●生き地獄 赤ん坊の鳴き声がいつまでもコインロッカーに鳴り響いていた。 捨てられてしまった赤ん坊だった。いくら待っても赤子の親はやってこない。 どうして捨てられてしまったのだろうか。なぜ親は戻ってこないのか。 泣き叫ぶ赤子は知る由もない。ただ誰に向けていいのかわからない怒りの衝動を叫び続けるのみだった。そんな捨てられた赤子達に魔の手が忍び寄った。 似ても似つかない醜い姿に変形された赤子たち。 身体は蜘蛛のように丸くて醜悪で手足はゴキブリのようにギザギザがついている。 元は人間の子どもとは思えない生き物だった。 赤子達は姿を改変させられても泣き叫ぶ。 この世に生まれ落ちた苦しみと呪詛をまき散らしながら――。 ●地下要塞の制圧 「貴方達には今回、『倫敦の蜘蛛の巣』敵本部強襲攻撃に参加して欲しい」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)が緊迫した顔でブリーフィングルームに集まったリベリスタたちに状況を伝えた。 先日、モリアーティの攻撃計画をスコットランド・ヤードともに撃退したことは記憶にも新しいことだった。その際、少なくない被害を出しながらも倫敦派の情報を一部収集することができた。 『ヤード』側の情報収集もアークが提供したものを含めて捜査が進んでいた。神秘の警察機構として探査に強みを持つ彼らの活躍によって徐々に敵の状況を暴きつつある。 しかし、いまだに彼らに関してまだよくわからない部分も残されていることを鑑みてもこれ以上、天才・モリアーティに徒に時間を与える必要はない。 それにこのまま放っておいてはさらに強力なキマイラが出現してくる可能性がある。アークと『ヤード』の上層部は早期攻撃を仕掛けるリスクは承知しながらも、今のうちに敵を叩いておくことで結論が一致した。 「奇襲を防ぐ為の倫敦市内の封鎖や監視は『ヤード』が担当するわ。我々アークや『ヤード』の精鋭部隊はピカデーリー・サーカス付近に侵入し、敵が潜んでいるとみられる地下要塞の制圧にかかる。貴方達は地下一階に潜んでいるキマイラとフィクサード達を撃退して来て欲しい。敵は強力だけど貴方達なら出来ると信じて待ってるわ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月09日(日)22:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●改造された人の子供 敵本部内は不穏な空気に包まれていた。すでに至る所で戦闘が繰り広げられてそのたびに大きな衝撃音や叫び声が聞こえてくる。ロッカールームに向かう道のりを警戒しながらようやくリベリスタ達は目的の場所の付近まで辿り着くことに成功していた。 「休憩室、仮眠室に……ロッカールーム。さすがに本拠らしさの漂う場所ですね」 『現の月』風宮 悠月(BNE001450)は壁越しに中の様子を透視する。障害物の多さで正確な敵の配置までは把握できない。それでも扉のすぐ向こうで少なくともフィクサードがすでに戦闘態勢で待ちかまえているのがわかる。 「むぉ~よくみえるの~これならばっちし!」 『さいきょー(略)さぽーたー』テテロ ミーノ(BNE000011)は暗視を装備して準備を整えていた。予想よりも遥かに視界が優れていていつもより気合が入る。 「ふむ、赤ん坊が改造されたマイラですか? 何ともやり気の毒でやり難い相手ではありますが――まあ、それで撃たないと言う話にはならないんですよな」 壁に背中を預けて『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が銃を構えた。フィクサードだけでなく赤子が改造された憐れなキマイラも中に潜んでいる。 「本当に……悪趣味なキマイラだ」 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は顔を顰めた。その過程で生まれた悲劇を思うとやるせない。一刻も早く蜘蛛の巣を撃破することを心に誓う。 「赤ん坊ってボクあんまり見たことがないけど、とってもかわいいよねっ! それを、こんな化け物に変えちゃうなんてっ! ボク絶対に許せないよっ!!」 魔弓を構えて『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)は意気込む。赤子のことを考えると少し胸が痛くなるが、憐れむのは倒してからだと口唇を噛みしめた。 「キマイラって始めて見るけど、これ作ってる人ってすごい悪趣味だよねぇ……。伊達に二次元の世界に浸かっちゃいないんだから。あたしを驚かせたかったらもっと個性ある化物にしてね!」 『魅惑の絶対領域』六城 雛乃(BNE004267)は強気に言い放つ。雛乃が元気よく宣言したことで張り詰めいていた空気がすこし和らいだ。お気に入りの暗視メガネを装着する。 「……人の子供をキマイラに改造した、か。最早こうなってしまっては、俺には何もしてやる事は出来ない……。いや、せねばならん事が、一つだけある」 『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)が扉の前に進む。仲間のリベリスタたちを後ろに下がらせておもむろにガンブレードを抜いた。 「拓真、用意はいい?」 『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)が隣にいる相棒に問いかける。先頭に立って皆を引っ張りながら二人で蜘蛛の巣の中に斬り込むつもりでいた。 きもちわるいキマイラを作った奴らが許せない。全部片付けてあの世に送ってあげることが唯一の弔いだと壱也はギガントの柄を強く握りしめた。 拓真が視線で頷くと一気に扉を開け放つ。壱也はギガントの刃を水平に倒して一気に加速するとロッカールームの中に待つ敵の中に一番に斬り込んだ。 ●十字の刃 扉のすぐ後ろで待ち構えていたのはジェームズとロバートだった。暗視ゴーグルに迷彩の戦闘服を着込んでいる。二人共手に剣を携えて警戒していた。不意に開け放たれた扉から真っ直ぐに突っ込んできた壱也の切っ先をジェームズが剣で受け止める。 「現れたな、アークのリベリスタ。蜘蛛の巣に飛び込んで無事に済むと思うか」 重厚な羽柴ギガントの一撃を受けて状態を崩された。だが、衝撃を横に逸らして自身は反対の方向へと身を交わす。体勢をもう一度立て直しにかかった。 「攻撃、来ますぞ!」 九十九が敵の不穏な動きを感知して叫ぶ。すぐに銃を付きけて乱れ撃った。弾丸の雨が辺りに降り注いで壁や障害物に風穴を作っていく。 ロッカールームの中からベイビーズたちが驚いて飛び出してきた。侵入してきたリベリスタたちに向かって蜘蛛の糸を一斉に撒き散らしてくる。 拓真はガンブレードの銃口を突きつけて火を吹いた。飛びかかってきたベイビーズ達が撃たれながらうめき声を上げて離散していく。 光を反射しながら攻撃してきたが、壱也は羽柴ギガントで渾身の一撃を放つ。叩きこまれたベイビーズがフィクサードの元に押し返された。 あまりの眩しさに避けきれずにキマイラ諸共フィクサードは壁に激突する。 瓦礫や壁で視界の遮られた場所へと敵は身を潜めた。僅かに空いた隙間からベイビーズ達は再び蜘蛛糸を鉄砲水のように吐き出して威嚇してくる。 「だいじぶっ! ミーノがすぐにこのせんきょーをはあくするのっ!」 翼の加護で仲間を援護していたミーノはさらに状況把握を務めるべく観察する。障害物で覆われた地形の特徴を分析して危険な所を仲間に伝えた。さらに敵が隠れている場所を悠月が合わせて指示を出す。 「そこに大量のキマイラ達が隠れています!」 悠月が叫ぶのと同時にエフェメラがフィアキィ達を踊らせた。 「いくよっ! キィ、メァっ!」 両手を翳して火炎弾を創りだす。一気に腕を前に振り下ろして一斉に叩き込んだ。 隠れていたベイビーズ達が泣き叫んだ。 驚いて飛び出してくる。攻撃してきたリベリスタ達に躍りかかってきた。口から毒の白い水鉄砲を撒き散らして近くにいた九十九と悠月を吹き飛ばす。 攻撃を受けてリベリスタたちも隊列を一時崩される。 ジェームズとロバートは一旦体勢を立て直すためにそれぞれ物資透過と影潜みを使用して挟み撃ちをするために後方に一気に斬り込んできた。 雛乃は黒の鎖の濁流を放って反撃を試みる。だが、縦横無尽に飛び回る敵はなかなか的を絞らせずについに雛乃は切り刻まれてしまう。 助けに入ろうとしたエフェメラもロバートの十字に切り裂かれて膝を着いた。 「むむむ……ふんばりどころだよっ! せいしんのーーーいぶきっ!」 ミーノが傷ついた雛乃とエフェメラを後ろから支援する。てミーノは魔閃光で敵を威嚇しながら快と協力して二人を後ろに下がらせた。 さらにロバートは猛攻を仕掛けるために一気に勝負を決めに剣を振り下ろしてくる。 「同じ手に何度も引っかかると思うなよ!」 快がロバートの影に潜む瞬間を見逃さなかった。熱を感知して敵が隠れた地点に全力で駆ける。再び狙われた雛乃の前に先に到達してナイフを振るった。 出現したロバートの首もとを思いっきり十字の刃が交差する。 不意を突かれたロバートが悲鳴を上げて崩れた。それを見たジェームズが快を倒そうと物質透過で潜ろうとした。 九十九が頭を狙い撃ってジェームズの足を止めた。 「くっくっく、私の狙いは正確ですぞ?」 身を反転して暗視ゴーグルを完全に吹き飛ばす。まさかそれを狙われるとは思っていなかったジェームズは突然の出来事に慌てた。 ●万難を廃する破壊者 トイレとシャワールームの方へジェームズは逃げ出した。ロッカールームのベイビーズを掃討したリベリスタ達も慎重に警戒して奥へと突き進む。壁や障害物の間からキマイラ達の激しく不快な鳴き声がこだましてきて集中力を削ごうとしてくる。 「ミーノのませんこーはあたるといったいよーー!」 隙を見てミーノはトイレの壁の間に魔光を叩き込んだ。不意に飛び出してきたキマイライラに再び九十九の銃口が火花を吹く。 至近距離から狙われたベイビーズは血を撒き散らしながら崩れ落ちた。 「このキマイラを見てあなた方は何とも思わないんですかな?」 九十九は隠れているはずのフィクサードに向かって問いかける。このような有り様になってなんとも思わないのか。九十九は赤ん坊が好きなだけにそう思わずにはいられない。 「所詮捨てられた子供だ。衰弱死するよりはこっちのほうがいい。きっと赤ん坊も無駄死にせずにまんぞくしているだろうぜ」 通路の奥に隠れていたトーマスとエリザベードがニヤリと嗤って支援に乗り出してきた。キマイラを盾にしながら苦しんでいる二人の元へと近寄ってくる。 回復されては堪らないと悠月は魔術を詠唱する。立て続けに出来上がった四色の魔光が接近してきたエリザベードを苦しめた。 堪らず後ろからトーマスが神秘の閃光弾を撒き散らしきた。攻撃してきた後の隙を狙われた悠月は逃げることはできずに攻撃にさられてしまう。 その時、快がトーマスの前に出てブロックに入った。新たに現れた敵に今度は不可視の刃で切り刻もうとする。猛攻を浴びたが快は両手でガードし姿勢を低くして耐え忍んだ。 「俺にそんな攻撃は通用しない。そこをどけろ、押し通る!」 腕を思いっきり引きこむと鮮やかな十字の軌跡が放たれる。胸を切り裂かれてトーマスはもがき苦しみながら瓦礫の中に崩れ落ちた。快は倒れたトーマスを尻目に、目の前のシャワールームに潜むキマイラの群れにナイフ片手に怒涛の突進を仕掛けた。 反対側の通路でエフェメラと雛乃が協力してキマイラを隅に追い込んでいた。火炎弾と魔光に巻かれた醜い赤子の雄叫びがトイレの中でこだまする。 だが、ブレイクされ怯んでいた悠月はジェームズの鋭い剣先に狙われていた。 忍び寄る剣が首もとを切り裂こうとする。 「悠月! 危ない」 その時、拓真が横から身を乗り出してきた。 悠月の代わりに拓真がジェームズの剣をもろに身体で受け止める。血を吐いて拓真は突っ伏してしまうが悠月がすぐに起き上がらせた。 「お願い……しっかりして……!!」 涙目の悠月に拓真は血を咽ながら目を開けた。 「心配ない……それよりその剣使いのジェームズは俺が倒す。悠月を狙ったお返しはきっちりと返させてもらう。いざ尋常に勝負!」 拓真はガンブレードを持ち替えて剣先をジェームズに向けた。飛び上がったジェームズが拓真の後ろに猛スピードで回りこんで突っ込んでくる。 あまりの早さに対応しきれずに拓真は背中を貫かれてしまう。 「拓真!」 壱也が見ていられないと羽柴ギガントを繰り出す。思いっきり跳躍して渾身の力で振り下ろした。ジェームズが剣で応酬するがあまりの力強さに押し込まれた。 仲間をうしなわせるわけにはいかなかった。 それが拓真なら尚更だ。 壱也は歯を食いしばって刃を振るった。 腕を斬られて堪らずジェームズが顔を顰めた。羽柴ギガントの鋭い切っ先が腕を引き千切ってひどい出血を齎す。ジェームズは壱也に体当たりかまして距離を一度取る。 壁に隠れた所を壱也は構わずに思いっきりギガントをぶち込んだ。シャワールームの壁ごとギガントの刃でぶった斬られてジェームズは絶叫する。 凄まじい破壊力に壁と天井がくれず落ちてきて下敷きになりかけた。ジェームズは慌てて身体を起こして崩れ落ちるコンクリートから遠ざかる。 「逃がしはしない……全力で、貴様らを倒す!」 拓真はジェームズに照準を絞って剣を握りしめた。ジェームズも待ちかまえている拓真を蹴散らそうと剣を振りかぶって猛スピードで迫ってくる。 油断も、慢心も──剣を振るう時は、忘れてしまえ。今は目の前の、俺の目標へ走る為の道を塞ぐこの障害を只、切り拓け! 俺はデュランダル。万難を排する破壊者なのだから……! ジェームズの剣が先に拓真の腹を抉った。だが、拓真は一瞬痛みに顔を歪めただけで、すぐに剣に力を込めてそのまま突き進む。 拓真の剣が敵の剣を打ち砕いて吹き飛ばす。 ジェームズが脇腹を貫かれて壁に激突してついに力を失った。 ●未来の家族の元へ ロッカールームの敵を着実に攻めてまだ動けるフィクサード達は崩れた壁の穴から逃走していった。壱也は敢えて逃げた敵を追うことはしなかった。 大事な仲間が生きていてくれることの方が大事だったからだ。見渡すと激しい敵反撃にあって傷ついた者はいたものの皆命を失わずに済んでいた。 これ以上無理に深追いをすることもなかった。 「もうだいじょうぶだねっ!」 エフェメラが肩の荷が降りたというように言った。 「ぶじにおわってよかったー」 ミーノもほっと一息ついてリベリスタ達はようやく緊張を解く。まだ他の場所では激しい戦いが続いている。他の皆も勝てるように祈らざるを得ない。 「みんなも無事に成功できるとよいですな」 九十九は二人の言葉を受けて答える。 「人には手の届かない範囲を守る事は出来ない、限界もある……解っていると言うのにな」 拓真は瓦礫に倒れて動かない赤子達を見て表情を曇らせた。 「おやすみ、ぼうや。次は……いい夢を」 せめて、来世で幸せになってくれるように祈りを込めて。次は幸せな家族のもとで暮らしてくれるように――。 「何を祈っていたんですか?」 傍らで悠月が拓真に向かって問いかけてくる。拓真はふと考えた。 いつか自分たちにも新しい家族ができたら―― その時は大切な家族を生涯守っていきたい。 「悠月、彼らの分まで俺達はしあわせになろう」 拓真の言葉に悠月は笑顔で頷いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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