● スコットランド・ヤードの制圧に乗り出したジェームズ・モリアーティを辛くも撃退したアークとヤードの連合軍。彼等は『教授』の異名を持つ犯罪王・モリアーティらしからぬ派手な作戦の真意を掴めずにいたが、アークの協力を受けたヤードは持ち前の情報収集能力でこの交戦を糸口に敵本拠地がロンドン・ピカデリーサーカス地下に存在する可能性が高い事を確認する。敵本拠地は未だ幾つかの謎に包まれており、その全容が解明されている訳では無い。しかし、様々な情報と状況を総合的に斟酌した結果、アークとヤードは倫敦派を叩くには素早い攻撃が不可欠であると判断したのだ。 かくて再び倫敦に派兵されたアークのリベリスタ達は『教授』の待つ蜘蛛の巣に立ち向かう。 そこには六道の凶姫、そして彼女の恋人・凪聖四郎の姿もあった……。 ● 「畜生! あいつら……よくも、よくも!」 爪が剥がれることを意にも介さず、『倫敦の蜘蛛の巣』所属のフィクサード、デイブ=バスカヴィルは壁をかきむしる。壁には赤い線が何本も描かれていた。 先の戦いでデイブはアークのリベリスタにアジトの情報を奪われるという失策を犯した。彼の能力はコストが高く、隠匿系スキルとの噛み合わせは悪い。 その自覚があればこそ、慎重な戦いを心がけていたし、確実な殲滅を行っていた。しかし、あの場ではそれは叶わず、リベリスタ達にみすみす情報を与える形になってしまった。 お陰で決して軽くない罰を受ける羽目になってしまったのだ。 「モリアーティープランは完璧じゃないのかよ!」 思い切り壁を殴りつけて叫ぶデイブ。 その後で慌てて周囲に誰もいないことを確認する。 『倫敦の蜘蛛の巣』に所属する前より、彼は強力なアーティファクトを有し、少しは知られたフィクサードだった。若く野心と実力を持った彼が、倫敦の闇を支配できると思い上がったのは、決してただの傲慢とは言えないだろう。 しかし、結果は散々なものだった。霧の奥に張り巡らされた蜘蛛の巣の前に彼は屈し、最後には無様な命乞いと隷属をする羽目になった。 こうして、狼を目指した男は豚となったのだ。 当初従うことに対するストレスから過食症を発症して、体重は倍加してしまった。 しかし、気が付けば誰かに従っていれば楽だと思うようになり、弱者をいたぶるだけが楽しみになっていた。 だからこそ許せない。強者に抗い、道を拓き続けてきたリベリスタが赦せない。弱者は強者にさえ従っていればいいのだ。 「あいつらに……それを教えてやるためには……」 デイブは自分の持つ魔道書『ダートムアの魔犬』を見る。上からの命令として、キマイラの素材として提供するよう通達があったのだ。しかし、これは彼に残された最後のプライドでもあった。 そして、狼になれなかった男は……。 ● 強烈な寒波に見舞われる1月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。場にははっきりとした緊張が漂っている。ブリーフィングルームにはリベリスタと思しき、見慣れぬスーツ姿をしたストレートヘアの白人女性がいた。 そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は今回の件への説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるぜ。今回の依頼は『倫敦の蜘蛛の巣』への攻撃、『ヤード』とも共同で行う大規模な作戦になる」 いよいよ動きが来たのかとリベリスタ達の瞳が輝く。 モリアーティの攻撃計画をスコットランド・ヤードとの共闘で撃退したのは記憶に新しい。 ロンドン市内での戦いは大きな被害を出したが、各リベリスタの活躍もあり、交戦から倫敦派の情報の一部を獲得する事に成功した。 先の戦いでアークが収集した情報提供も含めた『ヤード』側の『捜査』は一定の成果を上げている。元々が神秘の警察機構である彼等は探査や情報収集には非常に強味がある。結果として若干の時間は掛かったが彼等は小さな糸口から敵側の綻びを広げたのだ 「倫敦での今までの戦いは互いの尻尾を掴ませないようなものだったらしいからな。だけど、前回の戦いは『ヤード』の捜査にとっては大きな進展をもたらしたみたいだ」 そしてその成果として、ピカデリー・サーカス地下に本拠地があることを掴んだ。しかし、守生の表情は微妙にうかないものだ。 「裏を返すと不安材料でもあるんだけどな」 確かにこれまでのモリアーティの『慎重過ぎる位に慎重な動き方』と前回の事件のやり方は余りにも違いが大きい。神秘研究者・リー教授の言った『アーティファクト(モリアーティ・プラン)』存在の疑い、蜘蛛側傘下組織『イーストエンドの子供達』が発した情報――モリアーティの真の狙いは倫敦の覇権ではない――という部分も気にかかる。 しかし、不確定不安要素の存在、本拠の詳細も含め倫敦派の状況は完全に掴めてはいない事を鑑みても、天才・モリアーティに徒に時間を与える危険性は言うまでも無い。 倫敦の戦況を変えてしまったのは、キマイラというエリューションの持つ極めて高い戦略価値だ。フェーズ4キマイラが完成し、量産が行われれば手に負えなくなる可能性は低くない。 結果としてアークと『ヤード』の上層部はリスクを覚悟の上で早期の攻撃計画の発動に合意した。 「で、その打ち合わせのために来てくれたのが、『ヤード』のリベリスタ。こちらのクリスさんだ」 「はじめましてのものは、はじめましてだな。クリスだ。先日は世話になったな。改めてよろしく頼む」 守生が紹介したのは先ほどの白人女性だ。先日の防衛戦でアークの救助を受けたリベリスタの1人である。クリミナルスタアであり、実力も相応のものだ。 そして、わずかばかり互いに自己紹介をし合う。連携を行うためにも、互いのことを把握しておくに越したことはない。しばらく話したのを見て、守生は説明を再開した。 「さて、説明を再開するぜ。あんた達にはこのポイントに向かって欲しい」 守生が機器を操作すると、ピカデリー・サーカス近辺の地図とキマイラの姿が表示される。 そして、この場にいるキマイラは黒い犬のような姿をした、10m程の巨大なキマイラだ。 「どうやら、アーティファクトと融合したエリューションみたいだな。単純な戦闘力だけでなく、眷属を召喚する能力を持っている。かなり厄介な相手だ」 敵もそうやすやすと突破させてはくれない。 それでも、これ以上倫敦派の跳梁を許すわけにはいかない。 幸いにして、日本・三高平市への物理的干渉、奇襲を防ぐ為のロンドン市内の封鎖・監視は『ヤード』の予備戦力が担当することになった。後顧の憂いも無く戦える。 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月08日(土)23:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● いよいよリベリスタ連合と『蜘蛛の巣』の戦端が開かれた。本拠地だけあって、敵の防衛線は極めて強固なものだった。 しかしそれでも、リベリスタ達はじりじりと進んでいく。そして、開けた広場にたどり着いたときだった。リベリスタ達は炎を撒き散らしながら迫ってくる、巨大な犬とそれに付き従う魔犬の群れ、そして隠れるようにしながらも狂気をはらんだ顔をしたフィクサードの姿を目にした。 「またオマエか、デイブ」 「ぶひひひひひ、お前達かよ……殺してやる、殺してやるよ!」 目を血走らせるフィクサード、デイブ=バスカヴィルの姿を見て、『破邪の魔術師』霧島・俊介(BNE000082)はそっと目を伏せる。 自分が甘いことを言ってしまったために、また状況を悪化させてしまったのだろうか。そう考えると、あの時の自分を殴りたくなる。もっとも、殺しておけば良かったとまで思わない所が俊介らしさだ。 だから、もうここで終わらせる。 「最初に言っておく。死ぬか投降するか選んでおけ。その他は、認めない。 2択に1つ。ただそれだけだ」 「死ぬのはお前達の方だ……今度の計画だったら、きっと、きっと、くひひ」 「計画を達成するかどうかは、他人に縋るべきではない」 常軌を逸した表情をしたフィクサードを冷静に見つめる『生還者』酒呑・”L”・雷慈慟(BNE002371)。 「弱者は強者に従えば良いと思考している様だが……不思議な事だ。何故、以前無様にも情報を抜かれ敗走した者が、勝者に対し従っていないのか。今、敗者に感けている暇はない」 雷慈慟が手をかざすと、リアクティブシールドが展開されていく。配置された合計22枚の鉄の塊のようなものこそが彼の身を守る鉄壁の防御だ。 臨戦態勢を取る雷慈慟の横で、気だるげに『墓守』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)はナイフを光らせた。これであのフィクサードと遭遇する3回目だ。だからこそ言える言葉がある。 「あのフィクサードちゃん、小物だ臆病者だって言われてるけどさ。二回も逃げ延びてるんだぜ? ただのそれとはもう言えねえだろう」 三ッ池公園で死者の眠りを邪魔された頃から分かっていたことだ。 そしてそれを識るが故に、あえてその仕草に似合わない台詞で締める。 「だからこの辺りで皆さんには頑張って頂いてですね。ボクは攻撃とかそういうの苦手だから……だからまあ、よろしくな」 墓守は韜晦するように言葉を紡ぐ。 もっとも、状況は決して楽観視できるような状況でも無い。『ヤード』のリベリスタ達も共に臨戦態勢に入っている。リベリスタ側の戦力は十分なものと言えよう。 しかし、此処は『蜘蛛の巣』の中心部。敵の本拠地が控えているのだ。迎え撃つ敵戦力も決して小さくは無い。 「あっちが黒妖犬様でこっちがブラックドッグ様で、ええっと……まおはごちゃごちゃするのでキマイラ様って呼びます」 迫るキマイラやその眷属の把握に『もそもぞ』荒苦那・まお(BNE003202)は大忙しだ。巨大なキマイラはまだしも、目の前で似たような姿をしたエリューションが召喚されているのだ。彼女でなくとも混乱してしまうだろう。 「キマイラってホントいろんな形が多いよねっ。人型だと気持ち悪かったりだけど、動物型だと強そうっていうか恐そうって言うかっ!」 「ここは確か待ち合わせ場所として人気だったね」 言葉とは裏腹に『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)の声から不安は伝わってこない。むしろ、一刻も早く対処しなくてはいけないという決意に燃えている。 『戦ぎ莨』雑賀・真澄(BNE003818)もそれは同じだ。 この場は本来、神秘に生きる者達が命を賭けて戦うような場所ではない。人々が平和な時間を送るための場所だ。そして倫敦を教授の魔手から解放するためには戦わなくてはいけない。 だからこそ、 「荒らすのは忍びないけど全力でいくよ!」 「ま、いずれにせよほうってなんか置けないしっ! 全力で対処するよっ!!」 真澄は咥え煙草のままで手の中の得物を手に、ゆるやかに構えを取る。それは如何なる状況にも柔軟に対応出来る、流水の如き攻防一体の構えだ。 エフェメラもまた弓を構える。すると、彼女の周りを不可思議な光が舞う。キィとメァ、大事な仲間であるフィアキィ達だ。その姿を目にした『ヤード』のリベリスタ達がほうっと唸る。友軍である彼らにラ・ル・カーナのことは伝わっているが、実際に目にするのは初めてなのだろう。 リベリスタ達は互いに顔を見合わせると、道を阻むキマイラ達への攻撃を開始した。 キマイラ達からも炎の息吹が嵐のように放たれる。 地獄の妖犬にふさわしい苛烈な攻撃だ。 「ひひひひ、燃え尽きちまえよ。お前らを殺せば、まだ取り戻せるんだよ!」 「相変わらず、なんか難しいハナシしてンなァ?」 爆炎の中から『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)が姿を現す。機械の両腕をかち鳴らし己の体内を巡る気を制御する。その表情は如何にも楽しそうだ。強敵相手だというのに、いや強敵だからこそバトルマニアの血が騒ぐ。 「今ココに強敵がいる。オレはソレで十分楽しいぜッ!」 来る前に不安材料だ何だと言われはした。しかし、そんなことはどうだっていいのだ。 コヨーテに大事なことは、戦いがあるというそれだけ。 罠などというものは、嵌ってから踏み潰せばいいのである。 「お前らのせいで! ボクは! ボクは!」 あくまでも上機嫌そうなコヨーテに対して、怒りの表情でフィクサードは光弾を放ってくる。その時、フィクサードは自分の脳裏に女の声が響いてくるのを感じた。 (私達を屠り、満足できると良いわね。復讐は芳醇な酒の如き。けれど酒の味とて注ぐに値する器、矜持があってこそ) 皮肉げな口調で話しかけた声の正体は『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)のテレパシーである。彼女は知っている。自分以外の力――この場合はキマイラだ――に頼って復讐を為した所で、それは何にもならないことを。 先日、自分から情報を手に入れた女の声を耳にして、フィクサードは聞くに堪えない罵詈雑言を撒き散らす。 しかし、沙希はそれを鼻で笑うと『ヤード』のリベリスタ達に回復の連携を指示する。 (故に……どうなのかしら? デイヴさん) そして、戦場に癒しの風が舞い降りた。 ● 冷静さを失ってはいるものの、フィクサードの攻撃はあくまでも狡猾であった。射程を生かし、弱いものから潰していくのが基本戦術。既に身に沁みついたそれを、そう簡単に覆してきたりはしたりはしない。しかし、それを簡単に通させてやる程、リベリスタ側も甘くは無い。 「キィ、メァ! 行くよっ♪ イクスィス様の加護をっ!」 エフェメラがフィアキィ達に声を掛けると、それに合わせて戦場を2つの光が駆け抜ける。彼女が与えるのは世界樹エクスィスの加護。世界線を隔てた上位チャンネルに存在する、世界そのもの(ミラーミス)だ。如何にキマイラが強力な力を持っていても、その加護を打ち破ることなど出来はしないのだ。 それだけで守り切れない仲間がいるのなら、自分自身を壁とするまでだ。 ノアノアと雷慈慟がその身を挺して仲間達を庇う。それだけなら無謀な行動かも知れないが、回復が十分に機能している状況ならば、極めて有効な戦術だ。そうなると、あと必要なのは勇気だけ。 苛烈な炎が雷慈慟の身を焦がす。しかし、この程度で彼は怯まない。むしろ、余裕の表情を浮かべて、そばにいる『ヤード』の女性リベリスタ、クリス相手に軽口を叩いて見せる。 (また轡を並べられるのは喜ぶべき事だ。願わくば相応の場が望ましかったな) (同感だ。どうだ、この決戦が片付いたら一緒に呑まないか? 良い店を知っている) 無言で応えると、雷慈慟は再び戦場に集中する。まだ戦いは始まったばかり。この盤面の可能性は、勝利と敗北どちらにも通じている。 実際、キマイラの攻撃は苛烈極まりない。強力な物理攻撃力を有する上に、素材として用いた破界器の力で戦力の補充まで可能にする代物だ。しかし、リベリスタ達は支援役を守り切ることにより、それを可能とした。リベリスタの予想通り、敵も加護を撃ち抜く魔弾の準備をしていたが、手数が十分な訳ではないのだ。 「べちべちしに行きたいとまおは思いました」 「この子のグリップは特注品だよ、味わいたい奴はおいで!」 結果として戦いは持久戦の形になった。しかし、『蜘蛛』にとっては皮肉な話だが、モラン大佐の語る通り、こう着状態はいつまでも続かない。次第にリベリスタの側へと均衡は傾いていった。 「へへッ、体も暖まってきたし丁度イイなァ……ブチ殺すぜッ、ブラックドック!」 エリューション達をかき分けて、コヨーテが巨大キマイラに肉薄する。その腕には闘志の炎が燃え盛っている。 「デカくてカッコよくて強ェのは最高だけどなァ。お前よかオレのが、カッコよくて強ェ!」 そして力の限り飛び上がると、その地獄の炎もかくやと思わせる炎をキマイラに対して叩きつけた。 「「グォォォォォン!」」 対するキマイラも負けてはいない。防御を考えずに思い切り爪を振り下ろす。巨体の重量も伴った一撃は大きくコヨーテを傷付ける。常人なら既に動くこともままならない怪我を負いながら、彼の戦意は尚お旺盛であった。 いやむしろ、彼はこの状況を楽しんですらいた。 仲間のことも目には入らない。 見えるのはただ、敵・敵・敵。 「イヌ同士楽しもうぜ、どっちかが地獄に落ちるまでなッ! でもオレは……死んでも負けねェ!」 1匹の獣と化して拳を振るうコヨーテ。 その姿に本能的な危険を感じたのか。 キマイラは切り札としてその身に秘めた、特大の一撃を与えようとする。 「お邪魔をします」 その一瞬の溜めを、まおは見逃さなかった。近くの壁に張り付いていた彼女は、不吉のカードをスッと投げつける。この際別に威力は関係無い。最低限の力(スペードの3)で切り札(ジョーカー)を封じることは出来るのだ。傷付きながらも満足げな顔を見せるまお。 「蜘蛛様達がしつこいなら、蜘蛛混じりのまおはもっとしつこいですよ」 「黙れ! 黙れよ! リベリスタ共! お前達が弱者なんだよぉぉぉ! 抗うな! 死ねよ!」 (確かに戦況次第ではそれもあるけど……どうかしら?) 余裕の表情を浮かべて念話で挑発する沙希。しかし、現状に言うほどの余裕がある訳でも無い。 自身の腹には深々と神秘の矢が刺さっているし、回復のスキルも十分に使わされた。額には脂汗が滲んでいる。その辺は敵も流石と言わざるを得まい。しかし、負ける気も無い。 「攻撃手段が無いならさァ! こうすりゃ良いだけだよなッ!!!」 ノアノアの叫びが二度目の加護を与える。敵を徹底的に殲滅させるための加護だ。 獣にあるのは牙だけ等ではない。まだ爪もあれば角も持っている。 「たかが一度や二度やられたくれえで家畜に成り下がったお前とは覚悟が違うんだよ、ボケナスがァ!」 身を焦がされようが、知ったことか。 俺はケモノだ。 ただ目の前の獲物に食らいつく、黒いケモノだ。 「君の定義する強者とは何か。心折れた者がそうであると?」 一方、雷慈慟は打って変わって、劣勢を悟り狂乱するフィクサードを冷静な目で見つめる。 それが出来るからこそ、彼は今まで数多の戦場を生き抜いてきたのだ。 「犬や狼は君と違い勇敢な生き物だ。愚者に成り果てた君は統率者足り得ない」 力強い言葉と共に雷慈慟は仲間達と精神を強くリンクさせる。 増幅された意志の力が、リベリスタ達を激しく鼓舞する。 長い戦いを耐えたリベリスタ達の疲弊は激しいものだった。しかし、そこへ最後の一押しをするための力を、運命を打ち破る力を与えた。 力を取り戻したリベリスタ達はここぞとばかりに最後の猛攻を仕掛ける。当然、エリューションからの反撃は尽きない。しかし、それだからこそ、リベリスタ達は仲間からの支援を信じ攻撃に集中する。 「させッかよォ。まだ遊び足りねェだろ?」 「ボクの仕事は補助だけじゃないんだからねっ! 絶対に負けないんだからっ!覚悟してよねっ!!」 ここぞとばかりにリベリスタ達の集中攻撃が巨大なキマイラを襲う。 光が戦場に走り、激しく炎が舞い踊る。 烈火怒涛の攻撃を前に巨躯を誇り、並外れたタフネスを有するキマイラもゆっくりと動きを鈍らせていった。 その中で真澄は拳に気を巡らす。エリューションの一撃をもらったせいで肩が痛む。お陰でやりづらくてかなわない。そこでリラックスしようと、大きく煙を吐き出した。 よし、行ける気がする。 「あんたの野心のことは聞いたよ。私としちゃ嫌いじゃないね」 冷静に狙いをつける。 狙うべきはキマイラの急所である眉間だ。 「けど、どん底に落ちたくらいで目指すのを諦めるような夢は所詮夢でしかない」 「お前等にボクの何が分かる!? お前等が勝ったら、ボクは、ボクは!」 フィクサードの狂乱した叫びが聞こえてくる。しかし、真澄はそれすら飲み込んで拳に力を込めた。 イカれたことをする奴に説得は無意味ということはよく知っている。もう一度狼を目指す努力をせず、従属する楽さに酔った豚は肉にするしか道はない。 大きく跳躍すると、真澄はキマイラの頭部へと一直線に向かっていく。 「諦めた地点であんたには狼になる道はなかったんだよ、デイブ」 「や、やめろぉぉぉぉぉ!」 真澄の拳が触れた瞬間、キマイラの脳が弾け飛ぶ。 すると、他のキマイラもそうであるように、連鎖的に細胞が崩れていく。そして最後には、何もなかったかのように、巨大なキマイラは消滅するのだった。 ● (何処へ行くつもりかしら?) 『ひ、ひぃっ!』 (次は……ね……デイヴさん) 騒ぎのどさくさに紛れて逃げようとしたフィクサードの脚を止めたのは魔女の微笑みだった。沙希も思考を読み取っての発言ではないが、相手の考えるようなことは大体分かる。そして、よしんば逃げ出した所でフィクサードに逃げるべき場所等無いということも。 「まだ終わってねェぞォ、ブタ野郎!」 「答えは出たか? 投降か、死ぬかだ」 全身を朱に染めたコヨーテが叫ぶ。その姿はまるで修羅を思わせる迫力だ。これ程の怪我を負いながら、彼の闘志は微塵も衰えていない。 俊介の目に浮かぶのは哀惜の念だ。相手が多くの罪を犯した悪人だということは知っている。それを赦すつもりも無い。だが、死んだら終わりだ。投降してくれた方が遥かに嬉しい。 「お前の言葉を借りるとすれば、弱者は強者に従え、だ。デイブ、今おまえはどっちなのかよく考えてな」 わずかに場を沈黙が支配する。 その時、爆風が舞う。近くの戦場のものが紛れてきたのか。リベリスタ達は煙に紛れてフィクサードが動く気配を感じた。 「お前ェにもイヌのプライドが、牙があンだろ? なら逃げンじゃねェ! イヌらしく噛みついて来やがれッ! お前がやンねェッてンならオレが噛みつくッ!」 コヨーテは叫ぶと煙の中に向かって拳を突き出した。 すると、煙の中からクロスボウを構えたフィクサードが姿を現す。 『モリアーティーよりも! お前らよりも! ボくの方がぁぁぁ!』 しかし、その矢が放たれるよりも速く、リベリスタの拳がフィクサードの胸板を貫いた。 フィクサードの断末魔が戦いの中にまた1つ、消えていく。 こうしてまた1つ、戦いに結末が訪れた。 運命に抗う者、運命に従う者、その命を乗せて箱舟は進んでいく。 決戦の結末へと向かって……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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