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<ライヘンバッハに宜しく>Cluster_Poison


 ロンドン市街を舞台とした大戦局、<倫教事変>の終結から暫く。
 彼の大戦で撃退した『倫敦の蜘蛛の巣』への追い討ちをせんと動く『アーク』と『ヤード』は、まもなく始まる“次のステップ”への準備を進めていた。
 決して、彼の戦いも楽なものでは無かった。モリアーティ側の戦力に大打撃を与えた一方で、此方も数々の命と戦力を失った。けれど、交わした刃の傷痕は、確実に担い手の跡を残していくもの。
 交戦の中で得た『アーク』陣営の数々の情報を元手に行われた、ヤード側の懸命な情報収集行動。その先で、北欧の『番犬』は垣間見えた蜘蛛の糸を逃さず掴んだのだ。
 しかし、驚異的ともとれるヤード陣営の“捜査”の最中、英国のリベリスタ達は幾許かの疑問を持つ。前回の倫敦警察への直接攻撃は、余りに、余りに大胆で攻撃的であった。敵方の頭脳たる『犯罪王』の用いる“慎重過ぎる程に慎重な”手法とは、かけ離れたものであったからだ。
 それでも、結論は急がれなければならない。水面下で動く彼らの真意を突き止めた時には遅すぎた、では済まされないのだ。そこで彼らとアークが度重なる協議の上に決断したのは、漸進の捜査を続ける事ではなく、早期に攻勢に出、彼らの本拠地があると推測される地点――ピカデリー・サーカス地下への制圧行動だった。
 最も、あまりに早計だ、危険だと懸念する声も少なからず挙がったが、数々の不確定要素の存在、敵方の本拠地に関する情報が著しく足りない事。そして、文字通り日に日に進化、変容を遂げていくキマイラの完成・量産への危険性を鑑みた結果の判断であった。
 勿論、早期の再戦線。敵方へ準備の時間を与えないのと同様に、此方の準備も相応に急ぐことになる。間に合わせで対応しなければならない箇所も出てくるのだ。それ故、ロンドン市内の封鎖と監視、即ち遠く海を越えた三高平市への『倫敦の蜘蛛の巣』側の干渉、強襲への対策は<ヤード>の予備戦力で対応する事となっている。
 これもまた、幾らか不安の声が上がったが、作戦に割ける戦力にも限界があり、一方で敵方の残存兵力の規模は不明であるのだ。今回の作戦は、攻勢に幾ら傾けても、過ぎる事は無い。地下要塞を制圧、ないし少しでも多くの被害を与える事が出来なければ更に教授側に時間を与える事になる。
 多少のリスクは承知の上。倫敦地下へと這い広がった蜘蛛の巣を焼き払う為には、此方も危険を冒す必要があった。彼の物語で、彼の滝で。ライレンバッハの彼の滝で、水の飛沫で屠った様に。
「やっとこさ此処まで辿りついたんだ、彼奴等の首元を食い破らねェと前回の気が済まないってもんさ……」
「……そうだな、御前の口臭で噛み付く前に御逝きに成らなかったら噛み付いてやれ」
 ほらよ、と差し出して遣るミントガム。ドぎつい皮肉を投げながら、海を越えたリベリスタ連合の兵は歩を進めていた。重ねた海外遠征と、前の戦線では肩を並べた戦友。少なからず生まれた絆は、アークとヤードの各々の陣営の間で、確かに結束を高める要素になっていた。
「……朝食のフィッシュアンドチップスが美味いと感じる位には、此処に居すぎた。俺達は」
「そいつは天国だ。向こうに帰って飲む御味噌スープが大層美味く感じるんだろうよ」
 交わした言葉に、浮かべた笑顔と立てた二指。英国式の“糞喰らえ”なんて慣れたものだ。背中を思いきり叩いてやってから、また後で。なんて挨拶を投げて。各々の持ち場へ。そうさ、俺達は取り戻して、帰るんだ。汚れた倫敦を掃除して、遠く海を越えた故郷へ。
 決心と共にふう、と一つ漏らした吐息。ふと上げる視界の先で、遠くとおく、地平線へと傾く太陽が輝いていた。明るい朱色を這い回る蜘蛛の巣の様に、黒い雲がその姿を霞ませるのを睨みながら、リベリスタ達は待ち受ける戦場へと向かう。
「……日本にゃあ、蜘蛛を殺るなら夜って風習があるんだぜフィクサード共。せいぜい誘われた盗人らしく刈られて下さりやがれ」
 防戦一方だったリベリスタ陣営に満を持して訪れた攻勢。垣間見える結末への旅路に、彼らの士気は熱く燻るのだった。
 それから数刻。作戦開始の合図は、夕陽の倫敦へと響き渡っていった。――倫敦の命運を掛けた戦いは、始まる。
 

「――始まったか、もう少し時間が掛かるものと踏んで居たのだが」
 番犬共も、下手気に血に飢えていると鼻が利くものだな。等と漏らしたのは、地下要塞内部、第二階層の防衛を担う敵方の男だった。
 精悍に引き締まった体躯と余裕のある立ち振る舞いは、滲む豪傑の色を仄めかせていた。彼は紅い瞳を細めて、上の回廊へと目線を投げる。
 ふと、地上階がにわかにざわついたと思うと、地下深く広がる回廊全てに響く緊急警報。此処暫く、聴いた記憶の無い音色で敵方の襲来を告げる。
 地下要塞に通じる上階フロアの入口では、既に血が流れているのだろう。轟々と響く振動と音が、今作戦にリベリスタ側が傾けた戦力の本気さを物語っていた。
「クールじゃないんだよなァ、戦闘狂共は……」
 面倒臭そうに、わしゃりと自分の銀色の髪を掻き乱しながら男は零す。見た処、丁寧な作戦ではなく、正面突破の物量戦。大方、此方の“準備期間”を見越しての戦線であろう。
 加えて、早くも既に防衛網を抜けた幾らかの戦力が階下へと侵入を始めたのか。階段を下る騒々しい足音と鬨の声に吐息を漏らすと、仕方ないな、と引き抜いた大槍を怠そうに構えて歩み始める。ふわりと欠伸を零す男であったが、その目には、確かに燻る殺気の焔が宿っていた。


「……大ッ体、今回の作戦は俺達に回される情報が少なすぎるんだってー!」
「知るか、情報収集だって今回の攻撃目標に含まれてるんだろ、それに……既に敵の腹ン中入ってんだ。覚悟決めねェと俺達の方が危ねェだろーが!!」
 第一階層入口。侵入するアーク、ヤード連合と敵方の戦火の間を抜け駆けるのは若手も混ざる精鋭部隊。
 ととっ、と軽い動きで積もる瓦礫を飛び越えて、下層への階段へ突入。緊張感と恐怖を誤魔化す様に愚痴を交わしながら、その先へと歩を進めていった。

「っと……、急に雰囲気出してくれるじゃねェ、の……」
 階段を降りきり、警戒態勢の儘右に折れて。そこは上階での戦闘が嘘の様に静まり返り、薄暗く長い廊下が伸びていた。
 一歩進む度、身震いをする度に立つ僅かな音は、不気味に奥深く響いて行く。それはまるで、果てしないトンネルの中を進んでいるようで。
「……止まれ。おいちょっと、あれって……」
 ふと、先頭を歩く一人が隊列を止める。その前方、廊下の先で倒れていたのは、彼らより先に下層へ足を踏み入れた同胞の姿であった。
 手早くアイコンタクトで陣形を整え、ゆっくりと救援へと向かう。手が届きそうな距離まで接近すると、まだ息があるのか。上下に揺れる肩を軽く叩いてみる。その、瞬間だった。  
「――本当に便利だと思わないか、このキマイラの坊主共は。余程、御前等の腐れっ鼻よりも実用的だと、そう思うが」
 静まり返る廊下に、突如語る様な言葉が響いた。声の主は、乾いた靴の音を響かせ、至極緩慢とした動きで曲がり角から姿を現す。非常灯にも似た緑の灯りで照らされたのは、彼の銀髪の男であった。
 現れた敵戦力に、“急に何を”と言葉を返す傍ら。うつ伏せに倒れたリベリスタの身体から突如、ぐじゅりと“食い破る様な”音が響く。落とした目線、その先で――
「うわぁああああっ!!!!」
 ヤードのリベリスタが見たのは、仲間の血液で紅色に濡れた巨大な蜘蛛の姿だった。後ずさりする彼の視界の中で、化物は一つではなく幾つも暗闇で蠢いて。床や壁、天井にも幾つかその影をぼんやりと浮かべていた。
「余り心配しない事だ、英国紳士の“同胞”殿。抵抗しなければ時間を掛けずに御仲間と同じ処に送って遣るから」
 では改めて、と仰々しく頭を垂れて。男は、柔らかに笑むと右手を掲げて、告げる。
「ようこそ、リベリスタ諸君。――化物グモの、美しき巣の中へ」 
 ぱちん、弾いた指先。薄暗く伸びる廊下に、銃声と叫びと、血の散る音色がこだまする。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ぐれん  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年02月10日(月)22:16
 
 全体依頼の御時間です、皆様の御健闘を。
 どうも、ぐれんです。

●成功条件
 ・敵方の撃退、もしくは討伐
 (甚大な被害を与えた場合、敵方は撤退する可能性があります)
  
●舞台
 ピカデリー・サーカス周辺地下要塞、第二階層の階段下の通路です。
 光源は敵味方の区別がつく程度にはありますが、十分とはいえないでしょう。
 障害物は皆無ですが、通路は狭く、横に並んでの戦闘は大人三人が限度でしょう。

●エネミーデータ
 ・『黒死卿』Noir=Beckford(ノアール=ベックフォード)
『倫敦の蜘蛛の巣』所属のフィクサード。種族は不明。ダークナイト。
 上級スキル迄所持、一般・非戦スキル有。かなりの手練れですが、モリアーティ教授の計画の行く末を見たいと考えており、命を擲つ可能性は低そうです。
 反動付きの攻撃を多用し、体力の減少と共に強化される戦闘スタイルの様です。ドラマ値は高く、注意が必要と考えられます。
 
 ・敵フィクサード×4
『倫敦の蜘蛛の巣』所属のフィクサード。種族はそれぞれ違い、職は見た処一人は前衛寄り、他三人は後衛のものでしょう。
 強さはそこそこ。後衛の一人を除いて火力に乏しく、支援や耐久、状態異常を撒いたりと、役割に応じた何れかに傾いた能力を持っているようです。

 ・キマイラ『ディフュージョン・スパイダー』×10
 上記OP内で出現したキマイラ。フェーズは1、見た目はハンドボール大の足の短い蜘蛛。
 腹部の形状に幾つか種類があり、それぞれ果物でいうリンゴ、レモン、パイナップルに相当した形状をしています。意味合いがあるかは不明です。
 個々の能力自体は強くないと考えられます。生成の際のモデルに則して、ハエトリグモの様に瞬発力の高い動きをするようです。
 牙には毒があり、毒や麻痺が付与される可能性があります。
 尚、サイズの小ささ故、『舞台』にある横並びの戦闘の際に数えられません。

 ・キマイラ『ファクトリー・スパイダー』×2
 上記『ディフュージョン・スパイダー』を産み落とす個体です。フェーズは2。モデルは子守蜘蛛。一メートル程あり、背中に乗せた大量の卵からターン終わりに各2匹ずつ産みます。
 成長等々の過程はすっとばして産み落とされたターンから『ディフュージョン・スパイダー』は行動を開始します。
 此奴の居る位置は敵方、最後衛から更に10メートル程奥に進んだ位置。視界には入って居ますが、光源対策が無ければ遠距離から狙い撃つことは出来ないでしょう。
 そこそこタフです。背中に乗っている卵自体の破壊も容易ではないでしょう。尚、攻撃はしてこない様です。

●備考
 ・ヤードリベリスタ×4
 リベリスタ達が突入する際、同行してくれるリベリスタです。職、種族は現場で擦り合わせるしかなさそうです。
 攻勢、支援といった大きな指示は迅速に伝わるでしょう。具体的な指示は戦闘中には難しいでしょう。何らかの形で時間を作るなら別です。
 指示が特にない場合、それぞれの判断で行動することとなります。指示がない場合、彼らはある程度まとまって行動することが多い様です。

 ・ヤードリベリスタ×2(ジーニアス×プロアデプト、ジーニアス×デュランダル)
 OP内描写、皆様の到着より一歩早く下層に踏み込んだリベリスタの分隊の内、生存する可能性のある者です。
 事前付与をした場合、確実に二人とも絶命します。事前付与を行わなかった場合、下層に降りた時点で体力を一割程度残して生存しています。
 生存している場合、作戦行動への協力が望めるでしょう。
 
 
●重要な備考
 1、全体的な戦況(あくまで『倫敦の蜘蛛の巣』本拠攻略の結果)は、リベリスタ側の戦略点とフィクサード側の戦略点の最終結果で上回った側がどちらかで決定されます。(双方が戦略点を持ち、それぞれのシナリオの結果で加算や減算が行われます。守備側であるフィクサード側は初期値に補正を持ちます)
 2、アークの関わらない事件(非シナリオ)も同時に多数起きていますが、其方は『ヤード』の対処案件です。
 3、海外任務の為、万華鏡探査はありません。

 以上となります。諸々の選択は皆様次第です。
 参加の程、お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
アウトサイドスターサジタリー
桐月院・七海(BNE001250)
ハイジーニアス覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
ノワールオルールクロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
ジーニアスレイザータクト
リオン・リーベン(BNE003779)
ジーニアスマグメイガス
六城 雛乃(BNE004267)
フライエンジェホーリーメイガス
丸田 富江(BNE004309)
ビーストハーフスターサジタリー
クリス・キャンベル(BNE004747)
ジーニアスナイトクリーク
常盤・青(BNE004763)


 ずるり、ずるり。
“まるで死体を引き摺る様な音”が、薄暗い廊下にこだまする。
 先程迄の闘争の奏では、序曲の途中で途切れるような、そんな刹那で終わりを遂げていた。
 既に戦闘は明確に決され、敗者となったヤードのリベリスタはその骸を喰らわれ無残な最期を迎える。
 その最中。運良く、否。運悪く生き残った二人を前に銀髪の男は嗚呼、と憂う様な溜め息を零した後、手にした大槍を掲げて。
「肩の力を抜け、英国の番犬共。今から丁重に逝かせて――」
 ――瞬間、周囲の目を焼く閃光。同時に、多数の気配が通路内に侵入を果たして。

「蜘蛛は、嫌いだな」
 閃光の主、『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)は咥え煙草の煙をすぱりと吐き呟いた。
 ぴこりと跳ねる耳。物腰こそ歴戦の男を思わせるものであったが、その姿は紛う事なきティーンエイジャー。
 伸ばした指の先、何者かと身構える『倫敦の蜘蛛の巣』の構成員を示し言葉を連ねて。
「蜘蛛っていやあ益虫と言うが、如何にも気持ち悪くてね。最も此処に居る連中は――」
「……らしい姿だ、とでも言っておきましょう」
 更に続けようとする言葉を緩く上げた手で遮って。武器を手に前に出たのは『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)。
 此処は敵の本丸、腹の中なのだ。余り挑発する時間も余裕も残されては居なかった。抜いた槍を敵方へ向け、闘争の名乗りを。
「私達は敵同士。交わす言葉も要らないでしょう」
「そして私達は、自ら道を求め羽ばたく蜂だ。解るか、蜘蛛共よ」
 その隣、同様に『幻想纏い』を起動、暗闇に煌々と輝く端末を軽く叩きながら『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)はユーディスと並び言葉を連ねて。
 巣を張り只待つ蜘蛛とは違うのだよ、と続けてから。呼吸を合わせる様に一つ、吸った吐息。地を蹴り名乗る。鬨の声。
「――抜かせて頂きますよ、蜘蛛のフィクサード」
「――貴様等を越えた先、切り開かせて貰うッ! 変身ッ!」
 互いの火線が交差して。倫敦市街中央、地下深く広がる要塞へ遠く強く、戦いの音が響いていった。
 

 嗚呼、蜘蛛蜘蛛、蜘蛛。
 始まった戦闘。先ずは数の多いゴミ処理からな、と神秘を練る『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)はぶるりと一つ身震いを。
 戦闘開始を受けて、一挙に動き出す双方の人間と、大量の、蜘蛛。さっさと掃除して仕舞おうと、彼が放つのは『弾幕世界』。牽制ではなく、殲滅の一射。面制圧とも云える程の神秘の弓矢が敵方を正確にブチ抜いて。
 遣りたい事も、遣らなければならない事も多い、この戦場。大事な局面を前に、彼の集中力は高まっていた。
「さぁて、みんな行こうかねっ!」
 後衛の位置。一際大きな声で皆を鼓舞してみせる『遺志を継ぐ双子の姉』丸田 富江(BNE004309)が放つのは、皆へと配る勇気の翼。
 女性ならば多少は怯む大蜘蛛相手であったが、そこは百戦錬磨の大女将の名を継ぐ者。一片の迷いも無く彼女の意志は単純明快。支援に護衛に奔走し、一人でも多くを救い護る目的を見失うことは有り得なかった。
「ネットで何度も踏んだブラクラその他諸々に比べたらこの程度ーっ!」
 富江の放つ翼を広げて、最後衛の位置。声と共に掌を掲げるのは『魅惑の絶対領域』六城 雛乃(BNE004267)。掌の先、収縮した神秘は一挙に『展開』され、四種の魔光となって七海の穿つ敵へと襲い掛かる。
 曰く“ZIPファイル”と同様の原理。種々の詠唱を取り払い放つそれは、彼女なりに楽チンな方法を追ったからだろうか。お手軽な手法に反し生み出す大火力は、彼女の“広域火力型”の二つ名が伊達では無い事を示していた。
 ヤードの協力者も併せ強力な支援の先、前衛で弾ける戦闘の火花を潜って。
「大丈夫、もうすぐですよ」
「少し休んだら、此方に協力して貰えるな?」
 此方の介入で間一髪、死の手から一度逃れたリベリスタの二人を庇いながら、『ロストワン』常盤・青(BNE004763)とリオン・リーベン(BNE003779)は段々と後方へと後退。後衛の味方へと彼等を引き渡す。
 移動中、僅かな時間を見つけて味方の構成の確認を済ませた青は、迷いなく癒し手の足元へと誘導、“宜しくお願いします”との言葉の後、再度前線へと足を向けて。
「前はボクが抑えます、暫し手当を受けて下さい」
 じゃあ、と言い残し青は急いで復帰を目指し地を蹴る。
 幾らか彼らしく、事務的に済ませた救済であったが、救出されたリベリスタは確かに、小さなその背に幾許以上の感謝と敬意を抱いたのだった。
「遅ればせながら俺も、自分の役割を遂行させて貰おうか」
 作戦、第一段階通過。と僅かに浮かぶ笑みを飲み込んで。次の段階へ。此処からが彼の、『導き手』たる真骨頂。
 聖なる調べに乗せた神秘。彼が練るのは癒しでもなく守護でもなく、“生き残る術そのもの”を共有する音色。瞬時に一同の動きは効率化の一途を辿り、自然と被害を小さく留めていった。
 
「――時にヤード、少し話がある」
 あれから、幾度も幾度も放った支援攻撃。払った体力に相応しく敵方の戦力は削れ、厄介な子蜘蛛の姿は既に数える程に減っていた。その最中、共に戦線を保つヤードのリベリスタに七海は云う。
 今後の手筈を幾らかかみ砕いて、詳細に伝える。彼等には、敵の主力の足止めを。自分等は、蜘蛛の源泉たる親蜘蛛の撃破を。相応に時間は掛かったが、方針は確と伝わった様で。そして、賛同する彼等を炊き付ける様に。
「仲間の仇を取りたいだろう、長年の宿敵を捕まえたいだろう――なあ、同胞(リベリスタ)」
 任せろ、と二つ返事。肩を緩く叩き前線へと向かう彼等を見送ると、七海は再び弓を番え狙いを定めるのだった。
「――自ら道を求め羽ばたくと言ったな、貴様」
 少しずつ変化を見せる戦場、その最前線。疾風と交わした大槍、鍔迫り合いの形で銀髪の敵方――ノアールは告げる。
 何を、と答える『神威』の喉首を突如伸ばした右手で掴み、猛烈な力で容易に持ち上げて。首を傾げ、続けて。
「抗う羽根をも千切られた蜂は、如何成る?」
 ぞくりと予感が背を駆けたのか。止めろと地を蹴るユーディスに、敵方の護り手が一挙に肉薄、止むを得ず交わす刃は火花を散らすが、疾風の守護には届く事は無く。
 その間にも闇騎士の腕許からは黒い瘴気がぶわりと沸いて、疾風の四肢を包む様に取り巻いていく。
「無様に地を這い、蜘蛛の餌と成るんだよ……リベリスタ共!!」
 言葉と共に彼が放つは呪いの黒箱。叫ぶ声さえ黒に呑まれて、疾風の身体は幾重にも重ねた呪いに引き裂かれる。
 闇が晴れれば、富江の齎す『小さな翼』は掻き消え、力なく崩れ落ちる彼の姿が――然し。
「――抗う羽根を千切られようと、私達は……ッ!!」
 雄々、と掛け声。運命を迷いなく差し出し、立ち上がり際に放つのは羅刹の連打。敵方の槍の不得手な距離、零距離に一挙に踏み込むと連打、連打、連打。
 息つく間も無く振り抜く拳は、確かにノアールの強固な防御を貫き被害を生んで。
 二歩、三歩。その体躯を押し戻し、ぐらり、揺れる体勢。
「逃がしません、纏めて喰らっていって下さい」
 追い打ちを掛けんと距離を詰めた青が、手下ごと巻き込む様に。舞い踊る様振るった刃は幾重も抉り、切り裂いて。更に、間髪を入れず。
「喰らっとけ、今日がてめェの……バッド・デイだ!!」
 二人に続いて放たれるのは、クリスの鉛の大雨。数撃ちゃ当たると撒かれた射撃を追って、七海の弾幕が、雛乃の魔光が、ユーディスの聖十字が。
 ほぼ同時に放たれ、重なる皆の最大火力が、敵方の全ての姿が掻き消える程に重なり襲う。轟、轟々。
「――何があろうと私達は……戦わなければ、生き残れない」
 最期の最期までな、と疾風は巻き上がる煙の中、呟く。確かに拳に感じた手応え。続いて奏でられるのは、癒しの音色に、リオンの放つ“攻勢の導き”。戦況は此方に傾いていると、皆の脳裏を過ぎる、が。
「……全く、手古摺らせてくれる」
 確かにぐらりと、揺らいだ体躯。額を伝う血を拭い地に吐く朱は確かに効果の望めた事を示すが――。
 直ぐ様、降りるのは敵方の癒しの息吹。此方の回復力と見紛う位に強力な支援に、二度三度立ち上がるフィクサードの姿。
「そろそろ良いか、此方の手札を……晒すとしよう」
 終わりの見えない戦い。その真ん中で、変化を迎えるのはキマイラの動きであった。ノアールが鳴らす指に合わせて、ぴん。と“何かを内部で引き抜いた様な”音が、数える程にだけ生存する子蜘蛛から響く。
 さぁ行け、と示す声に呼応する様に、一挙に蜘蛛は地を這う様に加速し、そして――爆音。
 横っ飛びに吹き飛ばされたのは、先程七海が前衛にと差し向けたヤードのリベリスタを含む前衛。
「此れは――」
 不安要素としては文字通り小さかった子蜘蛛。キマイラという存在の関係上、掛け合わせる存在がある訳だが――『倫敦の蜘蛛の巣』の狂人達が選んだモノは、手榴弾であった。
 

 予想外の敵方の能力に、一挙に混乱し始める戦況。これまでの小型の蜘蛛を中心に殲滅する作戦は、此方の被害を小さく留めるのに極めて効果的であった。
 加えて、只一人戦場で“敵の癒し手の妨害”に重きを置いた青の放つ気糸は、敵方の補助を絶つのにも一役を買っていた。
 然し、ずるずると敵方を押していった攻勢は、結果的に“生まれたばかりの子蜘蛛の行動範囲内に収まる”という予想外の結果を生む事と成っていた。
 乱れる隊列、飛び交う叫びや指示、度々起こる爆発、弾ける金属音、響く轟音。そんなものがぐるぐると狭い廊下に反響する、その最中。
「――蜘蛛は嫌いと言ったな、女」
「ええ、あ……否、それは」
 闇に紛れ、瀕死ながら後衛迄侵入を果たした子蜘蛛。その一体が、クリスの胸元へと組み付く。ぎちぎちとその牙を打ち鳴らす仕草さえ、視認出来る距離で。ぞわりと、恐怖や驚き、諸々を伴う寒気が背筋を走る。
 顔を上げた先、戦場を隔てた遠くで、銀髪の男は笑んでいた。明確な殺気に充てられ、クリスの意識の底の嫌な恐怖が引き出さる。それでも揺れる膝で必死に身体を支え、逃れようともがく、最中。
「それじゃあ、サヨナラだ」
 轟音。クリスの華奢な肉体は、酷く焼け焦げぶすりと煙を上げながら、地に伏せる。猛攻の中、既に運命を払ったその身体は糸が切れた人形の儘、その動きを止めるのだった。
 味方の被害に動揺する間も無く、立て続けに後衛から突如躍り出るのは一人のフィクサード。先程迄支援に徹していた、敵方の頭脳。
 彼が放つは、思考の奔流。狭い通路、懸命に前衛を抑える疾風、ユーディス、青を襲い、幾つかを軽々と吹き飛ばす。自然と、開く射線。
「しまっ……」
「さぁ、そろそろ仕舞いといこうか」
 彼の向けた槍の先。黒い虚無にも見える『向こうの世界』から、呼び出すのは死毒の病。一挙に後衛一同を喰らい、その身に狂おしい程の毒を見舞って。
 続けざまに、地を這い駆けるのは残された子蜘蛛。軽快に立てる小さな金属音、信管に火を入れると其の儘、突進。再び、爆音。  
 爆発した蜘蛛は、吹き飛ばす物ではなく、先程クリスを焼いたモノと同種。火柱の様な神秘が弾ける様に、味方全体を苛める。
 既に暗黒の病に侵された彼等に、追い打ちの如く広がる焔。ぐう、と奥歯を食い縛る前衛達も、これ以上敵方を通す訳にはいかないと、彼等の無事を祈り刃を奮うしか無かった。
「この子達を護るアタシが……先に倒れてる訳にゃいかないねぇ!!」
 視界が揺らぐ様な業炎の中。ゆらり、広げた羽根は焦げもせず、力強く羽ばたいて。痒いね、温いね、甘いねと紡ぎながら立ち上がる姿は、絶対者の証。熱く運命を燃やし身体を起こした富江はすかさず神秘をその手に込めて。
 いくよぉ、と自らを鼓舞する様に放つは癒しの神秘。聖神の息吹。幾度なく繰り返した回復行動。けれど先程迄より一層、皆へと加護を届け、周囲の火炎を掻き消して。自らの意志を、貫いてみせる。それでも、支援に護衛に、奔走した彼女への負担は、最早限界に近くなっていた。
「――大ッ体、蜘蛛はちょっと気持ち悪いけど、益虫さんだって言うじゃない」
 その隣。同様に運命を焼いて。それでもふらつく足で、富江の癒しで何とか立ち上がり雛乃は呟く。
 倫敦に巣食って、キマイラ作って、人を喰って、爆発して、傷付けて。こんなの、害虫も良い所じゃない。
 そんな事を並べながら、血の滴る右腕を前に。圧縮、圧縮。練り上げた神秘を想いと共に。
「今回の事で、益虫さんの風評被害……半端ないんだからねーっ!!」
 禍々しく輝く魔光を一挙に放出。ノアールと周辺の取り巻きを纏めて貫き、報復の呪いを叩き込む。
 雛乃の火力を前に敵方に確かに生じる隙。“今だ”と青は咄嗟に、与えられた小さな翼を広げ、一挙に跳躍。敵方後方の最早“爆弾製造機”ともいえる親蜘蛛を目指す、然し。
「痛ッたた――待てよ少年、釣れない、なぁ!」
 煙の中から手を伸ばしたのは、他でもない敵方の将。通路の横幅と同じ様、そう高くは無かった天井。大人一人が手を伸ばせば、容易く届く距離を飛ぶ青は、その右足を掴まれ地へと叩き付けられて。
 流石に長引いた戦闘、相当応えた様子で見下ろすフィクサードであったが、振り上げた刃を握る腕に、その脅威は未だ健在であった。煌々と輝く白。敵方が振るうは――。
「止めろと、言った……ッ!!」
 味方の危険に、再び駆ける疾風、振るうは壱式迅雷。稲光と成り敵方のどてっ腹に一撃、“次いで”だと叩き込む雷撃。周囲の敵方をも焼いて。
 続けて、薙ぎ払う様な味方の支援。七海が放つ、殲滅の雨。揺らぐフィクサードに、追い打ちを掛けて。
「――抗うとも、言いました」
 味方の鬨の声を繰り返して、ぐらりと体勢を崩す敵の『護り手』に、横凪ぎ。続けて、袈裟懸けに。刻む十字に、聖なる祈りを込めて。――皆の火力はとうとう、敵の一人の命を刈り取って。
 どさり。地に伏す味方に再び、双軍は互いの距離を測り直すのだった。
 

「くっ……此ればかりは」
 如何しようも、と後列で呟くのはリオン。何とか立て直し支援を続けながら、戦う皆の為、様々に巡らせた戦略。ヤードのリベリスタの数人とクリスが行動不能の今、出来る事を。
 上空を抜けられないなら、正面からか。敵方の前衛が落ちた今、後方の親蜘蛛までの到達は容易――否、此方の癒し手は最早独りだ。被害が上回ったら、如何する。
 ならば敵の前衛から――否、長引いた戦闘。息切れ目前の此方の火力にも限界が。
 それならば、此方に取れる手段は、一つ。
「――退くぞ」
 ぽつり、零した言葉。本作戦、一番冒してはならないこと、それは『全滅』だ。
 敵方の“慎重過ぎる程に慎重な”やりかたを崩してまで実践しようとした“モリアーティ・プラン”は、起死回生どころか盤上をひっくり返す程の『何か』を孕んでいる可能性があった。
 作戦開始から、既に長い時間が過ぎている。刻一刻と変化している筈の、地上や三高平の状況も掴めて居ない。何も、情報を持たぬまま此処で特攻して、被害が大きくなれば――。
 今は、生きる事だ、と皆に伝える。開始されるのは、無様で必死で、けれど遂げなくてはならない“撤退作戦”に他ならなかった。
 ――生きて帰れば、直ぐまた来れる。誰かが言った、そんな言葉。後退するのではなく、諦めるのではなく。後ろに向かって、全速前進。もう一度別の、もっと大事な作戦へと向かえるように。
 否定する者は、居なかった。惜しくも離れるこの場から、誰も失わない様に、各々に肩を貸し合い進む。生存への道。当然伸びる追い討ちの雨。耐えきれず運命を焼いた七海が、舌打ちと共に放つ御返しの矢の雨を、雛乃の放つ雷撃が彩って。何とか逃れ、階段を上り切ると、そこは亦、戦場。
 此方です、と手を引き導く青。震える声は、普段の彼とは幾らか違っていて。今日彼の場で見た全てが、余りに明確に、闘争という場の恐ろしさを伝える。脳裏に焼き付けた様に離れない、死のイメージ。
 小さな背に味方を担ぎながら、足早に駆け昇る階段。血生臭い戦場から逃れ、地上へ。地上でも戦闘は行われていたが、それでも空の見える開放感に、ふっと抜ける、緊張。
 吐き出す言葉もなく地にへたり込む彼は駆け寄る衛生兵に腕を引かれ、力なく車に乗って。飛び交う怒号、悲鳴、地下で起こる、爆破音。戦場はこんなにも、こんなにもリアルなのだと少年の心には刻まれるのだった。

 過ぎる風は、幾らか血生臭さを孕んでいて。傾いた夕陽はその姿を隠し、夜は更ける。
 暫しの休息。癒える痛みと反比例する様に、『倫敦の蜘蛛の巣』との決戦はその激しさを増していくのであった。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 どうも、ぐれんです。参加の程、ありがとうございました。
 以上の様になりました。如何だったでしょうか。
 判定等々は、難易度相応に。
 子蜘蛛の対応は、完璧だったと思います。
 その先は、リプレイの中に。
 
 どうか、今は身体を休めて下さい。
 それではまた、三高平で出会える事を願って。