●再びの家電達 そこはとある大型電機店の1フロア。 ただいま、冬物家電、つまり暖房器具のセール中。 の筈であった。 『新型とか色々出てるみてぇだがよぉ。まだまだ若ぇ連中には負けねぇ』 電気炬燵が主張し。 『いやいや。炬燵の旦那も確かに暖かいけど、僕らホットカーペットの方が広く暖められますよ』 ホットカーペットが反論し。 『炬燵は中だけ、カーペットは上だけよね。その点、私達ストーブなら部屋全体余裕だから!』 電気ストーブが対抗し。 『いいや。オールシーズン使える俺達クーラーが最強だろ!』 クーラー、再登場。 『おっと、俺っち達を忘れて貰っちゃ困る。お前達の弱点は、持ち運びできない事。いつでもどこでもぴったり密着してじっくり暖められるのは、俺っち達カイロだけ!』 カイロがびったんびったん跳ね回る。 『――どうやら、一度決着つけねぇと収まりそうにねぇな』 『そうですね。誰が冬物家電の頂点に立つのか……はっきりさせましょう』 何故か革醒した5勢力の家電が、火花を散らしているのだった。 ●犯人は、季節じゃなかった そしてアークのブリーフィングルーム。 「1フロア丸ごと、暖房系の冬物家電達が革醒しちゃって、今こんな感じ」 E・ゴーレム発生事件のあらましについてリベリスタ達に説明する『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の姿があった。 「や、使い捨てカイロって……」 「一緒に革醒したのは確か。気にしないで」 何処かから上がった呟きを、さらりと流すイヴ。 まあ、イヴがそう言うんじゃあ、仕方ない。とりあえず、一旦、この場は、気にしないでおこう。 「家電達は、それぞれの熱量パワーを全開にして、誰が暖房として一番かを競ってる。、おまけに革醒して強化されてるから、該当フロアは気温50度、湿度0%を観測」 砂漠並みだった。 「覚えてる人もいるかも知れないけど、このフロア。夏にもクーラーと冷蔵庫が革醒して凍りついたことがある」 あの時は-40度でした。 「半年足らずの間に同じ場所で革醒現象が2度も起きるのは、ちょっと変。と言うわけで、調べ直してみたら見つけた」 ぽちっとイヴがボタンを押すと、モニターに一匹の生物が映し出された。 「アザーバイド。識別名は『蒼紋虎』になった」 成る程、確かに、虎に良く似ている。 この世界の虎ならば黄か白であろう部分が薄青く輝いているが。 「注目すべきは、この触手」 アザーバイドの上半身がクローズアップされた。両の前足の付け根、人間で言えば肩の部分と首の付け根の3箇所から1本ずつ触手が伸びている。 「彼の、この触手によって家電達が革醒したと判った。夏の時も、多分同じ。 だけど、悪意を持っているわけじゃないみたい。彼は、ただ家電を『使おうとした』」 「使う? アザーバイドが?」 上がった声にこくりと頷いて、イヴは言葉を続ける。 「この世界と同等か、それ以上の機械文明のあるチャンネルの住民だと思われる。 彼らは体内を流れる電気量が人間に比べて遥かに多い。あの触手は、体内の電気を放出する器官」 イヴが視た所、強力な電撃から微弱な電波まで、かなり精密な操作が可能らしい。 「電気銃にもリモコンにもなる優れもの。でも、この世界の家電のリモコンにはならなかった」 『蒼紋虎』の電波を浴びた家電は、革醒しつつもある程度は『蒼紋虎』の意図通りに動き出した。 ついでに増殖性革醒現象も起きてしまい、使い捨てカイロも混じってると言う事らしい。 「アザーバイドは、現在、家電達の1つ上のフロアにいる。で、寝てる」 はい? 「寝てる。丸まって、ゴロゴロ。下のフロアが相当暖まってるから、その熱が伝わってじんわり暖か床暖房状態」 何しに来たんだろう、こいつ。 「フェイトは得ていないけど、Dホールを開く力も持ってる。放っておいても数時間で帰るから、崩界に影響はない」 夏の事件の時は、既に帰った後だったので発見出来なかったようだ。 「でも、放っておいたら、いずれまた来ちゃうと思う。それは避けたい」 来るたびに家電弄くられては、面倒この上ない。 「家電の温度上昇も、放っておくと建物に良くない。でも、先に家電を倒してると、そっちが半壊したくらいで床暖房状態が弱くなって、アザーバイドは帰っちゃう。 だから、家電鎮圧とアザーバイドの対処、同時進行で頑張って来て欲しい。 アザーバイドは討伐でも説得でも構わないけど、戦うなら気をつけて。そう強くも無いけど、特に弱点と言えるほどのものもないから、少人数だとキツいかも」 片や砂漠並みの暑さ動いて喋る家電の相手。片や、何考えてるか良くわからないアザーバイドの相手。 どちらも面倒そうだが、仕方ない。これもリベリスタの仕事なのだから。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:諏月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月01日(土)22:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「また家電かー!!」 フロアに響き渡る『いとうさん』伊藤 サン(BNE004012)の叫び。 「家電探し兼ねて来たら何このお出迎え家電軍団?!」 続いて響き渡る『永久なる咎人』カイン・トバルト・アーノルド(BNE000230)の驚いた声。 リベリスタ達を迎えたのは、季節外れ過ぎる異常気温と、動き回ってる家電達。 「さてさて、今回は暖房器具か……」 「デジャヴ――じゃなかったですね、夏に現実に見てますねこんな光景」 『落とし子』我妻 湊(BNE004567)と『視感視眼』首藤・存人(BNE003547)が、共にどこか諦めの混ざったような視線を家電達に送っていた。 伊藤を含めて3人、夏に冷蔵庫とクーラーが動き出した時の任務経験者である。状況に対する心構えと言うか、ある程度の精神的な耐性がついていた。 とは言え、あの時とは気温が真逆。気温50度湿度0%の暑さは全員未体験ゾーンだ。 「暖かい……あたたかいぞ! 春だ……春が……ついに来た。すぷりんぐはずか……む? ……あった、か?」 冬のこの時期の外とは雲泥の差の気温に、感激した様子を見せていたカインも徐々に首を傾げる。 「いや、あっ、あつつ! アツイ!」 たまらず、頭のサリーを一旦取って頭の換気をするカイン。既に、人払いはアーク側で済んでいたので、猫耳が見えても安心だ。 「つまり暑い。暑いし熱いしあつくてやばい。機械部分がオーバーヒートしちゃうよぉ」 いつもと同じ死んだ目で嘆く伊藤さん。 確かに、機械に熱はあまり良くないよね。特に伊藤さんの場合、心臓も機械ですし。 しかし、だ。その隣で、同じく機械化した心臓を持つ『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)は、床板を引っぺがして黙々と作業していた。 更にこの場には、もう1人メタルフレームがいる。 「砂漠じゃなくて乾燥機だよコレ。ヤダー、おっさん干物になっちゃう!」 言葉の割りにはあまり危機感の無い口調で喋る、緒形 腥(BNE004852)である。 フルフェイスメットに草臥れたスーツと、このままコンビニや銀行に行ったらあらぬ誤解を受けそう風貌だが、そう言う風に機械化しちゃったんだから仕方が無い。 「寒いから此処だけ夏にならないか、とか稀に思いますけどね、冬。……俺がほしい暖かさはこういうのじゃない」 溜息混じりに呟く存人の表情は、いつにも増して暗くなっていた。 元より暗い顔の人ではあるけれど、ひょっとすると暑さにやられてるのかも知れない。 「行き過ぎて暑いのはやだなぁ……って思ってたけど、行き過ぎなんてもんじゃないよ」 『マジカルナード』六城 雛乃(BNE004267)も、うんざりした様子だ。 この時期に暖まれるのは良いものだが、限度ってもんがある。 例えば、だ。 寒風吹き荒ぶホームで10分以上電車を待ち続けやっと乗り込んだ、その瞬間。暖房の効いた車内の空気に、とても心地良い暖かさを感じるだろう。 だが長時間乗っていると次第に心地良いを通り越して暑いと思えてくる事はないだろうか。 特に満員電車だったりすると、暑くても身動きできなくてかなりしんどかったりしないだろうか。 そんな状況を思いっきり酷くした状況に、リベリスタ達は置かれているのである。 が、そんな中でも元気を失っていないメンバーが1人いた。 「暑いなら服を脱げば良いのです! そして弱冷気魔法! 完璧ですね!」 たゆんと揺らしながら宣言した、『究極健全ロリ』キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)である。 弱冷気魔法のおかげか、それとも既にほとんど脱いだ状態でいるおかげか。 と、ずっと屈んで何かをしていたキリエが立ち上がった。 「よし、セキュリティ掌握完了しましたよっと」 電子の妖精――コンピューターを己の意志で操る神秘の技を用いて、床下の配線を通じて店内の監視カメラやセキュリティ機器を無効化してのけたのだ。 「説明聞いただけだと和むけど、随分とヒートアップしてるね……」 顔を上げたキリエの視線の先は、4種の家電とと使い捨てカイロが飛び交うカオス空間。 まずはあれを鎮圧するのが、今日のお仕事その1。 非常識な暑さでも戦わなければならない。リベリスタの仕事は過酷だ。 「しゃーなし! お相手しよう」 半ば諦めの境地に達しつつ、カインが全身の力を防御に特化させる。 「帰りたい。でも帰っちゃダメだ。 この暑さによる怒りは100倍返しです。やられたらやり返す! やる時はやる!」 「今回も喧嘩両成敗って事で」 伊藤さんと湊が、射手としての感覚を研ぎ澄ませて行く。 「こんなに家電が稼動しまくって、ブレーカー飛ばな……飛びそうにないですね」 呟いた存人の広がった視野の中を、コンセントを尻尾の様に漂わせたホットカーペットが飛んで行った。 ● 「炎効かなくっても矢が刺されば痛いでしょ? 電気ストーブめ、こないだ小指ぶつけたぞチクショー!」 伊藤さんの両腕に内蔵した5連砲から、雷霆神の名を冠した業火の矢が放たれる。 「自分に自信を持てるって、素敵だね。ところで貴方達のセールスポイントは?」 撃ち抜かれる家電達へ気糸を放ちながら、問いかけるキリエ。 こうして煽ってやれば、互いに攻撃するように仕向けられないか――と思ったのだが。 『俺らを使ってりゃ暖かい上に家族団欒間違いねぇ!』 『背中から伝わる優しい暖かさです!』 『部屋全体を素早く暖めるわよ!』 『俺達がいればオールシーズンオッケー』 『持ち運びし易さ!』 真顔な感じで、次々と家電達が思念を返してきて、これには感情の起伏の少ないキリエも思わず絶句。 「適度って言葉知らないの? あたしは暑いのも寒いのも苦手なの」 騒ぎ続ける家電を一蹴し、雛乃が木製の杖を突きつけた。 「暑いとだるくて身体が動かないし、寒いと身体が震えて動かないじゃない!」 彼女の血液から実体化した黒鎖が濁流の様に迫り、数体の家電を纏めて貫いた。 本来必要な長い詠唱を圧縮し展開する事で短縮して術を操るのが、魔術師としての雛乃の実力。 「どうでもいいですけど、この家電、全部使ってたら中々贅沢ですよね。電気代的に」 家電が騒がしい中でも妙に現実的な事を言いながら、存人もまたあっさりと詠唱を短縮し、血液から黒鎖を実体化させて家電達を貫く。 「そこのクーラーに告ぐー」 続いて、キンバレイが両手を拡声器代わりにして声を上げた。 「暖房ではなく冷房モードにして他の暖房器具を倒してしまえば、クーラーが最強の電化製品と認められるであろうー」 『俺達は最強の電化製品になりたいんじゃねぇ。最強の冬物家電になりたいんだ!』 こちらも家電の同士討ちを狙った言葉であったが、そう簡単にはいかない。 「最強の冬物家電、ねぇ……」 キンバレイの言葉に返ってきた家電の思念を受けて、腥のシールドが正面の電気ストーブを見据える。 そして、告げた。 「お前らシーズン物だろうよ。無駄な抵抗してないでサッサと型落ちしときなさい! 季節の変わり目に新しいの出るから」 その言葉に、家電達がぴたりと静止し静まり返る。 「おや?」 もしかして本当に抵抗をやめた? と腥が思った次の瞬間。 『型落ちはイヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』 家電達が絶叫し、8枚ほどのカイロが腥のメットに、胴にべちべちと殺到。 ストーブとクーラーも熱風を吐き出し、炬燵とカーペットはぐるぐる右往左往。 どうやら動揺して取り乱している様だ。(そもそも最初から正気だったと言えるのか怪しいが) 「あー……とりあえず落ち着きなさい。ストーブって、消防の発表で火災の原因第1位なんだから」 一瞬飛びかけた意識の中で、もしかして地雷踏んだかなと思った腥だが、それは声に出さずに、気を取り直して手近なストーブを問答無用で殴りつけておく。 『落ち着けないぃぃぃぃぃぃぃ!』 「アチッ! だぁもお! くっつくなー!」 残るカイロは、べちんとカインの顔面に。 張り付いたのを引っぺがし、投げ捨てて、神聖な力を込めたナイフを振り下ろす。 「とりあえず話聞いた上で、俺っちの意見言わせて貰えばさぁ……」 黙って家電の言い分を聞いていた湊が、射撃モードに変形した杖を構える。 「どの暖房器具を使うかは環境次第なんだよ! 職場や学校ならホットカーペットやこたつが使えるか!」 猫カフェとか、ホットカーペット使ってるけどね。 「あとクーラー。オールシーズンって言うならせめてエアコンを名乗れよ!」 『あ、はい。すみません』 いやその点は本当に。何でクーラーって書いちゃったんだろう。 なんてやり取りの間にも、杖から撃ち出された神秘の力が業火の矢となり、家電達を撃ち抜いて行く。 「ねぇ……こいつら、もしかして結構脆い?」 複数攻撃を容赦なく叩き込まれた数体の家電があっさりと沈黙したのを見て、雛乃が目を瞬かせる。 所詮家電、と言う所か。戦場で使う設計などされていない機械が革醒した所で、リベリスタの攻撃に何発も耐えられる程の耐久性は持ち得なかったようだ。 状況を見たリベリスタ達は、少し予定を早めて、早々に二手に分かれる事にした。 ● 「ありゃ。虎ちゃん、起きちゃってる」 顎を床につけて寝そべっている蒼白く輝く虎の瞳が開いているのを見て、添い寝したかったカインが残念そうに呟いた。 そこは家電フロアの上階。 『蒼紋虎』と名付けられた犯人であるアザーバイドは、起きてはいたがまだそこにいた。予定を早めて正解だったかもしれない。 「あー……下であれだけドンパチやってたしねぇ。ま、とりあえず頼むよ柚木ちゃん」 腥の言葉に頷いて、タワー・オブ・バベルの能力を持つキリエが『蒼紋虎』の前に進み出る。 「お休みのところ、すみません。お会い出来て嬉しいです」 『僕になんか用?』 『蒼紋虎』からの返事に小さく安堵し、キリエは言葉を続ける。 「私達はこの世界を崩界から防ぐ任務についている者です、少しお話宜しいでしょうか?」 『ほうかい? にんむ?』 「うん、虎ちゃん、話は聞いてくれるみたいだ」 動物会話の能力を持つカインにも、2人の会話はある程度理解出来ていた。相手はアザーバイドであり動物ではないが、特別な能力を持たないものには、『がうがう』とかしか聞こえない。 と言う事は、少なくとも『蒼紋虎』が口から発する音は動物に近いレベルであると言う事だ。 「じゃあ、あたし達も行こ」 雛乃の言葉に頷いて、離れて見守っていた3人も『蒼紋虎』の元へと近寄る。 一方その頃、家電売り場。 「ウンガー!」 謎の雄たけびを発して、伊藤さんが炬燵を抱え上げる。 「よくもあの時、低音火傷にしてくれたなぁー! 許さん!」 そして思いっきり叩きつける。何だかクレーマーと化してる気がしないでもない。 「もういい、服脱いじゃう」 動きが激しくなった分、余計暑い。思わず上着と帽子をぽーいっと脱ぎ捨てる伊藤さん。 「そうです。皆で服を脱いで、全裸依頼に!」 何故か脱ぐのを煽りながら、キンバレイが高位存在の力の一端を操り癒しの息吹を吹き渡らせる。 でも全裸依頼にはなりません。 「お世話にはなってるんですが、勝手に動かれると困ります色々と。特に電気代とか」 存人が何度目かの黒鎖を実体化させ、ホットカーペットを3体纏めて貫いて締め上げる。 「命乞いがあったら聞くだけは聞いてやるよ? 聞くだけだがな!」 湊はいい笑顔で杖から業火の矢をぶっ放してクーラーを撃ち抜いて行く。 4人になった家電との戦いも、順調にスクラップを量産していた。 ● 「ホットカーペットォー! 冬場に出すのダルイんじゃボケェ!」 目に付く家電を片っ端から投げ飛ばす伊藤さん。 物を投げちゃいけません、なんて教育に真っ向から背く感じが堪らない。 「どうせ止まる気ないんでしょ? って言うか止まれないんでしょ?」 『良くぞ見破ったあぁぁぁぁ!』 動きを見切った湊の放った魔弾に貫かれ、クーラーがまた一体撃ち落されて沈黙した。 「上の床も冷たくなってる筈ですが、どうなったんですかね」 天上近くに逃げていた炬燵とクーラーを黒鎖で撃ち抜いて、存人が大きく息をつく。 黒鎖も、今ので打ち止めだ。 4人とも気力の底が見えているが、体力の方は無傷に等しい。 家電の攻撃力は、キンバレイの回復力を上回る事が無かったのだから。カイロが集中攻撃をしていれば別だったのだが『型落ち』の一言に心を抉られて半ば暴走した連中にそんな考えがある筈もなく。 「世界の崩壊関係なければかいろ一つ持ち帰りたいのですが……何か可愛いと思いません?」 可愛いものセンサーを刺激されたキンバレイが、最後に残った使い捨てカイロを摘み上げる。 『くっ。俺っちが最後の1つ……はっ!? と言う事は、つまり生き残った俺っち達カイロ軍の勝ち!』 キンバレイの指の間でのたまうカイロを、伊藤さんがひょいと掴み上げ――。 「カイロはそもそも家電じゃねぇえええええ!」 「お前ら使い捨てじゃん!」 「勝手に発熱してたら不良品ですよ」 べしっと叩き付けた所に2つの魔弾が撃ち込まれた。 「君が弄くった下の奴らな、熱くなりすぎて大変な事になっちゃってるんだ」 「私たちの世界は脆くて、一旦壊れてしまえばたくさんの者が命を落としてしまいます」 カインとキリエが言葉を選んで、『蒼紋虎』に訴えかける。 『目を見て話す、これ大事』との腥の提案で正座した4人と『蒼紋虎』の対話は、戦いになる事も無く進んでいた。 とは言え、順調かと言うと、そうでもない。 『むー。君の言葉は判るけど難しい。そっちの赤毛君の言葉は、良く判んない』 『蒼紋虎』の理解度があまり芳しくないのである。 (思い違いをしていたのかな……) 戦いを好まない『蒼紋虎』は、命に対する見方が自分達に近い。 そう思っていたキリエだが、どうも話してみると精神的にそこまで成熟している様子がなかった。いや、むしろ――。 「ええと、通訳頼んでいい?」 考え込んでいるキリエに雛乃が呼びかけた、その時だ。 ふよふよと『蒼紋虎』の3本の触手が、キリエを除いた3人に1つずつ伸びてきた。 思わず3人が身構えた所に「がう」と一声。 「あ、大丈夫みたいです。話したいだけって」 聞き取ったキリエが3人を制する。と、触手は3人の頭(とフルフェイスメット)にそっと乗せられた。 『もしもし?』 3人の頭の中に直接声が響く。 「これって……虎ちゃん?」 これまでよりも明瞭に感じ取れる声に、カインが2、3度瞬き。 『良かったー通じたー。違う世界って変わってるねー。口で話すなんて』 考えを読み取っているのか、こちらの言葉も通じているようだ。 「電気的なテレパスみたいなもんかねぇ……おっさんの頭大丈夫かなぁ」 腥が若干の不安を感じるも、これで随分と話し易くなった。 通訳が要らなくなり、雛乃は改めて考えを伝える。 「夏とか冬の季節にこっちの世界に来るから余計な暑さや寒さ感じるんじゃない? せめて春とか秋に来るとか、もしくは気候の安定した世界に行けばいいと思うの」 『ナツ? フユ? なにそれー?』 「はい?」 突っ込んで大丈夫かなぁとイヤな予感を抱えながら伝えてみれば、予想外の答えに雛乃の目が点になる。 「あー……虎ちゃん。君の世界の気候って、どうなってるんだい?」 『毎日同じだよ。そう言う機械があるんだ』 腥の問いに返ってきた答えで、4人は確信する。間違いなく、この世界以上の機械文明を持つ世界の住人だと。 『この世界、変。暑かったり寒かったり、機械も動かしてみたけど、思ったほど暖かくならないし』 自分達の世界の機械と同レベルだと思い込んで、家電を使おうとしたのだろう。 「あのな、虎ちゃん。此処の機械は、やりすぎると皆困っちゃうんだ」 『僕、やり過ぎてたの? 違う世界って、初めてで』 カインの言葉に返って来たのは、意外そうでどこかすまなさそうな反応。 「もしかして……あの、不躾で申し訳ありませんが、貴方おいくつですか?」 時間の概念が同じである事を祈りながらキリエが問うた言葉に対する答えは――。 『7488時間ちょっとだよ』 ● 「君達はオンリーワンなんだ。もう天国でもケンカしちゃダメだよ」 「此処で寝てたら風邪引きますよ」 ぬくもりの残るストーブの残骸を抱き締める伊藤さん。その背中に、存人が拾ってきた上着を落とす。 家電を鎮圧しきった売り場の気温は、急速に下がりつつあった。 「……子供は風の子とか言いますがこれはかなり寒いです」 今更ながら服を着だすキンバレイ。良かった、服持ってて。 「お疲れさま、って随分寒くなったね」 と、そこに雛乃達が上階から降りてきた。 「帰りましたか?」 「えぇ、何とか納得して貰って、穏便にお引取り頂きました」 AF通信で状況は交換済みだが、改めて確認する存人に頷くキリエ。 相手が生まれて一年経ってない幼い存在と判ってしまえば、説得はそう難しい事ではなかった。 「虎ちゃんもふもふだった」 帰り際、ほんの少しだけ添い寝させてくれた感触を思い出してカインの頬が緩む。 「悪意の無い大きな子供ってのも、困ったもんだね」 シールドの隙間に禁煙パイプを挟んで、腥がぼやいた。 結局の所、子供の悪戯に振り回されたようなものなのだから、ぼやきたくなるのも無理はない。 「空しい戦いだった……」 そんな湊の呟きは、静寂を取り戻した売り場に妙に響いたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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