● 三高平市には数々の施設が有るが、其の一つに市立中央図書館というものがある。 表向きは何処にでも在る図書館であれど、関係者以外立ち入り禁止区域より先、隠されし双頭の蛇が刻まれた扉を潜れば空気は一変するだろう。 其処には一人の神父と、二十人の盟友――総勢二十一のアルカナ達が、己が知識欲を満たさんが為に巣食う、一種の魔術結社が在るのだから。 其の名を、神秘探求同盟。 時には目的を同じとし、同じ敵を見、行動を共にする彼等。そして、同盟員の個々の活躍も一目置くものがある。 過ぎし昨年の夏。渇望の書に交渉まで持ちかけたトリックスターたる彼等が、先日行われた迷宮探索による成果『真なる賢者の石』に目を着けないはずもない。 廻る思考の中で弾き出されたのは、伝承の中で賢者の石と関係性を強く持った、錬金術師の存在の可能性。 其れを探るべく、特に錬金術師として名をはせた者が存在していた街へと――彼等の興味は尽きないのであった。 『――が。 残念ながら、情報を探るために彼方のフィクサードに接触は駄目。オルクス・パラストにはかけ合う前に門前払い。 僕としては超面白そうなのでいけいけどんどん!なのですが……、 アークとしても、他の海外リベリスタ組織としても、管轄外の土地で縦横無尽に動き回られて、不要な騒ぎを起こされるのは避けたい訳です』 リベリスタには一人一つ、幻想纏いという便利な通信機が配布されている。 其の幻想纏いの奥から聞こえる声は、若く、甘い声をした男の様だ。 『しかし、其れでは貴方達の腹の虫が治まらないと考えまして、現地リベリスタ達に接触はできませんでしたが手土産(案件)くらいは頂けました。 表向きは海外遠征依頼です。もしこれで『成果』が出たのであれば、現地リベリスタの堅い口も開くかもしれませんよ?』 悪くない話だと思いますが、と。通信の奥の男は笑った。 『あ、手紙兼、資料は受け取って貰えたかと思いますけど、ありますか? さくっと刺しておきました。 だだだだって……誰も全殺しやら魔王、王や殺人鬼から何まで居る伏魔殿に入りたくないじゃあないですか……』 数時間前、中央図書館の立ち入り禁止区域の扉に挟まっていた封筒の中身を広げる。 今時活字では無く、不気味な程に綺麗過ぎる字が書かれた文章は如何やら案件の内容の様だ。ご丁寧に行き帰りのチケットまで用意されている。 『ありましたか! では、説明と注意事項を。 錬金術師が作ったと『言われている』隠し通路が『ザルツブルグ旧市街』に存在している事が判明しております。 でもあそこ、世界遺産なので……昼に堂々向かうのでは無く、夜から朝方の内に終わらせてください。 国内も国外も大変な時期なので、貴方達に与えられる日数は非常に少ない。チャンスは一回です。 万華鏡も通らない為に、差し上げられる情報は限られています。資料にあるだけ、あとは想像。従って、何が起きても不思議ではありません。 そして、所詮……物語は物語。 ハイリスク、ノーリターン覚悟と理解して行くのであれば止めません』 何を今更。 可能性が有るのなら行くのだ。 ふと、封筒の奥より『魔術師のアルカナカード』が出てきた。魔術師の絵は此方を向き、不思議と笑っている様に見える。 『不治の病が治る。鉛から金ができる。そんな技術が有れば僕もあやかりたいもんです。 貴方達が行く場所を『万魔路』としましょう。 以前、……有志のリベリスタが調査をしに行ってから戻っていないそうです。それからは、行かなければ何も無い、何も起きない為、放置されておりました。 ただ、瀕死で帰って来た者が『ホムンクルス』『四大元素』『アーティファクト』『力を吸い取られる』という単語を並べて力尽きたそうな。他にも何か『居た』みたいですが知れません。降霊術も拒否です。 結構重要な事言ってくれましたよねぇ、エリューションってそんな長く放置できないものじゃないですか。恐らく、侵入者を拒む系のアーティファクトが作動するのかと。 ひー……寒気がしてきた。そんな感じです。 確定でエリューションの類が発生しますでしょうが、数も未知。不特定超多数と思って良いと思いますよ。 今回は其のエリューションを全て討伐し、エリューション発生の原因が有れば発生しなくなるようにしてきてください。其れが条件です。 で、貴方方は行こうとすれば何処までも、何を犠牲にしても行くのだろうと思いますので、此方より貴方方半数が動けなくなったら撤退するという事を約束してください。 其れでは御武運を。貴方方の旅に幸あれ』 「では」 椅子から立ち上がった男は背後で控えていた盟友達へ言った。 「――神秘探求を始めよう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月06日(木)22:44 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Ignis 先程まで見えていた月明かりも星の光も消え失せ、己が影がどれかさえ分からない闇の中へと降りて行く。 視界からの情報に頼り切って生きて来た者ならば、先が見えない闇に包まれれば自然と不安に陥るものだ。されど、リベリスタ達は淡く照らす光や神秘の力で暗闇を見通す事ができる。 不安が完全に無いと言えば虚実であるかも知れないが、それよりも新たなる発見の可能性に胸が高鳴るのは彼等の性であると言えるだろう。 「しかし……暑苦しいな」 ランディ・益母(BNE001403)は、額から流れた汗を顎下から落としながら先頭を行く。 湿気の度合いと暑苦しさは、日本の夏のそれに匹敵すると言えばそうかもしれない。 ランディの隣で歩を合わせて進む『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)さえ、額に滲んだ汗を拭っては其の手を万魔路の壁に置いたのだ。 「気持ち悪いな、これ」 壁の装飾であろう、数多の目は全て正面を向いている。 何故か拓真は其の黒目部分を突いてみたい衝動に駆られた為、壁に当てていない方の人差し指を近づけていく。 すれば刹那、時計回りに一回転した黒目が拓真をジっと見た。思わず後退した拓真。 よく見てみれば数多の瞳が一斉に動き出した様で、リベリスタ全員を見つめ始めていた。小刻みに焦点がブレるのは非常に生物的であると言っても良いだろう。 「うふふ、監視カメラみたいなものだったら嫌ですねぇ。侵入者、発見……みたいな感じで」 「あながち……間違っていないと思いますよ、それ」 『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)は思ったことを冗談半分に零してみたが、魔術知識を持っている『現の月』風宮 悠月(BNE001450)から見ればそれもジャックポットの一部分。 「来たようだぜ。『敵』ってやつがよ」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)が辰砂灰燼と呼ばれた大剣斧を構えた先、赤色に煌煌と燃ゆる炎が迫って来た。 「あの程度なら私一人でも十分だな」 最速で動けたのは『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)だ。直ぐにでもフラッシュバンを放てる彼女であったが、『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)がユーヌを静止させ。 「ユーヌ嬢、此処は自分に従って頂きたい」 「あぁ、特に従わない理由も無いがな」 雷慈慟が伸ばした手の先は、ユーヌの視界の中で留まった。 彼の五本指が一本二本と折られていく。言わば、ユーヌが攻撃を放つ絶好機へのカウントダウンだ。全ての指が折り畳まれた刹那――最前衛の手前で爆発した光が炎の動きを封じ込めた。 「頼もしい盟友が集まり頂き恐悦至極」 燃ゆる炎が深淵を照らす。奥より更に影が迫ってくるものの『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は動じず。 「それでは神秘探求を始めましょう」 ● 始めは数も少ない敵であったが、二十秒も経たないうちに数は倍増して迫って来た。 時間と共に、正確に言えばリベリスタが消費を出すごとにであるが、敵の強さも増していくのは感覚から理解が可能だ。 己が崩すのだと、珍粘を囲む影から刃が伸びる。ダークロードを征く彼女にとって、闇とは最大の味方。周囲全てが闇であるのなら、此の深淵は領域(テリトリー)だ。 「キリがありませんねぇ、可愛い女の子であるのなら大歓迎だったのですが!」 伸びた刃を掴んでは投げ、掴んでは投げ。燃ゆる物体や、更には下から伸びて来た水を斬り伏せていく。 「後ろから、物音だな」 ユーヌが最速で異常に気付いた。後方側の背中からをもエレメントが迫って来たのだ。 一緒に振り向いた珍粘だが、闇を刃へと構成するのに時間がかかる。確かに前衛は選りすぐりの精鋭で固めているものの、逆に言えば後方は少し護りが少ないか。 雷慈慟と珍粘が抑えられる限界は二体。加えて壁より切り離された剣が風に乗って飛ぶ――狙いは回復せし、悠月。 「……ぐっ」 詠唱の声が一瞬だけブレた。 背から腹部に貫通した剣に、赤い血が伝った。 マッピングを試みようとしていたが、余りに其方に集中してしまえば戦闘への命中や回避行動が疎かになってしまうのだ。 剣は直ぐに悠月から離れ、赤い雨を降らせながら舞う。剣自体がエリューションという訳だ。成程、此れは元素に関係無く、万魔路を守る為のものである事を悠月は弾き出し、直ぐにアクセスファンタズムへ声を絞り出した。 「数に終わりが無いのは、疑いようが無い。強引にでも移動する事を提案しますが?」 雷慈慟は後方より迫りくる敵を思考の濁流にて押し返すものの、満足に倒す事もできずに増えるばかりの敵を相手にしていれば何時数に押し潰されるかも解らない。 「何処かで踏ん切りつけて、先に進むしかないか」 前方で戦う影継が刃を弾き返す。されど後方よりの敵は、枚数が分厚い。後ろを見た影継の目線ではイスカリオテは背を向けていた。 「神父、そっちのエレメントはなんとかならんか」 「なんとかしましょうか」 「頼む」 「では、次の私の一手で進みましょう」 パチン――とイスカリオテの指が鳴らされた瞬間。珍粘と雷慈慟の鼻先スレスレの所で、何処にそんなものあったか砂が舞い上がり、荒れ狂う局地的台風が敵を削り殺していくのであった。 「まだだ、四大元素じゃないのがおいでなさったぜ」 進行方向、影継の視界の中。足と手で四足歩行してきた人影がひとつ。 「ホムンクルスか? ……にしても薬品臭いな」 「ハッ、構ってられるか。道開けろよ雑魚がァ!!」 続いたランディが進行方向、其の人影へ狙いを定める。 逆手に持った斧をスイング――飛び出した弾丸のような精神力が人影の前で弾け其れを吹き飛ばしていく。空中で腕が分解し、次に地面に着いた人影は二足歩行で揺れた。 「今だ、行くぞ」 影継を始め奥へと進むリベリスタ。 「お前だけは俺が」 しかし拓真は前進する前に後ろに振り向き、Broken Justiceの引き金を引いた。轟音と共に砕けた剣が、現の月から切り取った鮮血と共に地面に落ちていった――。 雷慈慟は回復を放つ悠月を脇腹に抱えて進んだ。ぬるりと流れ出る血が、彼の手を染める。 「出血に加え……致命に呪いか」 「そのようですね」 かくも、刃の一撃は響いていた。 「『循環路』と聞き思案した事が幾つか」 湧き出るエレメントに、四足歩行の不完全な人影は何処から来るのか数を増していく。対応に追われてではあるが、雷慈慟は仲間へと言った。 「我々を血液に見立てた、擬似生命活動の示唆。血は各所を巡り、栄養を運ぶ。AFを心臓と仮定する……と言うのは暴論か」 「いえ、中々良い線をしていると思いますよ」 ユーヌに治された出血と致命、呪いの分を返すように、悠月は回復を乞う。彼女の周囲に溢れる光は、万魔路を照らす月明かりだ。 悠月の怪我は勿論だが、前衛の頬傷を、抉られた腹部を、切られた腕を治していく――全快とはいかぬのが、口惜しい所ではあれど。 「此の万魔路が神秘的な生き物であるのなら、千里眼が効かないのもまた道理でしょうね」 そして再び、悠月は回復を奏でる――今度は進行方向に居る前衛では無く、背を守ってくれている二人の為に。 ● 「む」 しばらく進んでいたと思っていたが、ユーヌがしゃがみこんでで何かを取り上げた。 彼女の手には水に濡れた羽。彼女は此の場所に潜り込んでからずっと、己が羽を千切りとって落とし、道標にしていたのだ。 「おやや? あらら、これは戻ってきちゃいましたか」 同じく珍粘も一定の条件の下で壁に傷を着けていた。自分が着けたマーキングを見逃す程、珍粘の周囲への観察能力は劣っていない。 「それが此処にあると言う事は、如何やら私の考察は当たっていたようですね」 イスカリオテ曰く、此の万魔路は何時までも同じ場所を廻り続ける無限回廊。其れは入口に施された尾を飲み込む蛇『ウロボロス』が物語っていた。 「気付かぬ内に入口に戻されてしまったようですね、もう一度廻るしかありませんか……」 確かに此処に来るまで道を作る為だけに専念し過ぎてしまったか。戦闘と探査を両立するのは至難の業だ。現に、水から油に変わった場所などを見落として来てしまったようだ。 油断できない程に強力に成っていく敵が無限に湧く万魔路の中では、基本的に戦闘は続行しなければならない。誰か一人でも戦闘に参加せず探査に集中する者が居ればそこまで時間はかからなかったかもしれないが、今は考えても仕方が無い。 「時間は、かけられませんよ」 「困りましたねぇ」 珍粘が闇から刃を引きずり出し、イスカリオテは顎を手で触れた。 確かに。十秒、また十秒と経つ度に敵の攻撃に重みが増している。現に、今まだフェイトこそ使った者はいないが全員が同じだけ傷つき披露している。 そして行きも、帰りも、四足歩行の人影に囲まれていた。 「増えて来たな」 影継のぼやきは的を得ていた。 不完全。 何かが足りない敵は数だけが時間と共に折り重なる。 また一つ、拓真が刃を振るう。拓真自身は探索には特化していないものの、眼前に壁がありしは崩すのみ。障害があるのであれば、突破するのみ。其の先に、かの錬金術師が残した遺産が在ると信じて。 不気味に歪んだ肉体に穴を空けていく。彼等に意志は無いだろう、拓真によって蜂の巣にされたとしても叫び声一つ上げないのだ。 「ホムンクルスの失敗作だとしたら、か?」 「人体錬成? 漫画じゃねーんだぞ」 影継とランディが背中合わせに。それだけ言葉を混じらせて、再び敵の方へと身体を向ける。爪に裂かれた頬、やり返しに影継は得物を上から下へと振り落して、人影の上半身と下半身を別れさせた。香り立つは、血臭では無く薬品臭。 ランディの斧より解き放たれた砲弾が、再び人影を貫いた。飛び上がり、頭から下が空中分解したソレは力無く肉塊だけがエレメントの頭上に降り注ぐ。其のエレメントに対してランディは、手の平を上に指だけをくいっと動かし来いよと挑発して魅せた。 今回、ランディは護衛が役割だ。さりとて罠が無いか、異音が無いか気を付けて進んでいるつもりだ。ふと、ランディの足下に違和感が―――死体か。 其の間を縫う様に蝙蝠が一匹飛んでいく。 最初の別れ道に差し掛かっていたのだ。影継の記憶では先程は左に行った。 ならば今度は右だ。 雷慈慟の式である蝙蝠は、右の通路を先行――だが羽音をすぐに途絶えさせた。握り潰されたか、起き上った死体が一つ。恐らくはエリューションアンデット。 「ふむ、やはり動く死体か。差し詰め、私らと同じく此処に来て、此処で息絶えた者か」 ユーヌの放つ光に足止めされたアンデットを、今度は拓真が真っ二つにして再び死へと還す。其れを最初の一体目とし、近づいた死体が動き出し朦々と束になって襲い掛かってくるのであった。 ●Sunframe 暫く進んだ時であった。 二周目は探索にも気を遣うリベリスタ達であったからこそ気づけただろう。 足下には油が、炎のエレメントを近づけさせれば一瞬にしてリベリスタの足は焼かれるであろう。序にだが、マスターファイブを持っていないリベリスタが空気を吸っても解る程には薬品臭が濃くなったのだ。 「止まるぞ、此処一帯全てがおかしい」 「そうですねぇ……息が苦しい程に」 炎を切り裂いた影継に、珍粘が顔を上下に振った。 其処で偶々であったが。雷慈慟の視界の中で、弾き飛ばされたアンデットが壁をすり抜けて消えていったのだ。 「おやおかしいですね、あそこだけ目が動きませんよ?」 暗黒を放つ珍粘こそ、異変に気付いた。これまで目が自分達を見つめて着けていたのに、あそこだけ。 確認したイスカリオテが苦笑いをする――まるで子供騙しだと。だが、罠にも視えなくはない。こんな判りやすい事をこれまでの此処へ来た連中が見逃す訳も、無いと。 「悪い悪戯ですねぇ……、視界ばかりに頼っては抜けられないのも当たり前です。壁の模様、此処だけ超幻影並みの能力で隠されているだなんて」 だが見つけた異変だ、行くしかない。 雷慈慟が再び敵を弾き飛ばし、イスカリオテが後退した。アンデットが消えた壁、手を伸ばしてみれば――イスカリオテの手は壁に飲み込まれるようにして消えたのであった。 「皆さん、此方ですよ。通路の先はありませんが、通路の部屋はありましたね」 時間こそ掛かってしまったがリベリスタ達は大量の薬品や、干からびた何かの肉塊、やたらとドス黒い液体の入った硝子の容器、大量の書類が並ぶ部屋へと辿り着いた。 此処がゴールと言えるのかは、アーティファクトが在るかにかかっているか。魔術知識と深淵を持ち合わせた悠月とイスカリオテが存在する為、発見こそ容易いはずだが――。 「暑い……というか熱い」 「熱いですねぇ、そりゃだって……」 拓真が剣を構えた、珍粘は乾燥しきった肌を気にした。 目の前――轟轟と燃ゆる、全身が燃えた巨体が君臨していたのだ。その姿、龍以外の何者でも無く。 「万魔路が暑い理由が、此れか。ロマンに溢れた、ただの物置だな」 淡々と、ユーヌは現状を短く述べてみた。解析していく悠月が言うには、此の生き物はサラマンダーであるように見える。 かの有名な錬金術師が、何かしらの書物でサラマンダーについて語っていたか、なんだったか。 兎も角、足下の油にサラマンダーの身体の炎が引火を招き、灼熱の中でリベリスタ達の前に相対する事を強いられた。 「やはり罠ですか……ですが」 「はい、奥に。奥になにか陣が見えます!」 イスカリオテと、悠月だけには見えていたソレ。先に行くには此の巨体な生物の排除が必要である。そして此処で、敵を十分に倒さなかったツケが廻って来たか。部屋の入り口より敵が溢れ、リベリスタ達は囲まれてしまったのだ。 だがこれで終えるリベリスタでも無し。されど全員の体力が悲鳴を上げているのもまた事実。 「安々と帰る心算は無いのでな。行く道を閉ざすなら、覚悟して貰う」 サラマンダーの鼻先に刃を向けた拓真――刹那、見えないが翼こそ広げ、油が燃える炎から抜け出したユーヌは最速で光を放つ。前方のサラマンダーでは無く、後方の比較的雑魚共へ。後衛に手を出されては困るのだ、特に生命線である悠月には。 「あいつらは私が引き受けよう。此のクソ熱いのを頼む」 すぐさま次の動作に移ったユーヌは、手を前に、先よりは異なる光を放つ。其れは足下の焔を消し去る、呪いを吹き飛ばす光だ。 「いけ!!」 「ああ!!」 飛び出た拓真が炎龍の顔面へと飛んだ、引き締まる腕は限界を超え、血管を引き千切りながら肥大。其処から生まれた一撃に、炎龍の瞳に刃を刺したのであった。 地が振動し、硝子の容器が破裂。鳴り響いたのはただの炎龍の叫び声ではあるが、即座に吐かれた炎がリベリスタ達を、人影をも一緒に飲み込んでいく。 間一髪で雷慈慟が悠月を庇っていたからだ、回復は間に合った。誰もまだ倒れきってはいないものの、飛んだフェイトの総量は八を超えた。 「此処で、終わりとは言わせねえぞ!!」 ランディの振りかぶった刃が、柄から刃の先まで赤色に輝いた。 此の先に何かが有るというのなら――其処まで連れて行くのが役目である以上、倒れられない、倒れさせる訳にはいかないのだ。 近づけば近づく程、全身が熱さに悲鳴を上げた。それでも、それでも。 振り落されたランディの刃に、炎龍の、もう一方の開いている瞳を両断した。力づくの一撃であっただろう――故に。 「危ない!!」 珍粘がランディの服を掴んで引き寄せた。 口を開けた龍。燃え盛る煉獄の炎が、再び放れたのであった――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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