●弱者と強者 「よー兄ちゃん、悪いんだけど、ちと手持ち無くってさー持ってる金全部貸してくれねぇ? 100万年後に必ず返すからさー」 「ヨージ、それ返すつもりねぇだろ!」 アハハ、と男達の乾いた笑いが深夜の路地裏に響き渡る。 夜の闇すらも照らし出す繁華街の明かりも、奥までは届かない。いや、明かりが強いからこそ、影もできるのか。 一人の細身の青年を数人のチーマー風の男達が囲む。こう、弱者が強者に狩られる事は良くある話である。 「おい、兄ちゃん何とか言えよ!」 「よせよ、ジュン。コイツブルってるんだって」 再び男達の笑い声が響く。 その笑い声に、青年は笑みで答えた。 「なんだ、こい……」 男が指をさして笑いかけたが、その言葉は最後まで紡がれない。顎が青年の放ったアッパーによって吹き飛ばされたからだ。 男達が驚愕している隙に、青年が一気に動く。 ストレートが顔面を潰し、フックが頭蓋骨を破壊する。華麗なフットワークの後、残った男は一人だけだった。 「ひ……ひぃ!」 男は急いで逃げようとしたが、いつの間にか青年がそこに回り込んでいた。 そう、弱者が強者に狩られる事は良くある話なのだから。 ●セコンドアウト 「優雅な舞のような動きに人は思わず見入ってしまうと言うが、それが死への運ぶ舞踏だとすれば、一概に優雅とは言えないのかも知れない」 唐突に語り出す『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)だが、それもいつもの事。そろそろ伸暁の唐突な発言はリベリスタ達も慣れて来たのか、特に動ぜず、彼の言葉の続きを待つ。 「今回の敵はノーフェイス、フェーズ2だ。外見上はそんなに変化は無い。しいて言うなら、腕の硬質化と、身体能力の強化、それと遠距離攻撃を完全に無効化する事だな」 「いや、最後重要だろ!」 やれやれ、と言った表情で伸暁はツッコミを入れるリベリスタを手で制し、話を続ける。 「基本戦闘スタイルはボクシング……まあ、ストレートやらフックやら……詳しくは資料があるからそれを確認しておいてくれ」 そう言って資料を配りながら、伸暁は続ける。 「インターハイも夢じゃない天才ボクサーを待っていたのは、大会でも栄光でも無く、生意気な下級生をシメようとする不良上級生だった。そして、それを返り打ちにしたのはいいが、それが発覚して表舞台からドロップアウト……その無念が覚醒を呼んだが、残念ながら運命は何処までも彼を選ばなかったって事だ。それでか、夜中になると街に出て不良狩りに勤しんでいるってわけさ」 伸暁は最後の資料を渡した後、軽く手を上げ。 「じゃあ、鳴らして来いよ。10カウントをさ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:タカノ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月06日(土)23:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●路上と言うリング 「チョット、そこのオニーサン! 今日泊まるトコがないんだよねぃ、お金恵んでくれない?」 昼間とはまた別の姿を現した繁華街。夜の闇とは言えども、繁華街を照らす濁った明かりまでは闇に染める事はできない。だからこそ、また別の闇が生まれるわけだが。 本道から少し離れたビルの影、目深にパーカーのフードを被った高原を見つけた『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)は早速とばかりに声をかける。 いつもにも増してアクセサリーをジャラジャラつけた姿は確かにガラが悪そうに見える。 そして、そのアナスタシアの横でへらへらと笑いながら高原を見ている『新米倉庫管理人』ジェスター・ラスール(BNE000355)も続ける。 「ここで貰うのもなんすから、向こうに行こうっすねー」 がっしりと高原の肩に手を回し連れて行こうとするが、いつ攻撃が飛んでくるとも判らないので、警戒は怠らない。だが、その行動に高原は特に何も言わずにされるがままに付いて行こうとしているようだった。 「ままま、ちょっとあっちで悩み聞いてくれよ?」 その高原を後ろから急かすように『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)も続く。その火車の腕にはべったりと『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)がつかまっていた。 「つーかさぁ、こいつビビっちゃってるんじゃない? キャハハ」 化粧をいつもより濃いめにして、そんな笑い方をしている国子だが、そのあまりのギャップは、もし同じコーポレーションの人間が見たら目が点になること間違いなしである。 ジェスター達が前で誘導し、火車達が後ろから小突くように付いて行く。これならば、最悪でも挟撃はできる。横からいきなり走り出そうにも、地味にアナスタシアや国子が横を抑えてるのでそれもままならない……はずだった。 「……ねぇ」 半ば進んだ辺りで急に高原が声をかける。 「ん?」 反射的に振り向いたジェスターを迎えたのはキレのよい高原の右拳だった。 「クッ!」 いつでも攻撃に警戒していた分、不意打ちは免れたが……避けた隙に生まれた僅かな隙間。其処に向けて高原が勢いよく走りだす。 「しまった!」 慌てて後方にいた火車達も走り出す。 そう、全周囲包囲された状態ほど路上の喧嘩で一番マズイ状況は無い。ならば……その分薄くなっている場所をついて包囲を脱出するのは喧嘩の基本である。万全を期した包囲が逆に相手に警戒心を与えてしまっていた。 少なくとも、計画していた位置に誘導する事はできない。それを見たアナスタシアが待機班に連絡を入れる。だが、どうしても合流が遅れるのは否めないだろう。それでも今は……闇の中に消えて行く高原を追いかけるしかなかった。 ●ラウンド1 高原を追って走る四人。しばらく走った先にある袋小路に高原は立っていた。追いついて来た四人を見やると、拳を顎の近くまで上げ体全体で小刻みなリズムを取り始める。 一見無駄に見える動きだが、この小刻みに動かすリズムにもしっかりと意味がある。どんな攻撃であろうと必ず動きには初動が見られる。その初動を見えないように誤魔化すのが、この動きの理由である。 「さて、追いつめられたのは向こうか、それとも俺達っすか……」 袋小路に追い詰めたと言えば聞こえはいいが、此処は相手が選んだステージ。間違いなく、向こうが不利と言う事は無いだろう。 各々が武器を構える中、アナスタシアは一歩前に出る。 「健殿の歩んできた道、こうなった理由、教えてもらったケド……不良狩りなんてカッコ悪いよぅ! キッカケは否応なくそうするしかなかったんだろうケド、不良を叩きのめすだけで何のタメになるの? きっと応援してくれたヒトも、今も応援し続けてくれてるヒトも居るよぅ。こんなのやめよう……?」 懸命なアナスタシアの訴え。それに対する高原の答えはダッキングから懐に飛び込んでのボディーブローだった。無論、アナスタシアも警戒していなかったわけではなかったが回避しきれず、その右拳が腹部に突き刺さる。 「ぐっ」 ボディを打った後に、離れ際にジャブ。すぐにバックステップで下がる高原に火車が大きく踏み込み。 「真直ぐ向かって左ストレート」 左拳に炎を宿して殴りかかるが、これは左手で簡単に下に払われてしまう。ボクシングと言うと避けるかブロックするかと言ったイメージがあるが、こういった相手の攻撃を払う技術……パリイングも存在する。 「あ、足使っていい?」 国子が踏み込み、蹴りを振るえばそれは無数の数に分裂する。その国子の蹴りを辛うじてガードをすると、再び距離を取り、四人を迎える。その時、急に高原の足元に大量の銃弾が降り注ぐが、その銃弾はことごとく高原から逸れて行く。其処にまず見えたのは小さなメイド服と不釣り合いなほど大きなアームキャノンだった。 「どうも。アークが誇るアイドルメイドです」 ゆっくりとキャノンを下げた『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)その後ろには『紅茶館店長』鈴宮・慧架(BNE000666)、『猫かぶり黒兎』兎丸・疾風(BNE002327)、そしてモニカ同様メイド服を着こんだ少女(?)『見習いメイド』三島・五月(BNE002662)の姿があった。 しかし、この路地ではせいぜい四人までしか前に出られない。ダメージを受けたアナスタシアと、一度準備を整えたい国子が一度後ろに下がり、代わりにモニカと五月が前に出る。 「行きます!」 炎を宿した右拳を握りしめ、まずはフットワークを封じる為に足元を狙って、深く屈みこんで踏み出す。相手の懐に入った瞬間、気がつけば五月はコンクリートの地面とキスをしていた。頭に響く鈍い痛み。カウンターで殴られたと五月が気がついたのは慌てて起き上がってからだった。 手技で相手の足を狙うにはどうしても低く入り込まなくてはいけない。そこに振り下ろしのストレートを合わせられたのだった。 「よっと」 と、軽い声を共にアームキャノンの砲身を重量任せに縦に振り下ろす。それをバックステップで避けるが……避けきった背中には壁。 そこにジェスターのカタールが刃先を増やして振るわれる。 「兄ちゃんは不良狩って楽しいっすか? 不良なんかより強い人と戦う方が楽しいと思うっすけど」 分裂した刃が高原の体にいくつもの傷を与えるが、浅い。反撃のストレートを何とか避け、再び距離を取る。それを見た火車が踏み込み。 「真直ぐ向かって左ストレート!」 炎を宿したストレートが真っ直ぐ高原に向かう……が、それを内側にダッキングで避けると体勢を整える前に左のショートアッパーが火車のアゴを捉える。 「がっ!」 危うく膝が落ちそうになるのを何とかこらえ、その場に踏み止まる。 まだ、ラウンドは始まったばかりだった。 ●ファイナルラウンド 「は!」 死角を伺い、急所を狙った疾風の攻撃は高原の肩口を打ちつけるが、致命傷にはほど遠い。 四人が代わる代わる攻める事によって、流石の高原の動きも鈍くはなって来たが、それでも大きなダメージは与えきれない。 「ふっ」 流れるような足捌きで慧架が炎を宿した右の手刀で首元を狙う。それをスウェイバックで避けると腕の戻りに合わせて踏み込みショートフックを被せる……リカバリークロスを呼ばれる技法でカウンターが慧架を捉え、その一撃が構えを崩させる。 交代しながらの波状攻撃は確かに高原を弱らせていたが、リベリスタ達も無傷とはいかない。無傷な者は一人もおらず、自己回復を持っている者は何とかなっているが、それ以外は満身創痍である。 肩で息をし始めた疾風に牽制のジャブを放った後、突然高原の姿が消える。 「え?」 と、疾風が洩らした直後。ダッキングで懐に飛び込んだ高原の右のアッパーカットが疾風の顎を打ち抜き、そこで疾風の意識が途切れる。 「疾風!」 仲間からの声。それに反応したのか、それとも別の要因か。途切れた意識を強引に繋ぎ止め、倒れかかった体を強引に意思の力で支えきる。 会心の当たりで倒れない疾風に高原も驚いたのか、その後の追撃はやって来ない。 「まだまだ……! 貴方をKOするまで、僕も寝てられませんからねぇ!」 そこに生まれた僅かな隙。それを逃さず疾風の張り巡らせた気の糸は高原を捕え、その動きを拘束する。 「さあ、今ですよ!」 まず反応したのは慧架だった。炎を込めた右の拳が最短距離を一直線に進み、勢いよく腹部にめり込み、高原の体がくの字に浮く。そして、その逆側から五月の拳も炎を宿しながら振るわれ、高原の頭部を振り抜く。 拘束を振りほどいた高原だったが、今のダメージが大きいのは動きの鈍った足からして明らかだった。 放たれるモニカの銃弾。当たらないと判っていても思わず反応してしまった所に生まれる僅かな隙。それを見逃さず、疾風と交代した国子が様々な角度からの蹴りの連打を振るい、それがマトモに入り、高原の足が止まる。 「もらった!」 間髪入れずにジェスターのカタールが無数の刃になって振るわれるが、それを辛うじてダッキングで避けるとお返しとばかりに肩口にストレートが伸びる。 「ぐっ」 ストレートが鎖骨付近に当たった後、体に響く鈍い音。それと同時に思わず膝をついてしまう。 「ジェスター!」 負傷したジェスターに変わって火車が飛び出す。 「真直ぐ向かって全力の左ストレート!!」 火車の言葉を聞き、反撃体勢を取ろうとしたが……繰り出されるのは今までと違って右の拳。そう、火車はどれだけ避けられようとこの一発の為にずっと続けていたのだ。 完全にタイミングを外された高原の顔面に、炎を宿した火車の拳が突き刺さる。そのまま吹き飛ばされ倒れるが、ゆっくりと起き上がりファイティングポーズを取る。 「立つなら……容赦はしないよぅ」 慧架に代わって前に出たアナスタシアが氷を拳に纏って静かに呟く。 今まで見たパターンを思い出し、高原の初動を見極める。そして、まずは高原が動いた。左右に揺れるステップワークからフック。それに合わせてアナスタシアは前に踏み込む。 「いってぇ!」 繰り出された拳は正面から高原の顔面を捉え、そのまま振り抜く。ふらふらになりながらも構えを取る高原に、無造作に国子が前に出る。 「キミのやっていることはそれこそ、キミが嫌いな不良のやっている事と同じじゃないですか? むやみやたらに誰かを傷つける為にボクシングをやってきたの?」 その言葉に高原はギロリを国子を睨む……何か言いたげに口を動かすが、言葉は出ない。 そして。 「うわぁぁぁっ!」 その返事だとばかりに前にステップインしての右のストレート。だが、その攻撃に先ほどまでの早さは感じられない。それは疲労か迷いか。中途半端なスピードのストレートを避け、国子の蹴りが腹部に決まり、高原が膝をつく。 「……正直、貴方の境遇は同情の余地があります」 五月は高原を見下ろしながら、その拳に炎を這わせる。 「ですが……今の貴方を見逃す事はできません!」 高原が立ちあがると同時に繰り出される右拳。 最後の力でその攻撃をスリッピングで避け、五月の顔面に渾身のストレートを打ち込む。視界が暗くなり、意識が飛びそうになるが……それでも、血が出るほど唇を噛みしめ、その場に踏み止まる。今ので倒せたと確信していた高原は、腕を振り切っていて体勢を崩したままだ。 「私の成長の為にも……倒させて頂きます!」 後ろに溜めた左腕に炎が宿る。咄嗟に高原ガバックステップで避けようとするが間に合わない。 「はぁぁぁぁっ!」 思いっ切り全体重を左拳に乗っけて、高原の顔面を振り抜く。そのまま高原の体は地面を二回バウンドして、そのまま動かなくなっていた。 ●ノックアウト 「オレ、兄ちゃんがボクサーになれてても強い選手になってたとは思えないっす」 戦闘終了後、仲間に手当を受けていたジェスターは開口一番に言い出した。 「ボクサーって厳しいトレーニングとかあるから精神面も強くないとダメっすよね? 一般の人に手を出す人が、精神面強いとは思えないっすよ」 「……そうかも知れませんね」 ジェスターの腕を布で縛りながら慧架もハッキリと答える。 「格闘技にしろ、武道、武術にしろ……その技術は一般の素人に向けていいものではありません」 格闘技と武道や武術は確かに違う。それでも……そこにある本質は一緒のはずなのだから。 「ま、一つ言える事があるぜ?」 その場にドカっと座った火車が全体を見た後、高原の方を見て。 「雑魚相手ばっかしてっから腐んだよ」 だからこそ思う。もし、道を間違えず立派なボクサーになってたら面白かっただろうな、と。 「私も一つ思う事があります」 モニカが無表情のまま話に割って入る。 「何故、銃器専属のリベリスタの私をこんな任務に寄こすのか、アークに人達も意味がわかりませんね」 (それ、自分で志願したからじゃ……) と、思わず突っ込みそうになった五月だったが、周りのメンバーが華麗にスルーしてるのを見て、口に出すのは止める事にした。 そんなやり取りをしながら、怪我をしたメンバーに肩を貸したりしながらゆっくりと其処を後にする。 高原への十カウントは鳴ったのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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