●ふたり ひゅ、と、冷たい風が二人の足元を通り抜けていく。厚手のジャケットを羽織ってきたが、やっぱり、少し、肌寒い。 「さむくない?」 「ん。だいじょうぶ」 踏みしめた雪が靴の裏で鳴らす、きゅ、きゅ、という音が、耳に心地良い。 あたりは、一面真っ白な銀世界。都会の汚れた雪とは違う、何にも染まっていない、純白の。 再び風が吹いて、初雪は思わず隼祐の腕にぎゅっとしがみつく。風は、二人の髪を撫でて揺らしながら、さらさらのパウダースノーをちらちらときらめかせつつ、上空へと舞い上げていく。 二人はそれを目で追い、やがて、気づく。 「…………わあ」 「すごいな……満天の星空、ってやつだね」 「うん……」 小高い丘の上。喧騒から離れ、眩しすぎるネオンサインや光化学スモッグにも邪魔されず。星たちの光は、真っ直ぐに二人の瞳の中へと飛び込んでくる。 明るい星。暗い星。赤い星、青い星。帯のように連なっていたり、一人きりで寂しく瞬いていたり。 初雪は、抱え込んだ隼祐の腕の温かさ、もたれた彼の胸から聞こえてくる、とくん、とくんという微かな鼓動を感じながら、目を細めて空を眺める。 隼祐は、腕に感じる初雪の胸の柔らかさ、仄かに白い彼女の吐息、星空にも負けず劣らず、きらきらと輝いて見える彼女の横顔を、微笑みながら眺める。 二人、言葉少なく。 ただ、じっと、星を眺め続ける。 「…………このまま、時間が止まっちゃえば、いいのにね」 ●かれら 作戦室へ顔を見せた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、珍しく不機嫌そうな顔を隠しもせず、しばらく口を開かないまま、仏頂面で何かを考え込んでいる様子だった。 やがてイヴは、意を決したように、大きく口を開く。 「……対象は、新島隼祐(にいじま しゅんすけ)、21歳。ごく普通の大学生……だけれど。革醒して、ノーフェイス化が進行してる」 モニターに映るのは、栗色の髪の、優しそうな、ごく普通の……まだ少年と言っていいくらいの、あどけない微笑。 「今はまだ、被害が出てるわけじゃないけど……フェイトを得られない以上、いずれ、そうなるわ。確実に」 重々しいイヴの言葉は、リベリスタたちならば誰しも、痛いほど良く分かっていることではあった。 映像が切り替わる。 「瀬奈初雪(せな はつゆき)。24歳。とある小規模な組織に所属してる、リベリスタ」 肩の後ろで切り揃えられた、つやのある黒髪。つり目で気の強そうな面持ちに見えたが、彼女は今、とても穏やかな表情を浮かべている。 二人は、仲睦まじく抱き合い、静かに……静かに。 星を眺めている。 「新島隼祐の革醒と、瀬奈初雪との出会いに因果関係があったのかは、分からない。ただ……きっと、彼女はそう思ってる。責任を感じてるんだと思う」 イヴは、悲しげに目を伏せる。 「彼女は、この丘の上で……星の下で。自分で、決着をつけるつもり。でも……」 彼女は、きっと、そうはできない。その場の誰もが、そう思っただろう。 だって、映像の中の、彼女は。あまりにも。 あまりにも、幸せそうで、悲しそうで、そして、そして。 儚げに見えたのだ。 「二人を……解放、してあげて」 作戦の条件提示としてはひどく曖昧な、その言葉に。 しかし、集まった面々は、誰しもが大きく、強く頷いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:墨谷幽 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月05日(水)22:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●隼祐、初雪 出会ったのは、三年前。たまたま、急いで道を歩いていたら、お互いぶつかって転んでしまったのがきっかけだった。 はにかみながら手を差し出した、隼祐。その手を取り、ぽーっとした顔で相手を見つめた、初雪。 後から聞けば、お互い、一目ぼれだったらしい。 あれから、三年。 「ねえ……雪さん。俺さ、雪さんに、どうしても……言っときたいことがあるんだ」 「……なに?」 初雪は、彼に寄り添い、気を抜けば倒れこんでしまいそうな自分を、ぎゅっと彼の腕を掴むことで支えながら、彼の言葉を待つ。 「えー、あー。その……さ。俺たち、もう付き合って、三年になるじゃない?」 「……? どうしたの、隼ちゃん、改まって?」 いつもは快活で、何事もはきはきと物を言い、気後れしがちな初雪をぐいぐいと引っ張ってくれる隼祐が、この時に限って、どこか歯切れが悪い。 初雪の胸は、自然と高鳴り。 期待と、不安が、膨れ上がっていく。 やがて彼は、意を決したように、口を開く。 「雪さん……あの。俺と……俺と、結婚、してくれませんかっ!」 初雪を真っ直ぐに覗き込む、真剣な、彼の顔。 初雪は。彼女は、その胸には。 歓喜と。絶望と。叫びだしたいほどの衝動と。それらがないまぜになって、形容しがたい、黒い感情が満たされていき。 気づけば、初雪は、泣いていた。 「ゆ、雪さん? 大丈夫? ごごごめん、そっそんなにイヤだった?」 「っ、っ……ちがっ、違う……違うの……」 必死に、ともすれば絶望に負け、屈みこんでしまいそうになる身体に鞭を打ち、顔を上げ、初雪は、隼祐を見返し。 「……嬉しい、の。嬉しいの……隼ちゃん……すっごく、嬉しいの」 でも。ああ、でも。 ●リベリスタたち 「お邪魔して、御免なさい……新島さん、瀬奈さん」 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は、静かに、控えめな口調で、二人へ話しかけた。 星空の下、二人だけの時間。そこへ歩み寄ってくる、見慣れぬ男女が、八人。 「こんばんは、星が綺麗だね。アークだよ……って言ったら、解るかな?」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の発した聞き覚えの無い単語、知らない顔の数々に、隼祐は恋人を振り返り、 「あーく……? えっと、雪さんの、知り合い?」 「……っ、あ……アー、ク…………ッ!」 隼祐は、涙に濡れた彼女の蒼白な顔が、目の前の彼らに対する敵意に染まっていることに、驚いた。時折気の強いところも見せる彼女だが、こんな風に、誰かに険しい視線を投げかけるようなところは、見たことが無かった。 「雪さ……」 隼祐は、言葉を呑み込んだ。 初雪が、怒りのような、悲しみのような、とても複雑な表情を浮かべ、訪れた人々へ向けている……黒い、それ。鉄塊。 拳銃。 「……ごめんね、無粋な真似をして」 『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は、努めて優しく、追い詰められた彼女へ、諭すように言う。 「でも、いきなり事を構えたいわけじゃない……大丈夫、落ち着いて」 「あ、う……っ、……こ、来ないでっ!!」 突きつけられた拳銃、その銃口は、がくがくと小波のように揺れ、彼女の今の全てを、何よりも雄弁に物語っている。 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)もまた、やり切れない想いを抱きながらも、初雪に向かう。 「我々は、アークだ。その意味が、君には分かっていることと思う。だからこそ」 そっと、手を差し伸べ。 「こっ、来な……」 「その銃口を、『何処』に向けるか。それだけは、決めてくれ」 心配そうに見守る隼祐の前で、初雪の瞳から、再び、大粒の雫が流れ出す。 「あ……あ、ああ……」 手にした銃口は、震えは収まらないまま。添えられた喜平の手に抵抗することもなく、徐々に、地へとうつむいていく。 初雪の敵意……どこへ向けたらいいのかも分からない、あやふやで、どうすることもできない、それ。その矛先が、ゆっくりと外されたことを確認すると。 『夢追いの刃』御陵 柚架(BNE004857)は、崩れ落ちそうな初雪を支える隼祐に向き直り、話しかける。 「ハジめまして、新島さん。瀬奈さんとは……同じオシゴト、って言えばいいでしょうか」 「同じ……仕事」 目の前の少女の言葉に、隼祐は、先だって思うところもあったのだろうか。彼は、神妙な顔で、ひとつ頷く。 「……多分。これから柚架たちは、フタリに、ザンコクな事を言います。信じるかは……新島さんシダイ、です」 そう言って、柚架は、ちらと初雪へ視線を向ける。 柚架は、この先の話を、自分たちで進めるか……それとも、初雪自身が語るのか。その決断を、初雪の意思に委ねるつもりだった。しかし、今の、力なく震え、ただただ雫をこぼす彼女の様子を見れば、その選択はあって無いようなものと思えた。 「……オレたちがここに来たということは、もう猶予が無い、ということなんです」 『折れぬ剣』楠神 風斗(BNE001434)は、隼祐に自分たちをあからさまに拒絶するそぶりが見られず、また初雪の今の状態を見るに、簡潔にそう切り出した。 「ですが……出来る限り、遺恨を残さない形にしたい。オレたちの話を……聞いてもらえますか?」 隼祐は。 今や、対面もなく泣きじゃくるのみの初雪の肩を、そっと抱きながら。 「…………話して、ください。彼女の、あなたたちのこと。それに……俺のこと」 戸惑いながらも、彼の顔には、決意の表情が浮かんでいた。 ●運命 「……伝えられるのはこれくらい、理不尽で、クソみたいな話だが……残念ながら、これが現実だよ」 「神秘……リベリスタ……エリューション」 「ああ。信じられないかい?」 喜平の穏やかな物腰に、隼祐は、困ったような笑顔を返す。 「いえ……実を言うと、少し……思うところは、あったから」 語られた突拍子も無い話も、隼祐にとっては、いくらか予想の範疇ではあったらしい。 「自分でも……何となく、分かってはいたんです。段々と……自分が、自分で無くなっていくような……自分が、壊れていくような。そんな感覚が、時々、あったから」 「そうか。……君は、強いな」 初雪と共にいるうちに、どこかで、神秘の片鱗など目撃したこともあったのかもしれない。それでも喜平は、ごく普通の大学生に過ぎないはずの彼の、事ここにいたっての落ち着きように、感嘆する。 「新島さん、自分の身体の事は……気づいているんですね?」 気遣わしげなリセリアの問いに、隼祐は、小さく頷き返す。 「進行は遅いようですが、そのうち、目に見えて身体に異変が生じてくるはずです。異形と化したり、不思議な力を獲得したり。意識や記憶の欠落、強くなる破壊衝動……そして。同様の症状を、周囲に伝播させてしまうこともある」 「それが……エリューション。俺のこと、なんですね」 びくり、と、隼祐の腕の中で、初雪が身を震わせる。 彼女はずっと、隠してきた。自分の正体。そして、隼祐が、どのようなものに変わってしまったのか、ということを。 「……貴方には……死んでもらわなければならない。これは、どうあっても避けられない」 風斗は、苦々しい口調で、改めてそう宣言する。 ただ、それでも、と、言い置いた上で。 「彼女は……決して、貴方の死を望んでいるわけじゃない。話さなかったのは、貴方のことを想っていたから。大切に想っていたから。言わなくても、わかっておられるでしょうが……」 「うん……そうですね。うん、分かってる」 優しく、隼祐は、鼻を鳴らす初雪の頭を撫でる。彼の年上の恋人は、落ち込んだとき、こうしてもらうと、どこかほっと安心するの……そう、言っていた。 「……それで。どうする?」 夏栖斗が、真剣な眼差しで、二人を見据える。再び、初雪の肩が、ぴくり。と揺れる。 「初雪ちゃん……僕もね、恋人がノーフェイスだと知ってて、何の迷いもなく殺せるほど、強くはないかもしれない。けど、現実と向き合えないほどに、弱くはないよ。だから……」 ひとつ区切り、夏栖斗は、はっきりと口にする。 「君に、できないなら。僕達が、決着をつける」 そして、僕等を恨みなよ。憎んだっていい。そうしたら、少しは、楽になれると思うから。 どちらであっても。二人にとって、一番……そう。マシな形であるほうがいい。そのほうが、いくらか、救いもあるかもしれない。 「……こんな方法しか見つけられないで、ゴメンなさい。本当に、ごめんなさい」 柚架はうつむき、謝罪の言葉を口にする。それにどれほどの意味があるのか、空しい言葉であるのか、痛いほどに理解しながらも。 「時々……セカイ、って。残酷ですよね」 「……はは。そうですね……本当に。本当に、世界って、残酷だ」 隼祐の、儚げな微笑に。でも、だからこそ。柚架は思う。ほんの少し、そのザンコクに抗ったって、きっと……神様は、文句を言わないって。信じてますから。 「無慈悲な運命を見据える、貴女に。支えてきた、貴方に。俺たちは、残酷な結末を強いなくてはならない」 二人の未来。その結末に、本来は、自分たちが介入する余地は無いのかもしれない。傲慢な行いなのかもしれない。だから、遥紀は、言うのだ。 「……憎んで、構わない。これは、それ程の事だから。怒りも、憎悪も……全て、吐き出して良いんだ」 そして。 あなたは……どんな結末を選ぶ? 「雪さん……」 優しく、暖かい恋人の腕に抱かれ。本来は幸せなものであるはずの、その感覚に包まれながら。心の中の絶望に、抗いながら。 初雪は、ゆっくりと、涙に濡れた顔を上げ。 「…………わたし、は」 ●命の価値 仲間たちからは、いくらか距離を置いたところで。星々の明かりの下にあって、黒々として蠢く、一つの影があった。やがて、影の中からは、小柄でありながら魅惑的な曲線を描くシルエットがぞろりと現れ、次第に、実像を結んでいく。 現れた『究極健全ロリ』キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)は、周囲を小さく確認すると、視線の先に集まった一団を捉える。 事前での打ち合わせでは、彼女は、後方待機の役を割り振られていた。現場に到着するまで、彼女はペルソナを纏い別人格を装ってまで、その役割に徹しているふりをし続けた。 キンバレイにとっては、相手を説得する、などという婉曲な選択肢は、初めから無いに等しい。彼女にとって価値あるものは、彼女の愛する、父親。それが全て。他のいかなる人命においても、自らのそれですら、彼女にとっては、無価値なものに過ぎないのだ。 キンバレイは、標的たる新島隼祐を確認し、射線上に障害となる者がいないことを確認すると、す、と、手にした杖の先端を前方へ掲げる。魔力によって浮かび上がる魔方陣から、小さな光の矢が、燐光を漏らしつつ形作られていく。 「ふふ。これで、レア素材GET~♪ ノーフェイスの価値なんて、そんなものです。おとーさんのがちゃ代になれることを、誇りに思ってくださいね?」 笑みを浮かべ、キンバレイは、隼祐めがけて矢を放つ……。 と。 「……やめとけよ」 ふいに、キンバレイの視界が、大きな手のひらによって塞がれる。 「……? どうして邪魔するんですか?」 放たれることなく、霧散して消失する光の矢。不満げなキンバレイの顔から手を離しながら、『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は、落ち着いた面持ちで、深く息をつく。 「別に、邪魔するつもりはねぇけどな……」 言いつつ、火車は、話し合いを行う仲間達へと視線を巡らせ、どこか自嘲気味に、つぶやく。 「……まぁたアイツら、親身になり過ぎて、自分で勝手に追い詰まっていくんだろうなぁ……けどよ」 挑むようなキンバレイの視線を見返し、 「知ったフリして御高説垂れ流すだけな、達観気取りの無能の独り善がりよっか、人間としちゃあ、随分マシだ。……そうは思わねぇか?」 「……良く分からないです。ノーフェイスを殺せないリベリスタとか、存在意義がないですよ」 幼いキンバレイの言葉は、一見、手厳しい。が、それは、ひどく的確に真実を射抜いてもいる。 『それ』ができるからこそ、彼らは、リベリスタなのだから。 「ま、そうかもな……けど、考えてもみろよ」 「?」 あくまでぶっきらぼうに。しかし、揺らがぬ信念を表情ににじませながら、火車は言う。 「あいつらは、リベリスタだ。ノーフェイス一人ヤレもしねぇ、なんて腑抜けたヤツは、いねぇさ。新島隼祐は、死ぬ。だったら。今ここでお前が殺そうが、少し待って、瀬奈初雪が殺そうが。あいつらの中の、誰かが殺そうが……そりゃ、大した違いはねぇってこった。違うか?」 「……まあ、確かに。それは、そうかもしれませんけれど」 キンバレイは、しばし、考え込んでいるようだった。彼女の価値観に照らし合わせて、新島隼祐の命は、何の意味も成さないものだろう。ただ、彼女とて、あえて意味の無い殺しで充足感を得るような、歪んだ嗜好を持ち合わせているわけでもない。 「そうですね……私だって、出来れば、コモンカード一枚にもならない殺しなんて、したくないですし」 むしろ、お仕事しないでお金が貰えて、ラッキーな依頼かも? などとつぶやくキンバレイに、火車は小さく苦笑いした。 ●きっとまた巡り来る 静かに話したい事も、あらぁな。そんな火車の提案によって、二人きりになった隼祐と初雪は、長く、長く、話し込んでいた。リベリスタたちは、念のため逃走を阻むような位置へさりげなく立ちつつも、辛抱強く、二人が結論を下すその時を待ち続けた。 やがて。 彼と、そして彼女の希望で。 その瞬間まで、彼は、彼女の腕に抱かれたまま……逝くことを、望んだ。 降るような、今にも落ちてきそうな、星空に見守られながら。 瀬奈初雪の腕に、ぎゅっと……力いっぱいに、抱き締められながら。彼女自身の持っていた銃で、その役割を引き受けたリセリアの手によって、新島隼祐は、眠るような表情のまま、旅立った。 「………………あり、がと……ござい、まし……た」 風斗が、初雪の所属するリベリスタ組織へと連絡を入れ、迎えをよこしてくれるように頼み。それを待つ間、ぽつりと。初雪が、かすれた声で、一言だけ……搾り出すように、そう言ったのだ。 彼女は、恋人の亡骸を抱き、頬を止めどなく濡らしながらも、いくらか落ち着いた様子に見えた。 彼女自身、覚悟はしていたのだろう。自ら決着をつけると決めた時、しかし、果たして自分にそんなことができるのか、手を下すことができるのか。自分の弱さにも、彼女は気づいていたのだろう。 ごめんね。ごめんね。 心の中で何度も繰り返す初雪の胸に、最後の、隼祐の柔らかい笑顔が、蘇ってくる。満たされていく。 また、生まれ変わったら。今度こそ、俺と結婚してよね? だから。 「…………その時まで。生きて、雪さん」 言葉も無く、彼らは、星を眺めていた。 夏栖斗と柚架は、折れてしまいそうな初雪の側に、そっと寄り添いながら。喜平は、自らの無力に苛まれつつも、悔いはすまいと歯を食いしばりながら。遥紀は、二人の思い出が、初雪の中でいつまでも生き続けるように……と祈りながら。 手持ち無沙汰に後ろ手を組み、ぼんやりと空を見上げるキンバレイの瞳の中を、きらめく星が、ひとつ。 こぼれ落ちるように、流れた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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