●トラップとトラップ 『ジュリエット01、ターゲットを発見。作戦を開始する、02と03は俺の後に続け、04は高所からターゲットを見張れ』 夜の住宅街に人影は無いに等しい。 帰路に着く途中と思われる女が一人、夜道を進む。 彼女を追尾する影が3つ、影から影へ忍び込み、悟られぬ様に距離を詰めていく。 『04からオールジュリエットへ、この先はかなり暗い。チェックメイトだ』 合図を受け、背後から狙う男達はタイミングを計る。 女は携帯電話を弄りながら角を曲がり、街灯の途切れた路地へと踏み込む。 今だと3人は駆け出し、高所から見張る仲間も警戒を厳に見守っていてくれている……と、思っていた。 「いらっしゃい御間抜けさん」 女は振り返り、男達を迎える。 物陰に潜んでいた別の人影が飛び出すと、問答無用に至近距離で発砲。 更には拳を叩きつけ、蹴り飛ばし、遠慮の無い暴力を振るう。 『OwlE、ちゃんとそっちは片付けたの?』 女はインカムを経由し、FAで仲間へ確認を取る。 『ちゃぁんとやったぜぇ? あぁ、命までは取ってねぇけど』 OwlEと呼ばれた中年の男は、ライフルの銃口を下ろしつつ答えた。 奇襲しようとする者としては奇襲される事は予期せぬ出来事というところか。 OwlEは急所に直撃させられ、悶え苦しむ男を見下ろしニヤニヤと笑っている。 待ち構えている奴等がいると知らずに突っ込んだ男達は、自分達が奇襲を受けて袋叩きだ。 『作戦成功だな、こいつらを捕まえて戻るぞ。ちゃんと袋は被せておけ』 『SW01・Eagle Eye』紳護・S・アテニャン(nBNE000246)が仲間に指示を出せば、そそくさと撤収準備が始まる。 しかしこれは下準備に過ぎない、彼が胸を撫で下ろすにはまだ遠いのだ。 ●刈時 「せんきょーよほー、するよっ!」 花咲くような笑顔でリベリスタ達を出迎えるのは、『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)と対照的に仏頂面な兄、紳護である。 ノエルは早速今回の依頼内容を示すべく、予知を描いたスケッチブックを彼等へと向けた。 簀巻きにされたかのように見える女性が数名、そして男らしく影が数名。 女性には『つかまったひと』と、男性には『わるいひと』と下手な字で注釈が入っている。 勿論絵もとても幼稚さを感じる腕前なのは想像に容易い筈。 「このわるい人たち、女の子ばっかりつかまえてるの」 その理由は紳護の口から語られる。 「一般人だけでなく、駆け出しの女リベリスタも狙っているらしい、理由は簡単に言えば人身売買というところか。戦力として、観賞用としてだろう」 えげつない内容である。 リベリスタ達の表情も一気に険しくなる。 「とはいっても既にそのアジトは制圧済みだ」 一同がずっこけそうになった。 ここから悪党どもを千切っては投げ、千切っては投げという花形の出番ではないのか? 肩透かしを食らった彼らに苦笑いを浮かべて、紳護は言葉を続けた。 「何だかガッカリさせてしまった様ですまない、君達にお願いしたいのは一芝居打って欲しいという事だ」 制圧済みの建物は古びた倉庫だ。 中央にはステージがあり、スポットライトが当たるようになっている。 周囲には観客席が設けてあり、さながら劇場の様だ。 「ここで捕まえた女性を見世物にしてオークションをしていたらしい、そこで買い取っている奴等も捕まえる」 裏側の世界でフィクサードと繋がっている様な悪党共だ、野放しにすれば新たな人身売買が始まる。 根元から断つには買い手を潰すしかない。 なるほどと納得する彼らに、ステージの詳細をスクリーンへ映し出した。 「音響や高原を操る操作室はステージ裏にある。出入り口は正面入り口と非常口が左右に一つずつ、正面は両開き、非常口は片開きのドアだ。他に必要なものがあれば言ってくれ、可能な限り準備する」 ここで客としてやってきた悪党共の目をひきつける。 その間に別の部隊が包囲、ありの子一匹逃げられぬ網を張り、一網打尽というのが作戦らしい。 つまりどれだけの時間、客を魅了するかが大切だ。 同じショーでは飽きる、なるべく違うもの、そして見慣れない世界、好奇心を煽るようなものが必要だろう。 金持ちほどゲテモノじみた趣味を持つのは、娯楽の飽和、そして目新しさに対する興味から生まれるものかもしれない。 「準備が出来たら突入する。あとは寛いでいてくれても構わない。余力があれば手伝ってくれると助かるが、そこは任せる」 極上の囮を使った作戦は、悪党にとって最高で最後の晩餐となるだろう。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月07日(金)22:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 夜の闇が現実との境目に幕を下ろし、幻と思えようショーが始まろうとしていた。 勝手な事をのたまう観衆が、今晩のターゲットだ。 ショーの進行役であり、獲物の捕縛者としてステージに立つ竜魅 京一の目に映るのは記憶にある顔ばかり。 「さぁ、お集まり皆様方、今宵のオークションは今までとは比べ物になりません! ……といっても、もう分かっちゃいるでしょうけどね?」 彼が視線を送った先には、『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)がいる。 「数々の戦場で強敵を退けたリベリスタの一人、腕は勿論、人形のようなルックスも希少価値十分です。まぁ、彼女も人の子で、仲間を庇って孤軍奮闘。捕まえるのには苦労しましたよ」 手械と首輪には京一が編んだ縄が鎖の代わりにつながっていた。 お茶や酒を客席へと運んで回り、向けられる視線は少女に過去の記憶を回帰させる。 「お約束ですがメインディッシュは最後……と、そこのお客さん、そんな顔しない。とびっきりの美女美少女のオンパレードだから、期待してくださいな」 前置きの挨拶はここまでとし、京一が指を鳴らすと最初に連れてこられたのは『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)だ。 一足早く活躍し、名の知れ渡った姉程ではないが、大戦での活躍もあり少しざわめく。 自分の評価が気になっていた双葉には、分かりやすい答えだ。 商品を見る視線の冷たさに手を震わせ、促されるままマイクを握った。 「は、羽柴、双葉です」 彼女の品定めの余興として、少し懐かしさを覚えるミュージックが流れ始めた。 京一の音頭取りで始まるオークションは、彼女の価値を無機質な物差しに掛けた。 「えっと……ご主人様、は酷い事したりしないよね?」 最後に、一番安全そうに見える男性へと微笑みと共に誘い文句を。 気分良く彼の手が最高値を示した。 落札の声と共に、双葉が動く。 「我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ。いけっ、戒めの……キャッ!」 反撃に転じようとした彼女を京一の縄が封じ込める。 白いドレスに亀甲模様を描く縄が食い込み、不意の緊縛に双葉は横倒れに崩れた。 「戒められるのはそっちだねぇ」 にたりと微笑む京一は両手に縄を掛け、天井のポールを通して少女の両手を吊るす。 膝立ちの彼女の太股を擽る京一は、静かに囁きかける。 「ここで双葉ちゃんにどれだけ魅力があるか……ご開帳してもいいんだけど?」 爪先がなぞりあげた先には白い裾、引っ掛ければ中央へと滑らせながら上げていく。 惹きつける為とはいえ、耐え難い羞恥に双葉の総身が震える。 「ごめんなさい、は?」 彼の声はインカムでスピーカーから大音量で響いている。 それよりも、吐息を感じる距離に響く低音の方が心臓を握りつけるのだ。 逆らえば、可愛らしい魔法少女の趣味が晒される。 「……っ」 肌を這う痺れは、先ほどまでの寒気とは違う。 小さくのどを鳴らせば、涙目ながらに紡いだ。 「ごめん……なさい」 (「うう……お嫁にいけない」) 抗う心をへし折る背徳の劇は、競売にのめり込ませる起爆剤となろう。 次に舞台へ上げられたのは『マジカルナード』六城 雛乃(BNE004267)だ。 見た目に表れる柔らかそうな体つきと併せて、気弱に感じさせる雰囲気は嗜虐心を擽る。 縛られ、辱められる様を見たいという客のオーダーに、京一は二つ返事で頷く。 「ふえぇへっ!? い、痛い! 縛っちゃやだぁ痛いよぉっ?!」 投げ縄の如く縄を振るい、少女へと被せれば、今度は菱形を描く縄目が幾重にも張り巡らされた。 小さな悲鳴を上げる雛乃を尻目に、背中で纏めた縄が天井から吊り下げられ、爪先立ちにされてしまう。 気を抜けば体重が柔肉を搾り出し、食い込んでいく。 「い、痛いっ……いたいのに……はぁ、あ、なんで……なんでこんな……やだぁぁ!」 痛み以外に戸惑う少女の股座を縄が潜れば、菱縄を通り抜ける。 さりさりとこすれる音と共にずり上がるスカートの裾、羞恥の波に、雛乃は頭を振った。 「だめだめぇっ! そこは……スカートの中まではだめ! そこは大切なとこなのぉ……っ」 生娘らしい台詞に、京一が冷たく笑う。 「嘘だね、戦装束にこんなのを選ぶぐらいの好きモノだろう?」 先程の双葉のショーを見て感化されてしまったのだろうか、それともこれが自身の本性か。 演技だけでいい筈なのに、奥底にしまわれた禁忌の外殻を、突き刺さる言葉が皹を入れ、答えが毀れ始めた。 (「あ、あたし、きっと」) 元の魔法少女がどんな戦いをして、夜更けに劣情を満たしていたかを思い出し、理解する。 アノ子ノ様ニ成リタイカラ――。 (「だから……いっつもこんな短いスカート穿いたりして……っ」) 砕け落ちた理性の檻、かくんと項垂れた雛乃の顎に長く無骨な指が掛かり、隠れた顔を晒す。 蕩けた微笑に、男達は息を呑む。 少女の呟きに、京一は口角を上げ、縄を引いた。 ピンクのレースが飾られた、浅穿きの白いショーツ。外気に触れた瞬間に少女も跳ねる。 「えへ、えへへへっ……みんなぁ、雛乃のえっちなコスプレもっとみてぇ……もっと縛ってぇ~っ♪」 始まった入札に、一気に殺到したのは当然のことだろう。 ● 二人目も大盛り上がりで落札すると、次の商品へと掛かるのだが、リストを確かめた京一の目が点になる。 他の男と何かを打ち合わせると、一旦舞台裏へと姿を消してしまう。 「お待たせしました、次の商品はこちら」 代わりの司会が声を張り上げ、連れ込まれたのは際どいキャミソール姿の『ウィクトーリア』老神・綾香(BNE000022)と、ブラウスにタイトスカートと女教師を思わせる 『ハンドリングマスター』杜若・瑠桐恵(BNE004127)の二人だ。 「こちらはこの体つきでリベリスタの一人、こちらは教え子を摘み食いしていたので成敗と我々に売り込まれた商品となります」 綾香が目を細めながら体をくねらせ、裾が揺れる度に観客はあることに気づく。 はいていない、問いかける視線に司会がその通りと頷けば場がざわめいた。 「こっそり生徒の【マイク】をチューニングしたら怒られちゃいました……♪」 唐突に瑠桐恵の声がスピーカーから響き渡る。 それもそのはず、着崩したブラウスから胸の谷間が露になり、そこにマイクを挟んで囁くのだから。 「フフッ皆様の逞しい【サクソフォン】奏でてあ・げ・ま・す・わ♪」 魅了と魔の瞳の効果も功を奏し、これなら高値をつけて貰えそうだと楽しんでいた彼女の肩へ記憶のある掌が下ろされる。 「楽しそうですね」 蘇る淫靡な記憶、硬直する彼女の傍を京一が通り抜け、観客は より激しいショーを望む。 「じゃあこっちから」 小さな悲鳴を零した綾香は後ろ手に背中で手首を纏められ、二の腕ごと縛る縄は胸元をくびり出す。 鉄壁のスカート故にはかない、その誓いを叩き潰さんと京一は左膝の裏から縄を掛け、頭上のポールを伝う。 そのまま引くのは面白くないと、更に彼は腕へ継ぎ縄を施し、これも天井へと掛ける。 右へ寄せる様に縄を引けば背中から吊るされ、体重は右足へと集中するだろう。その瞬間に左の縄を引いた。 「駄目だっやめろっ! 此処で吊るされたら、み、見えてしまう……!」 このままでは左足が上がり、捲れあがった裾から守り続けた場所が晒されてしまう。 強引に左足へ体重を掛ければ、背中と胸元が締め上げられ、軋み、息を吸う事すら辛い。 右に左に、体重を動かせば動かすほど薄布がずり上がり、体力と理性を奪う。 辛い、苦しい、その合間に体を痺れさせる何か。 わざと屈指ざるを得ないのだが、駆け上がる電流にヒクリと喉が引きつり、浅く暖かな息がこぼれる。 「わらひはっ、こんにゃわるひ奴りゃ……っ」 掠れかかった意識、頃合と左の縄を強く引いてバランスを崩す。 脊髄反射に左へ体重を乗せると、足元がすべり、両足が浮いてしまう。 「にゃんかに、くっひにゃぃいいっっ♪」 足が浮かび、縄だけで吊るされる綾香、辛うじて縄と布に秘密は守られる。 それも角度によっては見えてしまいそうなのを、無意識に足を動かして、必死に隠し続けていく。 だが、その顔は何故か恍惚としていた。 「さて、次はそっちだね」 京一が振り返り、爽やかに微笑む。 瑠桐恵の体には溶けそうな程の熱と、爆ぜそうな程の鼓動が混じり、歩み寄る彼を見上げることしか出来ない。 「本気見せてごらんとかいってたけど、アレってお誘いだよね?」 流し目で潤んだ瞳を確かめ、今度は彼女の背後へと回る。 手品の様な一瞬の束縛は使わない、断罪の準備する様に瑠桐恵へ縄を着せていくのだ。 気づいた時にはもう遅い。 依然と同じく四肢を縛り、背中へと纏める海老反りの固め方だが、より一層の束縛を強いる。 足は大きく開かれ、肘と膝で括った縄は、最大限の重力で瑠桐恵を折り曲げていく。 目を白黒させる彼女を体に掛けた網縄で引き上げ、苦しみから解放する。 代わりに今度は豊満な体が絞り上げられ、窮屈に食い込む縄が苦の開放とは違った何かを植え込む。 「さっきの答えは?」 瑠桐恵の表情から機微な本心を読み取り、京一はぐっと彼女の顎を反らせて瞳を見つめる。 視線の威圧に、僅かな理性も崩れれば、反応はとても分かりやすかった。 「そうですぅっ ぁ、チューニングしゅごいっ! お仕置きチューニングで京一好みの女にされてるっ♪」 妖しい二人の背徳の劇の裏で、作戦が徐々に進んでいることなど誰も気づいていなさそうだ。 ● 先程、京一が驚きを隠せなかったのは次のオークションの所為だ。 『こーゆーショーではお客はエロを期待してるので口上は短めにですよ? ゲームのSMなんかで良く長口上してますが、あんなの実際のSMでやったら「とっととはじめろよ!」とか怒られますから』 お前のような小学生が居てたまるか、否、居た。 こなれた助言に京一は唖然としながらステージに戻ったわけである。 「普段からこんな格好しているえっちな小学5年生のきんばれいです……今日は高く買ってもらえるように頑張りますので、きんばれいのえっちなところいーっぱい見てくださいね?」 説明を求める観客に、京一は苦笑いを浮かべる。 「最近の子供って早熟みたいですねぇ」 小さく、熟れた体付きの合法なんたらと思いきや、純正品だ。 何よりその服装が末恐ろしい、ホットパンツにサスペンダーと胸元を隠す気を感じさせない。 アークの報告書に掛けるか心配になりながらも、京一はキンバレイへ縄を編む。 首に輪を、鎖骨の周辺でその胸元を強調する縄の柱を構成し、横から挟み繋ぐ。 「ひゃぁっ♪」 胸元の束縛を追え、股座を通り抜けて背中へ、スタンダードな緊縛に手を加えてより細かく仕上げていく。 「きんばれい……縄でこんなにされちゃうのははじめてなんですけど、気持ちよすぎて……みんなの前なのにぃ」 初めてでなかったら大変です。 体に負荷を掛けすぎる縛り方では、小さな体躯は危険かと思えば肩と両膝から掛けた縄で天井から吊るし、全身に分散した重力が程よく少女を包む。 足を開き、仰向けに観客を見下ろす格好で吊るされる少女は、自分がどうなっているのか理解すればする程、羞恥と刺激の渦に飲み込まれる。 「もぉ、きんばれい切なすぎておかしくなっちゃいますぅ……ねぇ……しょーなんてどーでもいいからぁ……きんばれいのことめちゃくちゃにしてぇ♪」 物足りないと京一を見上げ、ぐっと顔を近づけようと強請る少女に京一の理性が飛びかける。 幾らからだ!? と飛び込んだ声に戻されなければどうなっていたことだろうか。 ● 次のオークションに引っ張られてきたのは『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)と、『薔薇の吸血姫』マーガレット・カミラ・ウェルズ(BNE002553)の二人だ。 「ボクが足を引っ張らなければ……ボクを見捨てて姉さんだけでも逃げてよかったのに……」 マーガレットの呟きをマイクが拾う、その証拠と脇腹に手を当てていた。 「すみません、メグ様……私の力及ばずでした」 マーガレットをしな垂れかかる様に抱きしめるリリは、まるで周りの視線から彼女を守るかのようだ。 仲睦まじい姉妹愛、だがそれ以上の何かも感じさせるだろう。 「商品なのに傷物なのか、どれぐらいのものか見せてもらいたいな」 ここは首に飾った縄以外の細工は不要、客のオーダーに京一は視線を二人へと向ける。 「じゃあ、そっちのお姉様、脱がしてやってくれるかな?」 逆らえる立場ではないと、周りの偽の見張りが睨みを利かせる。 目を伏せ、しぶしぶと白い指が制服のボタンを解いていった。 「ぁ……っ」 恥らいの小さな吐息、頬を上気させながら思わずそっぽを向いてしまう。 上着の袖が細腕から抜けていき、黒レースの大人びたブラが顔をのぞかせる。 口元に手を当て、ぎゅっと瞳を閉ざすマーガレットを見上げながら、リリは下肢へとその手を伸ばす。 チェック柄のフレアスカートが床に広がる、その下も御そろいの黒レースのショーツと色香を際立たせる。 「お怪我がなくて、良かったです」 陶器を思わせる白肌に、傷跡はないが徐々に赤みを帯び、落ち着きなくその体をリリへと摺り寄せた。 「姉さんも……傷がないか見なくちゃ……?」 そんな命令はないが、率先して脱がせようとするマーガレットは、この雰囲気に飲み込まれたように見えるだろう。 演技、最初はそんな打ち合わせだったはずだが果たして。 「はい……っ」 両手を背中に回し、寄りかかりながらリリを見上げるマーガレットは背中のジッパーを指先で下げていく。 ジリジリと肌伝いの金属音が、修道女の潔白を引き剥がされる様な倒錯を彼女に与えながら。 その下は少し透けて見えるレース飾りのベビードール、白い布地は揺れる裾が見えなければ肌と溶け合って映る。 「ここ、少し怪我してる……」 「ひゃんっ!?」 悲鳴の理由は、観客の前で繰り広げる歪みかかった愛情の所為だ。 上目遣いのマーガレットが、小さな擦過傷を舌でなぞり上げる。 脳を掠める僅かな痛み、それを上回るこそばゆさ。 ねっとりと染み込む唾液の温もりに、肌は震えた。 「ごめんね、姉さん」 「そんな事……急に、っ」 押し倒されるリリ、助けを請う掌がマーガレットの背中を掻き乱す。 爪を食い込ませない様に指の腹を押し付けようとするところが、またいじらしい。 濃密な瞬間ほど、人は時を忘れ、入札が始まるのはもう少し先だろう。 ● 時は少し遡り、美女と姉妹のオークションの、ほんの隙間の時。 「君の番が来るのが楽しみだねぇ」 空色の髪を掌で掬い上げ、杯を手にした男が笑む。 相変わらずの無表情のまま、リンシードは酒をグラスへと注いでいた。 「おじさま……私に興味があるんですか…?」 問いかける言葉に、欲望の瞳をギラつかせながら男は小さな手へ掌を重ねる。 「大アリだよ、君のような可愛い娘が欲しくてねぇ」 二の腕をさすり、更に背中へ回っていってもリンシードは動じない。 見た目と違わぬ人形の様だ。 「私を……買って頂ければ、おじさまの思った通りのお洋服を着せる事ができます、それに」 含みのある語尾に、男は訝しげな顔でその先を求める。 「触るだけではなく……人目をはばからずもっとたくさんの遊びができますよ……」 沢山のコットンとレースが重なり合うドレスは、少女を飾り、包む殻の様だ。 撫で回す男の掌は、なかなか柔肌に届かない。だからこそ飢える、その奥底を暴きたいと。 「必ず落札してみせるよ」 「……私が売りに出されるのは最後なんです、それまで、ショーを楽しんでいってくださいね?」 すっと男の手から、リンシードがすり抜けていく。 揺れる幾重のレースの裾を見やり、その奥を想像し、男は下卑た笑みを浮かべていた。 「一つ……言い忘れてました」 先程の男に落札され、彼の前へ引き出されたリンシードが呟く。 瞳を閉じると共に、会場の上からライトが一斉に焚かれ、観客の視野が白に覆われた。 「……私はお姉様に売約済みなので……ごめんなさいね」 京一が捕縛を解除し、更に、リンシードへチェロケースを放る。 急展開する巨大な剣に、男は思わず尻餅をつく。 「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――魔法少女マジカル☆ふたば参上!」 「乙女にハジかかせた罪は重すぎるんだからっ!」 双葉と雛乃も武装し、魔法攻撃で仕上げの手助けに加わる。 作戦は成功、蟻の子一匹逃がさぬ包囲網は悪党共を全員縄につかせる事が出来た。 一番楽しんでいたのは、舞台の上でスッキリと笑う京一かもしれないが。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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