●主観的善悪論に基づく執行義務 男には、信念があった。確固たる信念が。悪は許さぬという、絶対の信念が。 「……わ……わ、わた、私、が…………私が、何、したって……言うんです、か……っ!?」 親指で撃鉄を起こす。ゆっくりと。かちり、と小さな金属音と共にシリンダーが回り、女は鋭く息を呑む。視線は、突きつけられた拳銃の先の暗い銃口と、それ以上に暗く落ち窪んだ男の目との間を、せわしなく行き来する。 深夜。ばたばたと、激しく、叩きつけるように、雨が降っている。 短いスカートに派手な服装の若い女は、明かりもまばらな裏路地、濡れたアスファルトの地面に尻を落とし、人の目はこんなにも大きく開くのかと思えるほどに両の瞳を見開き、ただ、ただ、子犬のように震えている。 雫が、目深にかぶった男の帽子の上を跳ね、流れ、つや光する黒いつばから落ちる幾筋もの滝となって、地面を叩く。 男には、信念があった。確固たる信念が。 些細な悪すら見逃してはならぬという、絶対の信念が。 女はふいに、気づく。暗がりの中、降りしきる雨の弾けた水滴が、奇妙な影を形作っていることを。 男の背後から歩み出た、三体の影。熱い吐息を放ちながらあえぐ、犬たち。 いや。犬……のように見える、何か。違うもの。自分の見知った動物とはどこかが、何かが異なる、それら。 「…………あ……い、や……やだ…………やめ、いや、殺さな」 脈絡も無く。予兆もなく。表情のひとつはおろか、ぴくりと身じろぎすらせずに、男は、引き金を引いた。轟く遠雷に混じり、銃声が、周囲の無機質な壁へと溶けていく。 微塵の感傷も見せず、男があごをついとしゃくると、控えていた三体の異形の影が、弾かれたように、動かなくなった女の肉付きのいい肢体に殺到する。躊躇も無く噛み付き、引き千切り、咀嚼し、飲み込む。まだ温かい血潮がひと時、彼らの黒い体躯を覆ったが、それをも、雨粒が即座に洗い流していく。 男は拳銃を腰のホルスターに収め、帽子のつばを指先でついとつまんで深くかぶりなおすと、もはや目の前の死体には興味も無くしたか、くるりときびすを返す。三体の影もまた、ありついた食事からあっさりと口を離し、主人の背後に付き従って歩き出す。 男の、深い紺色の制服や制帽は余さず濡れそぼり、中に着たシャツや下着にまでも雨粒はぐっしょりと染み込んでいたが、男はそんなことも気にならず、その胸には、正しき善を行った充足感だけが満たされていた。 夜は深まり、雨は激しさを増していくが、男が歩みを緩めることはない。 男には信念があったし、彼が忌み嫌うところの唾棄すべき悪は、そこらじゅうにひしめいているのだ。 ●客観的立場における対処行動 「……柳数敏。38歳。現場近くの派出所に勤務する警察官」 一通りの映像を確認した後に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は切り出した。 「経緯は分からないし、彼がどういう基準で相手を選んでいるかも分からない。ともかく、いつからか、彼はノーフェイスになった」 治安を守る、町のお巡りさん。在りし頃、彼は、住人たちに慕われていたろうか。笑顔を振りまきながら、迷い人に道を教え、精力的にパトロールし、地域で起こる小さな犯罪に目を光らせていたのだろうか。 映像の中の彼、その青白い肌は生気を感じさせず、頑なに結ばれた唇からは、一言の言葉すら聞き取れることは無い。 「女性は、ただの通りすがり。彼女はただ、その場にいた。それだけ」 女は眉間を撃ち抜かれていたが、そんなことがどうでも良くなるほどに、彼女はひどく損壊し、雨粒に洗われるままに、じんわりと赤い水溜りの中に沈んでいる。 男はそれを、感情と光の見えない瞳で見つめている。 誰しも、大なり小なり、何かしら罪を犯した経験や記憶はあるものだ。男の信じたはずの正義は、そんな誰もが持つ小さな過ちすらも許さないほどに、歪に育ってしまったのだろうか。 それとも、単純に、彼は狂ってしまったのだろうか。 凶行に及ぶ、正義の執行者たる警察官。少なくとも、目の前の映像からは、その心中を窺い知ることはできない。 「放っておけば、すぐにでもこの予知は現実のものになる。あまり、時間は多くないの」 彼を、止めて。 そう言って、イヴは、リベリスタ達へ小さな頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:墨谷幽 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月29日(水)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●乱入者たち 雨が降っていた。嵐というほどに風はなく、さりとて傘を差さねば肌に痛いほどの、激しい雨が。 規則正しく一定のリズムを刻む雨音に混じり、微かな、かちり、という金属音が彼女の耳を打つ。弾かれたように、びくり、と身を震わせる。 「…………あ……い、や……やだ…………やめ、いや、殺さな」 突きつけられた銃口、その暗く穿たれた穴、周囲の闇よりも深い、深淵のように思えるその穴へと吸い込まれる視線、彼女がいっぱいに目を見開き、そして、その瞬間が訪れる……。 そう、思われた時。 「こらーっ、なにやってるの!」 少年のような、少女のような。場にそぐわない幼い声が、張り詰めた場の均衡を崩した。 一拍の沈黙の後。からん、からから。と、放物線を描いて飛んできた空き缶がアスファルトへと落ち、甲高い音をかき鳴らす。 「……どんな小さな悪も許さない、かあ。だったら、ほら。もっと悪ーい人が、他にいるんじゃない?」 暗闇から現れたのは、小柄な人影。『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)は、手にした巨大な三日月斧……華奢なシルエットに似つかわしくないその刃を、ことさら男に見せ付けるように振るってみせる。 男……警察官の制服を着ていながら、もはや警察官でも、人ですらない、そいつ。柳数敏は、どこかつまらなさそうな様子で、真咲へと視線を巡らせる。 「そうだ。そんな人より、わたしを。ひとごろしを相手にすればいい」 凛とした声。宿した眼光がきらと白く尾を引き、柳を鋭く見据える。 「正義なんて、ややこしくてむずかしい言葉は使わないで欲しいね。気に入らないから殺す、そうでしょう? だったらそう言えばいい ……わたしみたいな、ごろつきにも分かるように」 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は、鋭利な刃物のごとくに、柳へ言葉を投げかける。 ぴくり、と、柳の眉尻が動いた……ように見えた。彼の中に微かに残る基準、優先順位が繰り上がったのか、震える女からゆっくりと銃口を外し、こちらへと向き直る。 柳の背後から、三匹の犬、異形の骨格を持つE・ビーストたちが走り出て唸り、歯を剥き出す。 雨が、激しさを増していく。 ●救出 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)とユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)は、柳の殺意の矛先が、巻き込まれた哀れな女性から離れたのを確認すると、ひとつ頷きあい、駆け出した。 踏み込んだリセリアの振るう剣、きらめく細身の刃が、柳の手にしたリボルバーの銃身を弾く。金属同士がぶつかり合う甲高い音が響き、リセリアは強引に、柳と三匹の犬、そしてアスファルトに尻をついたまま怯える女性の間へと飛び込み、身体を差し込む。 「……させない。その銃は、そんな事の為に使われるべき物では無い筈です」 油断無く剣を構えつつ、柳を見据える。ほのかな電灯の光に照らし出されたその姿、雨の滴る彼の顔に、表情の変化は見出せない。 リセリアの横から、翼を持った影が飛び出す。 「自分の信じた正義をまっしぐら~。カッコいい生き方ですけど~」 どこか間延びした口調とは裏腹に、ユーフォリアが両手に携えるチャクラムの二振りは鋭い。弧を描くような軌跡が、柳の制服の胸を十字に切り裂く。 「一歩間違えば、大迷惑。ですよ~?」 言って、ユーフォリアはちらと屈みこんだ女性に視線を向け、ぱちり、と片目をつぶってみせる。 「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう……貴方の、かつての想いを守る為に」 前線からは一歩引いた位置で、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は、装着した暗視ゴーグルを通して戦況を見守りつつ、意識を集中し、結界を構築する。不幸な一般人が紛れ込んでくる可能性は、これで排除できるだろう。 「信念を持つと言うことは、悪くない事でしょう……それが有るからこそ、私達もまた、誰かの為に戦えるのだから」 けれど。歪み、行き過ぎた信念が、時として自身や周囲の誰かを傷つけてしまう事もまた、事実。ミリィそう心の中で唱え、歪みきってしまった正義の執行者を見つめる。 と、 「! 涼子さん!」 ミリィの叫びをかき消すように、二匹の異形の犬が唾液と共におぞましい咆哮を放つと、その内の一匹が猛然と涼子へ飛び掛かった。不揃いの牙が、涼子の腕にがっしりと食い込む。 (っち、毒か……!) 涼子が腕を振るって引き剥がすと、地面を滑りつつ体勢を立て直した犬の傍ら、もう一匹がリセリアへ向かって跳躍する。が、三本の爪は、身をかわしたリセリアの身体を捉えることなく空を切る。 二匹の犬の攻撃によって開いた、人垣の穴。一瞬の隙を突き、三匹目の犬が、そこをくぐりぬける。目の前には、成す術も無くがちがちと歯の根を鳴らすのみの、女性。 犬が、唾液にまみれた牙を、思わず目を閉じた彼女の喉に食い込ませる……。 「まったくよォ……狙うべき相手が違うんじゃねェか?」 牙は、届かなかった。『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)の突き出した、刀。頑強な鞘に収められたそれが、大きく開かれた犬の顎に突き込まれ、阻んでいた。 そのまま刀を振り回し、周囲を囲むビルの壁へ犬を放り投げて叩きつけると、銀次は吼える。 「テメェが殺すべき悪は、此処に居るぜ。さァ、俺を殺してみなァ!」 凄みのあるその銀次の一喝には、犬たちを少しばかり怯ませただけでなく、かばわれた女性までもが息を呑み込み、びくりと身を震わせたが。 「……大丈夫? ちょっとごめんね?」 「っ? え、はい……?」 女性の側に滑り込んだ『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は、安心させるようににっこりと微笑みながら、よっ、と掛け声をかけ、女性を抱き上げる。 「え、あ、あの……?」 戸惑う女性をよそに、垂直に突き立ったビルの壁に足をかける。靴底がぴったりと壁へ吸着し、夏栖斗は女性を抱えたまま、一直線にビルの壁を駆け上がっていく。 夏栖斗らが、頭上へ上がったことで通った射線。柳の視線が、女性を追う。がちり。拳銃の撃鉄を起こすと、ゆらりとその銃口を、遠ざかっていく夏栖斗の背中へと向ける。 「!」 乾いた音が響く。雨音すら切り裂く銃声。が、既に壁を登りきってしまったか、夏栖斗の姿はもう見えなかった。 「……それ以上は、やらせん!」 重厚な甲冑を纏った、その男。『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)の脚甲が、ずしりと地を踏みしめる。同時に、全身から湧き上がる闇が、とぐろを巻くように彼を包み込んでいく。 「さあ、こっちを見ろ! 貴様の正義を、見せてみろッ!」 ずらり、と大剣を抜き放つ剛毅に、柳は振り返る。虚ろなその顔は、今や、どことなく忌々しげに歪んでいるように見えた。 ビルの壁を登りきり、屋上で女性を下ろした夏栖斗の肩口には、銃弾がかすめた跡の生々しい傷が開いている。 「いきなりでごめんね。怪我はない?」 それでいて、夏栖斗は女性を安心させようと、満面の笑みを浮かべてみせる。 「さ、ここならもう大丈夫。気をつけて帰ってね。はい、傘」 いつのまにやら拾っていたらしい、彼女のものらしきピンク色の折りたたみ傘を手渡す。 「……あ、あ、あの……ありがとう、ございました……っ」 傘と夏栖斗の顔をおろおろとひとしきり見比べてから、お礼もそこそこに彼女は駆け出し、慌てた様子で屋上の扉を開くと、さっさとその中へ消えていった。 彼女の背中を満足そうに見送ってから、彼は一息つき、屋上の縁へ足をかけ、眼下を覗き込む。 ざあざあと、ひっきりなしに耳朶を打つ雨音に混じり、甲高い金属音や、獣の咆哮、衝撃音などが耳に届く。 「さて、と」 暗闇の中へ、彼は躊躇なく身を躍らせる。 ●信念の亡失 「ここからが~、私の得意分野です~」 壁を蹴り、宙を舞い。三次元的な軌道を描き、水飛沫と共に、戦場を縦横に駆ける。放たれたユーフォリアのチャクラムが、一匹の犬の腹を深く切り裂く。 護衛対象の確保が済んだ時点で、リベリスタたちは各々が動きを切り替え、より攻撃的に柳を追い込んでいく。 鋭い呼気と共に繰り出された涼子の拳が、飛び掛かってきた犬の顔面を真正面から捉え、吹き飛ばす。別の一匹が、仲間の復讐とばかりに涼子目掛けて跳躍するが、涼子はするりと身をかわす。 一匹の犬が、ミリィを標的と定め、猛然と突進を開始する。 「あはは、おイタはダメだよ?」 どこか楽しそうに笑みを浮かべつつ、真咲は斧で犬を遮ると、 「ボクらみたいに運命に愛されていれば、リベリスタとして仲間になれたかもしれないのに。こうなっちゃったら、残念だけど、化物として殺しちゃうしかないね?」 だから。アナタの命、イタダキマス。 反動を殺さず壁を蹴り、真咲は斧を反転させて大きく振り抜き、柳の腕を深く切り裂く。制服の袖もろともに肉が抉られ、鮮血が散ったが、雨がそれを洗い落としていく。 続けて、リセリアが柳の退路を断つように回り込み、雫を散らしながら踏み込むと、無数の突きを繰り出す……が。雨で足を取られたか、踏み込みが浅く、柳は身を引いてそれを避ける。 そこへ。 「……申し訳ありませんが、貴方の信念を見過ごす事は出来ません」 翻る指揮棒。リセリアの作り出した隙。柳を、ミリィの放つ、透明な殺意の視線が、鋭く射抜いた。柳は、ぐらり、とよろめく。 主をかばおうとしたか、犬の一匹が、リセリアを襲う。難なく回避する……が、リセリアは、はっと背後の殺意に気づく。 「っ、しまっ……」 体勢を立て直した柳。色の見えない瞳が、無情にこちらを見下ろしている。振りかぶられた警棒が、躊躇無くリセリアの脳天へと振り下ろされる。 が。 「やらせないっ」 横合いに吹き飛ばされたのは、柳だった。上空から強襲した夏栖斗の連撃が、柳の身体に吸い込まれ、弾き飛ばしたのだ。 「ふう。おまたせ! 戦場はあったまった?」 飛沫を巻き上げながら着地し、濡れた髪をかきあげた夏栖斗に、銀次が笑う。 「おう、バッチリだぜ! さあて……」 にやり、と唇の端をつり上げ、銀次は刀をぞろりと鞘から抜き放ち、 「剛毅よ、そろそろカタァつけようや!」 「いいだろう、ゆくぞ!」 傍らで、剛毅が大剣を振り上げ、水平に構える。 「警官と斬った張ったっつーのはなかなかねェからよ、これはこれで悪かねェ……けどよ。そろそろ仕舞いにするとしようや……!」 一列に並び、柳を守るように牙を剥き出す犬たちへ。銀次の振るう刃の帯びるオーラが形作る、八ツ首の大蛇のごとき暴威が襲い掛かる。 薙ぎ払われ、犬たちは残らず壁へと叩きつけられる。そのうちの一匹が、よろよろと、方向も定まらないままに数歩足を進めたところで、力尽きたか、霧散するように姿を消す。 「俺は俺の正義を貫くのみ、自身を見失った正義なんぞに負けてやるものか。さあ、俺が、本当の正義を執行しようではないかッ!」 剛毅の豪腕によって水平に振り抜かれた大剣、そこから放たれた漆黒の波動が、残った二匹の犬と、柳をもろともに激しく打ち据える。 更に一匹の犬が、弾け飛んだ先の空で、静かに霧消した。 柳は。 あちこちに傷が開き、止めどなく赤い流れが全身を伝い。満身創痍、と言っていい様相を呈してはいた。 それでも。 「……そうだな。まったく、気に食わないものばかりだ。それはわたしも、そう思う。だが」 なお立ち上がり、拳銃を仲間へ向ける柳に、涼子は静かに言い。 「アンタの『それ』は、もっと気に食わないな」 涼子の掌に握りこまれた、中折れ式の単発銃。傷だらけの鉄塊が翻り、暴れ狂うまま、何度も目の前の敵を打ち据える。 暴虐の乱打に巻き込まれた犬の最後の一匹が、一声、悲しげに遠く鳴いてから、消えた。 両足を踏みしめ、かろうじて立ち……しかし、もはや、瞳の焦点すら定まらなくなった柳に。 「……在りし日の貴方ならば、きっと自身を憎んだことでしょう。これ以上の罪を重ねる前に……その、魂。解き放って差し上げます」 リセリアの細剣が、光の飛沫を煌めかせながら。 柳の身体を、貫いた。 ●『犬』たち 雨足は徐々に弱まり、いくらも経たないうちに、雲の切れ間からは月も覗くだろうと思われた。 「あの犬たちは、一体何だったのでしょう。恐らくは、警察犬……のようでしたが」 「さてね。消えてしまったところを見ると、この男の呼び出したモノだったようだけど」 ふとつぶやいたミリィの疑問に、涼子はさして興味が無さそうに答え、倒れ伏した男を見下ろす。 「警官なんてなァ、どいつも、お上の犬みてェなモンだ。命令されるがまま、走り回るだけ……こいつァ、そんなてめえの力の無さに、我慢ができなくなっちまったのかもなァ」 「そんな思いが、いつしか歪み、常軌を逸して……象徴としての、警察犬の形を成した。ということでしょうか……?」 銀次の言葉に、リセリアは悲しげに目を伏せる。 がむしゃらに、ただ、正義を追い求める。彼らには、それしかできない。しかし、時として法が犯罪に及ばない状況というものも、往々にして起こりうる。 「僕だって、罪を犯したことなんて、何度もある。過ちなんて、誰にだってあるんだ。なのに……こんな風に自分を追い詰めて、運命の歯車からはみ出して。得るのは……自己満足だけだ」 夏栖斗が苦々しく言い、 「別に、正義の味方を名乗るつもりは無いが。俺が、己の正義を曲げる事は断じてありえない。この男も……もし、運命を味方にすることができていたなら。あるいは、自らを貫くことができたのかも知れないな」 剛毅もまた、しみじみとつぶやく。 かつて警官だった男の、今はもう、ひどくちっぽけに見えるその亡骸を見下ろしながら。リベリスタたちは、皆、それぞれに複雑な表情を浮かべていた。 「……さて。皆さん~、任務は無事終わったことですし~。そろそろ帰りませんか~?」 ぱちんと手を叩き、変わらず間延びしたユーフォリアの調子に、あるいは毒気を抜かれて微笑みながら、あるいは、どこかほっと安堵しながら。彼らは、帰途へつく。 最後に残った真咲は、地に伏して物言わぬ男に、あどけなくにこりと笑い、 「ゴチソウサマでした♪」 一言、言い残すと。くるりと身を翻し、水溜りを跳ね飛ばしながら、仲間たちの元へと駆けていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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