● 「なンの騒ぎだ」 血みどろ白衣を着た男が実験室から顔を出した。 断片的に拾える単語を合わせて考えてみれば、如何やら呼んでもいないお客様が来たそうな。 それならば逆に都合が良いと言うもの。今丁度、実験をしていた玩具に餌を与えなくてはいけない時間だ。 「おい、第一セキュリティにこのでかいのを回せ。それと有りっ丈の使えるキマイラを回せよ、教授の部屋に行かせる訳にゃいかんだろ」 男は背後でおどおど立っていた眼鏡の男に命令してみたものの、全力で首を横に振られてしまう。 「そ、それが、今調べた所……使えるキマイラ大盤振る舞いというか……」 「あ?! セキュリティに回せるキマイラがいませんってか!! ざけんな、俺のキーやるから重研から俺の作ったの引っ張り出せ」 「は、はいいぃっ」 覚束ない足取りで駆けて行った眼鏡の背を見ながら、男は煙草を吸い始めた。 「はー、さてあと何が必要かねぇ……。セキュリティあれ使えンのかねェ……」 忙しくなるな、と背伸びした男。これでも久しぶりに騒ぐ血とやらを抑えるのに精一杯であったのだ。 「楽しく狩り狩られようぜ? どっちかがぐっちゃぐちゃに潰れるまでなァ」 ● 『依頼を、宜しくお願いします』 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)はブリーフィングルームより、移送中のリベリスタ達のAF回線に割り込んだ。 昨年行われたモリアーティの計画は、アークとヤードの連合軍の前に撃退した。 その後の話になるが、アークが獲得した情報と合わせて、ヤードの情報収集能力は最大限の効果を発揮した様だ。 それによると、倫敦ピカデリー・サーカス付近に敵側の本拠地が存在している事が解った。 しかし、敵の全ての手が見えていない以上、敵の巣窟に入る事は自殺行為の様にも見える。不確定不安要素が否定しきれないからこそ、万華鏡さえ通らないからこそ、正に混沌の中に飛び込む様なものだ。 『されど……敵に時間を与える、という行為こそが最大の自殺行為だと決定されました。 フェーズ4のキマイラが完成する前に、其れが量産可能になる前に、全てを終わらせましょう』 ヤードが倫敦市民の避難等を担ってくれた。アークとヤードの戦力はこれより倫敦の蜘蛛の巣へと飛び込むのだ。 『杏理たちの班はB3へ向かってもらいます。先導して突っ切って行ったヤードから連絡が途絶えました。最悪……全員生きていないかもしれませんが、彼等も手練れ。お手伝いをしてあげてください』 お手伝いレベルで命を懸ける場所へ行くのか。最近杏理の無茶振りは酷い。 『蜘蛛の巣の戦力は、ヤードからの連絡を纏めれば、 リチャードにその部下のフィクサードが二人。それと……スライムの様なエリューションキマイラ。それもフェーズ4とフェーズ2とフェーズ1と中々豪華です』 敵からしては、此の先には行かせたくないのだろう。戦力を集中させ守りに入っている様にも見える。 『キマイラについてですが、恐らく暴食のフォースとエレメントが合体したものだと思われます。その為食欲は旺盛、食べた物を溶かし続けて力とする凶悪なキマイラでしょう。 けして油断なさらぬように、食べられても噛み砕かれる訳では無い! 出ちゃえばいいんですよ、そんな簡単では無いとおもいますが……』 そりゃあ簡単では無いだろう。 『スライムの予測される攻撃方法は纏めて起きました、限りでは無いかもしれませんが参考にしてください。特に、意識が無いまま食べられたら……どうか、ご無事でお帰り下さいね? そしてスライムは非常にタフです。キマイラ独特のリジェネ能力に加えて、自己完全再生を一定周期で行っております。 このキマイラを倒すにはコアである、脳を潰さなければなりません。脳はスライムの巨体の中を自由に素早く動きます。非常に攻撃が当て辛いと思いますが、此れはスライムの体力を減らす事によって当てやすくなるだろうと思われます。 そういえば……キマイラを制御する場合は何かしら、体内に入れるアーティファクトが必要だったかと思います。それはフィクサードが必ず持っていると思いますよ、参考にしてくださいね』 一息置いて、説明は続く。 『フィクサードに関してですが、恐らくイギリスマフィアの幹部であった人間だと思われます。一人については記録がありました、もう一人は不明です。 リチャード・クロス。己より強い者を敬い、尊敬し、付き従う従順な男です。 単純にナイフの扱いが非常に上手なので、お気を付けてください』 『では、セキュリティルームについて説明しますね。 皆さまが行く場所は文字通りにセキュリティが発動しております。 此れは蜘蛛の巣が敵のみを攻撃するように設定されていると思われます。ので……破壊して頂くと、この後此処へ行くときにセキュリティ妨害が無くなり、楽になりますので是非お願いしたいと思います。』 やるべき事も多く、敵も多く、不穏の多い闇の中へ。 『それではいってらっしゃいませ、御帰りを、お待ちしております』 ● 「おいおい、来て早々……」 リチャードは溜息を吐いた。 もっと心躍る戦いを考えていた。もっと血飛沫が飛ぶ愉快さを望んでいた。 だか、此れは一体どういう事か。 「なるほど、キマイラ……今までキマイラ同士ばっかぶつけていたから知らなかったが、対人戦だと非常に……これはこれは、酷い酷い」 イギリスマフィアを止めてから、ずっと研究室に籠っていたリチャードだ。戦いに対して感覚が鈍っているのであればそうであろう。 「俺ァな、マフィア時代は市街を這いずるヤードが怖くて仕方無かった。だがなぁ、もうそれも思う必要が無いって事かね」 見下すヤード達は、喰われたものもいれば瀕死で防戦に徹する者も居る。 「もう少しで、味方が来てくれる!! ……とか思ってンのかね。それは良いな!!」 ――増援諸共、此処で全て食われて存在から消えると良い。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:VERY HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月09日(日)22:19 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 「おいおい、ヤードさんや。これから助けが? 来るとか? 其方(ヤード)が勝手に此処まで突っ込んで来て? そんな都合良い事―――」 ――都合の良い事、あるかもしれない。 割と組織に属しているリベリスタは運が良い。フリーの人たちはよく死にますが。 ともあれ、いらっしゃいませ。此処は蜘蛛が蔓延る、糸の中。捕まった蝶は逃げれないのが常ってやつです。それでも来てしまったのなら、もがけばきっと何かあるかも分かりません。 リチャード・クロスは倒れているヤード一人の首を掴んで、ジャックポットの口の中へ投げた。 とぷん。 と入ったスライムの中は言わば棺桶である。 中では今しがた入れられた一人を含めれば、三人が酸の水槽の中でもがくのだ。 すこーしずつ。すこーしずつ。 皮が溶けて、皮さえ無くなれば痛みと共に肉が溶けて。痛いからこそ気絶する事もできずに、重要な臓器が損傷するまで死ぬ事は叶わず。死を迎えてさえ、其の内骨まで溶けて魂さえ食われる混沌。随分大きく膨らんだキマイラ、どれだけ魂を砕いて来たのか察してみれば恐らく軽く二桁三桁イってるんじゃなかろうか。 されど恐れる事は無い。 アークが此の件に介入したのであらば。 「第一セキュリティルームは此処かい?」 「そうみたいだな」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が扉を開き、『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)を始め、十人のリベリスタ達は最下層の部屋に辿り着いた。 現場は一言で言えば、リベリスタ(ヤード)の劣勢。 それは当たり前だ、特にヤードは万華鏡の様な便利なものも無ければ、中の仕組みや敵の能力値なども不明。正に深淵に飛び込み、深淵に喰われかけていた彼等。 壁側まで追い込まれているヤードもいれば、伏した身体を起き上らせようとしている者も居る。先程も言ったが、既に食われている者までも。 「アークの焦燥院フツだ! 結城やユーヌ、新城もいる。助けに来た!」 現場に着いた途端、フツは声を荒げた。点々としているヤード一人一人に焦点を落とし、そしてまた大声で聞こえる様に。 「一旦下がって、体勢を整えてくれ! 来栖も回復してくれる! 戦えるようになった人は、あまり前に出ず、こっちとそっちの後衛がスライムに飲み込まれるのを防ぐために護衛してくれ!」 其の声は全て、ヤードへの指示であっただろう。 今を名立たるアークの助言だ、聞き流すヤードなんぞ一人もいない。特に有名である者達の名前をも混ぜれば効果は上乗せが期待できると信じて。 「護衛がダメージ受けたら別の人に交代していく感じで! 後衛の人はいい感じに回復と攻撃してくれ! 全員、くれぐれも無理するなよ!」 無理をするなとは、死ぬなという事か。 フツが言い終わる頃には、リチャードは両耳を塞いでいた。 「よくもまあ、作戦をそんな大声で俺に聞こえる様に言えたもんだ……助けは来たみたいだなぁ、良かったじゃないか。此れできっと彼岸の路も楽しく大勢で遠足できんぜ?」 アークの介入に対してリチャードは驚いてはいない。 教授のプランを考えれば、彼等が此の場に居る事は想定の範囲内である。つまり何もかもが順調なのだ。 「よぉ、アークだな。結城竜一、焦燥院フツ、新城拓真に……ユーヌ・プロメースか。随分と雁首揃えたもんだなぁ、悪いが後の奴は知らん」 吸った煙草の煙を吐くリチャードは余裕の趣。 だが、それも何時まで持つか、何時までも持たせて堪るかと『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が動き出した。指の間に挟んだ札をちらりとみせ。 刹那。 部屋が赤色の光に包まれ、警報が響く。セキュリティが作動したのだ。 侵入者の発見と除去の開始である。此れにはヤードのリベリスタ達も対象内だ、否、今でも其れに苛まれていると言ったほうが的確であろう。 部屋の壁の一部が開けば、銃口の様なモノが一斉に飛び出してきた。かと思えば射出された赤い光がヤードも、アークも射抜く。 レーザーに札ごと焼かれたユーヌは一つ、舌打ちを落した。 「大当たり? 大外れの間違えじゃないのか。何もかも外れ失いスッカラカン」 代わりの札を取り出し、玄武の其の名を呼ぶ。すれば大津波が敵を飲み込もうぞ――。 しかし其の攻撃は域のスキル。 ヤードを味方とするのであらば、当てない様にするというのは無理な願いだ。現に、ヤード達は一か所に固まっている訳では無く、敵に陣形を乱されたかほぼ個々に分断されていたのだ。 「アークは俺達を助けに来たんじゃないのか!?」 勿論ヤードは慌てた。だってほら、もう目の前に波が迫って来ているんだから。 そしてザッブーン。 「残念だが、俺等を殺す事のが最優先なんじゃねぇかな、可哀想になァ」 波に飲まれたヤードの男がそう言い残して瞳から光が失った――死亡を確認するまでも無く、リチャードは動き出した。使えない玩具よりは、使えた玩具の方が楽しいじゃないの。 「ヤードじゃあ、退屈してたんだよねー。アークとやら、十分に俺を楽しませてから逝ってくれ」 『キマイラ研究』はリチャードにとって楽しいものでは無い。むしろこういう場で有利に戦えるからこそ、玩具を作っていた。 今がその時だ。 嗚呼、箱舟よ。 名立たるに恥じぬ戦いを魅せて欲しいものだ。 さあ。 さあさあさあ。 さあさあさあさあさあ!! 「なァ? 結城竜一ィ!! 邪魔だ!!」 リチャードの手の中で回転して出て来たナイフ、其の切っ先が竜一の喉を切り裂いた。溢れ出る血もそうだが、溢れ出たのは何もそれだけでは無く。 「リチャード・クロス! 強い奴に従うって噂が本当なら、こっちに従え! ここには、アークの生ける救世主! 焦燥院フツがいるんだぜ! 大人しくするならよし、でなきゃ死ね!」 声を発した竜一の口からも、赤い液体は零れ出していく。リチャードの顔を染め、竜一の服を染め。 彼の言葉にリチャードは首を振った。 確かに己は尻は軽い方であろう。もし、あのバロックナイツが一人、モリアーティより強く恐ろしい存在であるのならフツの下についてもいいのだが。 「そりゃ此の場を如何にかしてから言いな、結城竜一」 「あと」 竜一は露草を一閃。リチャードの髪を数本切り取ってから言った。 「俺の名前は、結城 ”Dragon” 竜一だ」 音にしてみれば、ぶぉん、で、がつん! フェーズ2のプチジャックポットがトゲのあるしなった触手を動かしたのだ。 其れを拓真はすれすれの所で避けたが、その先『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)の脇腹にはグサリと刺さっていく。ドコ、ドコ、ドコ、ドコ、何度も何度も振り落された触手はユーディスの身体を蹂躙していたのだが、何度目かのテンポで止まった。 「そんな、痛くない気がします」 触手のトゲを掴んだユーディスはむくりと起き上った。確かに身体から鮮血は流れ出るのだが、けろりとした表情には何処か狂人的なものを覚える程。 ● 『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)は奮闘していた。 彼女の優しい心ながら、既に死にかけているヤード達を見逃す事はできなかったのだ。 まずは目に見えて死にかけているヤードのもとへと走った。意識はある彼の服を掴み、アークが居る方向へと投げてみる。ジャックポットに喰われぬように。 そして次、今度は少し遠くの方へ分断されているヤードのもとへ―― 「お願い、どいて……くれないよね」 ――行きたいのだが、進軍こそ許されず。 旭の足は、プチプチジャックポットが絡んで進ませないとした。助けなければ、助けなければと急ぐ心中。だが余りにも旭一人の力では、無謀だ。とりあえず其の絡みつく気持ちが悪い物体を踏み潰してみる旭。 「私に、任せて」 後方から聞こえた声に、其方を視るまでもなく旭は顔を縦に振った。 『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)が機械仕掛けの神様に願う。乞うたのは、仲間への回復もそうだがヤード達がなんとかして助かる様にと其の一心で。 小夜香の光は、ヤードへと届く。 何もヤードさえ、一人では戦えない程弱いリベリスタでは無い。実力は、おそらくアーク相応のものはあるのだろう。 『ありがとう』――其の一言が小夜香の耳に届いた瞬間、回復したヤードはダンシングリッパーでスライムのはじけ飛ぶ中で踊るのだ。 同時進行で『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)が放つは鋭く尖った刃。 シードの光る其れはジャックポットの体内へ飲み込まれるように入って行った。すればその場所から凍り付いていくジャックポット、ついでにほんの少しだが後退したか。 「今ならヤードの皆さんを助けられるはずですよ」 レイチェルが仲間へそう言う所だが、小夜香が放った光と似た光がジャックポットの後ろから輝きを放った。 「そそそそそんな簡単にそんな事させられないですよぉ……」 そんな身体を震わせながらたたわなくても、とレイチェルは心中思ったのだが。 しかし視界を横に平行移動していけば、見る見る内に氷が溶けていくジャックポットが。刺し込んだレイチェルの刃さえ、ヒビが入り、音を立てて割れて行った。 刹那、分裂したジャックポットの体液が彼――ホーリーメイガスであるローランド・コッカーを包んだのであった。恐らくソレが特殊膜であろう、ブレイクか、一定の力で壊せば壊れてくれるだろうが。 再び戦場に光は漏れた。 雄々しく、それでいて頼もしい光だ。ユーディスが行うラグナロク。仲間へと戦闘を鼓舞する様に、薄い光が彼等を守る。 それにしても、と。ユーディスは首を捻った。 「あれは……攻撃から身を守る盾のようなものでしょうか」 「ブレイクか? 無理なら力づくで壊すまでだ」 『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は銃口を構える――のだが。ジャックポットより遠距離位置に居る龍治は、ジャックポットより更に後ろに居るローランドは攻撃範囲外になってしまっている。 射出した弾丸は雨となり、炎となり。弾き飛ばしたプチプチジャックポット達を、炎上させていく。龍治は何時ものように興味無さげに呟く、 「そんなものか」 と。 他愛も無いものを撃ったかと、龍治は次の狙いを定めた。覗いた視界の先で、龍治が見たのは小さなジャックポットが跳ねて触手を伸ばす。 テレジアの子供達――であったか。 キマイラはフィクサードによって動かされている。そしてフィクサードこそ馬鹿では無い。 ローランドも、リチャードも彼等(リベリスタ)後衛が邪魔である事は弾き出していた。ならばいっそ、潰してしまえ、壊してしまえ、崩してしまえ。なに、そんなもので終わる彼等ならそれまでだ、死ぬと良い。 速度こそ早く動けてしまったプチジャックポットは棘のある触手を振り落した。 沙夜香もそうだ、龍治もレイチェルも『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)も、其のトゲに貫かれて内側から外側へと内臓が飛び出した。びちゃあ、と音が出た、赤く染まったのは床で水音は不気味に室内に響いていく。 痛くても、痛くても、また立ち上がる宿命(カルマ)。 「援護に来た。一度体制を立て直せ、其の儘では厳しいだろう」 『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)は剣をジャックポットの口らしき切り目に刺し込んだ。所謂梃子の原理でこじ開けてみる。 流石フェーズ4か。少しか拓真の中でも感心した。以前のフェーズ4も侮れないものであった、今回もきっとそうであろう。 簡単には開けさせてはくれない口だが、中に納まっている三人の力も相成ればぬるりと間から落ちて来るヤードの身体。 「悪いな……」 「うう、情けない」 と、弱弱しい言葉を吐いてしまうのは仕方の無い事なのだろう。振るわれた鞭に拓真は其れを切り離して回避するものの、切っても切っても元に戻るスライムには少々相性が最悪か。 死線を彷徨ってきた拓真にとっては、弱弱しい生き物が目の前にいるなと思っただろうか。だが敵を同じとする組織の一つ――拓真が言葉をかけるは激励の言葉だ。 「大丈夫だ、此処から全て立て直す」 何度、何度、何度負けても。立ち上がる宿命にあるリベリスタ。敵が居るのであれば、踏みとどまる事など許されないか。そんな事はもう聞き飽きた程に、心にこびり付いて離れない呪文の様なものだ。 「まだまだ、はじまったばかりだよ」 拓真の言葉に続いたアンジェリカは両手の中、疑似的にも小さな月を創り出す。貫かれた身体から漏れ出る鮮血よりも赤く、来ていた学校の制服は既に己が血で染まった。 今日で全て、キマイラの因縁を終わらすのだ。アンジェリカは放つ、其の月が齎す崩壊を齎す諸悪の光を。 「全部……壊す」 そう、全てを壊して救うのだ。 ● 時間は過ぎていく。刻、一刻と消えていく。 足りないものは、なんであっただろうか。軍配は、何故上がらないのだろうか。 ユーヌは其の頃、電子の妖精を用いて敵のセキュリティへ飛び込めないか試していた。早くからセキュリティを如何にかできるのであれば、戦況はそれなりに此方に有利に傾くはずだ。 だがセキュリティをリベリスタのものにするのは厳しいか―― 「あわわ、倫敦が蜘蛛の巣のセキュですよ……そんなので、打開できるようにはしていませんよ」 ローランドの言葉がユーヌを現実に引き戻す。大凡そんな検討はついていた、そう上手くいく世界ではないのはよく知っている。 「随分と多重のロックだな。そんなのに力を使う暇があれば、此処まで侵入させないようなセキュを考えるべきであったと思うが?」 セキュリティ自体を如何にかできないのであらば、ユーヌは己が其の制御を奪取するしかないと弾き出した。 おそらくセキュリティの制御装置を持っているのは前衛にて暴れるリチャードでは無く、後方の方で身を固めているローランドの方であろう。 今はフェーズ4もリチャードもフェーズ2も己に牙を向けていない。絶交の好機であると踏むユーヌはローランドへと駆けだした。 「ユーヌさん、無理したら……っ」 彼女の後姿に手を――だが、それで恐らく止まらないだろうと悟ったアンジェリカはレーザーに射抜かれた。胸を抉られ、ぽっかり空いた穴が一瞬にして真っ赤にベタつく。 アンジェリカ自身は燃える事は無いにせよ、ダメージこそは如何にかできればいいものだ。ならばと、視界を巡らせてアンジェリカは腕を伸ばした。 「機械如きで……!」 立ち止まっては、られないのだ。足掻いて、足掻いて、なお倒さねばならない倫敦の蜘蛛の巣。其れに作られたセキュリティなんかに――右手の上で、鮮血の月が光り、壁中の突起が爆発していく。 「救いよ、あれ」 遠くのヤードへ旭が近づけられないのであらば、小夜香の回復がひとつの生命線だ。そして先程拓真が救出したヤードの回復手をも重なって、回復は非常に厚い。 だが、その回復を以てしても嘲笑うようにしてジャックポットは己が猛威を振っていた。 伸ばされた触手に、硬質化したトゲが発生。 其れが竜一を除いたリベリスタ達前衛を押し潰したのだ。間近で聞こえる骨が潰れる音に、フツは寒気を覚えたが其処で止まる訳にはいかない。 ジャックポットこそ、レイチェルのノックBによって後衛への遠距離が届かないまでに押し返していた。だが、フェーズ2と1のプチジャックポットは十分に編成の要である小夜香を狙う事ができるのだ。 「来栖!!」 咄嗟にフツは呪印の札を投げ、意地だけで攻撃を仕掛けていたプチプチジャックポットの行動を制す。だが――、一体では無い。 拓真が抑えているプチジャックポットが触手を伸ばした。肥大した、其のトゲありきの触手が後衛を飲み込む。続いたフェーズ1達も小夜香に、アンジェリカに、レイチェルに、龍治を毒や棘で貫く。 小夜香の血の着いた触手がプチプチジャックポットの色を赤く染めた。しかし直ぐに、拓真の弾丸が赤色のジャックポットを床にシミへと変えるまであと数十秒も無い。 「まだ、まだまだ!!」 小夜香の回復がリベリスタをギリギリの所で守る。序に付与されていたラグナロクがいくらか役に立っているか、フェーズ1たちは虫の息だ。それも、ローランドが治してしまうのであろうが。 レーザーに撃ち抜かれながら、竜一はリチャードを相手していく。ただ、リチャードは眼前の竜一では無く奥に居る小夜香を狙っていた。 撃破する順位がまだである彼だが、竜一が彼を後衛に行かる訳にはいかないのだ。 「邪魔だっつってんだろ!」 「お前こそだ。お互い仲良く死ようぜ? でもよぉ」 血管が千切れ、腕から血が噴き出す。ビキビキと――肥大していく竜一の腕。其れは120%、限界を超えてなお剣を振り落せばリチャードのかすり傷さえ致命傷並みの威力を叩き出す。 痛みに眩んだリチャードの視界。だが己を奮い立たせた彼はソードエアリアルを放つ――狙いは小夜香へと。力任せに、もう一度攻撃を。 「力任せもイイが、それだけでは勝てない。青いなあ、『小僧』」 リチャードの声は竜一のすぐ背から聞こえた。竜一が振り向く――だがもう遅い、振られた敵の刃は竜一の背を十字に切り裂いていたのだ。 「どれ程までフェーズ4を溜めこんでいるのですか」 「あ? 教えてあげましょーかい?」 竜一の背後にリチャード。リチャードの背後にはユーディスが位置した。光り輝く剣を持ち、そしてそれを振り落す動作――リチャードの頬に赤い縦線を引いていく。 リベリスタは複数攻撃に長けていたのもあってか、特に銃口から煙を吹かせる龍治の攻撃はフェーズ1を斃し尽くすには十分な威力を持っていた。 順番を追うのであらば、次はリチャードや、ローランドを倒す番だ。 「覚悟さない、リチャード・クロス」 「随分雄々しい女が居るもんだ、嫌いじゃないぜ? だが、うさちゃんのがもーっと好きでーす」 リチャードのネクタイの刺繍のウサギが、にっこり笑っていた。ひらりと半身になったリチャードの後方、ローランドが魔法陣を描いていた。 「危な――」 刹那、聞こえたのはユーディスの声か。 ローランドの放ったジャッジメントレイが竜一の、ユーディスの、拓真の、フツの付与を全て吹き飛ばし、。ヤード一人が倒れ伏した。 唇を噛みしめた旭は奥へと向かう。ジャックポットの後方隣にて意識の無いヤードの為に。すぐ隣では流水に流され死亡したヤードは居たが、最早彼は仕方ないだろう。 両手を一度合わせた旭は、事が全て終わったら埋葬するから待っていてと心中唱え、もう一人の方を担いだ。 「大丈夫、絶対に助けるからね」 「は……ぃ」 ――が。 「ふあぁ………」 旭の目の前の影。ジャックポットが口を開き、二人を飲み込んだのであった。 ほぼ同時であった。此処からでは狙えないと判断した龍治は、ローランドを射撃する為に前方へと移動した。来るな、とヤードのクロスイージスが叫んだものの頭上に忍び寄ったのはジャックポットのトゲの触手。 振り落された其れとレーザーが相成り、竜一とフツ、拓真と龍治の体力を根こそぎ切り取って行った。 そう、このジャックポットを抑える事こそかなり戦況にも影響を与える事だ。レイチェルはそれを解っていたからこそ、己が此処に居る意味を知っていた。 少々、レーザーやフェーズ1に踊らされてしまっていたが、今は、次は、如何してもレイチェルはあのジャックポットを止めなければならない。 何時も以上のプレッシャーがレイチェルの背に乗っかった。何故か吐きそうだ、フェーズ4だ抑えられるのか? いや、抑えなくてはいけない。 「どうすればいいか」「どうすれば大丈夫か」なんて、もう今更考える事でもない。 「届く、私なら、届く!!」 そう言い聞かせてレイチェルは放った、一つの刃に全身全霊を込めた。投げた手が汗ばんでいたが、精密の度合いはカンペキに完全。 「氷つけ!!」 バキィと鳴ったのはジャックポットの腹の中。一瞬にして動きの鈍ったそのスライムの檻の中で、コアは俊敏に未だ蠢く。 「なかなか……流石、レイチェルだぜ」 そう、負けてられないと。 深緋を杖に立ち上がったフツは、諦めた顔なんて一切しなかった。 まるで足が宙に浮いている様な感覚だ。恐らく負けられない意地だけで立っているのであろう、限界はとうに通り越しているのだから。 フツは槍では無く札を出す。其の札に願いを込めた。 「招来朱雀――頼むぜ」 轟、燃えたスライムたちがボコボコと音をたてて、嫌に臭い香りと一緒に煙を出した。 一部始終を見ていたアンジェリカは、ゆっくりと立ち上がった仲間の名を呼んだ。 運命の加護に包まれていく彼等ならばまだ大丈夫なのだろうが。握り締めた刃に、青色に輝くシードが光った。 「ちょっとは、大人しくしててよ」 人を斬るのに長けたように反り返っている刃。 似合わない程華奢な身体のアンジェリカがそれを振り上げたのだ。腰を曲げ、振りかぶり、投げたそれはブーメランの様に弧を描く。ジャックポットのコア、すれすれの部位を抉り其処から氷結の恩恵がジャックポットを侵食していく。 再びアンジェリカの手に戻った大鎌、即座に空いている方の手で、擦り切れた精神力でバッドムーンを放つのであった。 ● 再び時間は過ぎていく。 攻撃され、回復し、其のいたちごっこがリベリスタとフィクサードの間で廻っていた。だがそれも、そろそろ終わりであろうか。 「貴様等には過ぎた玩具だ、必要無いだろう?」 「ひ、必要ありますうぅぅ」 ローランドに近づけたユーヌ。一歩彼女が前に出るごとに、ローランドは一歩後ろへ後退した。 渡す訳にはいかない、制御装置。 此れ以上動かされる訳にはいかない、制御装置。 そしてまたユーヌをレーザーが射抜き、身体が朱色に燃え、輝きながら前進してくるユーヌは、ローランドの眼には鬼や悪魔の様に映った。 「渡せ」 「嫌だ」 「渡せ」 「嫌だ……」 「渡せ!」 「ひ!?」 手の平サイズ、よくあるスマートフォンの様なモノが放り投げられ、ユーヌは其れを寸前で滑り込んで拾った。 即座にダイブするのは、制御のハッキング。だがやはり多重なロックが敵を上書きする事を許してくれない、やれる事は制御の停止だ。 ユーヌの頭上にはトゲの触手が蠢き出す。 ユーヌの手はスマートフォンの上で踊り、今動いているセキュリティを全て停止させ。 「止まった……!? ユーヌさんはやくこっちに―――!!」 レイチェルは言の葉を紡いでみたのだが。 ゴシャ と、落とされた触手が何度も何度もユーヌの身体に穴を空けた。 ユーヌの安否もそうだが、旭とヤードがジャックポットの中で未だにもがいている。 喰われたのならば、と。旭は炎を従えて其れを薙ぎ払って内側から燃やして吐き出させる事を試みている。ボコボコと沸騰したジャックポットだが、物理的威力は半減してしまうか然程痛くも無さそうにコアが旭の顔を覗きこんで笑った。 やはりこじ開けるしかないか。時間が経つに連れて旭には段々と肌が溶けていく感触と、痛覚が自己主張してきた。 「少し、待ってくれ!」 抑えていたフェーズ2を蹴り飛ばし、なぎ飛ばして間を稼ぎ、拓真はトリガーを引いた。ガァンと鳴り響いた其の音に威力を乗せて、されど、やはり、ジャックポットの身体に触れた弾丸は勢いこそ無くなり、とぷんと中に入っただけ。 それでも少しだけ、弾丸の形に除いた穴に旭は手をすべり込ませてこじ開けた。まずはヤードの、しかしまさか、息が無い。 眼を閉じ、唇を噛んで、眉をしかめた旭はジャックポットの中から這い出た。何か瞳から流してしまいそうなものを仕舞って。 「どうして、殺すの」 助ける、はずだったのに。絶対に助けると言ったのに、またひとつ嘘をついてしまったか。旭は腕に蜷局巻く炎を撃ちだし、ジャックポットへ何度も何度も。 「やっと、追い着けたか」 龍治にとっては蜘蛛との抗争は正直如何でも良かったのだ。どうせアークの精鋭が止めるだろうし、今までもそうやってきたのだから。 だが、強力な敵が居るのであれば其れに弾丸をプレゼントせんと来てみたものの……未だ、其のフェーズ4に鉛玉をねじ込められないのは少々の遺憾を感じていた。 だからか、何故だか手に力が籠る。気づかない内であったが、フィクサードを早々に殺さなければと思っていた。 「失せろ」 「ひ!?」 龍治の弾丸が、ローランドの幕を弾き飛ばしていく。己の身を護る様にして手を前に出したローランドは未だ体力ある存在だ。 されども、敵こそリベリスタ達同じく、回復を潰されるのは困るのだ。 何をしてくれるんだと無言でキレたリチャードが放つソードエアリアル――其れは龍治の心臓を的確に射抜いてしまったのだ。 衝撃に胸を抑えた龍治であった、だが血濡れた手で再び火縄銃を握る。握って、握ったのだが……握ったまま、其の侭横へと倒れた。 また一人、また一人と倒れていく。 「そんな……っ」 精神力も、ラグナロクもある小夜香は異常なまでの間連続でデウスを放つ事はできた。だが、ジャックポットの攻撃は其れを遥かに上回る力でリベリスタ達へ襲い掛かっているのだ。 時間が経つにつれて消耗していくリベリスタ達が、高いツケを払う時は来てしまったのかもしれない。 己こそ荒い息を吐き、崩れそうな膝をクロスで支えて立つのにやっとなのだ。 ――皆で帰る。 そう約束したからこそ、小夜香は倒れる訳にはいかなかった。 「その、皆って誰の事だァ? 可哀想になぁ、ヤードは皆には含まれてないんだなァ」 「え……」 リチャードの声、――刹那、横からブオンとしなったプチジャックポットの触手が小夜香とヤードのホリメを吹き飛ばした。 壁の真っ赤な染みになったホリメは即死であっただろう、其の血が雨の様に小夜香に降り注いだ。 その、小夜香こそ限界を超え動く事を止めた。 「諦めろ、リベリスタ。お前等はなぁんにも救えないし、なぁんにもできないのさ。何時までもフィクサードとのいたちごっこに踊らされて、可哀想になァ」 ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! 笑い声は高らかに響いた。 黙っていられなかった、アンジェリカは拳を握り、握り締め過ぎて爪が肉を抉って血が流れて。身体中の血を外に出すのではないかと思える程に、アンジェリカの身体は真っ白に、血の気が無くなってきていた。 「キマイラに変えられ弄ばれ失われた全ての命の、恐さとか悲しみとか知らないくせに……ッ」 ● 「……っ、く」 レイチェルの射撃は精密で危険なものであった。彼女の力であらば、体力低下したジャックポットのコアを狙い、破壊に追い込む事ができたであろう。 だが彼女の攻撃にはジャックポットの纏う特殊膜が邪魔をしていた。ブレイクもそうだが、攻撃でも壊せるであろう膜だ。 ピンポイントでは膜を壊す事は叶わない。そして膜を壊せる程の威力が無い事を実感すれば、次は違う攻撃で対応するしかない。が、仲間が倒れていく中、攻撃が間に合うかは分からない。 レイチェルは龍治を見た――彼に起きろとは言えない。 レイチェルは竜一を見た――リチャードに氷漬けにされてそれどころでは無い。 ヤードは――クロスイージスとナイトクリークだけか。 「ラストクルセ……」 そう、言ったときであった。敵のジャッジメントレイとプチジャックポットの毒がレイチェルを射抜いた。眩む視界、チラつく星。 「膜を、膜を壊してください……!!」 叫んだレイチェルの声は竜一と拓真に届いていた。 「いい加減、落ちておけよリチャード・クロス!!」 「我が道に、立ち塞がるならば……我が双剣、存分にその身に受けよ!」 飛び込んだ二人の双剣の持ち主二人。迎え撃つリチャードは此れ以上に無いくらい口端が吊り上がったのだ。 「おっしゃ、どーんと来いよ馬鹿共がよォ!!」 だが先に動けたのはリチャードだ。彼に与えられたダメージこそ、彼の力に成る。拓真の背に刹那的に移動したリチャードは拓真の後頭部から背中まで一気に切り裂いた。 歯を食いしばり耐えた拓真の目の前、竜一が氷を割って出ては再びビキビキと鳴り響く両腕をリチャードへ落とす。 「ガ、グギギギギ!!」 その威力も、右腕がすっぱり切り落とされた程だ。だが終わらない、終れない、拓真が振り向き回転に身を任せて横に斬る。 「「フツ!! やれ!!」」 「オウ!!」 デュランダル二人が振り向きながらフツの名を呼ぶ。 血は飛んだ。リチャードの左腕も飛んだ。だが面白いと笑っていた。 「朱雀、オレの言う事を聞いてくれ」 轟、と再び札が唸った。高すぎる音波に、部屋のガラスの様な壁が一気に割れていく。 召喚された朱雀は麗しく、そして美しく。リベリスタ達を囲んだ其の空間の温度が一気に急上昇していく程の存在感があった。 フツの意のままに燃やし尽くしていく朱雀。ローランドも、ジャックポットも、プチジャックポットも、そしてリチャードもだ。身体に火を点けられ、痛みで気絶する事は許されない。燃ゆる火の中、リチャードは後ろへ倒れる。奥からローランドの声が響くのだが、もはや関係無いか。 「クハッ、まあ楽しかったぜ。なかなかのもんだ」 やっと此のキマイラ制御の頭痛から解放されるとリチャードは着けたし、再び笑った。 如何やら命の最期の一滴まで潰されたのは蜘蛛である己であったようだ。 ユーディスの剣が柄から先まで金色に光輝く。尽きかけの精神から、絞り出したソレだ。片足でリチャードの胸を抑え、そしてその腕を解放するだけ。 「だが、俺の勝ちだ。リベリスタさんよ、俺に執着したのは仇だ」 「そう……かもしれませんね」 横に引いたユーディスの腕が、リチャードの男としては細い首を掻っ切った。 だが頭上にはジャックポットの触手が迫る。大当たりだ――何が大当たりかって、リチャードの言葉がである。 忍び寄った影は段々と近くになるにつれて大きくなっていった。ユーディスはゴク、とツバを飲み込んだ。 ――ゴチャ と響いた鈍い音。 リチャードの死体は呆気なく潰れて弾け、肉片と血がユーディスのものと混じった。拓真と竜一も一緒に赤くなり、其の部屋の見渡す360度が真っ赤で、真っ赤で、真っ赤で。 ジャックポットを止められる戦力は欠け過ぎていた。体力を完全に元のものへと戻した此れを、残ったリベリスタが止められるであろうか。 リベリスタ達はフィクサードよりも、エリューションを討伐しなければならなかったのだが。敵の全滅はかくも難しきもの。 「殺せ……」 リチャードを殺され、怒り狂ったローランドはリベリスタ達を指差した。 「全員、殺せぇぇ!! 殺して殺して、全部殺せええええ!!」 振り上げた、怒りを知った触手のトゲは更に鋭さを増している。 「駄目!」 旭の拳には炎が、燃え盛るそれをローランドの腹部に放った。唾液に胃液を吐き出しながら、燃えた彼は余りに余った力で裁きの光を放つ。 「殺させない、誰一人」 リベリスタの、息のある者だけを選んで。小さな身体でアンジェリカは出口を目指した。 光が。 外の光が、ある方へ。 外へ出た時には、足下に水たまりができる程にアンジェリカは濡れていた。他人の血で、ね。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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