●冥路の使者 「ごめんね。でも視えてしまったから決着をつけて欲しい。それがどんな悲劇でも喜劇でも」 不愉快そうに眉を寄せ『蝶のはばたきが未来を変える』シビル・ジンデル (nBNE000265)は言った。 「事件はシンプル。ノーフェイスの死亡と彼が持ち去ったアーティファクトの回収、もしくは破壊」 いつも通りにシビルは資料をテーブルの上に広げる。集まっていたリベリスタ達は気が合う仲間同士なのか、和やかな雰囲気で資料を読んでは互いに交換していた。だが次第に口数が減り重苦しい空気が辺りを支配する。 「霧崎さん……アーク所属ではないリベリスタだったのですね」 紙片を手にしたまま『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)が呟く。 「秩父夜祭り組? 聞かない名だな。小さな組織……というか知人の集まりか。だが、これは所属していた者達が片を付けるべきではないのか?」 櫻子の見ている資料を横から覗いた『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)が至極もっともな事を言う。けれどシビルは首を横に振る。 「気持ちはあっても能力が追いつかないんだよ。霧崎って人には同じ組織にいた恋人がいて、2人はアーティファクト『死蝶』を奪って一緒に逃げている。この2人が一番強かったから、もう何度も試してみたけれど彼等を倒す事は出来なかった。もう万策尽きた……なんだって。だからボク達が倒しちゃっても怒られたりはしないし、アーティファクト返してなんて言ってこないよ」 「なるほど、霧崎と逃げている水無瀬は恋人同士というわけか。身内で処理しきれない程の強敵らしいし、それはなかなか燃えるシチュエーションだ」 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)の金色の瞳が灯火に照らされているかのような妖しい愉悦の光を忍ばせた……かのように見える。 「つまり、オレ達が好きにしちゃっていいって事だよな?」 「そういうことだよ」 『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)のさっぱりとした問いにシビルはうなずく。 「条件は2つだけ。ノーフェイスを死なせる事。アーティファクトを彼等の手に残さない事」 「それはわかったが、霧崎と水無瀬が持ち出したアーティファクトの能力はここに記載してある通り……使用者の望みを叶える、で間違いはないのか?」 曖昧な表現だと『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は思った。どれほどの大きな望みも、小さな願いも叶えるというのか。代償についても記載はない。 「言い伝えでは代償は使用者の寿命、だから誰も使った事がない。たぶんね、速くなったり力が強くなったりはするよ、ちょっとの間だけ。寿命はごっそりなくなるけど」 もしかしたら1度の戦闘で寿命が尽きるかもしれないとシビルは不吉な事を言う。 「抽象的な願いではなく、即物的な方が得意な願望器というわけだな。しかもコストパフォーマンスがすこぶる悪い」 薄く笑って『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は言う。普通の人間なら絶対に使わないタイプのアーティファクトだが、未来のないノーフェイスならば使用をためらわないかもしれないし、死に瀕した恋人の為ならば使う事女もいるのかもしれない。 「ふふふ~ミーノよくわからないの~。ぜんぶダーってやってターってなって、ガッツンガッツンで、ふーたおした! でいいんだよね?」 「……おおむね合ってると思うよ」 少し不安そうだった『さいきょー(略)さぽーたー』テテロ ミーノ(BNE000011)はシビルに言われてニコッと笑う。どちらかというと、他のリベリスタ達は今のミーノの説明で理解したというシビルの凄さにやや引き気味だ。 「と、とにかく!」 シビルはコホンと咳払いをしてから話し始める。 「伊豆高原の大室山にある浅間神社に2人は現れるよ。時間は夜の10時ぐらい。周囲は見晴らしが良いけど照明とか街灯とかはないから、お社の裏なら隠れられるかも」 「わかったわ。この仕事、私達が綺麗さっぱりきっちりスッキリ解決してきてあげる。安心してていいわ」 肩から胸へとかかる長く青い髪を背へと払い『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)はキッパリと言った。勿論、回りの者達に否やはない。 「じゃ、気をつけて行ってきてね」 「ありがとうございます。シビルさん」 櫻子は櫻霞に、そして皆に笑みを浮かべると資料を手にブリーフィングルームをあとにする。8人のリベリスタ達の背へとシビルは小さくつぶやいた。 「蝶は……冥路の使者とも言われるから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深紅蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月15日(土)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●冥路が開く夜 辺りは真っ暗だった。常夜灯などなく曇天で星月の明かりもない地上は真っ暗で普通の人間なら歩く事さえ出来ない。ただ吹き抜ける風だけが無造作に伸びた草や木々を揺らし、葉擦れの音を響かせてゆく。 「さすがに寒いな」 浅間神社の小さな社の裏に身を潜めたアークのリベリスタ達……その1人である『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は言った。濃い闇を見通す漆黒の瞳にはまだ人影は映らない。 「随分と悠長なご登場になりそうだが、ここで待つのが一番確実なのだろうから仕方がない」 竜一と同じく夜陰でも視える目を持つ『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)の言葉には僅かにシニカルなニュアンスが潜む。自分ならば辿らない道……同じくリベリスタの恋人を持つ義衛郎は彼等と自分との間に不可視の線を引く。 「ふむ、この手の感情を竜一は理解るか?」 普段の快活さが見られない竜一に『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は遠慮なく言葉を吐く。 「さぁな。自分の大事な女を大事にしない野郎の気持ちなんざ解るかよっ」 竜一は冷たく切り捨てる。 「まぁ、知った所で共感も出来無いだろうからな。やることに大差はないし……」 ユーヌの言葉にも同情のそぶりはない。 「恋とか愛ってそういうものなんじゃないの? 水無瀬って人の気持ちはわからないでもないわ。でも……」 理解と許容は違う、と『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は思う。彼等を見過ごす事も見逃すことも出来ない。水無瀬の大切な者が霧崎であるように、シュスタイナにも守りたいものがあるのだ。 「選べるのはいつもひとつだけ……水無瀬さん、貴女は何を選ぶのでしょう?」 小さく、風にかき消されてしまいそうな声で『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)はつぶやいた。それを聞いていた『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は一瞬だけ笑みに似た表情を浮かべる。既に分かたれた道を視ず尚も足掻く水無瀬と霧崎は櫻霞にとって無様以外の何者でもない。 「……気に病む事はない」 それは優しい櫻子の心を気遣う言葉だ。誰もいつかは己自身で道を選ばなくてはならない。いつまで引き延ばしても、やがてどうにもならない『崩壊』の時は迫ってくるのだ。 「未練、或いは執着か。どちらにせよ、恋人と添い遂げたいのであれば、共に滅びてもらうしかないな」 愛しい人の為にアークのリベリスタ達8人と戦うだろう水無瀬と霧崎、その圧倒的に厳しいシチュエーションを『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364) は心のどこかで羨ましいと思ってしまう。自分が当事者ならばどの様に戦うのか、考えるだけでも相当に楽しい夢想だ。 「まずははなしてわかってもらえれば、いいなっ」 ごくごく楽観的に『さいきょー(略)さぽーたー』テテロ ミーノ(BNE000011)は言った。多分それが成就しないだろうとわかっていたが、その手順を省くのは嫌だった。 「だって……」 「誰か来る」 更に何事か言おうとしたミーノを櫻霞が制した。暗闇でも遥か先まで見通す宝石の様な目が真っ先に接近する人の姿を捉えたのだ。 「ようやくお出ましか」 続いてユーヌの雰囲気が変わる。五感の全てがそれが待ちに待った者達であることを告げていた。 「ねぇ、お願い。あそこで休みましょう」 倒れそうな恋人の身体を支える水無瀬・一花(みなせ・いちか)の声がハッキリと聞こえたのはそれから数分後の事だ。 「……もう、いい!」 その手をはねのけた霧崎・零(きりさき・れい)が地面に崩れ落ちる。 「零!」 「帰れ! いや、ここで俺を殺せ!」 やつれて目ばかりギョロッとした若い男が恋人を見上げて言った。 「俺を殺して組織に戻れ。それ以外にお前の生きる道は……」 「あるわ!」 鋭い女の声が男の言葉を遮った。 「道はある。あなたは私が絶対に守る。私の命に代えても絶対に……」 首のチョーカーを手にした瞬間、水無瀬も霧崎もそこに自分達以外にも人がいる事に気が付いた。しかも1人や2人ではない。その事が余計に警戒を促し、言い争っていた筈の2人は瞬時に武器を手に身構えた。 「誰だ!」 霧崎の誰何と同時に草を踏むささやかな足音が響く。追っ手がかかるのはわかっていたが、この雰囲気は組織の誰とも違う。 「アーク……?」 水無瀬の言葉と白い灯火が輝くのはほぼ同時だった。 「私達は貴女が選べる道を示しに参りましたわ」 光の領域に浮かぶのは銀色に輝く髪とオッドアイの瞳の聖女や一騎当千の勇者や賢者達。勇名のみ伝え聞くアークのリベリスタ達であった。 ●冥路の迷い人 臨戦態勢の逃亡者達とは違って、姿を露わにしたリベリスタ達は武器も手にしていないばかりか闘気さえまとってはいなかった。 「おはなし、きいてくれるかな?」 追いつめられた手負いの獣の様な2人を前に話し始めたのはミーノだった。陰謀も策略もないミーノの態度と言葉だが、霧崎も水無瀬も油断なく身構えたまま微動だにしない。それでも『動かない』という反応はミーノの素直な思いが引き起こしたものだった。もし、ほんの僅かでも害意があれば、2人は『戦う』か『逃げる』かを選んだだろう。そして、どちらにしても先の展開は『殺し合い』しかない。例え結末が同じだとしても、今、奇跡の様な空隙が生じている。その不可思議な時間と空間を有効に活用しようと義衛郎は力無き人々を寄せ付けない『結界』を張った。彼には2人に対して今更投げる言葉はない。世界を敵とする度胸には感服するが、許容出来る筈もない。同様にシビリズも説得の言葉を持たないようだった。ただ、何時どんなタイミングで戦端が開いても対応出来るようにと、静かに逃亡者達を見つめている。 「はじめましてだね、アークだ。俺たちが来た意味は分かってもらえていると思う」 得物を手にしていない両手を相手に見せつつ竜一は言う。 「……アーク」 それ以上何も言えない様子で水無瀬は半歩身を退いた。追っ手が所属していたリベリスタ組織ではなくアークに変更された意味――どうしても霧崎を抹殺するという元の仲間達の強い意志――を悟らずにはいられない。 「そうか」 「嫌よ。私は零を死なせないわ!」 短く答えた霧崎の言葉に諦めを感じたのか叫んだ水無瀬の声は鼻にかかったようなくぐもったものだ。 「言いたい事があれば、1つ残さず言っていいのよ」 勝ち気なシュスタイナの瞳は早春を彩る優しいすみれの花の様に優しい色をしていた。 「どういうこと?」 いぶかしげに反問する水無瀬に答えたのはユーヌだった。 「まだ時間はある。恨み事なら聞いてやる。好きに吐き出せ何もかも」 表情を変えずにユーヌは言う。多少アドリブが増えたところでこの『茶番劇』の結末は決まっているのだ。 「何それ。遺言を聞いてくれるって事? 辞世の句でも詠めって事? 私は零を死なせるために連れ出したんじゃないわ。最後の最期まで一緒に居たかっただけよ! 解ってるわ、彼の時間は……でも、でも!」 竜一は前屈み気味にようやく立っている霧崎だけに向かって話す。 「水無瀬たんはお前と共にある事を望むだろう。ゆえに、話の余地はない。だが、霧崎、お前は違う。お前は選べる立場だ。彼女と共に逝くか、それとも、彼女だけには生きてもらうか、だ」 「そうだな。まだ俺には死に方を選ぶ自由があったのか」 「……零」 「死ぬ前に答えろ。何故『死蝶』を水無瀬に渡した。リベリスタなら知っている筈だ。奇跡なんて代物は絶対に有り得ない」 竜一よりも櫻霞の語調は苛烈だった。 「奇跡の宝庫と言われるアークが言うか」 「奇跡は頼るものじゃない」 「彼女を生かすことは俺達でもできるかもしれない。が、彼女を救う事を出来るのはお前だけだ。よく考えて決めろよ……まだリベリスタだろう?」 櫻霞と竜一の言葉に霧崎はノロノロと両手を凍える者がそうするように自分の身体に回す。 「零! どうしたの、零!」 恋人の様子に動揺したかのように名を呼ぶ水無瀬に櫻子は静かに言った。 「貴女に選択肢はたった二つ。他人に恋人を殺されて共に貴女も果てるのか。自らの手で恋人を葬り、それでも前を向いて生きるのか」 「嫌よ!」 「貴女は選ぶしかない、選ばざるを得ない……それがどれだけ辛い選択だとしても」 「嫌!」 その言葉と共にほとばしる激しい感情が水無瀬の力を暴発させる。その途端、のど元の『死蝶』が不気味な光を放ち霧崎の身体が淡く白い光に包まれる。 「残念だが説得はここまでだ」 最前から警戒していたシビリズには水無瀬の感情が『死蝶』の力を発動させたのだと解った。咆吼と共に戒めの様に身体を抱いていた腕を広げ、霧崎の身体が不気味にパンブアップし、激しい力は集約し超巨大なエネルギー弾となって最も近くにいた竜一へと襲いかかってゆく。 「ぐっ」 身構える竜一、そしてアークのリベリスタ達へとシビリズの加護の力が皆の身体に力を与える。 「あっ」 体中の力が抜けた水無瀬は蒼白の顔でよろめきながら変わり果てた霧崎と、エネルギー弾をモロに浴びた竜一を見る。しかし圧倒的な攻撃を喰らっても竜一は己の足で立ち、闘気のこもった目で霧崎を見据える。加護の力が徐々に力を回復させてくれているいるのがハッキリとわかる。なにより、歴戦の強者達であるアークの一線級のリベリスタを倒すには『死蝶』の力をもってしても尚、力が足りない。 「竜一、私が待ってやるから先に仕掛けろ」 「承知!」 ユーヌが言い竜一が答える間に凄まじい速度で放った義衛郎の攻撃が氷刃の霧を水無瀬と霧崎の周囲、竜一のごくごく近くにまで広がってゆく。 「……範囲攻撃だから気を付けてくれ、っと、少し遅かったか」 充分に敵味方の位置を考慮して繰り出した攻撃は味方を損なう事はなかったが、義衛郎の警告は明らかに遅すぎる。いや、攻撃が速すぎたのだ。 「……ごめんなさいね」 戦闘に集中しつつシュスタイナは言った。押し殺した感情は表情には出なかったけれど胸の内を大きく揺さぶっている。けれど出来ない事は出来ないし、出来る事は限られたほんの僅かな事しかない。だから『ごめんなさい』としか掛ける言葉が見つからない。 「本当に恋人を愛しているのなら、巻き込まずに自分で自分にケリを付けるべきだったんだ」 それはこの時代、この世界で生きて戦って死んでゆく全ての者達が普遍的に持っていなくてはならない覚悟だと櫻霞は思う。だからこそ、月神は人の身であるリベリスタ、櫻霞に強い加護をもたらすのだ。 「むむむ……たたかわないとだめならミーノはぜんりょくでサポートするのっ! みんなっ! しゅーちゅーしていくよっ!」 ミーノの力が傷ついた竜一の身体に治癒の力を与えてゆく。 「とても……残念ですわ、「水無瀬さん。貴女は彼を愛してなど居ない。あなた達が愛と呼ぶ『ソレ』は唯の馴れ合いですもの」 辛辣な言葉を紡ぎながら櫻子は空と大地、ありとあらゆる魔力をその身にとりこんでゆく。 「楽しくなってきたじゃないか」 ごくごく小さなつぶやきと共にシビリズは英霊の魂を糧とした幻の防具を身にまとう。 「色々あちこち、待たせたな! みなぎれ俺の右手からほとばしる煉獄の炎よ!」 竜一の全身のエネルギーが暗闇に青く輝く宝刀に集まる。その神々しくも美しい刀身が閃き、巨大化した霧崎の身体を薙ぐ。激しい苦痛に霧崎が身体のバランスを崩し倒れかかる。しかし苦し紛れとは思えない攻撃がユーヌを襲うが命中しない。 「私を狙うとは、存外しぶといな」 なんとか踏みとどまった霧崎へとユーヌが銃口を定める。無造作なほど自然体で撃ちだされた攻撃にうめき声をあげて霧崎が数歩後退し……そこに水無瀬との間隙が出来る。それがアークのリベリスタの狙いだった。 「零!」 駆け寄ろうとする水無瀬の視界を遮ったのは義衛郎だった。幻影との同時攻撃が水無瀬を痛打しその場に押しとどめる。 「水無瀬さん、オレならこんな選択肢は選ばない」 「そんなの所詮他人事だからよ!」 水無瀬の手が再度『死蝶』へと伸び、妖しい輝きとともに霧崎の身体が更に強く光を放った。と、同時に水無瀬はぐったりと地面に崩れ落ちてゆく。 「厄介事を増やしてくれるじゃない」 異なる属性を持つ4つの魔術はシュスタイナの手によって4色の光となって編み上げられ、立て続けに巨大化した霧崎の腹へと吸い込まれ破壊してゆく。 「運が良ければ死なないだろうさ」 櫻霞の精密機器の様な一分の狂いさえない正確無比のショットが、倒れてゆく水無瀬ののど元に輝く『死蝶』を狙い、粉々に砕いた。 「うー、それミーノもしたかったの!」 羨ましそうにアーティファクト破壊した櫻霞を一瞬見つめたがミーノの立ち直りは限りなく早い。 「かいふくはさくらこ&ミーノコンビにおまかせなのっ! でもいまはひつようないからミーノはしゅうちゅうしているの!」 「急場は私にお任せくださいませ」 「りょうかいなの!」 チームの癒し手である2人は互いに協力し、最も無駄のない動きをする。その間にシビリズは霧崎の前に出る。 「貴様の相手は私が務めよう。何、退屈はさせんよ」 薄く笑って霧崎の進路を阻み、棒立ちとなったその隙に竜一が破壊神の闘気を喚び、ユーヌが小鬼の式神を侍らせる。 「随分と久しぶりに使う気がするが……」 「ぐああぁぁぁぁ!」 もはや意味のある言葉を紡ぐ事さえ出来なくなった霧崎がもだえ苦しみ、闇雲に放ったエネルギー弾がシビリズを捉える。 「アーティファクトで強化されてもこんなものか。随分と興ざめするじゃないか」 頭をかすめた攻撃に出血したのか頬を細い血の筋が伝うけれど、打たれ強さを誇るシビリズは見た目ほどは深手を負っていない。 倒れた水無瀬を揺り起こしたのは櫻子だった。薄く目を開けた水無瀬の目に映ったのは変わり果てた姿で血まみれになった霧崎だった。動けないほど破壊され横たわった身体の胸だけが浅く上下している。 「ノーフェイスは殺さなきゃならん、どんな相手でもね」 竜一が攻撃の態勢に入る。 「もうこれが最後になるわ。ねぇ、自分で、決着を付ける?」 シュスタイナは優しく水無瀬に聞いた。 「あっ」 水無瀬がのど元に手を伸ばしても砕けたアーティファクトはもうそこにはない。浅く傷ついて流れる血に指先が濡れるばかりだ。 「こっちに攻撃を仕掛けてくるのなら致し方ない。私が相手をしてもいい」 シビリズが前に出る。水無瀬にはまだ未来を選ぶ事が出来る。自滅する自由すらあるとシビリズは考えている。 「どうする? 遠慮はいらない。魂の穢れる嫌な役回りだが俺なら耐えられる」 構えたままの竜一が僅かに水無瀬へと視線を向ける。 「……わたし、私がやる」 水無瀬の泥まみれの頬に涙が伝った。 「まだ、どっかいたいところがあるひとはいませんか? いまならミーノがぱぱってなおしてあげちゃうよっ!」 大きな傷の回復を行ったミーノが笑顔で仲間達に尋ねる。 霧崎の死を見届けるとユーヌはもう水無瀬に関心はなかった。こちらへの戦意がないことは言葉を介さなくても雰囲気でわかる。 「生死の選択はどちらでもいい。好きに決めるのだな」 くるりと無造作に背を向けその場を立ち去ろうとする。 「身の振り方は自分で決めてくれ。霧崎さんの後を追うなり、アークに身を寄せるなり好きにしたら良い」 それよりも粉々になった『死蝶』の欠片集めの方がよほど義衛郎の興味を引く。 共に戦場を離れながら櫻霞は櫻子の頭を撫でた。 「愚痴ぐらいなら聞いてやる、下手に我慢するなよ」 小さな、そして優しい囁きだ。その暖かい手を握り、櫻子はうなずいた。 「……大丈夫、私は平気です」 闇はまだ濃く、朝の訪れる気配はなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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