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極彩色に咲いたストリキニーネ


 自分の掌の上で転がされる命は何と軽いものだろうか。
 白百合の茎を手折った時も、走り回る蜥蜴の尾を斬り落とした時も、仄かな興奮と絶望を覚えたものだ。
 命と言う概念は奥深い。生物の動力やエンジン部位と称するならばそれは命と言う概念的なものでは無く単純に心臓や臓器を指し示した方がいいのかもしれない。ならば、『命』というものは何処にあるのだろうか。たとえ話だが、命と魂と同義と考えた時、それは何処にでも存在することになるのかもしれない。魂とは肉体を離れ可視出来ない下でそれは存在して居るのだというのだから。
「古代エジプトではオシリスが祀られてたでしょ、あれもそう言うものよね」
「だからと言って墓を掘りだして黄泉返りが出来るだなんて――なんて、どっかの誰かさんみたい」
 洒落混じりに告げる『墓荒らし』の目的は成程、死者の蘇生であるようだった。
 肉体から離れた魂は視認できない。直接的な接触を行う事が出来ないのは『肉体』というイレモノから魂という物質(大凡4分の3オンスと言われているが真偽の程はわからない)が抜け出してしまっているからだろう。イレモノが存在すれば霊魂はこの世界で誰かに触れ、誰かに影響を与える事が出来る――つまり、何て事無い『イレモノ探し』な訳だが。
「The Society for Psychical Researchでね」
「なんて、」
「えーと、心霊現象研究会でね、掲載されてたから信じてるんだけどね。
 人の魂は4分の3オンス。どっかのマクドゥなんとかって人が計測したそうだけど」
『墓荒らし』は土を掻き出しながら会話に勤しんでいる。誰かに雑学を披露したいとでも言った様な男の表情にはっきりと浮かび上がった恍惚に、彼女を見詰めていた少女が「気持ち悪い」と吐いて捨てた。
「4分の3オンス分の『ナニカ』が此処にあるんだけど、」
 ね。と意味ありげに笑った男に少女は矢張り「気持ち悪い」と吐き出した。


「性質の悪い新興宗教って感じよね。黄泉がえり」
 はっきりと言ってのけた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)の言葉に苦笑を浮かべるしかない。
「生前のそのままの姿で、死んだ人が帰ってきますよ、と広告を出してアーティファクトの恩恵を授ける実験を行おうとしてるフィクサードがいるわ。一言でいうなら下衆ね」
 さらりと酷いことを言ってのけるフォーチュナに微妙な表情を浮かべるリベリスタ。
 確かに下衆の所業だと言われても致し方ないのであろうが、それはそれだ。
「アーティファクトの名前は『極彩色ストリキニーネ』よ。名前の通り、これは毒よ。
 簡単に言うなら、これは香水ね。幻覚作用を齎すもので、死者の骨に付ければ生前のその人の幻覚をより強く見させることが出来るの。墓荒しが会ったとかも最近話題になってたけど」
 同一犯の仕業です、と妙に探偵チックに告げる世恋は小さな咳払いののち「お願いしたいのは」とリベリスタを見回した。
「このアーティファクトを使うフィクサードの撤退及びアーティファクトの破壊か回収をお願いしたいの。
 香水をつけたくなる……人もいるかもしれないわ。
 でも、愛する人が戻ってきたと喜ぶ人たちの気持ちを踏みにじるようなことは止めてほしいの」
 愛する人たちの骨に香水を振りかけて、どっぷりとハマっていく一般人。
 その姿は宗教家のようであり、実際は『故人』への愛情ただそれだけなのかもしれない。
「この香水からエリューションが生み出されることも予見されているわ。
 そのエリューションは一般人たちの大切な人の骨を使って生み出される。……彼ら、香水を振りかけた骨を持ち歩いて、共にいると幻覚を見ているから、ね?」
 生み出されるエリューションの姿は薄くぼんやりとした靄のようなものだが、一般人たちの目にどう映るのかは世恋は分からないと首を振った。
 靄なのか、その骨の主なのか。愛しい人の姿をしているとしたら、もう一度死ぬところを見なければならないのかしら、と世恋は小さなため息を吐き出す。
「やはり、相手は下衆だわ。……どうか、どうか、止めてきてくれるかしら」
 誰かが死ぬのって辛いわと囁く世恋はリベリスタを見回し「どうか、よろしくね」と資料を手渡した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年01月31日(金)22:51
こんにちは、椿です。

●成功条件
 ・アーティファクト『極彩色ストリキニーネ』の確保または破壊
 ・フィクサードの撤退

●場所情報
 時刻は昼下がり。住宅街の一角に存在する『セラピー』の店。実際は新興宗教だとも噂が出ている店舗です。
 周辺は住宅街であるために何らかの神秘の秘匿が必要となります。
 また、一般人が多数存在しているために注意が必要となります。

●アーティファクト『極彩色ストリキニーネ』
 香水のアーティファクトであり、元になってるのは小さな水瓶です。
 香水を瓶に小分けにし、一般人への販売を行っているようです。
 何らかの依り代を通すことで幻覚をよりよく見せることが出来ると言われています。一般人に多大な効果を示しますが、革醒者には効果は出ません。

●フィクサード×3
 ウェルメィルと由比と名乗る看護師姿のフィクサードと、泥まみれの白衣を着た宗医と名乗るフィクサードです。宗医の趣味は『墓荒し』何ともひどいものです。
 それぞれがダークナイト、デュランダル、ホーリーメイガスであり、アーティファクトの効果を一般人を使った臨床実験をしています。故人が帰ってきたと喜ぶ一般人たちへは「慈善事業だ」と告げて皿に香水を売りつけているようです。
 アーティファクトを第一に考え、その保護を第一に考えています。

●エリューション『残滓』×10
 一般人の持つ骨の欠片にアーティファクトの香水が混ざり込んで生まれたエリューション・フォース。
 薄くぼんやりとした存在であり、親である香水の危機に反応して戦闘体制に入ります。フェーズ1。

●一般人×10
 店舗内に存在する一般人たちです。ある意味で信者ともいえ、フィクサードが傷つけられるとなると庇おうとします。
 また、香水の効果により幻覚を見ているためにそれぞれが骨の欠片などを所有しているのも特徴的です。

どうぞ、よろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ハイジーニアス覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
ジーニアスプロアデプト
ロマネ・エレギナ(BNE002717)
フライダークホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
ハイジーニアスレイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)
メタルイヴダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
ナイトバロン覇界闘士
喜多川・旭(BNE004015)
ジーニアススターサジタリー
片科・狭霧(BNE004646)


 閑静な住宅街はいつ訪れても不思議な空気感を感じる。勿論、それは屋外であるからこそなのだろうが、生活感がないその場所は夜になれば墓場の雰囲気と同じ様なものだろう。
「……ふむ」
 こてん、と首を傾げて見せた『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)は彼女が生業として営む『墓掘り』業からは程遠い鮮やかな赤色が目立つ服に身を包み、住宅街をのんびりと歩いていた。生粋のロシア人、その外見からも市街地ならば視線を集める事、回避不可能であろうロマネがこうも優雅に歩けて居るのはやはり『閑静な住宅街』が為せる技であろうか。
 そんな住宅街でも異質な光景を齎す店舗が一つ。開店したばかりだと言うセラピーの店は毒々しい色を発する不気味な空間だ。やはり、その様な空間であれば『一人焼肉マスター』結城 竜一(BNE000210)の様な警察官コスチュームの男が似合う。
「ここ、ですね……」
 異質な空気感の住宅街でぽそりと囁いたのは警官の竜一とは違い、幼さをその表情全開に持っている『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)だ。彼女らが店内に足を踏み入れる前に行った工作は所謂人避けだ。これから何を行うかをミリィは良く分かっていた。竜一の用意した通行止めキットを周辺区画に設置することで、工事中か何かを装う。
 加えて、切なげに眉を寄せる『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)が施す強結界がこの現場から無関係な人間を排除できる。攻め込むには準備を万端に。しかし、心情的な準備が間に合わないのも遥紀の人間らしさだろうか。
「4分の3オンス。人体成分が喪われぬ中、観測した全遺骸から同様に消失した不可知なる欠損。
 其れこそが魂の重さであるだったか……何かの、論文か研究の結果だとは思うけど」
「ええ。その分量が還ってくる事で『死んだ人が還ってくる』……そんな夢物語を信じられるほど、私は純粋でもお子様でもないわ」
 遥紀の言葉に頷きながらも、茫とした瞳に彼女なりの感情を薄らと湛えて居た『空虚な器』片科・狭霧(BNE004646)は「とはいえ、」とゆっくりと繋いでいく。日々に流され、怠惰な人生を送ってきた狭霧の緩く巻かれた黒髪が静かに揺れた。
「夢でも何でも、縋りたくなる気持ちは、分からなくもない。
 誰だって、本当に欲しい物の前では綺麗じゃいられないもの――ね?」
「だからこそ出来る商売なんだろうな、感心するぜ、俺には全く思い付きもしねえや」
『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)の言葉は心からくる侮蔑であろうか。セラピーショップという形態をとった新興宗教。何かに縋りたくなる一般人達にとっては丁度良い場所だったのだろう。
 看板を立て掛けた遥紀の後ろ姿を見詰めながら立ち入り禁止の為の黄色のチェーンを設置し、更なるバリケードを完成させる『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の手が、小さく震える。
「……いこ。止めなきゃ」
 こんなの、ゆるせない、と囁く言葉に、耳を傾け尻尾の様に伸びあがった骨を揺らした『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の唇から小さく歯が見えた。


 セラピーショップにしてはやけに殺風景な場所だった。押し戸へと手をかけ、一気に押した竜一は「失礼」と冷めた声を店内の人間に投げ掛ける。
 中に一般人が十名、それに加えてコスプレイヤーかはたまた本業のそれかは分からないが看護師姿の女性が二名存在して居る。感情を探る様にミリィが突き止めれば、どうやら後一人は店舗の奥に居るようだ。
 看護師の女が突然過ぎる警官の訪問に不審そうに竜一を見るが、彼の瞳は普段の明るく楽しげな雰囲気を感じさせない。
「この店に関して立ち入り検査に参りました。従業員の方以外は、お店から出て下さい」
「失礼ですけども、私達は何も聞いておりませんけれど」
 看護師姿の女の言葉に竜一は唇をきゅっと結び反論を受け付けないと言う態度を全身からとる。彼の背後から顔を出したミリィは一見して客の少女か何かの様にも見えただろう。
 明らかに不快そうな店員が営業スマイルを浮かべんと彼女に向き直ると同時、そろそろと客が立ち上がり竜一に従わんと歩きだす。竜一の瞳に魅せられた面々がゆっくりと歩き出したのだろう。
「手にしているのは愛する者の骸ですか? 愛する者は其処には居ませんよ。私には見えませんから」
 囁くミリィの言葉に一般人が彼女へと足を向ける。一人の看護師が背後に視線を投げかければ、もう一人、店内で愛想笑いを浮かべて居た女が奥の方へとかけ出した。『招かれざる客人』の襲来をやっと理解したのであろう。
「どこ、いくの……?」
 こてん、と首を傾げた旭は一般客の中でも異質な雰囲気を宿している。ミリィの告げた『愛する者の骸』――其処から発される幻影の姿が一気に彼女へと注意を向けたのだろう。旭の視線を受け、ゆっくりと店内へと入り込んだ狭霧の手に握られたスタンガン。抵抗を見せんとする女の手が狭霧の頬を引っ掻かんとするがそれを受けとめたのは同時に店内へと足を踏み入れた遥紀だった。
「……縋った人達、だね」
 瞳が告げる謝罪を受けながら体に走る電流で意識を失う一般人は店の出入り口付近へと――安全地帯へと運ばれて行く。大きなガラス窓のカーテンを勢いよく占めるロマネがちらり、と店内の奥へと視線を送る。
「……大昔の盗賊の真似事とは、」
 呆れとも取れる息を吐き出したロマネの心象と言えば正に荒れた墓場だ。墓を護り、掘る彼女にとって墓荒らしとも取れる行為を行うフィクサードは捨て置けない存在だ。錆薔薇シャムロックを握りしめる手に力が籠るのも致し方ないだろう。
「リ、リベリスタ!? 一体、何で……!」
「何でってそりゃ、存外に天才的頭脳を発揮してるフィクサード様がいるって言われたんでな。
 ま、こっちも任務なんだよ。加減も容赦もしねぇ。覚悟決めてもらうぜぇ!」
 す、と移動した猛の言葉に白衣の男が一歩後ずさる。彼が生み出す黒き瘴気を避けながら大業物を握りしめた魅零が標的を定めたと言わんばかりの勢いで移動を開始する。店内に存在する一般人にミリィの声に反応せずに盲目的に『救いの手』を害さんとするリベリスタを邪魔する者も存在して居たのだろう。
 魅零の瞳が、静かに揺らぐ。ぎゅ、と握りしめた刃に力が込められた。
 死んだ者は還らない。
 それは、墓守であるロマネも幾度か口にした事がある言葉だろう。
 幻影に縋る様に生きた事のある旭ならその言葉の意味を真に理解して居るだろう。
「無くなったものは取り戻せないし、時間は元に戻らない。当たり前のことなのに、ね?」
 その言葉に唇を噛む旭の頭の中で『親友』の笑顔が揺らいだ。幻の中に存在する親友に触れて癒されてきた旭にとって、痛いほどに分かる真実なのだろう。
「幻だって、分からないひとに、帰って来たって、錯覚させるのはあんまりだよ……!」
「でも、それで幸せになる人がいるなら十分『慈善事業』ではないかしら?」
 くす、と唇を歪めるフィクサードへと、竜一が宝刀露草を握りしめて滑りこむ。彼女がリベリスタ陣営に放った光等物ともせずに彼は小さく笑った。彼女の前に立っていた一般人の肩を掴み、一気に後ろへとパスを送る。その体を受けとめた狭霧は小さく頷いた。
「目的はなんだ? 死者の蘇生か、知的探究心か。……あるいは、自分の愛しい人でも蘇らせたいのか」
「今、邪魔をしている暴漢の言う事じゃないと思うけど?」
 ウェルメィルよ、と名乗った女の体すれすれに振り翳される切っ先。『慈善事業』の先に何があるのか、答えに惑う様な女に竜一は肉薄したまま問い掛ける。
「どちらにせよ、まだお前が人の命を奪っていないならば、降れば命は助けてやる。どうだ?」
「人殺し? さあ、したのかしら? でも、……そんなの、センセが許さないわよ、ねえ?」
 後ろに存在して居た宗医が放つ黒い瘴気を後ろに、看護師姿の女が剣を片手にリベリスタ陣へと攻め込まんとするのを猛は一気に近寄り堰き止めた。
「アンタの相手はこの俺だ。さて、今日も派手に暴れてやるとしますかねぇ……!」


 周囲へと支援を与えながら遥紀がミスティコアを撫でたのには理由があるだろう。
 この場所に居る一般人は皆、奇跡を信じて居る。嘆きを抱えた人間達だ。まるで聖書に書かれた文句の様ではないか。信じろ、されば救われる――喪う事の辛さが人をそこまで変貌させるのだろうか。
「……貴方達は本当に黄泉返りと、信じて居るのか」
「お客様もワタシ達も信じてる。4分の3オンス、ちっぽけなものだ。信じろ、されば」
「それで救われたら、誰だって苦労はしないよね?」
 この世全ての呪いを帯びた剣を一気に振り下ろす魅零にフィクサードが小さく呻く。
 竜一の魔眼に加えてミリィの対応は一般人を無力化させるのに十分役立っていた。怪我を負わない様にと後衛へとその体を運ぶ狭霧、そして後衛位置で意識のある一般人へとスタンガンを押し当てて対応を行う遥紀が継続的に一般人へと気を配るなか、戦場全体にミリィが送った支援は一般人無力化の対応を終えた事を物語っていたのだろう。
「全く以って趣味が悪い……。お姉様の言う通り下衆というものなのでしょうね。
 貴方達の行いは此処で止めさせて頂きましょう――さぁ、一曲(おわり)を奏でさせて頂きましょう」
 蔑むように吐き出す彼女の言葉に頷く様にロマネが気糸を繰り出していく。彼女から伸びあがる気糸が周辺に存在する残滓――彼女にとってはある意味で『お客様』と同義であろう物質達――を巻き上げた。
「わたくしめは墓掘にして墓守。……貴方方の行いを見逃すわけにはいきません」
 囁きに乗せた言葉はフィクサードの笑みを強くする。持ち前の勘を生かして周囲の確認を行うロマネの頬を掠めたのはほんのりと香る『不安定』の香りと残滓の薄く滲んだ指先。
「その幻を殺して、もう一度『大切な人』を殺すとは酷い人達だわっ!」
「これは夢よ。気味の悪い夢。感傷的になんて、ならないわ」
 吐き捨てる様に告げた狭霧がせっせと一般人の体を後方へと運んでいく。淡々と作業をこなす中で、手袋に包まれた指先が小さく震えた。
 フィクサードのあくまで『慈善事業だ』と言い張る言葉に反応し、惑う様に瞳を揺らめかせたのは旭だった。もう一度殺す、確かにそれは旭達の行いが生み出した結果なのだろう。しかし、それ以上に『死んだ者が還ってこない』事を酷い形で突きつける事になるのは彼等だろう。
 地獄の業火を振り翳し、残滓を燃やす旭が一手下がる。入れ替わる様に遥紀の放つ断罪の光が全てを包み込んだ。
 ぎゅ、と果て無き理想を握りしめたミリィが戦場を奏でる様に重ねて光りを放てば、残滓達は動きを止める。地面を踏みしめて雷撃を纏った武舞を放ちながら行く手を塞ぐ猛の前で、由比という女が剣を振るう。受けとめ、掠めた切っ先を掌で握り仕込む。
「こんな商売を思い付く位なんだから、そう言う頭を世のため人のために使おうっつー気は……」
「ないわ」
「だろ、な。――ほら、行くぜぇ! 止められるもんなら止めてみやがれぇっ!」
 猛の拳を受けながら、由比は肩を竦めて仲間へと視線を送る。デュランダルである女が頼ったのは彼等の中で唯一回復のできるウェルメィルだろう。竜一の攻撃によりふら付く足で何とか立っていたウェルメィルが周囲へと癒しを送り続けている。
「やらせねぇっ、よ!」
 しかし、竜一は容赦しないと言わんばかりの勢いで、全力を発揮し、最強の破壊力を以ってその剣を振り翳した。
「弔う事で、人は悲しみを抱えても日常へ戻る事が出来るというもの
 ――それこそ奇跡でもない限り、蘇りなどありえない。お分かりでしょう?」
「有り得ないからこそ奇跡。奇跡が其処に『有り得る』かもしれないのが神秘でしょう、お嬢さん!」
 楽しげに告げる看護師にロマネは溜め息交じりに気糸を繰り出す。女の片足に絡み付き、周囲の残滓を全て打ち払えば、どちらに分があるのかは一目瞭然であった。
「――ありもしない希望をちらつかせて利益を掠めるなど、小物に過ぎる。
 ……いいえ、それよりも墓荒らしなど以ての外です。貴方方とは相容れるはずもない」
 墓守の言葉にくつくつと咽喉を鳴らす女の剣が猛の腹へと突き刺さる。同時、彼女の体を吹き飛ばす様に、彼の拳に渾身の力が込められる。咽喉奥から息が漏れだす。揺らぐ身体に追い打ちをかける様に、冷酷なる瞳が追い掛けた。
 猛の傷を癒す様に遥紀が念じ続ける。彼の瞳は何処までも真摯に、何処までも切なげだった。
「同じ姿を取りながら問い掛けに応えぬ者、其れは貴方達の愛しき人と同一と断言出来るのか」
「私はそうだと思ってたわ。少なくとも『慈善事業』ですもの」
 一体全体何が慈善事業なのか。呆れの色を全開にした狭霧が魔力銃をゆっくりと構え、弾丸を繰り出した。散らばる弾丸を受けながら、膝を付いた看護師はちらり、と宗医へと視線を向けたのだった。


『極彩色ストリキニーネ』。毒の名前が付いた香水は宗医の掌に収まっていた。麻薬の一種か何かだろうか。この店内でやけに鼻につく香りがする。
『悪い夢』を見て居る感覚にふる、と首を振ったミリィがタクトを振るった。彼女の幼さの残る可愛らしいかんばせに似合わぬ感情が滲む瞳は殺意が湛えられている。
「魂……そのナニカ。それを見つけて何をするというのですか?」
「さあ、何だろうね」
 くつくつと笑う宗医の声を聞いて旭はふるふると首を振った。
 幻でよかった、そう思う人間だっていた。『自分』だって幻の『彼女』を見れば嬉しくなる。幻の彼女が存在して居る時こそ本当の『自分』が其処にあるのかもしれないのだから。
 魔力鉄甲に津詰めれた手に力が込められる。薙ぎ払う様に広がった炎の中で、旭は辺りに散らばる骨の欠けを見詰めて唇をかみしめた。

 ――幻でも、よかった。

「……そう、思う人たちにしてみれば、私たちこそ、敵なのかな……ごめんね」
 自分は、それでも世界を護りたいと思ったのだから。
 旭とは正反対に彼女達の想いを完全に否定した魅零の瞳に宿されたのは単純な怒りだった。長い黒髪が旭の柔らかな茶色と交差する。
「悪と言われようが、それでいいの」
 心の絶望があればある程に奇跡や希望を信じやすくなる。人が弱い事は魅零だって知っていた。
 誰だって弱い。強く生きる事が出来る人間なんて一握りなのだと黄桜魅零はその身を以って分かっていたのだろう。
「現実が嫌なら、私の知らない場所で死んでよ」
 憎悪する様に一般人へと囁かれた言葉に、フィクサードがからからと笑う。魅零の剣を受けて満身創痍である宗医はやけに余裕そうに――それでいて魅零の『正義の味方』らしくない反応に面白そうに笑ったのだ。
「……逃がさない。遠慮しないでここで全員死んでいきなさいよ!」
 吼える様に言う魅零が一歩踏み込んだ。麻薬を与えた男の趣味か、遊び半分か、それが誰かの命を踏み躙る行為なのだとしたら魅零は寛容ではいられない。
 振り翳した大業物。瞳のうちに過激な色が宿り出す。
「問答無用。全員の首、私が貰ってあげる」
 全力を込めて振り翳したそのまま――

 ころん、と一つ。瓶が転がった。

 うん、と一つ伸びをして晴れない気分を無理やりにでも好転させるように大きな溜め息を吐き出した。猛にとって死者を呼び戻す事はタブーだと理解できている常識だ。しかし、そうしてまでも合いたいという気持ちは分からない訳ではない。
「……やるせねえもんだなあ、世の中は……本当にさ」
「関係者たちにどうするかな」
 気を失って倒れている一般人達を眺めながら竜一は考え込むように手を伸ばす。
 今回の事件の記憶を改竄していく。それが彼等にとって一番いいことなのだろう。残滓との別れを夢として見せる。
 何が最善策かは分からない。それが竜一なりの『出来る事』だったのだろう。彼とて影を追い求める彼等の気持ちが分からない訳ではない。それ以上は、それ以降は――愛する人を失った後、如何するかは誰かがどうにかできる事ではないのだろうから。
「まあ、これからどう生きるかは、それぞれさ」
「……物に魂が宿る、とは何処でも言われる話ですが、眼に見えない物は『ない』のですから、ね」
 きっと、とロマネは囁いて転がっていた香水を手に取った。実在を願うのは生者として避けられないことなのだろう。
 この香水にも何らかの意志が込められていたのか。それは今になっては分からないことなのだろうが。
 ある筈もない魂や心の実在を――イレモノとして存在する自分が生きているその意義を見つけ出したいが為に信じ込んでいるのかもしれないと香水をハンカチに包んで大事に握りこんだ。
 倒れ込んだ一般人達の中で、狭霧はゆっくりと扉を開く。固めたバリケード越しに見れば閑散とした住宅街と塗りつぶした様な青色が広がって居た。
「……、逢えるなら、逢いたいわよね」
 長い髪を揺らし、空虚な眼窩に何の感情も浮かべずに背を向ける狭霧。
 彼女の小さな言葉に体を揺らした旭は一般人の手に握られた骨を指先でなぞりながら、ゆっくりと俯いた。
 白骨化したそれは、指先に固い印象しか与えない。仄かに香る『極彩色』に溜め息を漏らした。
 自分の為に、この世界を護りたかった。縋りたい人の手を無理やり剥がす事になったとしても。
「分かってる。……身勝手だよね、ごめんね」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした。
「人が死んだ時、自分はどうしたいのか」と考えられる方が非常に多い様にも感じました。
 ある意味で、答えが出ない事だなあ、とも。
 皆様其々の考えになるほど、となったりでした。

 ご参加有難うございました。
 また別のお話しでお会いできます事をお祈りして。