● ――きょーちゃんさー、仲間増やしたら? 全ては此の一言から始まった。 ● ソファの上に寝転んで、新聞を広げて今日の記事に目を通す。 日本や世界の出来事には興味は無いけれども、此の行為に理由をつけるとしたら暇潰しだ。 何枚目かのページを捲り、されど色濃くついた血の赤に文字が滲んで先が読めない部分が多い。読めなくても、興味は無いから別に構わないのだが。 よく見れば、彼が居るソファを中心点に、部屋のあちらこちらに血が飛び散っていた。 床にも、無残に女性として蹂躙された直後に殺されたであろう、全裸の、人の形を残していない肉塊さえ存在する。 食事を行っていた痕跡のあるテーブルの上の食卓は、全て真っ赤に染まっていた。 「お、終わったか?」 「終った終わった」 テーブルの下、テーブルクロスから顔を出した青年の眼は何処か虚ろだ。冷や汗をかきながら周囲を見回しつつ、血の付いたベーコンエッグを指で掴んでから口に運んだ。 「狡猾な、ルミナっていうのは女性の人格だろ。男になってるのは気持ちが悪いな」 「……」 「本性現したら、どうだ」 「……ルミナちゃんショーーーーック! あ、今貴方達の飼い主の真似してみました、似てる? ルミナこんなに我慢したのに、だぁって男の人の身体の方が逞しくて素敵なんだものでもでも、ルミナ、ルーナちゃんて子の身体が気に入ってるから此れが壊れたら帰るの、だからそれまで、パパ様、ウィルモフ・ペリーシュ様の為に手となり足となり壁となり剣となり、ルミナ良い子でしょ、皆と仲良くできるの、WPシリーズの中でも良い子なんだよ?」 「やっぱり男でいていいぞ」 「自分から言っておいてそれか。兎も角、一刻も早く其のアーティファクトを完成させて貰わないと困るのだ。此の日本ではアークの嗅ぎつけが異常だからな、交戦もそろそろであろう」 「大丈夫だ、それまで俺の愛人ちゃんたちが殺せばいいんだろう? 人を! 動物を! 嗚呼、素晴らしい此のナイフのフォルム! この子をそのうちWPに嫁に行かせねばならないとか心が痛い。見てくれよ此の剃り具合、人がすんなり切れる、切れてしまうのだ! 切れちゃうんだぞ!! 力もいらない、スーっと引けば開く肉体! 嗚呼! 嗚呼! 素晴らしい、此のナイフは今の所、側室。正室は此方の俺が今まで大事に大事に使ってきた、付き合いの長さってやっぱり大切なんだよ、わかる?」 「刃物を愛人と呼ぶのも気持ち悪いものだがな。ね? ルミナ、アークの子の身体が欲しいの。お願い、アークが来たら逃がしてあげるから彼等をルミナに頂戴?」 「ああ、そうじゃないとな。俺だって今回は首領の為に我慢してんだ。訳わからんペリーシュナイトなんかと組まされてうっとおしくて仕方が無い早く死ね、跡形も無く死ね」 「ルミナ、死なないもの。ううん、死ねない物。いいから次に行くよ、音楽は好きか?」 ● 「皆様こんにちは、今回も依頼をおねがいします」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達にそう切り込んだ。 今回の依頼は黄泉ヶ辻のフィクサードが持っているアーティファクトをどうにかする事、なのだが。 「どうやら、黄泉ヶ辻が組織として動き出したみたいなのですよね……というのも、黄泉ヶ辻京介が、『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュの依頼を受けたといいますかなんといいますか」 最悪の奴に最悪の組み合わせが誕生していた。 使われるだけの存在では無いだろう黄泉ヶ辻の首領は、恐らく黒い太陽と何かしらの契約を結んだに違いは無い。彼等組織はこれまで、協調性なんてものは一切合切縁が無かったはずだが、今回ペリーシュナイトと組んでいる当たり、黄泉ヶ辻フィクサードも大いに我慢をしているらしい。それ程、京介が結んだ契約とやらは、彼等組織にとってとてもとても美味しいものなのだろう。 「なので、黄泉ヶ辻が集めるのは黒い太陽にとって必要な、魔力を抽出可能なアーティファクト。賢者の石も其れにあたりますが、今回は別のもの。殺せば殺すほど、力を溜める魔力のナイフ」 其れを、回収か破壊するのが今回の依頼だ。 「それを持っているのは、桧垣・九王(ひがき・くおう)という、刃を異常に愛する男なのですが、勿論、ペリーシュナイトが護衛についております」 『狡猾なルミナ』―――ひとたび触れれば、全ての苦しみを忘れて此のうえない快感を無条件で味わえる蝶の形をしたペリ-シュナイト。しかし代わりに身体は乗っ取られ、ルミナ以外の事を考えられなくなる廃人と化すWPシリーズだ。 彼女の能力は一言で言えば面倒だ。彼女は乗っ取っている身体があれば移動が可能な為、潰しきらないと死なないと言う。だから今回も殺しても本体は別の場所で嘲笑っているのだろうが。 「彼女を退けて、アーティファクトだけでもどうにかしてください。WPに力を与えていくのだけは、黄泉ヶ辻に利益を及ぼす事だけは、止めないといけないのですから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月14日(木)22:17 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 扉が開かれた瞬間、複数の足音が場内に響く。 『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)の加護が仲間に『羽』を持たせた刹那、足音は消え、宙を飛び込む影が複数へと変わった。 ソラの其の、仲間へと加護を送る詠唱の早さは誇るべき点であろう。それがスタートの合図である事もそうなのだが、合図があった次の瞬間には『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)と『狂乱姫』紅涙・真珠郎(BNE004921)が恐るべきスピードで敵の眼前に飛び込んでいたのもまた、恐るべき点である。 アハハハハ! と高笑いしながら、間に「イタダキマス」の六文字を挟んだ真咲。 突出するのは避けようと思いながらも、隣を並走……むしろそれよりも少し前に出ている真珠郎が居る点、気にしないていいなと3秒くらいで「突出しない事」を消し去った。 フルスイングで投げた真咲の斧が、回転しながら飛んでいく。撃破優先は九王とルミナであるものの、関係無いぜ☆と全敵の間を縫って駆けていくトマホーク。 そして真珠郎のナイフがクロスイージスの男の喉を突く。 開始早々、吹き飛んだ血が宙に舞った。 赤く、赤い中、スローモーションで真珠郎の遠くに見えた、ルミナと九王が、一気にテンションが上がっている表情を向けたのだけは見えた。 「アークだね!? ルミナ会いたかった!」 「うっほ! 何それリッパーズエッジ……てことは紅涙一族か? ヤバイ、超高嶺の花ちゃんに会えちゃった系!?」 真珠郎の瞳の中から消えた九王が次に現れたのは真珠郎の背後であった。真珠郎はナイフを引き抜き、後ろ手で九王のナイフを止めるも其の頃には背中に一線の傷が入り、チクリと痛覚が警鐘を鳴らす。 やるのう……、と言葉にする事も無く。ただ、面白いと真珠郎の眼は冴え冴えとしていた。 「皆さん早いですね」 と嘆いた『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)の腕から伸びた神秘のベール。ルミナを守る位置についているクロスイージスが狙いだ。 敵側からしてみれば、てっきりルミナを狙うと思われた其れに、ルミナは大柄のクロスイージスの背中に隠れたのだが。男の顔面に巻き付き消えたベール、瞬間に。 「お、おお?」 振り向いたクロスイージスは、 「おひゃー!?」 ルミナに攻撃。ルミナのすぐ頭の上を盾が掠っていく。 「嗚呼、ルミナの魅了が効いている中でも魅了するんですね」 「ひどい! ルミナのお友達を誘惑しないで!」 真昼が「そう言われましても」と言い返した反面、ルミナを守る為にお行儀の良い『マーキング済のフィクサード達』がまるで人形の様だと滑稽にも思える。 手も足も命さえも、最早自分のものでは無く、ルミナのものになっている事だろう。可哀想に、早く死ねばいいのに。鬼畜な真昼である。 半泣きで抗議するルミナ(ただし今は男の身体)がリベリスタ後衛へと向かって走り出したが、制したのは真咲だ。 「ね、遊んでよ。ボクが相手だよ!」 「引っ込んでて!!」 スキュラの柄にてカバーした真咲であったが、少しの間を縫って入って来た腕が真咲の腹部を内側から破壊していく。思わぬ所でこみあがって来た吐き気を喉元で抑えつつ、真咲はまた笑うのである。 「引っ込めないんだよね!」 齢は未だ10である彼女が、戦闘の中で引き攣った笑みでも無く、恐ろしさに壊れた笑みでも無く、純粋に笑う姿は彼女の欠けた何かを表しているのだろう。 真咲とルミナ。攻防せし2人の合間を縫って、プロアデプトの気糸が無情にもリベリスタ達を射抜いていく。全身に傷跡を作られながらも、『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)は走った、走った。 横目に見える、真咲の抑えているルミナと視線がぶつかった。本来ならば相手したいのはルミナである。『今度こそ倒してやる』と、思いつつも彼女を今日は壊しきれないのを何故だか感じ取りながら。 殺意に反応しているルミナの目が色濃く風斗の脳裏には残った。 ――欲しい。 そう言われているのだろう。前回からのマーキングのより良い原石だとターゲットにされているのだから。手を噛む犬を躾けたらそれはそれは楽しいだろう――と。 風斗は其の侭、九王の方へと向かう。 真珠郎こそ挟み撃ちにされていたものの、更に九王を真珠郎と風斗で挟めば挟み撃ちされているとも取れぬ配置。 「ナイフばかりが刃物じゃなかろう。たまには大型のも味わってみたらどうだ? 俺の剣はよく『断てる』ぞ?」 柄から剣先まで風斗はデュランダルを指でなぞった。其の、なぞった部分がオーラの如く赤く脈打つ様に光輝いた。 「それもなかなかの『美人』だ」 と、九王は刃のバーゲンセールに心を躍らせていた。 『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)は、ピンポイントに射抜かれた傷を抑えながら、周囲を見回した。 大丈夫? と目線で語り掛けるソラが回復の詠唱を行うのを眼にすれば、己が腕についた傷が消えていく感覚があるのは感じた。 何かイレギュラーが無いかと見回した訳だが、此処までの攻撃に死亡しそうな一般人はいない。 三尋木や恐山、まだ考える頭のあるフィクサードなら聞き分けも良いだろうが、相手は黄泉ヶ辻にペリーシュナイト。恐らく一般人を殺して更にリベリスタの怒りを買おうがお構いなしにかましてくる相手であろう。 リルの傷ついた腕で半円を描いて叩き割ったのは非常ベルのある硝子蓋。更に裏拳でもかますようにボタンを押せば、けたたましいベルが響き渡ったのは言うまでも無い。 リルがエネミースキャンで分かった点といえば、一般人にマーキング済の者はいない事。其れだけは救いであるのだが、ルミナの思い付きひとつで救いが崩される事は在り得る未来である。 さあ、どう出ようか。 始まったばかりであるが、臨機応変という言葉が似合う所であったのだが。 「全員殺せばいいのよ。殺される前に、マーキングされる前に」 敵を見る目が一層冷酷であるソラがそう呟いたのであった。 ● リルの呼びかけによって、離脱できた一般人は少数だ。 意識の無い彼等を呼び起こすのは戦闘の中では難しく、偶然にも意識が回復した者から順に出口を指示していくだけで精一杯なのだ。 未だ一般人という障害がある中であるが、九王が一般人の血肉をナイフに喰わせないのは理由があっただろう。 其の一つ。 背後からの一撃であった。風斗の背に刺さった一本のナイフ、WPシリーズ。血肉を喰わせて魔力へと変換する其のナイフだ。だが、直接血肉に当てないと意味がない。つまり、一般人を刺す暇がない。 遠距離から掃除機のように吸わせる事ができたのなら、それこそWPがナイフを『失敗作だ』と呼ぶことは無かっただろう。創造主が出来ない成功を九王やルミナが完成させる事を強いられているのは、正直『お使い』のそれと変わらないという訳か。 風斗の骨と肉を傷つけて下から上へと切り裂いたナイフが脈動と鼓動を上げて光り輝く。力を溜めているようだ。 だがカウンターである。風斗こそ黙ってナイフに喰われているままで終わる者でも無い。 剣を強く握り構える、だがその時。 「いっ!?」 ソードミラージュ特有か、二回目の攻撃に移っていた九王の周囲には魔力で構成されし千本、いや、万本ナイフがリベリスタ目掛けて飛んで来ているのだ。 「俺の取って置きー、イってみちゃう?」 「反則だろそれはァ!!」 目まぐるしいナイフの大群に真珠郎はナイフで、風斗は剣で防いでいく。 近くにおらずとも真咲はスキュラで、リルは舞う様にしてナイフを弾いていくが、なんせ数が多い。1本が身体に刺されば、2本、10本、30本と身体に突き刺さっていく。 其れは後衛までに届く程の投擲だ。足下、血塗れに、レッドカーペットが更にクリムゾンレッドへと染まっていく速度も早い。 ふらりと、立ち上がったソラが身体に刺さったナイフを抜きながら、それでもナイフが刺さっている腕を前に、魔力を放出して爆風を放った。 「大丈夫?」 ソラの周囲に風が舞う、清らかで温かい風だ。そして彼女が血の滴る指先で描くのは陣だ。 負けられない。 此の場で負ける事は、ルミナに喰われる事と同義であった。身体を食われ、心も食われ、ルミナがマーキングしたフィクサードを、此の場の誰よりも鮮明に見て来たのだから。 「まだやれる?」 だから回復役であるソラは倒れる事は許されない。彼女の言葉と、竜巻のような癒しの風を受けたリベリスタ達は立ち上がった。 「誰が終わるって?」 風斗が言う。 「まだ始まったばかりッス」 リルが言う。 「ふん、こんなもの次は避けてみせるのじゃ」 真珠郎が言う。 「あはは! すっごーい!」 真咲は凄く笑顔です。 隣で起き上った真昼の、目隠しが外れて。クマの濃い目線を俯いた顔から向けていた。其処には諦めも無く、殺してやると言っているかのような瞳は僅かにも狂気的であったが。 「相手が相手だし無理は禁物よ」 ソラが後ろへと引く。 見れば敵のプロアデプトが味方を吹き飛ばし、出来たブロックの穴からクロスイージスが突出してきている。 もちろんだが、回復手であるソラは狙われるのは当たり前の事であるのだろう。光り輝く、クロスイージスの棍棒がソラを目掛けるのだが。 「オレは無視ですか。あんなに魅了させてあげたのに」 男に魅了させられるだなんて、感情に身を任せて真昼を攻撃して来ないのはルミナの暗黙的指示が効いているからなのだろうが。 何もかも忘れて、感情さえも。肉体は心地いい刺激に狂って。何も考えずにアレをしてと言われればそうして流されて生かされるのは、何故だか真昼には羨ましくも思えたのだが。 考える事を止めた時、其れは椎名真昼では無くなる時だ。プロアデプトですから。 Le Penseur――其の称号に恥じぬ働きをするのだ。 現状の打破。 単純、こんな単純、誰でも解る。後衛への敵の進軍は、止める、万死だ、磔刑にしようか。 伸ばした指先、再びの神秘のベールがクロスイージスを穿つ、だが相手も学習したかベールは喉元を掠り直撃を避けたのだ。だけれども、1人で戦っている訳では無いからね。真昼は「死ね」とは言わなかった。ただ、「生きるな」と言った。 ホラ、後ろ。 「もう手遅れなのね。さようなら」 ソードミラージュだからといって、武器が刃物だとは限らない。同じく、攻撃にマグメイガスのものが無いとは限らない。いや、それは誰も思わない。 真昼の背で詠唱を行っていたソラの、地を迸った電撃がクロスイージスの男を感電死させ、痙攣した腕は倒れても尚動き続けていた。 其の頃、割と空気と化していた敵のレイザータクトが命を落とす。 ルミナを抑え込んでいた真咲であるが、ふと視線が一瞬ズレた所でレイザータクトの存在が瞳に映ったのが最期。今しがた迸った電撃に身体を痺れさせ、だがまだレイザータクトは動けると何かを撃とうとする素振りを見た、刹那。 「イッタダッキマース!!」 再び投げた、スキュラ。一瞬だけ武器を両手に持たない状況に、ルミナの蹴りが真咲の顔面を180度ゴリリと回したものの。 廻って飛んでいくスキュラがレイザータクトの首と胴体を綺麗に両断したのだ。血が首の断面から吹き出し血の雨を降らす、胴体は膝から崩れて舞台上を紅く飾っていく。 「ゴチソウサマ!」 ぐるんごきり。 廻った首を強引に戻しながらもフェイトを消費した真咲。だが、まだ笑う。まだ笑っていられる。 其の狂気にルミナというペリーシュナイトでさえぶるりと震わせるものがあった。アークの人間の身体が欲しいルミナでさえ、「貴方は要らない、怖い」と言わせたほどに。 ● プロアデプトのJエクスプロージョンがリベリスタ達を後ろへと下げた。だが椅子に足場を置いて、跳躍。再び戻ってきたリルに九王は横にナイフを振り回してカウンターしたが、寸前で地面を蹴って上へと飛んで回避したのだ。 流れるように、美しく回避した其れに「ヒュー!」と九王は言って見せ、リルはスラリと伸ばした仕込み刀を出す。 「仕込みの刃物は嫌いッスか?」 「恥ずかしがり屋の女の子は嫌いじゃない! もっと近くで魅せ――イダァッ!!」 当たったというより避けなかった九王。曰く、何時も姿を見せない子のタックルくらい食らいたい――らしい。 「よくキレるというのは、よく斬られるという事ッスか」 呆れ混じりにリルは言う。 其処で再び九王の狂喜乱舞が舞台上から客席までナイフを飛ばした。見慣れた技、2回目は通じないと真珠郎は九王の背を取った。 「遅い」 耳元、真珠郎は囁く。やべえ今の(真珠郎の移動)が見えなかったと脳裏で九王は思った時には遅い。 奥へ、奥へ。 光の砂塵を振りまきながら真珠郎のナイフが九王の胸を突いた。剣先が胸から数センチだけ飛び出しているのだが、九王は笑った。 「ふぐ!! ひ、ひひ!! あのリッパーズエッジちゃんに穴ァ空けられてらァァ!! ひひゃはははは!!」 状況的にはリベリスタが有利だ。ルミナを抑え込む真咲がそろそろ限界を迎えそうではあるものの、其の前に九王の命が持たないであろう。 風斗が今、剣を振り上げている時だ。ルミナは状況を読んであえて一般人をマーキングしにかかる、だが其れは真昼とソラが許さない。一般人に、近づけない。ギリィと鳴ったルミナの奥歯。 ならばと奥の手だ。一瞬の移動、枢・純の身体を捨てたルミナは九王の近くに居たプロアデプトの身体を乗っ取ったのだ。 「困るるるる、死なれたたたらァァ、ルルミナァァア、お使いがががが」 右手は血狂に、口は九王の口元に近づいていく。 「アーティファクトを守りつつ、マーキングする……手ですか、頑張りますねえ」 「あら、できると思うのかしら?」 真昼とソラが冷静に。思う?と問われて、真昼は首を横に振った。 「ルミナ! 君の相手はボクって言ったでしょー!!」 「どけ!! 邪魔だ!!」 怒涛の勢いで、真咲が弱体化した純の首をイタダキマスも言い忘れて刈り取り、九王へと迫る。 風斗が振りかぶった剣がルミナの身体を吹き飛ばして、壁に打ち付けた。 「……ペリーシュナイトに喰われるよりは、沢山の刃物ちゃんに斬られて終わるのも悪かねーなあ」 九王がそう呟いたのを真珠郎は確かに聞いていた。 「何分割がお好みじゃ? なに。遠慮する事はない。斬って。突いて。イかせてやろう」 「いっぱい!!」 「強欲じゃのう」 「さあ、来いよ刃物ちゃんたち!! 此の俺の血を吸って生き延びてみろ! 京介の遊びに付き合わされるのは懲り懲りだが、こうやって終わるのは刃物好きとしては悪くねえ!」 負け惜しみか、それとも本意かは知らねども。リルの刃が首を貫き、真珠郎のリッパーズエッジが心臓を潰し、真咲のデュランダルが胴体を切り裂く。 一寸遅れて風斗が動いた。全身の筋肉がびきびきと硬化し、筋が見え、一層逞しい身体へと化した彼。血管は限界だと引き千切れている為、腕を真っ赤に染め上げながらもデュランダルは振り落される。 「こ、れで、終わり、だああああ!!!」 「く、ひひ、大きい意志の、良い子ちゃん、此れが不滅の剣ちゃん……?」 横にスイングしたデュランダルが、九王の首を飛ばす事は容易い。 スタートダッシュで動き出したのはルミナ。続いたリルと真昼、ソラである。 空中に回転して飛んでいくアーティファクト、血狂。其れをルミナに渡す訳にはいかないのだ。 「行かせないッスよ」 「じゃじゃじゃまあああああ」 ルミナの咆哮に爆発した思考の濁流がリルを襲うものの、後方へと飛んで回避したリルは再びルミナの腕を抑えて。 2人の腕を繋ぎとめるように絡んだ真昼の気糸がルミナの自由を奪っていく。一瞬にして雁字搦め、無造作にボンレスハムのように肌に食い込む糸にルミナは苛立った。 「ぎ、ざ、ま、ら」 「貴方の殺し方を教えてくれれば離してあげても良いんですけどね」 冗談交じりに真昼は言って見せた。 其の頃ソラが血狂を追い、キャッチ。アーティファクトであろうともそれはナイフだ。床に寝ている一般人の1人の首に刺さろうとする寸前で、ソラの手が刃部分を指で挟みこむ形で止めたのだ。 「ほら、じゃあ壊すわよ」 ソラから投げられたそれは風斗が穿って空中分解。少し惜しげに真珠郎がやれやれと見ていた。 「ナイフは破壊した! まだ続けるかルミナ! ならここを己の墓場にする覚悟を決めることだ!」 「!?」 マズイと思ったのだろう。幽体離脱のようにふわりと身体から抜けた、ルミナの本体である金属の蝶が宙を舞っている。少しずつ後ろに平行移動するのは、逃げ失せる為だ。 もどかしい、追いかけた風斗だが、下手に戦闘続行させて一般人に憑りつかれでもしたら面倒だ。ぐっと腕を抑えた、抑え込んで、耐えた。 しかし見逃さなかった、リルがルミナの背後に廻り込み、LoDがひらりと舞う。ギリギリで掠めたルミナであるものの、地面にぶつかり壁にぶつかり、天井にぶつかっていく。 最終的には真珠郎の眼前でブレーキして止まったルミナ。 「おい。狗っころ。主人に伝えろ。ヌシは我が殺すとな」 『う、うううっ!! で、でも仲良くなるの諦めないんだから!!』 真珠郎はルミナを指で弾いた。窓を破りジグザグに消えていく光。 最終的には夜空の星に紛れて消えたのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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