●直刃 ~SUGUHA~ 「恋人を助けたいんだ」 凪聖四郎の言葉は『直刃』の行動理念からすれば大きく外れている。 そもそもこの組織は凪聖四郎が『逆凪』の当主を倒し、その上で七派統一を為しえる為の革醒者軍団だ。確かに聖四郎自身の私兵ではあるが、その行動理念からすればこのイギリス戦は明らかに意味を成さない。 そも、六道紫杏自体に戦略的価値はない。キマイラ技術の確保以上に彼女を迎え入れる必要は存在せず、その技術自体もモリアーティに全て流出していると見てもいいだろう。大体において彼女自身が望んで聖四郎の袂を別ったのだ。そんな女性の元に向かったところで、拒否される可能性もある。 ましてやこの戦いは『倫敦の蜘蛛の巣』だけではなく『スコットランド・ヤード』や『アーク』まで絡んでいる。絡み合った状況を突破して勝利を得るには、静観するかあるいはどこかを潰してから動くのが一番だ。さしあたってはアークか。倫敦派&キマイラ戦で疲弊した彼らに襲撃をかければ、落とすことは容易いだろう。今後のことを考えれば、一時静観しリベリスタ組織にダメージを与えておくべきなのだ。 もう一度言おう。性急に『倫敦の蜘蛛の巣』に挑み、六道紫杏を救い出す理由はない。 「――聖四郎様」 だから、私の言うべきことはただ一つだ。 「私が敵をひきつけます。聖四郎様は急ぎ紫杏様の元に」 例え作戦が理に適わなくても、この人のために戦うのが私の道だから。 ●三つ巴の激戦 アークとスコットランド・ヤードの共同作戦―― 先の倫敦事変とその後の調査の結果、『倫敦の蜘蛛の巣』のアジトはピカデリーサーカスの地下にある可能性が高いという結論に達した。 実のところ、疑問は残る。『モリアーティ・プラン』と呼ばれるアーティファクト。『モリアーティお爺さんが欲しがっているのは、もっともっと、大きなもの』……とある『子供達』がくれた一片の情報。そして先の大戦で何体か見られた『フェーズ4』のキマイラ―― 背中を押したのはモリアーティに『キマイラ』強化の時間を与えるべきではない、という意見だ。あの犯罪王が『キマイラを手駒にしてロンドンの覇権を手に入れる』ことが最終目的であるとは思えないが、ならばなおのこと叩けるうちに叩いておこうということになった。 かくしてアークとスコットランド・ヤードは、ピカデリーサーカスに進軍する。 そしてそれを迎撃するように、キマイラと『倫敦の蜘蛛の巣』が動き出す。 「ハロー、アークの皆さん。緊急事態なのでコールするわ」 『スコットランド・ヤード』のフォーチュナから、無線で連絡が入る。ソプラノの聴いた心地よい声である。 「キマイラと『倫敦の蜘蛛の巣』がピカデリーサーカス西側に出没したわ。数はキマイラが一体。フィクサードが五人。キマイラはパワータイプのエリューションを複合したらしく、こちらのバリケードを易々突破したわ」 端末に送られる情報。突破されたバリケードと、象に似たキマイラ。転がる『スコットランド・ヤード』の者たち。巨大な象とそれにつけられた様々な重機が建物を破壊していく。防壁が壊され、このままでは本陣まで突撃されてしまうだろう。 そして―― 「そのキマイラを止めるように日本人の革醒者が乱入してきたんだけど……これ、アークの人間じゃないわよね? こちらのほうにも攻撃を仕掛けてくるので、手も出せないんだけど」 そこに映るのは彼岸花の着物を着た女性と、それに従う刀のエリューションだ。彼女自身も日本刀を手に戦うが、動きからダークナイトの技だと判る。善戦はしているが、物量とキマイラの力により少しずつ押されてきている。 「何か情報があったら教えて頂戴。後できるならでいいんで、現場に向かってもらえないかしら。このままだとキマイラに西側を突破されてしまうの。 増援は送るけど多くは回せないわ。できるだけ敵に損害を与えて欲しいの。あのキマイラだけは特に」 端末からリアルタイムで流れる映像。その映像の中、彼岸花の着物を着た女性は声高らかに叫んでいた。 『つまらぬつまらぬ! これが六道直伝の複合技術の産物だと。海を渡って劣化したか? 私の名前は直刃の紅香! 音に聞こえし犯罪王よ! 名刀『緋一文』の切れ味をとくと見よ!』 戦場で名乗りを上げる者は、概ね三種類。礼儀正しいものか、己の強さに酔った馬鹿か、あるいは敵をひきつけるためか。 この女性は、日本の神秘事件で時折聞かれる言葉を口にしていた。 スグハ。 直刃と呼ばれる凪聖四郎の私兵。聖四郎はモリアーティの元に下った六道紫杏の恋人だ。これは面倒な第三勢力が生まれたものだ。 情報を伝えて、本隊に合流するもよし。西側に向かうもよし。別の戦場に向かうのもいいだろう。 あなたの足は―― ●彼岸花、一輪 逃げるべきだ。戦闘経験から直刃のフィクサードはそう結論付ける。敗因は単純だ。火力不足。此方が三倍動いたとしても追いつかないほどのパワー。 それでも切っ先は敵に向き、瞳には戦意が宿る。 あの人の為に。それを思うだけで胸が熱くなり、心が高揚する。 (恋は盲目というが、本当に盲目であったなら良かったのに) この思いはきっと叶わない。だけどそれは仕方ないことだ。 私があの人を好きになり、あの人は別の人を好きになった。ただそれだけ。 私の胸の熱はそんなことでは変わらない。この胸の痛みも、辛さも、涙も。全てこの大事な思いからくること。 だから私は逃げない。止まらない。刀を納めない。 愚かだとののしられても。無駄だとなじられても。失笑されようとも。 ……私の恋が実らなくても。 「私は、あの人に任せられた。その信頼が心(ココ)にある!」 その事実がある限り、私は刀を納めない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月09日(日)22:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 回転するように剣を振るい、『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)が戦場に乱入する。剣の軌跡のままに氷霧が発生し、冷たく相手を封じていく。打ち合う刃と刃の音が、通りに響く。 リンシードはそのまま身を掲げて走り、倫敦派のフィクサードに迫った。落ちている瓦礫をものともせずに相手の懐に入り、自分の身長より長い剣を振るう。クロスイージスの手甲がその剣を受け止める。鉄壁の手甲を穿つ、速度の一閃。それにフィクサードは眉をひそめた。 リンシードの剣が速の剣なら『家族想いの破壊者』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は剛の刀。鬼神を自らの体に降ろし、全身の筋肉に力を篭める。常に力を篭めるのではない。必要最低限のタイミングで、爆発的に力を解放する。 まず踏み込み。そして大地を踏みしめる足。その力を受け流す膝。そして体幹を支える腰。腹筋背筋を経由し、肩の筋肉に力を篭める。大上段に振り上げた刀を、振り下ろす瞬間に刀を力強く握り締め、全ての力を叩き込む。 同じく戦場に割って入った『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は、混乱の隙を縫うように走り、キマイラの体躯を足場にする。そのまま象の背中まで登り、上から戦場を見下ろした。『直刃』のフィクサードとも目が合う。 夏栖斗は敢えて『直刃』を巻き込まないように、象の上でトンファーを振るった。一直線に跳ぶ不可視の衝撃。台座としている象自身も含めて、多くの敵対組織を傷つける。今狙うは倫敦派のみ。 『黒き風車と共に在りし告死天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)はちらりと視線を『直刃』のほうに向ける。同じダークナイトとして興味があり、また自分はまだ知らない理由で戦いに挑むものとしても興味がある。だが今は。 異世界の戦士より譲り受けた黒の大剣を手にする。体内に渦巻く漆黒のオーラ。それがフランシスカの中で渦巻き、力を与える。大剣を横なぎに払い、体内の暗黒を飛ばす。黒の波動が地を走る。その衝撃を受けて、よろめくフィクサード。 矛を回転させながら『泥棒』阿久津 甚内(BNE003567)が乱戦状態の中にはいる。長柄の武器を回転させながら、ゆらゆらと戦場を歩く。隙がありそうで隙が無い。どこから攻めても矛が飛んできそうな、そんな構え、 勿論『倫敦の蜘蛛の巣』も相応に歴戦の兵。隙がないなら生み出すまで、と甚内の攻撃圏内に足を踏み入りえた。とっさに矛をそちらに突き出す甚内。刃金の打ち合う音が響き、倫敦派の頬から赤い血が流れる。甚内が浮かべた笑みは、よく避けたという感心か。 突然の乱入に驚く『スコットランド・ヤード』達に『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が下がるように指示を出す。エルヴィンの言葉に頷き、ヤードの二人は倒れている仲間を抱えて一時離脱する。 エルヴィンは『直刃』の行動に注意しながら、仲間の回復に走る。時に仲間の盾に。時に仲間を癒す為に。エルヴィンの戦いは誰かを生かすための戦い。そのために体をはり、そのために自らを鍛え上げる。 『二五式・真改』を手に『足らずの』晦 烏(BNE002858)が戦場を見回す。戦場全体を俯瞰するようなイメージを頭に浮かべる。誰がどこにいて、どう動くか。フォーチュナのような予知ではなく、経験からくる予測。 タバコを吸うようにロンドンの空気を吸い込み、狙いを定める。使い慣れた銃を構える速度は、まさに刹那。標準をあわせ、引き金を引いた。象のキマイラがぐらりと揺らぐ。避ける間すら与えぬ射撃が、キマイラの皮膚を貫く。 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)の手甲が稲妻を纏う。この手甲は『勇気』と『仲間』を示すもの。それは臆病な彼が戦場に立つ為の理由。ピカデリーサーカスで待つ仲間達を守るため、紫電が走る。 脇を締め、両手を胸を守る盾のようにして相手との間合をつめる。その構えは盾であり、引き絞る弓のように力を篭められている。拳を握り、腕を捻り、その力を解放するように腕を突き出す。その速度はまさに落雷。雲燿と呼ばれる速度の領域に達した拳が、フィクサードを穿つ。 『倫敦の蜘蛛の巣』のフィクサードは突然のアークの乱入に驚き、『直刃』のフィクサードは刀を手にして互いを見合う。 三竦み。 その状態に場は一瞬硬直する。先に動いたものが、集中砲火を受ける。そんな緊張が走った。誰が動く。どう動く。視線が交錯し、様々な思考が走る。 実際には、三秒も止まっていないだろう逡巡。 最初に動きを見せたのは、アークのほうだった。銃を構えたまま、烏が口を開く。 「直刃の神埼君。おじさんこれから聖四郎君の加勢に行くんでね、わるいが適当に手伝ってくれるか」 ● 烏の言葉にリベリスタのほうに意識を向ける『直刃』の剣士、神埼。抜かれた刀をそのままに、リベリスタの言葉を吟味するように待つ。 「嘘ついても仕方ねぇから手短に言うぞ。俺達は聖四郎をどうこうしようってつもりはない。 共闘とか休戦しようとは言う気はない。……たださ、その上でちょっとだけ乗せられてみる気はないか?」 「僕達の目的はモリアーティを倒す事だ。それを邪魔するのは聖四郎の為にもならないよね」 沈黙に滑り込むように、エルヴィンと悠里が言葉を続ける。凪聖四郎の目的は六道紫杏の確保だ。それを行う為にはモリアーティが邪魔であることは確かだ。 「聖四郎の為の足止め手伝うよ。聖四郎の野望を叶えるのに、僕らにかまけててここで倒れちゃ意味ないよ。今は利用しなよ、僕等を」 キマイラの上から夏栖斗が言葉を重ねる。 「そちらの言い分は理解した。なるほどここで共闘することに意味はある。聖四郎様の為に刀を納めよう。 ――とでも言って欲しかったか、箱舟!」 神埼の刀が一閃する。神埼から遥か離れた空間が断裂し、猛毒を含んだ刃筋がキマイラと夏栖斗、そして周りにいた倫敦派のフィクサードを巻き込み切り裂いた。 「夏栖斗!」 義理の息子の名を叫ぶ虎鐵。『斬魔・獅子護兼久』を手に、神埼を睨む。任務のことさえなければ、斬りかかっていただろう形相。 「散々聖四郎様の邪魔をしてきたアークがこの状況で『加勢』とはな。たとえ効率がよくとも業腹だ。 キマイラの足止めが必要なのは、リベリスタ方もだろう。此方に頭を下げろとはいわぬが、『聖四郎様の為』を掲げて私を利用しようとするとはな」 リベリスタたちは、若干怒りの混じった神埼の言葉に息を詰まらせる。 今まで敵対してきたものが急に共闘しようと語りかければ、疑念を持つのが当然だ。神埼からすればアークは『聖四郎様の邪魔をした』組織だ。その恨みは深い。共闘以外の選択肢が無いのならともかく、三竦み状態でその火力が此方に向かないなら神埼は手を組むつもりはない。 敵であるものを上手く使うなら、情ではなく利を前面に押すべきだった。例えば、『すぐに援軍が来る』等の神埼にとって不利になる情報を出し、そこから押していけば。 「舐めるなリベリスタ。 私は聖四郎様にこの場を任された。その信頼を損得だけで裏切れるものか」 そして凪聖四郎は彼女にとっての戦う理由だ。それを盾に交渉をすれば、よほど上手くやらない限り怒りを買う。誰しも『大事な人』を交渉材料にされれば気分はしない。この場での交渉は絶たれたと見てもいいだろう。 「聖四郎の為ー……とか言ってる 自分こそが大好きなんだよねー。はは!」 甚内が啖呵を斬る神埼をみて笑みを浮かべる。神埼自身も自覚があるのか、反論は無かった。 「ま、私としては『蜘蛛』の相手をするよりは面白そうでいいわ。 『緋一文』、同じダークナイト同士遊ぼうか」 フランシスカが神埼の前に立ちふさがる。自分にはない強さ。それを食らうために。 「本当……恋心とフィクサードって、思い通りになりませんね」 リンシードが嘆息し、神埼を見る。赤い情熱的な彼岸花。それは陰を持つ自分とは真逆だ。だがその心に掲げるのは、大事な人を助けたいという『恋心』。 ハードパンチャーの鳴声が戦場に響いた。三勢力の攻防は、激化していく。 ● リベリスタが乱入するまで、神埼と刀のEゴーレムがハードパンチャーとフィクサード三人をブロックしている構図だった。そこから少し後ろに『蜘蛛』の射手がいる。 リベリスタの乱入で大きく変化する。夏栖斗がハードパンチャーの上に乗り、虎鐵、リンシード、悠里、甚内が乱戦に加われば、神埼が後方に下がる。下がった後方を追うようにフランシスカが追撃し、エルヴィンと烏が後方で回復と射撃に当たる。 リベリスタはまず倫敦派のクロスイージスを。倫敦派は最大火力を持つ虎鐵を、そして神埼は―― 「良かろう。相手をしてやる。 あの象とお前達をまとめて葬るのが上策だが、こちらを慮ってくれた礼だ」 フランシスカに殺気を向ける。Eゴーレムは変わらずキマイラに攻撃を加えさせていた。 「さぁ、恋する戦士の強さ……見せて頂戴! わたしの知らない強さを!」 フランシスカが大上段に大鉈を振り下ろす。闇の波動を乗せた巨大な刃の振り下ろし。それは断頭台にも似た告死の一撃。回避を捨てた攻勢に、神埼の着物が赤く染まる。告死天使の一撃が『緋一門』の再生能力を奪った。 神埼は日本刀を構え、横に振るう。無造作な一撃に見えて、広範囲を裂く緋の剣戟。刃からフランシスカの体内に毒が入る。見せ付けるように黒の箱を展開する神埼。体を苛む要素を刃に変える呪の縛鎖。 「危ねぇ!」 エルヴィンがとっさに光を放ち、フランシスカの毒を払うと同時に味方の回復を行う。戦場が複雑化しており、誰がどれだけのダメージを受けているかを把握するだけでも手一杯だ。付与を行う余裕が無い。 「やれやれ、恋する女性は強いな……上手いところ落とし所を見つけたかったんだが」 「全くだ。聖四郎君からアークに協力要請が来てる……といっても信じてくれそうに無いな」 烏がため息をつくように肩をすくめる。協力を証明するなら、聖四郎本人を連れてくるしかない。それが無理な状況なのだ。脱力した状態のまま、銃を握る。そのままキマイラに銃口を向けた。無駄な力の無い、自然な動き。それが鉄壁のフィクサードを地に伏す。 「蜘蛛さんこちら……です……」 虎鐵に倫敦派の攻撃が集中したのを見て、リンシードが彼らの気を引く。言葉に神秘の力を乗せて、敵の殺気を引き受けるリンシード。敵の攻撃を受け、避け、味方を守る。だが、その全てを避けきれるわけではない。無慈悲な暴力を受けて、少女は運命を燃やす。 「リンシードちゃん!」 殴られた衝撃で揺れたリンシードを見て、悠里が叫ぶ。何とか復活したリンシードを見て、悠里は拳を握った。この拳は仲間を守るための拳。稲妻が手甲に宿る。右にいる相手を拳で打ち据え、空を飛ぶ刀を左手で払い落とす。そのまま目の前にいる『蜘蛛』の足を払った。 「乱戦に従ってー、乱戦を助長しますっかねー!」 甚内が『ヤード』のリベリスタに指示を出しながら矛を振るう。氷霧が矛の軌跡に沿って生まれ、低温が敵の動きを止める。いい加減な口調で喋りながら、その動きは堅実。積み重ねた努力が現れたような武技で倫敦派を攻める甚内。 「全く……厄介な事をしてくれたでござるな?」 とあるアザーバイドの欠片を指でなぞりながら、虎鐵が刀を構える。戦場の空気。血の匂い。その雰囲気に笑みを浮かべ、虎鐵は一歩踏み出した。その一撃はまさに破壊の権化。子を思う親ゆえに、戦場で虎鐵は修羅と化す。 「落ち……ろぉ!」 夏栖斗がキマイラの上から倫敦派を攻める。トンファーを振るい衝撃波を飛ばす。射手が倒れ、地に伏した。上にいる夏栖斗を邪魔に思ったのか、シャベルが夏栖斗の後方から迫った。その一撃に飛ばされて地面に落とされる。 キマイラが吼える。音波が耳朶を打ち、倫敦派以外の足を止める。神埼との戦いで疲弊していたフランシスカが、運命を削ることになった。 間隙をついて緋が走る。まさに『緋』の一文でしか語れぬ鮮やかな赤の軌跡。神埼の一閃が離れた場所にいるキマイラを傷つけた。 「惜しいなぁ。共闘できれば楽だったのに」 夏栖斗が神埼に向かって語りかける。 「聖四郎様の下につくなら、刀を預けてもいいぞ」 「冗談! あいつの野望はぶっ潰すから! そこはよろしく!」 夏栖斗と神埼は同時に笑みを浮かべる。朗らかな笑みと、静かな笑み。 互いの立場を示し、戦士達は戦場を走る。 ● 「さて、いよいよこいつをぶっ倒すでござる」 ある程度の時間が経過した後、リベリスタはその目標をキマイラにシフトする。眼前に迫る巨大な生物。それに圧倒することなく、虎鐵は刀を構える。 「おぬしが如何にタフネスに優れていようが……削りきってやるでござる!」 その一刀が象の皮膚を絶ち、痛みに瞳の色が変わるキマイラ。 「む。もう攻撃色が出たか……違うな、これは」 キマイラの様子を伺いながら射撃を行っていた烏が、予知できなかったキマイラの特性に気づく。 「どうやら段階的に攻撃力が増すらしい」 「第一形態、第二形態って感じかなー」 甚内の言葉に頷く烏。面倒な特性だと思いながら、弾丸の雨を降らせる。共闘が成らなければ、『直刃』のEゴーレムを巻き込むことも厭わない。 「んじゃまー、いきますかー」 甚内が矛を振るい、キマイラの足を薙ぐ。氷が足に張り付いて、その動きを止めた。パワーはあるが、動きは鈍重のようだ。 「とはいえ硬いんだよねー、こいつ」 「なら火力重視でいくよ!」 悠里が覇界闘士独特の歩法でキマイラを攻める。自分に有利で、相手に不利な間合。稲妻の拳がキマイラの皮膚を焦がし、その残滓がハードパンチャーの体力を奪っていく。 「まとめて……落し、ます」 リンシードが『直刃』のEゴーレムとキマイラをまとめて攻撃する。逆袈裟に剣を振るって宙に浮く刀を払い、そのまま大上段に振り下ろしてもう一本を。そのまま一歩踏み込んで、横に薙いでキマイラを裂いた。氷が砕けるようにEゴーレムが砕け散る。 キマイラが一吼えし、鉄球を振るう。まだ倒れていない『倫敦の蜘蛛の巣』もそれぞれの破界器を手に猛威を振るう。 「まだ、負けぬでござるよ!」 「問題、ありません……あとは、任せ……」 その嵐に虎鐵が運命を削り、リンシードが力尽きる。 「やばいか、コイツは!」 回復を行っていたエルヴィンが戦場に躍り出る。倫敦派はリンシードにトドメを刺しかねない。そうでなくともキマイラの巨体に踏み潰される可能性もある。エルヴィンはリンシードを抱えたまま、味方の回復を施す。 「まーだまだだよー」 「こんなところで倒れてられない!」 フィクサードの攻撃で甚内と悠里が、運命を燃やすほどのダメージを受ける。相手は一撃必殺のデュランダル。掠っただけでもダメージは大きい。 「さすがにやるわね……結構楽しめた……かな」 神埼を相手していたフランシスカが、地に伏す。だがフランシスカの迷いない攻撃は、神崎の体力を大きく削っていた。人に恋する気持ちは分からないけど、恋することで強くなる人と戦えたのは満足だ。そんな顔をして、フランシスカは意識を失った。 (この娘を人質をとれば、アークの動きは牽制できる) 神埼は倒れるフランシスカを見ながら、そんなことを考える。 「うおおおおお!」 夏栖斗のトンファーが叩き込まれ、悠里の手甲が幾度と無く叩き込まれる。烏の射撃が巨体を揺らし、甚内の矛が突き刺さる。虎鐵の剛剣が唸り、キマイラは痛みでさらに攻撃色が増す。 だが、足りない。エネルギーの切れた二人のフィクサードがキマイラを庇い始めたからだ。 リベリスタの攻撃は庇った『蜘蛛』の動きを止め、行動を封じる。だがその二撃分がリベリスタの殲滅力を抑えていた。 その不足分を、 「一度だけだ」 緋の剣舞が補った。苦痛を内包する箱を描く剣筋。 「どういうつもりだ?」 「さてな。乗せられてやるだけだ」 疑念の声を受け流すように応える神埼。その脳裏に浮かぶのは、エルヴィンの言葉。 『共闘とか休戦しようとは言う気はない。……たださ、その上でちょっとだけ乗せられてみる気はないか?』 箱舟と直刃。その思想から共闘や休戦はありえない。 だが乗せられてやるのも悪くない。その言葉を受け入れる程度に、フランシスカとの攻防は血が滾ったのだ。ただ戦いを求める真っ直ぐな太刀筋に。 (正義、組織、恋心……それらに囚われない純粋な剣。なるほど私には持ち得ない強さだ) 「さんきゅ!」 その気まぐれに感謝しながら、夏栖斗がトンファーをキマイラに押し当てる。大地を踏みしめ、衝撃を内臓に直接伝える武技。一度停止し、引き絞った矢を放つように全身の力を拳に伝達させる。 音は無かった。 無駄な音が無く、衝撃がキマイラに伝わる。巨体がぐらりと揺れて地面に倒れた。 ● 『スコットランド・ヤード』の援軍は、それから数十秒も経たずに到着する。 『蜘蛛』と神埼は、ここが潮時とばかりに退却していった。 「本当はここで倒しておくべきなんだけど……」 悠里が去っていく神埼を見ながら口を開く。怪我人も多く、それが無理なのはわかっていた。 「行こう。まだ戦いは終わっていないんだ」 リベリスタの目的は、モリアーティの打破だ。今は倫敦派を追い返したに過ぎない。 戦いはまだ、終わらない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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