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<ライヘンバッハに宜しく>チープチープファミリー

●夜をこめて
 霧の街の冬は寒い。透き通った青空に、雪のあまり降らない気候。わずかばかりに観光客が減っただけで、賑わいは変わらない。
 そんな街の影が伸びてきた頃に、ハンバーガーショップで一人の女がぼうっと外を眺めていた。ポテトのLサイズが二つに、パティが二枚にチーズが挟まれたバーガーが三つ。細い女の腕より太いコーラのボトルに大きなストローをさして、眺める視線を変えず黙々と食べる。
 暗い金髪が咀嚼するたびにわずかばかりに揺れて、ブラウンの瞳が震えるように動く。視線の先にあるのはいつもの街の風景、夕暮れ、日が沈むまでに食べるつもりなのかせわしなく、何度も咀嚼する。女の腹に入るのが不思議なほどの量が、あっという間に消えていく。
 そんな彼女の居るバーガーショップの前に、一台のコンテナを積んだトラックが停まる。運転手が二階に居る女を見上げ、視線を合わせる。女は一度頷くと、すっかり空になったトレイの上のボトルの蓋を開けると、残ったコーラを一気に飲み干す。席を立ち、ロングコートを羽織りジュラルミンケースを手に取る。
「ここも見納めか」
 小さくそうつぶやくと、女はゆっくりと一歩を踏み出した。

●霧の尾根ゆく
「先日の倫敦での、モリアーティの攻撃計画を阻止したことは記憶に新しいと思います」
 オペレーターが資料を配りながら軽く頭を下げる。
「被害こそ出ましたがこちらが得た情報と持っていた情報、それらの協力を得た『ヤード』の『捜査』は相手のほころびを拡げる程度には成果が出ました。元より公的権力の側である彼らにとって、これらは得意分野でしたから」
 もちろん何もかも分かったわけではありません、とオペレーターは続ける。モリアーティの『慎重過ぎる位に慎重な動き方』と前回の事件のやり方の差異。神秘研究者・リー教授の言った『モリアーティ・プラン』存在の疑い、蜘蛛側傘下組織『イーストエンドの子供達』が発した『モリアーティの真の狙いは倫敦の覇権ではない』など、挙げればキリはない。
 しかし、それ以上に天才・モリアーティに時間を与えるのは危険以外の何物でもない。フェーズ4キマイラが量産されれば手に負えない事態に発展する可能性も低くない。
「よって、倫敦派の本拠地を含め詳細を完全につかめていなくとも、リスクを覚悟の上で早期の攻撃計画を発動することにアークと『ヤード』の上層部は合意しました。主な内容は敵本拠の進入口の存在が確認されたピカデリー・サーカス付近に進軍し、地下要塞の制圧することです」
 オペレーターがフォックスアイの眼鏡をくいっと直す。
「今回、皆さんには敵の防衛部隊のうち、ピカデリーサーカス外部に布陣している対象を撃破していただきます。コンテナを積んだトラックで移動しています。コンテナの中にはキマイラと、乗り込んだ構成員が6名、トラックの運転手と助手席に乗っている人間が2名。計8名が確認されています」
 調査した限りこの8名は敵の中でも精強な小隊であり、連携も高い。能力傾向はクロスイージス2名、プロアデプト5名、指揮能力を持つホーリーメイガスの女が1名。中級以上の能力は持っていると思われる。
 注意すべきはこの女で、アーティファクト『テレジアの子供達』を持っていると思われる。強力なキマイラを操作するためにこのアーティファクトは大型化されており、女が隠しているこれを破壊することが出来ればコントロールを失い、戦闘を有利に進めることができるだろう。
「無理をして探す必要はありません、これで戦線が瓦解しては意味がありませんし。頭の隅に留めて置いてください」
 最後のページに目を通してください、とオペレーターが言う。
「今回、共同作戦ということで『ヤード』の精鋭が五名随伴します。リーダーの名前はトム、日本語も堪能ですので指示は彼にお願いします。最後に、日本・三高平市への物理的干渉、奇襲を防ぐ為のロンドン市内の封鎖・監視は『ヤード』の予備戦力が担当します。後ろは気にする必要はありません」
 オペレーターがゆっくりと、リベリスタ達を見回す。何か質問は、と聞いて沈黙が返ってくるのを確認してから一度頷くとわずかばかりに笑顔を浮かべる。
「敵は手ごわいですが、貴方達なら出来ます。頑張ってください」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:春野為哉  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年02月08日(土)23:20
 皆様こんばんは、私です。今回は先日起きたロンドンでの事件、それを足がかりに更に深くまで切り込む依頼になります。以下詳細ですが、覚悟を以って臨んで頂けるよう、よろしくお願いいたします。

●このシナリオは地上シナリオ(倫敦派)です

●勝利条件
 フィクサード、及びキマイラの全滅。『ヤード』構成員の生死は成否に含みません。

●エリューション・キマイラ
 外見情報は出ておりませんが、敵戦力の中核と推測されます。トラックのコンテナに隠さなければいけないほど巨大で、複数の対象への攻撃と高い耐久力、移動を妨害しようとした場合三名以上必要となることが推測されます。

●フィクサード
 倫敦派の構成員であるフィクサードで、連携も強い兵です。能力はクロスイージス2名、プロアデプト5名で、全員最低でも中級以上のスキルを持つと推測されます。

●フィクサード指揮官
 倫敦派の構成員であるフィクサードで、革製のロングコートと手持ちのジュラルミンケースが特徴の、金髪で細身の女です。ホーリーメイガスの上級のスキルを持つと思われ、指揮能力も持ちます。撤退する気は元よりないのか、全力で叩きに来ます。
 この女がアーティファクト『テレジアの子供達』を隠し持っていると思われ、上手く発見、破壊すれば敵のキマイラは制御を失い戦況を有利に傾けるでしょう。

●『ヤード』
 精鋭が五名、作戦開始時点から皆様の指揮下に入り随伴します。攻撃能力は遠近両方に対応しており、二人がかりであれば敵フィクサード一人を確実に押さえ込める程度には有能です。過度な期待はできませんが足手まといにはなりません。
 また「トム」というリーダー格がおり、日本語に堪能なのでヤードへの指示は彼に言うと良いでしょう。何も言わなければトムは戦闘中は皆さんの後ろに布陣し、援護射撃をしながら周辺警戒を行います。今回の敵の情報は彼らのチームの調査によるものです。

●戦場
 時刻は夜、ピカデリー・サーカスの少し北にある交差点が戦場になります。街灯りがあるとはいえ、闇には注意したほうが良いでしょう。

 以上です、強力な敵との戦いになります。皆様の御武運をお祈りします。


●重要な備考
1、全体的な戦況(あくまで『倫敦の蜘蛛の巣』本拠攻略の結果)は、リベリスタ側の戦略点とフィクサード側の戦略点の最終結果で上回った側がどちらかで決定されます。(双方が戦略点を持ち、それぞれのシナリオの結果で加算や減算が行われます。守備側であるフィクサード側は初期値に補正を持ちます)
2、アークの関わらない事件(非シナリオ)も同時に多数起きていますが、其方は『ヤード』の対処案件です。
3、海外任務の為、万華鏡探査はありません。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 予め御了承下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ハイジーニアスデュランダル
★MVP
斜堂・影継(BNE000955)
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
ジーニアスデュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
ハイジーニアスホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
メタルイヴダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)

●今日の空に風が吹く
「なあトム、厄介な時にばかりに会うもんだな」
 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)が、乗用車の運転手をつとめることになったハットを目深にかぶった男、トムに語りかける。影継は以前の任務で、このヤードチームのリーダーの一人、トムと共に修羅場をくぐった経験がある。
「リベリスタというのは、そういうものなのだろうね。私たちも、守るものがあるからこそ、厄介ごとに躊躇無く首を突っ込むんだ」
 白い歯を見せて笑ってみせたトムは、自らのジャケット左胸の内側を軽く開いて見せた。そこには縫い付けるようにして、トムと家族のものらしき写真が貼り付けられていた。
 二人の乗った車は不気味に静かな夜闇のロンドンを走るべく、エンジンに火が入る。
「じゃあそのまま進んでくれ。目標のトラックは予定通り、かち合えるぜ」
 『てるてる坊主』焦燥院"Buddha"フツ(BNE001054)がスキンヘッドを軽く撫でながら言う。目標の交差点からわずかに離れた場所。トラックから完全に死角になる位置から千里眼で偵察しているこの状況。敵の乗っているトラックは、運転手の男はこわばった顔と、助手席のリーダー格と思われる女は気だるげな表情が対照的だ。
「オーケー、このままかち合わせる。みんな準備はいいな、何か問題は」
「ヤードのメンバーに女の子が居なかった」
 『一人焼肉マスター』結城"Dragon"竜一(BNE000210)がどこか残念そうに肩を落とす。さきほどトム指揮下のヤード構成員に作戦を説明した後に「これで、ヤードの美少女も俺にメロメロさ!」と確信を持って全員の表情を見たところ。ものの見事に男しか居なかった。おそらくそれが原因だろう。
「残念だったな、それじゃあ徒歩組は先に位置につくぜ」
「夏栖斗、途中でへばるなよ」
 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の言葉にもちろん、と言った後に「あらためてよろしくな、期待してるぜ」とヤードの構成員に笑ったのは『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)である。
「でっかいコンテナに入ってるのがサーカスの動物ならいいのに、ライオンとか」
「落ち着いたら観光してみたいもんだな。サーカスもあれば生きたいところだ」
 『腐敗の王』羽柴・壱也(BNE002639)が寒空を見上げて、手を擦りあわせると『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)も同じように空を見上げて言う。どうしようもなく今、倫敦は戦火の中にあるからこそ、憧れにも近い感情ででた言葉。
「本当にライオンならいいんだけどね。絶対気持ち悪いの入ってるってわかって開けるのはね」
 『骸』黄桜・魅零(BNE003845)が肩を落とす。おまけに相手はゲスだし、ああでもゲスのが遠慮が要らないよね、殺すのに。と続けてどうにか気分を前向きにする。
 そうして各々が自己強化を行い、万全の状態で散開。交戦予定地の交差点に、トムと影継の乗った車が走り出す。
 交差点に、目標のトラックが顔を出した時。信号を無視してアクセルを踏み込む。
「お墨付きもらってんだ、やっちまってくれ!」
 闇夜に無灯火の乗用車が、弾丸の如く飛び出す。それはクラクションを鳴らす間もなく。敵を満載したトラックの足元に頭から突っ込んだ。

●深き底より声を聞く
 ヘッドライトがひしゃげ、フロントガラスが吹き飛ぶ。同時に影継とトムが座席を蹴り、ガラス片の中から踊り出す。銃弾と、そのままトラックを両断せんばかりの真紅の斧が振りぬかれる。
 第一段目の作戦は速攻。敵の脚を止めて、そのまま展開される前にリーダー格を潰すという作戦。しかしここは既に戦場である、と言うように激しく火花が散り、硬い感触。女の隣の運転手が瞬時に身を呈し、影継の刃を逸らした。
 女はすぐさま、手に持ったアタッシュケースを振りぬき、助手席側の扉を打ち抜き、転がるように外に飛び出る。暗い金髪が闇夜の街中に溶け、その身を守るように男も飛び出す。
「どーも、ごきげん麗しゅう。僕はアークの無敵要塞、御厨夏栖斗。おねーさんお名前は?」
 夏栖斗が金色の瞳を向けながら、地を這うように低く、目にも止まらぬ速さでトンファーを振るえばトラックのタイヤが炸裂音と共に傾く。これでトラックは完全に移動不能だ。
「アイダ、アイダ・デューイだ。ご丁寧な歓迎、感謝する」
 金髪をかきあげて女、アイダが言うのと追撃が入ったのはほぼ同時だった。
「さしずめ職業は調教師ってとこかな」
 壱也の太刀が振るう。二度目の全力、百二十。悠然と立つ女を、地に根を張ったように男が轟音を立てて受け止める。内臓への衝撃が入ったのか、吐血。二の太刀要らずの一撃を二度も受けてこれか、と壱也が素早く距離をとる。
「そうだな、間違っていない」
「おい、トラックから離れろ」
 少し離れた位置から全体を見ていたエルヴィンが、アイダの言葉を遮るように叫ぶ。トラックの荷台、コンテナ部分が低い爆発音を立てて、辺りにボルトを飛ばした。炸裂ボルト、襲撃を予想していたための備え、拘束のなくなったトラックの壁は四方に倒れ、積荷をあらわにする。
 咆哮、轟音。腐り果てた人間や動物を粘土のようにこねて、くっつけて無骨に作ったドラゴン。それがキマイラだった。ただ違うのは、翼だけは辺りに細かい粒子状の破片を散らしながら、軋み続ける美しい結晶の翼。
 窓ガラスが割れるほどの咆哮にひるまず、フツが中からでてきた男たちに朱雀で業火を振りまくのと、男達が大量の気糸を放つのもほぼ同時だった。業火に巻き込まれながらも伸びた気糸はアイダを襲撃した影継、夏栖斗、壱也を中心にフツまで飲み込み、射抜く。
 快が予め付与してくれた、再生でも塞がらない傷をつけられながら、フツは視線をアイダに向ける。攻撃の準備を始めているのか、複雑な魔法陣を展開している。そこで目を見開く、奇襲を受け、自らをかばう仲間が少なからず手傷を受けているのに。
「冗談きついぜ」
「冗談だと思うか」
「ほんとゲスだね」
 黄桜がフツとアイダの短いやり取りに吐き捨てるように言うと、男達をの間を縫うようにキマイラに接近し、奪命の一撃を叩き込む。吼えた直後の隙だらけの頭に突き刺せば、腐臭に満ちた液体を散らしながらのた打ち回る。傷口が盛り上がり、塞がろうとするが出来ない。やはり予想通り、自己回復能力があったのだ。
「それでいいのかよ、お前も」
 竜一も踏み込み、アイダを庇う男に三度全力の一撃を振りぬく。刀身が肉を確実にとらえ。鮮血が花弁のように散る。膝から一瞬力が抜け、男の身体が衝撃で浮く。黙して語らず、男は構わない、と目で返した。
 おおよその布陣も終え、快が黄桜を庇いながら前に出て、素早くキマイラを観察する。硬質化した翼は質量による攻撃に非常に有利に見える。だが、関節をよく見れば、異常に広い稼動範囲を持っていることがうかがえる。
「盾か――」
 快が確信を持つ前に、アイダの裁きの光が交差点を埋め尽くした。

●先が長かろうが、短かろうが
 エルヴィンが後衛に布陣し、待機したまま聖神の息吹を使い、すぐさま傷をふさぐ。彼と前衛との間、すぐに移動できる位置にヤード四名が前衛の火力集中、及び突破口作成を担当する。前衛にはリーダーのトムと、キマイラを押さえにかかる夏栖斗と黄桜、快の三人。残りはアイダに火力を集中する。
 快の見立て通り、キマイラは攻撃力以上に防御力に特化した構造となっており、一度にその翼に囲い込むように二人までを庇うことが可能であった。先んじて押さえ込むことに失敗していたら、アイダを徹底的に庇われ最優先での撃破が不可能になるところであった。
「半ヅキってところだな」
 しかも庇ったまま、尾による攻撃が可能である。先端の結晶ははそのまま巨大な鞭となり、三人に襲い掛かる。すんでのところで鮮やかに跳躍し、石畳を吹き飛ばす様を眺めながら、夏栖斗は相手を圧倒するだけの武技を見せ、キマイラごと男達を巻き込む。
「しぶとさが売りなんだ、それで十分!」
 快が巨大なキマイラの尾を盾で受け流すと、叫んでみせる。彼の判断でもう一つ功を奏したのは、黄桜を庇うことで少なくとも彼女へのブレイクを防いだこと。しかしアイダの消耗を考慮しないような発言に、加護を付与するタイミングを考えさせられる。ならば今は、しぶとく耐える時だ。
「いひ、そのご期待にも感謝感激。頑張っちゃうよ」
 黄桜の暗黒が快の影から広がり、男達を襲う。キマイラに二人分吸収されるが、それでも構わずに瘴気は不吉を刻み付ける。歯の隙間から思わず笑い声が漏れ、黄桜の内包する闇が今にも漏れ出しそうである。
「うお、おおぉお」
 竜一が吼える。運転席に居た、徹底的にアイダの盾になっていた男が肩口から脇腹にかけて深々と切り裂かれる。唇がわずかに動き、言葉を紡ぐ。竜一にはそれが「すまない」と言っているように見えた。捨て駒のような扱いを受けてなお、こんな言葉が吐けるのかと僅かに目を見開く。
「テレジアの子供達はどこだ」
 影継が相手の反射思考を読み取るべく、アイダに問いかける。心臓、反射的にアイダが心に答えを浮かべ。すぐさまそれを察したのか、悠々と、不敵な笑みを浮かべて自分の胸を指差す。その仕草に、正確には表情に、影継は見覚えがあった。前のカソックの女と、顔立ちは似ても居ないのに瓜二つだということに。
「キマイラのコントローラーは、アイツの左胸だ」
「撃て!」
 影継の言葉と同時にトムが吼える。一糸乱れぬ動きでヤード達の銃口が盾の離れた女に向く。しかし即座にもう一人の男が、文字通り盾になるべく弾丸の雨に割り込む。男が血濡れになりながら、その影でアイダはため息をつき、影継を見る。
「そうか、お前が」
 気だるげな瞳に、殺意が満ちる。
「姉さんを殺したときの、奴か」
 タクトを振るうように、指先が動く。
「もう会えないと思っていた――塵に帰せ」
 聖なる呪言が浄化の炎となり、影継を包む。そこをめがけて、男達が鮮やかな不意打ちを決める。完全に戦闘態勢を破壊する一撃が連続して襲い。影継の心臓を抉らんとする。
 鮮血、一瞬の沈黙、膝から抜ける力を、影継は奥歯が軋むほどの力を込めて支える。
「悪いな――」
 不要な言葉を排したら、彼の唇から出た言葉はそれだけだった。アイダの目が見開かれる。トム達の言っていた、逃げるつもりは無いという理由はここから来て居たのだ。復讐、彼らの姉を殺された。
「斜堂くん、さがって!」
 奇妙な静寂を破ったのは壱也だった。アスファルトに火花を散らし、切り上げる。二枚目の盾の腕の中ほどまでに太刀が食い込むが、完全に防御に傾けた反撃の力を発揮し、壱也を僅かに傷つけ、男もまた口元に笑みを浮かべる。仲間を誰一人失いたくないという壱也の感情を見抜いたように。
「テレジアの位置はわかった。やるぞ!」
 フツが僅かな動揺や連携の乱れを肌で感じたのか、大声で一括し、業火を纏った朱雀を飛翔させる。影継に群がった男達をなぎ払い、辺りを炎が煌々と照らす。影が躍り、街を照らす。
「ああ、踏ん張りどころだ。絶対に、これ以上好き勝手させねぇ」
 その炎を煽り、闘志を燃やすようにして、エルヴィンの聖神の息吹が吹き抜ける。燃え尽きるのはどちらか、精魂全てを賭しての剣戟は未だ止まない。

●お墓に座っているのは誰
 二撃、三撃、男達は影継がヤードに庇われるや否や、気糸を再び全開にし、精緻な攻撃を叩き込む。アイダも再び浄化の光を放ち、リベリスタ達をなぎ払う。徹底的に相手の体勢を崩し、相手の自由を奪うスタイルこそが、彼らが精鋭と呼ばれる所以か。
 しかし限界はいずれ来る、同等以上の相手に数で負け、アドバンテージであるキマイラの自由を奪われ、アイダのカバーリングも時には本職でない者まで回りながらも、ノックバックで強引に引き剥がされ、道をこじ開けられては。
「捕まえた!」
 幾度目かの攻防のあと、二枚目の盾も剥がれる。これで敵の専門職は居なくなった。いざや、と壱也が深く踏み込む。少なからず手傷を負った彼女だが、柄を握る手が滑ることなどない。巨大な、止めようのない力と化した彼女の刃がついにアイダを捉える。直撃を避けるべく半身をねじるが、革製のロングコートが裂かれ、どす黒い血が衝撃と共に辺りに散る。
「アイダ」
 男の一人が深く、小さくつぶやき、かばいに入ろうとする。だがそれより速く、竜一が踏み込む。
「姉思いの、いい妹なんだろうな。あんたも、俺は兄貴だけどよ」
 躊躇せず、横薙ぎの一撃。アイダが右腕を盾にし。わずかに胴に刃が触れるのを遅らせる。腕が飛び、今度こそバランスを崩し、倒れそうになるが。まるで踊るようにジュラルミンケースを振り回し、まだ立つ。姉のことを言われて、癪に障ったとでも視線を竜一に向ける。血で張り付いた唇が動く。
「あんたの妹も、あんたが死ねば同じようになるさ」
「なるわけねぇだろ、なぁ相棒」
「ああ、もちろんだ。まず、死なせないからな」
 そして式符を用意していたフツが、漆黒の弾丸と化した鴉を無数に、アイダの心臓に向けて放つ。確かな手ごたえ、そして何かが砕ける音、その奥の。命に直接触れた感触。
 再び訪れる奇妙な静寂。ゆっくりと、仰向けに倒れていくアイダ。ジュラルミンケースが落ち、乾いた音を立てる。それを悔やむように指を伸ばす。
「姉さん――ごめん」
 その指は血だまりに沈み、ケースに触れることは出来なかった。
 慟哭、大勢の決まった瞬間に会わせるように、キマイラが吼える。心臓ごと貫かれた制御装置を失い、盾としての役割も失い、暴風のようにのたうち始める。それに伴い、敵陣がどうしようもなく崩れ始める。
「さーて、黄桜ちゃんのぉ、真骨頂!」
 その慟哭を心地よく受け止めた黄桜が、此の世の全ての呪いを込めてキマイラに突き立てる。傷口から溢れる腐臭漂う液体すらも瞬時に石化するほどの呪いが、彼女に触れることすら許さない。そのままぐりぐりと傷口に刀を鍔までねじこみながら、叫ぶ。
「いいよいいよ、遠慮せずにここで死んでいきなさいよ! このアーク精鋭の上位陣の皆様方が集まった時点でおめーら詰んでんだよ!」
 黄桜は小物だけどね、という切ない小声は刀を引き抜く際のキマイラの悲鳴で、彼女にしか聞こえなかった。その横で夏栖斗が、先ほどアイダの名前を呼んだ男をめがけて深く腰を据えて踏み込み、一撃。それを見るや隙あり、とばかりに攻撃の動きを見せた夏栖斗にキマイラがその翼を叩きつけようとする。
「さっきまでで十分見せてもらった、もう見切ってるんだよ」
 動き終えた後に放たれた飛翔する武技がキマイラの翼に風穴を空け、男にも直撃する。骨の折れる嫌な音と、吐血。背骨まで砕いた衝撃に耐え切れず伏した男の口から漏れたのは、やはりアイダの名前。
 そうか、とエルヴィンが気付く。敵がこれほどまでに瓦解しようと、殺されるのを待つだけになろうと戦い続けたのは。この連中には絆があったからだと、安かろう悪かろうともその絆のためだけに、彼らは死のうとしているのだと。
「悪いが、全力で潰させてもらうぜ」
 どんな相手だろうと、という言葉を噛み潰し。幾度目かの息吹を放ち、仲間の傷を塞ぐ。死を強いる絆に、わずかな心の軋みを覚えながら。それは徹頭徹尾キマイラを押さえ込み、黄桜を庇い続けた快も感じていたのか、ナイフを振り上げながら大きく息を吸う。キマイラはのた打ち回り、逃げ道を探すようにその首を振り回す。
「広場から出すわけにはいかない。ここで、砕く」
 振り上げたナイフが、キマイラの頭を十字に切り裂く。飛び散る脳髄すら腐りきり、醜悪なモザイクアートのように臓物を散らしながら。ついに耐え切れなくなり、地響きと共にキマイラも地に伏した。
 快がキマイラの頭蓋を切り裂くのと、残った男達を片付け終わるのに、そう大きな時間の差は無かった。
「終わったね」
 黄桜がそうつぶやき、ジュラルミンケースに近づく。後生大事に抱えていたわりには、アーティファクトでもなければ魔法の発動媒体でもなかった。では一体何を抱えていたのか。冷めた目を向けて、黄桜がケースを開ける。
 中に詰め込まれていたのは、無数の写真やメモの入ったアルバム。ここに居た男達と、アイダと、カソック服の姉とおぼしい女が写っている。メモには他愛のない落書きや、ちょっとした言伝など、彼らなりの日常の片鱗。
「ほんと、気に入らない。キマイラと一緒、無理やり混ぜて、くっつけて。だいっきらいだ」
 黄桜がそうつぶやくと、アルバムを閉じてケースに戻すと、アイダの瞳も閉じさせる。これは、自分たちが見ていいものではない。
 傷跡だらけの街の中に残された死体達。そのどれもがどこか満ち足りた表情を浮かべていることに、誰が気付くことができただろうか。
「移動しよう、ここはまだ戦場の中だ。制圧したとはいえ、いつ他の連中が来るかわからない」
 襟を正しながら、トムが言う。リベリスタ達も誰が言うでもなく同意し。手早く周囲を警戒してから移動を始める。
 ロンドンの闇は深い。しかしそれを祓えないわけではない。彼らはそのことを刻み付けるようにして、夜のピカデリーサーカスを駆けていった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
勝利です、皆様お疲れ様でした。この度は苦戦が予想されましたが、皆様の行動でほぼ最良の結果を得ることが出来ました。家族の絆というのは時として強固な刃となりますが、それを潜り抜けていただけて安心しております。

斜堂様は、初動の作戦だけでなく戦闘面、情報面においても細やかな気配りがなされており、今回のMVPに選出させていただきました。おめでとうございます。

この度は依頼へのご参加、心より感謝いたします。またご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。