼祐の死亡

●失敗条件
・新島隼祐の逃走
・参加者半数以上の戦闘不能

●ロケーション
・小高い丘の上。周囲に民家や人気はありません。
・あたり一面雪景色。満天の星空。
・特殊な防寒対策が必要なほどの寒さではありません。

●敵性キャラクター
○新島隼祐(にいじま しゅんすけ)
・ごく普通の大学生ですが、革醒しノーフェイス化が進行しています。現状では、見た目に大きな変化はありません。
・瀬奈初雪の恋人。付き合って三年目になります。
・恋人の正体については知りませんし、神秘についての知識もありません。薄々、何となく思うところはあるようですが、どんな時も彼女を深く理解しようと努めています。
・自分の身体の変調には気づいており、それが取り返しのつかないものであることも、何となく悟っているようなフシがあります。
・物腰は穏やかで、人懐っこい笑顔の、誰からも好かれるような好青年です。
・なお、戦闘能力はほとんどありません。

○『38口径のためらい』瀬奈初雪(せな はつゆき)
・アークとは異なる、とある小規模なリベリスタ組織に属している女性です。
・新島隼祐の恋人。告白は彼女のほうからでした。
・恋人に正体を隠したまま付き合いを続けていることに、疑問と罪の意識を抱いているようです。
・恋人がエリューション化し、深く絶望していますが、せめてもの決着は自分で、と新島隼祐を自ら殺害する決意を固めています。ただ、正直に言って、彼女はそれほどに強い精神の持ち主ではありません。
・ジーニアス×クリミナルスタア。クリミナルスタアのごく初級のスキルを使用します。
・オートマチックとナイフを所持しています。

●その他備考
・成功条件は『新島隼祐が死亡すること』ですが、その過程においてどのような手段を選択するかは自由です。
・強引に新島隼祐の殺害を図ろうとする場合、瀬奈初雪との戦闘は恐らく免れません。そして、その結果、彼女をどうするのかもまた自由です。



 理不尽な運命に晒された二人に、何らかの答えを導き出してあげてください。それがどのような答えであるかは、全て、皆様次第です。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ギガントフレームデュランダル
富永・喜平(BNE000939)
ハイジーニアスデュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ジーニアス覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ハイジーニアスソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
フライダークホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
ハイジーニアスホーリーメイガス
キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)
ジーニアスソードミラージュ
御陵 柚架(BNE004857)

●隼祐、初雪
 出会ったのは、三年前。たまたま、急いで道を歩いていたら、お互いぶつかって転んでしまったのがきっかけだった。
 はにかみながら手を差し出した、隼祐。その手を取り、ぽーっとした顔で相手を見つめた、初雪。
 後から聞けば、お互い、一目ぼれだったらしい。

 あれから、三年。

「ねえ……雪さん。俺さ、雪さんに、どうしても……言っときたいことがあるんだ」
「……なに?」
 初雪は、彼に寄り添い、気を抜けば倒れこんでしまいそうな自分を、ぎゅっと彼の腕を掴むことで支えながら、彼の言葉を待つ。
「えー、あー。その……さ。俺たち、もう付き合って、三年になるじゃない?」
「……? どうしたの、隼ちゃん、改まって?」
 いつもは快活で、何事もはきはきと物を言い、気後れしがちな初雪をぐいぐいと引っ張ってくれる隼祐が、この時に限って、どこか歯切れが悪い。
 初雪の胸は、自然と高鳴り。
 期待と、不安が、膨れ上がっていく。
 やがて彼は、意を決したように、口を開く。

「雪さん……あの。俺と……俺と、結婚、してくれませんかっ!」

 初雪を真っ直ぐに覗き込む、真剣な、彼の顔。
 初雪は。彼女は、その胸には。
 歓喜と。絶望と。叫びだしたいほどの衝動と。それらがないまぜになって、形容しがたい、黒い感情が満たされていき。
 気づけば、初雪は、泣いていた。
「ゆ、雪さん? 大丈夫? ごごごめん、そっそんなにイヤだった?」
「っ、っ……ちがっ、違う……違うの……」
 必死に、ともすれば絶望に負け、屈みこんでしまいそうになる身体に鞭を打ち、顔を上げ、初雪は、隼祐を見返し。
「……嬉しい、の。嬉しいの……隼ちゃん……すっごく、嬉しいの」
 でも。ああ、でも。

●リベリスタたち
「お邪魔して、御免なさい……新島さん、瀬奈さん」
 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は、静かに、控えめな口調で、二人へ話しかけた。
 星空の下、二人だけの時間。そこへ歩み寄ってくる、見慣れぬ男女が、八人。
「こんばんは、星が綺麗だね。アークだよ……って言ったら、解るかな?」
 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の発した聞き覚えの無い単語、知らない顔の数々に、隼祐は恋人を振り返り、
「あーく……? えっと、雪さんの、知り合い?」
「……っ、あ……アー、ク…………ッ!」
 隼祐は、涙に濡れた彼女の蒼白な顔が、目の前の彼らに対する敵意に染まっていることに、驚いた。時折気の強いところも見せる彼女だが、こんな風に、誰かに険しい視線を投げかけるようなところは、見たことが無かった。
「雪さ……」
 隼祐は、言葉を呑み込んだ。
 初雪が、怒りのような、悲しみのような、とても複雑な表情を浮かべ、訪れた人々へ向けている……黒い、それ。鉄塊。
 拳銃。
「……ごめんね、無粋な真似をして」
 『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は、努めて優しく、追い詰められた彼女へ、諭すように言う。
「でも、いきなり事を構えたいわけじゃない……大丈夫、落ち着いて」
「あ、う……っ、……こ、来ないでっ!!」
 突きつけられた拳銃、その銃口は、がくがくと小波のように揺れ、彼女の今の全てを、何よりも雄弁に物語っている。
 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)もまた、やり切れない想いを抱きながらも、初雪に向かう。
「我々は、アークだ。その意味が、君には分かっていることと思う。だからこそ」
 そっと、手を差し伸べ。
「こっ、来な……」
「その銃口を、『何処』に向けるか。それだけは、決めてくれ」
 心配そうに見守る隼祐の前で、初雪の瞳から、再び、大粒の雫が流れ出す。
「あ……あ、ああ……」
 手にした銃口は、震えは収まらないまま。添えられた喜平の手に抵抗することもなく、徐々に、地へとうつむいていく。
 初雪の敵意……どこへ向けたらいいのかも分からない、あやふやで、どうすることもできない、それ。その矛先が、ゆっくりと外されたことを確認すると。
 『夢追いの刃』御陵 柚架(BNE004857)は、崩れ落ちそうな初雪を支える隼祐に向き直り、話しかける。
「ハジめまして、新島さん。瀬奈さんとは……同じオシゴト、って言えばいいでしょうか」
「同じ……仕事」
 目の前の少女の言葉に、隼祐は、先だって思うところもあったのだろうか。彼は、神妙な顔で、ひとつ頷く。
「……多分。これから柚架たちは、フタリに、ザンコクな事を言います。信じるかは……新島さんシダイ、です」
 そう言って、柚架は、ちらと初雪へ視線を向ける。
 柚架は、この先の話を、自分たちで進めるか……それとも、初雪自身が語るのか。その決断を、初雪の意思に委ねるつもりだった。しかし、今の、力なく震え、ただただ雫をこぼす彼女の様子を見れば、その選択はあって無いようなものと思えた。
「……オレたちがここに来たということは、もう猶予が無い、ということなんです」
 『折れぬ剣』楠神 風斗(BNE001434)は、隼祐に自分たちをあからさまに拒絶するそぶりが見られず、また初雪の今の状態を見るに、簡潔にそう切り出した。
「ですが……出来る限り、遺恨を残さない形にしたい。オレたちの話を……聞いてもらえますか?」
 隼祐は。
 今や、対面もなく泣きじゃくるのみの初雪の肩を、そっと抱きながら。
「…………話して、ください。彼女の、あなたたちのこと。それに……俺のこと」
 戸惑いながらも、彼の顔には、決意の表情が浮かんでいた。

●運命
「……伝えられるのはこれくらい、理不尽で、クソみたいな話だが……残念ながら、これが現実だよ」
「神秘……リベリスタ……エリューション」
「ああ。信じられないかい?」
 喜平の穏やかな物腰に、隼祐は、困ったような笑顔を返す。
「いえ……実を言うと、少し……思うところは、あったから」
 語られた突拍子も無い話も、隼祐にとっては、いくらか予想の範疇ではあったらしい。
「自分でも……何となく、分かってはいたんです。段々と……自分が、自分で無くなっていくような……自分が、壊れていくような。そんな感覚が、時々、あったから」
「そうか。……君は、強いな」
 初雪と共にいるうちに、どこかで、神秘の片鱗など目撃したこともあったのかもしれない。それでも喜平は、ごく普通の大学生に過ぎないはずの彼の、事ここにいたっての落ち着きように、感嘆する。
「新島さん、自分の身体の事は……気づいているんですね?」
 気遣わしげなリセリアの問いに、隼祐は、小さく頷き返す。
「進行は遅いようですが、そのうち、目に見えて身体に異変が生じてくるはずです。異形と化したり、不思議な力を獲得したり。意識や記憶の欠落、強くなる破壊衝動……そして。同様の症状を、周囲に伝播させてしまうこともある」
「それが……エリューション。俺のこと、なんですね」
 びくり、と、隼祐の腕の中で、初雪が身を震わせる。
 彼女はずっと、隠してきた。自分の正体。そして、隼祐が、どのようなものに変わってしまったのか、ということを。
「……貴方には……死んでもらわなければならない。これは、どうあっても避けられない」
 風斗は、苦々しい口調で、改めてそう宣言する。
 ただ、それでも、と、言い置いた上で。
「彼女は……決して、貴方の死を望んでいるわけじゃない。話さなかったのは、貴方のことを想っていたから。大切に想っていたから。言わなくても、わかっておられるでしょうが……」
「うん……そうですね。うん、分かってる」
 優しく、隼祐は、鼻を鳴らす初雪の頭を撫でる。彼の年上の恋人は、落ち込んだとき、こうしてもらうと、どこかほっと安心するの……そう、言っていた。
「……それで。どうする?」
 夏栖斗が、真剣な眼差しで、二人を見据える。再び、初雪の肩が、ぴくり。と揺れる。
「初雪ちゃん……僕もね、恋人がノーフェイスだと知ってて、何の迷いもなく殺せるほど、強くはないかもしれない。けど、現実と向き合えないほどに、弱くはないよ。だから……」
 ひとつ区切り、夏栖斗は、はっきりと口にする。
「君に、できないなら。僕達が、決着をつける」
 そして、僕等を恨みなよ。憎んだっていい。そうしたら、少しは、楽になれると思うから。
 どちらであっても。二人にとって、一番……そう。マシな形であるほうがいい。そのほうが、いくらか、救いもあるかもしれない。
「……こんな方法しか見つけられないで、ゴメンなさい。本当に、ごめんなさい」
 柚架はうつむき、謝罪の言葉を口にする。それにどれほどの意味があるのか、空しい言葉であるのか、痛いほどに理解しながらも。
「時々……セカイ、って。残酷ですよね」
「……はは。そうですね……本当に。本当に、世界って、残酷だ」
 隼祐の、儚げな微笑に。でも、だからこそ。柚架は思う。ほんの少し、そのザンコクに抗ったって、きっと……神様は、文句を言わないって。信じてますから。
「無慈悲な運命を見据える、貴女に。支えてきた、貴方に。俺たちは、残酷な結末を強いなくてはならない」
 二人の未来。その結末に、本来は、自分たちが介入する余地は無いのかもしれない。傲慢な行いなのかもしれない。だから、遥紀は、言うのだ。
「……憎んで、構わない。これは、それ程の事だから。怒りも、憎悪も……全て、吐き出して良いんだ」
 そして。
 あなたは……どんな結末を選ぶ?
「雪さん……」
 優しく、暖かい恋人の腕に抱かれ。本来は幸せなものであるはずの、その感覚に包まれながら。心の中の絶望に、抗いながら。
 初雪は、ゆっくりと、涙に濡れた顔を上げ。

「…………わたし、は」

●命の価値
 仲間たちからは、いくらか距離を置いたところで。星々の明かりの下にあって、黒々として蠢く、一つの影があった。やがて、影の中からは、小柄でありながら魅惑的な曲線を描くシルエットがぞろりと現れ、次第に、実像を結んでいく。
 現れた『究極健全ロリ』キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)は、周囲を小さく確認すると、視線の先に集まった一団を捉える。
 事前での打ち合わせでは、彼女は、後方待機の役を割り振られていた。現場に到着するまで、彼女はペルソナを纏い別人格を装ってまで、その役割に徹しているふりをし続けた。
 キンバレイにとっては、相手を説得する、などという婉曲な選択肢は、初めから無いに等しい。彼女にとって価値あるものは、彼女の愛する、父親。それが全て。他のいかなる人命においても、自らのそれですら、彼女にとっては、無価値なものに過ぎないのだ。
 キンバレイは、標的たる新島隼祐を確認し、射線上に障害となる者がいないことを確認すると、す、と、手にした杖の先端を前方へ掲げる。魔力によって浮かび上がる魔方陣から、小さな光の矢が、燐光を漏らしつつ形作られていく。
「ふふ。これで、レア素材GET~♪ ノーフェイスの価値なんて、そんなものです。おとーさんのがちゃ代になれることを、誇りに思ってくださいね?」
 笑みを浮かべ、キンバレイは、隼祐めがけて矢を放つ……。
 と。
「……やめとけよ」
 ふいに、キンバレイの視界が、大きな手のひらによって塞がれる。
「……? どうして邪魔するんですか?」
 放たれることなく、霧散して消失する光の矢。不満げなキンバレイの顔から手を離しながら、『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は、落ち着いた面持ちで、深く息をつく。
「別に、邪魔するつもりはねぇけどな……」
 言いつつ、火車は、話し合いを行う仲間達へと視線を巡らせ、どこか自嘲気味に、つぶやく。
「……まぁたアイツら、親身になり過ぎて、自分で勝手に追い詰まっていくんだろうなぁ……けどよ」
 挑むようなキンバレイの視線を見返し、
「知ったフリして御高説垂れ流すだけな、達観気取りの無能の独り善がりよっか、人間としちゃあ、随分マシだ。……そうは思わねぇか?」
「……良く分からないです。ノーフェイスを殺せないリベリスタとか、存在意義がないですよ」
 幼いキンバレイの言葉は、一見、手厳しい。が、それは、ひどく的確に真実を射抜いてもいる。
 『それ』ができるからこそ、彼らは、リベリスタなのだから。
「ま、そうかもな……けど、考えてもみろよ」
「?」
 あくまでぶっきらぼうに。しかし、揺らがぬ信念を表情ににじませながら、火車は言う。
「あいつらは、リベリスタだ。ノーフェイス一人ヤレもしねぇ、なんて腑抜けたヤツは、いねぇさ。新島隼祐は、死ぬ。だったら。今ここでお前が殺そうが、少し待って、瀬奈初雪が殺そうが。あいつらの中の、誰かが殺そうが……そりゃ、大した違いはねぇってこった。違うか?」
「……まあ、確かに。それは、そうかもしれませんけれど」
 キンバレイは、しばし、考え込んでいるようだった。彼女の価値観に照らし合わせて、新島隼祐の命は、何の意味も成さないものだろう。ただ、彼女とて、あえて意味の無い殺しで充足感を得るような、歪んだ嗜好を持ち合わせているわけでもない。
「そうですね……私だって、出来れば、コモンカード一枚にもならない殺しなんて、したくないですし」
 むしろ、お仕事しないでお金が貰えて、ラッキーな依頼かも? などとつぶやくキンバレイに、火車は小さく苦笑いした。

●きっとまた巡り来る
 静かに話したい事も、あらぁな。そんな火車の提案によって、二人きりになった隼祐と初雪は、長く、長く、話し込んでいた。リベリスタたちは、念のため逃走を阻むような位置へさりげなく立ちつつも、辛抱強く、二人が結論を下すその時を待ち続けた。
 やがて。

 彼と、そして彼女の希望で。
 その瞬間まで、彼は、彼女の腕に抱かれたまま……逝くことを、望んだ。

 降るような、今にも落ちてきそうな、星空に見守られながら。
 瀬奈初雪の腕に、ぎゅっと……力いっぱいに、抱き締められながら。彼女自身の持っていた銃で、その役割を引き受けたリセリアの手によって、新島隼祐は、眠るような表情のまま、旅立った。

「………………あり、がと……ござい、まし……た」
 風斗が、初雪の所属するリベリスタ組織へと連絡を入れ、迎えをよこしてくれるように頼み。それを待つ間、ぽつりと。初雪が、かすれた声で、一言だけ……搾り出すように、そう言ったのだ。
 彼女は、恋人の亡骸を抱き、頬を止めどなく濡らしながらも、いくらか落ち着いた様子に見えた。
 彼女自身、覚悟はしていたのだろう。自ら決着をつけると決めた時、しかし、果たして自分にそんなことができるのか、手を下すことができるのか。自分の弱さにも、彼女は気づいていたのだろう。

 ごめんね。ごめんね。
 心の中で何度も繰り返す初雪の胸に、最後の、隼祐の柔らかい笑顔が、蘇ってくる。満たされていく。

 また、生まれ変わったら。今度こそ、俺と結婚してよね?
 だから。

「…………その時まで。生きて、雪さん」

 言葉も無く、彼らは、星を眺めていた。
 夏栖斗と柚架は、折れてしまいそうな初雪の側に、そっと寄り添いながら。喜平は、自らの無力に苛まれつつも、悔いはすまいと歯を食いしばりながら。遥紀は、二人の思い出が、初雪の中でいつまでも生き続けるように……と祈りながら。

 手持ち無沙汰に後ろ手を組み、ぼんやりと空を見上げるキンバレイの瞳の中を、きらめく星が、ひとつ。
 こぼれ落ちるように、流れた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 皆様、お疲れ様でした。
 『星降る丘で、あなたと。』のリプレイをお届けします。

 今回は、説得から入る方、奇襲を試みる方、それを見越して備える方、と分かれましたが、大勢としては真摯な言葉で対話を試みる方が多かったため、戦闘には発展しませんでした。

 瀬奈初雪には、リベリスタをやめないで欲しい、とのお言葉もありました。
 結局、彼女は自分の手で決着をつけることはできませんでした。彼女が今後もリベリスタとして生きていけるのかどうかは、まだ分かりません。どちらにせよ、彼女が負ってしまった傷が癒えるには、相応の時間が必要でしょうから……。

 皆様の心に、何か感じ入るものがありましたら、幸いです。
 今回は、ご参加いただきありがとうございました。
 またのご参加を、お待ちしております!