●逆凪村 -Drug Base- 上木 蝙也は植物学者である。 運転する高級外車は、颯爽とトンネルを抜けて、今日は山に囲まれた村を訪れる。 山の向こう側の日本海側では、猛烈な雪が降っていたというのに、トンネルを抜けた途端に水分が抜けきった空っ風が侘びしく吹いていた。 蝙也は、近くある共同のビニールハウスの近くで車を停車させた。スモークガラスの窓を開けて顔をだす。 「よう、吉田のババア。元気そうだな。まだくたばってなかったかい?」 「おおおお、誰かと思たら。ヘン坊じゃないけ。ヒッサシビリだあな」 蝙也は、大きなビニールハウスの中で、老人たちが忙しく働いている様子を見て微笑む。 「景気は良さそうだな?」 「ああ、ヘン坊のお陰さだな。お仲間も皆さんも働き者でね。見な。全部"金歯"に入れ替えたさだ」 「趣味悪いぜーババア」 「この不良め。そういう所はぢっども変わってねえね」 蝙也は、馴染みの者と二、三やりとりをした後に遠くを見る。 「シスターは教会かい?」 「茉梨ちゃならいっづも教会にいるで」 「それもそうだ。邪魔したな、ババア」 「えっひっひひ、はーよ跡取り一杯ことつぐっで、喜ばせてぐら」 「うっせぇよ!」 まんざらでもない表情を浮かべ、蝙也は教会へと行く。 山の斜面を利用した段々畑の麓に聳える教会は、周辺の日本家屋と比べ異質で、少し、浮いていた。車を停める。教会の扉を開く。奥へと進む。 左右を見るとビジネススーツを着た男女が腰掛けている。スーツの男女が蝙也の姿を見ると、ピっと起立して頭を下げる。 「蝙也さん。今日も異常なしです」 「おっつかれー」 蝙也はピラピラと応答して、奥へと足を進める。十字架の前で祈りを捧げる女を確認して、肩に手を置く。 「よう」 「あ、蝙也!?」 「"麦"を取りに来た。人手不足でさー、俺が直接来たんだ」 「えへへへ。分かった。待っててね」 いそいそとシスターは奥の部屋へと行く。蝙也は近くの椅子に腰掛ける。 一分もしない内に、シスターは長いキビの様な植物を持ってきて、蝙也に差し出した。 植物の先端には、拳大の球が実っており、切れ目がある。そこから流れる汁は黒い。 「ほー、こりゃあれか? ビニールハウスのやつ?」 「そうそう。おじいさん達が共同ビニールハウスで一年中収穫できるようにしたのよ」 蝙也は黒液を指で舐める。 「流石俺が作った品種だ。そんで爺様婆様の腕だ。凄く良い麦だ。加工して"小麦粉"にしてー、末端価格が楽しみだな」 「よかった。――何時帰るの?」 「明日かな? 警備の連中戻ってくるだろ?」 「じゃ、今日はゆっくりしていってね。貴方は、村を救ってくれた救世主なんだから」 シスターは蝙也の頬に接吻をする。 ●逆凪死ね死ね作戦 -Pinpoint Shooting- 「はないちもんめ♪ お金がほっしい♪ お金じゃわからん♪ あの子を売ろう♪ じゃ~んけ~ん……」 アークのブリーフィングルーム。 ドアを開けると『変則教理』朱鷺子・コールドマン(nBNE000275)がタンバリンを叩きながらクルクル回っていた。 「――ぽん!」 朱鷺子はチョキである。つかの間に、空白が場を支配する。 「おや、集合早いですね。ビックリしました」 朱鷺子は、緩急が乏しい声で、何事もなかったかの様に着席する。映像を流す。 「さて任務についてです。『逆凪』の息がかかった寒村で、一貫種――ケシの栽培が行われています。つまり『村共謀でシャブ作ってる』訳ですね。ダメ。ゼッタイ」 『逆凪』とは日本のフィクサード組織の最大手である。表にも顔が効く程の大組織であり、日本のフィクサード・シェアの何割かを握っているとも言われる。 今回は村自体という話ならば、その巨大な組織力が垣間見える次第であった。 「ま、今がチャンスなんです」 朱鷺子が席を立つ。気合の入った中腰で右へ左へ横ステップを刻みながらタンバリンを鳴らし始める。 「万華鏡に引っかかりにくい『ただの植物栽培』ですが、業界では知る人ぞ知る通称『逆凪村』なんですよね。普段は警備のフィクサードの数が結構いるんです」 朱鷺子は鳴らしていたタンバリンを止めて、ロッカーの前に行く。扉に手をかけて、中からうんとこしょと、火炎放射器を持ってくる。 「ですが、今まで襲われた事が無い気の緩みと、年始ボケが重なって、警備が減ってる事が万華鏡で確認できました。今しかない訳です」 火炎放射器を平手でぺちぺち叩く。 よく見ればこの火炎放射器、安心の裏野部製である。裏野部とは一言で言えばヒャッハー集団である。今はどうしているか分からないが、過去に彼らから押収したモノらしい。 「お百姓さんが額に汗して作った無農薬麻薬。地球にやさしい。人間に厳しい。くぅ~涙を禁じえません。焼き払うときっと楽しいです」 プラズマスクリーンに一人の男の顔が出る。一見、チンピラ上がりの売れないホストの様な形をしている。 「村に残っている実力者は『植物学者』上木 蝙也。生業はマグメイガス。村の出身者です。故郷に錦を飾るなんて、これまた涙を禁じえません。こいつは絶対逃しちゃダメです。シャブ栽培の立案者です。――何か質問ありますか?」 再びタンバリンを叩いて無表情にちゃんちゃかステップを刻み始める朱鷺子に対して、一人が挙手をする。 「村人の介入はあるのか?」 「邪魔ならバッサリどうぞ。ジジババしかいません」 たちまち朱鷺子はまくし立てる様に続ける。 「他人を廃人にしてるのに、『逆凪』から甘い汁吸わせて貰ってぬくぬく暮らしてた奴らなんてどうだっていいんじゃないっすかー? 因果応報、An ill life an ill end。よしんば『普通の作物で再起しろ』なんて説法したって老い先短い上に、仕事はお上から貰えるものだって、顔を上に向けて口をパクパクするしか能がないシャブ中のらりぱっぱですよ。悪態つかれるのがオチです。無駄無駄。むしろ飢餓とか寒さで苦しむ前に介錯してやった方が良心的というものです。へけけ」 何がへけけなのか。 「おまけに、近辺のマッポも役人も『逆凪』と越後屋ごっこ。合法的にケシ耕作の許可を卸して、裏ではシャブを流通させてるからホントどうしようもない。いっぺん更地にしてやっても良い位ですよ。ブルトーザーで」 資料がべしんとデスクに叩きつけられる。資料にはペーパー会社と見られる会社から警察や役人への不可解な金の流れが見られる。コンサル料などと訳の分からない送金もある。自治団体にも擁護派が潜り込んでいるに違いない。 「期間は一日。襲撃タイミングなどはお任せしますが――」 言葉を切る。表情も、声の緩急も乏しいのだが。 「無茶だけは絶対にしないでくださいね。約束です」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月03日(月)22:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夜襲準備 -Hyahha?- 「あすこへおいでなさい。村に宿は少ないですが、公民館だか隠居所だかわかりません」 「どうも」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が、地図を片手の道に迷った旅人に変装して村へと入る。 踏み入れた途端に、どこかから見られているような視線を感じるも、眼前の老婆の警戒心はまるでない。役人も警察もグルである安心感か、それともただただ呑気なのかはわからない。 すべてが金歯である老婆に礼を言い、言われた場所へと歩む。 歩きながら、施設や逃走経路へのなどを下見をすると、足元から声がした。 『茉梨の顔、確認してくる。人質に使えそうだし』 真上に日差し。日差しが落とすうさぎの影。うさぎの影に溶け込んでいた『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)である。 「お気をつけて。私は逃走経路を引き続き」 ここで灯璃とうさぎは別れる。 この様子を、『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)と、『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)が、山中から千里眼で確認する。 周囲の鬱蒼とした木々と、やや湿り気のある土に囲まれるも、しかしその目は望遠鏡の様に向こう側を射貫く。 「逆凪が何人か伺っていたようだね」 「そうですね。けれどバレてはいないようです」 作戦の第一段階は通ったのだろう。遠目に見えるフィクサードの動きは依然としてゆるやかである。 「――では、あとは夜を待つだけかな?」 四条・理央(BNE000319)は、火炎放射器をいじりながら二人へ視線を移す。真昼と光介は肯定と、首を縦に振った。 「神秘に頼らない資金調達も行うとか、逆凪も色々やるよね」 理央は、続いて火炎放射器に視線を戻して黙想する。 "アークと交戦するリスクを取らない事"、これだけならば、はたして三尋木派も同様だが、逆凪の場合はなにせ数がある上に"表"にも食い込んでいる。 思えば、これが『逆凪』の恐ろしさであるのかもしれない。 理央の対面で、『三下』桐月院・七海(BNE001250)もまた、火炎放射器をいじる。 「う~んなんというか本当になんというか……。まあ気が済むまでこの村を元に戻していけばいいか」 弓は置いてきた。今日この日、この場は、コレが相棒である。 「そう自然に優しい元の姿に。まったく人がいない処は自然に戻るのが早いらしいし。大丈夫だろう」 理央が七海を見る。何か変なこと言った? といった顔で返すと、理央は微笑むだけである。 その奇妙な空気感から少し離れた所で、『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が腰を下ろす。昼飯を脇に本件の資料を読む。 「してもシャブにヤクザに教会かあ。見事にまあ、人の過去を抉る組み合わせです」 呟きは誰宛でもない。強いて言えば己自身だった。 犯罪組織を経て、教会系のリベリスタ組織に拾われて、来日した数年前。アークのリベリスタとして働く日々の中に埋もれていた胸の奥深くが、なんとも抉られるものだった。 「周りの越後屋連中も業腹な事ですね」 世間一般的には、断罪されてもおかしくはない連中である。昼飯を平らげながら、やるべき事を胸裏に決していた。 『名無し』ジュリー・モーガン(BNE004849)は、ポリタンクに詰めたガソリンを乗用車から取り出して並べる。他でもない。大農園というくらいなのだから潅水装置はあるだろう。 「時世時節って言葉があってね。意味は知らない」 「言い得て妙ですね。救世主も、時世時節で死神になるものです」 ジュリーが視線を横に動かすと、一旦仕事を終えた真昼がゆるゆると不穏の種を口から吐きながら森の中へ消えていく。 ユウがひらひらと真昼を追う。 「教会襲撃班は、移動します」 光介もこれに続く。 「……泰然自若」 ジュリーは止めていた手を再び動かす。 「意味は知らない」 ●うらのぺラジオ -Uranobe gokko- 日が暮れる。 黄昏はあっという間に過ぎて、月が顔を出した。 村の明かりは消えている。皮膚に刺さるような空っ風が吹き抜けて、虫の音も聞こえない静寂が場に在った。 冴える様な月前は、これからの事にはすこし不向きだが、見れば月の左手で、雲が叢雲になろうと居座っている。じきに月明かりも消えるだろう。 ザ、ザー…………。 『うらのぺ? う・ら・の・ぺ! いっちにっのさーん!!! いぇーい、どんどんぱふぱふ』 幻想纏いから流れるのは、あるラジオ番組もどきに良く似たラジオ番組もどきもどきであった。 『さて今夜もやってまいりましたうらのぺラジオ。本日はななんとばんがいへーん!!』 ――ヒャッハー! シャブは消毒だー! 七海が、吠える。幻想纏いを仕舞い、首をカクカクさせた動きで、ビニールハウスの中へ飛び込んだ。 裏野部の如く、携えた裏野部印の火炎放射器から、裏野部ファイアーをぶちまける。裏野部ファイアーは、ケシに燃え移り、ビニールハウスの天井を熱で溶かす。 「合法な事なら今回みたいにアークの介入を招く事もなかったんだろうけど」 続いて、理央が10分前から用意していた『式符・影人』を動員する。七海が供給能力を持っているが故に、大量に生じた"理央達"が火炎放射器を持ってケシを次々と焼いていく。 もうもうたる黒煙が広がる中を、気配を消したジュリーが潅水装置を弄る。 「話だけ聞けば綺麗な話だけれどね」 村人達も割り切っている。躊躇いは微塵も必要ない。 貯水槽の水抜き管を全開にして水を抜く。抜いた水の代わりに、持ってきたガソリンを注ぎ込む。即着火。神秘の炎と現実の炎の二重放火である。 大量の"理央達"が共同ビニールハウスを蹂躙し、七海がヒャッハーする。ジュリーが四字熟語を呟いて炎のゆらぎを瞳に反射させていると、やがて足音が耳に入った。 男たちの怒号が聞こえる。駆けつけたフィクサードと怪しまれる。 「ヒャッハー! 四条様のお通りだー! 首を垂れろぉ垂れろぅ!!」 七海が、裏野部派フィクサードと寸分狂いのない甲高い声を発して火炎放射器の対象を人間へと変える。 また理央が、スッと手を人間側へ向けると、大量に在る"理央達"の半分が踵を返す。制圧射撃の如く人間側に向けて炎の壁を作り出す。 敵のクロスイージスが、神秘の炎を消さんとしたか、ブレイクフィアーの光が次々と注がれる。注がれるも物理的な炎まではどうか。 ジュリーが潅水装置の設定を、ここで全開にする。ついでに操作端末を砕いておく。 「――次は一般人、その次は教会か」 持ってきたガソリンはまだまだある。ジュリーは教会の方向を静かに見る。 一方、教会側でも動く影があった。 教会から出て行ったクロスイージス達を見届けた5つの影が動いた。教会襲撃班である。 真昼が火炎放射器で扉を燃やし、ゆるゆると足を踏み入れる。口と鼻を隠す様に布を巻いている。 「……便利ですねこれ。流石は裏野部印です」 踏み入れた後ろから、ユウがひらりと飛んでくる。 「しょせん一発の弾丸に過ぎぬ身でありますれば」 奥で3人の人影が見られた。 ビジネススーツの男女が二人、チンピラ上がりのホストの様な男――上木が一人。上木が苦虫を噛み潰した様な顔で唸る。 「……この騒ぎはお前達の仕業か。何処のどいつの差金だ? あぁ?」 ユウが抜き撃ちのインドラファイアーで返答する。 「此処が何処だとわかっているのか!? 逆凪の――ぐあ!?」 「感情なんてあやふやな物に暴発させられるより、冷徹な原理原則に命じられて発射されたい物です」 上木――否、この場にいるフィクサードを全殺す事。これが昼に胸内で決した心であった。 「DJはいつものこのわたし? ノンノン、びっち☆きゃっとなんてもう古ーい!!」 灯璃の声が場に響いて、次にキィと丁番の軋み音が鳴る。灯璃が右手の部屋から人一人に火炎放射器を突きつけながら場に入る。 「へ、蝙也……」 「な!? シス――茉梨!?」 上木は驚愕して、手を伸ばしながら一歩足を踏み出す。 「おっと、これ以上動いちゃだめよー? 一瞬でウェルダンだぁ、ヒャッハー! 本日からDJはこのわたくし、『断罪狂』あかりんでおとどけしま~す」 底抜けに明るい声で応答する中を、上木の手下が戦闘態勢にと得物をだす。上木が視線を右に切って言う。 「お、お前等、手を出すな!」 「し、しかし」 「何処のクソどもだ!? 何が望みだ!」 憎々しげな上木の視線は、現れた全員に次々と移ろう。 更にバタンと奥の扉が開く。たちまち黒い影が獣の如く跳び出して、上木の背後を刺す。 「――ッ!?」 「貴方の命です」 うさぎである。 刃が残酷に整列したタンバリンを刺す。刺した次に、引き裂く様に下すと、鮮血が場に滴った。 「い、命だと!?」 うさぎは、上木の憎々しげな視線を強く受けるも、キョトンとした視線で応答した。 上木を取り囲む様に陣形は完成している。つい先程まで場にいたクロスイージス達はビニールハウス側へと出払ってしまったが故に。上木も、左右の部下も拳が震えている。 最後に光介が入る。 表情を暗くして最後尾で、術式を練る。 「違う意味で……申し訳なくなる。村人も正義のためにでも裁かれる方がマシだろうに」 光介の言葉は、戦いが終わった先に起こる事を知っているが故の呟きである。 灯璃が言う。 「お前ができる事は、何も出来ずにくたばることだー」 「逆凪は駄目なんです――」 真昼が火炎放射器の引き金を引いては離し、ごぉぉぉ。ごぉぉぉ。と威嚇する。 「――だって敵ですから。オレと、オレに縁ある人を脅かす存在なんです。その資金源になってるなら、ごめんなさいね。『全部焼きます』」 「な!? まさか村も」 「ええ」 ええの二文字で、上木は吠える。 「む、村人に手を出すんじゃねぇ! 一般人だ! 一般人なんだぞ!」 だからなんだというのか――と、いった面々に、上木は目を赤くする。魔力を練る。 「……済まん……済まん――茉梨!」 上木が唇から血を流す。掌を突き出すと、銀の魔力が真っ直ぐに灯璃に突き刺さる。 その瞬間、人質は人質の役目を果たさなくなった。 ●在り方 -Justice Line- 叢雲にならんと居座っていた雲が、やがて月を隠した。 隠れて闇が濃くなった中を、ひたぶるにビニールハウスが燃えて盛る。 湿気の無い空っ風は、盛大に炎をあおり、あおられた炎が民家へと移っていく。一般人もビニールハウスへと群がっていき、チラチラ、民家に泊まっていた増援も混じっていく。 「た、たしゅ」 「いいぞー媚びろ媚びろー俺は裏野部だ! ヒャア! ヤクブツノエイキョウハコワイデスナー」 七海がホーリーメイガスを燃やす。ここで強烈な一刀が七海に下された。 「あべし」 七海を殴った者は、逆凪派のデュランダルである。 且つこの中のリーダーと思わしき男であった。男が凄まじい形相で睨んでくる。 「ガッ」 たちまち"理央達"の炎がデュランダルに注がれる。次に理央本体が天使の息で七海を癒やす。 「大丈夫ですか?」 「まだたわばがあります」 「?」 七海が額から垂れた血を気にせず火炎放射器を構える。七海が続けて言う。 「2~3人生かしておきたいのですが、良いでしょうか?」 理央は意図を解しかねながら、敵へと視線を戻す。 「プ、ロアデプトを、たた、き起こしてこい! きりが、ないぞ!」 デュランダルは炎に焼かれながらも、吠える。 ひとりずつ影人を叩き潰す事ならば、彼が得意とする所だろう。しかし理央が10分間休みなく影人を使い続けた程の数がある。 最初に現れた逆凪派クロスイージスやホーリーメイガス達も、炎に炙られて燃えカスのように皮膚を黒くしている。 「余裕は――問題ないだろう」 ジュリーが場を外す。 道辻で、村人が農具を携えて物陰から襲いかかって来る。鎌や鍬が打ち付けられる。 「そう。……あなた達も此方に足を踏み込んだのだから」 ジュリーが殴られた頭を振って、一般人を冷たく見据える。 フェイトに目覚めたリベリスタやフィクサードは階位障壁を持たない為、死ぬ時は死ぬ。ただし、米軍といった恐るべき兵器を持った者に限る話である。 「Let's do this.」 人を盾にする。村人に放たれるはレーザーの如き気糸の線である。 教会での戦いは、三対五である。 クロスイージスやホーリーメイガス、点々と控えている増援に押されたならば危ういものでだっただろう。 だが質も、量も、リベリスタ達が上回っている。勝敗は文字通り火を見るより明らかと言えた。 ユウの火矢に射抜かれた上木が、火だるまとなりながら声を絞る。 「……教、会……が燃え」 「教会? 一緒に燃えればいいんじゃないんですか?」 ひらひらとマガジンを外し、リロードする。薬莢はりんと静かに音を鳴らし、ころころと転がっていく。 転がった先に、護衛――も最早、ユウの炎で物言わぬ消炭と化していた。薬莢がぶつかってその部分がさらりと崩れる。 一種、嬲るという表現が適切といえようか。 光介は葛藤する。 「ボクの割り切りは……ただのエゴ。一番近い背中を癒すことでしか自己肯定できないから」 他は良い。この瞬間に生きるしかない。胸中で繰り返し――光を放つ。灯璃を癒やす。灯璃の胸にあった口が完全に塞がる。 「ふしゅるるる」 灯璃が、火炎放射器を強く握る。 「邪魔する汚物は消毒だーっ!!」 奈落から沸き上がってきたかの様な瘴気を解き放つ。それは火炎放射器を覆い、次に上木へと打ち下ろす。 「……俺達が、一体、何をし、し」 同時にぴきぴきと上木の全身が石化していく。石化が首まで侵されて、すでに侵された心の臓を真昼が気糸で貫く。 「上木 蝙也さん、村を豊かにした救世主だった時間は終わりです。本当の貴方は村に死を呼び寄せてしまった死神ですよ」 上木の石化した身体にヒビが走る。ヒビから気糸が木枝のように噴出する。 「愚かな貴方にさようなら」 真昼が力を込めんとしたその瞬間、うさぎが五人へと残像を生じさせて襲いかかる。 タンバリンを上から、右から、左から、背中から、正面から。交差させる。 「憎めばいい。罵ればいい。全部スルーしますよ。なれっこですから」 うさぎの刃の煌きがチカリと光った途端に、上木は出来損ないの石像の如く崩れ落ちる。 ごろん、と石化していない首が落ちる。ころころ、ころころと転がって、シスターの遺体にぶつかって――止まった。 ●殺伐の境界線 -Intrigue Line of...- 教会が燃えたことで、増援が次々と集まる。 敵が分散していた事が幸いしたか、リベリスタ達と逆凪の個々の戦力差もあろうか、全員仕留めるに至る。仕留めた後で"作業"を行う。 「枝葉末節、意味は知らない」 ジュリーが大農園の潅水装置にもガソリンを入れる。振り向くと教会襲撃班が大農園を燃やしている。 うさぎがキョトンとした目に、炎が映しながら言う。 「事の善悪をとやかく言えるほど、私も潔白な身ではありませんが」 この畑は有害である。 火炎放射器でごぉぉぉごぉぉぉと燃やす。一般人が襲いかかってくるも、絞め落とすだけにする。 「ですので、必要な事を必要なだけするとしましょう」 「腹が立てども趣味で殺しちゃいけないのがリベリスタだと思っています」 ユウも炎をまき散らしながら頷く。 教会も燃やした。後はシャブだけである。 「趣味といいますか、特に理由も無いので」 「それで良いと思いますよ」 ユウがしっとりと微笑み、うさぎとやるべきことを粛々果たして撤収する。 そこからは断罪の嵐であった。 理央の影人が、逆凪のフィクサードの生き残りを虱潰す。 「……人って焼くと凄く嫌な匂いがするんですよ。それにほら、顔見られて恨まれたくないですから」 真昼が鼻や口を布で覆った意味は、最初からこれであった。金歯を入れた焼死体が転がる。 「ヒャッハー! これから毎日シャブを焼こうぜぇ」 七海が2人だけ残す。教会一派との事だった。「雲龍様」だの何だと祈りを捧げている。尋問の甲斐がありそうだった。 最後にガリガリごりごりと、ブルドーザーが横切って行く。 「それじゃあ、今夜はこの辺で、DJはあかりんでした。シーユー、バイバーイ!」 欧州のリベリスタ組織に『ヴァチカン』というものがある。『ヴァチカン』は邪悪を決して許さない。そういう組織である。 彼らが世界最強のリベリスタ組織がリベリスタとして肯定されている以上、たとえ愉快を貪ろうとも、本件は悪の組織に与する悪党を懲らしめただけ。ただそれだけの話であった。 山中。 鬱蒼とした森の中で、光介は朱鷺子に本件の報告を行う。 『ひぇぇぇ! グッジョブです! ちゃんちゃかちゃんちゃか』 幻想纏いに接続した携帯電話ごしに、ちゃんちゃかと肉声で応答が返ってくる。光介は大きく溜息をつく。 「そういえば朱鷺子さん」 少しばかり、聞きたい事が光介にはあった。 「最近――『貴方達』にも有利に働く案件、優先的にまわしてません?」 『何のことっすかー? ちゃんちゃかー』 電話の先で、おそらく表情の無い顔を崩していないだろう。 「共益の範囲なら別にいいんですけど。ただ一応――見ときますね。アイビスさんのこと」 燃え盛る炎を遠目に、静かに電話を切る。 空っ風に混じって、人の燃える臭いが、かすかに鼻をくすぐった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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